とある魔術の未元物質
SCHOOL38 襲われる 超能力者
―――血のみが歴史を前進させる。
時代の移り目。日本でいえば明治維新。フランスでいえばフランス革命。いついかなる時も歴史の移り目には血が流れてきた。血を流さず移る歴史はなく、血を流さずに達成させる新時代もない。人間は血を流さないと納得しない生き物だ。
「――――――――ぐちゃぐちゃ言ってねえで離れろっつってんだろ、三下!!」
少年、上条当麻の声が『実験場』に響き渡った。
その声に、実験の被験者である学園都市230万人の頂点、第一位『一方通行』は反応する。
「オマエ、ナニサマ? 誰に牙剥いてっか分かって口開いてンだろうなァ、オイ。学園都市でも七人しかいねェ超能力者、更にその中でも唯一無二の突き抜けた頂点って呼ばれてるこの俺に向かって、三下? オマエ、何なンなよ。カミサマ気取りですか、笑えねェ」
この場所で開かれる『実験』
LEVEL5の電撃使い『超電磁砲』のクローンである『欠陥電気』を二万体殺す事により、第一位をLEVEL6へと進化させるという、常軌を逸しているとさえ言える非道なる実験。
これを止める為に上条当麻はやってきた。
「ヘェ。オマエ、面白ェな」
果たして上条当麻は一方通行の興味を引いてしまった。
ありとあらゆるベクトルを操る、最強にして絶対的なLEVEL5。あらゆる攻撃は反射され通じず、指先一つ触れるだけで体内の血液を逆流させることが出来る、最強の存在。
あの『未元物質』垣根帝督を唯一上回る怪物。
これは本来なら意味のない戦いだ。
勇猛を超えた蛮勇。
無茶を超えた無謀。
純粋な能力で第一位『一方通行』を倒す事が出来るのは唯一『垣根帝督』のみ。その垣根帝督にしても現在は遠いロシア。故に一方通行を止められる能力者はこの学園都市に存在しない。『超電磁砲』も『原子崩し』も『心理掌握』も、『一方通行』にとってはそこいらに転がる路傍の石と変わらない。
しかもよりにもよって一方通行に相対しているのはLEVEL5どころか、学園都市に無能力者、LEVEL0の烙印を押された少年だ。勝ち目なんてない。ある筈がない。
「――――――――――――――」
だが上条当麻は怯まない。
学園都市最強の超能力者を打倒する可能性を秘めた、能力でも魔術でも説明のつかない『右手』を握りしめ、一方通行に挑んだ。
実戦で初めて使う魔術の感触を確かめながら、垣根は逃げる『猛毒右腕』を追う。
尤も垣根も魔術をマスターした訳でもないので、使っている魔術は発火や放水、放電などといったポピュラーかつ基本的なものばかりである。
それでもエリザリーナ曰く、驚異的な成長速度らしいので十分といえるだろう。事実、素人が基本的なものとはいえ魔術を扱えるようになるのには結構な年月が掛かる。
ちなみに科学に毒された人間が魔術を扱うと、宗教毒のようなものがあるらしいので、ここ最近垣根は精進料理を食べたり霊水とかいう″冷水″をロシアの大地で浴びたり、聖書を暗記したりと実に清らかな生活をさせられていたので、ストレスが溜まっていた。
折角の機会だ。この襲撃者でストレスを発散させてやろう。
「―――――――――」
「どうした。逃げてばかりじゃあ俺は殺せねえぞコラ」
どうやら『猛毒右腕』の能力は右腕から『未元物質』すら溶かすほどの猛毒を発生させるというものらしい。
ならば対処法は簡単だ。あの『右腕』の有効範囲外から攻撃を仕掛けてやればいい。見た限り『猛毒右腕』に長距離攻撃の術はないようだし。仮に銃などを隠し持っていても、ミサイルですら意味をなさない垣根に銃弾程度が意味をなすはずがない。
(しかし俺の『未元物質』すら溶かす、だと? そんな、毒なんざ聞いた事がねえぞ。そもそも白翼は『原子崩し』すら弾くんだしな。となれば、あの包帯野郎の能力も訳の分からねえ第七位と同じ訳の分からねえ力、つまりは『原石』、か)
前に邂逅した『原石』のテロリストを思い出す。
確か奴の能力は『斥力』だったか。学園都市ならLEVEL5判定を受ける程の強力な能力。
そしてデータ上で何人か知っている学園都市の『原石』達。そのどれもが特殊かつ珍しい能力ばかりだった。中にはまるでオカルトのような能力もあるくらい。
(…………『未元物質』を相手にするために選抜された能力者だ。特殊な能力者がいてもおかしくはねえか)
どちらにせよ、あの『右腕』は少々厄介だ。
近づいて殴られれば、未元物質の障壁すら無効化される。そしてあの猛毒が顔面にヒットするだけで、人間は終わる。
(先ずは右腕を消し飛ばす。それから――――)
毒に溶かされないように物質とは違う炎で『猛毒右腕』の退路を塞ぐ。流石に炎の中に突っ込む気概はないのか『猛毒右腕』の逃走が停止した。
この隙にと垣根は右手に未元物質を生成する。喰らわすのは前にアックアの水を蒸発させた赤黒い閃光。
「ッ!」
寸前で未元物質の障壁を展開する。瞬間、障壁に弾丸がブチ当たった。
そして弾丸に注意が向いた垣根に、再び隙が生まれる。
「――――――――ッ」
その隙を狙い澄ましていた『猛毒右腕』が真っ直ぐ垣根に猛進する。
右腕を前に、垣根を溶かし殺すために。だが、
「大道芸人の鉄則だ。『同じトリック』は二度使うな、常識だろうが」
何時の間にか垣根は『猛毒右腕』の背後にいた。
『猛毒右腕』はその武器である右腕を前に、垣根のいる方向とは逆方向に突き出していた。
状況、『猛毒右腕』は防御姿勢をとるのに時間が掛かる。
垣根帝督は攻撃に十分な時間がある。
結論、垣根帝督は容易く『猛毒右腕』の右腕を切り裂いた。
「―――――――――!!!!」
右腕を切断された『猛毒右腕』が声も出さず悶え苦しむ。
ここまでやられて呻き声一つあげない事を考えても、この男は喋らないのではなく『喋れない』のだろう。
まぁ学園都市のことだ。この男にも色々とあったのだろう、と垣根は結論した。
「教訓だ。俺のような例外を除けば『常識』には従った方がいい。さもねえと、どこかの誰かに自慢の右腕が―――――」
炎が切断された右腕を包み込む。
「灰になっちまうかもしれねえぞ。いや、もう遅かったな。残念無念また来世でのご活躍に御期待下さいチャンチャン♪」
『猛毒右腕』が右腕を失った。
つまり今のこいつは牙を失った狼。羽を失った鷲。能力を失った能力者。
もうこの男に脅威はない。
垣根帝督を殺す力など論外、右腕を失った今、一般人一人を殺す力すらないかもしれない。
「しっかし、まだ面倒なのが残ってやがるな」
未だ垣根の展開した障壁には弾丸が突き刺さって、今正に貫こうと突進を続けている。
物理法則も空気抵抗も全て無視したかのように動く現象は紛れもない能力によるもの。
「だが能力なら問題ねえ」
方向性からいっても、この弾丸を操る能力者はごく普通の『能力者』だろう。
LEVEL5でも『原石』でもない能力者。ならば垣根帝督の敵ではない。
空中に未元物質を散布し、演算パターンを逆算。及びその演算パターンから、この弾丸に使われている法則を暴く。
脳裏に飛び交う数多の数式。オカルトを一旦頭から排除し、数学のみで物事を思考する。
「逆算、終わるぞ」
垣根の右手が振るわれると、烈風があらぬ方向に飛ぶ。いや、あらぬ方向ではない。あの方向は、あの烈風の進行方向上にある建物は、紛れもなく狙撃手二人が陣取る場所。
烈風が建物の屋上に突き刺さる。轟音、爆炎。
凄まじい被害だ。建物の屋上にいた者は先ず助からないだろう。
「さて後はテメエに色々と下呂らせるだけだ。喋って貰うぜ。学園都市のあれこれから最近の暗部界隈。そしてテメエの受けた仕事に関してもな」
垣根「これが第二位の実力だ」キリッ
と冷蔵……もといていとくんからのメッセージでした。
自動書記に負けて、エイワスの前に成す術もなく、麦のんに苛められて、テロリストくんに飛行機から放り出され、アックアにぼこられた帝督とは思えない無双でした。やぁ、偶にはこういう戦闘もいいですねー。正に快勝というべきでしょうw
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