とある魔術の未元物質
お待たせしました!
漸く垣根のターンです! というより此処からはずっと垣根のターン!
SCHOOL57 盗み 聞いた 野心
―――鵜のまねをするカラス
生き物にはそれぞれに適した分というものがある。能力者にしても発火能力者が発電能力者の真似をしたところで、電撃を出す事が出来るようになるわけがないし、壁を走る人間の真似をして壁を蹴ってもふつう壁を走れる訳がない。真似をするのは真似を出来る人間にするべきだ。真似できない人間を幾ら真似しても全く意味はない。
そして舞台は再びイタリアへと戻る。
禁書目録の首輪。
それの破壊の為、旅を続けていた垣根達はイタリアで羽を休めていた。
学園都市とイタリア、正確にはローマ成教はそれほど仲が宜しくない。リドヴィア曰く、特に最近はローマ成教と学園都市との間で非公式の抗争のようなものがあったらしく、更に関係は悪化しているらしかった。
そんな場所だからこそ、学園都市もイタリアに潜伏する垣根には手を出しにくい。世界に争いが起こる兆候があれば、実際に起きる前に手を回すのが学園都市のやり方であり、実際に表舞台で戦争をするのは学園都市の常道ではない。そもそも幾ら学園都市の技術力が凄まじいとはいえど、学園都市を一つの国として見た場合、総人口は230万人。表だって学生である子供を戦場に投入する訳にもいかないから、実際に戦えるのは更に少なくなるだろう。
対してローマ成教は全信徒20億人。もし全力をもって学園都市を潰しに掛かれば、ローマ成教の勢力圏の国々が一斉に学園都市に牙を剥くだろう。だがそれだけならまだ学園都市の技術力をもってすれば対処できるかもしれないが、これにローマ成教の抱える魔術師が投入されれば。勝負は火を見るより明らかだろう。ローマ成教としても今まで隠し続けてきた魔術というオカルトを、衆目の目に晒す事を良しとするとは思えないが、だからといって追い詰められた巨象が何をするかは分からない。本当に不味いと思えばローマ成教は最悪の切り札を使う事を躊躇しないだろう。
故に、学園都市も下手にローマ成教の領地で暴れて、関係をさらに悪化させるのは望んではいない筈だ。幾ら学園都市側が暗部の抱えたLEVEL5などを投入してきても、ローマ成教にはLEVEL5を超える聖人がいるのだ。その聖人と互角に戦えそうな二人のLEVEL5にしても、一人は離反しているしもう一人は脳にダメージを負って全力が発揮出来ないときている。
長くなったが、取り敢えず今のところ、ローマ成教のお膝元に滞在している垣根達は平和を取り戻していた。
垣根帝督の朝は早い。
起きて早々、飯をたかってくるインデックスに『一時間で食べれば50ユーロ』というピザがある店を教えておく。その店は破産するかもしれないが、台風が来たとでも思って諦めて貰う。
顔を洗い歯を磨き、イケメルヘンらしく髪型をセットするのに時間をかけた垣根は、インデックスと違い慎ましい朝食であるサンドイッチをパクつくとリドヴィアやオリアナに貰った魔術書を読みふける。アッパッパーなリドヴィアも、色気丸出しのオリアナもあれで優秀な魔術師らしく、その二人が選んでくれた魔術書も相当だった。
メモ帳にルーンや術式を書きながら、読み耽っていくと気になる事項を見つける。『クロウリーの記憶術式』。どこかで聞いた事のある名前に興味をひかれた垣根は更にその個所を重点的に読んでいく。すると見つかるわ見つかるわのクロウリー関連の魔術。
「…………おいおい。まさか、な」
垣根の頬から汗が流れ落ちる。
肩も気付けば震えていた。カーテンから差し込む太陽の光が、妙に現実感がない。
クロウリーに関する事はもう残ってはいなかった。当然である。これは数多ある術式を纏めた書物であり、クロウリー関連の書物ではない。
「嫌な予感がしやがる」
調べてみるか。
そう思ったら行動は早い。
垣根の止まっているホテルのロビーには、パソコンが設置されている。自室の部屋から出て一階に降りた垣根は、直ぐにパソコンを起動させた。
インターネットを開き、打ち込むのは「Crowley」という名前。
一秒もせず結果が出た。
頭に上がっているのはやはり天下のWIKIPE○IA。しかも出てる名前というのが、
「アレイスター=クロウリー。まさかこんな所でご尊名を拝見するとは思わなかったぜ。学園都市統括理事長様よ」
一体どういうことだ。
科学サイドの頂点。統括理事長の名前が実在した魔術師と同姓同名。ただの偶然か、それとも肖ったのか、或いは――――本物か。
垣根はネットの海へと潜り、情報を入手していく。アレイスター=クロウリーという魔術師は表の世界でも有名人らしく、かなりの情報が公開されていた。
『法の書』『魔法名』『黄金の夜明け団』など多くの単語が目につく。そして更に情報へもぐったところで、
「…………はっ、ははははははははははははッ!」
突然笑い出した垣根にホテルの従業員や客が奇異の視線を向けるが、そんなものは気にならなかった。ただ垣根の眼球にはただの一つの固有名詞が焼き付いていて離れない。
――――――クロウリーに知識を与えた聖守護天使『エイワス』
繋がった。
あの時、インデックスを救う為に「ロシアに行け」と言った黄金の怪物。それも間違いなくエイワスと名乗っていた。
偶然だろうか? 違う。それにしてはエイワスという存在は出鱈目過ぎたし、少なくともまともな生命体とは思えなかった。聖守護天使や異星人とでも言われた方がまだ真実味がある。
(これが本当なら……だが証拠がねえ。あの糞アレイスターの野郎が本当に肖っているだけって可能性も捨てきれねえ)
もっと良く調べなければ結論は出ないだろう。
一番の証拠であるエイワスにしても、それを証明するのは垣根の証言しかない。
(リドヴィア達にでも聞いてみるか)
そう思ったらやはり垣根の行動は迅速だ。
直ぐに準備をするとオリアナとリドヴィアがよくいる喫茶店へと向かう。
(お、いたいた…)
なにやらオリアナとリドヴィアは熱心そうに話し合っていた。
普段ならリドヴィアが熱弁かましてオリアナがそれをシャットダウンしているのが常なのだが、今日は本当の本当に話し合いをしているようだ。どうやらリドヴィアも勧誘ばっかりしている訳じゃないらしい。垣根も何度か洗礼を受けてローマ成教の一員になることを熱心に勧められた。
まぁ垣根自身、リドヴィアがあんまり熱心に勧誘するのでインデックスの首輪なんかが解決したら、ローマ成教に入るのも良いかもしれないな、と考えていた。学園都市の追っ手対策もあるし、どこかの組織に腰を下ろすのはそう悪い事じゃない。それがローマ成教のような巨大組織なら猶更だ。
「それで使徒十字は用意できたの? あれ一応ローマ成教の『聖霊十式』の一つでしょう?」
「問題ありませんので。使徒十字は既に私の手に。色々条件が面倒ですが、これを学園都市にて発動させることで、科学サイドはローマ成教の支配下になり平和が訪れますので」
「帝督の坊やにはばれない様にしなきゃね。彼、一応学園都市の人だし」
「…………俺、ここにいるけど?」
リドヴィアとオリアナが固まった。
首をぎぎっと動かし、垣根の顔を確認すると顔面が蒼白になる。というかリドヴィアの顔が大変なことになってる。まるでゴム人間と相対した我は雷な神様みたいだ。
「……………………アンビリーバボー」
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