【視点:黒歌】



あれ?今回は視点切り替え方式で話を進めるのかにゃ?今まで1話毎の語り部は固定されていただけに、変なフラグが発生する前兆じゃないか心配な所にゃ。まぁ、冒頭で自己紹介をする必要が無いから、助かると言えば助かるんだけど。

取り敢えず、メタ発言もここまでにしておいて、早々に本題へと移ることにするかにゃ。実は前話同様、またしても時間軸がぶっとんでいて、私達は既にゲーム開始当日を迎えているにゃ。

私達がいる場所も学園のオカ研部室で、時刻も深夜の0時10分前。眷属メンバーもイッセーとアスナの2人を除いた全員が集まっている状態にゃ。

リアスは駒王学園の制服姿で巫女装束を身に纏った朱乃とゲームの進行について話し合いをしていて、ユウちんはリアスと同じ制服姿で、両手に手甲を着ける作業をしている。

アーシアは初めて出会った時に着ていた修道服姿で、私や白音と一緒にソファーに座っているけど、初参加のゲームに緊張しているのか、体を硬直させてる感じにゃ。

ちなみに私は黒い着物、白音は本来の姿で白い着物を身に纏っていて、白音が持ってきた御饅頭なんかの茶菓子を食べながらソファーで寛いでいる状況にゃ。

何と言うか、私と白音以外は気負い過ぎていて、逆に心配になってくるわね。私達みたいに体の力を抜いてリラックスしてないと、いざという時に自分の全力を発揮できないと思うんだけどにゃ。

とは言ったものの、流石に待ち合わせ10分前を過ぎても現れないバカップルには問題があると思うわね。イッセーとアスナは一体どこで何をしてるのかにゃ?

そんなことを考えていると、部室のドアが開いて当の本人達が漸く私達の前に現れたにゃ。


「悪い。アスナが着替え終えるのを待っていたら遅れた」
「ちょ、ちょっとイッセー君!?元はと言えば、イッセー君が待ち合わせ20分前なんかに、この服を渡してきたのが悪いんじゃない。リアルじゃ、VRMMOの中みたいに一瞬で着替えられる訳じゃないんだからね!」


相も変わらず、軽い口論すらバカップル特有の遣り取りにしか見えない空気を放ちながら現れた2人――というかアスナの姿を見て、途中参戦ではあるものSAO生還者である私と白音は思わず驚きで目を見開いてしまったにゃ。

何故ならアスナの着ている服装が、『SAO』でアスナが装備していた『ブラッディクロス』そのままだったからにゃ。しかも、イッセーが霊能系の呪法を施した布を使用している様で、一般的な防弾着より耐久力が高い仕様になっていることが一目で分かる代物にゃ。

服の部分だけでも相当な防御力を有しているのにそれだけには収まっておらず、イッセーがエターナルから持ち帰ったミスリル銀とは別の希少金属を使用したと思しき、胸当てなんかの金属系防具まで装備している始末。正直、過保護にも程があると思うにゃ。

まぁ、そういう私と白音の着物もイッセーによって霊的呪法が施されているものだし、髪留めに使っている装飾品もエターナルから持ち帰って来たお土産で、特殊効果が付与されている装飾品ということもあって、表だって過保護云々を言うことはできないんだけど。

そう言えば、アーシアの修道服にもアスナや私、白音の様な霊的呪法ではないものの、何か施されているみたい。多分、イッセーが前世で所属していた修道会の霊的術法が施されているんだと思うにゃ。

イッセーから聞いた話では、マグダラ修道会の霊的術法技術は武器なんかの攻撃面に特化していたみたいだけど、イッセーならその技術を防御の方に応用することもできそうだし。

ちなみにアスナや私、白音の服に施されているのを霊的呪法と説明しているのに対して、アーシアに施されているのを術法と説明しているのは誤字とかではなく、ちゃんとした意味があるからね。

私達の方は東洋系の呪術を基本に術式が組まれて施されているから呪法。アーシアの方は西洋系の聖術を基本に術式が組まれているから術法。

簡潔に述べるならベースとなっているのが東洋技術か、それとも西洋技術かの違いを分かり易く表現する為、呪法と術法で使い分けていると思ってくれればいいと思うにゃ。

ほら、西洋の呪術体系を魔術や聖術、法術と表現することはあっても、魔呪や聖呪、法呪って表現することは無いでしょう?つまりはそういうことなのにゃ。

と、そんな説明をしている間にどうやらゲーム開始の時間になったみたいにゃ。見覚えのある転移魔法陣が部室に展開されて、銀髪メイドが姿を現したにゃ。

「……今回のゲームに参加される眷属の方々は全員お揃になられていますね。それでは、これより皆様にはゲームを行う戦闘フィールドの異空間へと転移魔法陣を使って移動して頂きます。
戦闘フィールドはリアス様方が通われている駒王学園のレプリカとなっています。また、リアス様と眷属の方々の控室はオカルト研究部の部室、ライザー様と眷属の方々の控室は新校舎の生徒会室となっています。
控室にはアジュカ様謹製である現時点での両(キング)の駒価値を測定する機械が設置されておりますので、控室に到着し次第測定器のパネルに触れる様にして下さい。触れるだけで(キング)の駒価値が測定されます。
残りの詳しい説明に関しては、両(キング)の駒価値が確定してから行われる予定となっておりますので、その点はご了承下さい」


銀髪メイドが私達にゲーム開始前の諸注意っぽいのを言い終え、転移魔法陣を使って部室から姿を消すと、間髪入れずに銀髪メイドの立っていた所に異空間へ移動する為の新しい転移魔法陣っぽいのが展開されたにゃ。


「それじゃあ、全員準備も整った様だし、ライザーとその眷属を1人残らず消し飛ばしに行くわよ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」


私と白音、アスナにとってははぐれ悪魔討伐を除いたリアルでの初陣であり、アーシアにとっては正真正銘の初陣ということもあって、リアスの鼓舞に対して朱乃やユウちんと一緒に返事をしたにゃ。

ちなみにイッセーも結構気合の入った返事をしていたけど、こっちは初陣云々とは全く関係ないことで気合を入れているみたいだったにゃ。そして、そのことに気付いていたのが私と白音、アスナの3人だけということは完全に余談だにゃ。

と、そんなことはさて置き、私達は銀髪メイドの指示通り、主催者側が用意した転移魔法陣で異空間にある戦闘フィールドの控室へと転移することしたのにゃ。

控室は銀髪メイドが言っていた通り、転移前に私達が居たオカ研部室と同じ間取りで、家具の配置が細部に至るまで同じ部屋だったにゃ。

もし、本来のオカ研部室とこの控室に違いがあるとすれば、見覚えのないゴツい機械が置いてあることかにゃ?多分、それが銀髪メイドの言っていた駒価値測定器にゃ。

手形認証の様なパネルがあることから測定器であることは確定的だし。というか、私達の主であるリアスはこのゴツい機械が測定器であると疑ってもいないみたいで、パネルの所に手を置いてしまってるにゃ。

で、リアスがパネルに手を置いてから数秒後。リアスの(キング)としての駒価値がいきなり現れた空中投映モニターの様なものに映し出された訳なんだけど、その数値を見た眷属全員がゲーム開始前にある意味で戦慄した訳だにゃ。


【リアス・グレモリー/駒価値:4】


………私達の(キング)は、どうやら元人間であるアスナやユウちんより若干上程度の駒価値しかないってことが判明したんだにゃ。

この直後に私と白音、イッセーがとった行動はある意味必然とも言えるものだったにゃ。それは測定器が壊れていないかの確認にゃ。

だって、自分達の(キング)の駒価値が4とか信じられるはずないにゃ。悪魔の機械に詳しくなくても、測定器が何らかの不具合を起こしてないか調べようとするのを必然と言わずして何と言うのかにゃ?

そんな訳で私達は測定器に破損個所とかが無いかの確認をしていた訳なんだけど、その行動も空しく間もなくして測定器は控室から姿を消してしまったのにゃ。

そして、測定器が消えると同時にゲーム開始のアナウンスが聞き覚えのある銀髪メイドの声で流れてきたんだにゃ。


『ご両家の(キング)の駒価値測定も終えられた様なので、これよりゲームの説明をさせて頂きます。なお、此度の審判役は四大魔王様の連名による指名で私――グレイフィア・ルキフグスが担うことになっております。
そして、此度のゲームは御両家の皆様だけでなく、四大魔王様並びに魔王様方の関係者もご覧になっておられますのでご了承下さい』


にゃにゃっ!?リアスと発情鳥の家族だけじゃなくて、魔王全員とその関係者も見てるの!?前回の駄天使公開処刑でもそうだったけど、もしかして冥界にはレーティングゲームを含む戦いの観戦以外に娯楽というのが存在しないのかにゃ!!?

私――というか、この場にいる眷属全員の心中を知ってか知らずか、銀髪メイドはゲーム説明を続けているにゃ。


『ゲーム内容は20面の特殊ダイスを使用したダイス・フィギュア。フィールドは駒王学園のレプリカをご用意しております。
またゲームの進行上、フィールド全体を複数の結界で隔離したステージという形で分割し、試合毎にステージがランダムで選択される仕様となっております。
それではアジュカ・ベルゼブブ様謹製である測定器で決まった両(キング)の駒価値を発表させて頂きます。ライザー様は9、リアス様は4となります』


私達が直視したくなかった現実が、銀髪メイドのアナウンスで容赦なく突きつけられたにゃ。私達の主の駒価値は並の歩兵(ポーン)4個分。

しかも、対戦相手である発情焼き地鶏の駒価値は私達の主の倍以上。正直、どういった基準で駒価値判定がされているのか、気になって仕方がないにゃ。発情焼き地鶏の方が高いってことは、能力とか戦果が評価の基準となってるのかにゃ?

まぁ、評価基準に戦果が含まれているなら、リアスより年上であろう発情焼き地鶏の価値が高くても仕方がないことなのかもしれないけど。

と、そんなことを私が考えている間も、銀髪メイドによるゲームの説明は続いていたりするんだにゃ。


『ゲーム開始後、両(キング)には各控室に用意してある台座でダイスを振って頂くことになります。なお、ダイス操作などの不正防止を兼ね、台座の映像はリアルタイムでゲームを観覧されている方々にも流されております。
ダイスの出目合計が確定後は1試合毎に5分間の作戦タイムを設けられます。試合の出場選手はその間に選出をして下さい。
歩兵(ポーン)の出場選手はフィールドに到着し次第、プロモーションすることが可能です。ただし、試合毎にプロモーションし直す必要もございますので、その点もご了承下さい。
以上で此度のゲーム説明を終了です。これよりゲームを開始致します。両(キング)は台の前へと移動し、ダイスをお取り下さい』


銀髪メイドがゲーム説明を終えると、間髪入れずにゲーム開始の宣言がされたにゃ。そして、私達の(キング)であるリアスは銀髪メイドの指示に従い、台座の前まで移動すると滅多に目にすることの無い20面ダイスを手に取ったにゃ。


『シュート!』


銀髪メイドの掛け声と同時にリアスはダイスを振り、控室内にダイスが台座を転がる音が響く。そして、ダイスの転がる音が止むとほぼ同時に私達の前に空中投映モニターが現れ、2個のダイスの出目が映し出されたにゃ。

その数字は1と2。念の為に台座のダイスの出目を確認してみた所、私達のダイスの出目もモニターに映し出されている片方のダイスと同じで1だったにゃ。


『両チームの出目合計は3です。出場可能な選手がリアス様の眷属は歩兵(ポーン)が2名か、騎兵(ナイト)が1名。ライザー様の眷属が歩兵(ポーン)3名か、騎兵(ナイト)僧兵(ビショップ)が1名となります』


銀髪メイドの言う通り、イッセーの駒価値は2ってことになってるから、向こう側が歩兵(ポーン)を3人出して来たら、数的には不利になるにゃ。まぁ、戦いっていうのは洒落にならない物量を用いられない限り、数より質で決まるものなんだけどにゃ。


「それじゃあ、第1試合に出る選手を決めるわよ。グレイフィアの言っていた通り、この試合にはイッセーと黒歌、白音の3人の内2人がペアを組んで出るか、アスナかユウのどちらか1人が出ることになるのだけど―――」
「はいはい!私と白音が出るにゃ!」
「黒歌?」
「あの万年発情焼き地鶏がイッセーだけでなく、私や白音、アスナのことも見縊っていたことが、正直ムカついているのにゃ。この第一試合で是が非でもその考えを改めさせたいんだにゃ。
それに歩兵(ポーン)である私達が出れば、相手が歩兵(ポーン)を3人出そうと、騎兵(ナイト)を1人出そうと、駒価値的な不利を覆したことになって、リアスの評価も上がると思うんだにゃ」
「成程ね。黒歌の言うことも尤もだわ。黒歌、白音。第1試合はあなた達に任せるわ。どんな相手であろうと、必ず勝って戻ってきなさい」
「分かってるにゃ」
「兄様の様な禁手(バランスブレイカー)に至った神滅具(ロンギヌス)所持者とか、規格外な存在でもない限り負ける気は毛頭ありません」


万年発情焼き地鶏の度肝を抜きたいという考えが強かったものの、主であるリアスの将来的な評価を上げることも必要だと思って進言すると、リアスはあっさりと了承してくれたにゃ。

そして、リアスは万年発情焼き地鶏の眷属を攻略するのに必要なアドバイスを、私と白音を含めた眷属全員にしてくれたのにゃ。


「フェニックスは炎と風を司る悪魔でもあるから、その眷属も炎や風へと性質を変化させた魔力を使うことに長けている者が多いわ。
例えば、剣士であれば炎を操れる魔剣を所持していて、炎へと変化させた魔力で魔剣の能力を強化したり、徒手空拳で戦う者は腕や脚に炎を纏っているわ。
ライザーの王妃(クイーン)なんて、炎と風の性質を組み合わせた爆炎の魔力を得意としているわ」
「爆炎の魔力……。部長、それって『闇の爆発剣(テネブラリス・エクスプロージョン)』の最上位爆発剣舞、『バレッテーゼ・フレア』みたいなものですか?」
「『バレッテーゼ・フレア』?」
「ほら、駄天使公開処刑で最後の駄天使を汚い花火にしたあの技ですよ。詳細に説明するなら、『闇の爆発剣(テネブラリス・エクスプロージョン)』の所持者が指定した空間に大小様々な爆弾を任意で設置し、爆破するっていう技です。
あの時は駄天使の内側――主に内臓とかに大量の小型空間爆弾を設置した上で、外側にも体全体を覆う球状の空間爆弾を形成して、同時爆破することで跡形も残さず木端微塵にした訳なんですが……」


成程。流石に能力最大解放時の『バレッテーゼ・フレア』みたいに、相手の動きを封じた上で爆破することができるとは思えないけど、同じ空間爆破系だった場合、厄介であることには違いないにゃ。

というかあの時、内側と外側の同時爆破なんてしてたんだ。私は塵すら残さない威力の単発爆破だと思ってたにゃ。

そんなことを考えている私に対し、イッセーの所持する両十剣の大まかな能力は知っていても、技の詳細までは知らなかったリアスは若干引きながらイッセーの質問に答えたにゃ。


「何、そのチート能力?………ライザーの王妃(クイーン)――ユーベルーナは爆弾王妃(ボム・クイーン)と呼ばれているけど、彼女の能力は空間型では無いわ。
何かしらの分類に分けるとするなら、着弾型といった所でしょう。不可視の爆炎魔力をぶつけることで対象を爆破するといったものね」
「ってことは、結界の類を用いれば対応は容易って訳だ」
「そう簡単な話でもないわよ。生半可な結界だったら容易に破られるし」


まぁ、レーティングゲームの公式戦でも実質は常勝無敗の(キング)が率いる眷属悪魔だし、その王妃(クイーン)ともなれば生半可な結界で防げる様な攻撃ではないこと位、簡単に想像はできるにゃ。

けど、イッセーの所有している装置で張るマグダラ式の複合結界や、白音の結界炎ならどうかにゃ?

前者は元々が対悪魔用の結界な上、能力や出力面で強化されていて、人外の攻撃を防ぐことに関しては最強とも言える結界でもあるにゃ。後者も浄化の力を宿した結界だから、魔なる力や邪なる力を無効化する効果があるにゃ。

どれだけの威力があっても、接触した対象の力の源そのものを打ち消す様な効果がある結界が相手では、その攻撃も全く意味を為さなくなるにゃ。

兎に角、爆弾王妃(ボム・クイーン)とかいう女と相性がいいのは、今の所イッセーと白音の2人だけってことね。それにこの2人なら例え空中戦になったとしても、『SLO』で慣れてるからそういう意味でも相性がいいにゃ。

私がそんなことを考えていると、急に控室内に転移魔法陣が展開され、銀髪メイドのアナウンスが流れたにゃ。


『間もなく作戦タイムが終了致します。両チームの出場選手は転移魔法陣への移動を始めて下さい。時間になり次第、戦闘フィールドへと強制転送させて頂きます』


グレモリー側は既に私と白音が出場することが決まっているので、銀髪メイドの指示に従って転移魔法陣の上に移動すると、私達は魔法陣から放たれる転移光に包まれ、次の瞬間には見覚えのある体育館を模した戦闘フィールドに立っていたにゃ。



【イッセー視点】



黒歌と白音が控室から姿を消すと同時に、控室にはダイス用のモニター以外に試合観戦用と思しき大型の空中投映モニターが現れ、そこには黒歌と白音、発情焼き地鶏の眷属の計3名の姿が映し出されていた。

相手はどうやら騎兵(ナイト)の様で『十戒の聖石剣(ホーリーブリング・ブレード・テン・コマンドメンツ)』や『十戒の魔石剣(ダークブリング・ソード・デカログス)』程の大きさではないものの、両手用大剣っぽい大型の剣を背負っている。それ以外に特徴的なのは、剥いたバナナの皮の様な形をしたポニーテールっぽい髪型だろうか?


「相手は騎兵(ナイト)のシーリスの様ね。イッセー達にも分かり易く説明するならSTR−VIT型の剣士で、風の魔力を得意としていて、剣を振るう時に衝撃波を放ってくる中距離タイプでもあるわね」
「!!?……何でRPG用語とか知ってるんですか、部長!?」


どうやら俺の予想通り、黒歌と白音の相手は騎兵(ナイト)で当たっていた様で、部長が相手の詳しい情報を話し始めた。が、それよりも俺は部長がRPG用語を知っているという事実に驚いてしまい、そのことを隠そうともせず思わず尋ねてしまった。


「驚く所はそこなの、イッセー?……まぁ、別に構わないのだけど。眷属の約半数がVRMMORPG経験者なんだもの、少しでも眷属間の親交を深められる様、私も色々と調べたりしていたのよ。
今回の件が無事終われば、眷属全員で『SLO』をやってみたいとも思っている位なんだから」


新参者の眷属との親交を深める為、その眷属の趣味について初歩的なことから調べるとか、部長はどんだけ眷属思いなんだ?

流石に上級及び最上級悪魔全員が、部長の様な眷属思いであるとは思えない。特に駄天使公開処刑でやたら偉そうな態度を取っていた現冥界政府の上層部とかな。

あと、発情焼き地鶏の態度を見ても明らかだ。そう考えると眷属思いな行動を自然と行える部長の眷属となったのは正解だったのかもしれない。

と、俺がそんなことを考えている間も試合の進行は進み、グレイフィアさんによる試合出場選手とフィールドの説明がされていた。


『第1試合のフィールドは体育館。フェニックス眷属からの出場選手は大剣使い・シーリス、グレモリー眷属からの出場選手は猫又姉妹・兵藤黒歌、兵藤白音となります』


フィールドは体育館か。確か、この駒王学園の体育館は縦50m横30m高さ20mだったか?なら、観戦モニターに映る黒歌達と相手の距離は約30mって所か。

相手のバナナ剣士が速力に秀でた騎兵(ナイト)であろうと、戦闘スタイルがSTR−VIT型だったら、間合いを詰めるのに掛かる時間は2秒とちょっとって所か?

アスナや木場なら発展途上とは言え、AGI−DEX型の騎兵(ナイト)で効率のいい走り方も知ってるからな。30mの間合いを詰めるのに、現時点でも2秒は掛からないだろうけど。

ん?俺の場合はどうなのか?俺はエターナルでもSTR−AGI型だった上、竜闘気(ドラゴニックオーラ)が使えるからな。30mなら1秒も掛けずに間合いを詰められると思う。

って、こんな説明をしてる間に黒歌達の戦いの火蓋が切られそうだ。バナナ剣士が大剣の切先を黒歌達に向けて、やる気を隠そうともしないでいる。


『……戦いを始める前に貴様らには聞いておきたいことと、宣誓しておきたいことがある』
『敵を前にして質問と宣誓ですか?戦いを嘗めているんですか?まぁ、別に構いませんけど。手短にお願いします』
『……白髪の女。貴様はそこの黒猫の妹で相違ないか?以前あった時は見た目がうちのイルやネルと同じ位だった筈だが?』
『イルとネルというのがどなたのことを指しているのか知りませんが、以前お見せした姿は仮の姿で、今の姿が本当の姿です』
『そうか。まぁ、いい。今の貴様の姿の方がライザー様も喜ばれるだろう。おい、そこの黒猫』
『にゃにゃ?私のことかにゃ?』
『そうだ。今から貴様らも含めこの試合を見ている者全員に宣誓を行う。ちゃんと聞いておけ。本来なら一瞬でケリをつけるつもりだったのだが――』
『奇遇ね。私も同じ考えにゃ』
『抜かせ。2人掛かりとはいえ、経験の浅い歩兵(ポーン)如きが私に勝てる訳が無いだろう。あと、まだ話の途中だ。邪魔をするな』
『はいはい』


既に勝負が始まっているにも拘らず、バナナ剣士は宣誓とやらを続けようとしている。完全に黒歌達を嘗めきってるな。悪魔は能ある鷹は爪を隠すとか、窮鼠猫を噛むって諺を知らないのか?黒歌達は鼠じゃなくて猫だけど。


『ライザー様に身包みを徐々に剥ぎ、辱めてから倒せと命じられた。以前、ライザー様を笑ったことに対する罰だそうだ。女に生まれたことを後悔する恥辱を味わう覚悟をしておけ』
『うげぇぇぇ。あの発情焼き地鶏、ゲーム中――しかも、自分の眷属にストリップショーの執行人を命じるなんて、脳内ピンクにも程があるんじゃない?』
『姉様、きっと万年発情期なんですよ。発情焼き地鶏だけに』


……よし。あの発情焼き地鶏、ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・だ!あと白音、発情焼き地鶏の罵倒グッジョブ!いいぞ、もっとやれ!!今頃、発情焼き地鶏は控室で全身を熱した備長炭の様に赤くしているに決まってるからな。


『……姉妹揃ってライザー様を愚弄するとは、余程姉妹仲良く辱められたいようだな』
『御託はもういいにゃ』
『さっさと掛かって来て下さい』
『『まぁ、もう既に私達の勝ちは確定してるんだけどね』』
『は?』


主を馬鹿にされたことで静かに怒るバナナ剣士に対し、黒歌達が更に挑発をし始めたかと思えば、いきなり勝利宣言をかまし、それが予想外だったのかバナナ剣士は間抜け面を晒していた。

ちなみに観戦モニターで試合を見ている俺達は、黒歌達の勝利宣言の理由を理解している。多分、腐れ発情焼き地鶏の方も理解していることだろう。

黒歌はバナナ剣士が白音に質問を始めた時点で、水行の仙術を使用し始め、バナナ剣士の背後にバスケットボール大の紅い水球を形成していたんだ。

そして、バナナ剣士が間抜け面を晒している間に、バナナ剣士を中心として四方の5m地点に俺御手製の結界符を投擲。あっという間に紅い水球共々、バナナ剣士を結界に閉じ込めてしまった。

っていうか、あの2人が何で俺御手製の結界符を持ってるんだ?もしかして、家の工作室から無断で持ち出したのか?………まぁ、いいか。別に敵対してる相手に持ち出された訳じゃないし。

というか、こんなどうでもいい説明をしてる間もフィールド――というか結界内の状況が刻一刻と変わっていってるし、どうせ説明するならそっちの説明をしよう。

今現在、バナナ剣士を閉じ込めている結界の内側は紅い霧に覆われ、バナナ剣士の姿が影という形で何とか見えている状態だ。どうやら、バナナ剣士の背後を取っていた紅い水球が霧へと変化した様だ。

紅い霧で俺が真っ先に思い浮かべるのは、黒歌の新技である『クリムゾンソーン』の紅い毒霧なんだが、どうやら毒霧では無さそうだ。

もし、あの毒霧であるなら今頃バナナ剣士のリタイアがアナウンスされている筈だ。だが、未だにリタイアのアナウンスは流されていない。

なら、あの紅い霧は一体何なのか?結界内を覆う必要はあるのか?そんな俺の疑問に答えたのは、フィールドにいる黒歌だった。


『シーリスって言ったけ?ねぇ、シーリス。その紅い霧に覆われてから、ほんの僅かでも体を焼かれる様な痛みに襲われてないかにゃ?
その紅い霧は硫酸と同じ酸濃度の霧にゃ。いくら炎への耐性を持つフェニックスの眷属でも、体を溶解する攻撃はきつくないかにゃ?』
『ふ、ふん!この程度の痛み、どうってことはない。すぐにでも結界を破り、お前らを撃破(テイク)してやる!!』
『あれ?私達をネッチョリと辱めるんじゃなかったんですか?』
『白音、ネッチョリとは言ってないにゃ。まぁ、似た様な感じだろうけど。と、そんなことはさて置き、シーリスってばまだ元気みたいね。そんなアンタに耳寄りな情報。
その霧、そろそろアンタの頭の上で雲になる頃合だと思うんだけど、雲になったら気を付けた方がいいわよ』


黒歌がそう告げると同時に結界内を覆っていた霧が晴れ、バナナ剣士の姿がしっかりと見て取れた。体の至る所が酸によって焼け爛れている姿が。そして、バナナ剣士の頭上には黒歌の言っていた雲が形成されていた。


『霧が雲になった時、その酸濃度は王水レベルに達し、金やプラチナすら溶解する超酸性の豪雨を降らせるから』


黒歌の忠告。それは余りに血の気が引く内容であり、その光景を俺達は目の当たりにすることとなった。忠告と同時にバケツを引っ繰り返した様な紅い雨がバナナ剣士を襲ったからだ。


『ぐっ、ああっ!ああああぁあああぁぁぁぁ!!!』
『ほらほら。さっさと結界を破らないと、燦々ならぬ酸々と降る雨に溶かされちゃうわよ?』
『試合開始直後の迷演説、有言実行できそうにありませんね』


超酸性の雨に身体を焼かれ、苦痛の叫びを上げるバナナ剣士に対し、黒歌と白音は全くと言っていい程に感情の籠っていない声でそう告げた。

バナナ剣士はこのまま何もできず、超酸性の雨に体を打たれるだけで試合を終えてしまうのだろう。俺を含む試合観戦者全員がそう思っていると、バナナ剣士はその予想を上回る行動を起こした。


『眷属悪魔になって間もない新人(ルーキー)風情が、誇り高きフェニックス眷属を嘗めるなぁぁぁ!!』


バナナ剣士は自身の持つ身の丈程の両手用大剣を屋根の様に使い、超酸性の雨が極力体に当たらない様にしながら異空間から片手剣を取り出し、自分を閉じ込めている結界を破ろうとし始めたんだ。

しかし、いくら両手用大剣を屋根の様に使おうと、受けているのは銀以外の金属を溶解してしまう王水級の超酸性の雨。徐々にその刀身は雨に浸食され、屋根の機能を果たさなくなり、バナナ剣士はその身を酸で直に焼かれることとなる。

結界を破ろうとしている剣も風を纏った魔剣の様だが、滝の様に降り注ぐ超酸性の雨には為す術も無く、その刀身は酸に浸食されている。

そんな状態になっても尚、バナナ剣士は黒歌達に一矢報いる為、結界を破ろうとしている。そして、そんなバナナ剣士の一念が敵である天にでも通じたのか、ついに結界が破られた。

結界から出てきたバナナ剣士――というか、既に超酸によってバナナの皮の様な髪型を維持していた髪留めが壊れてしまってるからバナナ剣士でも何でもないんだが、取り敢えずシーリスとかいう剣士は全身のほぼ9割を酸に焼かれ、身に纏っていた服や籠手、脚甲をも酸によって溶かされ、原形を留めていない状態だ。

普通、女性の身に纏っている物が原形を留めていないと聞くと興奮するのかもしれないが、当のほぼ真っ裸状態の女性が全身の皮膚を酸で焼け爛れさせている場合は、ホラーっぽさが前面に出てしまい、ドン引きしてしまう。

多分、俺を含むこの試合を観戦している全男性悪魔が同じ気持ちだろう。特に焼け爛れた顔が垂れ下がった髪に隠れた状態で、髪の隙間から血走った目が見えていたらホラーでしかない。


『貴様らはこの酸の雨で私を撃破(テイク)するつもりだったのかもしれないが、私の耐久力を甘く見ていた様だな』


確かに、耐久力はあるみたいだな。普通なら撃破(テイク)されて選手はリタイアしてるだろう。流石はSTR−VIT型の剣士なだけはある。

シーリスは結界を破るのに使った片手剣を取り出した時の様に、異空間から新しい片手用直剣を取り出し、黒歌達に向かって駆け出した。


『結界と酸の雨の連携に余程の自信があった様だが、破られた時のことを想定していないとは、素人にも程がある!呆けてしまって隙だらけだぞ!!』


シーリスがそう叫びながら持っていた片手剣を振り降ろすと、何か堅いものに当たったかの様に簡単に圧し折れ、その刀身が回転しながら空中を舞った。


『……え?』
『隙だらけ?何を言ってるんですか?』
『これは余裕というものにゃ』


シーリスが剣を振り降ろした時、黒歌と白音を守る様に炎で形成された結界が、亀の甲羅の様に展開されていた。そう、白音の新技である八俣の炎。結界炎の『円』を発動させていたんだ。

そして、自分の剣が圧し折れたことに呆然としているシーリスに向け、黒歌と白音はそう告げると2人同時にシーリスの腹部目掛けて掌底を放ち、体育館の壇上目掛けてシーリスを吹き飛ばした。

耐久力に自信があると言っていたこともあり、まだ立ち上がるかもしれないと黒歌と白音がシーリスを吹き飛ばした先を警戒していると、壇上から淡い光が発生し、フィールドにグレイフィアさんのアナウンスが流れた。


『ライザー・フェニックス様の騎兵(ナイト)1名、リタイア』


黒歌と白音は初戦から圧倒的な戦闘能力、戦闘技量を見せつけ、完勝した。






あとがき(旧)

3ヶ月連続投稿を成功させていますが、これからも連続投稿が可能か、先行きが若干不安な沙羅双樹です。(笑)

今回は初の視点切り替え方式を使用した上、本格的なイッセー以外の戦闘シーンということもあって、書いていて緊張しちゃってました。(笑)

というか今回の話、執筆している途中でヒロインメンバーの一員である筈の黒歌と白音の方が悪役っぽいとか思っていたりしました。(笑)
(まぁ、その理由も黒歌と白音がまるで王●君+CCO様っぽくなっているのが原因なんでしょうが。(笑))

ちなみに既に分かっているとは思いますが、作中で登場した酸の霧→雨は、王●君の宝貝『紅水陣』がモデルです。あれ、結構エグいですよね。玉●さんは良く抜け出す直前まで耐えきれたと思います。

つまり、今回のシーリスは玉●さん+左之●ポジということになりますね。顔面をグーパンされていたら確実に左之●です。(惜しむらくは、フタ●ノキワミ、●ッーができなかったことでしょうか?(笑))

今回は1戦しか書けませんでしたが、次話では2戦書きたいと思っています。と、そろそろ前回書けなかった拍手コメントへの返信へと移りたいと思います。


2014年07月23日11:12:56 七様のコメントに対する返答

『天化無用!眷皇鬼』についてですが、一応現時点で4話分のストックはあります。ただ、内容の見直しと改訂をちょくちょくしていることもあり、まだ暫くは投稿できそうにありません。ご希望にお応えできず、大変申し訳ございません。


2014年08月06日12:25:52 虚空様のコメントに対する返答

いつもコメント、ありがとうございます。
やっぱりというか、前回のネタ技以外に今回もまた別のネタを投入してしまいました。
そして、今回は発情焼き地鶏眷属が1人調理されました。(笑)
(しかも、黒歌達の方が悪役っぽくなっているんですが、大丈夫でしょうか?)
フェニックス戦はあと2〜3話続きそうですが、次回も眷属調理になりそうです。
発情焼き地鶏の調理はもう少々お待ち下さい。(笑)


以上、WEB拍手コメントに対する返信になります。相も変わらず9月の更新ができるか分かりませんが、今度もできうる限り頑張って更新したいと思っていますので、次話も是非お楽しみにして置いて下さい。




あとがき(新)

あとがき(旧)で補足し忘れていたことなんですが、『紅水陣(偽)』から脱出したシーリスの状態は、フジ●ュー版封●演義に登場した玉●さん程酷くはありません。
(つまり、全身が酸に焼かれ過ぎた結果、封神直前の姿がほぼシルエット、みたいな状態ではないということです。)

しかし、全身火傷のCCO様一歩手前みたいな状態ではあります。あと、本編の描写で脱出後のシーリスの髪のことを殆ど触れていませんでしたが、髪も封神直前の玉●さんの如くロングからセミロングになる位、髪の毛が溶かされていたりします。

以上の点をご了承ください。



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