「あ〜……スターピースを探しに出たは良いが……」

緑色を基本とした大型のボディにクワガタの顎が付いた頭部。
言うまでもないと思うが、彼は人間ではなくロボットである。
それもカブタックと同じく、高円寺寅彦によって作られたビーロボだ。
彼もまたスターピースを探す為にカプセルから目覚めたのだが――。

「腹減ったのぅ……」

エネルギータンク――お腹から情けない音が辺りに響く。
目覚めてから何も食べていなかったせいか、彼は生き倒れる寸前であった。
しかし生き倒れするロボットと言うのも何処か可笑しく、シュールである。

「だ、駄目じゃ……もう動けん」

木に寄り掛かるように倒れ、彼は内部回路の警告を静かに聞いていた。
情けない機能停止の仕方だ。これでは他のビーロボ達に笑われて――。
そんな事を思った瞬間、彼の眼から光が消えていた。





用事を終え、無駄に長いロールスロイスに乗って帰宅する麻帆良学園・中等部の生徒、雪広あやか。
彼女の所属クラスは2−A、ネギの受け持ちである。そしてあやかはそこのクラス委員長であった。
更に彼女は世界的に有名な雪広財閥のお嬢様でもある。当然のことながら、頭に超の付くお金持ちだ。
まあロールスロイスに乗っている姿から、嫌でも只者ではないと分かってしまうが。

(はあ……今日はとても良い日でしたわ)

眼を瞑り、恍惚の表情を浮かべながら今日の出来事をゆっくりと思い返す。
高畑先生に代わり、新任教師としてイギリス・ウェールズから遠路遥々2−Aへとやってきたネギ・スプリングフィールド。
少年特有のあどけない笑顔、燃えるような紅い髪、ハムスターのような眼――あやかは即座にノックアウトされてしまった。
そう――彼女は少年好きであった。決してショタコンではなく、純粋に少年のような子供が好きだと彼女は豪語している。
しかしそれこそ、紛う方無きショタコンであることを彼女は気付いていなかった。

(ネギ先生……お気に召してくれて良かったですわ)

放課後に2−A総出で行われた【ネギ先生歓迎会】。そこであやかはネギの銅像を送ったのだ。
周りは若干退いていたものの、ネギは笑顔でそれを受け取ってくれた。あやかは幸せであった。
そして歓迎会がお開きになり、1人、また1人と女子寮へと帰っていく。
しかしあやかは今日、寮へは帰らずに自宅へと戻っていた。それは何故か――。

「黒磯ッ! もっとスピードを上げなさい! HR前に頼んでおいた特注の“ネギ先生ブロンズ像”を早くこの眼で!」

己の欲望が形となった物を見るためであった。

「承知致しました。お嬢様」

あやか直属の執事、黒磯は言うがままにアクセルを踏み、ロールスロイスのスピードを上げる。
立派に蓄えられた白い髭、鍛え上げられた体格、美しい姿勢、彼もまた只者ではないようだ。
しかしこの人達は道路交通法と言う物を知っているのか甚だ疑問である。

「出来が良ければ追加注文をして、私の像をネギ先生像の隣に飾って――黒磯、ストップ!」

キキィッとタイヤの鳴る音が響き、ロールスロイスは急激に減速して止まった。
黒磯が後ろに座るあやかを見る。彼女は窓から外を覗き、釘付けになっていた。

「如何なさいました? お嬢様」

「……不法投棄ですわ」

「はっ……?」

要領を得ず、黒磯は運転席から助手席へと移動し、あやかと同じ場所を見つめた。
するとそこには、木に寄り掛かったまま動かない緑色のロボットの姿があった。











目覚まし時計の規則正しいデジタル音が、とある一室に鳴り響いた。
それは眠る者の眠気を覚まし、起きるべき時間を報せるための物である。
ネギ・スプリングフィールドもまた、その音に目覚めた者の1人だ。

「う〜ん……おはようカブタック」

「ふわぁ〜……おはようカブ。ネギ」

ネギとカブタックは同時に起き、同時に欠伸をし、同時に背伸びをするのだった。
2人が居る部屋は麻帆良学園・先生寮の一室。学園長が手配してくれたのである。
麻帆良学園からそう遠くない場所に新しく建てられたこの寮はまだ入居者が少ないため、当てられたのだ。
カブタックがネギと一緒に住んでいるのは、2人の仲の良さを見た学園長の粋な計らいである。

ちなみにタカミチもこの寮の一室を取っているらしく、暇があればここに戻って休養しているらしい。
手際良く朝の支度を済ませていき、姉であるネカネから習った料理技能を惜しみなく発揮するネギ。
日本に来る前、独り暮らしには必須な技能であると、ネギはネカネから色々と仕込まれていた。

「カブタック、朝ご飯出来たよ」

エプロンを付けたネギが台所から顔を覗かせ、新聞を取ってきたカブタックに言った。
もしあやかがこの姿を目撃すれば、鼻血噴出は確実な物であることを明記しておく。

「わぁ〜! ネギ、料理がとっても上手カブ」

「えへへ。お姉ちゃん直伝なんだけどね」

トースト、バター、スクランブルエッグ、簡単なサラダと、洋食で纏められた朝食だ。
「「頂きます」」と行儀良く手を合わせ、2人はいそいそと朝食に手を付けていく。

「そう言えばカブタック、今日から学園で働くんだってね」

「うん。学園長先生が清掃員として雇ってくれる事になったカブ。ここは高円寺博士の手掛かりが沢山あるし、何か情報
があれば報せてくれるらしいし、仲間もここら辺でスターピースを探しまわっているかもしれないし、丁度良いカブ」

「そうなんだ。じゃあお互いに先生と清掃員、頑張ろうね!」

「OKカブ!」

笑顔を交わし、サッサと朝食を食べていく2人。
そしてそれを済ませた後、最後の支度をし、学園へと向かうのだった。











2−Aの朝はとても騒がしい。それは他クラスの騒がしさを凌駕するほどである。
生活指導員である新田先生の厳しい注意も時折入るのだが、全く反省しない。
神経が図太いのか、元気が有り余っているのか、それは誰にも分からないのだ。

「皆さん、おはようございます」

「あ、おはよういいんちょ」

「おっはよーっ! いいんちょ」

クラス委員長のあやかも登校してきた。彼女が挨拶すると、殆どの者が返事をした。
例えショタコンであろうとも、あやかはクラスのみんなから中々慕われているのだ。
いいんちょとは、クラス委員長であるあやかに付けられた皆からの愛称だ。

「明日菜さん、おはようございます」

「…………おはよ」

「あ、いいんちょ。おはようさん」

「はいこのかさん、おはようございます」

寝惚け眼で自分の机につっぷくしている神楽坂明日菜と、彼女の親友である近衛木乃香に挨拶をするあやか。
この2人はあやかにとって長い付き合いであった。特に明日菜とはもう幼馴染みと言って良いほどの関係だ。
――ちなみに近衛木乃香は、あの学園長の大事な孫娘である。
DNAは何処に受け継がれたとか、失礼なことを考えてはいけない。

「朝から不機嫌な顔をしてますのね、明日菜さん」

「……うっさいわねえ。朝は新聞配達のバイトなんだから仕方無いでしょ。学費を稼がないといけないんだから」

「学園長先生から、学費免除の話は何度もあった筈でしょう? どうして素直にお受けにならないんですの? 貴方の家庭事情はみんな――」

「これ以上木乃香と、木乃香のおじいちゃんである学園長先生に迷惑を掛けられないでしょ。ここに入れてもらっただけでも感謝してるのに」

フンと鼻を鳴らし、明日菜は不貞腐れたような表情を浮かべた。
その態度に木乃香は苦笑し、あやかは呆れ気味の表情だ。

「ウチもおじいちゃんも全然気にしとらんのに……明日菜は頑固やからなぁ」

「全くですわ。その頑固さをもう少し他のことに使えばよろしいのに……」

ハアと溜め息を吐いた後、あやかはゆっくりと自分の席に戻っていった。
彼女の後ろ姿を、明日菜は秘かに薄目を開けて見つめる。
そんな彼女の視線が、徐にあやかの鞄へと移った。するとそこには――。

(えっ……? あれって……)

鞄の中から覗く、何処かで見た事のある形をした片手程の大きさの機械。
明日菜は眠気でボーッとしている頭から必死にその機械の記憶を探し出す。

(……あっ! 思い出した! あれって先生がカブタックから貰った“友情コマンダー”とか言う奴じゃない!)

色こそ緑色だが、形も大きさもネギがカブタックから貰った友情コマンダーと類似していた。
それが何故、あやかの鞄の中にあるのか。もしやあやかもネギと同じようにビーロボと――。

「明日菜どうかしたん? 何か驚いとるようやけど……」

「え、ええ! な、何でもないわよ。うん、何でもない!」

「??? そうなん?」

これは適当な時間に訊くしか無さそうだ――明日菜は今は問い質すのを止めておいた。
そう思った矢先、教室の扉が開き、教師生活2日目のネギが元気良く入ってきた。

「皆さん、おはようございまーす!!」











「お掃除ッ♪ お掃除ッ♪ 綺麗にするカブ綺麗にするカブ♪」

何とも言えないノリで歌を歌いながら、広場を手に持った箒で掃除するカブタック。
彼の胸には【特別清掃員・カブタック】と光輝かんばかりのプレートが貼ってある。
プレートに書かれている字が手書きな辺り、学園長のお茶目(テキトーさ)が窺えた。

「ねえねえ、見てあれ」

「やだ、ちょっと可愛い♪」

「大学部の人が作ったロボットかな?」

特別清掃員と名は打ってあるものの、カブタックの掃除する姿は生徒の視線を集めた。
しかしそんな事は露知らず、彼は自分に与えられた仕事を着実にこなしていく。
そしてこの場の清掃が一通り終わり、カブタックは次の場所に移ろうとした――が。

「ん……? あれは……」

前方の道先に見慣れた姿を見つけた。何やら考え込んでいる様子である。
緑色を基本とした大型のボディ、クワガタ顎の頭部――もしやあれは。

「クワジーロッ!?」

驚いた声色で名を呼ぶと“彼”――クワジーロはこちらを振り向いた。

「おいの名を呼ぶのは……おおっ! カブタック!」

クワジーロはカブタックに駆け寄り、笑顔で「元気にしとったか?」と肩を叩いた。
カブタックとクワジーロは高円寺寅彦によって最初に開発された初期型のビーロボである。
開発・初起動時から長く親交を結んでいた為か、2人の関係は大親友と言っても良かった。

「ところでクワジーロは今何してるんだカブ?」

「おう。おいは今、お嬢の執事見習いをしとる。さっきは習った事を頭ん中で反復しとった」

「お、お嬢? 執事見習い? 一体何なんだカブ?」

「うむ。話せばすこ〜し長くなるんじゃがのう……」

カブタックとクワジーロは適当なベンチに腰掛けた。
そこでクワジーロは一息付いた後、睡眠学習カプセルから目覚めた後のことをゆっくりと語り始めた。
スターピースを当ても無く探していたこと、途中でエネルギー切れになって生き倒れたこと、そこを雪広財閥のお嬢様に拾われたこと、色々とご馳走してもらったので恩を返すために住み込みで働かせてもらっていること――。

「成る程。それで執事見習いカブか」

「執事っちゅうもんは奥が深くてのぉ。やってみると中々面白か!」

豪快に笑いながら両膝をパンと軽く打つクワジーロ。
カブタックは彼の底抜けに明るい性格が好きだった。

「僕には難しそうカブ。こうやって掃除をやってる方が良いカブね」

「カブタックはここで働いとるんか? ん〜……とくべつせいそういん?」

カブタックは胸を張り、クワジーロにプレートが見易いようにした。

「うん。ここで教師をしているネギと友達になったんだカブ。友情コマンダーも渡したから僕とネギはパートナーカブ」

「おいもお嬢に友情コマンダーを渡したからのぉ。まだパートナーというには日が浅いが、お嬢なら信じられる気がする」

久し振りに再会した友人と会話を弾ませる2人。人目から見ればとても楽しそうだ。
しかし掃除をすっかり忘れていたカブタックが慌てるのは、この少し後のことである。





――昼休み。生徒達が午前中の授業で大いに蓄積された空腹感と疲労を存分に解消する時間である。
明日菜は朝の時間に訊き逃した【友情コマンダー】について、この時間に問い詰めるつもりだった。
机に出された教科書類を片付け、教室から出て行こうとするあやかをすぐさま呼び止めた。

「何か私にご用ですの? 明日菜さん」

「あ、うん。ちょっと訊きたいことがあってさ」

「……まあ構いませんわ。お昼、一緒に如何ですか?」

「いいんちょの奢りなら喜んで」

「仕方ありませんわね。今回だけですよ」

「やりぃ♪ じゃあついでに本屋ちゃんも一緒で良い?」

呆れた様子であやかは「もう何でも良いですわ」とヤケクソ気味に言った。
のどかは自分と同じ偶然とは言え、カブタックとスターピースに関わったことがある。
ビーロボ関係の話である以上、彼女を除け者にするのは何処か気が引けたのだ。
無論、後で職員室に寄ってネギも誘うつもりではある。

「なんや楽しそうやなぁ。明日菜、ウチも一緒でええ?」

「えっ……あ、うん。良いわよ。良いでしょ?」

「どうぞどうぞ。どうせ清算するのは私なんですから」

「そんな拗ねなくても……」

ついでのついでに木乃香も面白そうな匂いを嗅ぎ付けた為、話に加わることになった。

「全く。何時の間にか結構な多人数になりましたわね」

「まあ良いじゃん! みんなで食べる方が楽しいわよ」

「せやな。ウチも明日菜の意見に賛成♪」

「あ、あの……ご迷惑をお掛けします……」

この面子の中で唯一低姿勢なのはのどかだけであった。
そんな彼女の後ろ姿を見送っているのは2人の少女だ。

「ねえねえ夕映、あれってどう思うよ?」

「のどかの交友関係が広がった。とても良いことだと思いますが?」

「そうかなぁ〜? 私には何だかそれだけには思えない気が……」

「ハルナはいちいち勘繰りが過ぎるです……」

教室から出て行く親友(のどか)を見送った綾瀬夕映と早乙女ハルナ。
夕映は気にも留めない様子であるが、ハルナは気になる様子だった。





いいんちょ(明日菜)一行は食堂棟で適当な飲食店を選び、そこで昼食を取ることにした。
途中職員室に寄ってネギを誘った時点で、あやかは幸せそうな表情を浮かべていたりする。
全員の注文が終わったところで、ネギがあやかに対してお礼の言葉を述べた。

「お昼ありがとうございます雪広さん。このお礼は必ずしますので……」

「ああっ、そんな! 勿体無いお言葉ですわネギ先生! それと私のことはあやかと――」

ワザとらしく両手をパンパンと鳴らし、明日菜は会話を中断させた。

「あ〜はいはい。自分の世界にトリップするのはそこまでにして。早く用事を済ませたいんだから」

「もう明日菜さん! せっかく私とネギ先生が良い雰囲気でしたのに……!」

「いいんちょは相変わらずちっちゃい子が好きなんやなぁ」

ケラケラ笑いつつ、さり気無くあやかの趣味を暴露する木乃香。
本人にそんな自覚は無いのだから余計に恐ろしい物を感じさせる。
ここら辺があの学園長の血を引いていると言うところか。
こんな状況の中、ネギとのどかは乾いた笑いをすることしか出来なかった。

「コホン。それで明日菜さん、私に訊きたいこととは一体何なんです?」

「あ〜……それは先ず先生の“コレ”を見てからの方が良いわね」

明日菜がネギに眼をやると、ネギはコクンと頷き、持って来た友情コマンダーをポケットから取り出した。
それを見たあやかは驚愕の表情を浮かべ、赤の友情コマンダーを持つネギの手を思わず握り締めていた。

「ね、ネギ先生ッ!? 何処でこれを!?」

「はい。カブタックって言う名前のロボットから貰ったんです。僕のお友達ですよ」

あやかはネギの手を握り締めたまま、暫し呆然とした様子であった。

「あ、明日菜さん。いいんちょさんの驚きようだと、いいんちょさんも……」

「想像してる通りだと思うわ本屋ちゃん。さあいいんちょ、話してくれる?」

「??? みんな何の話をしとるん? ウチにはまるでサッパリや」

「あ、えっと……近衛さんには僕から事情を説明しますよ」

みんなの話に置いていかれてしまい、ちょっと拗ね気味の木乃香をフォローするネギ。
そんな中、あやかは1度深く溜め息を吐いた後、友情コマンダーのことについて語り始めた。
何も知らない木乃香に自分の知ってる全てを説明しつつ、あやかの話にも耳を傾けるネギ。
ある意味器用と言っても良い芸当かもしれなかった。

「じゃあいいんちょは、生き倒れたソイツを拾って雇ってるわけ?」

「そうですわね。どうしても恩を返したいと言うので、執事見習いとして働いてもらっていますわ」

「ゆ、友情コマンダーもその時に貰ったんですか? その、ビーロボさんから……」

「ええ。パートナーの証と言うので受け取りましたわ。何時でも連絡を取れる通信装置でもあるらしいですし」

どうやら昨日の内にあやかはスターピースのことについても彼から聞いたらしい。
話の途中に運ばれてきた紅茶を軽く飲み、一息吐くあやか。
ネギも木乃香に説明をし終わったので、彼女に1つ質問をしてみた。

「それで雪広さん、そのロボットの名前は何て言うんですか?」

「はい。ビーロボ2号機・クワジーロと名乗っていましたわ。モデルは名前から想像がつくでしょうけど、クワガタですわ」

「クワジーロさん……か」

どんなビーロボなんだろうと、会うのが楽しみになってきたネギ。
そんなワクワクした様子のネギを見て、あやかが残念そうな表情を浮かべた。

「申し訳ありませんネギ先生。今はコマンダーを持ってきていないので、連絡が取れないから紹介が出来ないのですが……」

「ああ、そんなことは気にしないで下さい! 雪広さんがクワジーロさんのパートナーなら、何時でも会えますから!」

「何てお優しいお言葉でしょうッ! ネギ先生、放課後待っていて下されば連絡を取って彼を皆さんに紹介しますわ!」

「ホントですかッ! じゃあ僕の友達のカブタックも紹介しますよ。きっと良い友達になれると思います」

(ああ……! ネギ先生との約束……そしてネギ先生とお揃いの友情コマンダーッ! ……いいえ、私とネギ先生の場合……)

「愛情コマン――」

「はいはいストップストップッ! 警察に補導されそうな妄想はそこまでにして〜ッ!」

再び明日菜があやか曰く「良いところ」で妄想をストップさせた。
横であやかが「キィ〜ッ!」と悔しそうに呻くが、明日菜はあえて無視していた。
そんな騒がしい状況の中、木乃香は少し不満そうに頬を膨らませていた。

「ぶぅ〜……明日菜のいけず! こんなに楽しそうで素敵なこと、親友のウチに黙ってるなんて酷いやん!」

「うえっ!? だ、だってしょうがないじゃないのよ。まさかいいんちょまで関わってるとは思わなかったんだし……」

「もう……まあええけどな。でも次からは、ウチを仲間外れにしたらアカンえ?」

「分かったわよ。全く、木乃香には何時まで経っても敵わないわ」

そんなこんなで、楽しい昼休みの時間はあっと言う間に過ぎていった――。











「あ〜……毎度お馴染みじゃないかもしれないけどチリ紙交換〜。チリ紙交換だよ〜」

「ワテ等はチリ紙なら何でも引き取りまっせ〜。ご協力をお願いしますわ〜」

「すいませ〜ん。これ、お願い出来ますか?」

「あ、はいはい! こちらですねえ」

――麻帆良学園・都市内。そこでせっせとチリ紙交換のバイトに励む3体のビーロボ達が居た。
正体はネギ達とスターピースを争ったコブランダー、スパイドン、ガニランの3人組であった。
交換に来たお客の対応をし、丁寧に返したガニランは深く溜め息を吐いた。

「兄貴ぃ、俺等って何でこんなことやってるんですか?」

「仕方ねえだろ。借りようと思ってたアパートを追い出されちまったんだからな」

「まさか家賃前払いとは思ってもいませんでしたなぁ。お陰でワテ、おばちゃんに箒で頭を叩かれてしまいましたわ」

「ガタガタ文句言うな。お前よりも10倍俺の方が多く叩かれてんだぞ!」

文句を垂れたスパイドンの頭を容赦無く鉄拳で制裁するコブランダー。ガニランは相方に呆れながら次の客の相手をする。
アパートを管理するおばちゃんから言われた「住みたきゃ家賃稼いで来な!」の言葉の元、3人組はバイトに励んでいた。
スターピースを手に入れて世界征服をすることは大事だが、今現在住み家と食糧を確保する事が第一の目標であった。
例えスターピースの力で世界を征服したとしても金が無く、住む家も無い支配者なんて格好が悪く、恥ずかしすぎる――。
コブランダーはそう考え、子分2人と共に今は苦難を耐えようと涙ながらに決意をしたのであった。

――しかし彼は気付いていなかった。
世界の支配者になってしまえば、食糧も住む家も手当たり次第好きに出来ることに。
この辺り、睡眠学習が中途半端のまま目覚めてしまったツケが出てしまっている。
その事を指摘しないガニランとスパイドンもまた、同じことであった。

「おらお前等! もっと愛想良くしねえか!」

「分かってますがな。あ、はいはい、こちらですか?」

「はいどうぞ。トイレットペーパー3個です、はい」

彼等が世界の支配者になるにはまだ、十分な時間が必要なようだ。



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