数時間前まではあった廃工場は完全に無くなり硝煙と血の臭いに包まれた荒野となっていた……。
そしてその荒野には機械と肉が縫い合わさった残骸たちが散らばっていた。
しかもその残骸たちは腕や足などといったもの、さらには首を無くしたスーツをまとった身体、粉々に砕け散り欠片となった動物の顔を模した血塗れているマスクが散らばっていた。
その場所は他者が見れば、こう言うであろう……『地獄絵図』と。
しかし、そんな場所に、たった一人ただずんでいた。
だが、その人物はおおよそ人とは言えない姿をしていて、その姿はむしろ異形と言っていいだろう。
異形の証である飛蝗を模した黒い仮面を装着をし、黒いライダースーツを身に纏い、腹部には赤い風車がついた銀色のベルトが巻かれ、ダークグリーンの色合いをしたコンバーターラング、ブーツ。
さらにはスーツ中の所々が血に塗れており、スーツの内部には自身の負った傷がジクジクと痛む……しかしそれよりも。
「……終わった」
戦いは終わった――苦しく、辛い戦いだった。
自身より強い異形たちの猛襲をその身で受け、そして全てを薙ぎ払った後に現れた元凶……。
己の最大限の力をうまく使い、そして知識を使い、一日を使い切って、全てが終わった……。
目的を――元凶を倒し、そして
それなのに、心の奥底に湧き出るのは喜びも安堵感もまったく出てこない……むしろ。
「…………虚しいな」
それだけだった。
自分の大切なものをなにもかも奪い、己を人ならざるものにした憎むべき敵。
長い年月を経て、ようやく倒した憎むべき敵……全てが終わった。
だが、気分は晴れることはなかった。
憎き敵を滅ぼしたところで、なにも帰ってこない――残ったのは異形の言うように、虚しさだけだ。
「これから、俺はなにをすればいいんだろうな――父さん、母さん、修一……」
彼はたった一人っきりの荒野にて、問いかけるように言葉をつむぐと――風が吹いた
「え……?」
微かな小さな声で、自分に言ってくれた――『生きろ』という声が聞こえた。
それは気のせいかもしれない、だけども、さっきの声は……。
「ふっ、分かったよ。 かっこ悪くても生きて行くよ――
もうこの身体は人ならざるものになっているけど、それでも……長い年月に培った誇りと傲慢は決して無くさずに生きていく――決して忘れずに。