とある魔術の未元物質
SCHOOL61 過去からの 刺客
―――努力。
努力は必ず報われる、と言う法則は残念ながらこの世には存在しない。努力しても願いが成就できない事はある。学園都市だとそれが顕著だ。才能がない人間はどうやったってLEVEL5にはなれないし、強度も中々上がらない。しかし完全に努力が無駄だとは、信じたくはないものだ。
『第一種目、棒倒し 各校の入場です』
大覇星祭の会場はデカい。
その観客席で垣根は大きく欠伸をした。
「よくもまぁ、雑魚のぶつかり合いにこうも盛り上がるもんだ」
「このホットドック、美味しい」
入場してくる学生を退屈そうに見ながら、垣根は髪を掻き上げる。
インデックスは毎度のことながら美味そうにホットドックを食べていた。
「ていうか…………燃えてんな、あの、なんとかって学校の参加者」
その学校は学園都市でもランクの低い学校で、大した能力者はいなかった筈だ。対する相手校は高位能力者も多くいる学校で、冷静に判断すればあの大柄の青い髪の男やツンツン頭のいる学校は圧倒的不利なはずだ。
だがそんな不利な筈の高校の参加者達は燃え上がっていた。比喩表現だが、まるで本当に全身が燃えているような気迫と根性を感じさせている。どこぞの第七位が見れば感動しそうな光景だ。
「あ、あのツンツン頭」
「見覚えがあんのか?」
インデックスがこの学園都市にいた時間は多くはない。
そのうちの半分は記憶を失っているし、残りの半分はアイテムの襲撃などで忙しかったので、インデックスが誰かと面識を持ったとは考えずらいのだが。
「うん。前にシェイクを食べたところでぶつかっちゃったんだよ!」
「それだけか?」
「そうだよ」
「何でそんなゴミみてえな記憶…………ってそうだったな。テメエは忘れねえんだった」
完全記憶能力のことを思い出し、垣根は納得したように頷く。
「ところで、ていとく……もとい、かきたろう」
「なんだよ? てか、完全記憶能力どこいった?」
「これは記憶というよりは癖みたいなものだからね。頭では覚えてても、つい口にでちゃうんだよ!」
「ふーん。で、なんだ?」
「どっちが勝つと思う?」
「順当に考えりゃ高位能力者のいる方が勝つだろうな。ただLEVEL5クラスはいねえだろうし、LEVEL4クラスなら無能力者でもどうにか出来るかもしれねえな」
尤も、垣根のような怪物があの中に混ざっていたら三秒で決着がつくだろう。
余りにも個人としての力が優れ過ぎているが故に、垣根と互角に戦える相手は限られている。もし垣根を殺したければ、あのアックアのような化け物や第一位を用意するしかないだろう。
「さて、こんな下らねえ飯事、何時まで見てたって仕方ねえ。行くぞ、インデックス」
「でも競技が終わって……」
「たこ焼き買ってやるから行くぞ」
「了解なんだよ!」
最近、インデックスの取り扱い方が分かってきた垣根は、たこ焼きで釣ることに成功した。
ヒロインに対する扱いとはいえないが、インデックスの暴飲暴食は彼の騎士王にも勝る勢いなので仕方ないといえば仕方ない。
垣根とインデックスは賑やかに会話しながら、競技場を去っていく。
まるで……仲の良いカップルのように。
だがここで一つの仮定をしてみる。
もしも垣根がここで最後まで競技を見ていれば、上条当麻という少年が能力を右手で掻き消す光景を目撃できたかもしれない。それを不思議に思った垣根が、上条当麻について調べる事があったかもしれない。そしてインデックスが救えたかもしれない。
歴史にIFはない以上、この仮定は無意味だ。
幻想ではなく現実として。
上条当麻と垣根帝督。二人の物語は再び擦れ違った。
垣根帝督とインデックスは大覇星祭で賑わう通りから、裏通りに入っていく。
途中、性質の悪いスキルアウトが絡んで来ようとしたが、一秒で潰した。
「ここだ」
裏通りを抜けると、漸くある場所に辿り着いた。
標識にある名は『木島脳科学研究所』。
表向きは単なる研究所だが、垣根が暗部時代に知った情報だと例の木原一族も関わっている人体実験を平然とやるような研究所だ。
「ここに脳の情報があるの?」
「そうだ。が、テメエは外で待ってろ」
「な、なんで!?」
「なんでもだ。大体、テメエに脳科学のなんたるかが分かるってのか? 携帯も満足には使えねえようなお前が、科学の塊の脳味噌が理解できんのかよ、おい」
「むっ。これでも『め〜る』っていうのを送る事に成功したんだよ」
「一度程度で何言ってんだ。兎に角、待ってろ。さもねえと飯抜くぞ」
「酷いっ! おーぼー、横暴なんだよ!」
「どうとでも言え」
インデックスには話していないが、この研究所は人体実験、生きたまま人間を解剖するなんて事を平然とやる所だ。当然ながらグロテスクな死体や人間の脳味噌なんてものが腐るほど転がっているだろう。或いは死体遺棄所もあるかもしれない。
純粋過ぎるインデックスには、やや刺激の強すぎる光景だ。
黙って垣根は歩を進める。
インデックスはぶーぶー文句を言ったが、飯抜きという楔が効いているらしく一緒に入ってきたりはしなかった。
難しい仕事じゃない。
垣根が今までこなしてきた仕事に比べれば、余りにも簡単な仕事だ。
もしかしたら迎撃してくる連中もいるかもしれないが、銃弾や徹甲弾が降ってこようと垣根を倒す事は出来ないし、科学じゃインデックスの『歩く教会』は突破できないのだ。
だというのに、こうもイレギュラーは垣根の前に現れる。
「よぅ、一か月ぶりじゃあないか」
「テメェ……」
垣根はその男に見覚えがあった。
前にハイジャックの時に交戦した、世界に五十人といない『原石』の一人。
「生きてやがったのか?」
「御久しぶり、垣根帝督。俺は劉白起、お前を殺しちゃう依頼を受けたもんだ」
上条さんが地味に久しぶりの登場ですw
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