とある魔術の未元物質
SCHOOL87 多 重 能 力
―――多くをするのは易しいが、一事を永続するのは難しい。
多種多芸の人間というのはわりかし多くいるものだ。ほんの少しの才能と熱意があれば、一つの分野でそこそこのアマチュアになるのは難しい事ではない。しかし一つの道で真のプロフェッショナルになるのには膨大な時間と才能と情熱が必要だ。
ガチャっと一斉に垣根に無数の銃口が突きつけられる。観察するとリーダー格の男が一人、兵士達の後方にいた。恐らくあのリーダー格が一言「撃て」と言った瞬間、あれらの銃口は同時に火を噴くだろう。キャパシティダウンは能力者にしか効果はない。ただの人間にはただの騒音にしか聞こえない為、覆面をつけた暗部の兵士達には何の効果もないだろう。
対して超能力者である垣根は『未元物質』を発動させる事すら出来ない。『アイテム』の時のキャパシティダウンは正確な照準もつけられず出力もかなり下がったが行使する事自体は出来た。どうやら学園都市の技術力は日々進歩しているらしい。
(ざっと百人って所だな)
『…垣根少年、どうして君が「オジギソウ」を無力化したのかは知らないが、それも終わりのようだ。その倉庫の地下に設置されている装置でキャパシティダウンが正常に稼働していることも、君が超能力を全く使用できない事も調べはついた! どうするね? 先程の面白い手品のタネを明かすのなら、命だけは助けてやってもいいが』
博士は垣根の行使した力に興味があるのだろう。もしかしたら魔術の事に勘付いているのかもしれない。長い年月を生きたという事は、そこいらの餓鬼より遥かに知識を溜めこんでいるだろうから、魔術について知っていても不思議ではない。
しかし垣根にはわざわざ敵に自分の手札を晒すような性癖はなかった。
「どうも言語ってのが理解できねえと見える。大層な脳味噌で考えて見りゃどうだ、そう言ったぜ俺は。開始十分も経たずにお手上げとは…………テメエ、頭悪いだろ」
『交渉は決裂のようだ』
「鼻からテメエと交渉していた気はねえ。勘違いして偉ぶってんじゃねえよ認知症」
『……………………ふっ』
博士が兵士達に合図をする。リーダー格の兵士が一度腕を上げ、そして振り落す。同時、銃口が一斉に火を噴いた。学園都市の科学力で生まれた、戦車の装甲すら破壊するような出鱈目な破壊力を持つ弾丸が複数。垣根はただポケットに両手をツッコんだまま微動だにしない。博士や兵士達が勝利を確信する。だがそれに水を差すがごとく、地面から巨大な岩の壁が盛り上がり、銃弾を全て弾いてしまった。
ざわっ、と兵士達の同時に緊張が奔る。「まさか多重能力者?」とか「キャパシティダウンはしっかり作動しているのか」などの言葉が端々から洩れていた。
『ええぃ、何を躊躇っている! 一度で殺せなかったからと言って止めるな! 何度でも殺せ!』
博士の怒号が飛んだ。リーダー格の男が電流が奔ったように頷く。
「りょ、了解! 相手は一人だ、撃って撃て撃てェ!」
「何度やっても無駄だと思うがな。銃弾だって無料じゃねえんだろうが。それとウゼェ、一々観察してんじゃねーよ」
壁が割れ、その破片が液晶モニターを割った。兵士達は指示を出していた博士の顔が消えた事には動じず、更に発砲を繰り返した。ただそれも、あっさりと垣根の前に顕現した岩の壁により阻まれる。
「糞っ! 能力は使えねんじゃなかったのかよ!」
兵士の一人がそう言った。
「油断大敵ってやつだ、兵士諸君」
相変わらず垣根はポケットに手を突っ込んだまま余裕な表情を崩さない。やがて防戦に飽きたのか、垣根が遂に攻撃へ転じた。虚空より炎が現れ、それが兵士達の一隊を切り崩す。防炎対策などしていなかった兵士に防ぐ術はなかった。
「発火能力者ッ!?」
「予想通りの反応ありがとう、次はこいつだ」
にやりと笑った垣根は大量の水の剣と、炎の槍を同時に出現させる。余りの異常事態に兵士達の動きが停止するが、思考回復を垣根は待たない。炎槍と水剣が同時に飛び、二十ほどの兵士を撃破してしまう。五人の兵士が錯乱気に銃を乱射するが、見えない壁に阻まれ弾丸は垣根へと到達しない。逆に見えない力の塊が兵士を吹っ飛ばしてしまった。
「化物め、こいつで死ね!」
大柄な兵士が巨大なバズーカ砲を取り出してきた。見覚えがある。アレは確かビルでも吹き飛ばすというのがキャッチフレーズの最新型だったはず。それを兵士の方も知っているのか、勝ち誇ったような、或いは縋るような笑みを浮かべていた。バズーカの撃鉄が落ちる。破壊の弾丸は目視など不可能な速度で垣根のいる場所に到達すると、周囲一帯の地面を抉り大爆発した。
「ははは……っははあっはははははっははははははは、かっ勝った」
「誰に勝ったって?」
兵士の背筋が凍りつく。上を見上げると、天井近くに空間移動した垣根が兵士達を見下ろしていた。突風が吹き荒れる。力のある風はバズーカを放った兵士ごと半数の兵士を巻き込みながら、地面へと叩きつけていった。
これだけの破壊を顔色一つにやり遂げた垣根は、ふわりと地面に降りたつ。垣根にはまだ傷一つとしてなかった。
「ふざけるな……ッ!」
生き残っていたリーダー格の兵士が吼える。彼以外に残存しているのは四十ほど。これは驚嘆に値する成果だ。並みの警備員や兵士なら、これだけの破壊を前に精々が数人残っているのがやっとだっただろう。
「発火能力に水流操作、念動力、風力使い、空間移動! 全部が全部LEVEL4クラスはある力を、それを使う……有り得ない……それじゃあ、まるで……」
その男が言いたい事は垣根には直ぐに分かった。本来学園都市の能力者で複数の能力を同時に操る『多重能力者』は理論上、脳の負担が掛かりすぎるなどの理由で再現不可能とされている。実際にはそれを証明する為に血腥い実験が行われてきたのだが、それは一先ず置いておく。重要なのは能力は一人につき一つ限定でそこに例外はないということだ。なのに垣根は明らかにLEVEL4クラスの能力を意図も容易く行使している。もし垣根があの兵士の立場だったとしても多重能力だと思うだろう。
垣根は否定しようとして、止めた。考えてみれば『未元物質』という超能力と、魔術というオカルト。その二つを何のリスクもなく同時に行使する垣根は『多重能力』といっても良い存在かもしれない。だから敢えてこう名乗った。
「俺は多重能力者だ」
衝撃の事実を聞かされ、兵士達から力が抜けていく。彼等は当初、超能力を使えなくなった小僧一人を殺すために此処に集まったのだ。伝説の多重能力者相手なんて寝耳に水だった。
「最後に面白いものを見せてやる」
財布からキラリと輝く500円硬貨を取り出した。軽快にそれを指ではじき、天高く打ち上げる。兵士達はそれを呆然と見ていたが、あるLEVEL5のことを思いだし顔面を蒼白にした。
「まさか……それは常盤台中学の超能力者が使う……に、逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
生き残っていた兵士達が我先にと逃亡していく。
だが残念。垣根帝督からは逃げられない。
「Good bye soldiers」
最強の電撃使いの代名詞にして能力名『超電磁砲』が地面を貫くと、その余波で残存していた兵士達を軒並み弾き飛ばす。
そして倉庫内に平穏無事で立っているのは垣根帝督唯一人となった。
完☆勝!
これが垣根帝督だ! LEVEL5の第二位だ!
……と、日頃の鬱憤を晴らす様に大暴れしました。もう何でもアリです。
ええ、設定上だけなら十分にチートなのに、アックアにボコられるわ、聖人原石にもボコられるわ、果てはLEVEL4までしかいない暗部にまでボコられるわで、徹底的に完勝に恵まれなかった垣根が漸く完勝しました。これまで辛勝はあっても完勝はありませんでしたからねw
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