とある魔術の未元物質
SCHOOL126 彼と彼女の戦い
―――暗殺者は世界の歴史を変えなかった。
確かに暗殺が世界を変える事はないかもしれない。だが千里の道も一歩からとは言った物で、暗殺が戦術的勝利を齎し、それが積み重なって戦略的な勝利を得る事もある。
「――――――――――行くぞ」
叫んでいる訳ではない。
だが、心の底にまで浸透するような深い声だった。
アックアは物語上で語られる悪龍を一刀両断できるように作られた聖剣アスカロンを握りしめ、垣根に向かってくる。
ロシアや学園都市で使っていたまるでスケートのように地面を滑る動きではない。学園都市で『聖人崩し』を受け、まだそのダメージから回復していないのだ。
対する垣根帝督は、カーテナによる力の供給で絶好調。
「そらぁあああああああ!」
体にたまった力を全放出するように、巨大な烈風をお見舞いする。
アリ一匹すら躱す隙間もないほどの巨大な風のハンマーがアックアを押し潰した。
「ぬぅぅぅう、そのような力任せの攻撃が、効くと思ったのであるか!」
万全ではないとはいえアックアは依然として世界最高峰の実力を持つ怪物だ。重戦車だろうとペシャンコにする風の槌を、アスカロンで優しく受け流すと、足に筋肉をバネのように使い跳躍する。
「効くとは思ってねえよ! そいつは囮だ!」
伊達に三度も戦ってきた訳ではない。
アックアの恐ろしさも強さも、垣根は死ぬほど理解している。実際一度は死にかけた。
だから戦車をペシャンコにするくらいの攻撃でアックアを倒せるだなんて楽観を微塵も抱いてはいない。
アックアが攻撃を受け流し、こちらに向かってくるのも読み切っていた。ロシアでの全盛期の頃ならまだしも、今のアックアは垣根が得意とする遠距離から中距離での戦いで垣根を倒す事は出来ない。故にアックアが垣根帝督を倒すには自分自身の得意な近接戦闘に持ち込むしかないのだ。
攻撃を流したばかりのアックアを囲むように、無数の光弾が飛来してくる。大きさこそ大したものではないが、限界まで凝縮されたそれは核シェルターをも貫くような威力を誇るだろう。しかし、それすらもアックアは不思議な水の魔術を使い掻き消してしまった。
(俺の術式に水で干渉し、術式プログラムを書き換えた……? チッ、出鱈目な野郎だっ)
垣根は心の中で呟くが、アックアが聞けば出鱈目はお前も同じだと言っただろう。
超能力と魔術の両方を扱うというだけでも無茶苦茶なのに、超能力と魔術を『融合』させた攻撃を使ってくるだなんて反則以外の何物でもない。
「第三十六項51、プランR&C両立起動――――――基点を狡猾に回し、狂いは愛に。真実は無情たるは秘密の数学」
詠唱を完了させた垣根が腕を振り下ろすと、何もない空間から『未元物質』によって構成された鎖が出現しアックアを縛った。
「ざまあねえな。幾らテメエでもその鎖からは逃れられねえよ。なんたって理論上は聖人二人は抑えられる代物だ。万全のお前か『幻想殺し』でもなけりゃ、抜け出すのは無理だ」
「そうだな。だが、それは縛られたらの話。私は縛られてなどいない」
瞬間、アックアの体が水となり溶けていく。
驚いた。これは水によって高度に複製された分身。となると本体は別にいる。直ぐに魔術と未元物質を使い索敵するが、何処にもアックアの姿を確認することができない。
右にも左にも前にも、そして天空にもアックアはいなかった。
(となると考えられるのは……)
「後ろかッ!」
バッと身体を背後へと向ける。
しかし、そこにもアックアの姿はない。
「残念、私は下だ」
「……ッ!」
地面を突き破るようにアックアが飛び出してきた。
どうやら土竜のように地面の中を突き進んできたらしい。
距離を取ろうとするが、時すでに遅し。垣根はもうアックアの間合いに入ってしまっている。
アックアのアスカロンが振り下ろされた。悪龍すらも砕く一撃はあっさりと垣根の体を両断し、
「だから言ったろ、囮だって」
アックアの水によるフェイクと同様に、ドロドロと垣根の体が蝋燭のように溶けていく。アックアのものが水を使ったフェイクなら、垣根のものは『未元物質』によって生み出されたフェイクだ。
本物の垣根帝督はフェイクの直ぐ真上にいる。
「戦車をペシャンコにする攻撃でも、テメエを潰すことはできねえ。核シェルターを貫く魔弾でもテメエには当たらねえ。そこで俺は考えた。テメエを殺すにはどうすればいいのか? 簡単だ。核シェルターをペシャンコにするような攻撃をすりゃあいい。逃れる隙間も受け流されるほどの生易しさのねえ、本当の必殺を放ちゃあいい。二度と俺の前に現れないようにな」
詠唱はもう完了している。
超能力と魔力、それにカーテナから供給される『天使の力』をも上乗せさせた本当の必殺の一撃だ。
回避できないほど速く、受け流せないほど強く、耐え切れないほどの威力を備えた最強の一撃。単純な火力ならカーテナ=オリジナルすらも超えた一撃が、アックアという聖人に天の裁きのように堕ちてきた。
「FIOEMKLMA」
しかし必殺の一撃は、あっさりと少女の一声により高度に融合されていた別々の力が分解し消滅した。
垣根の顔が憤怒と驚きに歪む。
「インデックス、そうか――――お前か」
「ていとく――――守られてばかりいた私だけど、今度は私がていとくを守る。ていとくを、倒すんだよ」
この物語のヒロインはそうやって現れた。
憎々しい程に絶好のタイミングで。
――――いいぜ。インなんとかさんはヒロインじゃなくてヒロイン(笑)だとか思ってるっていうなら。先ずは、
そ の 幻 想 を ぶ ち 殺 す!
インデックス☆参戦!
体が軽い…
こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて…
もう何も恐くない!
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ム7
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以前にもあった人気投票第七位までの短編ですが七分の六まで完成しました。単刀直入に言い変えると六人分の短編が書き終わりました。特に全く予定のないタケノコが難産でした。とはいえ取り敢えずの外伝なので今まで活躍してこなかったキャラや出番が皆無だったキャラをこの機会に出します。主にはパンダとビリビリ、ステイルなどですね。
ちなみに出来てない最後の一つは大方の予想通り、アレです。私自身の短編です。
基本、短編はIFストーリーとかでなく「とある魔術の未元物質」のストーリーで実際にあった出来事という系列なので、このままだと私が「とある魔術の未元物質」の年表に足跡を刻むという前代未聞なことが発生しそうです。
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