とある魔術の未元物質
SCHOOL56 タイム リミット
―――人間の運命は人間の手中にある。
その人の運命とはその人が決めるものだ。決して他人に決められるべきものではない。だが時として人は自らの運命を他者に預けてしまう時がある。そしてその他者が失敗すると非難するが、それならば最初から預けなければいいだけのことだ。
「△☆!!▽■○☆×??」
意味不明な声にならない声をあげて、タケノコが崩れ落ちる。
ナイフは筋肉の鎧に防がれ、爆弾も爆風も筋肉に弾かれたが、唯一つクリーンヒットした攻撃があったのだ。それが金的。男にとって克服しようのない永遠のウィークポイント。
「正に黄金体験」
「えっ、結局、なにがどうなったの?」
時間停止能力のことを知らないフレンダが頭の上に???マークを浮かべている。彼女からしたら目の前に相対していたタケノコが気づけば苦悶を超えた超苦悶な表情を浮かべながら崩れ落ちたのだ。疑問に思うのも当然といえば当然であろう。
「と、兎に角。さっさと逃げるぞ。このタケノコ……もしかしたら復活するかも……」
「そうもいかないんだよねー。私にも事情があるし」
「事情? こんな鉄火場にどんな事情があるっていうんだ?」
「………………知らない方が、いいよ」
一瞬――――――――寂しそうに笑うフレンダが、どこか遠い人間のように思えた。
何を馬鹿な。自分で自分の考えを振り払う。あんなお気楽で鯖好きのフレンダのどこに、そんなシリアスをする能力があるというのか。こいつに悲劇のヒロインなんて似合わない。コメディのギャグ要因で十分だ。
「ま、お蔭で色んだ問題が一挙に解決したし、お礼は言っとくわよ。ふふーん、これで麦野のおしおきも免れるしお金も入ってくるし一石二鳥♪ ニャハハハハハハハハハ」
「何を言って……」
「そうだ。用事済ませたら荷物取りに行くから。今日もお世話になったし、ほんのちょっとなら分け前も出すよ」
「……上手く理解出来ないが、今までの話を纏めると、お前の目的はそこで転がってるタケノコで、そいつをどうにかすれば金も手に入るし麦野ってやつからおしおきもされないと」
「おぉ、流石は高位能力者。頭もいいわね。そういう事だから、今日までありがとね」
「………………………」
レイビーはほんの少し、ほんの僅かだが学園都市に潜む闇の存在に触れた事がある。本当に少しだけなので具体的にどのような深さなのか、どの程度の暗さなのかも分からなかったが、べらぼうに凄い闇があるということだけは理解している。同時に経験則で熟知していた。そういった闇に関われば抜け出せなくなると言うことを。
訂正しよう。
フレンダはただの馬鹿でもコメディのギャグ要因でもない。
レイビーという光の住人とは別の世界にいて、そこでこういう風な戦いを何度も何度もしているのだろう。このタケノコにしても、一体自分が去った後フレンダがどうするのか。笑いながら料理を作っていたその腕を今度はどういう風に使うのか。当たり前のように所持していた爆弾から推察するのは難しいことではない。
「分かった。じゃあな、フレンダ」
「うん、ばいばい」
だから、これで終わり。
元々住む世界が違うのだ。国や場所の違いではなく、生き方の違いというべきか。レイビーは光を選びフレンダは闇を選んだ。或いはフレンダの場合、選ばざるを得なかったのかもしれないが、そこまでは知らない。
ここで別れればレイビーは元の日常に戻れるだろう。LEVEL4のエリートとして将来が約束された、素敵な人世。相応の苦労や努力も必要だろうが、命の危険とは無縁の平和な生活。最高の人生。
「――――――――――――――――――」
この数日間がフラッシュバックされる。
初めて家に来たフレンダ。最初は言い争いから始まり、ベッドの所有権でのいざこざもあった。ネットに没頭していたら飯が用意されていて、それがわりと美味かった。次の日、朝食が鯖尽くし夜も鯖、その次の日も鯖で喧嘩になり、それがちょっと続いて……日常になった。
「そうだ。ペア契約でお前の携帯に俺のメルアドとか入ってるから、何か超重要な要件があれば連絡しろや。ゲコ太の借りもあるから、一度くらいは火の中水の中スカートの中、駆けつけてやるよ」
何気ない、言葉の筈だった。
だというのに今の彼は気づかない。
この不用意な一言が、彼の人生を変える事を。
そしてフレンダという少女が―――――――――――――――
レイビーが去った後、フレンダはしめしめとタケノコに駆け寄る。
どうやら生きてはいるようだ。うわ言のように金は玉はやめてぇー、とか呟いていたが生死に別状はないと思う。
「結局、万事が上手く言った訳よ! さーて帰って麦野達に華麗なる勝利報告しないと! 時間が掛かったのは…………適当に誤魔化せばいいや」
「ふーん。そんなんで誤魔化せると思ってるのかにゃーん?」
「そんなもんチョロイのチョイな訳よ! さぁ今すぐかえっ……て……報……って」
「久しぶり、フレンダ」
この女性を知っている。フレンダは知っている。
長い茶髪を掻き上げながらサディスティックな笑みを浮かべる女性。
暗部組織『アイテム』のリーダー。LEVEL5の第四位『原子崩し』。
「むむむむっ麦野ォー!」
「熱々だったわねぇ、フレンダ。まさか、あんたが仕事放り出して男漁って遊んでんなんてね。流石に驚いたわ」
「い、何時からそこに!?」
「最ッ初から。より正確に言うならアンタがあの男のとこに転がり込んだのも全部知ってるわよ」
「そんな……。まさか滝壺が!?」
「馬鹿ね。アンタ程度を探すのに滝壺を消耗させる訳ないでしょうが。体晶って体力使うし過剰摂取は体に毒なのよ」
アンタ程度扱いされたことにショックを受けながらも、フレンダには疑問が浮かぶ。
最初から知っていたというならどうして、
「麦野。てっきり私に御仕置きするものだと」
「そのつもりだったんだけどね。でもなんかフレンダが馬鹿みたいな行動し始めてから……放置したわ。まさかアンタが私を恐れて男の家に転がり込むだなんて…………あれは笑ったわ。ふふふふっ」
ニヤニヤと笑う麦野。
明らかに愉しんでいる。
「酷い。知ってるなら、助けてくれても」
「あァ?」
「ごめんなさい」
恐い形相で睨まれたので言うのを止める。
フレンダもLEVEL5の麦野を怒らしたらどういう風になるのか分かっている。麦野をキレさせるなんて特大の死亡フラグだ。
「アンタの珍行動には滝壺や絹旗も笑ってたわね」
「酷っ!? アイテムに私の味方はいないの!?」
「いないんじゃない」
「ガーン」
麦野どころか他二人にまで今日までの行動を笑われてたと思うと、流石のフレンダも羞恥心で顔が真っ赤になる。でも確かに、見ず知らずの男の家に転がり込むだなんて、どこの家出少女だ。
「なんにしても仕事お疲れ様。一応、仕事は一人でやり遂げたし、お仕置きは勘弁してあげるわ」
麦野がフレンダの頭をくしゃくしゃと撫でる。
それを心地よさそうに受けると、目を瞑る。
今は……これでいい。少なくともフレンダにとって『アイテム』は仲の良い友達集団なのだから。
『アイテム』にとっても『上位次元』にとってもフレンダにとっても、そして垣根帝督にとっても。
――――――――――運命の10月9日まで約一か月。
■スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキー
身長260cm/体重330kg
特技:筋肉と対話すること
好きな物:筋肉、プロテイン、ジム
嫌いな物:イケメン、リア充、モヤシ
天敵:一方通行、垣根帝督
『詳細』
名前が無駄に長いため上位次元ことレイビーにつけられた仇名はタケノコ。由来は頭の形がタケノコに見えるから。筋肉をこよなく愛し、恐らく学園都市で一番筋肉な馬鹿男、それがタケノコ。天敵が一方通行と垣根なのはルックスがイケメンだから。嫌いな者がリア充であり今まで彼女が出来た試がないが、本人は少女マンガを読んでドキドキしたりする夢見る筋肉である。ちなみに本作で一番デカい。アックアがモヤシに思えるくらいのデカさ。具体的に言うと、Fateのヘラクレスよりもデカい。身長は驚きの260cm。巨人症などの症状もなく至って健康だというのだから笑えない。というよりガチでギネス記録を越してる。
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