とある魔術の未元物質
SCHOOL33  歪んだ 偏見


―――どんなに大国でも、好戦的な国は必ず滅びる。逆にまた、どんな平和な時代でも、戦争に備えていない国は必ず危うくなる。
戦争には金がかかる。資材を浪費する。人材を失う。故に好戦的に積極的に戦争をしていればいずれ国家は疲弊し滅ぶ。逆にまた、戦争に備えず全く軍備がなかったならば他国にとっての格好のエサだ。侵略されやはり滅ぶのだろう。なんでも行きすぎは良くない。戦争に傾倒するのも悪いが、戦争を病的なまでに排除するのも害悪だ。






 ここに至るまでの波乱万丈過ぎる道程が嘘のように、あっさりとエリザリーナ独立国同盟に到着してしまった。
 あんまりに簡単すぎたので垣根としても拍子抜けだが、日本などの島国や朝鮮半島のように停戦状態が続いている訳でもない地続きの国の国境などこんなもんだろう。
 仕事柄によっては常に国境を行き来する人だっているのだろうし。肝心の国境でも簡単な検査はあったが殆ど素通りに近かった。

「ふぅん。独立したって言う割には街並みもロシアと殆ど変らねえようだな」

「ここがロシアから独立したのはつい最近だからね。使ってる服や車とかもロシアと共通するものが多いんだと思う」

 垣根の疑問をインデックスが補足する。
 『首輪』のせいでエピソード記憶こそ失われ続けているインデックスだが、その知識に関しては健在だ。絶対記憶能力があるから溜めこんだ知識を忘れる事もない。
 エリザリーナ独立国同盟に関しての情報も、前に色々とあったのだろう。具体的に問いただす事に意味はないが。

 エリザリーナ独立国同盟。
 ロシア内陸部で一国だけ独立したとしても周りを三百六十度ロシアの領土で囲まれてしまい、何をするにもロシアの許可が必要不可欠になってしまう事を防ぐ為に、不満を持つ国々が連合し、繋がる事で東ヨーロッパまでのルートを自力で確保した経緯を持つ。
 そのため国も東西に細長く伸びており、地図で見るとちょっとした蛇のようだった。だがそのせいでロシアからは疎んじられており正に目の上のたんこぶ。機会があれば侵攻しても不思議じゃないそうだ。

「けど治安はそこそこいいようだな」

 そんな情勢とは別に、エリザリーナ独立国同盟の治安が悪いという事はなかった。
 国家元首の悪口を言った国民が拘束される事もないし、路地裏に不良より性質の悪いゴロツキがいるということもない。
 もしかしたら武装無能力者(スキルアウト)や暗部組織なんて物騒な連中がいる学園都市よりも治安が良いかもしれない、と垣根はなんとなくそう思った。

「きっと、えりざりーなって人が凄く頑張ったんだと思うな。
外交とか軍事のことは正直よくわかんないけど、ロシア成教の干渉を押し返したのだって確かえりざりーなって人だったんだよ」

「そのエリザリーナに助けを求めに行くんだけどな」

 なんでもエリザリーナという人物は女性らしい。
 ロシア成教でワシリーサがそう言っていた。

「けど一体どんな奴なんだろうな。ロシア成教の魔術師を押し返したっていうからには、魔術師としてスゲーって事は分かるんだが……」

「案外かなみんみたいな魔法少女だったりして」

「そりゃねえだろ。つかそんな阿呆なら同盟の名前に冠さねえよ。つぅか国家の恥だ」

「むっ。かなみんは今世紀最強のファンタジーなんだよ!」

「どこぞのハリーでポッターな映画と同じキャッチフレーズ使ってんじゃねえ。
大体、まだ結構長いぞ今世紀。せめて二十世紀のものにしろよ、終わってっから」

「むむむむ、二十世紀でファンタジーといえば……」

「……………………」

「そうだ。世紀末の魔術師なんだよ!」

「コナンじゃねえか! 魔術師って確かについてるが、それはファンタジーじゃなくてミステリーだ!」

「最近のミステリーには魔術だって出てくるんだよ!」

「いやミステリーに魔術が出てきてどうすんだよ。トリックとか滅茶苦茶じゃねえか」

「あるよ。うみねことか」

「…………認める。俺のミスだ。
確かにあったわ。魔法やら悪魔やらがわんさか出てくるミステリー」

 うみねこのなく頃に。
 ミステリー物の王道といえるミステリーサークルな孤島が舞台であり、尚且つ王道的な儀式殺人のようなものが繰り広げられたり、碑文の謎なんてものがあるが、魔術や悪魔などのオカルトが頻繁に登場する異色の作品である。
 事実作品内には主人公の前に立ち塞がる『黄金の魔女ベアトリーチェ』を初めとして多くの魔女や悪魔などが出ており、オカルトな戦闘シーンも完備する稀な作品だ。
 
「そういやアックアって野郎は知らねが、俺の会った魔術師って殆どが十字教徒だったけど、やっぱ十字教徒じゃねえ魔術師もいんのか?」

「いるよ。日本で言うと日本神道や仏教系。中国なら道士とか仙人って呼ばれる人達に、系敏な十字教徒の私はあんまり好きな術式じゃないんだけど、悪魔を使った術式なんていうのもあるんだよ」

「悪魔…………魔王サタンでも呼び出すのか?」

「流石に魔王クラスの悪魔を呼び出すなんていうのは無理かも。位階から天使を呼び出すのと殆ど同じだからね。
けど魔王サタンが旧約で『神の如き者(ミカエル)』に倒されて堕天した『光を掲げる者(ルシフェル)』っていうのが通説だから、十字教に所属する魔術師も悪魔の術式を使う事は出来なくもなかったりするんだよ。でもやっぱり悪魔の術式だから、『必要悪の教会(ネセサリウス)』でも使う人は殆どいないかも」

「ふーん。けど話を戻すとエリザリーナってどんな奴なんだろうな」

「強い魔術師って事は分かるんだけど……。こんなんならわしりーさに顔写真くらい貰っておけばよかったな」

「だけどロシア成教を押し返したっていうんだから………………きっと、マッチョだぜ」

「マッチョ? 前に襲ってきたアックアみたいな」

「ああ。きっと世紀末女王エリザリーナって呼称がぴったりなくらいのマッチョだ。
ゴリラなアックアの糞野郎が霞むくれえの、マウンテンゴリラな女に決まってる」

 出遭ってもいない女性に対して実に失礼な物言いである。
 更に前に垣根帝督が言った事を繰り返すが、まだ今世紀は結構長い。

「こうキリッとした目で『俗物がッ!』とか言ってくるかもな……」

「案外『頭冷やそうか』ってお話してくるかも」

「それはお話じゃなくてOHANASIな。
だが女王なんて言う奴は、性格悪い上に陰気で化粧の濃い鼻糞野郎って相場が決まってんだよ」



 丁度その頃、学園都市の学び舎の園で。

「くしゅん!」

「女王、風邪ですか!?」

 取り巻きの一人がアタフタとする。
 それを面白そうに眺めながらも常盤台中学における最大派閥の『女王』は。

「うぅん、もしかしてぇ風邪……なのかしらぁ?」


 更に同時刻。
 魔術大国イギリスのバッキンガム宮殿にて。

「ハックション!」

「エリザード様……貴女もいい加減に御歳を召されているのですから、クーラーきいた部屋で腹だしてゲームしないで頂きたい。
というか少しは女王としての自覚もてや」

「はははははっ。そう気にするな騎士団長。
きっと国民の誰かが私の噂をしていたんだろ。それと――――――」

「なんでしょうか?」

「私も化粧すれば、まだ二十代で通れると思うのだが、お前の意見をきこ」

「では職務があるので失礼します!」


 垣根は、適当にインデックスと会話しながら街並みを歩く。当然同時刻に二人の女王がクシャミをしていた事など知る由もない。
 こうして歩いていると珍しい恰好をしているインデックスに視線が向く事はあるが、だからといって呼び止められることもないのは教会が身近にあるからだろうか。
 そしてそうこうしている内に件のエリザリーナがいると思われる教会に到着した。

「………………ビンゴ、かもな」

 教会の周りには良い体格をしているSP達がいた。
 見た目、ステイルや神裂、サーシャのような分かりやすい魔術師はいないが、アックアの例もある。
 魔術師全てがチンプンカンプンな格好をしているという訳ではないだろう。
 だからもしかしたら懐に銃を所持している大男たちの中にも、手から炎を出せる魔術師がいるかもしれないのだ。

(そういやワシリーサ曰く、エリザリーナは魔導師だったな)

 魔導師。単純に魔術を行使するだけの魔術師とは違い、魔道書を読みそれを弟子などに伝えていく者。
 ワシリーサの話が本当ならエリザリーナは魔導師であり、魔術師の――――言い方は悪いが――――量産にも成功しているとのことだ。
 案外あの銃を所持している大男も、銃を撃ったら弾丸じゃなくて謎のビームが出てくるのかもしれない。
 
 さて早速エリザリーナに会えるよう交渉するか。
 なにも直ぐに国家元首(のような立ち位置にいる存在)に会えるとは思っていない。
 例えば日本で総理大臣に会いたいからと言って首相官邸に行けば簡単に会える訳がないだろう。普通に首相官邸に行って「総理大臣に会わせてくれ」なんて言った所で門前払いがオチだ。
 
 だがそれはあくまで「会いたい」と言うのが普通の人間ならばの話だ。
 隣にいるインデックスは、禁書目録なんていう魔術サイドでもかなり特殊な存在であるし、自分だって科学サイドの総本山である学園都市に七人しかいないLEVEL5の第二位だ。
 対応がこちらにとってマイナスにしろプラスにしろ何らかのアクションを起こすのは間違いないだろう。

 けれどエリザリーナという女性は、思っていたよりも強かで手が早かったようだ。
 気づけば周りに人がいなくなっていた。これと同じ現象を垣根は知っている。
 人払い、わりとポピュラーな魔術でステイルや神裂も頻繁に使っていた。

「ていとく」

「あぁ知ってる。おいでなさったみてえだ」

 SPと思われる大男達も気づけばこちらに銃口を向けていた。
 その時、唐突に後ろから声をかけられた。

「要件を聞こうかしら」

 後ろを振り返る。
 そこに屈強な男に囲まれるように一人の女性が立っていた。
 細見というには細すぎる体躯。具体的には半年間カロリーの高いファーストフードでも食べさせ続ければ丁度良くなるのではと感じるほど不健康に細すぎた。

「イギリス清教に所属する魔道書図書館『禁書目録』が、この国になんの打ち合わせも交渉もなく入国した訳を」

(はんっ。禁書目録ねえ)

 この女は禁書目録とは言ったが、学園都市の超能力者とは言わなかった。
 つまりこの女は、インデックスが禁書目録であることは知っていても、垣根帝督が学園都市の超能力者であることは知らない。

「待ってくれ。別にこっちに敵対する気はねえ」

 敵意がない事を示すように両手を上げる。勿論両手を挙げた程度では垣根帝督の戦闘力が落ちる事などないのだが形式は必要だ。
 それに他に敵意がないことを証明するのに適切な方法などそうはない。両手を上げるというのは殆どの国で共通の、敵意がないことを示す方法のはずだ。

 垣根とて馬鹿ではない。
 幾ら自分が強い力を持っていようと、国という巨大な組織そのものと喧嘩しようなどとは思わない。
 超能力は強力だがそれを扱うのは人間であり、垣根も能力を行使し続ければ必ず疲労する。そうなれば能力を行使する事も立つことも出来なくなり最終的には敗北するだろう。
 こちらはあくまで『お願い』する立場だ。垣根自身の力を誇示するのは、本当の本当の最終手段である。

「俺はこの国のボス。エリザリーナに頼みがあってきた。俺も野蛮な戦闘狂って訳じゃねえ。出来れば穏便な対応してくれるとありがてえんだが」

 もし万が一SPや目の前の女が攻撃を仕掛けてきたならば、その時はやむを得ない。
 先方のイメージは悪くなるだろうが、怪我しない程度の眠らせるしかないだろう。

「エリザリーナに頼み……。それは一体なに?」

「治療だ。インデックス…………禁書目録に掛かってる呪いをどうにかしたい」

「それじゃ理由にならないわ。
禁書目録に呪いが掛かっているなら、禁書目録自身の知識を使ってイギリス清教が治癒すればいいだけの話。
わざわざ『エリザリーナ』に頼る理由がないわね」

「そのイギリス清教が『呪い』の絡繰りを作った張本人なんだよ」

 神秘的な瞳だった。
 まるで全てを見通すかのような。
 その瞳を垣根は真っ直ぐに見返す。

「……………嘘は、言ってないようね」

「そう判断してくれて嬉しいぜ。で、エリザリーナに会いたいんだが」

「その必要はないわ」

「?」

「私がその『エリザリーナ』だから」

「なん……だと!」

 恐らくは禁書目録なんていう特殊な存在が自国に入国したというので、わざわざ自分から出張ってきたのだろう。
 十万三千冊の魔道書というのがどれだけヤバいものなのかは、魔術の一端に触れた垣根にも多少分かる。
 だがなによりも、垣根帝督には驚く事があった。それは、

「女王なのにマッチョじゃねえ、だと?」

 というより、何処をどうしたら女王=マッチョの方程式が出来るのか小一時間問い詰めたい。
 なんにせよ垣根帝督とインデックスは、漸くエリザリーナと邂逅を果たす事に成功した。




一九九X年
世界は聖なる右の炎につつまれた!!

海は枯れ
地は裂け……
あらゆる生命体が絶滅したかにみえた……
だが…

人類は死滅してはいなかった!!!!

世紀末女王エリザリーナ……カミングスーン

過去10031人を殺し
死刑執行されること13回!!
だが そのことごとくを生き延びた!!
電気椅子も絞首台も無用(反射するし)
最終借金8兆円

インデックス「……」チーン

パンダ「なぜだよ。なぜそんな男に墓をつくってやるんだよ」

美琴「同じ男を愛した女だから」

木原「 人を殺したあとは小便がしたくなる!! 」

アレイスター「汚物は消毒だ〜!! 」

上条「一方通行…おれがだたひとりこの世で認めた男… せめてその胸の中で!! 」


……はい。世紀末女王エリザリーナとか本編で書いたせいで後書きが暴走しました。さて遂に垣根が目的地に到着しました。全くエリザリーナ独立国同盟に来るだけなのに結構な時間が掛かりましたが、漸く中継地点到達です。



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