とある魔術の未元物質
SCHOOL135 垣根 対 フィアンマ
―――真実には特定の時などない。真実はどんな時代にも真実である。
真実とは、真相とは何だろうか。例えば今我々の持つ知識、歴史が本当に事実なのか?それは誰にも分からない。分かるのは、その時代に生きた当人だけ。そう、歴史家や批評家は傍観者でしかなく、当事者にはなれないのだ。
エリザリーナと話を付けた垣根は、兵士の案内で独立国同盟内にあるホテルに潜んでいるというサーシャの所までやって来た。
サーシャと垣根がこうして会うのは9月30日以来となる。
「第一の質問ですが、貴方は一人でフィアンマを斃すつもりですか?」
「ああ。フィアンマを斃すのは俺じゃなきゃ駄目だ。プライドだとかの問題以前に、アックアや他の魔術師が束になってかかってもフィアンマには勝てねえんだ。戦い方云々以前にそういう仕組みになってんだよ」
もしもフィアンマの『右手』に対抗できるようなものがあるとすれば上条当麻の『幻想殺し』か魔神もどきのオッレルス……そして自分だけだろう。
更にフィアンマは『右手』以外にも禁書目録の遠隔制御礼装により十万三千冊の魔道書すら扱える。そうなると上条やオッレルスでもキツい。
尤も、そういう垣根も相性的問題から不利な戦いになってしまうのは否めないだろうが、取り敢えず戦いに持ち込むことは可能だ。
「ていうか……お前こそ、そんな格好で街中歩いて大丈夫なのかよ?」
「だ、第二の解答ですがっ。認識阻害の魔術があるので問題はありません」
「…………お前も苦労すんな」
事実上ロシア成教から離脱しワシリーサの部下ではなくなった今となってもサーシャは変態チックな拘束服を変えていない。
まさか謎の呪いでもかかっているのだろうか。
サーシャと話していると、遠くから怒号のようなものが聞こえてくる。次いで何かが炸裂するような音。
「なんだ、こりゃ?」
「第三の解答ですが、不明です。ロシア側からの攻撃にしても速い……!」
「……………ロシア軍の攻撃じゃねえ」
「えっ?」
「ああ分かるぜ。こりゃ奴の感じだ。野郎……フィアンマが来てやがる!」
有無を言わぬまま垣根は白翼を出して、ホテルの窓を叩き破りそこから飛翔する。
幸いフィアンマの攻撃は派手だ。直ぐに姿を視認することが出来た。
禍々しい第三の腕を背中の辺りから生やした『神の右席』が生み出した魔人フィアンマ。それと対面しているのはこの国の指導者であるエリザリーナと……あれは、
「上条当麻、か」
印象的なツンツン頭と学生服。間違いない。
どうやら第三位を救出する為にわざわざロシアまでやって来たようだ。垣根のように白翼で飛んでくるなんて芸当ができない『無能力者』でありながら。相変わらず凄い根性をしている。垣根は素直に感心した。
しかし肝心の『幻想殺し』もフィアンマの右手の馬鹿げた出力に苦戦しているようだ。
別に個人的に上条当麻のことを知っている訳ではないが、フィアンマに上条当麻の『右手』をくれてやる訳にはいかない。
幸いまだフィアンマはこちらに気付いていない。
垣根は猛スピードでフィアンマの背後に襲い掛かった。
「ッ! そうか貴様も来たか、垣根帝督ッ!」
攻撃が当たる直前、フィアンマがこちらに気付いてしまう。
構わない。
気付かれたら防御を力ずくで突破するだけだ。
「うらぁぁぁあああッ」
白翼が掻き消え、代わりに光翼が背中から噴出していく。
此処とは別位相にある場所、天界にあるエネルギーを引っ張り出すと垣根は手に纏い殴りつける。フィアンマは第三の腕でそれを受けた。
強すぎるエネルギーの激突が突風を巻き起こす。一般人がそれに飛ばされていたが、フィアンマと垣根帝督のような化け物にとって突風などそよ風に等しい。
(突破、しきれねえか!)
止むを得ない。このまま力をぶつけ合ってもフィアンマの右手相手じゃパワー負けするだけだ。
垣根は一時、フィアンマから離れ距離をとった。
「不意打ちとは随分な挨拶じゃないか。俺様としたことがちょいとばかり肝が冷えたぞ。結果的には防いだがな」
「悪いが騎士派のTOPやら十八歳には見えねえ聖人と違って俺にはスポーツマンシップやら武士道騎士道はねえんでな。どんな方法だろうとテメエを潰せりゃそれでいい」
「良い塩梅だ。どうやら『成長』しているようだな。この短期間に……驚異的スピードだよ」
光翼を見ながらフィアンマが言った。
やはりというか……フィアンマの垣根の光翼の正体について知っているらしい。
「おい、お前……。垣根もここに来てたのか?」
上条が突然現れた垣根に驚きを隠せない様子のまま口を開く。
何故か上条の近くには『新たなる光』の構成員であるレッサーがいた。
「下がってろ。こいつは俺の獲物だっ」
上条を無視するように、垣根がフィアンマに突進していく。
一見無謀に見える突撃だが、垣根は自分より強い相手にただ愚直に向かうほど愚かではない。
垣根は天界から物質を引っ張り出し、その物質を利用した術式を組み立てる。そして手から赤黒い炎を飛ばした。
「フン! 結構な破壊力だ。そこいらの魔術師なら防ぐことも躱すことも出来んだろうが…………俺様相手では無意味。この俺様の前には破壊力・防御力・速度・魔力・超能力! その全てがカス同然となるのだからな!」
フィアンマが右手を振ると、それだけで赤黒い炎は蝋燭の火のように雲散する。
ここまでは垣根の予想通り。しかし、ここからは垣根の作戦通りだ。
(行け!)
垣根は心の中で思うことにより、最後の鍵が刺さる。
フィアンマの背後。先の奇襲の祭にこっそりと垣根が刻んでおいたルーン。
ルーンが光を放ち始め、地面から石の槍のようなものが飛び出し無防備のフィアンマの背中を襲った。フィアンマは前方からの攻撃に気をとられていて背後のトラップに気付いていない。
これがフィアンマの弱点だ。
どうやらフィアンマの右手には回数制限のようなものもあるようだが、それ以上に幾ら無敵の力をもっていようとフィアンマは人間でしかない。幾ら原罪を取り除き体質が天使に近付いているといっても怪我をすれば血が流れ、頭に鉛玉を撃ち込まれれば死ぬ『人間』だ。
アックアのように聖人としての素質でもない限り心臓を貫かれれば死ぬ。
(――――――――勝った)
垣根は勝利を確信する。
けれどそれは早合点。石の槍はフィアンマの背後に振れると、そのままボロボロに瓦解してしまった。
「なにッ!」
「やれやれ、危ないじゃないか。俺様の体に風穴が空くところだぞ。垣根帝督、お前の考えは読めていた。幾ら俺様に最強の『右手』があろうと俺様自身の身体能力は大したことが無い。認識外にある奇襲攻撃ならばなんとかなる――――とでも言った所か」
「!」
「この世に無敵の存在なんていないと言うが、敢えて俺様は宣言しよう。俺様は無敵だ」
そしてフィアンマが懐から出したのはインデックスの遠隔制御礼装。
成程。紀州攻撃に備えて十万三千冊の魔術で自分の体に薄い防御膜のようなものを張っていたのか。用意がいい男だ。
「そして、禁書目録の知識を使えばこのような芸当もできる」
フィアンマは右手を天高く掲げると、そこにレインボーブリッジのようなデカさのある真っ赤な剣が出現した。
「んなっ!?」
「これが禁書目録の……そして俺様の力だ!」
真っ赤な剣が振り下ろされる。
光翼を全身に纏い防御態勢をとるが、果たしてあの剣を防ぎきれるだろうか。あれはミカエルを司るフィアンマの扱うミカエルの剣を模した術式。神の絶対に対抗できるとしたら、それは。
「やらせはしねえよ!」
神の奇跡さえもぶち殺してしまう右手を持つ少年、上条当麻が垣根を庇うように前に立つ。そして右手で紅い剣を受け止めた。
「ぐっ、おおぉおおおおおおおお!」
だが消えない。
巨大過ぎる出力の剣は『幻想殺し』に振れた所で破壊されることはなかった。
(この野郎!)
垣根は歯噛みする。
自分と上条当麻に面識なんてものは無いに等しい。会ったのはクーデター中の戦闘の時だし、敵としての出会いだった。なのに上条当麻は自分を庇って前に出た。こういう奴をお人好しというのだろう。
(こういう馬鹿見てえなお人好しが俺みてえな屑を庇ってんじゃねえよ!)
垣根が黙って光翼で紅い剣を押し返していく。
光翼のパワーと幻想殺し。二つの未知の奇跡により赤い剣が徐々に瓦解していった。
「すまない、垣根。サンキュー!」
「勘違いするな。俺はお前に守られるのが御免なだけだ」
「……ははっ、そうですか。上条さんとしては、どっちでも問題ないけどな!」
パリンッという音がして、赤い剣という幻想が殺される。
けれど、先程までいた場所にフィアンマの姿がなかった。
「フフフフ。流石は俺様の目を付けた二人。アレを防ぐとはな。しかし残念だ。まだ俺様の右手は不安定でな。ここで俺様は退散することにした」
「テメエ!」
フィアンマはサーシャの体を抱えていた。
どうやら、喧騒を聞きつけここまで来たサーシャをフィアンマが見つけ捕獲したらしい。
「舞台は俺様が用意しよう。もしお前達が俺様を斃したいのであれば、俺様の城まで来ることだ」
フィアンマを追う間もない。
ただ右手を振っただけでフィアンマとサーシャはそこから消失してしまった。
後書き
上条さん&ていとくんVSフィアンマ。
しかし上条さんと垣根が組むと主人公補正が合わさって無敵に見える。このコンビなら一方通行にも負けないと思う!
次回は例のあの御仁が登場する予定です。え? 誰かって? それは秘密。
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