―――英雄。
偉業を成し遂げた人間。といっても偉業には千差万別。多くのものがある。
祖国を守護した、外敵を打ち払った、多くの人々を救った、etc…………。
そして仮面の英雄ゼロ。彼はその中でも最上位に立つ英雄だ。
なにせ世界を救ったのだから。悪逆皇帝ルルーシュから。






 その男。
 全身を漆黒の衣服で包み、顔にも漆黒の仮面で隠している男が、嘗てエリア11と呼ばれた日本へと到着したのは、まだ朝早い時のことだった。

「ゼロ」

『分かっている』

 男とも女とも判別のつかない合成音が零れる。
 SP達に合図をすると、ブリタニア暫定代表ナナリーの車椅子を押しながら、飛行機から降りた。
 天候に恵まれたらしく空には雲ひとつとしてない。

 外には既に車が待機していた。
 黒塗りのリムジン。耐久性はロイドからのお墨付きだ。例えサブマシンガンの直撃を受けたとしても破壊されないだろう。
 そして車の前には見知った女生徒と見知らぬ男子生徒がいた。
 一人は紅月カレン。嘗ての自分の好敵手にして、今はアッシュフォード学園に通う普通の女生徒だ。もう一人は、確かレナルド・レステンクール。本当はリヴァルが来る筈だったのだが、仕事が忙しいことやレナルドという学生がゼロとナナリーのファンだということもあり譲ったそうだ。
 真実を知る数少ない人物であるカレンとリヴァルからは、予め報告を受けている。

「は、始めましてゼロ! ナナリー様!
私はレナルド・レステンクールといいますっ! お会いできて光栄です!」

 初々しくレナルドと名乗った男子生徒は挨拶した。
 それを微笑ましく見つつも、ゼロは。

『出迎え痛み入る、レナルド君。そして久し振りだな、カレン。
学園生活は順調かね?』

「ええ。とっても順調です。ゼロも顔を出しませんか? 生徒会長も喜びます」

『考えておこう』

 そう、此処にいるのは元黒の騎士団CEOゼロと元親衛隊隊長である紅月カレン。
 故に挨拶はこのようなものになる。
 仮面の下の顔は、既にこの世にはないものなのだから。
 
――――枢木スザクとして生きる事は、もうない。

 それが彼に与えられた願い(ギアス)
 枢木スザクとして彼が仕えた最後の主君からの最期の命令。
 故にもう、この世界から枢木スザクという人間は、文字通り消滅しているのだ。

「で、では車まで案内します。着いて来てください」

「そんなの緊張なさらないでいいのですよ、レナルドさん。
幾ら代表とはいえ、もうブリタニアに身分制度はないのですから。
私も皇女ではなく、ただの、一人の人間です」

「は、はぁ…………恐縮です」

 レナルドという学生は、心の奥底から恐縮そうにナナリーとゼロを案内していく。
 対照的にカレンは慣れたものだ。そも真実を知る彼女からしたら、ナナリーも自分も嘗ては同じ学び舎で学んだ間柄なのだ。緊張する理由はどこにもない。

(んっ……?)

 そこで、ふとゼロは気付いた。
 このレナルドという学生。何処と無く血に飢えた獣のような雰囲気がある。
 見れば、筋肉の付き方なども熟練したKMFのパイロットのそれに似ている。もしかしたら、何処かの諜報員かもしれない。 
 そう思い警戒したゼロは、直ぐにそれを解いた。

 確かに筋肉の付き方も兵士として理想系といえる。
 どこか僅かながら獰猛な肉食獣の雰囲気がするのも事実だ。
 しかし、この男からは決定的なまでに素人だ。歩き方、気配、仕草。その全てが彼を素人だと告げていた。力量は高く見積もっても、腕っ節の強いだけのチンピラというのが適当か。

 そう全て錯覚だ。
 ただ、この男子学生がナナリーを見た時。
 その瞳に、どこか郷愁や懐かしさにも似た感情を見てしまったから、要らぬ心配をしてしまっただけ。そう結論するとゼロはナナリーを車に乗せると、自らも乗り込んだ。

 車での旅は中々に快適だった。
 カレンやレナルドから聞くアッシュフォード学園での日常は、既にそこに通う事が許されない身分であるゼロとナナリーからしたら、何にも勝る娯楽となる。

(最後に訪れたのは、花火を挙げた時だったか……)

 あの時はニーナやジノもいて、ちょっとした騒ぎだった。
 世間には決して知られる事のない、ルルーシュ・ランペルージの死を悼み、アッシュフォードで花火を打ち上げたのだ。

 しかし日本での会談とアッシュフォードの学園祭が重なったのは、本当に凄い偶然だった。
 もしかしたら、これもルルーシュの計らいなのかもしれない。そんな荒唐無稽な考えをゼロは直ぐに振り払った。

「あっ! もう直ぐですよ!」
 
 レナルド・レステンクールがそう言う。
 見えた。懐かしい、アッシュフォード学園の校門。
 此処でゼロとナナリーは開会前の挨拶をする手筈となっている。
 
「着きましたね、ゼロ」

『そうですね、ナナリー代表』

 車が停止する。
 運転手が先に降り扉を開ける。
 ゼロは車椅子に乗るナナリーを降ろすために、先に降りナナリーの車椅子を下ろそうとすると。

――――嘗て無い悪寒を感じ、ナナリーの手を引いて飛び退いた。

 瞬間。無数の弾丸に黒塗りのリムジンは貫かれ、爆散した。否、弾丸といっての人の使う生易しいものではない。KMFが使うアサルトライフルの弾丸だ。故に車程度の耐久力など、なんの意味すらもたない。

『あれは暁ッ!』

 嘗て黒の騎士団の後期量産型KMF。
 フロートこそ装備していないものの、それは間違いなく暁だった。
 一体何故こんな場所に暁が……?

 そう思う事すら状況は許してはくれなかった。
 何処にこれ程の者達が隠れていたのか。サブマシンガンなどの武器で武装した男達がアッシュフォードに突入してくるのが、目に見えた。

(テロ、か)

 そうゼロは結論する。
 確か日本には嘗ての騎士団員や旧日本軍人で構成されたテログループが存在していると聞いたが、恐らくは今回もその類だろう。日本は独立し平和を取り戻したとはいえ、それを復興していくには国家元首にかなりの政治力が求められる。そして日本は、それを失敗した。
 だからこそ日本は、ブリタニアの復興への全面支援が欲しくて、国交正常化を受け入れたのだし、貿易により得られる利益により経済の建て直しを狙っていたのだ。

 それと平行して行われた平和主義や軍縮。戦争が無くなった事で職を失った軍人達。また仇敵だったブリタニアと交友を結んだ事は、愛国心溢れる日本人や軍人達の怒りに火をつけるには十分だった。
 ようするに、だ。日本は戦後の復興に躓いていたのだ。だからこそ、このような事が起きてしまう。如何にテログループのほぼ全てが元軍人で構成されてるとはいえ、こうも容易くVIPを危機に晒してしまう。
 
(兎にも角にも逃げなければ……)

 ゼロの中にあるのは先ずそれだった。
 別に命が惜しい訳ではない。ただ今ゼロとナナリー・ヴィ・ブリタニアが死ぬ――――それも国外で―――なんて事態が起きれば、再び戦乱の時代に戻る可能性は十分すぎるほどある。
 幾らゼロレクイエムによる各国が矛を収め交渉のテーブルに座ったとはいえ、たった一つの惨事で直ぐに立ち上がれてしまう。

「ゼロッ!」

 と、その時だ。
 暁の銃口がこちらを狙っているのが見えた。
 ゼロは慌てて、それを避けようとして。

『やらせはせんッ!』

 作業用KMFが暁に体当たりするのが見えた。
 そして搭乗者の声。それはレナルド・レステンクールと名乗った男子生徒のものだった。



 このような事態になるとは、レナルド・レステンクールことレナード・エニアグラムにすら予想外だった。戦後日本が復興に苦労しているのは知っていたが、まさかこれほど治安が駄目だったとは。押しも押されぬ超VIPが訪れるアッシュフォード学園が、テロリストに襲撃するなど考えられないことだ。余程日本の行政は脆いらしい。

 が、愚痴を零しても仕方ない。
 空港へナナリーとゼロを迎えに行き、わざわざ素人のミーハーの演技までしたというのに、当初の学園中に仕掛けた煙幕弾で会場を混乱させ、その隙にこの作業用ナイトメアMR-1でゼロとナナリーを誘拐するという計画はおじゃんだ。

 ならば話は早い。それにどのような突発的事態にも臨機応変に対応出来なければプロフェッショナルとはいえない。そしてレナード・エニアグラムはプロだった。

 即座に用意していたMR-1に騎乗し暁を迎え撃った。レナードとルルーシュの目的は、ゼロとナナリーから情報を引き出す事であって殺す事ではない。カレンに"ギアスが効かなかった"以上、どうにかして二人から情報を得なければならなかった。この世界の真実を。この世界のC.C.の行方を。

 だからこそレナードは暁の前に立ちふさがった。
 傍から見れば無謀でしかない行為だろう。
 相手は量産型とはいえ第七世代相当KMFである暁。対してレナードが騎乗しているのは作業用のMR-1。はっきりいって獅子と犬ほどの性能差だ。
 MR-1は所詮は作業用。戦闘用ではないのだ。機動力もパワーも、全て戦闘用KMFに劣っている。MR-1はサザーランドどころか第四世代のグラスゴーにすら遥かに劣っているのだから。

 それでもレナードは怯まない。
 元々、性能差で負けている相手とは何度も交戦してきた。

 武器弾薬全てを喪失し、片腕すら欠いた状態でテオ・シードのグロースターを撃破した。
 本気でなかったとはいえ、あの枢木スザクのランスロットを追い詰めた。
 第五世代のカスタム機で紅蓮弐式と互角に戦った。
 圧倒的火力を持つ白亜の巨人に痛烈な一太刀を浴びせた。
 カレンとジノを同時に相手して優勢に戦った。
 トリスタンと五機ヴィンセントを、圧倒してみせた。
 量産型で第九世代である紅蓮聖天八極式を退けた。

 そう、ラウンズの中において。
 レナード・エニアグラムという男は……。


――――――誰よりも、格上の性能を持つ相手との戦闘に熟練しているッ!


 MR-1は動かない。
 なにせ作業用KMFの性能では、暁の弾丸一発を受けただけでも致命傷となる。
 故に待つ。相手が仕掛けるのを。

(今だ!)

 暁が機銃を発砲してくる。
 しかし既にそこにMR-1はいない。逸早くそこから退避して暁に迫っていた。

『ヌゥ!』

 敵のパイロットのくぐもった声が聞こえた。
 どうやら男。年齢は三十ほどだろうか。
 暁はMR-1を避けるように後退した。

「ほう。作業用に過ぎないKMFを恐れるのか?」

 外部スピーカーをONにして挑発する。
 こちらには銃などの遠距離攻撃手段がない。後退されてしまえば成す術がないのだ。

『ほざけ。今の機動、動き。
貴様何者だ? 俺が発砲する事を読みきっていたように避けるなど、人間業じゃない』

「……………………」

『答えんか? だがお前のように得たいの知れない相手に、無闇やたらに近付くほど俺は若くない。卑怯と言われるだろうが、遠巻きに仕留めさせてもらおうかッ!』

 どうやら、中々に優秀なパイロットのようだ。
 攻撃を避けながらレナードはそう愚痴る。
 こちらの技量を的確に見抜き、自分の力量が劣っていると知ると、即座に後退することを選択した。こちらの遠距離の敵を攻撃する術がないと知るが故に。

 ただ、それでも暁のパイロットはミスを犯した。即ちレナード・エニアグラムを遠巻きから仕留められる相手だと思ってしまったこと。これがそもそもの間違いだった。
 幾ら機銃を発砲しようと、如何に性能差があろうと、攻撃や動きの軌道が完全に読みきられているのならば、それを避けるのは不可能じゃない。

『くそっ! 化物か。これほど撃っても当たらないとは……』

「どうする? こんな場所で戸惑っていたら、そろそろ日本軍が来るかもしれないな」

 二度目の挑発。
 しかし的を射た事であるが故に、暁のパイロットも無視は出来なかった。
 だからこそ、暁のパイロットは。

『はぁああああああああああああああああっ!』

 接近戦を挑んできた。
 武器は暁の固定兵装たる廻転刃刀。
 対するMR-1は…………無手。

 レナードはゆっくりと機体を下げる。
 MR-1のパワーでは暁と激突しただけで大破してしまう。だからこそ力ではなく技で。
 廻転刃刀をぎりぎりの所で避ける。そのまま機体を捻り、相手の力を逆に利用し、そのまま思いっきり転倒させた。
 いや転倒なんて生易しいものじゃない。猛烈な勢いで走っていた暁は、そのエネルギーの全てを転倒という惨事へと使わされた為、そのダメージは車同士の激突というレベルを遥かに超えている。

 こうやって書いてみると簡単だが、実際にやるとなると、自分と相手の機体特徴を良く知り、尚且つ超人的な技量が要求される。
 本当のプロフェッショナルにしか使えない、文字通りの神業であった。

『ハッ! まさか俺が、作業用KMF如きに負けるたぁな……。鈍ったもんだぜ』

「意識があったのか?」

 驚く。あの衝撃は並みの人間ならば死んでも可笑しくない筈のものだった。
 だというのに死ぬどころか、まだ意識があるとは。

『なんとかな。といってもコックピットの破片が突き刺さっていて…………こりゃ死んだな』

「そうか」

 自分が死ぬというのに、暁のパイロットはなんとなく嬉しそうだった。
 しかしレナードにとってはどうでもいいこと。元より興味も無い。

『しかし一体何者だよ、おめえはよぉ。これでも騎士団では結構な腕前だったんだぜ』

「ただの民間人だよ。今は」

 まさかナイトオブワンと言う訳にもいかない。
 だからこの世界での身分を名乗った。

『クッ――――。そうか。テメエも同じか……』

 何故か、この男はそんな訳の分からない事を言った。

「な、に?」

『分かる! テメエは俺と同じだ。今の平和が苛々するんだろォ?』

「なにを、馬鹿な」

『誤魔化すなよ。実際、平和なんて最悪だったじゃねえか。
職は失うは、友人からは人殺し呼ばわりするは、親戚からは害虫を見るような目ぇされるは……。お前も同じなんだろう? 戦争が終わって軍人辞めて…………。それで民間人になっても、どうせ馴染めなかったんだろう? 平和ってやつに。日常に』

 この男。
 どうやらレナードのことを、元軍人だと勘違いしているようだった。
 確かに先程のレナードの言い方だとそう思っても仕方ないが。

『下らねぇよなぁ。何でだ? 俺は国の為に必死に戦ったってのに、その報いはアレか。親戚や元友人様達に白い目で見られる事ときた! 傑作だろ。その癖国が補償するのは"罪の無い民間人様"ばかり。平和万歳な民衆が同情するのも"罪の無い民間人様"ばかりだ。所詮俺達軍人は使い捨ての駒なんだよ。平和になれば用済みの、よぉ。そんでムカついて暴れてたら、何時の間にかテロリストの仲間入りだッ!』

「………………」

 兵士の慟哭。
 それをレナードは何も言わず聞いていた。
 これは一つの裏だ。平和が訪れたとしても、全ての人間が幸福になれる訳ではない。
 こいつのような、平和に馴染めない男も必ず出てくる。

 漸く理解した。
 どうしても、元の世界に帰りたかった訳が。
 この世界は平和だ。平和で、戦争が無い。けれど、元の世界には戦争がある。平和な世界にはない、自分の居場所がしっかりと存在している。
 この男は未来の自分自身かもしれなかった。レナード・エニアグラムが平和に馴染めなかった末に辿る哀れな末路。
 しかし、だとしても。

「俺は軍人であり騎士だ。個人の感情よりも、組織と主君の意志を優先する」

『ハッ――――、馬鹿な野郎だ。テメエも』

「そうか。だが、俺は今までこのように生きてきた。
そうやって生きてきた。今更になって他の生き方をする事はできない」

 例え。
 その果てに、自分の居場所がないとしても。
 恩義には信義をもって応える。それがレナード・エニアグラムにとっての騎士道だった。




 その頃。
 学園中にトラップを仕掛けたリディことルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは混乱していた。
 計画では、タイミングを見計らって煙幕弾で視界を晦まし、ナナリーとゼロを強奪する予定だったのだが、それは予期せぬ襲撃者により完全に崩壊していた。
 
「ええぃ! 何故こうもイレギュラーがッ!」

 彼は知らない。
 この事態を引き起こしたそもそもの原因が、計画を円滑に遂行する為に警備網に穴を空けた、自らのギアスのせいだということを。
 その穴がテロリストを突入させてしまう羽目になったことを。

 それでも、どうにか持ち直したルルーシュはこの事態をどうにかして、自分の利にする為に行動を起こした。なんにしても先ずはナナリーである。
 例え別世界の存在と分かっていても、ナナリーには幸せになってもらいたい。こんな場所で死ぬなど許せる事ではなかった。

 ゼロのことを失念した訳ではなかったが、それでもルルーシュはナナリーを探した。
 そして見つけた。この混乱の中、SPに車椅子を引かれるナナリーを。

 思わず名前を叫びたくなる衝動を、どうにかして捻じ伏せる。万力の如き力を入れる必要があった。それほどまでに、死んでしまった最愛の妹は愛しかった。

 さて、どうやってナナリーを連れ出すか。
 誘拐という物騒な言葉を意図して使わず、ルルーシュは思考していると車椅子を引いていたSPの頭が吹き飛んだ。ルルーシュは見た。尚も銃口をナナリーへ向けるテロリスト達を。

 それで十分に。
 ルルーシュの中から"自制"という文字は消え去った。

 体力のない彼の限界を超えたスピードで疾走する。
 そしてテロリストの前へ、ナナリーを守る為に立ちふさがった。

「貴女は……?」

 久し振りに聞く。
 生の妹の声。それでルルーシュの決意は定まった。

 幾ら世界が違えど、背にいる少女は最愛の妹だ。自分の宝だ。
 ならばこそ、全力でナナリーを守護する。既に後の事や計画など頭から吹っ飛んでいた。

 左目のコンタクトを外す。
 現れるギアスの刻印。不死鳥のマーク。
 満を持して、ルルーシュは下した。絶対の命令を。

「死ねッ!」

 短い一言。
 今の世の中、軽口に使われる事すらある一言。
 それだけで、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアには必殺となる。

「……了解した」

 テロリストは空ろな瞳で、その命令に応じた。
 銃口を自らに向けると、一切の迷い無く発砲した。
 倒れていくテロリスト。間違いなく、即死だ。
 
「………………不味い」

 そして漸くルルーシュも我に帰る。
 やってしまった。出来るだけギアスを使用することを自重していたというのに。
 しかも、よりにもよってナナリーの目の前で。

「そんな……。その力、まさか……」

 ナナリーが震えるような声でそう言う。
 か細い声。意識しなければ聞き逃してしまいそうな。けれどルルーシュには一言一句逃さず届いていた。そしてそれは、もう一人。
 自殺したテロリストの側に立つように仮面の男がいた。
 ゼロ。自分で作り上げ、元の世界においては他者によって奪われた、正義の味方という虚像。
 
『まさか、君は……ルルーシュ、なのか?』

 合成音だというのに、その声には聞き覚えがある。
 ルルーシュはそんな馬鹿な事を思った。 



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