とある魔術の未元物質
LAST SCHOOL 旧約から新約へ


―――冒険。
冒険と言われて何をイメージするだろうか。ある人はお宝を探して海を行く大海賊を思い浮かべるだろう。またある人はジャングルの奥深くを行く探検家を思い描くだろう。またある人は古代遺跡を探る学者などを想像するかもしれない。しかし冒険はなにも危険な場所を行く事だけではない。人生というのは常に苦難が付き纏う。冒険とは人生そのものなのである。










 イギリス清教の最大主教、ローラ=スチュアートはとある教会でPCの画面越しに科学サイドの長である学園都市統括理事長アレイスターと会談を行っていた。
 会談といってもニュースに取り上げられ表沙汰になるようなものではない。一般人は永久に知ることはないであろう『オカルト』が関わる会談だ。
 この会談は魔術的な損害や科学サイドの動向や条約などといった内容も含まれるが、一番の主題はイギリスに亡命した超能力者、垣根帝督の件である。

『困るな、最大主教』

 画面の向こうでアレイスターが感情をのせぬ声色で言った。

『彼は学園都市に所属する超能力者。おいそれとイギリスへやることなど認められる筈もない。なにより彼は学園都市内で多くの事件を引き起こしている。また彼が暴れた事で多くの損害も被っている。イギリスは犯罪者を匿うつもりかね』

「勘違いしないで欲しけるの、アレイスター。垣根帝督はあくまで学園都市における犯罪者。別に国際法廷で裁かれた訳でもない。垣根帝督はイギリス清教に所属することになった『魔術師』であり、非公式とはいえ第二王女キャーリサ自身によって騎士に任じられた者でもある。彼は正式に我が国の一員になった」
 
 素知らぬ顔でローラは言い放った。
 アレイスターはそんなローラに怒りをあらわにすることもなくただ静かな口調で続ける。

『だから垣根帝督にはもう干渉するな、と。それは蟲が良い話だとは思わないかね。もしもイギリスが垣根帝督を匿うというのなら、そちらには垣根帝督によって学園都市が齎された損失分を支払って貰わぬことには道理が合わぬと思うが』

「ならばそちらも、上条当麻によって破壊された我が国の宝『カーテナ=オリジナル』の損失分を支払って欲しけるのよ」

 そこで漸くアレイスターが眉をひそめた。

『……上条当麻をクーデターに巻き込んだのは君の意図だと思うが?』

「あら。私はそんなことを頼んだ覚えはないにつきしけるのよ。アレイスター、上条当麻の右手が我が国のカーテナを破壊したという証拠を私は文字通り山の様に持っている。だけど、アレイスター。学園都市に私が上条当麻を意図的にクーデターの駒として利用したという証拠があって?」

 ローラが言っているのは正に屁理屈だった。屁理屈同然である。しかし普通の場所では屁理屈を述べたところで一蹴に伏されるのがオチだが、こういう場所では屁理屈も理屈として機能する。
 何故、学園都市の会談を王室派トップのエリザードではなくローラが執り行っているのか。それは彼女が一番こういったことに向いているからだ。

『フム。このままでは埒が明かんな。…………止むを得ない。それでは妥協案を提示しよう』

「ほほぉ? その薄ら笑いからどんな『妥協』案が飛び出すのか、興味がつきにしけるの」

 アレイスターはローラの嫌味をあっさりと無視する。
 どちらの態度も公式的な会談なら国際問題にも発展しかねないものだったが、アレイスターもローラもそのような矮小なことには興味など示さない。

『垣根帝督が我が元を離れイギリス側につくことを認めよう』

「……あっさり認めるなんて。気色悪けるわね、アレイスター」

『無論、条件がある。第一に垣根帝督の超能力及び知識を科学技術に転用しないことだ。学園都市の技術力をそちらに渡すのは些か参る。それと彼の生み出す「未元物質(ダークマター)を定期的に学園都市へと供給すること。彼の能力を開発した側として、これだけは認めて貰わないと困る』

 ここまではローラの予想通りだった。
 外とは十年以上先をいく学園都市の技術力。幾ら比較的良好な関係にあるイギリスとはいえ魔術サイドの一角であることには違いない。魔術サイドに科学サイドの技術を与えたくはないだろう。
 ローラもそれは承知していた。学園都市の技術力、それには確かな旨みはあるが、ローラが一番欲しているのは垣根帝督という怪物の齎す『軍事力』だ。この際、技術力は手放して構わないだろう。
 学園都市へ『未元物質(ダークマター)』を供給するというのも、学園都市側が能力開発したという事情を鑑みれば仕方のない事だ。

「次は?」

『垣根帝督をイギリス清教側の外交特使とし、定期的に学園都市へ滞在させること』

「定期的、というのは曖昧で良くないにけるわね」

『では一年の半分、これでどうかな?』

「長過ぎる。七分の一が精々」

『私達にも都合がある。一年の三分の一、それが限界だ』

「……仕方なきしけるわね」

『最後の条件。こちら側でなにか問題が発生した際、あくまでイギリス清教の援軍という形で彼を使いたい。正直、彼の手によって多くの人的資源が失われてね。その損失分を埋めたいのだよ』

「……良いわ。土御門のこともありにしけるから。ただし垣根帝督を使う際、彼の基本的人権を尊重すること」

『了承しよう。さて……話が終わったのなら失礼する。私にも戦後処理などが立て込んでいてね。ややこちらに噛みついてきた鼠に慈悲をかけなくてはならない』

「そう。では御機嫌よう、アレイスター」

 挨拶も返さずに映像が消える。会談は大凡予定通り終わった。
 ローラにとってもこの結末は予想通りといえるものだが、恐らくアレイスターにとっても同様だろう。なんだかんだで垣根帝督のことを完全には手放さなかった。"メイン"を擁することの余裕か、それとも何か企んでいるのか。
 本当に腹が黒い。
 自分のことを棚に上げてローラはそう心の中で毒づいた。

「……終わったのかよ、最大主教様よぉ」

 柱の陰から退屈した様子の垣根が姿を現した。
 ただしその目は先程までアレイスターの映っていたPCを鋭く睨んでいる。そして片方の目はローラを睨んでいた。
 実の所、垣根帝督を強力無比な『軍事力』として抱き抱えることを提案したのは垣根帝督本人だった。彼は自ら自分を兵器としてローラへと売り込んだのである。

「にしても意外ね」

「何がだよ?」

 無愛想に垣根が応じる。

「てっきり貴方は私のことを大層恨んでいると思っていたけるから。禁書目録の『首輪』というシステムを作り出したこの私を」

「恨んでるさ。今でもその小奇麗に化粧した顔面を涙ど泥でぐちゃぐちゃにしてえと思ってるよ。だがな、テメエをぶっ殺したところで何がどうする訳でもねえ。力だけあったってこれから先、生きてはいけねえ。軍事力だけじゃ学園都市って言う権力相手するには分が悪い。俺とインデックスが取り敢えずの身分と平穏を獲得するには、学園都市に肩を並べられるような権力を利用するしかねえんだよ。イギリスっていう世界大戦の戦勝国っていう権力をな」

 ただの頭が良いだけの鉄砲玉と思っていたが、考えを改める必要があるようだ。暴れるだけではなく、それなりに未来への戦略も考えているらしい。

「……だけど勘違いするなよ。俺はテメエの狗になった訳じゃねえ。俺はもう誰にも支配されたりはしねえ。形としてはお前に従ってやるが、俺はただ利用してるだけだ。イギリスって国の権力を」

「結構。そちらがイギリスを利用するのなら、私は私で貴方の力を利用させて貰うだけ」

「相互利用。それで一応は手打ちしといてやる」

 垣根はそれだけ言うとさっさと教会から出て行ってしまう。
 恐らくインデックスの所へ行くのだろう。
 ローラは黙って垣根帝督の背中を見送った。心からの微笑を浮かべて。




「ほら、さっさと行くぞ!」

「人使いが荒いって。はぁ、上条さんは病み上がりなんですよ」

 溜息を吐きながらもツンツン頭の少年、上条当麻はイギリスの魔術結社を率いるボス、バードウェイに続いて空港の改札口を抜ける。
 第三次世界大戦終盤、ガブリエルの浮上という危機から世界を守る為、ベンツへレムの星と共に極寒の海へと堕ちた上条は、偶然そこを通りかかったバードウェイに救出され一命を取り留めていた。
 普段は不幸だというのに肝心なところで悪運が強い。それが上条当麻という少年特有の属性だった。

「はぁ、学園都市の皆は元気かな」

 上条はもう随分と長い間帰っていない街へ思いを馳せる。
 同級生の青髪ピアス、土御門、吹寄、姫神。それに担任の子萌先生。思えばイギリスでのクーデターからこっち、一度も学園都市へ戻ってない。出席日数も大変なことになってるだろう。ガブリエル浮上を食い止めたことに免じて出席日数をどうにかしてくれないものか。
 無理だと思いつつ上条はそんな願いを祈ってみた。どうせ叶うことはないだろうが。

「御坂、元気かな。あいつ……最後、泣いてたからな」

 御坂とも碌に話していない。
 結局自分のせいで『神の右席』なんて厄介事に巻き込んでしまった。学園都市に戻ったら一度謝罪しなければならないだろう。

(はぁ。また御坂の買い物に付き合わされたりすんのか。今度はなんだ? 勉強を教えてー、とか言うお願いなら可愛気があんだけどな)

 しかし現実は非常である。LEVEL5である御坂の頭脳は中学生でありながら、高校生でLEVEL0の上条を大きく上回っており、上条が教えることなど何もないどころか寧ろ上条が教えられる側だ。偶には年上の貫録を見せたいと思う今日この頃だが、学力では一生かかっても追いつけそうにない。

(……不幸だ。でも)

 不思議と嫌な感じはしない。
 学園都市での日常。到底幸運とはいえない日々ではあるが、自分はそんな日々が幸せなのだろう。
 清々しい顔で上条は日本行きの飛行機に乗り込んだ。


 打ち止め(ラスト・オーダー)を救い上げ、ついでに番外個体(ミサカワースト)をも引き込んだ学園都市最強の怪物、一方通行は暗部の人間が乗る輸送機をハイジャックして凱旋中だった。
 打ち止めは疲労が溜まっていたのかすーすーと眠っている。番外個体はニヤニヤと気味の悪い笑みをこちらに向けていた。もしかしたら今も一方通行を殺す算段でもつけているのかもしれない。

(餓鬼は呑気に寝んね中かァ。まァ、あンだけ色ンなことがあったンだァ。仕方ねェっちゃァ仕方ねェ)

 学園都市の科学とは違う未知の技術。
 大天使というオカルトの塊。
 垣根帝督との再会と共闘。
 今までの黒翼と異なる真っ白い翼。
 一々並べればキリがない。本当に密度の高い時間だった、ロシアでの旅は。

「んーっ! 第一位様はおねむの時間でちゅかーぁ!? ぎゃははははははははは、似合わねぇ!」

「あァン?」

 喧しい笑い声をあげるのは勿論、番外個体。
 一万人の妹達(シスターズ)のネットワークから意図的に負の感情を拾いやすいように作られた番外個体は、他のどの妹達より一方通行のことを憎み切っている。その笑い声にも確かな嘲笑があった。
 
「…………」

 もしもここでこうして笑っているのが木原数多なら、一方通行は容赦なくスクラップにしていただろう。だが番外個体は仮にも妹達の一人。番外個体がどれだけ一方通行のことを憎もうと、一方通行にとって番外個体は守るべき相手だ。守らないといけない人間だ。

「目、眠たそうだよぉ? ねんねする? ねんねする? ほらほら、今ならミサカが膝を貸してあげるよん。どう、ひ・ざ・ま・く・ら。男の夢なんでしょ」

 鏡に反射された自分の顔を見る。
 成程。確かに番外個体の言う通り眠たそうな目をしていた。どうやら疲れていたのは打ち止めだけではなく自分もらしい。

「糞が。喚いてンじゃねェよ。飛行機では口を慎みましょォってテメエの頭には入力されてねェのかァ。それに生憎だが、俺もまだ死ぬ訳にはいかねェンだよ。テメエなンぞに首ィ預けたら預けた寝首をブチ斬きられンだろォが」

「素直じゃないねぇ。もしかして照れちゃってる、第一位」

「冗談はお頭だけにしろォ。たっくよォ。他の妹達の静かさを見習え」

 一方通行は腕を組んだまま目を瞑る。
 彼が眠りの世界に旅立つのは一時間後のことだ。



 ロシアで世話になった人達に挨拶をしてから、浜面は日本へ帰還する用意を整えた。幸い学園都市暗部の人間との『交渉』で足の充ては出来た。
 『体晶』のせいで一時は生死の境をさまよった滝壺も健康そのもの。それでも不健康そうに見えてしまうのは滝壺が幸薄のせいだろう。
 一人の女を救うため戦争中のロシアを走り回る。そんなハリウッド映画並みの冒険をした第三の主人公浜面といえば。

「おい浜面。ちんたらしてんじゃねえよ、この場で解体してやろうかァ!」

「は、はいぃ!」

 何故かアイテムのパシリに逆戻りしていた。
 片腕と片目がなく一番重傷の筈の麦野だが何故か五体満足の浜面よりもピンピンしている。凄い生命力だと感心せざるをえなかった。

「くそぅ、なんで俺はこんな目に……」

「大丈夫だよ、はまづら。いつまでたってもパシリなはまづらを応援してる」

「滝壺さぁぁぁん!」

 哀れ自分の彼女にまで同情された浜面は心の汗を流す。
 どんなに大冒険をしてもやはり浜面は浜面のままだった。つまりはそういうことだろう。
 だが決してこの戦いは無駄ではなかった。
 学園都市の……腐った上層部のせいでバラバラになった『アイテム』。それが再び戻る事が出来たのだ。絹旗も学園都市で待っている。

(だけど贅沢を言っちまえば、フレンダの奴も生きてりゃあな)

 浜面ば馬鹿だ。もし高校に入り直せば赤点をとる自信があるし、留年する可能性が大だ。だが死人が蘇らないことくらいは知っている。
 スキルアウトのリーダーだった駒場が戻ってこないように、あの抗争で死んだフレンダも帰ってくることはない。
 死者は蘇らないのだ。
 生者は死者が戻らないことを受け止め、未来へと進まなければならない。
 『アイテム』は希望に満ちた未来へむけて、学園都市の帰路についた。



 死者は蘇らない。
 確かにその通りだ。この異能渦巻く世界には不死の人間はいるかもしれないが、大抵の場合、死んだ人間が蘇ることはない。それこそ神に匹敵する奇跡か、神を冒涜する奇跡がなければ死者が蘇ることはないだろう。
 死者は帰ってこない。しかし逆に言えば死者でなければ帰ってくるということだ。そしてフレンダ=セイヴェルンは正史とは異なる死者ではなく生者だった。
 冥土返し(ヘブン・キャンセラー)と謳われる名医のいる病院で、上半身と下半身が分断されるというホラーも真っ青なことになったフレンダは、ほぼ全開した状態で元気に鯖缶を食べていた。

「うぅん、まさか病院で鯖缶が食べれるとは思わなかった訳よ!」 

 入院中の病室にフレンダの元気の良い声が響く。
 一応入院中なので病院から出されるもの以外は厳禁なはずだが、フレンダはそんなこと知るかとばかりに鯖缶をパクパク食べ続ける。

「はぁ、お前は変わらないな」

 呆れたようにレイビーが溜息をつく。
 冥土返しが手をまわしてくれたお蔭か、一応レイビーやフレンダに暗部がちょっかいをかけてきたことはなかった。
 もしかしたら『どうでもいい』と判断されて放置状態なのかもしれない。表向きはただのLEVEL4のレイビーと対して貴重な能力者でもないフレンダ。学園都市からすれば使い捨てのきく人間の一人だろうから。

「大体な、お前は上半身と下半身分断されてたんだぞ。そこんとこ分かってんのか?」

「だから感謝してるって。なんだかんだでフレメアの面倒も偶に見てくれてるし」

「一応お前は『死人』だからほとぼりが冷めるまで名前は出せないけどな」

 レイビーは頭を抱えたくなる衝動を抑える。
 これでも自分は平和と平穏を愛する一学生に過ぎぬと思っていたのだが、フレンダと出会ってからというもののどうにも厄介事にストーキングされっぱなしだ。
 
「相変わらず仲が良いわねぇ二人とも」

 フレンダの向かいのベッドに腰掛けた少女が、手に持ったファッション誌に視線を落としながら言った。

「何が仲が良いだ、心理定規(メジャーハート)

「喧嘩するほど、ってやつよ。心理定規の私が言うのだから間違いないわ」

 レイビーが反論するも心理定規はくつくつと笑うだけだ。
 心理定規――――冥土返しから聞く所によると、彼女も暗部抗争で重傷を負ってここに運ばれたらしい。今ではフレンダと同じ『死人』だ。わざわざ死体安置所に、ここの医者が作ったという『人間そっくりの人体模型』を置いてまで偽装したらしい。
 レイビーは詳しい事を聞いていないが、なんでも昔の遺産だそうだ。
 心理定規は身体の治療こそとっくに完了しているが、なにやら重傷を負ったショックで記憶を失ってしまっているそうだ。今では暗部として生きていたことも自分の名前もなにも覚えていないらしい。
 だからレイビーもフレンダも彼女の能力名である『心理定規(メジャーハート)』と呼んでいる。

「たっく。……あー、そうそうフレンダ。今度の『とあるゲコ太のカエル目録』の試写会なんだけどな」

「えぇー、またゲコ太ぁー?」

「また、とはなんだ! またとは! いいかお前、ゲコ太というのはだなぁ!」

 プンスカと怒りながらも楽しそうにレイビーはゲコ太の魅力について語っていく。
 ほとぼりが冷めた後、二人でゲコ太映画にいく約束をしたのはこれから五分後のことだった。




 上を見上げるとお日様がキンキンに光っていた。
 つい先日まで世界中を巻き込んだ第三次世界大戦があったなんて信じられない陽気だ。普段こうして空なんて見ない垣根だが、今日ばかりは素直に空を美しいと思う。

「もう遅いよ! ていとくっ!」

 教会から出てきた垣根をずっと待っていたらしいインデックスが迎える。腕を組んで「怒ってるんだぞ」と精一杯に主張していたが、垣根はどこが可笑しくて笑いを零した。

「むぅ! どうして笑うの?」

「悪い悪い。なんだか……可笑しくてな」

 本当に穏やかな気分だった。
 心にあるモヤモヤが消えて、ただ光り輝くお日様が照らしている。今日の心の天気予報は晴れだ、快晴そのもの。
 雨・雪・嵐・曇り。今まで垣根の心は悪天候ばかりだった。
 だけど今は違う。
 ヒマラヤで迎える元旦の日の出よりも垣根の心は清く澄み渡っている。
 こんなにも清々しいのは生まれて始めだ。

「行こうぜ」

「……うん!」

 自然にインデックスの手をとって歩き出す。
 周りの視線も気になりはしなかった。こうして二人で歩いていると本当に自分が最高のハッピーエンドというやつを手に入れたのだと実感する。
 辛い事なんて日常だった。
 死にかけたのは一度だけではない。
 離れ離れになることもあったし、何度も敗北したこともあった。
 しかし垣根とインデックス、二人はこうして此処にいる。こうして明るい道を歩いている。

「ていとく!」

「なんだよ?」

 一筋の風が吹く。
 二人の未来を後押しするように。

「長かったね」

「ああ、長かった」

 短く、万感の思いを込めて呟く。
 時間にすれば数か月。されど永遠のような長い冒険。

「ていとくは何度も何度もボロボロになって最後は頭がすっからかんに吹っ飛んじゃって……私は、ていとくが死んじゃったと思ったよ。もう二度と会っちゃいけないんだって、そう思った」

「バーカ。いいか、インデックス。テメエの耳をかっぽじって肝に銘じろ」

 垣根は最高の笑顔を浮かべて見せる。
 自信満々に悲劇の結末を描こうとした脚本家に言ってのけた。

「この俺に常識(バッドエンド)は通用しねえ」

 風にゆられ木々が踊る。
 それが返答だった。この物語は垣根帝督とインデックスの勝利に終わった。彼等は悲劇という運命に勝利して最高に幸せな結末(ハッピーエンド)をその手に掴んだのだ。

「ずっと、ずっと一緒にいようね! ていとく!」

「何を今更……」

 垣根は目を閉じる。
 そして未来へ向けて答えた。

「一生一緒にいてやるよ。答えはきかねえ」

 垣根帝督とインデックスはゆっくりと歩きだす。これは冒険の続きだ。冒険とは世界中を回ることだけでもない。人生という、生きることこそが冒険だ。そう、二人が歩むは永久なる旅路。人生という大冒険だ。






―――――――――――Congratulations! Very Happy End!



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