【視点:リアス】



私が幼い頃から抱いていた小さな夢―――ほんの僅かな自由を勝ち取る為のチャンスでもあるライザーとのレーティングゲームがついに始まった。

ゲーム内容はメジャーな競技ではあるものの、素人向けではないダイス・フィギュア。どうやらお父様やお母様、フェニックス家の方々は揃いも揃ってどうしても私をライザーと結婚させたいみたいね。

……まぁ、純血種の上級悪魔が少ない現状を考えれば、仕方のないことであると理解はできるのだけど。でも、そのグレモリー家とフェニックス家の思惑は、いとも容易く第1試合から崩れた。崩れてしまった。

それはゲームと実戦の両方で経験豊富なライザーの騎兵(ナイト)――シーリスが、対悪魔戦に於ける実戦経験がバイサーとの一戦のみ、ゲーム経験も皆無な正真正銘の素人(ビギナー)である黒歌と白音に手傷も負わせられず、完敗してしまったからである。

このゲームを観戦している者の中で、ゲーム開始前からこの結果を予想できた者は何人いるだろう?純血悪魔では恐らく、お兄様を含めた魔王様方ですら予想できなかったのではないかと、私は思っている。

けど、そういった純血悪魔とは真逆の反応をしている者も存在した。それは黒歌や白音と同じ転生悪魔になって間無しのイッセーとアスナである。

イッセー達は黒歌達の勝利に対して予定調和といった反応で、試合結果そのものには驚いた素振りすら見せなかったのだ。

まぁ、イッセーとアスナ、黒歌、白音の4人は全員が全員、デスゲームで最も危険な最前線を戦い抜き、完全踏破した攻略組と呼ばれる猛者だから、当然と言えば当然の反応なのかもしれないけど。

そういえば、イッセー達が学園の屋上でよく一緒にお昼を食べてる子達も、イッセー達と一緒に最前線で戦い抜いた攻略組だったわね。あの子達もこの場に居たら、イッセーやアスナの様な反応をしていたのかしら?

私がそんなことを考えていると、仕事帰りのOL――いえ、年齢的には学校帰りの女子高生かしら?取り敢えず、試合に出ていた当人たちはそんな感じで戻って来た。


「只今戻りました」
「あのバナナ女、『紅水陣』で仕留めるつもりだったんだけど、意外としぶとかったにゃ。『SLO』で言い表すならSTR−VIT型って所かにゃ?
まぁ、主は色んな意味で腐った思考回路の持ち主だけど、それでも実質公式戦無敗を謳われているチームだけのことはあったってことだにゃ」


……白音は本当に学校から帰宅した様な反応だ。黒歌に至っては、まるで学校のテストで予想外な問題が出て、少しばかり戸惑ったといった感じである。

というか、黒歌の発言から察するにシーリスのスペックは私の予想通りだったみたいね。イッセー達に自信満々で説明していたこともあって、予想が外れていたらどうしようかと思ってたんけど、予想が的中して本当に良かったわ。

私がそんなことを考えていると、黒歌達が戻って来てから大した間も空けずにグレイフィアからの放送が控室に流れた。


『第2試合開始の為、両(キング)は台座にてダイスをお振り下さい』


グレイフィアの指示に従い、台座の所へと移動した私がダイスを振ると、空中投映モニターに映るライザー側の台座にもダイスが転がり始める。そして、ダイスの転がる音が止み、モニターに映し出された出目の合計は――


『両チームの出目合計は8。組み合わせ次第でリアス様のチームは最大3名、ライザー様のチームは最大で8名の出場が可能となります』


グレイフィアの言う通り、私達の現状戦力では出場可能な選手は最大で3名。駒価値3のアスナとユウに、駒価値2のイッセーを加えたスリーマンセル。

この3人なら例えライザー側が歩兵(ポーン)を全員投入してきても勝てる確信が私にはある。でも、今後のゲーム展開を考えると、この組み合わせは容易に選択できるものでもない。

正直な話、私は自分を含む眷属メンバーの中で、イッセーが最大戦力であり唯一ライザーとまともに渡り合える存在だと思っている。そう考えると、イッセーを出せる局面はライザーが出場可能な出目数である駒価値9つ以上。

ライザーとユーベルーナを同時に打ち取れることを考えると駒価値18以上で出すのが理想的でもある。駒価値が18以上なら、私と朱乃が一緒に出て、ユーベルーナを抑えることができる訳だし。

そうすると結局出せる戦力はツーマンセル。アスナとユウの騎兵(ナイト)組を出すか、騎兵(ナイト)組のどちらか1人と私かアーシアのどちらか1人が組むかの五者択一。

けど、ライザー側が歩兵(ポーン)を全投入する可能性を考えると、取れる選択肢は1つだけになってしまうのよね。アスナとユウのツーマンセルを出すという選択肢だけに。

理由は、ライザー側の歩兵(ポーン)全員が王妃(クイーン)昇格(プロモーション)したと仮定して、今後のゲーム展開を有利に進めることができる組み合わせがアスナとユウしかないからだったりする。

私の場合、戦闘スタイルが後方支援のウィザード型な上、撃破(テイク)された時点でゲームが終了してしまうから、数で劣ってしまう試合には出るに出られない。

アーシアの場合は、使用した悪魔の駒(イーヴィル・ピース)城兵(ルーク)とはいえ、元々が私と同じ後方支援のウィザード型な上、攻撃支援ではなく回復支援型ということもあって多数との戦闘には不向き。

戦術的には犠牲(サクリファイス)という形になってしまうけど、アスナとユウなら例え試合に負けても相手戦力を確実に削ることができる。

深い情愛を持って眷属に接するのがグレモリー家の信条であるだけに、犠牲(サクリファイス)になり兼ねない策を取ることはジレンマに他ならないのだけど、私は(キング)としての覚悟を決め、出場選手の名を口にした。


「第2試合にはアスナとユウ、あなた達2人に出て貰うわ。いいわね」
「……私とユウちゃんの2人だけか。まぁ、創造する剣の完成度も上がっているし、イッセー君とやった模擬戦で剣技とかコンビネーションも成長したから、何とかなるかな?」
「はい!例え、向こうが歩兵(ポーン)を全員投入し、王妃(クイーン)昇格(プロモーション)してきても、私とアスナさんに掛かれば有象無象の集まりと大差ありません。必ず勝って戻ってきます!」
「……確かに、イッセー君との模擬戦を1日3回、10日以上もやっていたら、並の相手は有象無象に見えてくるよね」


……アスナ、ユウ。合宿期間中のあなた達の身に一体何があったの!?そんな私の疑問を知ってか知らずか、アスナとユウは控室内にある転移魔法陣の上へと移動し、控室から姿を消した。



【視点:白音】



……合宿期間中、アスナさんと祐子先輩の身に何が起こったんでしょう?部長を含めた3人の会話の最後ら辺から転移魔法陣で試合フィールドに移動するまでの間、何故かアスナさんと祐子先輩の目から光が消えていた様にも思えます。

そう。所謂、レイ●目という奴です。まさか、現実で目にすることができるとは思いませんでした。合宿期間中にアスナさん達はイッセー兄様にトラウマ級の何かをされたのでしょうか?

アスナさん達が何をされたのか気になってしまった私が、思わず兄様に視線を向けると、この控室に残っているイッセー兄様を除いた全員がほぼ同時に兄様へと視線を向けていました。


「……ん?一体何だよ?皆して俺を凝視して。俺は凝視されて性的に興奮する趣味は無いし、自慢じゃないが殺気を含んだ視線以外は視線で語られても、その意図を全て察することができる程器用な人間じゃないぞ」
「……単刀直入に聞くわ。合宿期間中、アスナ達に一体何をしたの?」


兄様に私達全員の疑問を部長が代表して質問してくれます。すると―――


「何って、模擬戦時にアスナ達が創造した剣をスティック菓子みたいにポキポキ折って、駄目出しをしまくりましたね。
一般的な刀剣の製造過程を理解していなかったので、その辺りから頭に叩き込んだこともあって、模擬戦中も気分的には鍛冶屋の親方と弟子みたいな会話をしていた気がします。
基本的な修業風景は、アスナ達の渾身の力作を創造者としての自信と共に数合の打ち合いで圧し折るといったものでしたが、それが何か?」


………それは、確かに精神的にかなりくる修業ですね。というか、アスナさん――だけではありませんが、基本的に女性には優しく接する兄様らしくない修業内容な気がします。

私がそんなことを考えているとそれを察したのか、兄様自身が私の疑問に答えてくれました。


「『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』や『魔剣創造(ソード・バース)』の様な武装創造系神器(セイクリッド・ギア)は、創造者の意思で空中に創造し、投擲武器の様に射出することはできても、創造物自身が自立行動するということはない。
つまり、近接での攻撃手段は創造者自身が創造物を手に戦うしかないということだ。近接戦は遠距離戦と比べれば命の危険度がかなり高い。
黒歌と白音に問うけど、そんな命の危険度が高い戦いで魔力なんかの強化が全くされていない剣に僅か数合で圧し折られてしまう魔力強化をされた鈍らを自分が使う気になれるか?また、自分の仲間にそんなのを使わせる気になるか?」
「ならないにゃ。遠距離から射出するなら、強度に多少の問題があっても牽制にはなるから、時間を掛けて鍛えることはできるだろうけど……」
「近接型の剣士なら剣の強度不足が死に直結し兼ねません。なら、多少荒療治になっても及第点ギリギリの強度を得られる様、心を鬼にして修業せざるを得ませんね」
「まぁ、そういうことだ。って、そんな説明してる間に、もうアスナ達の試合が始まりそうだぞ」


どんなに厳しくても結局は、皆のことを考えて行動している。そんな所が兄様らしいと思いながら、私は第2試合が中継されているモニターへと視線を向けます。

って、あれ?いつの間にかモニターが2つに増えています。何故でしょう?考えられる理由は、出場選手が転移した時点で多対多が確定したからでしょうか?

…………いくら考えても正解を誰かから教えて貰えるわけでもありませんし、無駄なことに時間を費やすのは止めましょう。それよりも試合フィールドはどこでしょう?

……ああ、ここは私と黒歌姉様が一緒に戦っていた体育館とほぼ同等の広さを持つテニスコートですね。対戦相手は―――


「相手は2人か。少し予想外だったな」
「あれは騎兵(ナイト)のカーラマインと城兵(ルーク)のイザベラね。私が調べた情報だと、カーラマインは炎の魔剣使い。イザベラは属性攻撃を使わない純粋なパワーファイターみたいだけど――」
「イザベラに関しては、今まで行われたゲームで属性攻撃を使う必要が無かったということも考えられますわね」


兄様は祐子先輩と同じで歩兵(ポーン)を全投入して来ると考えていたのか、相手が2人であることに少し驚いた顔をし、部長と副部長が相手の解説をしてくれました。

モニターに映るアスナさんと祐子先輩は既に『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』と『魔剣創造(ソード・バース)』で剣を創造し、戦闘準備万端といった所です。

ちなみにアスナさんが持っている聖剣は『SAO』で見慣れた『ランベントライト』。祐子先輩が持っている魔剣は、『SAO』に存在していた兄様の『音速の剣(シルファリオン)』に似た形状の『フォルティッシムスソード』そっくりな剣です。


「兄様、祐子先輩のあの剣―――」
「ああ。『SAO』――というか、『SLO』にも存在している『フォルティッシムスソード』だ。合宿前に『SLO』のメインサーバーから刀剣系武器の形状データをコピーして、プリントアウトしたものを合宿期間中に見せてたんだよ。
武装創造系神器(セイクリッド・ギア)所持者には想像力が必要不可欠だからな。ちなみに、俺が納得いく強度の剣を創造できる様になったら、アスナと木場に『ダークリパルサー』と『エリュシデータ』を作って貰おうかと思ってたりする」


……もしかして、兄様は『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』欲しさから、アスナさん達に辛い修行を課していた、なんてことはありませんよね?


「……白音。最期の方の発言は、俺なりにこの場の空気を和ませ様とした冗談だから本気にするな。まぁ、『十戒の聖石剣(ホーリーブリング・ブレード・テン・コマンドメンツ)』や『十戒の魔石剣(ダークブリング・ソード・デカログス)』は基本形態の形状が大剣だから、普通の片手用直剣が欲しくないと言えば嘘になるけど……」
「兄様、私は何も言ってませんが?」
「視線だけじゃ察せなくても、表情まで付属してたら流石に俺でもその心情を察することができる。と、そんなことよりアスナ達の試合を観戦するのに集中しようか。
アスナ達が負けるとは殆ど思ってないけど、兆が一にもアスナ達が負けてしまった場合、冥界産発情焼き地鶏を調理する機会が来ない限り、その眷属とは絶対戦うことになる訳だし」


そう言いながらアスナさんの試合を見る様、私達に促す兄様。話を逸らされた感がかなりありますが、兄様の言うことにも一理あるので、私達は試合中継がされているモニターへと目を向けます。

各モニターには、既に冥界産発情地鶏側の騎兵(ナイト)と鍔競り合っている祐子先輩と、城兵(ルーク)の猛攻を危な気も無く避け、カウンターで閃光の刺突を繰り出すアスナさんが映し出されています。

どうやら、祐子先輩の創造した魔剣の解説等をしている間に銀髪メイドさんの選手説明が終了して、戦闘が開始されていたみたいですね。

しかも、今回は私と姉様の時の様に冥界産発情地鶏側の演説は無かったみたいです。もし演説があったなら、未だに戦闘は開始されてなかったでしょうし。

私がそんなことを考えていると、モニター内で祐子先輩と鍔競り合っている冥界産発情地鶏の騎兵(ナイト)が口を開いた。


『まさか、私と鍔競り合うことのできる騎兵(ナイト)がリアス様の眷属に居ようとはな。フフフ』
『……何が可笑しいんですか?』
『おっと、気を悪くしたのなら謝罪しよう。別にお前を嘲笑ったのではない。お前の様な強者と巡り合えたのが嬉しいのだ』
『嬉しい?』
『ああ。真なる剣士を目指す者であるなら、僅か数合でも剣を交えれば相手の実力を把握できるもの。お前は私が今まで出会った剣士の中でもTOP10に入る強者だ。
イザベラと相対している細剣使いに至っては一流――五指に入ると言っても過言ではない剣士。是非とも私と剣を交えて貰いたいものだ』
『……私と相対しているにも拘らず他の方に目移りとは、節操無しにも程があるんじゃないですか?』
『……どうやら、私は君の気を更に悪くさせてしまった様だな。私としては、君を見縊っているつもりは毛頭ないのだが。しかし、彼女と戦いたいという衝動があるのもまた事実。贅沢を言えば、ミラを投げ飛ばした剣士とも剣を交えたい』
『……あなたでは兵藤君に手も足も出ませんよ。結城さんが一流であるなら、兵藤君はルシファー眷属の騎兵(ナイト)である沖田総司様と同じ超一流の剣士ですから』
『ほう!あの冥界最強の騎兵(ナイト)と謳われる沖田総司殿と同じ超一流の剣士か!?それが事実であるなら、尚のこと手合せを願いたいものだ!……それにしても、本当に頑丈な魔剣だな。銘はあるのか?』
『……頑丈さが取り柄とも言える魔剣ですから。ちなみに銘は『フォルティッシムスソード』です』
『『フォルティッシムスソード』……、聞いたことの無い銘だ。自慢ではないが、私の魔剣は無銘ではあるもののかなりの名剣でな。並の聖剣や魔剣ならば、簡単に刀身を焼き斬ることができてしまうのだ』


冥界産発情地鶏の騎兵(ナイト)が兄様やアスナさんと戦いたいと言うと、少しばかり不機嫌そうになるもののいつも通りではあった祐子先輩が、聖剣という単語を聞いた瞬間にその雰囲気を一変させました。


『……聖剣の使い手と戦ったことがあるんですか?』
『雰囲気が一変したな。お前はあの剣士と浅からぬ因縁でもあるのか?』
『質問に質問で返さないで下さい。もう一度聞きます。聖剣の使い手と戦ったことがあるんですか?』
『結論から言うと、戦ったことがある。私が過去に出会った剣士の中でも1、2を争う剣士だ。意図してではなく、はぐれ悪魔討伐で偶然にも鉢合わせただけだがな』
『その聖剣使いについて、もっと詳しい話を聞かせて貰いましょうか。容姿から剣筋に至るまで、あなたの知っている情報の全てを……』
『……聖剣とその使い手にそこまで執着するとは、それ相応の恨みでもあるのか?しかし、我々は剣士。戦いの場で相対しているにも拘らず、剣よりも言葉を多く交わす等、無粋の極みというもの!
どうしても聞き出したいというのであれば、ここから先は君の剣技で問うといい!私も剣技でその問いに答えよう!!』
『………私の質問にちゃんと答えなかったことを後悔させて上げます。手足の1、2本は覚悟して下さい』


モニター越しでも分かる程に殺気立っている祐子先輩は、サラッと手足を斬り落とす発言をし終えると同時に、鍔競り合いによる拮抗状態を崩す為、バックステップで冥界産発情地鶏の騎兵(ナイト)――略して地鶏騎兵(ナイト)との距離を取ります。

祐子先輩は元々がAGI−DEX型の剣士ということもあり、1回のバックステップ――というか、殆どバックジャンプみたいなものなんですが、取り敢えず1回のバックステップで地鶏騎兵(ナイト)との距離を10mは取ることができます。

無論、地鶏騎兵(ナイト)からしても10mなんて一瞬で詰めることのできる距離です。一応、祐子先輩と同じスピードに長けた騎兵(ナイト)ではあるので。

しかし、祐子先輩がバックステップで距離を取った瞬間、地鶏騎兵(ナイト)は少しばかり体勢を崩してしまい、距離を詰めるまでの間に僅かなタイムラグを生じさせてしまったことで、祐子先輩に迎撃態勢を整える余裕を与えてしまっています。

地鶏騎兵(ナイト)は急いで体勢を立て直し、10mの距離を一気に詰める為、初速から全力で加速しようとしている――というか、既に加速している訳なんですが、その行動はぶっちゃけ自殺行為としか言い様がありません。

何故なら地鶏騎兵(ナイト)が加速を始めた時には既に、祐子先輩は『フォルティッシムスソード』の刀身に無属性の魔力を纏わせ、右片手の逆手持ちで腰を捻りながら落とした独特な構えを取り、いつでも技を放てる状態になっていたからです。

そして、手持ちの魔剣を盾の様に構えた状態で突っ込んで来る地鶏騎兵(ナイト)に対して、祐子先輩が『フォルティッシムスソード』を振り抜くと、刀身を覆っていた魔力がまるで真空の刃の様に放たれました。

端的に言い表すなら遠距離用の飛ぶ魔力刃、と言った所でしょうか?ちなみに先程、魔力が真空の刃の様に放たれたと言いましたが、実際の所は規模や威力は段違いです。

一般的な真空刃が切れ味に特化した細身の日本刀だとするなら、祐子先輩が放った魔力刃はその切れ味を有した兄様の『重力の剣(グラビティ・コア)』や『闇の重力剣(テネブラリス・グラビティ・コア)』といった所。

そんな威力の技に急停止もできず自分から突っ込んだこともあって、地鶏騎兵(ナイト)は盾の様に構えていた剣が両断。纏っていた鎧も木端微塵に破壊され、その身には横一文字の深い創傷を負ってしまいました。

不幸中の幸いか、地鶏騎兵(ナイト)の体が上半身と下半身で泣き別れする様な事態には陥っていませんが、当の地鶏騎兵(ナイト)は、祐子先輩の魔力刃が発生させたと思しき衝撃波によって吹き飛ばされ、仰向けで地面に叩き付けられていました。

別に祐子先輩が狙って地面に叩き付けられる様に吹き飛ばしたとは思えませんが、見てる側としては「止めて!相手のライフはもう0よ!!」という様な追い打ちです。


『ライザー・フェニックス様の騎兵(ナイト)1名、リタイア』


と、そんな説明をしてる間に地鶏騎兵(ナイト)が淡い光に包まれ、フィールドから退場してしまいました。死んではいないと思いますが、予想通りライフが0になっていたみたいです。

まぁ、地鶏騎兵(ナイト)の敗因はある意味自業自得ですよね。間合いを詰めたい気持ちは分かりますが、急停止できない速度で加速して近付こうとするなんて、カウンター攻撃をして下さいって言ってる様なもんですし。

同情できる点があるとしたら、あの魔力刃による攻撃をモロ喰らいしてしまったことでしょうか?私は絶対に喰らいたくありませんし。

私がそんなことを考えながら、ふとすぐ近くで試合を見ていた兄様へと視線を向けると、そこには今まで見たことが無い程の驚きを露わにした兄様がいました。


「あれは威力的に未完成ではあるが『ソードストラッシュ(アロー)』か?でも、教えた記憶がない。もしかして、技をコピーされた?」


『ソードストラッシュ(アロー)』?それがあの祐子先輩の魔力刃の名称なのでしょうか?コピーされたという発言から元々は兄様の技みたいですが……。というか、あの威力で未完成なんですか!!?完成版の威力が私凄く気になります!!



【視点:イッセー】



アスナと木場が部室を模した控室から姿を消し、第2試合が始まって20分足らず。黒歌と白音が出た第1試合程ではないものの、その僅かな時間で地鶏眷属の1人が撃破(テイク)された。

試合内容が2対2ということが判明してから、アスナ達が一方的に劣勢に立たされることは無い、と俺自身思ってはいた。しかし、それにしても早過ぎる決着だ。

いや、この決着がアスナの方だったら俺も納得している。が、決着を先に付けたのが木場の方だったから驚いているんだ。試合開始直後の鍔競り合いから見ても、相手をしていた地鶏騎兵(ナイト)と木場の力量の差はほぼ五分五分って所だったからな。

逆にまだ決着の付いていないアスナの方が、相手の地鶏城兵(ルーク)を試合が開始してから常に圧倒していた。だからこそ、俺はアスナの方が先に決着をつけると思った訳なんだが……。

だって、『SAO』や『SLO』の迷宮区で出現するモンスターを相手にするかの如く、自身の特性でもある敏捷性と精密さを駆使し、相手の攻撃を最小限の動きで躱し、二つ名通りの閃光の様な高速刺突でカウンター攻撃をしてたんだぜ。

しかも、木場の方の決着が付く直前なんて、合宿初日に俺が喰らってた高速刺突の奔流に地鶏城兵(ルーク)が飲み込まれてたんだ。これで木場の方が先に決着を付けるなんて思える奴がいるだろうか?少なくとも俺は思ってなかった。

まぁ、木場がアスナより早く決着を付けたということより驚いたのは、木場がエターナルの双剣士のみが使用可能な『ソードストラッシュ』を使用したことだ。

正確には『ソードストラッシュもどき』といった感じだったんだが、もどきでも木場が『ソードストラッシュ』を使えたという事実は驚くべきことだ。

ちなみにこの『ソードストラッシュ』という技、エターナルの転職可能な剣士系職業が使う技の中では『ゴーデスエンブレム』に次ぐ最強クラスの技であり、それと同時に習得が非常に面倒な技だったりする。

どう面倒かというと、習得するのにパワー重視の斬撃技『地雷閃』とスピード重視の斬撃技『海鳴閃』、霊力に近い闘気というエネルギーで敵の急所を撃ち抜く『虚空閃』という3つの技を先に習得する必要がある仕様なのだ。

一応、『ソードストラッシュ』の下位互換技で地・海・空の技を習得せずとも使える、抜刀術の様な構えから放つ『ストラッシュ』って技も存在するが、威力が微妙過ぎてこの技は旅の中盤辺りから使ってなかったな。

あと、『ソードストラッシュ』と『ストラッシュ』には同じ系統の技ということもあって共通点がある。刀身に纏わせた闘気を斬撃の衝撃波として飛ばす(アロー)タイプと、刀身に闘気を纏わせたまま敵に突っ込み叩き込む(ブレイク)タイプが存在するという点だ。

今回、木場が使った『ソードストラッシュもどき』は(アロー)タイプで、構えこそ『ソードストラッシュ』のものだったが、威力的には『ストラッシュ』に毛が生えた程度のものと言えるだろう。

もし、木場が使っていた『ソードストラッシュもどき』が真の『ソードストラッシュ』であったなら、地鶏騎兵(ナイト)は肉片すら残さず消滅していた筈だ。

念の為言っておくが、仮に木場が真の『ソードストラッシュ』を使えたとしても、俺の『ソードストラッシュ』の足元にも及ばないだろう。俺の場合、神の恩恵で双剣士から双竜剣士へとクラスアップしたチート野郎だからな。

A(アロー)B(ブレイク)の威力も上がってはいる上、双竜剣士専用のバリエーション技もある。通常の『ソードストラッシュ(アロー)』でも直撃すれば地鶏騎兵(ナイト)クラスの相手の場合、肉体だけでなく魂すらも消滅し兼ねない。それだけの威力がある。

って、いつの間にか技解説講座みたいになってしまった。いや、この技解説講座は一言で言ってしまうなら現実逃避だな。俺は現在進行形で現実から逃避したくて堪らない気分なんだ。

何故なら、驚きの余り『ソードストラッシュ』のことを口走ってしまったせいで、俺のすぐ側にいる白音から現在進行形で詰問されているからだ。


「兄様。そろそろ現実逃避は止めて、私の質問に答えて下さい。兄様は祐子先輩が使った技を知ってるんですか?」


詰問されている現状に唯一救いがあるとすれば、小声で詰問されていることだろうか?まぁ、小声で詰問してくれているのは、俺が驚きながらも声量を抑えた小声で『ソードストラッシュ』のことを呟いていたからだろうけど。

というか、小声でされる詰問とは果たして詰問と呼べるのだろうか?少なくとも横目とはいえ、俺を見据えている白音の目は言い訳も誤魔化しも許さないと言わんばかりの厳しいものだ。

厳しく問い質されているという点を考えれば、詰問されているという表現は強ち間違いではないとは思うけど、実際の所はどう表現するのが正しいのだろうか?

……っと、また現実逃避をし掛ける所だった。余り現実逃避をし過ぎて、白音の質問に答えるのが遅れると後で酷い目に遭うからな。早く答えなけ―――


「兄様。早く答えてくれないと、私はアスナさんと祐子先輩が戻って来た瞬間、2人の目の前で兄様にもの凄いキスをしなければいけなくなってしまいます」
「木場が使ったのはエターナルで俺の初期職業だった双剣士が使える必殺技なんだ。合宿中に模擬戦で加減したのを見せたことがあるんだが、まさか見様見真似で使われるとは思ってもみなかったので柄にもなく驚いてしまった。
ちなみに、本来あの技を習得するには大地を斬り、海を斬り、空を斬る3つの技を先に習得する必要がある。木場の場合、その3つを習得してないから未完成って訳だ。分かったか?」


白音の思わぬ発言に色んな意味で身の危険を感じた俺が、できうる限り簡潔に早口で説明すると、白音は頭から生えている猫耳をへにょらせ、あからさまに落ち込み始めた。こういう所を見ると可愛いと思ってしまうな。


「間髪入れずに早口で答えるとか、そんなに嫌がらなくても……」
「いや、流石に恋人の前で妹ともの凄いキスは―――」
「考えただけでムラムラしますね♪」
「変態だ!家族に度し難い変態がいる!!」


前言撤回!全ては計画的行動だった!しかも、白音自身の発言で水泡に帰してるし!!白音よ、お前は一体どこへ向かってるんだ?この兄に教えてくれ。


「兄様、本気にしないで下さい」
「え?あ、何だ。冗談だったの―――」
「2割は冗談です」
「ヤバい、半分以上は本気だ……。というか、残りの8割が本気かよ!!!」
「「!!?」」
「えっ!?どうしたの、イッセー!!?急に叫んだりして……?」


俺が白音の発言の突っ込み所の多さに思わず大声で突っ込みを入れると、俺から少し離れた所で木場のモニターを見ていた部長と副部長、アーシアの3人が驚き、部長が代表して恐る恐る訪ねてきた。


「あっ…。いいえ、何でもありません。気にしないで下さい。というか、いきなり大声出してすみませんでした」


大声を出した原因が原因ということもあって、俺が驚かせてしまった3人に謝罪する。正直な所、白音との遣り取りを全部話した上で、白音にも謝罪させたい所だけど、『ソードストラッシュ』のことで色々と突っ込み受けるのも面倒なので、ここは我慢だ。

そんなことを思いながら、謝罪を終えた俺がアスナの試合が映し出されているモニターへと視線を向けると、アスナの方も決着の秒読みに入っていた。

アスナの相手である地鶏城兵(ルーク)は既に着ている服がボロボロな上、体中が斬り傷まみれの状態で地面に大の字で倒れ込んでいるからだ。


「何て言うか……。相手の城兵(ルーク)、立ち上がる余力も無いみたいですね。正に虫の息」


引き続き俺の横に居る白音がモニターを見ながらそう言うと、ほぼ同時に地鶏城兵(ルーク)が淡い光に包まれ、フィールドから姿を消し、グレイフィアさんのアナウンスが流れた。


『ライザー・フェニックス様の城兵(ルーク)1名、リタイアです』


結果は第1試合同様、グレモリー側が無傷の完勝というある意味予定調和、ある意味大番狂わせな内容で第2試合は終了した。






あとがき

3ヶ月もの間、更新を遅らせてしまい誠に申し訳ありませんでした!!orz

という訳であとがきの第一声が謝罪から入りました。読者の皆さん、お久し振りです。沙羅双樹です。

いや、本当に更新を楽しみにされていた方々には心の底から申し訳なく思ってたりします。

何故なら、更新が遅れた理由の1つに私が薄桜鬼に嵌まってしまい、この3ヶ月の間に何度もループで見ていたという、読者様方にとってどうでもいいものが含まれているからです。

薄桜鬼をTV版、劇場版共に見たんですが新選組の皆の生き様に心打たれ、千鶴ちゃんの可愛さに心射ぬかれ、もう執筆どころじゃなかったんです。(笑)

毎日がSAHDDの妄そ――構想ではなく、薄桜鬼の妄s――ことで頭がいっぱいでした。(笑)その結果、NL系夢小説を梯子しまくったりで、その結果が3ヶ月の更新遅延です。(笑)

こうなったら、もう笑うしかありませんよね。(爆)そして、新選組と言えばサーゼクス・ルシファー眷属の騎兵(ナイト)に沖田総司がいたことから、薄桜鬼の新選組キャラを全員ルシファー眷属として登場させてやろうか、という暴挙を心に決めてしまった私。

SAHDDは一体どこへ向かってるのでしょう?作者の私にすら分からない迷走っぷりです。(爆)

と、更新遅延の言い訳はそろそろ終了し、本編の補足に入りたいと思います。まぁ、補足と言ってもそれ程語る点はないんですが。(笑)

取り敢えず、どうしても語っておかなければいけないのは、今回登場した某竜探索RPGコミックに登場する勇者刀殺法と勇者ストラッシュについてですね。

ぶっちゃけ、技内容はそのままです。竜闘気(ドラゴニックオーラ)も登場してるんです。勇者ストラッシュも登場します。(笑)ただ、某勇者がエターナルには存在しないというのが当作品での設定なので、勇者ストラッシュではなく『ソードストラッシュ』という名称になりました。

地・海・空の技名がオリジナルではない上、刀殺法名ではなく槍殺法名なのは、単純に私が槍殺法の名称をカッコいいと思ったからです。(笑)

今後、展開次第で木場祐子ちゃんには刀殺法を全て覚えて貰うかもしれませんが、実際にどうなるかは今後のお楽しみということで、1つ宜しくお願いします。

そうそう。木場祐子ちゃんと言えば、今話で師匠である沖田総司のことを「師匠」ではなく、「沖田総司様」と呼んでいることに疑問を感じた方もいると思いますが、これは一応身内以外にも観戦している場ということもあって、プライベートな呼び方をしていないという設定だったりします。

その他に気にされている点があるとすれば、イッセー&白音のシリアスぶち壊しのギャグシーンで、イッセーが大声で突っ込みを入れた時、驚きを露わにしたリアス、朱乃、アーシアに対して黒歌がどういった反応をしていたかでしょうか?

端的に言ってしまえば、白音と同じ猫科獣人である黒歌にはイッセーと白音がしていた会話が丸聞こえだったので、驚いている3人の後ろで笑いを堪えて震えていたといった感じです。イッセーもそのことには気付いていたけど、スルーしたといった感じです。

取り敢えず、今回の補足点は以上でしょうか?もし、気になる点等ございましたら拍手コメントや感想掲示板に書いて頂けたら幸いです。

では、今回はこの辺りであとがきを終了したいと思います。次回の試合は主役1回目の登場です。どういう組み合わせになるかは見てのお楽しみ!という訳で次回も乞うご期待、です。(笑)



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