とある魔術の未元物質
SCHOOL55 時間 停止
―――母の涙は子の不平を洗い去る。
男性が女性を泣かせてしまった時、やりようのない罪悪感が襲う時があるが、母親を悲しませ泣かせてしまった時ほど胸にくるものはない。母の涙は重く、そして尊い。もし母の涙を見て子が何も感じないとすれば、それは子が子として終わっているか母が親として失格なのかだ。
「これが……『世界』もとい『上位次元』だタケノコ」
完璧。全力の右ストレートは完璧に決まった。
そこいらの不良だろうと警備員だろうとモロに喰らえば一週間は飯が喉を通らなくなる一撃。タケノコがどのような能力者かは知らないが、ただの人間がこれを喰らって平気なわけがない。
レイビーはクルリと振り返ると腕を組む。
「お前は自分が殴られた事にさえ気づいていない。何が起こったのかも分かるはずがない……」
言い終わった瞬間、再び時が動き出した。
「ぐ、ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
タケノコが地面に崩れ落ちる。
表情を伺う限り、どうやら混乱しているようだ。
無理もない。何が起きたのかも分からないまま、唐突に腹に激痛が走ったのだ。それも腹痛の類ではなく殴られた痛みが。
「えっ、はっ、ほへっ????」
「行くぞ、フレンダ。片がついた」
「でも…へぇあ!? 結局、なにがどうなったんだってばよ……じゃなくて訳よ!」
パニックになってるせいか口調が可笑しくなっているフレンダ。レイビーは宥めるように、理由を教えてやる。
「俺の能力だ」
「能力って……テレポート? 一瞬でタケノコの所に移動して一瞬で殴って……でも……」
「おい」
「あ…ありのまま今起こった事を話すわ!
『私はタケノコとの決戦に挑んだと思ったら、いつの間にか倒れていた』。
な…何を言っているのかわからないと思うが、
私も何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、
そんなチャチなもんじゃあ断じてない。
結局、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった訳よ…」
フレンダがフレフレパニックしているのを華麗にスルーすると、服に着いた埃を落としポケットに手を突っ込む。…………お気に入りのガムはもうないようだ。
「ああ本当に催眠術とか超スピードとかじゃ断じてない…………しよう。断言しよう!!!」
「!」
振り向いた直後、2m50cmの筋肉の塊が突進してきた。
長年の勘でどうにかそれを躱す。
炸裂音が響き渡った。
頑強な筋肉の鎧が突進した壁は無残に抉られ、瓦礫となっている。まるでダンプカーが激突したような、そんな衝撃。もしも直撃していれば……。
(それより、)
「お前、立てた……のか?」
前にあのメルヘン野郎と戦って以来、レイビーは戦いに遊びを持ち込むのを止めていた。
だから今回も圧倒的優位にありながらも全力の右ストレートを叩き込んだのである。
「ヌルいヌルい。まるでアイスクリームのパンチみたいに甘い!!! そんなんじゃこの俺の筋肉は倒せんぞ!!!」
「こいつ……結局、国語を勉強し直したほうがいい訳よ」
「だぁほがッ!!! んなことはどうでもいい!!! ふはぁーーーーーーーーーーーーー!!!」
タケノコの筋肉が膨張していく。
まるで富士山が大噴火するように、筋肉が噴火しそうだ。
「俺の能力はLEVEL4の『最強筋肉』!!! 数多くいるLEVEL4の中で頂点にたつ能力で、いずれは最強のLEVEL5となる能力の名だ!!!」
「ならまだ最強じゃないだろ。というか……ネーミングセンスがださい」
「はははははははっ!!! 学園都市広しといえど、この俺に敵う能力者など、第七位の漢しかおらんわこん畜生!!! 第一位のモヤシや第二位の許せんイケメンなんぞ一捻りじゃこらぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「暑苦しいな、こいつ。一々そのテンションについていけない」
「筋肉こそ最強!!! さぁお前も筋肉と語りあえ!!!」
「無理だろ」
筋肉と語り合う…………筋肉単体に意思があるなんて初めて知った。
きっとタケノコは頭の中まで筋肉で出来ているのだろう。大脳も小脳も筋肉しな詰まってないに違いない。
さてどうしようかと対策に困っていると、
「いい加減、五月蠅いわけひょ!」
肝心な場面で噛んだフレンダが、やたらファンシーな人形をタケノコに放り投げた。
どうして人形を? と疑問に思ったが、それは直ぐに解消される。タケノコに当たった人形が爆発したのだ。それも大爆発。耳を指すような音が響き渡る。いきなりだったので耳がツンボになりそうだった。
「噛んだな」
「五月蠅い!」
噛んだことをツッコむと赤面して怒鳴られた。
しかし……大丈夫だろうか。あのタケノコも流石にあの爆発を受けたら…………死?
(あれ、これ不味くないか?)
あの筋肉が何者なのか分からず仕舞いだったが、能力者ということは学園都市の人間だろう。馬鹿だが人間には違いない。そして人間を連れの少女が爆殺してしまった。
レイビーから冷や汗が流れる。実行犯は自分ではないが、もしも共犯扱いされたら…………正当防衛だという事を正面出来ればいいのだが、爆殺してる時点で正当とは言い難い。最悪、懲役刑。人生真っ暗闇。
(そ、それだけはぁ!!)
「ふー、危なかったー。死ぬかと思ったぞ!!!」
良かった。
タケノコは五体満足で無事だった。だが疑問がある。
「どうして、生きてたんだ?」
「俺の筋肉の鎧が爆発如きで貫けるかァ!!! いやモロに喰らえばBIGダメージ喰らうが死にはしない。爆弾如きで死ぬなんざ軟弱者よ!!!」
「なんて出鱈目。というか無茶苦茶な訳よ」
フレンダが絶句している。しかしレイビーには逆に余裕が出てきた。
「そうか……いい事を聞いた」
タケノコの破壊した壁の向こうから、あるダンボールを見つけたので、それを手に入れるべく駆ける。
そしてダンボールの中身を確認し、それがダンボールの品欄通りだと確認して笑みを零した。
「何をする気だ、お前は!!!」
「……お前の能力。名前からして身体強化の類だろう。口振りからして爆弾も防げるとか……。成程、俺の右ストレートが通じなかったのも頷ける。となれば身体能力が人間離れしているお前を侮って近付くのは賢い者のすることではない…………そこで」
バッとダンボールから取り出した大量のナイフを見せつける。
「お前が幾ら人外の身体能力をもっていても関係のない処刑を思いついた!」
「!!!」
「青ざめたな。勘のいい貴様は悟ったようだな。さっきダンボールの中から頂いてきた。このナイフを見て先程の右ストレートより恐ろしい結末になるのを気づいたようだな!」
「その前にッ!!!」
ナイフを投擲する前に潰そうと考えたのだろう。タケノコが般若の形相で殴りかかってきた。だがもはや遅い。
「フン! 逃れることはできんッ! 貴様はチェスや将棋でいう『詰み』にはまったのだッ!」
「世界!」
時が止まり、そしてタケノコへ大量のナイフを思いっきり投擲する。
通常の時間軸ならば物理法則に従いそのままタケノコを貫く筈だったそれらは空中でピタリと停止した。これが時の停止した世界。
「だがお前はこうも考えているかもしれない。『ナイフがどうした、そんなもの俺の筋肉で弾いてやる来ん畜生が!!!』と。そこで…………ナイフと一緒に爆弾もくれてやろうッ!」
フレンダの懐からパクッた爆弾らしきものを投げつける。
だがそれだけでは終わらない。レイビーは小さくしゃがみ込むとタケノコの股間へ狙いを定める。
「金的攻撃だッ!」
タケノコは男の大事な所のピンチに何も出来ない。
何をされようとされているのか理解することもない。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ―――――――――――――――ッ!」
冷酷無比なラッシュがタケノコの股間を破壊する。
タケノコは苦悶の表情を浮かべる事もない。絶望はここから始まるのだから。
「十秒経過。そして時は動き出す」
ジョジョネタ乱舞な今回。
さて上位次元に関する事で一番多く寄せられた質問内容は「時間停止ってLEVEL5じゃね?」というものでした。これに関しては明確な設定などがあり、後に明かされるのでそれまで質問はNGでお願いします。
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