―――火が光の初めてであるように、つねに愛が知識の初めてである。
では人間の初めてとはなんだろうか。
生まれた瞬間?
母の胎内にいる時?
自我を持ち始めたとき?
少なくとも、俺には分からなかった。
STAGE0-4
アリエス宮の一室で四人の子供達がじゃれ合っていた。
いや、性格に言うと一人の少年が一人の少女をからかい、残りの二人がどうしたものかと途方に暮れているようだった。
「いや、その人形は絶対にタヌキだ!」
「違います、これはドラ○もんといって未来から来た猫型ロボットなんです!」
「耳がないじゃないか。
やっぱり青狸だ!」
「耳がないのは鼠ロボットに耳を噛まれたからなんですよ!」
「アホか。どこに猫より強い鼠がいるんだ。
知らないのか?
猫って鼠の天敵なんだぞ。」
「それはそうですけど……。」
「ほらみろ、やっぱり狸だ!」
「違います!お兄様もそう思いますよね?」
「え、僕は………。」
「ルルーシュ、この世界に耳がなくて、鼠にやられるような猫なんていないよな?」
「た、確かにそうだけど。
別にいいじゃないか。
猫でも鼠でも……。」
「よくない(ありません)!!」
二人の声に、ルルーシュと呼ばれた少年は言い返せず黙り込む。
隣に居る少女、ユーフェミアも一体全体どうしたら良いか分からず首を傾げている。
「だいたい、蒼い猫なんてどこにいるんだ。
そんなもの動物園どころか、ジャングルにだっていないぞ。」
「います!だってTVの中にちゃんと映ってるんですもの!」
「TV?
馬鹿だな、ナナリー。
あれはアニメ。
言ってる事なんて全部嘘っぱちの――――――――」
少年が続きを言う事は出来なかった。
少女の強力なボディーブローがダイレクトに決まったから。
「ごっ…流石はマリアンヌ様の娘……正に閃光の如き……一撃……。」
正義の味方に倒される怪人のような断末魔を言って、レナードが倒れる。
ピクリとも動かない。
まるで屍のようだ。
「た、大変!レナードが………死んじゃった!」
「そ、そんな………目を開けて下さい、レナードさん!」
「い、いやナナリー、ユフィ。
そう簡単に死なないと思うんだけど……。
ほら息してるし、心臓も動いてるし。」
ルルーシュの言葉はパニックになっている二人には届かない。
今度はルルーシュ一人が途方に暮れ、誇り二人が大騒ぎする事態となってしまった。
しかし救いの神はやって来た。
「あらあら、どうしたの?
そんなに大騒ぎして。」
「か、母さん!」
「お母様、大変なんです!
れ、レナードさんが。」
「どれどれ………こういう時は、斜め四十九度から、はっ!」
「じぇdsrはh」
マリアンヌが軽くチョップを倒れたレナードに喰らわすと、この世の物とは思えない奇妙な呻き声をあげる。
「ちょっと、足りなかったわねー。なら、てぃっ!」
「いけjg」
「たっ!」
「ぼるっ」
「それっ!」
「ぶべら!」
「はぁっ!」
「ぐはっ!……………俺は一体何を?」
レナードが目覚めたのを確認すると、マリアンヌが振り返る。
そして笑顔で一言。
「どう?ちゃんと起きたでしょ。」
流石にこの場にいる者。
ルルーシュ、ナナリー、ユーフェミアはどう答えていいのか分からなかった。
SIDE:レナード
なんとか八時半にはサイタマから帰って来れた。
これなら九時にはクラブハウスに着くだろう。
場所はあらかじめルルーシュに聞いているので問題はない。
主任に車を手配させ、それに乗ること約四十分、クラブハウスに到着した。
時刻は9時13分。
微妙な数字だ。
しかも十三という数字が不吉極まりない、がそれほど信心深い訳でもない俺はさして気にする事無くチャイムを鳴らす。
暫くすると、たぶん名誉ブリタニア人だと思うメイドが出て来た。
メイドは篠崎咲世子と名乗り、案内された場所には、以前のキス騒ぎの時に見たのと同じ少女と少年の姿があった。
「久し振り……っていうのも変か。
ついこの前会ってるし。」
「いえ、お久し振りです。レナードさん。」
「そうだな、レナード。
まあ、その辺に適当に座ってくれ。」
「ああ。」
ルルーシュに言われるがまま、ナナリーの向かえのイスに座る。
アリエス宮とは比べ物にならないほど小さな家だけど、どこか温かさのようなものがあるのは、此処には余計な、危険なものがないからだろう。
「こうして三人で会うのも、ホントに久し振りだな。
八年前も大抵はユフィが一緒だったし。」
「そうですね。
そういえば、ユフィ姉様はお元気ですか?」
「勿論だって。
俺としては、もう少しくらい大人しくなってもいいんじゃないかと思うけど。」
俺もまさか、エリア11に来て早々に窓から飛び降りるなんて行動をするとは思わなかった。
せめて、見付からないようにこっそり抜け出すくらいだと思っていたが、相変わらず行動が予想の斜め上を飛んでいく。
「ところで、今日はサイタマゲットーに行っていたそうだが、大丈夫だったのか?」
うん?
妙だな。
ルルーシュの口調がトゲトゲしいのは何時もの事だけど、今回は敵意のようなものが含められているが、気のせいだろうか。
「大丈夫、大丈夫。
最初、コーネリア殿下からお前が指揮してみろ、って言われた時は驚いたけど、なんとかこなせたし。」
「指揮を!?というと………」
「どうした、ルルーシュ?
ハトがマグナム弾喰らったような顔して。」
「何でもない。
あと、それを言うなら"豆鉄砲"だ。」
「どっちでもいいじゃないか。
まぁそれでちょっとだけ苦戦したけど、こっちが本気に出たらもう大した事なかったな。
テロリストだけあって連携も何も無茶苦茶だったし、あんなんじゃ戦争とはいえない。
親衛隊だけで、直ぐに倒せたよ。ホントに雑魚だった。」
「…………………」
ルルーシュから妙な視線を感じるような気がするが……気のせいだろうか。
「そうそう、最後にゼロが出てきたんだよ、そういえば。」
「ゼロが!
……それで、どうなされたのですか?」
「どうもこうもないよ。
かるーく、二発ほど当てたから、あれが本物だったらお陀仏だろうけど……。
まあホントに死んでるかは今後に期待だな。」
「そう、ですか………」
ナナリーが微妙な表情をする。
余り馴れない話にどう答えればいいのか分からないのだろう。
俺もそういう経験がある。
「大体、ゼロって何で仮面つけてんだろうな。
ナナリー、分かるか?」
「うーん、顔に大きな傷があるとかじゃないんですか?」
「傷かぁ、それも有り得るかもな。
案外、顔が人前に出れないほど不細工だったりして。」
「まあ、レナードさんったら。」
「いやいや、実際そうかもしれないぞ。
きっとゼロの正体は、これ以上ない程の不細工で口臭がキツイ髭モジャ野郎に違いない。
たぶん、足も臭いぞ。靴下とか。」
「…………………」
「どうした、ルルーシュ?」
「いや………なんでもない、ああ何でも。
それとこの話はもう止めにしないか。
そうだ、夕食は食べたのか?」
「夕食っていうか、繋ぎにコッペパン食べたけど……少し腹がすいてるな。」
「なら丁度いい。夕食の余りがあるんだ。」
ルルーシュが席を立ち台所へ行こうとする。
意外だ。
この八年間にこんなに気が利くようになってただなんて。
いや、そうじゃなくて。
「それなら、手伝うか?」
「いやいい。
お前でも一応は客だしな。
俺がやるよ。」
「……一応は余計だ。」
「はいはい。」
本当に久し振りだ。
まさかルルーシュとナナリーとこうやって話せる時が来るだなんて………このエリアに来た時は想像すらしてなかった。
ずっと、二人は死んだと思っていたから。
「レナードさん。」
「なんだ、ナナリー?」
「レナードさんは変わりませんね。」
「へっ、変わってない?」
「そうです。八年前から何も変わってません。」
「誉められてるのか、それ。」
「はい!」
満面の笑みでそう言われたら、反応に困る。
変わってないって、俺としては随分と八年前より大人になったと思うのだが。
あの時のような無茶苦茶な事もしないし。
だが俺がその意味をナナリーに訊ねる前に、
「ほら、お前の好きなステーキだ。」
「おおっ!」
ついつい、ルルーシュの持ってきたステーキに目を奪われてしまった。
結局、その日はナナリーとその話をする事はなく、明日も早いからと帰宅してしまった。
今から思うと、
ナナリーは八年前から随分と変わってしまったような気がする。
昔のどこか気性の荒かった所はなくなり、いかにも"健気な妹"といった感じがする。
それがどこか間違いだと思ってしまうのは、俺の気のせいだろうか。
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