第一話から登場する高町 雪奈はオリジナルキャラクターです。
オリジナルキャラクターの設定は後ほど書いていきたいと思います。


 

かつて、全世界を手中に収めようとした組織が存在した。

決して光には出ず、闇の中でコツコツと世界を支配していった……。

膨大な活動資金、様々な業界の中での強大な影響力、優秀な人材。

そして、己が組織の最大な武器である技術力――人間の骨を、脈を、肉を、内臓を強靭なものに作り変えるという技術力。兵器へと造り変えた人間たちを、自らの尖兵――『改造人間』として動かすのだ。

しかしそんな恐ろしい組織は人知れずに滅んだ……組織が作り上げた改造人間たちとその仲間たちに。

* * * * *

今日は風芽丘学園の入学式、新一年生たちや新二、三年生たちが校門から校庭の中に入っていく。

これから通う風芽丘学園に期待に胸を膨らませる高校生たちを迎え入れるかのように、風が吹き、校門の周りに咲いている桜の花びらが散り、校内への道筋に舞い散る。

花びらは学校の生徒たちの周りにも舞い、それぞれの生徒たちは、自分についてしまった花びらを払う。

「あ、雪ちゃん、花びらが付いちゃってるよ」

そのなかで、三つ編みの少女が隣に立っている腰まで伸びたロングヘアーの少女に声を掛ける。

確かに少女の言うとおりで、花びらは首筋辺りについていた。

「あら、本当? 悪いけど、教えてくれないかしら、美由希」

「首筋あたりについているぞ、取って――」

「……別にあんたには聞いていないわ、わたしは美由希に聞いているのよ」

ロングヘアーの少女――高町(たかまち) 雪奈(ゆきな)は自分の右隣に立っている兄――雪奈は認めていないが――である高町(たかまち) 恭也(きょうや)の言葉を遮ったあと、冷たく当たり、睨みつけた。

対する恭也はもともとの仏頂面の無表情で、少女を見つめ返した。

「ふむ、それはすまなかったな、雪奈」

「えぇ、本当よ。 少しは心というものを学んだらどうかしら、剣ばっかりやってないでね」

「ゆ、雪ちゃん、恭ちゃん」

二人の周りに漂う一触即発の雰囲気――雪奈の一方的だが――を感じ取ったのか、二人を止めようと、三つ編みの少女……高町(たかまち) 美由希(みゆき)が停めようと声を掛けると同時に。

「よぉ」

後ろから声を掛けられ、三人が振り向くと、そこには同じ学生服を身にまとった長身で爽やかな好青年が立っていた。

「あら、おはよう、赤星君」

「おはよう、雪奈ちゃんに美由希ちゃん、それと高町」

「おはようございます」

「あぁ」

好青年――赤星 勇梧は爽やかな笑みで微笑みながら、美由希にウィンクをする。

どうやらある意味でピンチだった自分を助けてくれたようでペコリと軽く頭を下げて、安堵の息を吐いた。

「早くクラス振り分け表を見に行こうぜ。 折角早めに来たのに、遅刻って洒落にならないからな」

「そうね、それじゃあ早速――」

「うるせぇんだよ、クソ兄貴!」

行きましょうという雪奈の言葉を遮るかのように、怒声が響いた。

四人が思わずその発生源に振り向くと、どうやら自分たちが行く、クラス表が張られている場所のようだが……。

全員は慌てて走り出し、そこに向かってみると。

「俺を子ども扱いするんじゃねぇよ! もう俺は高校生なんだぜ!」

「そうは言っても……家にいるときにあれがないこれがないと言っていたのは、誰なんだい?」

「うっ、あ、あれは偶々だ! ちゃんと置き忘れていなきゃ……」

「そういうところが子供なんだよ、もう少し落ち着きを持って行動しような」

「う、うるせぇ!」

目の前に繰り広げられているのは、兄弟の痴話喧嘩だった。
穏やかな兄と気が強い弟の言い争いに、誰もが遠目で見守っている。

「……ただの兄弟喧嘩ね、走る必要なんて無かったわね」

「いや、喧嘩しているなら止めないといかんだろう……」

「高町、あれはどう見ても家内問題だ、俺たちが出る幕じゃない」

「で、でも……」

雪奈と赤星は止めなくてもいいといった達観し、恭也は止めようとしたが二人に止められる。
しかし、美由希自身は口喧嘩から殴り合いの喧嘩になってしまうんじゃないかと不安に駆られていた。

すると、美由希の不安は的中し。

「っち、うっせんだよ、あんたはぁ!」

「! 駄目!」

『美由希 (ちゃん)!!』

弟は我慢の限界を超えてしまったのか、兄を殴ろうと腕を振り上げる。

美由希はそれを止めようとしたが、人ごみが多く旨く移動できなかった……。

(っ、間に合わない!)

――パシッ――

美由希がそう思ったと同時に、軽い音が響いた。

しかし、それは殴られた音ではなく、なにかを受け止めた音だった。

 

「喧嘩はそこまで」

弟のこぶしを受け止めたのは、一人の青年だった。

ジーンズを履き、Tシャツの上に黒いジャケットを羽織った青年は黒を更に塗り潰したかのような漆黒の髪に同じく漆黒の目を持つ日本人だった。

「ちっ、邪魔すんじゃねぇよ!」

「そうはいかないよ。 折角の入学式なのに殴り合いになったら、先生に目をつけられて、厄介なことになるぞ、それでもいいなら離すけど……」

「……あ」

今更ながら、気づいたといわんばかりに眉を顰める弟に青年は優しく微笑む。

「それにさ、さっきの言葉は、お兄さんは君を思って注意をしてくれたんだ、それを『うるせぇ』だなんて言いすぎだ。 ……でもまぁ確かに学校(ここ)で言われちゃあ、恥ずかしくてそう言っちゃうかもしれないけど」

「だろ!?」

「ぅ……」

青年の言葉に喜びの声を上げる弟と呻く兄……後者のほうは青年の言葉に耳が痛かったようである。

しかし、青年の言っている言葉は事実なのだから、仕方が無いことなのだが。

「でも、こんな場所で喧嘩しちゃ駄目だ。 ほら、周りの人が見ちゃっているし……初っ端から目立っちゃってるよ」

『あ……』

本当に今気がついたと言わんばかりの呆けた声を出す兄弟に、辺りからクスクスと笑い声が聞こえ始め、恥ずかしくなってきた二人は顔を俯かせてしまった……自業自得だが。

「まぁ、今回のことを反省して、あとはお(うち)で話し合いをしなさい」

『……はい』

兄弟は青年の言葉に相槌を打ったあと、すぐさまこの場を走り去った。

二人が居なくなって、周りに居る人らも見るものが無くなったと分かって去っていき、青年もその場を去ろうとしたが。

「待って」

「ん?」

 

(わたし、なんでこの人を呼び止めたの?)

雪奈は自分でも不思議に思っていた。

別にこの青年は怪しいという感じはしない、むしろ至って普通の青年といった感じだ。

しかし、自分はなぜかこの青年を引き止めてしまい、挙句の果てには自分が呼び止めたくせに、いったいどうしようかと考えてしまっている。

「?」

「っ、あ、ごめんなさい。 あなたの名前を聞かせてもらえないかしら?」

(な、なにを言っちゃってるのかしら、本当に)

自分で言っている言葉なのに、なぜか動揺してしまう……というよりどうして自分はこんなことを聞いてしまっているのだろう。

名前なんかを聞いてもどうにもしないというのに……。

「ん、俺の名前? 俺は本郷(ほんごう) (しん)。 明日からこの学校に通う三年生」

「本郷、心……いい名前ね」

とりあえず彼の機嫌を損なわないように褒める――しかし、褒め言葉は上辺ではなく、本心で言ったことだ。

「あはは、ありがとう」

青年――心は嬉しそうに笑って、雪奈に握手を求めるように手を伸ばす。

雪奈は心臓を高鳴らせて、思わず後ずさりしそうになってしまいそうになったが、身体をなんとか留めて、心と握手をする。

「明日から? え、だって今日入学式ですよ?」

「うん、そうなんだけど、ちょっと帰国するのが遅くなっちゃって、明日から通うことになったんだ……」

「帰国ってことは、本郷、さんは帰国子女なのか?」

「あぁ、そうとも言える――っと、それより早く行ったほうがいいんじゃない?」

心は雪奈の手からそっと離れて、意味深な言葉を放つ。

雪奈は離れていったことに安堵と寂しさを覚えたが、今は心の言葉が気になった。

「どういうことだ?」

「ん? だってさ、もうほとんどの人がいなくなっちゃってるよ」

『え……?』

恭也のぶっきらぼうな質問に気にすることなく、心が答える。

心の言うとおり、もうすでに周りにいる人たちは、もはや自分たちだけとなっているうえに……。

「それと、あと五分でタイムオーバーになるよ? 早くしたほうがいいんじゃないかな?」

赤星が慌てて腕時計を見ると、確かに心の言うとおりで、新しく変わる担任が自分たちの教室に入るまでのカウントダウンがあと五分であった。

心の言葉に全員は真っ青となって、すぐさま自分たちのクラス表を見極めたあと、駆け出したが。

「っと、それじゃ、明日お会いしましょう!」

「じゃあな! 同じ教室になれたら、仲良くしようぜ!」

「またな……」

「また会いましょう、心!」

すぐさま心のほうに振り向き、ご丁寧に挨拶までしてくれた。

礼儀正しい彼らに思わず苦笑してしまい、手を振るった。

「あぁ、それじゃあ! 同じクラスに慣れたらよろしく!」

四人の背中が見えなくなるまで、見送った心はその場を離れようとしたら、ふと気がついた。

しかし、それはそれほど重要ではなく、至ってシンプルなものだ……それは。

「……そういえば、彼らに自己紹介してもらってないや」

彼らの名前を教えてもらってはいない、ということだ。

 

 

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