約10日後に急遽行われることになったレーティングゲームで対戦相手を美味しい焼き鳥へと加工する為、俺――兵藤一誠は主と同眷属であるオカ研メンバーと山籠もりの修行をすることになった。
が、その修業合宿初日から俺は恋人であるアスナの逆鱗にソフトタッチしてしまったことで、初っ端からフルスロットルと言わんばかりの苦行を強いられることになってしまったのだ。
その上、俺だけでなくアスナや黒歌、白音に聖属性のダメージに対する耐性が備わっていることが、他の眷属メンバーに露見。
俺達が聖耐性を得た経緯を説明したら、そのことを知らなかった眷属メンバーは納得してくれたものの、一歩間違えれば眷属間の関係に亀裂が生じていただろうな。
まぁ、実際の所亀裂と呼べる程の不和は発生していないから、IFの話をしても意味はない訳なんだけど。ちなみにアスナや黒歌、白音以外の眷属メンバーへの聖耐性付与は見送りということになった。
見送った理由は簡単だ。流石にゲーム開始までの修業期間が限られている状態で、体に性的な意味で影響を及ぼしかねないことをするのは色々と問題があるからだ。
ぶっちゃけ、聖耐性を付与されてから数日間のアスナ達は体が敏感になっていて、顔には出さない様に努力していたみたいだけど、一挙手一投足が足腰の弱い老人の様な動きになっていたからな。
その影響が抜けきるのにも個人差があったんだよな。一番早く元に戻ったのは黒歌で、一番遅かったのが白音だったのは割と記憶に新しい。
身体の感度の鋭敏化が抜けきるのにゲーム当日まで掛かってしまったら、正直言って洒落にならないし、そんな理由で負けたとか笑い話にもならないからな。
そんな訳で、聖耐性付与はするとしてもゲーム終了後ということになり、各人自分が修業に最も適した服装に着替えて鍛錬することになった。
……え?アスナとの模擬戦はジャージに着替えてからやったんじゃないのか、って?いや、目的地の別荘に到着して荷物を置いた直後にお仕置きは執行されましたが、それが何か?
ってか、何故にジャージ?別に修業する服装は指定されていなかったから、ジャージなんて持って来てないぞ。
黒歌と白音はいつも家の道場で使用している上下共に白の剣道着を持って来るって言ってたし、アスナも家の道場でリハビリを兼ねて剣道――というか剣術(?)をする様になったから剣道着を持ってるので、恐らく剣道着を持って来ているだろう
ちなみに俺はエターナルから帰還した際に身に纏っていた最終決戦仕様の防具一式を持ってきた。『赤龍帝の外套』程ではないものの、防御力はかなり高い。
某伝奇ノベル型アドベンチャーゲームで弓兵が装備していた様な黒地に白のラインが入った軽鎧装と、複数のベルトがあしらわれた黒地のズボン。
これまた黒地で軍人が使用していそうな戦闘靴に、特殊な呪法が施された布で作られた裾が燕尾服の様に4つに分かれた赤色のインバネスコート。
以上が俺の持ってきた防具一式の詳細な説明だ。インバネスコートはメタボキングさんが作ってくれたもので、段違いな防御力を有しているものの、他の防具も1つ1つが3メガGは掛かっているから市販品としては破格な防御力なんだ。
しかも、高い値段が付いていただけあって、物理攻撃命中率UPや物理攻撃回避率UP、魔法攻撃ダメージ軽減、状態異常確率半減、LUK値UP、隠密スキル(弱)付与などの各種特典が満載な一品でもあるのだ。
この防具一式の上に『赤龍帝の外套』を纏えば、伝説級の聖剣や魔剣でもない限りダメージを負うことは殆どないだろう。
修行用に使用する服としては、些か大人気ない代物を持ち込んだと思われかねないが、この防具一式ならどれだけ過激な修業をしても服装の傷みとかを気にする必要が無いから、経済的にもいいんだよね。
まぁ、そんな訳で俺達は別荘内にある更衣室で各々が持ってきた修行着に着替え、再び玄関前に集まったんだが、最後に俺が姿を現すとそれぞれの修行着姿がカオス過ぎたせいか、その場の空気が微妙な雰囲気になってしまった。
ちなみに俺を除く各人の修行着についてだが、まずアスナと黒歌、白音は上下共に白地の剣道着。アーシアは上が白地で下が黒地となっている袴タイプの合気道着という姿だ。
アーシアが合気道着を着ているのは、家の道場で俺や黒歌、白音から合気道を習っているからだ。今は亡き爺さんは剣術だけでなく、合気道の達人ということもあって、俺や黒歌、白音は剣術だけでなく、合気道も叩き込まれていたんだ。
合気道の熟練度に関しては黒歌≧白音>俺という形になる訳なんだが……。あと、剣道着と合気道着は使われている素材や質感といったものが若干異なっていたりする。
黒歌や白音が合気道着ではなく剣道着を愛用しているのは、合気道よりも剣術をメインに修練を重ねていたからだ。
その点、アーシアは自分から攻撃をする剣術よりも、攻防一体で相手を制圧する合気道の方が性に合っていたということもあり、家の道場での稽古着が合気道着となった。
ここまでがアスナ&兵藤家の修行着の説明となる。そして、ここからが眷属古参メンバーの修行着の説明だ。
副部長の修行着は端的に述べるなら巫女服だ。俺が言える立場でもないが、修行着としては場違いな気がする。だが、眷属メンバーの半数が剣道着や合気道着といった似通った形状の修行着であった為、特に違和感はない。
最後は部長と木場の修行着についてだ。2人共、駒王学園指定のジャージなのだ。眷属メンバーの半数以上がジャージでない上、和装系修行着ということもあって浮いている。
いや、一番浮いているのは俺だってことは分かってるよ。だって1人だけ、何処のボス攻略に行くんだよ?的な格好だし。けど、アスナや黒歌達と同じ剣道着にするのは勿体ないんだよね。道着系の服って結構高いんだよ。
その点、この防具一式は稽古程度じゃ、擦り切れなんかで傷む心配が無いんだ。戦闘だけでなく、野外での修業着としてもお財布に優しい一品なんだよ。
俺がそんなことを考えていると、部長が少し躊躇いつつも俺や和装組に声を掛けてきた。
「えっと、朱乃はその巫女装束が戦闘服だから分かるのだけど、アスナ達は何故道着姿なのかしら?しかも、アーシアまで道着姿……。
似合っていないとかではないし、修行用の服装も指定していなかったから、別にその姿でも問題はないのだけど……。
あと、イッセーのその格好は何なのかしら?まるで今からちょっとした戦場に向かうみたいな恰好にしか見えないのだけど?」
「私と白音は子供の頃から家で剣術をやっていたから、剣道着が修行着として一番しっくりくるのにゃ。アスナもSAO事件が解決して、退院後は家の道場でリハビリを兼ねて剣術を始めたから、修行着としては一番着慣れている筈にゃ。
アーシアに関しても、割と最近からだけど私達と合気道の鍛錬を始めたから、修行着としては道着が一番着慣れている部類なのにゃ」
「俺の格好に関しては、人間の頃から霊能力者だったこともあって、妖魔の類と相対することが多々あったので、そういった相手と戦う時に使用していた装備一式としか言いようがありませんね。
特殊な呪法を施した希少金属や布を使用し、作り上げた軽鎧装とコートです。ちょっとやそっとの攻撃や衝撃では傷みもしない、戦闘用だけでなく修行用としてもお財布に優しい一品です」
部長には悪いと思いつつ、俺は少しばかり嘘を交えながら防具一式の説明をした。ちなみに嘘の部分は、分かると思うが霊能力者として妖魔と相対する云々の所だ。
まぁ、エターナルの勇者パーティーと一緒に魔物退治や魔神を率いた悪の教団との戦争をしていたから、あながち間違いとも言えない訳なんだが……。
「特殊な呪法っていうのは、やっぱり霊能力が関係した呪法なのかしら?流石に『文珠』の様なチート臭い装備ではないみたいだけど……、それでも規格外な雰囲気を醸し出している気がしてならないわ」
ああ。部長の第六感は正しい。『文珠』程の万能性は無いが、それでもこの装備一式がチート装備であることに変わりはないんだからな。
正直な話、このチート装備一式の装備者が世界的に有名な英雄であるなら、魔王と神、悪魔と天使、堕天使の間で行われていたという大戦に、人の身で介入ができただろう。
まぁ、飽く迄も介入できるだけで、大戦を確実に生き残れる保証はないんだけどな。俺の予想では多勢に無勢、数に押される形で殺されるのが落ちだと思っている訳なんだが……。
そして、その相手が悪魔や堕天使の場合、装備一式は略奪される。天使の場合は、他の二種族に装備一式が渡ることを恐れ、遺体諸共葬るか、封印するんだろうな。
少なくとも悪魔や堕天使に渡った場合、魔王や堕天使幹部が装備することで、天界勢力は劣勢となり衰退。冥界二大勢力が今も尚戦争を続けていたことだろう。
下手をすれば本来の目的を忘れ、装備一式を自陣の手中に収める為に戦争が続いていたことも考えられる。
そう考えると、メタボキングさんの作った装備やエターナルの最高級品装備は、どの勢力でも国宝級の扱いをされることになるな。最高級品装備は、基本的にステータスUPなんかの付加効果があるし。
メタボキングさん、パネェ!というか、エターナルの最高位鍛冶師&錬金術師がマジパネェ!!ガイアの神話体系なら引く手数多な上、破格の待遇で迎えられるな。(笑)
そんなことを俺が考えていると、部長が俺の装備一式について考えるのを止めた様で、溜息を吐きながら副部長と少しばかり言葉を交わした後、眷属メンバーに指示を出し始めた。
「はぁ〜……。服の傷みなんて、魔力は用いれば簡単に修繕できるのだけど。そういえば、魔力の扱いに関しては転移魔法陣を使用する時に、簡単な説明しかしていなかったものね」
「そう言われれば、そうですわね。あの時行った魔力運用の説明は、転移魔法陣以外は物体強化や放出、属性付与についてしか話していませんでしたもの」
「全員、魔力運用そのものについては問題なくできるみたいだし、傷んだ服の修繕や壊れた建造物の修復が魔力で可能という説明は後にしましょう。
合宿期間は10日以上もあるんだもの。急いで教える重要な事柄でもないのだから、後回しにしても問題は無いでしょう。
何はともあれ、修業を開始するわよ。まず、イッセーとアスナ、ユウの剣士組は『聖剣創造』や『魔剣創造』の効率的な使い方や剣術技能の向上に徹して頂戴。
黒歌と白音はアーシアについて、護身術として教えている合気道の指導よ。1対1でパワータイプの歩兵を降せる位に強くなって貰えるのが理想的ね。
勿論、黒歌達にもしっかりと修行して貰うわ。自分が得意とする戦闘スタイルの先鋭化に努めて頂戴。
私と朱乃は指揮官と参謀の様な立場だから、取り敢えずレーティングゲームで行われる競技の復習と、仮想ゲームを用いた戦略構築をメインに行うわ。いいわね」
「「「「「「は、はい!」」」」」」
部長のテキパキという擬音が実体化していると思える的確な指示に対して、副部長を除く眷属メンバーは気圧されつつも返答し、それぞれの組み合わせへと別れ、他の組の邪魔にならない場所へと移動した。
まぁ、今日の所はアスナと木場の『聖剣創造』と『魔剣創造』について認識改革を行うだけで、模擬戦とかまで辿り着けそうにないから移動した意味が無さそうなんだけど……。
取り敢えず、移動先に椅子の代わりを果たせそうな手頃な大きさの岩が3つあったので、アスナと木場に腰掛ける様に促し、2人が座ったのを確認すると俺も残った岩に腰掛け、まずは『聖剣創造』と『魔剣創造』の講義を始めることにした。
「さて。それじゃあ、今から俺達の修行を始め―――」
「ちょっと待って。その前に兵藤君に聞きたいことがあるんですが……」
講義を始めようかと思ったら、木場に出鼻を挫かれた。しかも、その真剣な顔から聞きたいという話の内容が、少なくとも旧オカ研メンバーにとって重要なことであることが窺える。
「何?修業期間も最短で10日と、不確定ってこともあるから修行に費やす時間を無駄にしたくないから、聞きたいことがあるなら手短にして貰えると助かるんだけど」
「それじゃあ、単刀直入に問います。さっきの結城さんとの模擬戦で左手の甲に浮かんでいた竜の頭を模した様な紋章は何ですか?」
!!?アスナの刺突速度とそれを捌き続けた俺の速度、『ランベントライト』から放たれる光から一部を除けば目視されることないと思っていたんだけど、まさか黒歌と白音以外に目視可能な奴がいたとは……。
けど、ここでエターナルのことを話すのは得策とは思えないな。これを話した結果、こと戦闘において俺が前面に出れば絶対に勝利できるとか思われても困る。
取り敢えず、『赤龍帝の籠手』を宿したことで得た副次能力とでも言って誤魔化すか。
「ああ、木場は竜の紋章に気付いたのか」
「竜の紋章?あの紋章は、竜の紋章っていうの?」
「いや、正式な名称は無いな。俺が勝手にそう名付けているだけだ」
「えっ?それって、どういう意味?」
「『赤龍帝の籠手』を宿した者――というか、ドラゴン系神器を宿した者は基本的にその身に龍の因子を宿すことになる。
俺の場合、ドライグの影響で並のドラゴン系神器よりもこの身に宿している龍の因子が強くてな。因子の影響で発生する龍のオーラに、霊力や魔力をブレンドすることで全く別物のオーラを発生させられるんだよ。
そのオーラを俺は竜闘気と呼び、そのオーラを発現している時は左手の甲に紋章が浮かび上がるんだ」
「そ、それじゃあ、兵藤君が結城さんの聖剣の刀身に触れてもダメージを負わなかったのは……」
「あっ、そのことにも気付いてたんだ。そう、身に纏っているのは聖剣から発するオーラと対極の力である魔力ではなく、龍の因子によって変質させられた霊力――竜闘気。
滅竜の能力、概念が付与されていない限りは聖剣だろうと魔剣だろうと、容易に突破することはできないんだよ」
実際の所、竜闘気を突破する方法は滅竜の武器以外にも存在する。俺が身に纏っている竜闘気を凌駕する魔力や光力、聖力、闘気を以ってすれば突破することも可能だ。
けど、そんなことまで教える必要なんてない。弱点なんて、仲間内でも晒さないでいるに限ることはないんだ。
兎に角、嘘を交えていたとはいえ、木場が気にしていたことの説明は終えた訳だし、今度こそアスナと木場にとって必要な修業の基礎ともいえる講義を始めようか。
「それじゃあ、気を取り直して今から俺達の修行を始めようと思うんだが、実技の前に俺達が共通で所有している創造系神器の講義をしたいと思う。
まず、アスナと木場は自分達の神器の能力についてどれだけ把握している?」
俺がそう質問すると、2人は頭の上に疑問符を浮かべた様な顔をし、アスナより神器使用歴が長いであろう木場が口を開いた。
「所有者がイメージした形状と能力、属性を内包した剣を創造するもの、かな?悪い言い方をすれば、真作に劣る使い捨ての大量生産で物量押しを可能とする神器?」
「まぁ、不正解ではないけど正解でもないな。その答えじゃ、欠点ギリギリ回避って所だ。創造系神器の真の特性を理解していれば、「真作に劣る」なんて言葉が出ることが無いからな」
「創造系神器の真の特性?」
俺の採点と発言に首を傾げながらそう尋ねてくるアスナ。それに俺は頷き、『聖剣創造』と『魔剣創造』禁手に至ってから『文珠』を使っての解・析で得た情報とドライグから得た情報を話し始めた。
「まず、神器には所持者となった人間、若しくは人間の混血種の魂とリンクする核と呼べるものが存在する。つまり、神器の摘出ってのは、魂とリンクした核の摘出を意味する訳だ。
だからこそ、神器を引き抜かれた者は命を落とす。当然と言えば当然だ。神器の核と一緒にリンクしている魂も肉体から無理矢理摘出されるんだからな。
で、その神器の核についてだが、基本的には魂と共に所持者の肉体に存在し続けるタイプと、所持者の肉体から外界で形成された器へと移動し、定着するタイプが存在する。
俺の持つ『赤龍帝の籠手』や、アスナと木場も所有している創造系神器は前者に相当する。もし、後者であったなら神器の損傷=魂の損傷となり、ダメージが肉体へとフィードバックされるからな。
ぶっちゃけ、創造系神器なんて使い捨ての量産兵装であることが前提なんだから、後者のシステムが採用されていたら欠陥兵装としか言いようがない。使い捨てという大前提が崩れるからだ。
また、『赤龍帝の籠手』や『龍の手』の様な近接装備型の様な神器も破損する可能性が高いから、後者のシステムが採用されているなんてことは在り得ない。
ちなみに後者に相当する神器は、アーシアの『聖母の微笑』の様な攻撃とは一切無縁のサポート系装着型神器や意思を持って動く独立具現型神器だ」
「「………」」
まずは基本的なこととして、それぞれの神器の力の源である核がどういった形で存在しているか、について説明を始めた訳なんだが、アスナも木場も目が点になっている。
俺としてはそんなに難しいことを言っているつもりはなかったんだが、説明内容が濃過ぎて分かり難かったんだろうか?
「と、取り敢えず、『聖剣創造』や『魔剣創造』の場合、剣を創造する力の源の核が自分の体の内側に存在するってだけ理解して貰えればいい」
「いや、別にそこを分かり易く言い直す必要ないよ。イッセー君の言っていることが理解できなかった訳じゃないから」
「ただ、結城さんも私も兵藤君が神器のことについて、余りにも詳しかったので驚いただけですよ」
「あっ、そういうこと。けど、俺もそこまで詳しい訳じゃない。殆どがドライグからの受け売りと、『十戒の聖石剣』や『十戒の魔石剣』を解析したことで得た知識だ。何でもは知らない、知っていることだけしか知らないよ」
どうやら、2人が呆けていたのは俺が持っている神器の知識について、驚いていたからの様だ。そのことに安堵しながら、俺は創造系神器の特性について説明を続けることにした。
「で、今度は本題である創造系神器の特性について説明していきたいと思う。と言っても、この特性は剣型の創造系神器限定の特性かも知れないんだけどな。
……で、さっきも言ったけど、『聖剣創造』と『魔剣創造』はその力の源である核が魂と共に体の内側に存在しているタイプだ。
そして、その核は魔力や聖なるオーラを最初から付与することが可能な以外、どんな形状や属性の剣でも鍛造可能な鍛冶場とイメージして貰えばいいだろう。
『聖剣創造』や『魔剣創造』の核は、所持者のイメージを元に剣を鍛造する。分かり易く言うなら、注文を受けて剣を作る鍛冶師だな。
世間一般の鍛冶師なら依頼人に剣を渡した時点で仕事が終了する訳なんだが、この核の場合は異なる。一度でも創造した剣は、その剣を創造した所持者が死ぬまで、その鍛造記録が鍛冶師兼鍛冶場である核に残り続ける。
そして、鍛造を続ければ続ける程、鍛造記録は増えていき、1つの剣に込められる概念や属性をより強力なものへと進化させることが可能なんだ。
所持者の成長にも左右されるけど、熟練度次第では禁手に至らなくても、1つの剣に2つの属性を付与させることができたり、オリジナルの聖剣や魔剣を凌駕することが可能なんだ。
その最たる例が、俺の『十戒の聖石剣』と『十戒の魔石剣』だな。使用頻度の高かった属性が10の形状を持つ剣という形で1つに集約された姿だから。まぁ、形状を変化させなきゃいけないっていうデメリットもあるけど。
そんな訳でこれから剣を創造する際、簡単なイメージではなく、柄も握り心地や刃渡りの長さ、剣の重み、属性の詳細なんかをイメージすることを意識してみてくれ。
そうすることで核の鍛造記録がより洗礼された物へと変わって、神器そのものが成長するはずだから。あと、2人にはもう1つ課題がある」
「「課題?」」
2人の質問に対して俺は1度頷き、『十戒の聖石剣』を形成して地面に突き刺した後、2人に片手用直剣を創造する様に告げた。
2人は少しばかり戸惑いつつも俺の指示に従い、アスナは『SAO』の下層で使っていた『アニールブレード』を形成し、木場は『光喰剣』を形成した。
俺は2人から剣を受け取り、右手の『アニールブレード』と左手の『光喰剣』に魔力を流し込んで強化し、地面へと突き刺した『十戒の聖石剣』を前に攻撃の構えを取る。
そう。今から行うのはアスナと木場が創造した聖剣と魔剣の試し斬りだ。無論、2本が崩壊しないレベルの魔力に抑えた上で強化している。対する『十戒の聖石剣』は全くの未強化だ。
いくら禁手化した聖剣とはいえ、強化されていない状態なら至っていない魔力で強化された『聖剣創造』と『魔剣創造』の剣で両断される。
そう思うだろう。特に俺の場合、受け取った剣を魔力で強化した上、『武器破壊』を使うつもりで地面に突き刺さっている『十戒の聖石剣』を狙っている。ちなみにどの部分が脆いかなんて、律儀に教えるつもりなんてないので悪しからず。
しかし、そこまでお膳立てされても格ならぬ核の違いというものは、覆らなかったりするのが現実だったりする。
俺が『アニールブレード』と『光喰剣』を交差させる様に、『十戒の聖石剣』の最も脆い部分に放つと、『アニールブレード』と『光喰剣』の刀身が逆に両断されたのだ。
両断された刀身部分は、2本とも回転しながら近くの木の幹に突き刺さり、数秒後に俺の手元に残っていた柄の部分と一緒に砕け散る様にその存在を消した。
「見ての通りな訳なんだけど、魔力で強化を施した自分の剣で『十戒の聖石剣』を両断するのが2人の課題ね。これができなきゃ、模擬戦なんてしてもワンサイドゲームになるのがオチだから」
「「………あっ、あああぁぁああぁぁぁ!!私の作った剣が!!!」」
「悔しかったら、俺の剣をポキポキ折れる剣を作れる様に努力してくれ」
抗議の視線を向けながら叫び声を上げる2人に、俺は心を鬼にしてそう告げた。そして、ここからアスナと木場の剣創造の猛特訓が始まるのだった。
あとがき
どうも、久し振りに2ヶ月連続更新をできた沙羅双樹です。
え〜、今回の話は前回の木場ちゃんの疑問回収と、『聖剣創造』&『魔剣創造』の設定紹介に重きを置いてみました。(笑)
ちなみにこの設定紹介、感想掲示板で最初に立ち上げられたスレで、匿名希望様と議論(?)した結果、生まれたものだったりします。ただ、掲示板で議論していた際の初期設定と若干異なっている点があったりします。
初期設定で『聖剣創造』&『魔剣創造』の核は、魔力or聖力が込められている以外、概念も属性もない、Fateの聖杯の様な何色にでも染めることが可能な無地の剣、というものでした。
この無地の剣という所を、本編ではどんな形状や属性の剣でも鍛造可能な鍛冶場という設定に変えました。
この点を変更したのには、特に深い意味は無かったりします。ただ、無地の剣が情報を記憶するというイメージより、鍛冶場に製造工程の記録があるというイメージの方がシックリと来る気がしたんです。(笑)
また、本作のオリジナル設定で全ての神器には歴代神器使用者の残留思念が存在する、というものも考えています。
(残留思念からの記憶を継承することでパワーアップするという、御約束なアレです(笑)。ちなみに歴代所有者ではなく、使用者となっているのは、所有者の中には神器に気付かず、生涯を終えた者もいるからです)
あと、この設定も初スレで誕生したものなのですが、『聖剣創造』&『魔剣創造』の核に蓄えられた製造記録は所持者が死亡し、新たな所有者へと神器が渡った時にリセットされることに本作ではなっています。
ただ、神器の深奥に居ついている残留思念の記憶はリセットされることが無いので、それ故の残留思念からの記憶継承=パワーアップだったりもします。
以上が今回の余談的な解説となります。という訳で、ここからは当てにならない次回予告に移りたいと思います。
次回は、合宿編を少し駆け足で進め、ゲーム開始直前まで持っていこうと思っています。また、ゲームの内容が原作フェニックス戦とは異なるものになる可能性があるので、その点も楽しみにして頂けると幸いです。
それでは次回も7月に更新できる様、頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。そして、本編をお楽しみに!
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