とある魔術の未元物質
SCHOOL73 三 者 三 様
―――良書は人類の不滅の精神である。
人は書物から多くの事を学びえることが出来るのだ。知識と書物、文化と文字は切っては放せない。文化なき民族が文化的民族を侵略し支配したとしても、次に訪れるであろうことは文化的民族による文化なき民族の文化的支配だ。それは歴史が証明している。
最初は簡単な仕事だと思っていた。
第一位の一方通行が何でだか脳にダメージを負った以上、もはや学園都市に垣根を超える能力者はいない。強いて懸念事項をあげるのなら『エイワス』という謎の生命体だが、あれは余りにも出鱈目で想定のしようがないので置いておく。
「アックア……またインデックスを奪いにきやがったか?」
「違うのである。あくまでも私はヴェントのバックアップ。本来ならば私がこうして前線に来る予定はなく、禁書目録についても既にターゲットより外れている」
「……………てことは、テメエの所属してやがる組織が、この街で妙なこと企んでるってことか」
ヴェントの言葉をそのまま信じるのなら、この街に来た目的は『上条当麻』――――名前からして男性らしいが、それがどのような人物なのかは垣根も知らない。アックア程の魔術師が狙うのであれば相当の者なのだろうが、暗部組織のリーダーである垣根帝督ですらその名前は聞いた事が無かった。
前にもこんな事があったのを思い出す。
大覇星祭で学園都市に侵入した際、あの研究所にあったデータ。一方通行が無能力者に撃破されたという情報はあったが肝心のその無能力者の詳細は全くといっていいほど記載されていなかった。
(まさか『上条当麻』っていうのは……一方通行を倒した無能力者?)
そんな出来過ぎた事が有り得るのだろうか。
科学サイドの最強を倒しただけでなく魔術サイドの最強クラスに狙われる。そんな科学サイドと魔術サイドの奥深くに関わるなどというのが。
「一つ聞かせろ、上条当麻ってのは何者だ?」
「教える必要はないのであるっ!」
「ならっ」
白翼が具現化した。
巨大な翼は正に天使のもの。未元物質という天上の理。これをもってアックアを打倒する。
「強引に口を割らせるだけだ」
ロシアでの戦いでアックアの戦闘パターンは知っている。
遠距離・中距離・近距離、全てにおいて最強クラスの怪物。空に退避しても水の魔術で足場を作り追いかけてくる。死角のない最強。
中でも近距離においては超人といってよく、その距離だと垣根に勝機はない。
ベターな作戦としては遠距離戦を挑むべきなのだろうが、それではロシアの繰り返しだ。あの時にはなかった技術、なかった術で戦うべきだ。
「インデックス、分かってんな」
「うん!」
超能力と魔術を融合させた新たなる異能。
原石と聖人のハイブリットすら対応出来ない程のイレギュラー。アックアに勝つには、
「これしかねえ!」
魔術を詠唱する。
しかし――――詠唱する時間をアックアは与えてはくれなかった。
「させん!」
滑るような高速移動。
垣根は白翼の逆噴射で高速を超えた瞬速で躱すが、それは明らかな失策だった。アックアの目的は垣根帝督ではなかったのである。もう一人、知識はあれど戦闘力はないインデックス。最強の傭兵が無防備のクイーンを狙った。
しかし垣根に不安はない。
「ハッ、馬鹿野郎が。インデックスの『歩く教会』をなめてんじゃねえ。テメエの攻撃なんざ」
「攻撃は効かん、が」
「は、放して!」
アックアのデカい右手がインデックスの首を掴んだ。『歩く教会』のお蔭で痛みはないだろうが、敵に触れられるというのは不快感なのかジタバタした。しかしアックアもインデックスのような小柄な人間が暴れたくらいで手をはなすほど甘い男じゃない。
そのままアックアは、渾身でインデックスを虚空の彼方へと放り投げた。
「ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁ……ぁぁ―――――――――ぁぁぁぁ」
まるでベーブルースの特大ホームランのようだ。
綺麗なアーチを描きながら、インデックスはキラリと輝き学園都市のどこかへ消えていった。
「マジかよ」
流石に呆然となった。
『歩く教会』があるから転落死なんてことにはならないだろうが、それでもインデックスはどこかへ文字通り飛んで行ってしまった。
件の上条当麻はといえば、昼に出会った少女『打ち止め』に泣きながら懇願され、また変な事件へと巻き込まれていた。
地下街の出入り口近くで上条は訝しげな視線を向ける。
この時間にしては静かすぎる程静かな街並み。いやそれは語弊がある。少なくとも人間はいた。ただし意識を失い武装した集団が、なのであるが。
合成素材の装甲服、サブマシンガン、覆面。どう考えても一般人ではない。かといって学園都市の警察のようなものである警備員とも違うような気がする。
軍事的知識にそれほど聡い訳でもない上条には具体的に警備員の武装や装甲服とどこがどういう風に違うという事を答える事は出来ないが、なんとなく雰囲気が治安維持が目的の警備員と異なっているのだ。これは寧ろあのステイル=マグヌスなどが纏った雰囲気に近い。つまり治安という守勢ではなく、暗殺や粛清という攻勢、軍隊。
「この人達に襲われたの、ってミサカはミサカは本当の事を言ってみる」
状況が掴めない。
尤もこれは仕方のないことでもある。そもそも上条はこういった荒事の対処する為の訓練を受けたエージェントでもプロフェッショナルでもない。
ただ『幻想殺し』という特殊な右手を持つだけの学生だ。土壇場で妙な機転が利くという所はあるが、特別頭が良い訳ではない。能力抜きにしても赤点スレスレ低空飛行、補修の常習犯だ。
それでも上条が他の人間と違う所があるというのなら、助けを求められたら何だかんだで助けようと思ってしまうお人好しなことくらいだろう。
「ここで襲われてたのって、お前の知り合いなんだろ?」
「そうだよ、ってミサカはミサカは答えてみたり」
「これって、そいつが返り討ちにしたって事なのか……?」
「それはないかも、ってミサカはミサカは首を横に振ってみる。あの人は気が短くてケンカっ早いから、あれだけやられたのに仕返しがこれっぽっちだなんて考えられないもん、ってミサカはミサカは簡単に推測してみたり」
上条当麻は知る由もない。
打ち止めの言うあの人が、まさか自分が8月21日に倒したLEVEL5『一方通行』などということは。それを知るのはもう少し後の話だ。
第七学区の小さな公園で、一方通行は襲ってきた『猟犬部隊』から奪い取ったワゴンから降りる。ついでに脅迫して強引に運転手に仕立て上げた『猟犬部隊』の男を引き摺り下ろした。
車の後部座席にあったバッグを引っ張り出し、中を開ける。
『猟犬部隊』の予備武装だろう。物騒な武器の数々がバッグ一杯に詰め込まれていた。一方通行はその中から一番手頃なショットガンを引っ張り出す。
「やっぱ、このショットガンだなァ」
武装としての性能ではない。
あくまでも戦闘中失ってしまった松葉杖の代わりになればいいのだ。手榴弾やバズーカだとその役目を全うすることは出来ないだろうからの選択だった。
(体重で銃身が曲がっちまうかもしンねェが、まァコイツは撃つためのモンじゃねェ。あくまでも歩く補助になりゃァそれで良い)
そんな風に考えている時だった。
空から彗星のごとく落下してきた白い物体が、公園の滑り台に墜落した。
「……木原くンの妨害、には見えねェなァ」
木原数多が超長距離から一方通行を狙うとは考えずらい。寧ろ接近戦を挑み、あの反射対策を使ってくるはずだ。
しかし気にはなる。
土煙を払い、粉砕した滑り台を覗き込んでみる。
「いたたたたっ……痛くはないや。でもこんな距離を投げ飛ばされるのは恐かったんだよ……」
「はァ?」
学園都市最強の怪物は頭を掻いた。
木原数多と交戦し、真面目に殺し合いをやっていたら空から白いシスターが墜落してくるなんて、これはどんな脚本だ。
「あっ! そこの白い人、ていとく何処にいるか知らない?」
「テメェにだけは白い人呼ばわりされる筋合いはねェよ。つゥか提督ってなンだよ。米国だかの軍人でも来日してやがンのかァ?」
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