【視点:レイヴェル】



あら?今回は視点切り替え方式――それも、本作品初の敵側(?)視点なんですわね。本来、視点切り替え方式では自己紹介を省くのですが、今回はリアス様側の者でもありませんので、敢えて自己紹介をさせて頂きますわ。

私、元ソロモン72柱に名を連ねるフェニックス家の第四子、レイヴェル・フェニックスと申します。実は第三者には知られたくない凄く下らない理由で、今はライザーお兄様の僧兵(ビショップ)を務めております。以後お見知りおきを。

では、自己紹介も終えたことですし、私達――フェニックス側の現状について説明したいと思います。つい先程、ミドルゲームに当たる試合が終了してしまった訳なのですが、ここに至るまでの戦績は3戦3敗。

リアス様のチームは、封印されているという噂の僧兵(ビショップ)を除く保有戦力が1人も欠くことなく健在。対する私達のチームは残す戦力が(キング)のお兄様と王妃(クイーン)のユーベルーナ、僧兵(ビショップ)の私と美南風(みはえ)の4人。

16人中12人――保有戦力の75%が敗退したことになります。正直な話、このままゲームを続行してもお兄様がリアス様方に勝てる確率はかなり低いでしょう。

そもそも、このゲームが戦争であったなら相手側に損害を与えられず、保有戦力の3割――4〜5人が敗退した時点でこちら側の全滅は必至。

今の私達の現状を普通のチェスと置き換えたとしても、リアス様側の歩兵(ポーン)3名は額面通りの歩兵(ポーン)ではなく、最初から王妃(クイーン)僧兵(ビショップ)の能力を有した存在。彼我兵力差だけでなく、スペック面でも圧倒的に不利。

無論、普通のチェスにおいて彼我兵力差や駒のスペックが勝敗を決める絶対条件とは言えません。打ち手の技量次第では、最初から相手より駒数が少なくても勝つことができます。

しかし、不利な状況に陥っている打ち手が相手の力量を見定めようともせず、手駒を取られたのをビギナーズラックだと楽観視する様な者だったらどうでしょう?

今のお兄様が正にそれです。お兄様はゲームが始まるまでの準備期間に情報収集などをすることも無く、リアス様方を侮っていました。ゲームが始まっても、第2試合が終了するまではビギナーズラックだと楽観視していた始末です。

これでは勝てるゲームも勝てません。というか、リアス様の歩兵(ポーン)3名はオーバースペックにも程があります。あの3名は本当に歩兵(ポーン)なのでしょうか?まだ王妃(クイーン)城兵(ルーク)もしくは僧兵(ビショップ)2名と言われた方が納得いきますわ。

特に先程まで第3試合に出ていた歩兵(ポーン)の殿方。今代の赤龍帝であるということは分かっておりましたが、あの方の強さは転生したての新人下級悪魔とは思えない規格外なものですわ。

初めて顔合わせをした時に使っていた聖剣も使わず、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』もモニターに映し出されていた限り防具として使っただけで倍加能力も未使用。

流石に魔力による身体強化はしていたと思いますが、たったそれだけでレーティングゲームの公式戦を何度も経験している歩兵(ポーン)5人と城兵(ルーク)1人を無手であしらえる歩兵(ポーン)が今の冥界には何人いるでしょう?

四大魔王様や公式戦の上位ランカーの方々がそれぞれ保有している最強の歩兵(ポーン)であれば、十二分に可能なことでしょう。それでも10人存在するかしないかの筈。

それ程稀少な存在を素人(ビギナー)の転生悪魔と条件を更に限定してしまっては、冥界全土でも条件を満たす存在はほぼ皆無と言っても過言ではありません。

特にフェニックス眷属が3人以上で生み出す炎は、上級悪魔でも直撃すれば致命傷となってもおかしくない火力がありますのに、それを受けて無傷というのが規格外さに拍車を掛けていますわ。

勿論、シュリヤーとビュレント、マリオンに本来の火力を出せるかと問われると、是とは答えられません。シュリヤー達――というか、私を含むお兄様の眷属全員に言えることですが、お父様やルヴァルお兄様の眷属と比べたら未熟者でしかありませんもの。

ですが、それでもシュリヤー達が生み出した炎は、最低でも並の中級悪魔を数秒で灰も残さず焼き尽くせる火力はありましたわ。これは例えモニター越しであっても、炎と風の魔力に長けたフェニックス家に属する者として断言できます。

つまり、シュリヤー達が未熟であったとしても、あの殿方の規格外さは変わり様がないということです。というか、炎で焼かれて無傷ということよりも先に、無手の腕でチェーンソーを受け止めたことにも驚きましたわ。

普通に考えてチェーンソー用防護服でも無い、見た目薄手のコートがチェーンソーと直接接触して傷1つ付かないとは思いませんもの。

では、どの様にしてそんな軽装でチェーンソーを受け止めることができたのか?考えられる可能性は1つ。あのコートが極めて強固な対物防御能力を付与されている特殊な防具というもの。

いいえ。あの殿方が身に纏っているコートを含む衣服全てが対物・対魔防御能力を付与されている特殊な防具と考えるのが正解かも知れませんわ。

何故ならチェーンソーだけでなく、シュリヤー達の炎を以ってしてもあの殿方が身に纏っているコートを含む衣服に焦げ跡1つ付けられていないのですから。

対物防御能力だけしか付与されていない防具では、魔力を用いられた攻撃を完全に防ぐことができないというのは、純血であれば平民でも知っている冥界の一般常識でもありますし。

どれだけ思考を巡らせても、魔力を性質変化させた炎の直撃を受けて衣服に損傷が全く無かった以上、対物だけでなく対魔防御能力も付与されていることは疑いようがありません。

防御性能は対魔が上級悪魔の形成する魔力障壁並。対物が城兵(ルーク)の上位中級悪魔並の堅牢さであると考えられますが、実際の所は未知数。

戦闘能力に関しても、第2試合のカーラマインとリアス様側の魔剣使いの会話から察するに、冥界最強と謳われるサーゼクス様の騎兵(ナイト)――沖田総司様と同格の剣士。

その上、第3試合の内容から妖精魔法を使う魔法剣士ということも分かりますわ。今回使用していたのは、魔獣の類が使用する変身能力の様な魔法の様ですが、流石に変身魔法しか使えないということはないでしょう。

お兄様から聞いた教会が使用する様な結界や聖剣の件もありますし、こちらも未知数としか言い様がありませんわね。

………取り敢えず、現状で判明している相手側の能力を改めて検証してみた訳なんですが、正直な話をしていいでしょうか?どれだけ戦略を練ろうと、もうこちら側は詰んでいるとしか言い様がありませんわ!

こちらの残存戦力は4名。対するリアス様側は8名。ダイス・フィギュアはそのルール上同じ選手が連続で出ることはできません。

ですが、あの殿方が出られない試合を開始と同時にリタイアする捨て試合とすれば、現時点で判明している最大戦力を出し続けることは可能となりますわ。

選手の組み合わせ次第では捨て試合をする必要も無くなりますし、どう転んでもリアス様側が優勢な状態で試合が進んでしまいます。

この状態を詰みと言わず、何と言えばいいのでしょう?もし活路があるのだとすれば、誰でもいいから教えて頂きたいですわ。


「……た、たった1人の下級悪魔相手に俺の眷属9人が15分足らずで全滅だと?そんな馬鹿な……」
「……信じられません。最弱のミラでも下級悪魔の上位から中級悪魔の下位の実力。他の8人は全員が最低でも中級悪魔クラスの能力を有していました。その9人を相手に無傷で完勝だなんて……」


リアス様方を見縊っていたお兄様とユーベルーナも、流石に残存戦力が4人となったことで強がりや軽口も言えなくなったのか、驚きの感情を隠すことも無く顔に出しながらそう呟きましたわ。


「それ程驚くことでもないと思いますわよ」
「何?一体どういうことだ、レイヴェル?」
「分かりませんか、お兄様?第2試合であの殿方はサーゼクス様の騎兵(ナイト)・沖田様と同格の剣士であると語られていました。お兄様は雪蘭達が沖田様と戦われて勝てるとお思いですか?」
「……いや、流石に俺も自分の眷属が魔王眷属に勝てる程の強さに至っているとは思ってはいない」
「妖精魔法の使い手というのは予想外でしたが、それを抜きにしてもあの殿方の強さはこのゲームに参加している者の中では別格。正直な話、お兄様でも勝てるとは思えませんわ」
「なっ!?レイヴェル、お前は俺が下級転生悪魔風情に負けるというのか!!?」
「ただの下級悪魔ならお兄様が負けるとは思いませんわ。ですが、あの殿方は能力が未知数。最低でも上級悪魔クラスの転生悪魔です。
現時点で判明している能力も、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』による倍加能力とかなり高位の対物・対魔防御能力。フェニックスの再生能力より劣るとはいえ、高速とも言える自己治癒能力。
判明している能力だけでも、倍加能力で対物・対魔防御や自己治癒を強化されてしまったら、炎による魔力攻撃を得意とするお兄様の攻撃は殆ど意味を為さなくなります。
その上、再生と高速治癒の持久戦に持ち込まれたら、精神力に左右される私達の再生能力は最終的に意味を為さなくなりますわ」
「ちょっと待て、レイヴェル。相手の治癒能力のデメリットが判明していない以上、こちらの再生能力が持久戦で不利とは断言できんだろう」
「いいえ。断言できますわ、お兄様。だって、あの殿方は自身の自己治癒能力を戦闘時回復(バトルヒーリング)能力と言っていたのですから」
「……確かに言っていたが、それがどうしたって言うんだ?」
戦闘時回復(バトルヒーリング)とはその名の通り、戦闘時のみ発動する治癒能力ということでしょう。そうなると、戦闘中であれば年単位での時間が経とうと高速治癒は維持され続けるということになります。
デメリットとして考えられるのは、平時は発動しないということでしょうか?戦闘時回復(バトルヒーリング)という位ですもの。それでも自分で言ってなんですがデメリットらしいデメリットではありませんわね」
「馬鹿な!!俺達元72柱に名を連ねる純血悪魔なら兎も角、人間からの転生悪魔がそんな能力を持っているなど……」


本当、お兄様の言う通りですわ。いくら今代の赤龍帝とはいえ、元人間の転生悪魔が持っていていい様な能力ではありませんもの。

……あの殿方、どの様にしてその様な治癒能力を手にしたのでしょう?それに私が考え付いたデメリット以外に欠点は無いのかしら?私がそんなことを考えていると、控室にグレイフィア様のアナウンスが流れてきましたわ。


『両陣営に緊急連絡です。ゲーム展開上の諸事情により、次の試合を最終試合とさせて頂きます』


諸事情というのは、私達の陣営の残り眷属が少ないことを意味しているのでしょう。そのことをお兄様も分かっている様で恥辱を感じているのでしょう。顔を赤く染めています。

このゲームはグレモリー家とフェニックス家の者だけでなく、両家の親交の深いシトリー家やバアル家、アガレス家といった元72柱に名を連ねた純血悪魔の家系の者も見ている。それ以上に、四大魔王様方全員が直々にご覧になられている試合でもある。

もしかしたら、この展開はお父様が魔王様方に進言されたことかも知れませんわね。試合を長引かせて恥の上塗りを重ねるより、結果はどうあれ早々に試合を終わらせろということなのかもしれません。


『ルールは(キング)を含めた代表者4名による第1運動場を使ったチーム戦です。急なルール変更なので兵藤選手の連続出場も可となります。リアス様側は今より10分以内に出場選手をお決め下さい』


代表者4名によるチーム戦。リアス様の方は、確実にあの殿方を出して来る筈。残りの2名は誰が出て来るかしら?猫姉妹?それとも剣士ペア?それとも、能力が未知数な城兵(ルーク)と二つ名持ちの王妃(クイーン)


「………お兄様」
「何だ、レイヴェル?」
「次の試合、リアス様側からは確実にあの殿方が出て来ますわ」
「赤龍帝の小僧か?まぁ、俺がリアスと同じ立場でも奴を出すだろうな」
「お兄様は残りの2名、誰が出て来るとお思いですの?」
「リアスもこちらの残り戦力が俺を除けば全員が魔術師型(ウィザードタイプ)ということは理解しているだろう。なら、赤龍帝以外にもう1人、近接攻撃型を投入して来るだろう。
現時点でリアス側の判明している近接攻撃型は|騎兵(ナイト)の2人。猫女とその妹も近接戦ができる可能性はあるが、|騎兵(ナイト)より技量は劣るだろう。だから、1人は|騎兵(ナイト)のどちらか。
あとはユーベルーナを釘付けにする為、リアスも|王妃(クイーン)を投入してくる、と俺は踏んでいるんだが、レイヴェルはどう思っているんだ?」
「そうですわね。猫姉妹がシーリスを倒した戦法は酸の水球を形成するまでに多少の時間が掛かりそうですし、向こう側も同じ戦法がそうそう通じるとは思っていないでしょう。そうなると、お兄様の予想が一番しっくり来ますわね。
付け加えて言わせて頂くなら、リアス様側の編成が|(キング)1、|王妃(クイーン)1、騎兵(ナイト)1、|歩兵(ポーン)1の場合、選ばれる騎兵(ナイト)は聖剣使いの方だと思いますわ。
私達、悪魔にとって聖剣は天敵中の天敵。聖剣使いの悪魔など特に珍しいですもの。種族としての弱点をついて来ない訳がありませんわ」
「……確かに。レイヴェル、お前の言う通りだ。つまり、俺達は聖剣使いの転生悪魔を2人相手にするということだな?」


後が無いこともあって、限られた時間で思考を巡らせているお兄様は、私にそう尋ねてきた。最初からそうしていれば、この様な窮地に立たされることも無かったでしょうに。

それでも、これはお兄様の(キング)としての成長に繋がっている様ですし、ある意味では良かったのかもしれませんわ。


「そうですわね。あの殿方もお兄様が参戦するとなると、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』だけでなく、聖剣を使ってくると思いますわ」
「ならば、赤龍帝とリアスの相手は俺がする。ユーベルーナは雷の巫女を倒せ。レイヴェルと美南風は騎兵(ナイト)の足止めだ。倒せと言いたい所だが、騎兵(ナイト)僧兵(ビショップ)では機動性の高い騎兵(ナイト)に軍配が上がる。どれだけ強い魔力攻撃も、当たらなければ意味が無いからな」
「畏まりました、ライザー様」
「この命に代えても、敵騎兵(ナイト)をライザー様の所へは行かせません」
「……はぁ〜。ユーベルーナと美南風がここまでやる気になっている以上、私も傍観者でいる訳にはいきませんわね。ですがお兄様、余り期待なさらないで下さいませ。戦う者としての私の戦闘能力は、経験が眷属内で最も少ないのですから」
「分かっている。だからこそ撃破(テイク)ではなく、足止めといったんだ。………まぁ、なんだ。無茶振りを言った詫びに、このゲームを無事終えられたらお前の願いを叶えられることなら叶えてやるよ」
「………スワンボートに乗った程度の気持ちで期待していますわ」
「そこは大船に乗った気でいろよ。……………それでは最後の試合だ。お前ら、公式戦に挑む気で行くぞ」


お兄様がそう告げると、私達は返答することなくお兄様の後に続き、控室に展開されたフィールドへと続く転移魔法陣に向かった。フィールドで相対するリアス様側の編成が私達の予想と異なるとも知らず。






あとがき

お久しぶりです、お待たせ致しました。沙羅双樹です。

転職して忙しかったり、スランプに陥ったりで執筆が遅れてしまいました。更新を待っていた方々、本当にすみません。

しかも、今回は戦闘パート無しのレイヴェル視点によるリアス眷属の考察、みたいな話になってしまいました。戦闘を楽しみにしていた方々、ごめんなさい。

ただ、今回の話(の最後の方)で焼きホトトギスは原作より早く覚醒しました。ゲーム中も多少の慢心はあれど、原作ほど慢心することは無いでしょう。
(まぁ、某英雄王から言わせれば「慢心せずして、何が王か」となるんでしょうが……(笑))

次回はライザーとのゲーム最終戦です。リアス側の編成がどういった組み合わせか、楽しみにしていて下さい。

それでは次回、またお会いしましょう。



追伸

今回のWEB拍手への返信は、直に丘なっております。御了承下さい。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.