とある魔術の未元物質
SCHOOL118 逃亡してきた 修道女
―――悪い種子からは悪い実ができる。
根っこから駄目な人間と言うのは、死ぬまで駄目な人間のままだ。根っこから腐りきっている人間は、改心など不可能だ。だが逆に言えば救いもある。根っこから腐っていない人間ならば、まだ改心の余地もやり直す希望もあるのだから。
一仕事終えた上条たちは、キャーリサ率いる騎士派との決戦の前に羽を休めていた。
羽を休めるといっても大人しく寝袋に包っているのではなく、山のような御馳走を食べながらどんちゃん騒ぎしているのだが。
事情を知らなければ、なにかのパーティーなのかと勘違いしてしまいそうなほど陽気にこれから戦場に赴く者達は飲んで騒いでいる。
「元気だよな」
部外者の上条が呆然と口にする。
直ぐ横を見れば上条と同じように学園都市からこのイギリスに来てクーデターに巻き込まれる事になってしまった御坂美琴が、イギリス清教のシスターと飲み比べをしていた。
(おいおい常盤台のお嬢様が飲酒って……いいのか?)
上条の心の内など知る由もない御坂は「美味い、もう一杯!」などと叫んでいた。
そういえば御坂の母親も飲んだくれだった。上条は学園都市に来てまでベロンベロンに酔っぱらった挙句、スキルアウトに殺されそうになった御坂美鈴を思いだし溜息をついた。
溜息を吐けば幸せが逃げるともいうが、上条には逃げていくほどの幸せはない。
(まぁ、お通夜みたいに沈んでるよりはいいのか)
このどんちゃん騒ぎもプラスに受け取ろう。
上条や御坂、そして第三王女の活躍によりカーテナ=オリジナルの力を暴走させることに成功している。これでキャーリサはカーテナの力をフルには扱えず、騎士派に分配される『天使の力』も減少する。更にカーテナの暴走という事態は騎士派の面々にキャーリサへの不信感を植え付ける事にも成功していた。
贅沢を言えばカーテナを完全に使用不可能にしてしまいたかったが、そこまで求めるのは不幸属性もちの上条には出過ぎた望みだ。
「ん?」
そこで上条はこちらに向かって走ってくる白い影を見つけた。
オルソラやアニェーゼの着ているような一般的な黒い修道服ではなく、独特の純白の修道服。腰まで届くような銀色の髪に緑色の瞳。
少女のことを上条は知っている。
「もしかして……インデックス!」
垣根帝督の戦う理由。
十万三千冊の魔道書を記憶した魔道書図書館。
上条の声を聴いたからか、イギリス清教の面々が反応する。
「あ、ツンツン頭。ここは……クーデター派の方じゃ、ないよね?」
「あ、ああ。クーデター派じゃない。ええと、クーデターに反対してるイギリス清教の方だよ」
上条が教えると、インデックスはほっとしたような表情をする。
まさか彼女は垣根帝督がクーデター派に所属することに反対しているのだろうか。
「それより、どうしてこんな所に。垣根はどうしたんだよ」
「ていとくは私に黙ってクーデターに参加しちゃってて。だから止めないと!」
「つまり逃げ出してきたのか、垣根から?」
こくりとインデックスが頷く。
だが、言う程簡単ではないはずだ。このイギリス中を騎士派の魔術師達が監視している。ただでさえインデックスは目立つ格好をしているというのに、監視網を掻い潜ってここまで来るのにどれだけ苦労したのだろうか。
上条には想像することもできないが、インデックスの修道服についている汚れが『道ならぬ道』を通って来た事を教えてくれた。上条はせめて汚れを落としてやろうと思い、『右手』でタオルをとると、それをインデックスに――――――
「あちち!」
渡す直前、真っ赤な炎が上条を襲った。慌てて『幻想殺し』の右手で炎を殴り消し飛ばす。
こんな事をする奴は一人しかいない。流石に怒った上条は怒鳴る。
「ステイル、テメエ。危ねえだろうが! なんだよ突然!」
頬にバーコードの刺青をした赤い髪の不良神父。
そう。彼はステイル=マグヌス。垣根帝督と最初に交戦した『魔術師』だった。
「黙れ上条当麻。その子に貴様の右手で触れるな」
「えっ?」
「その子の着ている修道服は『歩く教会』と呼ばれる……無知な君にも分かるように言うと凄まじい防御力を持つ礼装だ。もし君の右手で触れたらどうなるか…………分かるな?」
想像してみる。
インデックスの修道服に何気なく触れてしまう自分。そしてバラバラに吹っ飛ぶ修道服。羞恥心のあまり激怒したインデックスは真っ白い歯を上条の頭に突き立てる。頭を襲う想像を絶する激痛。そこまでのシークエンスが実に鮮明に思い浮かんだ。
「いいか、もし君が彼女に破廉恥な真似の一つでもしてみろ。僕は手始めに君の右手を切断して、それから君の体内に極小のイノケンティウスを作りだし、小腸から肺までをジワリジワリと焼き尽くしてやる。ああ途中で死なない様に治癒魔術を使いながらね。幸い、火傷の治療なら出来る。君には死ぬまで地獄よりも深い苦しみを延々と味わうことになるだろうね」
鬼気迫ったステイルの口調に、思わず上条は激しく首を縦に振った。
これほど怖いステイルは初めて見る。
「しかし、垣根帝督の下から逃げてきたというのは本当なのかい?」
上条の時と違い、恐がらせない様静かな声でステイルが言った。
インデックスが再びこくりと頷く。
「そうか。そこの上条当麻から聞いた話は…………やはり事実か。あの女狐め」
「しかし、彼女が此処にいるなら垣根帝督をキャーリサからこちら側に寝返らせることも出来るかもしれません」
何時の間にか来た神裂が言った。
「あの最大主教を脅し……いえ。説得し、こちら側に参加すれば『首輪』の呪縛を解くと言えば」
「女狐が、最大主教が納得すると思うか?」
「させますよ。もし話しても説得できないのなら、七天七刀の錆にするだけです。それに労働者らしくストライキという手もあります」
「ストライキか……良い手だ。しかし垣根帝督、僕は直ぐにやられてしまったから良くは分からなかったけれど、それほどの使い手なのか?」
「いえ、私も途中で戦闘を止めてしまったので……。上条当麻、貴方は何か分かりませんか?」
「物凄く強いってことしか。ただ御坂の電撃を出せなくしたり、巨大な岩を浮かしてたりしてたけど……。垣根は『未元物質』って言ってたけど。なんだか物理法則を歪めるとかも言ってた」
「いや、それだけじゃないのである」
『!』
予想外の人物が話しかけてきた。
後方のアックア、神の右席に所属している魔術師であり、聖人としての素質すら兼ね備えた怪物。
「垣根帝督とは二度交戦した事がある。垣根帝督は……魔術を使う」
「な、なんですって!?」
最初に驚いたのは神裂だった。
だが、ステイルと上条も神裂と同じような気分だった。
超能力者は魔術を使えない。それは土御門元春という友人のお蔭で良く分かっている。
「私にも事情は分からないが、垣根帝督は何のリスクもなく魔術と超能力の両方を扱うことができるのである。フィアンマは何か知っているようであるが……」
アックアは話しだす。
自分自身が掴んでいる情報を。
ステイルがファインプレー。上条さんのラッキースケベとセクハラ、功労賞な歩く教会さんの戦死を防ぎましたw
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