とある魔術の未元物質
SCHOOL125 孤高にして異端の騎士
―――「時」 は全ての怒りを癒す妙薬である。
時は怒りだけじゃない。哀しみや嘆きも癒してくれる、最も残酷な妙薬だ。誰もが嘆き悲しみ、そして時間という妙薬がその苦しみと、そして感情を消していく。人は忘れていく生き物だ。記録として思い出として残ったとしても、感情の伴った記憶はそう長くはとどめられない。やがてどんな感情も色あせ消えていく運命。しかしそれでも尚色褪せない記憶があるのならば、それを永遠と定義するのだろう。
「ふっ、はははははははははははははははは!」
戦場にキャーリサの笑い声が響き渡る。
泣いているような、歓喜しているような……不思議な笑い声。ただ、それが負の感情によるものでないのは含まれる温かみから感じ取ることが出来た。
「我が母上! 策略は失敗したよーだな。私の協力者は相も変わらず私に組し続けるそーだ。勧誘は失敗だし」
「うむ、そうみたいだ。こりゃあ私の側も気合入れていかなきゃ不味いな」
「減らず口を。しかし英国のことを想い、国と王に忠誠を誓う騎士派が裏切ったにも拘らず、本来なら英国とは何の縁も所縁もない超能力者が私の下に残るだなんて世の中は随分と皮肉に満ちてるし」
「世界とはそういうもんだろう。理屈やら数字だけで世界が測れれば苦労はせん。人間関係もな。人間って生き物はどんなに頭が良くても必ず感情はついて回る」
「そこだけは同意するの、そして良い事を思いついたし。逆境を順境へ反転させる策を!」
ニヤリとした後、キャーリサは一転して先例を施す司祭のような真剣な表情で垣根にカーテナを向ける。
「なんのつもりだ?」
協力者である自分い刃を向ける意図が分かりかねぬ垣根が問いかける。
「大人しくしていろ。別にお前を斬って捨てようなんて事は考えてないの」
キャーリサは軽くカーテナ=オリジナルで垣根の肩をポンと叩く。
そして小さく何やら呟き始めた。
「キャーリサ! まさか、そういう『裏ワザ』を使ってくるか……これは一本とられたな。確かに今の状況なら、効率が落ちているとはいえ十分に機能するだろうが。……我が娘ながら無茶をする」
「お互い様だし。国民全員にカーテナ=セカンドの力を分配するなんて事をした母上に言われたくないの」
やがて垣根の体に異変が起きた。
体に魔力とは別種の力が供給されてくる。それも少量ではなく、かなりの量のものが。垣根はこれを感覚で知っている。この溢れる力の正体は『天使の力』。十字教式の魔術を扱う者ならば誰もが何らかの形で使用している力だ。かくいう垣根も利用した事がある。
「まさか……キャーリサ、テメエ!」
漸くキャーリサが何をしたのかを理解した垣根が言う。
「ふふふ。我が国においての騎士叙任の条件は第一に英国国民であること。これが必須条件にして前提条件だ。後の功績云々はやろうと思えば幾らでも誤魔化しがきく。しかし最初の前提条件だけは絶対に覆せない」
しかし、そもそもイギリス国民である条件とはなんだろうか。
イギリス人の血を継ぐ? 否だ。英国の血を継いでいるアメリカ人やフランス人だって世界中には数多くいる。イギリスに住んでいる? 否だ。英国に住みながらも英国人ではない者など幾らでもいる。
血は関係ないのだ。住んだ長さも関係ない。
極論を言えば、イギリス国籍をもち国が英国人だと認めてしまえば、どこの出身の何人だろうとイギリス人になることが出来る。
そして垣根帝督は打算と計算に塗れていたとはいえ、キャーリサの取引によってイギリス国籍を手に入れた英国人に他ならない。
「あぁ、そこの女王様の意見に賛成だ。何て滅茶苦茶をしやがる。前代未聞じゃねえかよ」
「――――今この瞬間。私、英国新女王キャーリサの名において垣根帝督を騎士として任命した。略式故に盾の紋章も書類上の手続きもないが、現時点をもって垣根帝督はこの私直属の騎士となった。そして現在、我が下にいた騎士派が全員離反した以上、騎士団長はこの垣根帝督だ」
カーテナの力はそれを握る王と、それに従う騎士に莫大な『天使の力』を分配するもの。騎士派がキャーリサの下を離れた今となっては、騎士派に分配される筈の力は行き場を失い遊ばされていた。しかし垣根帝督を騎士と任じた事により、行き場を失った『天使の力』は唯一の騎士である垣根帝督に集中的に供給される。
それは反クーデター派の工作によりカーテナの供給が少なくなっても尚、十分過ぎる程のエネルギー。
(この力……慣れねえせいか変な『違和感』のような『不快感』のような『郷愁』のようなものを感じるが、力は紛れもなく相当量。と、あんまり溜める事は出来そうにねえな。これだけの『天使の力』だ。適度に使って放出しねえとパンクしちまう)
逆に言えば、放出しなければ溢れるほどのエネルギーが溢れているという事だ。
つまり垣根帝督は絶好調ということである。
試に普通の魔力弾を空に向かって放ってみる。垣根の右手に力が集中し、光色の柱が空に伸びていく。
凄い威力だ。どうやらカーテナ=オリジナルにより供給される『天使の力』は伊達じゃないらしい。しかも騎士が垣根一人なので集まる『天使の力』の量もべらぼうに多い。
「そんじゃあ我が女王様よ、あっちは任せたぜ。追加だが、上条当麻は殺すなよ」
垣根は元女王エリザードや、こちらに走ってくる上条達を指差して言った。
「お前はどーする?」
「二度ある事は三度あるっていうだろ。ここらで鬱陶しい因縁とやらを解消しようと思ってな」
「――――――――望む所である」
巨大な聖剣アスカロンを握り、こちらに歩み寄ってくるのは『神の右席』と聖人としての素養を兼ね備えた怪物、後方のアックア。本名をウィリアム=オルウェル。
最強かは分からないが、味方になれば誰よりも頼りになる世界最高の傭兵である。そして敵に回せば何よりも恐ろしい死神でもあった。
「一度目は俺の負け。二度目は第三位もいたしテメエもやられてなかったから……実質的に引き分けか。三度目の正直ってやつだ。今度は勝たせて貰うぜゴリラ」
「良かろう。世界の広さを教えてやるのである。来い、垣根帝督」
垣根帝督とアックア。
数か月のうちで二度も見えた二人が、この王の国で三度目の激突を果たす。
勝者が誰なのか? それは天上に住まう神ですら分からぬことである。
垣根の称号一覧
超能力者
第二位
魔術師
LEVEL5
メルヘン
イケメン
イケメルヘン
冷蔵庫
ていとくん
帝凍庫
常識の通用しない人
反逆のメルヘン
KING垣根
騎士団長垣根 ←今ここ
クーデターからこっち、何時の間にか協力者Aから騎士派のトップまで上り詰めた垣根。キャーリサもなりふり構わず、といったところでしょうか。
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