――肌寒い夜。バイトを終えた3人組は夕食の材料を買い終え、今日の野宿場所を探していた。
前まで寝床にしていた公園は居心地が良かったが、警備員に見つかり、追い出されてしまった。
そこらの広場の道端で眠るのも有りと言えば有りだが――あまりにも惨め過ぎる。
「まあまあ兄貴。野宿場所は後で、とりあえず飯を作って食べましょうよ」
両手に買い物袋を持つガニランがコブランダーを慰めるように言った。
「…………そうだな。奮発して買った豚肉を食べて、元気出すか!」
「それでこそ兄貴やでッ! いやぁ、久しぶりに美味しい肉が食えるわ」
彼等の今日のメニューは普段食べているおじや、そして奮発して買った豚肉らしい。
世界征服の為、日々お金を節約している3人組にとって、肉系の料理は貴重だった。
「あ……そうだ。昨日鍋が壊れたから、今日買おうと思ったのに忘れてきちまった」
ガニランが今の今まで忘れていたことを思い出し、不安に顔を歪める。
「そんな不安がるこたぁねえよ。鍋なんざ、ゴミ捨て場に沢山転がってるだろうに」
「せやなぁ。人間はまだ使える物を平気で捨てよるし、鍋も普通にあるやろ」
「う〜ん……分かった。じゃあ俺、適当な鍋をゴミ捨て場から探してくる!」
「おう。俺とスパイドンは近くの公園で待ってるからな。早くしろよ」
そう言って3人組は一先ず別れた。ガニランは早く夕食を食べたいが為、早歩き気味だ。
暫く歩くと、小さなゴミ捨て場を見つける事が出来た。ゴミが山のように積まれている。
その中にはまだ――ガニランの眼からすれば――使える物が山ほどあった。
「ったく、物は大切にしなきゃいけねえんだぞ……」
ブツブツ文句を呟きつつ、お目当ての“鍋”を探すガニラン。
この前のように警備員がやって来て、また煩く言われるのは正直堪らない。
さっさと調理用の鍋を見つけ、この場からおサラバしたかったのだ。
「これでもない、これでもない、これでもない……おっ! 見つけた」
ゴミの山をかき分けていくと、持ち手と蓋が少し欠けた陶器製の鍋を発見した。
少し直せば新品同様な物だ。これは良い物を見つけたと、ガニランは笑顔だ。
「これで美味いおじやが食える。ヒャッホ〜イ!」
終始軽やかなステップのままガニランはゴミ捨て場を後にした。
――鍋の底に張り付いている、“ある物”には一切気付かずに。
「兄貴ぃ〜」
「遅えぞガニラン。もうちょっと早く来い」
「すいません。でもほら、良い鍋を見つけたぜ」
サッと、手に持っていた鍋をコブランダーに差し出すガニラン。
少し欠けたところがある以外、良い形の陶器製の鍋である。
コブランダーは満足そうな顔を浮かべ、それを受け取った。
「よしスパイドン、買ってきた卵と佐○のゴハン、調味料諸々この鍋に入れろ!」
「よっしゃ、任せとき!」
こうして何時も通りの、コブランダー達悪ロボの漢料理作りが始まった。
おじやを煮るのは欠けた鍋、肉を焼くのは――最近拾った――バーベキューセット。
その作り方は豪快そのもの。もしプロの料理人なら卒倒しそうな勢いだ。
そして30分後――彼等の漢料理は出来上がったのだった。
「今日も美味そうなのが出来たわぁ。早く食べたい……」
「慌てるな。では手と手を合わせて……」
「「「頂きます!」」」
その掛け声と同時に3人の持つ箸が、良い匂いを醸し出す肉へと動いた。
おじやはそっちのけで、早く無くなるであろう肉に夢中らしかった。
すると肉は5分と保たずに無くなり、残るはおじやだけとなってしまった。
「おいスパイドン、取り過ぎるなよ」
「分かってるがな。もうガニランは煩いなぁ」
「喧嘩は止めろ。ガニラン、次はお前だ」
おじやの鍋を囲み、お玉で適当な量を茶碗に掬っていく。
それぞれ3人の茶碗の柄は蛇、蟹、蜘蛛と個性的である。
全員が取り終わるのを確認し、ゆっくりと3人はおじやを口に運んだ。
その瞬間――コブランダー達の眼が驚きに見開いた。
「なっ……」
「これは……」
「う、う、う……」
一斉に立ち上がる3人。
「「「うまぁぁぁぁぁぁい!!!」」」
気付けば3人の眼から涙が零れていた。おじやのあまりの美味しさに感動してしまったらしい。
あっと言う間に茶碗の中のおじやを食べ終わり、3人は我先にと鍋に残ったおじやを掬いだす。
おじやもまた肉と同じく、5分と保たずに空になってしまうのだった。
「いやぁ〜美味しかった」
「満足、満足や……」
「確かに美味かったが、何かおかしくねえか?」
先程の美味な、と言うか美味すぎるおじやに1人疑問を持つコブランダー。
徐に空の鍋を手に取ってみると、鍋の底の方に若干違和感を覚えた。
何かと思って見てみると、そこには何と、スターピースが張り付いていた。
「――ッ! おいお前等見ろ! スターピースだ!」
「「えっ!?」」
コブランダーに言われ、ガニランとスパイドンも鍋の底を見た。
確かにそこにはしっかりと、スターピースが張り付いている。
捨てられていた鍋に取り憑いていたのを偶然にも、持ってきてしまったらしい。
「何にしてもこりゃ幸運や! 兄貴、サッサとスターピースを剥がして願いを叶えてもらいましょ!」
「まあ慌てるな。もしこれがスターピースモドキだったらどうする? 剥がした瞬間に砂になるかもしれねえ……」
確かにコブランダーの言う事にも一理ある。
だがこのままでカブタック達も感づかれ、また争奪戦になってしまう事も十分あり得る。
一体どうすれば良いのか――そう考えるより先に、コブランダーが悪い笑顔を浮かべた。
「これが本物ならそれで良い。だがモドキなら、力を存分に利用させてもらってから消えてほしいじゃねえか」
「「と言うと……?」」
「味気の無いおじやが、涙が出るほど美味になったんだ。この鍋を使って一儲けするんだよ……」
コブランダーが2人に耳(?)打ちをし、即座に考えた計画を言って聞かせた。
計画の内容を聞く内に、ガニランスパイドンも悪い笑顔に変わっていった。
「流石は兄貴ッ! これでワテ等は億万長者や!」
「アパートどころか、大きなマンションにも住めるぜ!」
「だろう? それにここは学生がワンサカ居る麻帆良だ。大儲け出来るぞぉ〜?」
こうして3人は明日に備える為、準備を始めたのだった――。
◆
「いらっしゃいカブ!」
――本日は晴天目映い日曜日。ポカポカと暖かい陽気が心地良い。
カブタックは笑顔を浮かべながら遊びに尋ねてきたお客を入れた。
遊びに来たお客は明日菜、木乃香、あやか、のどか、クワジーロの5人。
今日は休日と言うことで、前日にあやかがネギに許可を貰ったのだ。
本当はあやか1人だけの訪問だったのだが、話を聞き付けた4人が付いてきたのだ。
「おはようございます。皆さん」
「おはようございますネギ先生! ああ、私服姿も素敵ですわ!」
「あはは。ありがとうございます……」
朝から相変わらずの様子のあやかに対し、明日菜達は後ろでやれやれと言った表情を見せていた。
「それにしても……ここが先生の部屋かぁ。私達の寮より結構広めの部屋ね」
「壁に沢山面白い物が飾ってあるわ。先生、コレって何なん?」
部屋の壁には古めかしい小物の銃、短剣、瓶、絵などが飾られていた。
木乃香やのどかが子供のように眼を輝かせ、それ等を眺める。
「ああ、それは僕のアンティークコレクションです」
「先生はこう言うのが好きなんですか……?」
「はい。みんな古いんですけど、独特の味わいがあるんですよ」
顎に手を添え、明日菜が関心したような、呆れたような感じで言った。
「先生って見た目や年齢の割には渋い趣味を持ってんのね……」
「あうあう……渋いって言わないで下さい……」
ちょっぴり沈んでしまったネギを優しく慰めるカブタック。
だが彼もまた内心、明日菜と同じ事を思っていたのは秘密だ。
少しして気分が回復した後、ネギが思い出したように言った。
「あ、そうだ。今から朝ご飯を作るんですが、皆さん是非食べていって下さい」
「へっ? 先生って料理なんか出来んの?」
「独り暮らしですからね。家事ぐらいは出来ないと苦労しますんで……」
照れ臭そうに笑うネギを、あやかが鼻を押さえながら感動する。ネギ先生LOVEな彼女にとって今のはだいぶ応えたようだ
その横でクワジーロがティッシュとハンカチを手に持っているところを見ると、執事見習いとして成長しているようである。
「じゃあ先生、ウチも手伝ってええ?」と、木乃香。
「あ、あの……私もお手伝いします」と、のどか。
「ホントですか? じゃあお願いします」ネギが笑顔で了承した。
料理が出来ない明日菜はカブタックに誘われ、テレビを見ることにした。
あやかも本当は手伝いに立候補したかったのだが、ネギのエプロン姿を見て撃沈していた。
何を想像したのか不明だが、鼻血の海に沈んでいる。クワジーロが焦りながら介抱中だ。
「にしてもアンタと先生ってホント仲が良いわよねえ。まだ会って間も無いんでしょ?」
「カブ。ネギはとっても優しいし、元気だから。僕とも馬が合うんだカブ」
「ま、まあね。確かにアンタと先生って何処か似てるような気がするわ……」
ハハハと乾いた笑いを出す明日菜。そう言っている内に朝食が出来たようだ。
台所に居る3人からお呼びが掛かり、明日菜とカブタックは椅子に腰かけた。
回復したあやかと介抱していたクワジーロも座ると、朝食が次々と運ばれてくる。
それ等は見るからに美味しそうであり、朝の食欲誘ってくれた。
「まあ、まあまあまあ! ネギ先生が作ってくれたご飯を食べれる日が来るなんて……私、感激ですわ!!」
「あ、あやかさん大袈裟ですよ。それに僕だけじゃなく、近衛さんと宮崎さんも手伝ってくれたんですから」
「全く……先生のことになると、問答無用で暴走するんだから」
やれやれと言った様子で呆れつつ、明日菜は目玉焼きに箸を伸ばした。
カブタックも「頂きますカブ」の一言と共に手を付けていく。
ネギは調理の間に作っておいたコーヒーを皆のカップに注いでいった。
「ほお〜……これは美味い。ネギ少年もお嬢の友達2人も大した料理の腕前たい」
「あはは。ありがとな、クワジーロ君」
「うんッ! 美味しいカブ! 木乃香ものどかも、とっても上手カブ」
「あ、ありがとうございます……」
和やかな雰囲気が部屋全体を包み込む。
朝の風景にはとても似合う物だった。
――そんな時、明日菜とカブタックが消し忘れていたテレビ画面にコミカルな音楽と共にテロップが映し出された。
【彗星の如く現れたラーメン業界期待の新星! ラーメン店・蛇麺屋に迫る!!】
「ん……何かしらコレ?」
「ほえ? 画面に映ってるのって……ここの食堂棟やない?」
木乃香が指摘した通り、画面に映っている背景は食堂棟の広場だった。
しかし様子がおかしい。食堂棟にしてはやっている屋台の数が少ない。
それどころか辺りのカフェには人っ子1人見当たらないのである。
皆が変に思う中、画面に映る濃い目の化粧をしたレポーターの女性が言った。
『皆さんおはようございます。さて今日は先程お伝えした通り、ラーメン業界に現れた新星――』
画面が切り替わり、特集する店の全体像らしき物が映し出された。
その店の全体はかなり凄まじい物がある。一言で言い表せばボロい。
まるで昨日今日で、間に合わせる為に建造した店のようだった。
しかし店に並ぶ客の列、列、列――名を表すかの如く、まるで蛇のように行列が出来ている。
『ラーメン店・蛇麺屋の特集をお送り致します! では早速店長さんにお話を聞いてみましょう』
レポーターとカメラが店の中へ入った。中も客でいっぱいだった。
そんな中をかき分けて、2人が店の奥へと進んで行く。
――すると画面に話を聞くと言った“店長”が出てきた。
『ではご紹介します。ここのお店の店長さんである、コブランダーさんです』
『コブランダーです。テレビの前の皆さん、宜しく』
明日菜とあやかが――ほぼ同時に――口に含んでいたコーヒーを噴き出した。
カブタックとクワジーロが驚き、ネギと木乃香とのどかは呆然としていた。
『さてコブランダーさん、ズバリお聞きしますが……ここのラーメン店の味の秘訣は?』
『ふふ、残念ながらそれは御教えできません。企業秘密ですから……』
『ああ、ですよねえ。では何故こんなにも評判の味を今の時期に?』
『そうですねえ……あえて言うならば星のお告げが来た、とでも言いましょうか』
『は、はあ……? 成るほど……』
レポーターは多少戸惑いながらも、コブランダーに次々と質問をしていく。
対するコブランダーはキザな様子&口調でそれ等の質問に答えていった。
「一体何やってんのよ、あの悪ロボ3人組のリーダーは!!」
「ラーメン屋を営業してましたわね。それも大層評判の良い味だとか」
「あいつ等の事よ。きっと何か裏があるに決まってるじゃないの!」
カブタックとクワジーロが顔を見合わせた。
彼等もまた、先程の放送に疑問を持ったようだ。
「カブタック、明日菜嬢の言う通りたい。調べに行った方が良いかもしれん」
「うん。ネギ……」
カブタックがネギの方を向くと、コクンと頷いた。
「そうだね。何も無ければそれで良いんだし……行ってみよう」
◆
――食堂棟。テレビで放送していた通り、沢山の行列が蛇麺屋の前に出来ていた。
実物で見る蛇麺屋の外見は更に酷く、ボロい物であった。だが現実に行列はある。
店の見た目よりも、ラーメンの味――中身で勝負と言うことか。
「はあ……流石に凄いわねえ」
「テレビで見た通り、大評判のようですわね」
あやかが関心したように言った。
しかし周りの店を見渡していた木乃香とのどかは――。
「でも周りの店に閑古鳥が鳴いとるえ? このままやと潰れてまうんやない?」
「そうですね。ここに来たお客さん、みんな取られてしまったんでしょうか?」
人気があるのは仕方ないとして、前からある店は少し気の毒に思えた。
中には店の店長がもの悲しそうにこちらの行列を見つめていたりもする。
その姿が余計に哀愁を誘った。
「潰れるとちょっと困るわね。一応気に入ってる店もあるのになぁ……」
「…………そう、その通り。このままじゃワタシ達の店が潰れてしまうネ」
突然背後から暗い声がボソボソと聞こえ、皆が一斉に振り向く。
――するとそこには幽鬼のような顔をした2−A所属の生徒、超鈴音が立っていた。
心なしか彼女はゲッソリとしており、振り返った一同が一瞬だけ驚く。
「ちゃ、超じゃない……! もう驚かさないでよぉ」
「び、びっくりしました……はうう」
「……それはすまなかたヨ。でも沈んでるのは許してほしいネ」
「一体どうしたんです? クラスの中では人一倍元気な超さんが、そんなに落ち込むなんて……」
ネギがそう尋ねると、超が眼尻に涙を浮かべながら彼に抱き付いた。
「うわ〜〜〜んっ! ネギ先生、みんなっ! 聞いてほしいネ〜〜〜ッ!!」
「こ、コラ超さん! ネギ先生に抱き付くなんて、何て羨ま……いいえ、何て破廉恥な!」
「いいんちょ、あんた一瞬本音が出たわよ……」
泣いてしまった超を落ち着かせ、ネギ達は彼女から話を聞いてあげた。
何でもあの蛇麺屋、昨日に出来たばかりの店なのだが、リピーターの増え方が尋常ではなかった。
興味本位で入った1人の客から伝わり、1人から2人、2人から4人、4人から8人へと増え――。
今現在、食堂棟を訪れる殆どの客全てを取り込んでしまったのである。
中でも蛇麺屋が出来る以前に食堂棟トップの営業率を誇っていた中華屋台【超包子】。
そこの店長は言うまでもなく、超である。味に絶対の自信を持っていただけに、新店に全て客を取られたのが余程効いたらしい。
更に彼女がショックを受けたのは、今まで超包子を贔屓にしていた数十人の客をも取り込まれてしまった事だった。
「悔しい、とっても悔しくて屈辱ネ! ラーメン1つに肉まんや小籠包が負けるのは我慢ならないヨ!」
「まあラーメンも中華の風味が入った料理やねんけどな……」
「超の料理が美味しいのはクラス公認だからねえ。そのお客さんが取られちゃうってことは相当なんでしょ」
「明日菜〜ッ!? 関心しないでほしいヨ〜ッ! ワタシ達はクラスメイトじゃなかたカ!?」
「あ〜もうっ! いちいち抱き付かないでって!」
そんな超の様子を見兼ねたのか、クワジーロが1つ提案した。
「敵を詳しく知るには1つ――おい達も実際にあのラーメンを食べてみれば良いと思うたい」
「……クワジーロの言う通りですわね。私達も実際に試食して、本当に美味しいか確かめれば宜しいですわ」
「そうよね。周りが騒ぎ立ててるだけかもしれないし、味に大した事なければ自然と客が戻ってくるでしょ」
ネギ達が頷き、蛇麺屋の作るラーメンを味見する事に決めた。
超が少し不安がりながらも、皆が列に並ぶのを見送る。
彼等もまた、あのラーメンの美味しさに取り込まれてしまうのではないかと――。
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