とある魔術の未元物質
SCHOOL37  光


―――君命も受けざる所あり。
例え主君の命令だとしても、上司の命令だとしても従ってはならぬ時がある。だがかといって上司や主君の命令に逆らい続けるのは正解ではない。
あくまで命令違反が正当化されるのは特殊な場合のみだ。それを理解せず命令違反を繰り返すならば、その者にあるのは破滅のみだ。







 一見すると全てが終わったかにみえた。
 垣根帝督の脳天を弾丸が撃ち抜き、包帯男の右手は垣根の胴体を抉っていた。
 しかし遠距離にいる弾丸を放ったスナイパーの方は兎も角、包帯男の方は垣根帝督の異常を直ぐに察知していた。
 先ず第一に感覚がない。胴体を抉っているというのに、どうも肉を溶かした感触と違う。それに血も出なければ、体温もない。
 これではまるで人形だ。意思もない単なる身代わりドール。
 
猛毒右腕(ポイズンハンド)とでも言った所か、テメエの能力」

 包帯男――――『猛毒右腕』に迫ってきた烈風を寸前で躱す。
 この能力、やはり垣根帝督は生きていたのだ。
 建物の陰からヌッと学園都市第二位の超能力者は不敵な笑みを浮かべながら歩いてきた。

「どうして生きてるかって顔してんな?」

「――――――――――――」

「無言か。ま、正解はこれだ」

 垣根がパチンと指を鳴らすと、『猛毒右腕』が抉ったさっきまで垣根帝督の姿をしてきた人形がみるみる白い液体となり消滅していく。
 
「わざわざロシアまで俺を殺しに来たんだ? 当然俺の能力は知ってるよな」

 勿論だ。
 垣根帝督の能力は『未元物質(ダークマター)』であり、この世界に存在しない物質を生成し操るというものだったはず。
 ならば恐らくこの身代わり人形も。

「生成した未元物質を俺の形に作り直した。ま、着色には『裏ワザ』を使ったが、まあ良い出来だった。これを応用すりゃゴーレムなんてのも作れるかもしれねえな」

「――――――」

 なんて能力だ。
 身代わり人形を作りだした『未元物質』もそうだが、真に驚くべきは垣根帝督の演算能力及び処理速度。
 つい少し前まで垣根帝督は紛れもなく本物だった。なのに弾丸が脳天を貫き、右腕が胴体を抉る僅か一秒足らずの間に垣根帝督は身代わり人形を作りだし陰に潜んでいたと、そういうことなのだ。
 もはや人間業じゃあない。これが第一位『一方通行(アクセラレータ)』に唯一取って代われる素養を持った怪物、第二位の垣根帝督の実力ということか。
 能力者としての格が違う。

「それにしても、テメエの能力。その右腕、なんとの奇天烈なものを持ちだしてきたじゃねえか、学園都市も。
俺の未元物質を溶かせたって事は、その右腕から発している毒、ただの毒じゃねえ。この世界に当たり前に存在する毒なら、俺の未元物質が溶ける筈がねえしな。
となるとテメエの『毒』も俺の未元物質にある程度の対抗が出来るような代物ってことだ。学園都市も、統括理事会は腐った連中が多いが馬鹿じゃねえ。捨て駒にしても、無題に捨てたりはしねえか。この俺に対抗できるよう駒の中から厳選してきやがったな」

 垣根帝督の言葉は正解だった。
 能力にも相性というものがある。例えば単純な話、発火能力者の火は水流操作の水に相性が悪い。勿論LEVELによる格もある。LEVEL4の発火能力者にLEVEL2程度の水流操作が勝てる筈がない。しかしもしLEVEL3の水流操作なら、戦い方によってはLEVEL4の発火能力者に勝てる、かもしれない。
 だからこそ『猛毒右腕』の所属する『ブリッツ』が選ばれた。『ブロック』『メンバー』『アイテム』等の暗部組織の中で最も対能力者に適した者達が集まる『ブリッツ』を。アレイスターは選択したのだ。
 
「クックックっ、だが残念だったな。本当にテメエ等は残念だ。必至こいで試験勉強してた真面目な学生が試験範囲を間違えてたみてえに残念だ」

 そして垣根帝督は呟いた。
 透き通るように、堂々と、威圧的に、破滅的に。

「superbus002」

 それは能力者が名乗る筈のない名前。
 学園都市の刺客であり魔術など知らない『猛毒右腕』に魔法名なんてものを知る機会などありはしない。
 だが不思議と垣根帝督が名乗った常識外の名は、まるで吸い込まれるように脳髄に浸透した。

「狩りの始まりだ。精々逃げろ。早く逃げねえと、悪い魔法使いに捕まって解剖されて人体模型にされっちまうかもしれねえぞ」



「どうなってんだよ、ありゃよォォォォォォォ!」

「知るかよ、俺が知るかよ!」

 長距離から垣根帝督を狙撃した二人組は、垣根帝督が謎の力を行使し始めた事に絶叫していた。
 というよりパニックになっていた。

「おいおいおいおぉぉい! 能力者ってのは一人につき能力一つだろォォォぉお!? なのによォォォォ! ありゃァよォォォォオォォ!」

「落ち着け馬鹿野郎!」

 ロベルトと共にエリザリーナ独立国同盟に侵入した『最終地点(ラストターミナル)』を最近メンバーに加わった『絶対等速(イコールスピード)』が抑える。
 だが『最終地点』のいう事も分からなくはない。『絶対等速』にとっても垣根帝督は明らかに異常だった。
 LEVEL0だろうとLEVEL5だろうと能力者一人につき能力は一つ、それが常識だ。多重能力者は理論上存在しない。
 だが垣根帝督はどうだ。
 垣根は時に火を操り時に水を操って『猛毒右腕』を追い詰めている。今は『絶対等速』と『最終地点』の二人で援護射撃しているから辛うじて捕まっていないが、それがなければとっくに『猛毒右腕』はミンチにされていただろう。
 
(畜生がついてねえ。あの『空間移動』の婆声ジャッジメントに会ってからこうだ! あのジャッジメントのせいで強盗は失敗するわ、謎の電撃で俺の能力は吹っ飛ぶわ、暗部に堕ちるわで散々だ。漸く相性良い相棒見つかって運が向いてきたと思ったってのに!)

 隣にいる男の能力『最終地点(ラストターミナル)』は言わば弾丸に追尾機能をつけ加えるようなものだ。
 効果が及ぶのは弾丸サイズの小さいものだけだが、予め弾丸が到達する『最終地点』を設定することで、弾丸はその『最終地点』へと自動的に吸い込まれていく。障害物なども設定すれば障害物を避けて『最終地点』へと向かっていく。
 LEVEL3程度の強度なので破壊力もパワーもないが、こと暗殺に関しては中々の能力だ。
 そして自身の持つ『絶対等速(イコールスピード)』は弾丸サイズの小さいものにしか効果はないが、『最終地点』と組み合わせることで最強の能力に化ける。
 『絶対等速(イコールスピード)』の能力を受けた物体はどんな障害物に当たっても減速せず、そのままの速度で移動していく。理論上は核シェルターだろうと駆動鎧の装甲だろうと問題なく貫いてしまう事が可能だ。
 つまり『最終地点』の遊動性と『絶対等速』の破壊力、この二つの融合はLEVEL5にも匹敵するといっていい。

(だけど……あれが『未元物質』ってことかよ!)

 話には聞いていた。
 未元物質、この世に存在しない物質であるが故にこの世の物理法則には従わず、また未元物質に接触したこの世の物質も独自の法則で動き出す、と。
 垣根帝督に能力者相手の常道は通用しない。

 その時、『絶対等速』の携帯電話に連絡があった。学園都市製の世界の何処でも海の底でも繋がるというキャッチフレーズのハイテクだ。
 画面に表示されている名前はロベルト。『ブリッツ』のリーダーの名前だ。
 垣根帝督が明らかに複数の能力を行使し始めた事に半ばパニックになっていた『絶対等速』は慌てて携帯に出る。

「もしもし!」

『私だ』

「知ってんだよ、んな事は! それより『猛毒右腕(ポイズンハンド)』がッ!」

『熟知している。ターゲットが明らかに複数の能力を行使し始めているんだろう。私もこちらから良く観察している』

「どうなってやがる!? 能力者に多重能力者は存在しねえんじゃねえのかよ!」

『知らん。私達が知らないだけで本当は存在しているのかもしれないし、だが恐らくあれは「未元物質」の応用だろうさ』

「応用?」

『太陽光の殺人レーザー化、過剰な重力、報告によると全て「未元物質」によって引き起こされた現象だ。
垣根帝督を常識に、いや学園都市に数少なくいる『原石』や第二位と第一位を能力者の常識で考えるな。私は科学者ではないから知らないが「未元物質」を応用すれば、多重能力者の真似事など幾らでも可能だろう』

「な、ならよぉ! そんな奴に俺達勝てんのかよ! 俺も『最終地点』だってLEVEL3だし、うちには良くてLEVEL4しか……」

『冷静になれ「絶対等速」。冷静さを失った時が敗北だぞ』

「むむむ……」

『私達は格下だ。真っ向勝負じゃどう足掻こうとLEVEL5のような化け物には勝てん。だが格下には格下なりの戦術がある。いいか「絶対等速」。幾らLEVEL5といえど「人間」だ。脳漿をまき散らせば当たり前に死ぬ当たり前の人間だ。私達の勝機はそこにある』

「分ぁったよ。アンタのいう事に従ってりゃ、取り敢えず今までは何とかなってきたからな」

『感謝する。さて、ターゲットにどちらが本当の狩人かを教授してやるとしようか』




微妙に原作キャラが出てきましたw 禁書目録じゃなくて超電磁砲ですがw
一つの弾丸に二つの能力。これが一瞬垣根が押された原因です。
垣根は色々と反則的強さのキャラなので、毎度毎度どうやって垣根を殺そうかを全力で考えた後に、全力で考えた垣根抹殺作戦からどうやって逃れるかを全力で考えてますw



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