「キラ・ヤマト、フリーダム行きます!」

 エターナルの脱走事件に巻き込まれてから、そのままなし崩し的にフリーダムのパイロットとなったキラは初めて迷いない声と共に出撃した。
 はっきりいって戦争はどちらが正しいかや、平和についてなど分からないことだらけだ。
 だがこのままジェネシスを放っておけば地球は滅びるという一点は明白だった。地球にはオーブがある。オーブにはサイやトールなどの友達がいる。
 オーブだけではない。地球には100億人もの人間がいるのだ。
 戦うことは今でも嫌だ。好きになる事など永久にないだろう。だが地球を守るためなら、どれだけ戦争が嫌いでも命を賭けることはできる。

「ザフトの……軍勢」

 フリーダムの姿を目撃したザフトのMS部隊がこちらに接近してくる。
 ジェネシスなんて兵器を守ろうとするザフト軍達に苦々しいものを感じながらもキラはビームを照準、MSの頭部や腕などのパーツを正確に撃ち抜いた。
 第八艦隊に拾われた時になにかと世話をやいてくれたキャリーの戦い方を真似たものだ。フリーダムの性能は従来MSの性能を超越している。この性能があればMSを殺さずに無力化するのはそれほど難しいことではない。
 
『ミーティア、リフトオフ』

 エターナルからフリーダムの追加装備であるミーティアがパージされ、そのままフリーダムと合体する。
 これでフリーダムには従来MSの数十倍もの火力が備わった。

「やってやる。地球を守るためなら……やってやる!」

 七機のMSを一瞬で撃墜したフリーダムはミーティアのバーニアを吹かしてジェネシス防衛部隊に突っ込んでいく。
 フリーダムのマルチロックシステムが防衛部隊を照準する。キラがトリガーを引くと同時にミーティアとフリーダムから発射されたビームとミサイルの一斉放火がMSや艦船を撃墜していく。近くに来る敵はミーティアの巨大ビームサーベルで切り裂く。

「邪魔をするな、あんなもの残しちゃいけないんだ!」

 鬼神を思わせる戦いぶりで周囲のMSをなぎ倒しながら、連合の核攻撃部隊が通るための道を切り開く。
 まさか核攻撃をサポートするなんてこの宙域に来たときは考えもしなかった。だが今はそうするしかない。

(それにエターナルに通信をくれたのはミュラーさんだ)

 ミュラーが悪い人でないことは実際に話したキラも知っている。あの人ならプラントに核攻撃を仕掛けて皆殺しにする、なんて暴挙はしないだろう。
 そもそもエターナルからしたらミュラーを信じる以外にないのだ。エターナルの戦力だけでは連合とザフト、両方を倒して核攻撃もジェネシスも防ぐなんて言うのは不可能。どちらか一方と共同戦線をはる必要がある。
 共同戦線をはるならジェネシスという兵器を持ちだしているプラントよりは、ミュラー率いる連合軍の方が信用に足る。
 ミーティアはかなり良い働きをしてくれていた。
 この火力ならザフト防衛部隊の精鋭が相手でもどうにかなるかもしれない。キラがそんな淡い期待を抱きかけた時だった。
 フリーダムの前に真紅のMSが立ち塞がる。

『……キラ、なのか?』

「あ、アスラン!?」

 懐かしい親友の声にキラは目を見開く。一度は連合とザフトに別れて殺しあったキラとアスランは再び敵同士として対峙する。
 
『話は、聞いている。お前がラクスと一緒にプラントから逃げたって。けどまさかフリーダムに乗ってるなんて、流石に思いもしなかったよ』

 アスランの声に宿るのは悲しさでも怒りでもない。ただどうしようもない遣る瀬無さだけだ。
 疲れ切った老人のような雰囲気を纏いながらアスランはミーティアを装備したフリーダムに近付いてくる。
 はっ、とキラは我に返った。今はこんなことをしている場合ではない。一刻も早く、第二射が撃たれる前にジェネシスを破壊しなければならないのだ。

「アスラン! お願いだ、そこを退いてくれ! 僕達はジェネシスを破壊するためにここに来たんだ! アスランだってこのままジェネシスで地球を滅ぼすなんてことが悪いことだって分かるだろう!?」

『……そうだな。俺も、幾ら何でも地球滅亡のトリガーを引くなんてどうとは思うよ。けど』

 アスランの乗る真紅のガンダムの緑色のツインアイが輝く。なにを、と思った時にはフリーダムの追加装備であるミーティアはアスランのビームサーベルによってバラバラに切り刻まれていた。

『俺はパトリック・ザラの息子の、ザフトのアスラン・ザラだ!』

「アスラン!? どうして……どうして分かってくれないんだ!」

 データでだけ見た事がある。アスランの乗る真紅のMSの名はジャスティス。フリーダムと同時期に開発されたニュートロンジャマーキャンセラー搭載型MS。
 フリーダムが火力を活かした中〜遠距離戦を得意とするのに対してジャスティスが得意とするのは速度を活かした近接戦闘。
 相手の有利な場所で戦う事はない。キラはビームでジャスティスを撃ちながら距離をとっていく。

『分からないって? 分かるさ! 俺にだって地球を滅ぼすのが間違いだってくらい!』

「ならどうして!」

 ジャスティスがビームを高速で回避しながら突進してくる。命を投げ捨てるような突撃に寒気が奔った。

『父には……俺しかいないんだ! 母を失った父上に、息子の俺がいなくなったら一体誰が父の味方になるんだ!!』

 自分自身の迷いを振り払うかのように咆哮したアスランは、ジャスティスのビームサーベルを全体重をかけて振り下ろしてきた。
 フリーダムはシールドでそれを受けつつ、コックピットを蹴り飛ばす。

『ぐっ……っ!』

 ジャスティスがよろめく。そこを狙いキラはジャスティスの両腕を破壊しようとビームサーベルを抜くが、今度は逆にジャスティスの投げつけてきたビームブーメランを躱すのに体勢を崩してしまった。
 攻守が入れ替わる。ジャスティスがビームライフルを撃ちつつ、もう片方の手でビームサーベルを構えた。

「父親の、味方だって?」

『そうだ!』

「そんなのは違う! 本当に大事ならただ従うだけじゃー―――――」

『お前に、俺のなにが分かる!』

 アスランの中でなにかが弾けた。ジャスティスの動きが見違えるように鋭く鋭利なものへと変わる。

『どちらにせよもう戦いは止まらない。地球かプラントか、どっちかが滅びなければ終わらないほど戦争は進んでしまった。俺はプラントに住むコーディネーターだ。どっちかが滅ぶしかないなら、プラントを選ぶしかないじゃないか!』

「違、う! まだ道はある、プラントも地球もどっちも亡びないで済む道が!」

『ない!!』

「ある!!」

 キラの中で何かが弾けた。全神経がクリアになる。あらゆるものがまるでスロー再生のように感じられ、呼吸の一つ一つが鮮明に聞こえてきた。
 これで互角。キラ・ヤマトとアスラン・ザラは互角となった。
 ジャスティスがビームサーベルを振りおろし、フリーダムがビームサーベルを構えて切りかかる。

「僕には――――守りたい世界があるんだ!!」

『うっ……』

 最後の一瞬、ジャスティスの動きが怯む。
 アスランには迷いがあった。地球を滅ぼしてまでプラントを残すのが正しいのか、どちらかが滅ぶ以外に道はないのかと心の奥で悩み続けていた。
 対してキラには迷いがなかった。これまでずっと迷いながら戦ってきたが、地球を守るというシンプルな大義の前に悩みなどはなかった。
 それが勝負を分ける。
 フリーダムのビームサーベルはジャスティスの四肢を切り裂くと戦闘不能にする。

「アスラン、ごめん。でもまた……また今度は」

 それ以上キラは何も言う事は出来なかった。
 ジャスティスをおいてフリーダムは再び連合とザフト両軍が激突する戦場へと突き進んでいく。

「……あれは」

 連合軍から遂に本命であるピースメイカー隊が発進する。ピースメイカー部隊はキラたちが切り開いた血路を通ると、ジェネシス目掛けて核ミサイルを発射した。
 ジェネシスは大規模なPS装甲に覆われており、陽電子破壊砲をもってしても破壊は難しい。しかし核ミサイルならただの一発で破壊することができる。
 もはや核の道を塞ぐものはなにもない。これで取り敢えず地球滅亡は防げる、と思ったその時だった。
 宇宙全体を埋め尽くすような緑色のビームの光が核ミサイルを悉く撃ち落としていく。

「あ、あれは!」

 核ミサイルを撃ち落としたのは灰色のガンダムだった。巨大な星のようなものを背中に装備した姿は仏教における仏を思わせる。
 そのMSに乗るのが誰なのかキラには直感で理解できた。

『ふふふふふふ。プロヴィデンスガンダム、あの男に出来て私に出来ないはずがない』

 ラウ・ル・クルーゼ、この戦争の真の黒幕ともいえる男は自身に与えられたプロヴィデンスのコックピットで優雅に笑った。
 そしてジェネシスの第二射が放たれる。ジェネシスの第二射は地球連合の部隊を消し飛ばしながら、地球連合宇宙軍の本拠地である月基地を焼き払った。
 勝利に手をかけていた連合軍は再び地獄へと突き落とされる。だが連合が地獄に堕ちると同時、動いた男がいた。

「私のMSの準備は?」

「OKですぜい。突貫工事でしたがどうにか間に合いました」

 ミュラーはシナンジュにやられ損傷した自らの愛機を見上げる。
 TPSで守られてトリコロールの機体の右腕と左足が黒く染まっていた。だが良く見ればそれは染められているのではなく、別のパーツを換装したのだと分かる。
 ストライクが鮮やかなトリコロールの装甲をしている分、純黒の右腕と左足が隠しようもない違和感を醸し出していた。

「予備のパーツがなかったんで、坊主のロングダガーを使いました。お気に召しましたか?」

「マードック曹長。来月の給与は増額するよう言っておくよ。……まぁ、来月に地球が残ってればの話だが」

「大佐ならやれますよ。俺達の御駄賃のためにも頑張って地球を救ってください」

「善処する」

 ザフト軍にとっての恐怖の代名詞。地球連合軍で最強と謳われるエースがストライクのコックピットに乗り込む。

「ナイン、私を導いてくれ」

 ナインから託されたハウメアの守り石を首にかける。ハウメアの守り石だけではない。ストライクにはナインが遺した右腕と左足がある。
 どれだけ不格好なMSでもミュラーにとっては最高のMSだ。

「ハンス・ミュラー出撃する」

 あらゆるもに決着をつけるため、ミュラーは宇宙へと飛び出した。地球を守る、そのために。 



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