とある魔術の未元物質
SCHOOL129 囚われた 電撃姫
―――生は偶然、死は必然
生れ落ちるのは偶然だ。必ず生れ落ちる命は存在しない。けれど死は必然だ。生れ落ちた命が、何時か必ず死を迎えるのは避けようのない運命である。人は死からは逃れられない。不死の呪いを宿したものでも、いつか必ず死を迎える。
「テメエ!」
垣根が倒れた事に激高した上条が、右手を握りしめフィアンマへ突進する。
しかしフィアンマが右手を一振りすると、忽然とフィアンマの姿が掻き消えてしまう。
「何処行きやがった!?」
「ここだよ」
声のした方向へ振り向くと、フィアンマは余裕綽々といった様子で壁に寄り掛かっていた。
顔に張り付いたニヤニヤとした笑顔がどうにも腹立たしい。こちらを小馬鹿にしているようでもあった。
「……垣根は、ずっとその子の――――――インデックスの為に頑張ってたんだ! 世界中回って、仕舞いにはクーデターなんてものにも参加してまで……」
絞り出すように上条が呟く。
上条の視線の先には『自動書記』が無理矢理に起動させられたことで目から光を失い無感情な『兵器』にされてしまっているインデックスがいた。
「それが……色々と諍いもあったけど、漸く報われようとしてたんだぞ! この国の王様が直々に呪いを解くって約束してくれたお蔭で! こいつの身の安全だって約束してくれた! なのに、テメエはどうしてそんな奴等から細やかな幸せを奪ってこうとすんだよ!」
「可笑しなことを聞くのだな。そのようなもの、俺様の目的の為に決まっているだろう? 人間とは……人に限らず生命とは他の生命を犠牲にし糧とする事で生きながらえるもの。俺様も同様に垣根帝督とインデックスを糧とすることで、俺様の目的を叶えようというだけだ」
「――――――そうかよ、テメエの言いてえ事は良く分かった。……十分すぎる程にな」
歯軋りする。血が出る程、手を握りしめた。
上条の脳裏に垣根とインデックスの姿がブラッシュバックされる。直接会い話した時間は少ないが、彼等の想いの強さからどれだけの苦難を歩んできたかは大凡察することが出来た。
それを踏み躙ろうとする男がいる。
手前勝手な独善で、嘲笑おうとしている男がいる!
「テメエが自分の『目的』を叶える為にこいつ等の『願い』を踏み躙るってなら、そんな幻想は粉々にぶち殺す!」
「出来るのか? そんな不完全な『右手』で。――――――尤も俺様も人の事を言えた義理じゃあないな。俺様の『右手』もまだまだ制限がかかっている状態。敵陣のど真ん中に長居するのは得策ではないな。お前の『右手』を貰い早々に立ち去るとしよう!」
来る、と直感した瞬間には右手を前へ突き出していた。
その行動が正しかったことは即座に証明される。上条の右手にカーテナ並みの破壊力のエネルギーが襲い掛かって来たからだ。
エネルギーは『幻想殺し』に触れると雲散したが、威力が強過ぎたせいで右手が少し傷ついた。
「ふふふ、不完全かつ矮小とはいえ流石は俺様の見込んだ『右手』だな。俺の方の『右手』もそれが相手ではどれほどの出力を出そうか迷っているようだぞ?」
「なら、好きなだけ迷ってろ!」
上条はフィアンマへ向かっていく。
良くは分からないが、フィアンマの右手も『異能の力』である以上、右手で殺すことが出来る。だったらやる事は単純。近付いて殴る、それだけだ。単純なこの戦法こそが、今まで最強の超能力者や一流の魔術師の多くを沈めてきた必勝法。上条当麻の戦い方である。
「威勢がいいな。さて……どうしたものか」
上条がフィアンマのもとへ到達する前に、フィアンマがまた瞬間移動をする。
今度は上条から遠く離れた公園のベンチの前へ現れた。
(……あいつの背中から出てる『第三の腕』……様子が変だぞ)
フィアンマの『第三の腕』は最初と比べ形が崩れボロボロになっていっていた。不完全だ、とフィアンマが言っていたのを思い出す。もしかしたらフィアンマの『攻撃』には時間制限や回数制限のようなものがあるのかもしれない。
もしそうなら、上手く攻撃を捌いていき持久戦に持ち込む事が出来れば勝機が見えてくる。
「やはり『右手』がある以上、不用意に近づくのは得策ではない。しかし……そうだな、やってみる価値はあるかもしれん。垣根帝督を吹っ飛ばしたせいか、俺も何処となく戦意が高ぶるのでな」
フィアンマが腕を空へと掲げる。すると真っ赤な炎のようなものがフィアンマの右手から噴出し、やがてそれは全長にして100mもあるような剣となった。
アスカロンすら霞むデカさの剣に、数々の激戦を潜り抜けてきた上条も目を見開く。
(防げるか!?)
一方通行の『反射』すら難なく無効化してきた上条でさえ、あの大剣を『確実』に殺せるかと問われれば自信がもてなかった。
上条が身構える。しかしフィアンマの大剣が振り下ろされるよりも前に、フィアンマに一筋の雷の弾丸が着弾した。
爆炎が舞う。その影響か、炎の大剣が掻き消えてしまった。
「アンタがどこの誰かは知らないけど、私の連れに手ェ出さないで貰えないかしら?」
「び、ビリビリ!」
「ビリビリ言うな! 私には御坂美琴って名前があるって何百回言えば分かるのよ!」
御坂が来た事をこれほど嬉しく思ったことはない。
学園都市でも三本の指に入る名門常盤台中学のエース、御坂美琴の誇る必殺の『超電磁砲』をモロに受けたのだ。
一方通行のような反射の膜でもない限りは戦闘不能だろう。だが、上条のそんな思いは甘い考えだったようだ。
立ち込める煙の中から傷一つとしてないフィアンマが姿を現す。
「学園都市第三位の超能力者、か。垣根帝督には劣る物の……中々の破壊力。正面対決ならアックアは別として、テッラやヴェントに勝るやもしれんな――――――――大したものだ」
「誰よ、アンタ?」
「右方のフィアンマ。神の右席の一人にして頂点のようなものだ。――――――科学サイドのお前にも分かり易く言うなら、学園都市と戦争状態に突入しようとしているローマ正教の事実上のトップと言えばいいかな」
「ッ!」
御坂の体からバチッと電流が奔ったのは驚愕の証だ。
突然のラスボス襲来に、御坂は最大限の警戒を向ける。
「…………にしても、良くもやってくれたよ。お前が予期せぬ攻撃を仕掛けてくれたお蔭で、俺様の出した剣は消滅。回数も限界、か。お前一人ならまだしも『幻想殺し』と戦い、それを邪魔するであろうお前も倒し、誰にも倒される事なくローマへ帰還するというのは……やや難易度の高いミッションだ。ここで俺様が死ねば計画も狂う」
「逃げるのか!」
上条が喰いかかるが、フィアンマは涼しい顔で言った。
「ああ。――――――だが、何もせずに退却するのも芸がない。よって」
フィアンマの姿が再び消える。
今度は何処に行ったのか。上条が周囲を見渡すと――――――驚愕。フィアンマが出現したのは御坂美琴の背後。
御坂は身体から電波のようなものが常時放たれているお蔭で、直ぐにフィアンマが背後にいることに気付き放電しようとするが、それよりも前にフィアンマの当身を受け御坂は気絶した。
「御坂っ! おいテメエ、御坂をどうする気だ!」
「連れて帰って俺様の花嫁にする」
「なっ!」
「ジョークだ。そう焦った顔をするなよ上条当麻。……『本当』だ。本当に冗談だよ。…………しかし連れて帰るのはジョークじゃない。この超能力者がお前にとっての何なのかは大凡察しがつく。俺様の計画にはお前の『幻想殺し』が鍵となるのでな。こいつには貴様という魚を釣り上げるための餌になって貰おうと言う訳だ。太平洋で魚を興じる釣り師のようにな、俺様もこいつを餌にする。生餌ってやつだ」
「ロシアだ。早くロシアにいる俺様を見つけ出すことだ。さもないと…………俺様が御坂美琴を殺してしまうかもしれんぞ?」
言いたい事だけを言い残すと、フィアンマの姿は消えた。
先程と同様の瞬間移動だろう。
遅れてこちらに走ってくる足音が複数聞こえる。
「ち、畜生ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
上条は地面を殴る。
これほど悔しい思いをするのは生まれて初めての経験だった。
まさかのフィアンマによるヒロインのNTR。いやジョークですよ。誘拐されただけです。ビリビリは上条さんサイドの正ヒロインです。とはいえ基本垣根視点ばかりなので上条さんサイドは出番少ないんですが……。ストーリーが混ざってくる新約編になればバリバリいけそうなんですが、その新約編は未だやるかどうか不明というオチ。
しかし相変わらず上条さんが出張ると垣根の影が薄くなります。
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