リアス・グレモリー眷属の騎兵を務める私――木場祐子は現在、町から離れた山中にあるグレモリー家所有の別荘に来ています。
別荘に来た理由は、約10日後に行われるライザー・フェニックス氏とのレーティングゲームに備える為です。簡単に分かり易く説明すると、山籠もりでの修業ですね。
正直言って、古典的な修業方法です。しかし、私を含むグレモリー眷属の主であるリアス・グレモリー様――部長は何かを始める際、マニュアル本などがあればそれを参考に王道とも言える方法を選択するヒトなんです。
しかも、部長の場合は日本を武士や侍、忍者の国と勘違いしている、あまり国際的ではない外国人っぽい所があるから、修業=山籠もりとなってもおかしくはないのかもしれません。
もし、今回の山籠もりに救いがあるとするなら、別荘という宿泊施設があることと、修業地に滝が存在しないことだと思います。
部長は冥界の純血悪魔の中でも公爵という、貴族社会で魔王と大王を除けば大公に次ぐ上から2番目の地位にある名門の令嬢。
修業とは言え、公爵家の令嬢が野宿なんてものは考えられないのが普通です。でも、部長の場合―――
「日本の諺に、郷に入っては郷に従え、というものがあるわ。日本の修行といえば山籠もり!そして、山籠もりといえば野宿!今日からライザーとのゲームが始まるまでの間、自給自足で生活するわよ。食糧確保も修業の内よ」
と言い出して本気で野宿を始めてもおかしくなかったので少し安心しています。私自身、山籠もりで野宿をした経験は何度かありますが、今回は今までとは条件が異なりますから。
そう。今回の修行には男性――グレモリー眷属の黒一点(?)である兵藤一誠君が居るんです。部長の騎兵として、また剣士として生きる覚悟をしている私ですが、女であることを捨てている訳ではありません。
流石に女性率が高いとはいえ、男性と共に野宿する気にはなれません。そして、兵藤君がいるからこそ、私は修業地に滝が存在しないことに救いを感じた訳でもあります。
もし修業地に滝が存在したら、部長は滝行をすると言っていた可能性が高いからです。精神の揺らぎは魔力にも影響するから、精神修業が必要、と言っていたと思います。そして――
「滝行といえば白装束よ!皆、着替えなさい!……え?白装束の下に着る水着が無い?何で水着が必要なのよ。滝行には白装束だけを身に纏って行うのが普通なんでしょう?」
と言ってきた可能性が十二分に在り得たからです。部長や朱乃さんは気にしないのかもしれないけど、流石に私は男性の前で滝行をする勇気が無い。しかも、身に着けるものが白装束だけなら猶更です。
しかも、この別荘に到着するまでの山道で兵藤さん達――黒歌さんと白音ちゃんが原因で、兵藤君に異性として意識されていると判明したので、私の羞恥心は倍率ドン!更に倍!!になったに違いありません。
いえ、兵藤君が悪い訳ではないということは私も十二分に理解しているんですよ?中等部に通っていた頃から胸に視線が集まることはありましたし、その視線を向けているのも殆どが男子であることは理解していました。
色々な意味で女性に興味を持つ思春期の男子なら仕方ないとも思っているんです。ただ、彼女持ちで今までそういった目で見られなかった相手から急に意識されると、こちらとしても意識してしまうものなんです。
だって、今まで黒歌さんや白音ちゃんが部室で大胆すぎるのでは?と思える様なスキンシップを取っていたことが多々あったんですが、それに対して兵藤君は軽くあしらう様な対応をしていたんです。
学園の噂で兵藤君がハーレムを作っているというのがあったけど、私は黒歌さんや白音ちゃんを軽くあしらっている所を見ていたから、結城さん一筋で他の女性には興味が無いんじゃないかと思ってしまっていたんです。
実際の所、兵藤君は学園の全男子と比べれば無害な方なのかもしれませんけど。だって、黒歌さんや白音ちゃん、私の胸を見て私達を異性として意識してしまった直後、木の幹に何度も頭を打ち付ける様な人ですし。
これは少なからず私達を異性として意識して、邪な目で見てしまったことに罪悪感を覚えての行動だと、私は思っています。
私の知っている学園の男子で、私の胸に視線を向けてからそういった行動に出る人は1人もいなかったので、兵藤君が女性なら誰でもOKな人ではないという点については信じることにしました。
で、当の兵藤君が今何をしているかというと、私を含むグレモリー眷属の前で結城さんと模擬戦――という名のお仕置きを受けている最中です。
結城さんが『聖剣創造』で創造した細剣――兵藤君と結城さんが『ランベントライト』と呼んでいる細剣から繰り出す連続刺突を、兵藤君がひたすら逸らし続けています。
その刺突速度は転生悪魔――速度に特化した騎兵とはいえ、少し前まで人間だった人が繰り出せる速度を圧倒的に凌駕したものです。
刀身の輝きと高速とも言える刺突速度によって、無数の光の残像が生み出され、私達の目の前に広がる光景は閃光の奔流と表現するのが適切だと思えます。
例え、上位の中級悪魔でも、この聖なるオーラを纏った閃光とも呼べる連続刺突には抗うこともできず、消滅してしまうであろうことが私には容易に想像できました。下手をすれば上級悪魔でも抗うことができないかもしれません。
そんな高速の連続刺突を、兵藤君は最小の動きで刀身の腹に手を添え、逸らす様に捌き続けています。と言ったものの流石の私も、模擬戦開始直後の2人の攻防は殆ど見えていなかった訳なんですが……。
2人の攻防が見え始めたのは、目が慣れ始めた模擬戦開始後15分位です。それまでは兵藤君の周りを無数の閃光が覆っている様にしか見えませんでした。
そして、結城さんの攻撃を捌き続けている兵藤君なんですが、よく見てみると聖剣の刀身に触れている手に一切ダメージを負っていません。
普通の悪魔なら聖剣の刀身に触れた瞬間、どれだけ階級が上の悪魔であろうと触れた部位が焼け爛れます。
それこそ、結城さんの様な聖属性の武装を創造する神器を保有するか、聖剣適性を持った転生悪魔でもない限り、触れただけでダメージを負うことは避けられません。
無論、兵藤君も禁手に至った『聖剣創造』を保有しているので、結城さんが創造した聖剣に触れてもダメージは負わないでしょう。
ですが、それは刀身以外の鍔や柄に限定されます。刀身部分に触れれば、例え触れた所が刀身の腹で、触れた側が聖剣耐性のある者でも多少のダメージは負うものです。
そうであるにも拘らず、兵藤君はダメージを負いません。ノーダメージです。その点に疑問を感じた私は、更に目を凝らして兵藤君を見ることにしました。
疑問を感じてから更に20分後。目を凝らして兵藤君を見ていた私はあることに気付きました。兵藤君の左手の甲に紋章らしきものが浮かび上がっていることと、両手が魔力とは異なるオーラに覆われていることに。
それから兵藤君と結城さんの模擬戦が終了するまでの間、私が目を凝らして見続けたのは、兵藤君の刺突を捌く動作でも、結城さんの剣技でもなく、兵藤君の左手に浮かぶ紋章らしきもの一点でした。
グレモリー眷属の騎兵として、また1人の剣士として、2人の攻防から得られるものは多大にあります。しかし、それ以上に私は兵藤君の左手に浮かぶ紋章と、それが関係しているであろう魔力とは異なるオーラが気になったんです。
その理由は、2人の模擬戦を見ている私を除くグレモリー眷属の反応にあります。部長と朱乃さん、アルジェントさんが2人の攻防に目を見開くほど驚いているのに対し、黒歌さんと白音ちゃんは全く驚くような素振りを見せないんです。
これは今、目の前で行われている遣り取りが、彼女達にとって見慣れている光景でもあるということではないか、と私は推測しました。
そして、兵藤君が神器の使用と攻撃を禁じられた場合、あの魔力とは異なるオーラを使用するということを、少なくとも結城さんと黒歌さん、白音ちゃんは知っているのでは?という推測にも繋がります。
どうして、結城さんや黒歌さん、白音ちゃんの3人は知っているのに、私達の主である部長や同じ眷属である朱乃さん、アルジェントさん。そして、私は教えて貰えていないのか?
もしかして、私達は兵藤君達に信用されていないのか?アルジェントさんに関しては、話し忘れている可能性もあり得る。けど、部長をはじめとしたオカ研古参メンバーには神器の説明をした時に一緒にできた筈……。
兵藤君が神器とは異なる力を隠し持っていたことに対して、私は同眷属の仲間を疑いたくないと思いつつも、疑心暗鬼へと陥ってしまいました。
結果、兵藤君の左手に浮かぶ紋章と謎のオーラの関係性。その能力が部長達に害を及ぼすものなのか如何かを少しでも見極める為、私は意識を試合ではなく、紋章とオーラにのみ向けることにしました。
兵藤君の観察を始めて約25分後。兵藤君が両手に纏っている謎のオーラが周囲に害を及ぼすことも無く、模擬戦の終了を迎えつつあります。
どうやら、あの謎のオーラは身体強化と身体に密着させる形でのみ展開できる一種の障壁の様な効果しかない様です。取り敢えず、呪いの類の様に周囲に居るヒトにまで影響を及ぼすものでないだけ、一安心と言った所です
あと、ずっと観察していたことで兵藤君の左手に浮かぶ紋章について分かったことがあります。それは浮かび上がっている紋章の形についてです。浮かび上がっている紋章は、まるで西洋の龍の頭部を象形で表した様な形でした。
と、そんなことを説明している内に兵藤君と結城さんの模擬戦が終了してしまいました。どうやら兵藤君は結城さんの最後の一撃を、逸らすのではなく回避で終わらせたみたいです。
よく見ると、兵藤君の左手に浮かんでいた紋章と共に謎のオーラが消えています。やっぱり、紋章と謎のオーラに関係性があるみたいですね。聖剣の刀身に触れてもダメージを負わないことに、あのオーラが関係しているのも確定的でしょう。
しかし、一体どうしたものでしょう?今、この場で兵藤君に紋章とオーラのことについて問い質したい所ですが、そんなことをしてグレモリー眷属の関係に亀裂が入ったりしたら問題です。
ただでさえ、約10日後にはライザー・フェニックス氏とのレーティングゲームが控えているんです。ここでグレモリー眷属の足並みが崩れたりしたら、正直な話最悪な未来しか想定できません。
私の想定しうる最悪な未来。それはグレモリー眷属がレーティングゲームに敗北し、部長や朱乃さん、私だけでなく、結城さんや兵藤家の人達の身柄までライザー・フェニックス氏に引き渡されること。
そして、結城さんや兵藤家の方々の身柄が引き渡されたことにキレた兵藤君が、ライザー・フェニックス氏を以前言っていた永久氷壁に閉じ込め、結城さんや兵藤家の人達を引き連れてはぐれ悪魔になるというパターン。
これだけは、どんなことをしても避けなければならない未来です。兵藤君の強さは底が知れないものの、以前あった駄天使との戦いで片鱗を垣間見ることができました。
結城さんは、今目の前で兵藤君と行われた模擬戦で剣技が上級悪魔並であることが判明。しかも、明らかに悪魔としては発展途上。
黒歌さんと白音ちゃんに至っては能力値が未知数なものの、悪魔に転生する前から猫又という妖怪で、兵藤君と結城さんの遣り取りに慌てる様子も無かったことから、それなりの実力を秘めていることが予想できる。
もし、この4人がチームを組んだままはぐれ悪魔になったりしたら、SS級認定は必至。下手をすればSSS級認定のはぐれ悪魔にもなりかねません。
そういったことを考えると、やっぱり兵藤君には個人的に尋ねた方がいいかもしれません。部長には心苦しいですが、まだ完成すらしていないグレモリー眷属の空中分解を阻止する為にも、兵藤君の秘密を私の胸の内に収める必要がありそうですし。
私がそんなことを考えていると、時間切れという形で模擬戦――という名のお仕置きを終了した兵藤君と結城さんが、終始見物に徹していた私達の所にやってきた。
「いや〜。流石に1時間もアスナの連続刺突を捌いたり、回避し続けるのは骨が折れるな。使ってる得物が聖剣ってこともあって、集中力の乱れが致命傷に繋がりかねないし」
「骨が折れたはこっちの台詞だよ。体の中心を狙わない様にしてはいたけど、まさか1時間もの間殆どの攻撃を捌かれるとは思って無かったもん」
「いや、アスナさん?普通に考えて無手――『文珠』や神器の使用を禁じられたら、回避と捌く以外の選択肢は無いと思うんですけど?」
「イッセー君が一撃――掠り傷でもダメージを負ったら、その時点で私はお仕置きを終了するつもりだったんだけど」
「それは聖剣でのダメージが悪魔にとって毒だと分かっていての発言ですか、アスナさん?確かに、掠り傷程度なら致命傷にはならないけど、それでも焼鏝を押し付けられる位の苦痛はあるんだけど?」
「だから、致命傷にならない様に体の中心は狙わない様にしたんじゃない。それにイッセー君の場合、聖属性のダメージに耐性があるから、掠り傷を負っても焼鏝を押し付けられる様なダメージは負わないでしょう?」
「ある程度緩和されるってだけで、ノーダメージじゃないんだぜ。しかも、70〜80℃のお湯をぶっかけられる位の痛みはあるんだけど」
「それは少なからず厭らしい視線を向けられたことで、ユウちゃんが心に負ってしまった傷の代償だと思えばいいんじゃないかな?それに結果的には怪我1つしなかったでしょう?」
「それって結果論……。まぁ、いいや」
……あれ?今、耳を疑う様な会話が聞こえた様な気がします。兵藤君が聖なる攻撃に対して耐性がある様な会話が聞こえてきたんですが……。
部長達の方に視線を向けると、黒歌さんと白音ちゃん以外の眷属メンバーが私と同じ様に怪訝そうな顔をしている。どうやら、私の聞き間違いではないみたいです。
「……イッセー、アスナ。ちょっと、いいかしら?」
「はい?」
「どうかしたの、リアス?」
「今、私――いえ、この場に居る全員が耳を疑う様な会話を2人がしていたと思うのだけど」
「耳を疑う様な会話、ですか?」
「えっ!?私達、皆が驚く様な会話してたっけ!!?」
「ええ。転生悪魔であるイッセーに聖属性のダメージに対する耐性があるという、耳を疑わざるを得ない会話が為されていたわ。それは一体どういうことかしら?
そのことについてアスナや黒歌、白音の3人だけが知っていたことについても教えて貰えると嬉しいわね。私や朱乃、ユウ、アーシアが驚いている中、黒歌と白音だけは驚いていなかったということは、2人も知っていたのでしょう?」
「………あれ?アーシアは兎も角、部長達にも話していませんでしたっけ?」
「………どれだけ記憶を探っても、そういった重要な話を説明して貰った記憶は全くと言っていい程にないわね。というか、アーシアは兎も角と言うのはどういう意味なの?」
「いや、アーシアに関しては新しい生活環境に慣れるまでは言わないでおこうと決めていたんです。生活環境の変化って、意外とストレスが溜まるものでしょう?
只でさえ、ストレスが溜まり易い環境状態なのに、そこで更に眷属同士の保有スキルの確認とか始めたりしたら、ストレスの蓄積率がヤバいことになると思ったんですよ。
まぁ、そろそろ話してもいい頃合だとは思ってたんですが、その矢先に焼き鳥ホストの問題が発生した為、話すに話せない状態になってしまった訳なんですが……。
部長達に話していなかった件については、普通に俺の勘違いですね。説明したものだと思い込んでいたもので……。すみませんでした」
兵藤君は部長にそう謝罪し終えると、すぐに聖属性のダメージに対する耐性について話し出した。実はこの話、『文珠』を始めとする霊能力が関係していることもあってかなり長かったりします。
という訳で、説明会話の描写をカットする為、私が大まかに説明したいと思います。でも、その前にここからの説明に登場する専門用語について簡単に話しておきますね。
兵藤君は多人数が後天的に習得可能な能力や技術を保有スキル、才能や血筋といった限定条件で少人数のみが先天的に習得可能な能力や技術を固有スキルと呼称しているんです。なので、私もその呼称を使って説明していきたいと思います。
ちなみに聖属性への耐性は保有スキル、兵藤君が使用する『文珠』は固有スキルに相当するそうです。神器も移植することで後天的に得られるものですが、多人数が使用できるものではないのでカテゴリー的には固有スキルだそうです。
それではいよいよ本題に入りたいと思います。まず、聖属性への耐性についてです。先に説明した通り、兵藤君の聖属性耐性というスキルは固有スキルではなく保有スキル。
何故、固有ではなく保有なのか?それはこの耐性スキルを兵藤君だけでなく、結城さんや黒歌さん、白音ちゃんも習得しているからです。
では、部長や朱乃さん、アルジェントさん、私にも習得できるのか?と問うと、その答えは是であると同時に否であったりします。それは聖属性耐性を習得する為に、兵藤君というピースが必要不可欠となるからです。
兵藤君達が聖属性耐性を習得できた経緯には、兵藤君の固有スキルである『文珠』とその『文珠』以外に兵藤君が使用できる心霊医術という霊能力が関係しているんです。
兵藤君曰く、種族に拘らず生きとし生けるものには霊能力を行使するのに必要な霊力が備わっているのだとか。その霊力を自分の意思で自在に行使できる者を霊能力者と呼ぶそうです。
そして、兵藤君達が聖属性耐性を得た経緯ですが、これが聞いてみるととても単純な方法でした。
実は『文珠』というのは完全無欠な便利アイテムという訳ではないそうです。忘却などの簡単な記憶操作以外では、一時的にしか効果が持続しないのだとか。
しかし、その一時的な効果を半永久的に維持し続ける手段があるのだとか。それは効果を発動させた『文珠』に霊力を供給し続けるという手段だそうです。
『文珠』が刻まれた文字の効果をどの様な経緯で発揮しているのか。それを簡単に説明すると、物質化する程に圧縮した霊力を一気に解放することで発揮しているそうです。
だからこそ、効果は一時的なものとなる。記憶操作に限っては半永久的に効果が維持されるそうだけど、それも操作可能な範囲が限られていて、記憶の全てを操作することは不可能なのだとか。
そして、兵藤君が使用可能な心霊医術というスキルは、普通なら干渉不可能な生者の霊体――霊力を発生させている所を始めとする霊的器官にも直接干渉することが可能な能力。
ここまで説明すれば、察しのいい人ならどういった経緯で兵藤君達が聖属性耐性を習得――というか付与されたのかが分かったと思います。
そう。兵藤君達は『文珠』を心霊医術で霊力の発生元――魄睡と呼ばれている器官――のすぐ近くに埋め込み、経絡という血管の様なラインで『文珠』と魄睡を直結させることで、『文珠』に霊力を供給し続けられる様にしているんです。
兵藤君達が自分達の霊体に埋め込んだ『文珠』の数は各人3つずつで、刻まれている文字が聖・耐・性の3文字。
『文珠』が消費する霊力量と供給される霊力量を計算すると、半永久的に聖属性への耐性を得る為には、耐性効果を限定的なものにしなければならなかったそうだけど、それでも聖水や十字架の効果を完全に無効化することができるのだとか。
流石に祓魔弾や光剣の効果は半減、聖剣や神剣の効果は10%減が限界みたいだけど、それでも聖属性への耐性を得られるのは凄いと思います。
けど、ここまでの説明を聞いて聖属性の耐性以外に新たな疑問も発生してしまいました。その疑問とは、兵藤君達が悪魔に転生する際に使用した悪魔の駒についてです。
『文珠』の効果が基本的に一時的に発揮されるものなのだとしたら、兵藤君達が『文珠』で通常の駒から変異の駒へと強制的に変化させ、使用した駒は現在どうなっているのか?という疑問。
そのことについて質問すると、転生悪魔が厳密には悪魔ではなく、混血種に近い存在だということは知っているか?と逆に質問された。
当然のことながら、私はそんなことは初耳なので首を横に振り、尋ねる様に部長へと視線を向けると、部長も初耳と言わんばかりに首を横へと振った。
そこから兵藤君による悪魔の駒の効果の説明が始まりました。なんでも、悪魔の駒の効果は他種族を悪魔へと生まれ変わらせるものではなく、悪魔の因子を魂と身体に同化させることで後天的な混血種にするものなのだとか。
その生ける証拠とも言える存在が、黒歌さんと白音ちゃんの2人ということになります。何故、この2人が兵藤君の説明が真実であることを知らしめる証拠となるのか?それは2人が悪魔に転生する前の種族に関係するんです。
黒歌さんと白音ちゃんの2人は元々が妖怪。しかも、猫又では希少種とも言える猫魈です。もし、悪魔の駒が他種族を悪魔へと転生させる道具であるなら、2人は当然のことながら悪魔ということになります。
ここで1つ問題です。転生とは一体どういったものでしょうか?霊能力者である兵藤君の模範解答は以下のものとなります。
「転生とは、霊的能力の強化と共に新たな作り上げられた身体でこの世に再誕することを意味している。そして、転生前と転生後の容姿が完全に一致することなんてことは起こり得ない。異種族に転生したとなれば猶更だ」
要約すると黒歌さんと白音ちゃんの場合、悪魔に転生した時点で妖怪・猫又の特徴である猫耳と二尾を消失していなければおかしいということです。
つまり、2人が妖怪・猫又としての外見的特徴を残している限り、兵藤君的には悪魔の駒の効果は転生ではなく、後天的な混血種化ということになるそうです。
ちなみに、この考えからグレモリー眷属をカテゴリー分けすると、部長は悪魔(真)。結城さんとアルジェントさん、私は人魔。黒歌さんと白音ちゃんは妖魔。兵藤君は竜魔人(偽)となるそうです。
朱乃さんは兵藤君の主観では人魔にカテゴライズされましたが、元々は堕天使と人間のハーフだったみたいなので、堕天魔というカテゴリーになるのかもしれません。
兵藤君の竜魔人(偽)というカテゴリーは、人間として誕生しているものの『赤龍帝の籠手』を宿していたこともあって、魂にドラゴンの因子が少なからず含まれているからだそうです。
っと、少し話が逸れちゃいましたね。取り敢えず、兵藤君の説明する悪魔の駒の効果は、魂と身体を悪魔という種族そのものに転生させるのではなく、元々の魂や身体能力、体質を悪魔に近いものへと変質させるものだということです。
そして、魂の霊格と言えばいいんでしょうか?兎に角、魂のランクが高い存在を人魔や妖魔といった存在へと変質させるには、そのランクに等価値の悪魔の駒を使用する必要があるそうです。
複数の悪魔の駒が必要となる具体例は兵藤君ですね。城兵を2個使っても竜魔人(偽)に変質できませんでしたし。
で、当の兵藤君や黒歌さん、白音ちゃんの悪魔の駒がどうなっているかの話ですが、単刀直入に答えるなら駒自身は変異の駒から普通のものに戻っているそうです。
ただ、効果持続中に悪魔の因子を3人の魂と身体に同化させることができた様なので、体の中にある悪魔の駒が普通のものに戻っていても、グレモリー眷属の後天的な悪魔混血種であることは変わりないそうです。
流石に悪魔の因子を同化させて混血種と変質した後に『文珠』の効果が切れたからといって、元の種族に戻れるほど『文珠』は便利という訳ではないみたいです。
というか合宿初日で、しかも別に修行を始めた訳でも無く、ただ質問をしてその返答を聞いていただけなのに、何だかとても疲れた気がします。
それは模擬戦という名のお仕置きを1時間も受けた直後に、色々なことの説明をしていた兵藤君も同じ様で一息つこうとしていました。
しかし、そんな兵藤君に部長は新たな質問を投げ掛けたのです。その質問とは残ったグレモリー眷属全員に聖属性への耐性を付与させることができるか?というものです。
確かに、聖水や十字架を完全無効化できる聖属性耐性を得られれば、今度のレーティングゲームで十字架や聖水を武器として使用することが可能というアドバンテージを得られるので、かなり重要な事柄だとは思います。
ですが部長、流石に一息つこうとしている相手に追い打ちの様に質問を投げ掛けるのは如何なものかと思います。Sを自称する朱乃さんですら、「空気を読みなさい、リアス」と言わんばかりの顔をしていますよ。
そんな私達の思いも露知らず、部長は聖属性の耐性を付与できるならして欲しいと提案し始めるのですが、ここで予想外の人物から提案に待ったが掛けられました。
何と待ったを掛けたのは結城さんだったのです。いや、自他ともに認める兵藤君の正妻(?)の結城さんだったら、待ったを掛けてもおかしくはないのかもしれません。
ただ、結城さんが待ったを掛けた理由はとても予想外なものでした。多少なりとも疲れている兵藤君のことを考えての発言かと思いきや、聖属性への耐性を付与されていない私達のことを思っての発言だったんです。
聖属性への耐性を得る為には、聖・耐・性と刻まれた『文珠』を心霊医術で霊体そのものに埋め込む必要があるという説明は既にしていると思います。
その『文珠』を埋め込むという工程に問題があるそうです。実は埋め込みの作業をしている間、快楽的な意味で体中を刺激される様な感覚に襲われるそうです。黒歌さんと白音ちゃんも危うく発情期に突入しそうになったのだとか。
………そんな情報を聞かされたら聖属性への耐性を得るべきか否か、正直戸惑います。現に部長は結城さんの発言に固まってしまい、朱乃さんは顔を少し赤らめながら「あらあら、どうしましょう?」と言っています。
アルジェントさんに至っては沸騰しそうな勢いの赤さまで顔を染め上げ、立ったまま気絶しています。私もアルジェントさん程ではないものの、顔を赤くしている自覚があります。私達は一体どうすればいいんでしょうか?
あとがき
読者の皆さん、1ヶ月半ぶりです。沙羅双樹です。
まず、最初に謝罪させて頂きます。またもや、更新を遅らせてしまい申し訳ありませんでした。
正直、4月は厄年ならぬ厄月ではないか?と思える位に色々なことが起こり、執筆が全くと言っていい程に進まなかったんです。
(季節外れのインフルになったり、体調が全開したかと思えば、休日出勤と残業の日々が続いたり、性質の悪い風邪に感染したり、本当に最悪な月でした)
そして、4月末から5月上旬に掛けて、漸く落ち着いて執筆できる時間ができた訳なんですが、落ち着いて執筆した割には今話の内容、かなりカオスなものの様に思っています。
というか、今更ながら悪魔の駒の設定に疑問を感じ始めたので、今話でオリ設定を組み込んでみました。ちなみに私の感じた悪魔の駒の疑問点とは、転生システムそのものです。
原作D×Dで『黄昏の聖槍』は転生悪魔を含む並の悪魔を魂諸共屠る威力があるという語りがあったと思います。
この語りから悪魔の駒は、他種族の身体と魂を共に全くの別種族である悪魔へと変化させることが可能という機能があることが分かります。
このことで私はちょっとした疑問を感じてしまった訳です。あの小さなチェスの駒に身体と魂の両方を別種族へと完全に変化させるほどのエネルギー量が詰め込まれているのだろうか?と。
百歩譲って、その膨大なエネルギー量が詰め込まれていたとしましょう。しかし、その膨大なエネルギー量に人間の体と魂は耐え切ることができるのでしょうか?
(普通に考えたら、転生の過程で使用されるエネルギー量に身体と魂が耐え切れず、崩壊なり消滅なりすると思うんです)
GS美神に登場した上級魔族に相当するルシオラですら、自分の霊基構造を移植した横島を魔族へと転生させることなどできず、人魔予備軍の人間にするのが限界でした。
命を懸けて予備軍なのに、あんな小さい駒で転生が可能とか正直言って考えられないと思うんです。
という訳で、悪魔の駒の効果を完全な転生ではなく、後天的な混血種への種族変質という設定にしてみました。
(これならまだ、今は亡きルシオラさんも涙目にならずに済むのではないかと思います)
以上が今話のオリ設定を組み込むことに至った言い訳になります。それにしても、今話の大半を聖耐性と悪魔の駒の設定説明に使ってしまいました。
取り敢えず、次話こそは本格的な修業編に入りたいと思います。ついでにユウちゃんにはイッセーの固有スキル竜闘気の秘密に触れて貰おうと思います。
さて、それでは説明して起きたいことも終えた訳ですし、コメント返信へと移りたいと思います。
2014年03月30日22:07:52 イッセーファン様のコメントに対する返答
首を長くさせて申し訳ありませんでした!そして、今回も首を長くさせてしまいました。すみません!!orz
というか、今話は首を長くして待って頂いた価値はあったでしょうか?
某武士道仮面の如く、色々と無茶苦茶な理論を無理矢理押し通した感があるので……。
取り敢えず、これからも見限ることなく応援して頂けると嬉しいです。
2014年04月04日14:54:44 虚空様のコメントに対する返答
今回もお待たせして、申し訳ありませんでした!orz
そして、執筆及びリアル事情の両方を応援して頂き、ありがとうございます。本当に感謝の極みです。
これからも応援に応えられる様、頑張っていきたいと思います。
ちなみに、某二次創作サイトで掲載されている虚空様の作品は拝見させて頂いてますよ。(^^)
私は極端に感想のボキャブラリーが少ないので、ネタ提供以外ではあまり感想を書かないだけなんです。ごめんなさい。<m(__)m>
実はお気に入り登録もしていたりします。更新される度に楽しませて頂き、陰ながら応援しているので虚空様も頑張って下さい。
以上、WEB拍手コメントに対する返信になります。次回も6月に更新ができるか分かりませんが、できる限り頑張って更新したいと思っていますので、次話もよろしくお願いします。
(取り敢えず、更新延期は在り得ますが打ち切りなどは殆ど在り得ません!その点はご安心下さい)
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