とある魔術の未元物質
SCHOOL51  鯖


―――逃した魚は大きい。
実際に逃した魚が大きくなくとも、人間というのは逃してしまったものを過大評価する事が多々ある。簡単に手に入るものは人は欲しがらないが、中々手に入らないものは人間は貴重に思う傾向がある。だから限定品などというお題目に人は引っ掛かるのだろう。








 後の祭りという諺がある。
 人間が時間旅行を出来ない様に、過去をやり直す事もまた出来ない。
 時間のベクトルは未来にしか進まず、過去へと反射する事は絶対にないのだ。
 それでも、時として人は未来へと進むベクトルが反射する事を願わずにはいられない時がある。
 学園都市暗部組織『アイテム』に属する少女フレンダもそうだった。
 もしもあの時に戻ってやり直せれば、どんなに良いか。

 最初は何時も通りだった。
 上役から『アイテム』にきた指令は『スキルアウトの学園都市外への逃走の阻止』という比較的単純明快なもの。『警備員』のような表側の組織が動かないのは、そのスキルアウトがなにやら暗部関係の情報を握っているからだそうで、上役の方からそのスキルアウトの抹殺依頼が下っている。
 スキルアウトがなんでまた逃亡を企てたのかは知らないが、別に興味もないのでどうでもいい。重要なのは今回の仕事の難易度であった。
 そこに目を付けた現在金欠のフレンダは、

『結局、能力者でもないスキルアウトなんて私一人で十分な訳よ!』

 とアイテムのリーダーである麦野沈利に言ってしまったのだ。
 同じ『アイテム』の滝壺や絹旗は不安そうにしていたが、フレンダには自信があった。相手は単なるスキルアウトの一人であり能力者ではなく、ましてや協力組織の存在も全くないときた。
 成功報酬は難易度に比例したのか何時もより少額だったが、全部一人で仕事を完遂すれば報酬は全て自分のものである。だからこそ麦野達の反対を押し切って単独で仕事に当たったのだが…………。

(失敗しちゃったわけなのよねー)

 しかしあれは仕方がなかった。
 スキルアウトといえば無能力者の集まりだ。故にLEVEL0だと思っていたターゲットだったのだが、なんと能力を使ってきたのだ。
 単なるスキルアウトの無能力者相手と思っていたら、LEVEL4クラスの大能力者だった訳だ。
 一体全体、どうしてLEVEL4クラスの能力者が武装無能力者集団なんかになっているかは知らないが、別に無能力者しか不良にならないなんて法律もないのだ。色々当人には事情があるのだろう。

 さて、ここまでならただ『アイテム』に戻り助けを請うだけでいいのだが、一つ不安過ぎる問題があった。それはリーダーである麦野の言った、

『一人でするのは良いけど、もしも失敗したら…………どうなるか分かってるわよね?』

 あの時の麦野の目は忘れられない。アレは殺る目だ。このままオメオメ帰還して『失敗しちゃいましたテヘ☆』なんて言った日には間違いなく『フレ/ンダ』になる。それだけは嫌だった。

 これから逃れる術は唯一つ。どうにかして例のスキルアウトを一人で倒す事だ。
 しかし麦野の方も既に自分が失敗した事に気付いているだろう。
 きっと今頃『オ シ オ キ か く て い ね』とか言いながら自分を探しているに違いない。いや絶対にそうだ。
 自宅なんかに帰るのは論外だ。直ぐに見つかる。
 ホテルかなにかに泊まるのも駄目だ。麦野の事だから確実にマークしている。
 だから此処は麦野が思いもしないような潜伏先を拠点にして、あのスキルアウトを発見し排除しなければならない。難しいがやるしかないだろう。やらなければ、麦野にやられるのだから選択肢など元からありはしないのだ。

 ちなみにこの家に転がり込んだのは完全な成り行きだ。
 傷心のままに路地をさ迷い歩いていると麦野らしき人影が見えたので、咄嗟に学生寮の一室に潜んだのだ。不用心なことに窓が開いていたので忍び込むのは簡単だった。
 ただ結局その麦野らしき人影は他人の空似で、この学生寮の住人に見つかってしまい、あたふたと言い訳していたら一時の拠点を得る事に成功したのだから不幸中の幸いというべきなのだろうか。
 ほんの一時の同居人は、何も尋ねようとしない。

 
「さて……これからお前を数日間ほど居候させるという、何とも面倒くさい事になってしまった訳だが」

「うん」

 上位次元ことレイビーはフレンダに言う。
 視線の先にはベッドが一つ。

「俺の家にはベッド一つしかないから…………しょうがない。俺はベッドで寝るからお前は床で寝ろ」

「ちょ、ちょっと待ったぁ!」

 レディーファーストなんて知った事ではないと言う口振りに、思わずフレンダがツッコミをいれる。

「お前、ただの居候。俺このの家主。どっちが偉いかなんて言うまでもないだろう。嫌なら出て行って公園のベンチで寝ろ」

「ゲコ太の限定ストラップをあげたのに……」

「あれは俺の家に住む許可を与えるだけであって、俺のベッドを自由にする許可を与えるものじゃない」

「酷っ!?」

「お前のような身元不明の金髪を家に泊めるだけで十分俺は善良な市民だ」

「ゲコ太持ってった癖に」

「世界はギブ&テイク」

「無償の愛というのも……」

「俺の辞書にはない」

 フレンダが落ち込んでいたが、対して気にもせず何時もの場所に行って報告しなければ。正直、正体不明の女を家に匿うなど正気の沙汰ではないが、身の安全よりもゲコ太の方が彼にとっては最重要事項といってよかった。
 それより早く『MISA』や『ドイメ』と言った同志に報告をしなければ。



SEKAI:突然ですが限定ゲコ太ストラップ入手しましたw

MISA:!!!!!!!????????

SEKAI:MISAさん笑い過ぎw

MISA:ちょ、本当なのそれ!?

ドイメ:実は僕も先日入手したよ?

MISA:えっ、それじゃまだ入手してないの私だけ!

SEKAI:諦めたらそこでゲコ太終了ですよ

ドイメ:僕はこう見えて学園都市には顔が利くからね?

MISA:…………私も妹達に手伝ってもらって人海戦術を駆使すれば……

SEKAI:妹たち? MISAさんって妹いたの?

MISA:まぁ、ちょっとね

ドイメ:………………………。

MISA:ところで色々と変なドイメさんは兎も角、SEKAIさんはどうやって入手したの?

SEKAI:なんか家に転がり込んできた金髪少女が家賃に寄越した。まぁ大したことじゃない。

MISA:大した事あるわよ! なにその大事件。もしかして家出、それとも非行少女!?

ドイメ:少しは落ち着いたらどうだいMISA? 学園都市ではよくあることだよ?

SEKAI:そう学園都市にはよくあることだ。

MISA:まぁ学園都市だから、しょうがないか

10032号:学園都市には同じ人間が2万人いても不思議はないですよ、とミサ……もとい10032号は真実を告げます。

MISA:ってあんた何でこんな場所にいるのよ!

SEKAI:あれ、知り合い? なんか前に来た人なんだけど……。

10032号:さてなんのことでしょう、と10032号はお姉さま相手にしらばっくれます。

SEKAI:まさかの妹登場w

MISA:ごめん。ちょっと用事が出来たわ。

  MISAさんが退室しました

10032号:これはピンチです、と10032号は逃亡を図ります

  10032号さんが退室しました

SEKAI:なんか複雑そうな家庭ですね……

ドイメ:彼女達にも色々あるんだよ?

SEKAI:と……こっちもなんか同居人が騒がしいので少し失礼しますね。

  SEKAIさんが退室しました



「で、なんだよ?」

 現実に帰還を果たしたレイビーは多少、不機嫌そうに応じる。
 対してフレンダは……満面の笑顔だ。

「ふふふふっ、これを見る訳よ!」

 バンっとフレンダが指さしたのはテーブルに並ぶ食器類。正確には食器の上にある料理達。
 こいつ料理出来たのか? という当たり前すぎるツッコミはさておき、変なアニメとかに出てくる珍妙奇天烈な料理ではなく普通の料理が食卓に並んでいた。
 白いご飯、鯖の味噌煮、鯖の竜田揚げ、鯖のトマト煮、鯖の南蛮漬け…etc…………。

(あれ、鯖ばっか?)

「というかなんで……」

「好きなごはんが食べたかったってのもあるけど、結局、何もしないとご飯は別料金とか言われそうだったし」

「俺はそこまで冷酷じゃ…………いや、いいなそれ。そうしよう。お前のお蔭で思いついた。今から食費は別料金ということに」

「藪蛇!?」

「冗談……だ」

 悔しい事に、その鯖料理は鯖しかない癖にサバサバに美味しかった。
 そして流石に食費別料金というのは止めようと、決めた。



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