――夜空を見上げれば、そこには沢山の星がある。
その星々で構成された光り輝く13個の星座。
それぞれの星座は蠍座、水瓶座、魚座、牡羊座、牡牛座、蟹座、天秤座、乙女座、射手座、双子座、山羊座、獅子座、蛇遣座と名付けられている。
それ等は神秘的な美しさを醸し出す“何か”を地上へと落とし、輝きを潜めた。そしてその様子を望遠鏡でヒッソリと見つめていた1人の男――。
「“あれ”が本来の力を発揮するのは今から3年後……集めるのはそれからでも遅くはない」
派手な格好の男である。頭にはカラフルな帽子を被り、服装は帽子と同じ模様の物に白衣を纏っていた。
一般人の眼から見れば、彼の格好は“変人”と捉えれても仕方がないほどである。
だがこの格好は男の普段着であり、一張羅であった。そして個人的に結構気に入っていたりする。
男は自分の隣に並ぶ、2mぐらいのカプセルを横眼で見つめなが呟くように言った。
「ワシは暫く姿を消す。……だから後のことは頼んだぞ。お前達」
真ん中に大きく『1』と書かれたカプセルを撫で、男は眼を閉じた。
「精魂込めて作り上げた、ワシの可愛いビーロボ達よ……」
その出来事から3年後――。
幾つかのカプセルの中から、数々の生物をモデルとしたロボット達が次々と目覚め始める。
彼等は開発者の男にインプットされた、とある“目的”を果たす為に活動を始めたのだ。
◆
「はぁ〜……ビックリした。日本の人は朝から物凄くパワーがあるなぁ」
朝の通勤ラッシュに見事に巻き込まれてしまい、成す術もなく翻弄されてしまった。
少年は額の汗をハンカチで拭いながら新天地である“麻帆良学園”を見渡す。
「わ〜……これは凄いや」
見渡す限り前にも人、右にも人、左にも人、後ろにも人。
人、人、人、人だらけ。しかも殆どは女子中学生である。
流石は都会である。自分が生まれ育った自然広がるウェールズの田舎街とは、全く違っていた。
こんな些細なことでも、ある種の感動を覚えた少年――ネギ・スプリングフィールドは眼を閉じる。
彼の頭の中には、日本を訪れる前に姉が言っていた言葉が流れていた。
『ネギ。男の子なんだから、女の子には優しくしなきゃ駄目よ?』
“立派な魔法使い”になるための課題とは言え、まだ幼い弟が1人で知らない土地へと旅立つのだ。
血が繋がっている姉として、心配をするなと言う方が無理な話である。
ネギは姉の励ましの言葉を頭の中で数回繰り返した後、閉じていた眼をゆっくりと開けた。
「僕一生懸命頑張るよ。だからお姉ちゃん、見守っていてね」
そう決心を新たにネギは一歩踏み出した。そして徐に腕の時計を見やる。
――凛とした表情が一瞬にして青ざめた。
「わ〜ッ!? いけない! 初日から遅刻しちゃうよ!」
初日から遅刻と言う、相手の印象を最も悪くしてしまう失態を犯す訳にはいかない。
ネギは背中に背負うリュックと杖を背負い直すと、人の流れに沿って駆け出した。
登校時間が刻々と迫る中、ネギは逐一腕の時計を確認しながら走っていた。
学園の至るところに取り付けられているスピーカーから、遅刻防止強化月間の放送が流れる度にネギの焦りは増す。
初日から強化月間の対象にされる訳にはいかない。もしやられてしまったら恥ずかしすぎる。
「あ……! あれだ。良かったぁ〜間に合って」
瞳に目的地の“麻帆良学園・中等部”が映り、ネギは一先ず落ち着くことにした。
速度を落としつつ、もう1度時計を確認する。良かった、まだ時間に少し余裕はある。
ホッと、ネギが息を吐こうとした瞬間――。
「カブ〜ッ!?!?」
「――わ、わわッ!?」
珍妙な声と共に突然横道から何者かが勢いよく飛び出してきたのだった。
ネギは慌てて止まろうとするも――速度を落としたとはいえ――走る人間は急には止まれない。
2人は〈ド〜ン!〉と漫画のような、良い音を立ててぶつかり、互いに尻餅を付いたのだった。
「あいたた……」
「痛いカブ〜……」
お尻を擦りながら、2人はぶつかってしまった相手を一目見ようと視線を交わした。
その瞬間ネギは眼を丸くし、もう1人は慌てて立ち上がったのだった。
「…………あ、あの〜……」
「子供だカブ。大丈夫カブ?」
ネギは思わず自分の眼の前に居る“モノ”を凝視した。明らかに眼の前に居るのは人間ではない。
人型はではあるが、全身は真っ赤、そして動く度に手足のあちこちから機械音が聞こえてきた。
そのロボット(?)は自分に手を差し出して「大丈夫カブ?」と訊いてくる。
「あ、はい。大丈夫です」
差し出された手を受け取り、ネギは「ありがとうございます」と言って立ち上がる。
砂で汚れたお尻をパンパンと2、3度払った後、ネギは軽く頭を下げた。
「ぶつかってしまってすいませんでした。あの、失礼だとは思いますが、僕ちょっと急いでいるのでこれで……」
「ああ。気にしないで良いカブよ。それにぶつかったのは僕が慌ててたせいカブ。君が謝る必要はないカブよ」
「そう言って頂けると助かります。じゃあ……」
「うん。道には気を付けるカブよ〜」
手を振って見送るロボットに会釈し、ネギは中等部の方へと駆け出した。
「いやいや、朝からちょっとしたハプニングだったカブ」
赤いロボットはそう呟きながら、その場から立ち去ろうとする。
だが何かを思い出したように、慌ててネギが向かった方へ方向転換した。
「忘れてた〜ッ! 僕も向こうに用事があったんだカブ〜ッ!!」
途中、道端に落ちていたバナナの皮を踏んで転ぶと言うベタな転び方をしながらも、赤いロボットはネギの後を追うように駆け出す。
これが後に深い絆と熱い友情を結ぶことになる、ネギ・スプリングフィールドと赤いロボット――カブタックの出会いであった。
◆
ネギは改めて麻帆良学園・中等部の凄さを思い知っていた。外から見ても大きな建物であったが、中はそれ以上に広い。
案内をしてくれる人が居なければ、すぐにでも迷ってしまいそうである。その点に関してはネギは運が良かった。
校舎内に一歩入ったところで、ウェールズの街で友人になった高畑・T・タカミチと数年ぶりに再会したのである。
彼は今ここで教師を務めているらしく、頼りになる大人のオーラが感じられた。
「どうだいネギ君。ここ、麻帆良学園は」
「元気の良い人が沢山いるところかな? ちょっと圧倒されちゃったよ」
「ははは。ここに務めていれば、すぐに慣れるさ」
そう他愛も無い会話をしながら、タカミチはネギを学園長室へと案内した。
扉の前に着き、ノックを2回程した後「失礼します」と言って中に入る。
太陽の光を背に机の向こうにすわる老人こそ、部屋の主である近衛近右衛門であった。
「学園長、ネギ君を連れてきました」
近右衛門が組んだ掌に顎を載せながら「うむ」と小さく呟いた。
「ネギ・スプリングフィールドです。これからお世話になります!」
「ふぉふぉふぉ、そう固くならずとも良い。楽にして良いぞ」
飄々とした様子を見せる近右衛門に、ネギは身体から緊張感が抜けていくのを感じた。
予想では厳格な方だと思っていただけに拍子抜けは大きい。本人の前では言えないが。
それから一通り故郷や父親についての世間話をした後、ネギは課題としてとあるクラスの担任になることを近右衛門から言い渡された。
そのクラスとは、タカミチが担任を務めているクラス――2−Aであった。
訪問初日からこんな大役を任されるとは思ってもいなかったので、ネギは一瞬返事が遅れた。
「どうじゃネギ君。やってみるかね?」
「…………は、はい! やります! やらせて下さい!!」
「うむ。若い者は元気があって良いのぉ」
やれやれと言った様子で苦笑しながら、タカミチは脇に抱えていたクラス名簿をネギに渡した。
手渡す際に「バトンタッチ」と付け加える辺り、数年の間に彼は茶目っけも身に付けたらしい。
ネギが最初に出会った時、タカミチは真面目一直線のガチガチなタイプだったのだ。
渡された名簿を徐に開いてみると、生徒の写真の他、メモのような物が沢山書き込まれていた。
それはその生徒の個性であったり欠点であったり所属している部活名であったり――色々だ。
(う〜ん……何か凄そうだ。タカミチのように纏めきれるかな……?)
「ふふ、そう顔を強張らせなくて大丈夫だよ。みんな素直で良い娘達さ」
「ふぉふぉふぉ、それは逆にプレッシャーを与えておるぞタカミチ」
全く持って学園長殿の言う通りなのだから、困ったものである。
「じゃあネギ君、そろそろ時間だからクラスの方に案内しよう」
「う、うん。よろしくタカミチ」
「ネギ君、君の住居の方はワシの方で手配をしておくから、放課後になったらまたここに来てくれるか?」
「放課後ですね、分かりました。何から何までありがとうございます!」
再びタカミチに案内され、ネギが学園長室を出ようとした瞬間――。
「失礼しますカブーッ!」
扉が壊れんばかりに勢いよく開かれ、姿を現したのは赤いロボットだった。
突然の珍妙な訪問者に一瞬呆気に取られてしまった近右衛門とタカミチ。
だがネギは2人と違って、比較的冷静に反応することが出来た。
「あっ! さっき会ったロボットさん……」
「おお、こんにちわカブ。君もここの人に用があったんだカブ」
「ふぉ? 君達知り合い?」
「え〜と、何て言って良いんでしょう。まさに唐突な出会い方だったと言うか……」
どう言い表して良いのか悩むネギを尻目に、赤いロボットはゆっくりと近右衛門の前へ歩いて行った。
そして手が届く距離まで近づいた後、ロボットは「どうも初めましてカブ」と礼儀正しく頭を下げた。
近右衛門もそれに釣られて「こちらこそ」と返事を思わず返した。
「僕の名前はカブタック。高円寺博士に作られたビーロボですカブ」
ニッコリ笑顔で話すロボット――カブタックを凝視し、近右衛門は顎に手を添えた。
そしてすぐさまポンと手を打ち、何かを思い出したように言った。
「おお! 君が寅彦の開発していたロボットか。開発途中のを幾つか見せてはもらったが、まさか完成していたとはのぉ……」
「学園長……高円寺博士って、まさか――」
タカミチが尋ねると、近右衛門は「うむ」と言って頷いた。
「ワシの古くからの友人であり、ちょびっと変人であり、麻帆良工学部全生徒の憧れである高円寺寅彦じゃ……」
「やっぱりですか……はは」
「???」
軽く溜め息を吐く近右衛門とタカミチを見て、ネギは状況が全く掴めずに首を傾けていた。
だがこのままでは流石にあれなので、ネギはとりあえず名前が分かったカブタックに自己紹介をしておいた。
「成る程のぉ……寅彦が行方不明になってしまったか」
「はいカブ。僕が起動した時、データバンクにここの学園長さんのことがあったんで、博士について知ってると思ったんですカブ」
今現在、この部屋には近右衛門とカブタックのみ。
タカミチとネギは時間が時間なため、また後で話を聞くと言うことで教室に向かった。
カブタックから詳しい事情を聞いた近右衛門は、ドッと溜め息を吐いた。
「残念じゃがカブタック君、ワシも寅彦の行方は知らん。奴はフラッと何処かへ行き、何時の間にか戻ってきてたからの」
「そうですかカブ……」
「すまんのう。じゃが君――ビーロボが目覚めたと言うことは、寅彦が銀河古文書を解読して存在を知った“あれ”が……?」
「はいカブ。どんな願いでも叶えてくれる不思議なアイテム――スターピースを集める為ですカブ」
近右衛門は「やはりか」とカブタックにも聞こえないように呟くと、徐に椅子から立ち上がった。
そして窓から見える青空を見つめ、高円寺寅彦と交わした会話をソッと思い出した――。
『寅彦……まだその古文書を解読しとるのか? あくまでスターピースは伝説の物なんじゃろ?』
『何を言うか近右衛門。伝説だからと言って絶対に無いとは限らん。夢は大きく持つものだ!』
『それは結構じゃが、研究費を費やして“これ等”を作るほど、まだ解読は進んどらんじゃろうに』
『大丈夫! このロボット――ビーロボ達は必ずスターピースを探す手助けになってくれる筈だ!』
――天体の運行によって、スターピースの力は劇的に増す。その時こそ、集めるチャンスなんじゃ!
――全部のスターピースを集めて球体状に組めば、人類に夢と希望を与える素敵なことが起こる! ワシは絶対に存在を証明し、集めてみせるぞ!
(全く……集める本人が行方不明になっとったら世話ないわい)
「あの、どうかしましたカブ?」
「いやいや何でもない。それよりカブタック君、君はこれからスターピースを集めるんじゃろ?」
「はいカブ。それが僕に与えられた使命ですカブ!」
「ではどうじゃろう。ここで働きながらそれ等を探してみんか? 決して損はさせんぞ?」
「か、カブ?」
今日初めて返答に詰まる申し出をされ、カブタックは困ったような表情を浮かべた。
――放課後。
「ふぅ、やっと一段落出来るよ……」
慣れない環境、初めての教師体験で心身共に疲労に見舞われながらネギは校舎を出た。若干フラフラしながらの足取りである。
学園長の近右衛門からは放課後にもう1度学園長室に来るよう言われてはいるが、こんな疲れ顔を見せるのは忍びなかった。
放課後の麻帆良学園は生徒の姿はまばらで、あの朝の大混雑・登校ラッシュとは大違いの光景であった。
何処か適当に休める場所はないか――そう思いながら歩いていると、中心に石像がある広場に辿り着いた。
「疲れたぁ。タカミチのクラスはみんな元気一杯だ」
階段の方に腰を下ろし、今日の初授業を思い出したネギは小さく笑みを浮かべた。
最初教室に入った時は黒板消しトラップの歓迎、その次は生徒全員に質問攻め、挙句の果てには可愛いと撫でられまくり――。
あれ? ロクに授業と言う物をしていないような気がするのは気のせいだろうか。
「ううん、最初の方はこんなものなんだ。生徒とはスキンシップが大事だもんね」
ネギはタカミチから譲り受けたクラス名簿を徐に開き、再び生徒一人一人の顔を確認していく。
早く名前を覚えて仲良くなっていきたいと言う、ネギなりの想いからであった。
だが“とある”生徒の写真が眼に映った時、ネギは思わず溜め息を吐くのだった。
(出席番号8番、神楽坂明日菜さん……この人だけは最後まで納得していなかったよなぁ)
ベルの飾りが付いた髪留めとツインテールが印象的だった少女――神楽坂明日菜。
どうやら彼女はタカミチに好意を持っていたようで、2−Aの担任がネギに変わってしまう事に終始不満を漏らしていた。
更に彼女曰く「ガキは大嫌い」との事で、最後まで最悪の印象を持たれてしまっていたのである。
「何とか仲良くしていきたいよなぁ……」
「ネギ君。お仕事は終わったカブ?」
「あ……カブタック」
背後から突然声を掛けられ、振り向くとそこには学園長室で再会を果たしたカブタックであった。
カブタックはいそいそとネギの隣に腰を下ろすと「お疲れ様カブ」と労いの言葉を掛けてくれた。
ネギはありがとうと返事を返し、自然と彼に今日の出来事を語っていた。
興味津々と言った様子で、カブタックはネギの話を聞いている。それがネギには少し可笑しかった。
「ところでカブタックは、あの後学園長先生と何を話していたの?」
「あ、うん。スターピースの事について話してたカブよ」
「スター……ピース……? それって何なの?」
聞き慣れない言葉にネギは思わず首を傾げた。
「スターピースって言うのは、何でも願い事を叶えてくれる不思議なアイテムの事だカブ。僕はそれを探す為に高円寺博士に作られたビーロボなんだカブ」
「何でも願い事を……? 凄いね! そんな不思議なアイテムがこの世にあるんだ!」
「全部で13個あってね、全部集めると素敵なことが起こるらしいんだカブ。博士はそれを起こしたくて集めようとしてるんだカブ」
「へえ、素敵な方なんですね。高円寺博士は」
「そうカブ。それと僕の他にもビーロボが居て、同じようにスターピースを探してる筈だカブ」
傍を通り過ぎる生徒の奇異の視線に構わず、ネギとカブタックは面白可笑しく話を続けるのだった。
「あ、あの……本当にすみません。本を運ぶのを手伝ってもらっちゃって……」
「良いのよ。私も用があったし、本屋ちゃん1人でこの量を持っていくのは無理よ」
明朗快活と言う言葉が似合う少女、神楽坂明日菜はクラスメイトの宮崎のどか(あだ名:本屋)を手伝っていた。
明日菜は今日と言う一日をとても納得のいかない気持ちで過ごした為、溜まった鬱憤を何かで晴らしたいと思っていた。
かと言って物に当たったり、人に八つ当たりするわけにもいかない。この不満を何処にぶつけたものか――。
そう悩んでいた時、彼女の前を偶然通りかかったのが、大量の本を危なっかしい足取りで運ぶのどかであった。
手伝いとは言え、身体を動かす力仕事。のどか自身も感謝しているようだし、身体を動かして鬱憤を晴らす事にした。
「そう言えば本屋ちゃんとはあまり話した事無かったわね」
「あ……そ、そうですね。私引っ込み思案で……人付き合いが苦手だから」
「別に責めてるわけじゃないんだから謝らなくて良いわよ。さっ、早く運んじゃいましょ」
「はい!」
そう会話をする2人の背後から、光り輝く何かが変則的な動きをしながら迫っていた――。
「あはは、すっかり話しこんじゃったね。僕ばかり話して退屈じゃなかった?」
「とても楽しかったカブ。ネギ君のお父さんの事とか聞けたし、良かったカブ」
「ネギで良いですよ、カブタック。さて、そろそろ学園長先生のところに行こうかな?」
そう言ってネギが立ち上がり、カブタックも同時に立ち上がった瞬間――。
近くから少女の悲鳴が2人の耳に飛び込んできたのだった。
只ならぬ物を感じ、悲鳴の聞こえてきた現場へ駆け付けるネギとカブタック。
現場に到着すると、そこでは何とも言えぬ奇妙な光景が眼に飛び込んできた。
「あ、あれは……!」
変則的な動きをしながら空中を飛び回る光の球体。そしてしゃがんでそれを避ける2人の少女。
ネギは少女達の姿を見るやいなや、すぐさま声を出して彼女達の方に駆け出した。
「神楽坂さんッ! 宮崎さんッ!」
「せ、先生……!」
「ちょっと先生! 一体何なのよコレッ!!」
「と、とにかくそこから逃げて下さい!」
ネギが2人の手を引き、球体が飛び交うその場から遠ざける。
一方カブタックは、ジッとその球体の事を凝視していた。
「カブタック! どうしたの!」
「ああ、ネギ。多分あれは……」
眼の前で話す変なロボットの事を担任に尋ねる前に明日菜とのどか、そしてネギはカブタックの指差す方へ視線を向けた。
彼の指が差しているのは光の球体である。その球体は暫く空中を飛び回った後――。
2人がその場に置いてきてしまった大量の本の内、大きめの一冊に吸い込まれるように消えていった。
瞬間、思わず眼を瞑ってしまう程の光を放ち、それが収まった後に残ったのは拍子に星のマークが付いた巨大な本であった。
「何だったの……あれ」
「やっぱり! スターピースだカブ!」
カブタックは自分の探していた物を見つけ、その場から勢いよく駆け出した。
ネギも釣られて後を追おうとしたが、ガシッと背後から強い力で肩を掴まれた。
ゆっくり後ろを振り向くと――頬をひくつかせた明日菜と、オロオロするのどかの姿があった。
「せ・ん・せ・い! 色々と訊きたい事があるのは分かってるわよねえ?」
「あ、は、はい。お気持ちは分かりますが、今はその……」
「今じゃないなら訊けるのは何時頃になるのよ! 誤魔化そうったって無駄だからね!」
「あ、あの明日菜さん……先生にあんまり乱暴な事は……」
「わぁ〜ん! カブタック〜ッ!?」
助けを求めるネギには目も暮れず、カブタックは星のマークが付いた本を拾い上げた。
間違いない。正しくこれこそ捜し求めていたスターピースだ。
意気揚々と、カブタックが表紙に付いてしまったスターピースを剥がそうとした時――。
「待ちなッ!」
「そのスターピースは俺等のモンだ!」
「痛い目みん内に、とっとと渡しぃや」
カブタックを取り囲むように姿を現したのは、それぞれコブラ、カブトガニ、クモをモデルとしたロボットだった。
見た目や言葉遣いから、かなりガラが悪そうな連中である。カブタックは思わず警戒して本を胸に抱き込んだ。
そして秘かにデータバンクを探ってみると、仲間のビーロボの中に彼等の姿とデータがあったのを発見して驚いた。
「お前達ッ! 僕と同じビーロボの……」
「その通りだカブタック。俺の名はコブランダー」コブラ型ロボが胸(?)を張って言う。
「俺の名前はガニラン!」続いてカブトガニ型ロボが生意気な態度で言った。
「ワテはスパイドン。コブランダー兄貴の子分や」最後にクモ型ロボがのんびりと言った。
「僕が最初に見つけたのに、奪おうとするなんて乱暴すぎるカブ!」
「うるせえ! スターピースは俺達の世界征服の為に使うんだ。つまんねえ事には使わせねえぞ!」
コブランダーがカブタックの持つ本に掴み掛かった。カブタックは身体を動かしてそれを阻止しようとする。
しかし多勢に無勢。避けた方向にはガニラン、そのまた先にスパイドンと、カブタック包囲網が出来上がっていた。
ジリジリと背後の木のところまで追い詰められ、カブタックは逃げ場を無くしてしまった。
「おら、もう逃げられねえぞ! 大人しくスターピースを――」
「――ひとーつ、贔屓は絶対せず!」
「な、何だ!?」
何処からともなく聞こえてくる野太い声。
4体のビーロボはスターピースの事を忘れ、空を見ていた。
「ふたーつ、不正は見逃さず!」
「ど、何処にいるんや! 出てこんかい!」
「みっつ、見事にジャッジする!」
「出て来いって言ってんのが分からねえのか!」
コブランダーの声に答えるように、カブタックの背後の木がグルグル回転し始めた。
突然の事に驚き、腰を抜かすビーロボ達。そして回転が止まったかと思うと――。
「キャプテントンボーグ、ただいま参上!!」
木に生えた顔がそうのたまった。
「「「「木に顔が生えたーーーッ!?」」」」
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m