とある魔術の未元物質
SCHOOL52 ケロ ケロ ケロ
―――信頼はたいへん高価な財産。簡単に購入できるものではない。
一度失った信頼を取り戻すのは非常に難しい。常日頃から嘘を吐いている者はいざ本当の事を言っても信じられないだろう。重大な犯罪を犯した人間が出所しても疑われ警戒され続けるのも同じ。信頼とは時として宝石にも勝るほどの輝かしい価値を持つことがあるのだ。
「ぅ…ぁ」
長点上機学園の生徒であるLEVEL4の『上位次元』レイビーは目ざまし時計の喧しい音で目を覚ました。
カーテンの隙間から眩い光が照らしている。今日の天気はどうやら快晴のようである。絶好の洗濯日和といえるだろう。
「あっ、遅いお目覚めね」
起きて早々、見慣れぬ金髪に声を掛けられた。
思い出せない。確かこいつは、
「…………ベジータ、だったか?」
「私はアイテム人の王子――――――――じゃない!」
「すまん。ナッパだったか」
「余計嫌よ!」
「じゃラッパだ」
「もう人じゃないし! というか最初のベジータからして合ってる文字一つもないしね!」
「ああ、思い出したよ今度こそ。フレ――――――」
「そうそう私はフレン」
「フレメアだったな」
「何処で私の妹の名前知ったのよ!?」
「そんな事より……」
「流した!?」
「うーん。なんだったか」
フレメアもといフレンダとの一連のやり取りで漸く頭がしっかりしてきた。
精々一泊したら出てくと思っていたレイビーの予想とは裏腹に、フレンダは三日ほどこの家に滞在していたが特に問題は起きてない。
フレンダという少女はいい加減そうな見た目とは裏腹に最低限の家事は出来たので、余り迷惑と思う事もなかった。
寧ろ不名誉なことに『生活無能力者』の烙印を押されつつレイビーからしたら、かなり助かっているといっていい。その証拠に今まで溜まりに溜まっていた洗濯物や、滅茶苦茶な冷蔵庫、コンビニ弁当ライフなどからこの三日間は解放されていた。
顔洗って歯を磨くと食卓につく。
何故か初日にフレンダが晩飯を作ってから、昼食以外はフレンダが作る事になっていた。
目玉焼き、トースト、サラダ。朝のメニューとしては妥当な所だろう。レイビーは朝食を抜き易い性質なので、朝から脂っこいものは苦手なのである。
「醤油」
「はい」
フレンダが差し出した醤油を目玉焼きにぶっかける。
やはり目玉焼きには醤油だ。異論は認めない。
「そういえば、お前、何時まで家にいる気だ?」
「なによ突然」
「そりゃ限定ゲコ太ストラップを貰ったから今直ぐ追い出したりはしないさ。家事方面でも助かってるし。だけどまさかずっと家に泊まる訳にもいかないだろ。どうして見ず知らずの男の家に転がり込んだかは知らないけど、これも一時的な処置だろ」
「うう〜ん。私としても出来ればゴタゴタを終わらせてセレブライフに戻りたいんだけど…………結局、このまま何もせず戻ったら私の命が危ない訳よ」
「命ってお前は何者だよおい」
「教えてほしい?」
「……やめとく」
ただなんとなく予想はつく。
前にスーツケースを取り返しに来た白翼の超能力者。
名前も知らないし能力の詳細も良く分からなかったが、それでも普通の人間ではないのは間違いない。このフレンダも、あのメルヘン野郎と似たようなかんじなのかもしれない。
学園都市でそれなりに高い位置にいると、なんとなく学園都市の裏側にある何かを感じるのだ。血腥い、近寄ってはいけない何かの存在を。
「それより今日はどうするの?」
フレンダが尋ねてくる。
今日は日曜日、学園都市の学校も休みだ。
部活とか委員会とかに所属していない学生は、数少ない休日を謳歌していることだろう。
レイビー自身、特に部活に所属している訳でもないし、誰かと遊びに行く予定もないので今日一日暇だ。これで風紀委員にでも所属していれば年中無休で忙しかったろうが、レイビーはそんな慈善活動に精を出すような見上げた精神の持ち主ではなかった。
「そうだな……」
何気なくケータイを見ると、メールが六件。
順々に開いていくが、そのうちの五件は学友からの何でもないもの。そして最後の一つは、
「『ハンディアンテナサービス』だって?」
電話会社からのメールを開くと先ずそんな単語が目に入った。
なんでも個人個人のケータイ電話がそのままアンテナになるというサービスらしい。だがレイビーはそんな事はどうでもよかった。重要なのは唯一つ、
「今ならペア契約したら『ラブリーミトンのゲコ太ストラップ』が貰える……だと?」
しかし問題がある。
このペア契約、ピンク色の文字で男女限定と書いてあることだ。
現在、レイビーは彼女にフラれたばかりでフリーだ。つい一か月前なら選択肢は一つだったが、今のレイビーは彼女無し。したがって候補者はいない。
いやまて。一人、候補者が、
「フレンダ」
「なによ?」
「何も言わず俺とペア契約をしろ」
「は? ペア契約って普通カップルとかでするもんじゃないの?」
「フレンダ……黙って聞いて欲しい」
「な、なによ」
「俺にはお前が必要なんだ。黙って、一緒に……来てくれ」
真剣な目でフレンダを見つめる。
するとフレンダも分かってくれたのか「しょ、しょうがないわねぇ!」と頷いてくれた。
ちなみにフレンダが顔を真っ赤にしていたのに、レイビーは遂に気付く事がなかった。
その事をレイビーは一生…………後悔する事もなくやっぱり気づかなかった。
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