セシリアに決闘を申し込まれて2日目、キラ、アスラン、一夏、箒の4人は千冬の許可を取り、放課後の空いている時間帯に第3アリーナの使用許可を取り付けた。

「先ずは、一夏に専用のISが届いた。今から完熟起動を行い、フォーマットとフィッティングを行う。今回の訓練は機体のフォーマットとフィッティングを行うと同時に機体特性を実戦的な訓練の中で学んでいく」

アスランは腕組をしながら一夏に今回の訓練内容の説明を行う。

続いてキラが一夏のISの説明を行う。

「一夏の専用ISは白式、機種は第4世代型ISに分類。『ISを使える男』である一夏の為に用意された専用機だよ。この機体開発には僕とアスランの開発した新機能も盛り込んである。主に僕が関わったのはソフト面、アスランが関わったのはハード面だね。どう言う機能なのかはフォーマットとフィッティングが完了してからのお楽しみ」

その言葉に一夏は驚きの声を上げる。

「凄いな2人共!! ISの開発もできるのか!?」

箒も何か納得するように言う。

「それでか、2人が休んでいたのは」

その言葉にキラは頬を掻きながら苦笑いし、アスランは目線を明後日の方向を向いた。

種を明かせば、フリーダムとジャスティスのデータバンクの中にISに流用できそうなデータが存在していた為、千冬と真耶に頼み込み、機体搬入を1週間無理やり繰り上げさせたのだ。その時、開発人に2人が設計した物を提出したら採用された。
そうして2日前に届いた機体と部品をアスランが貫徹突貫作業で組み上げ、OSの調整をキラが不眠不休で行ったに過ぎない。

キラやアスランはIS学園に入学する前からISの情報やその機械工学的な理論、ISに使われているOS、各企業や各国家のIS開発史や開発状況を調べ上げた。
無論、この中にはハッキングと言った違法行為も含まれる。

こうして手に入れた膨大な資料を持ち前の記憶力と分析力をフルに使い習得した。

ISのコア以外ならキラ達は組むことが出来るレベルにまで極めた。

ここでもキラとアスランのMS開発や整備の経験が生かされる。

正直、違法行為のオンパレードな為、余り大ぴらに自慢できないのが難点だ。

何せISは国家や企業が管理している。

つまり、他国や他企業に知られない様、ネジ1本にいたるまで綿密な管理運営が行われている。

OSにも何重にもプロテクトが掛かっている。

ソレを千冬やIS学園の名を使って横から割り込ませ無理やり収得したり、OSのロックをバレない様こじ開けたりした。

更に2人は国家や企業の管理下にある専用機を弄くり倒したのだ。

下手をしなくともブタ箱でクサイ飯を長く食べなければならない行為だ。

ソレを知らず無邪気にハシャぐ一夏を見て罪悪感に囚われる2人だった。

なぜ2人が危険を冒してまで一夏の専用機をカスタマイズしたかと言えば、一夏一人を決闘に行かせる申し訳なさとセシリアの決闘に勝ってほしいと言う願いから今回の暴挙に打って出たのだ。


アスランとキラはこの話題から逃れる為に話を元に戻した。

「それでは一夏、ISに乗り込んでくれ。乗り方は機体に背を預ける様にな、後はシステムが最適化してくれる」

アスランの指示に従い乗り込む。

「不思議な気分だ……ISが俺に語りかけてくる感じがする。解る。コイツの事が解る……」

一夏の独白の終了と同時に一夏の胸部、腹部に装甲が展開、装着、両腕のアームは回転しながら飛び出て一夏の意思に反応して動いた。

≪ACCESS≫

機械の音声と共に一夏の目の前に次々とウィンドーが展開していく。

『パワーエクステンダー起動により、シールドエネルギー最大値、700→1400』

と記されていた。

「パワー……エクステンダー? 聞いたこと無いな……」

「コレか? ヤマトとザラが開発した新システムは?」

一夏と箒の言葉にキラが頷く。

「うん、大容量シールドエネルギーパック、『パワーエクステンダー』っていって一夏の胸部装甲についてるのがそうだよ」

一夏と箒はマジマジと一夏に取り付けられている装甲を見つめる。

アスランは一夏に歩み寄り語り掛ける。

「どうだ? 体に違和感は無いか?」

その問いかけに一夏は力強く答える。

「問題ない。今からでも飛び立てそうだ」

その言葉に頷きながらアスランは一夏に命じる。

「ならカタパルトまで歩いて先に発進しろ。俺も後から行く」

「解った」

一夏はアスランにそう答えると危なげ無い足取りでカタパルトまで歩いていく。

「キラ、管制を頼む」

アスランの言葉にキラは意地の悪い笑みをしながら言う。

「ウン、解った。アスラン、あんまり苛めないでよ?」

その言葉を聞いてアスランは皮肉を湛えた顔をして言い放つ。

「安心しろ、戦いの素人相手に無茶はしないさ。お前みたいにな」

ソレを聞きながらキラは管制室に入室した。



キラが管制室のコンソールを操作し、一夏に通信する。

『白式のカタパルトオンラインを確認、カタパルト権限を百式に譲渡、進路クリアー、白式発進どうぞ!』

その言葉と共に一夏は膝を少し折り曲げ、カタパルトを起動した。

一夏はカタパルトに押し出されるようにアリーナの空へと舞い上がっていった。

ソレを見送ったアスランは右手を掲げISを起動した。

その瞬間、アスランは光に包まれ、ジャスティスに変身した。

「な!? 全身装甲(フルスキン)!? しかし、こんなIS見たことが無い!!」

箒が驚きの声を上げるのも無理が無いし見た事も無いのも当たり前だ。本来ならフリーダムやジャスティスは存在しないISなのだ。

アスランは箒の驚きの声を背に受けながらカタパルトまで歩み寄る。

ジャスティスの足がカタパルトにロックされる。

『ジャスティスのカタパルトオンラインを確認、カタパルト権限をジャスティスに譲渡、進路クリアー、ジャスティス発進どうぞ!』

「アスラン・ザラ、ジャスティス。出る!!」

そう言い、膝を少し折り曲げ、カタパルトを起動させた。

メタリックグレーのジャスティスはカタパルトから押し出された。

アスランは鮮やかなバレルロールをしながら思考制御でPS装甲を起動させる。

その瞬間、全体のメタリックグレーは鮮やかなローズレッドにその姿を彩る。

機体は超高速起動に至り、機体の間接部は白銀に光輝く。

この現象は、間接部PS装甲素材作動値が極大値にされた際の内部骨格部材の余剰電力を光子の形で放出されて間接部に掛かった負荷を外部に逃す役割がこの発行現象を引き起こしている。

特に、ストライクフリーダムにこの現象が如実に現れる。

コレはキラとアスランの戦闘スタイルの違いからである。

キラの戦闘スタイルは超高速スピードで敵を翻弄しヒットアンドアゥエイで敵を倒すのが得意分野に対し、アスランは超絶的な技量と奇抜な戦術で相手を出し抜き倒すスタイルを取っている事から余りこの現象にはならない。

アスランは一夏の前で静止すると一夏に語りかける。

正直、一夏は驚きを隠せない。

いきなりメタリックグレーの全身装甲(フルスキン)のISがバレルロールしながら鮮やかなローズレッドに染まったのだ。驚くなと言うほうが無理な相談だ。

「待たせたな、一夏。キラ、何時でもいいぞ。始めてくれ」

一夏はその声でそのISの操縦者がアスランである事をようやく理解できた。

『それじゃあ、一夏対アスランの模擬訓練を開始するよ。模擬訓練、スタート!!』

その声と共のアスランはMA-M1911 高エネルギービームライフルを構え、一夏に目掛けて発砲した。

緑色の光弾が一夏目掛けて飛んでいく。

「うおわ!?」

一夏は何とか防御をするが間に合わず肩部装甲を破損させられる。

ジャスティスのビームライフルの威力ならバリアブレイクどころかシールドを貫通し、絶対防御を破砕、装甲溶解、貫通して地面に大穴が開く位の威力があるが、アスランはビームライフルの威力を最低に設定し発砲したのだ。

アスランにとっては牽制射撃以下の攻撃でも戦闘経験の無い一夏にとっては正に恐怖だ。

「戦いの場で止まる馬鹿がいるか! 動きながら考えろ! 思考と行動を止めるな!」

アスランは一夏に激を飛ばしながらも射撃を止めない。

その射撃は一夏がギリギリ避けられる範囲での射撃だ。

アスランにとっては手抜きもいい所の手加減だが撃たれる一夏にしてみれば溜まったもんじゃない。

緑のビームが掠め、シールドを削るたびに恐怖に怯え、冷や汗を流しながら何とか対応していた。

しかし、バリアエネルギーは問答無用で削られていく。1400もあったエネルギー残量は今や900にまで削られた。

「お前のISは飾りか!? 反撃する位の気骨を見せろ一夏!」

容赦無いアスランの射撃を掻い潜りながら一夏は思考制御で白式の兵装を調べる。

「装備、装備は!?」

ウィンドー画面には刀が表示されていた。

「コレだけか!? でも無いよりはマシだ!」

そういい、刀を展開させ、果敢にもアスランの射撃を掻い潜り接近戦を挑もうとする。

「いい判断だ! だが甘い!」

そう言いながらアスランはビームをフルオートに切り替え、乱射する。

「うわ!? クソ!! 近づけね!!」

焦る一夏にアスランの激は尚も飛ぶ。

「こんな温い牽制射撃で怯んで如何する!?」

アスランにとっては温いかも知れないが一夏にとっては正直、鬼の様な弾幕だ。

「クソ、このままじゃシールドエネルギーを削られるだけだ。こうなりゃ、一か八か!!」

そう言いながらアスランの牽制射撃を数発もらいながらもアスランに突っ込んでいく一夏。

「ほう、シールドエネルギーを削られるの覚悟で突っ込んでくるか。いい覚悟だ」

その瞬間、一夏のISの形状が変化した。

「何だ!?」

「ようやくか……」

突然の事に戸惑う一夏にアスランは笑みを浮かべる。

≪フォーマット、フィッティング終了≫

そんな文字が浮かびあがる。

「コレでその白式はお前の機体になった」

アスランがそう言うとビームライフルをリアスカートにマウントする。

一夏の目の前のウィンドーに

≪近接特化ブレード、雪片弐型≫

と表示される。

「雪片……弐型……? 雪片って、千冬姉が使ってた武器だよな? 姉さんと同じ刀か悪くない。いや、最高だ」

その瞬間、刀の刀身は二つに割れ折曲がると中央から青白い光の刃を形成した。

アスランはその様子を見ながら右マニュピレータをレフトスカートに装着されているビームサーベルに手を伸ばしサーベルのグリップを掴むとソレを一気に引き抜いた。

その瞬間、桃色の光刃が煌きを放つ。

「白式の基本戦術は高速起動にて相手の攻撃を避けつつ翻弄し接近、雪片のバリア無効化特性を持つその剣で敵のシールドを切り裂く事がメインだ」

そう言いながらアスランは構える。

「さあ、来い!!」

アスランの言葉と共に一夏は高速で動き出す。

(さっきまでと全然違う! 機体が自分のイメージ通りに動く!)

そう思いながらアスランに高速で迫る一夏。

ここにキラの開発したOSが生かされていた。

初期設定で得た一夏の身体能力、反射速度、動体視力などの情報を収集、フォーマット、フィッティング終了と同時に一夏の神経ネットワークに無線接続する事により反応速度を大幅に上昇させるキラが開発したOSが白式の動かしやすさに一役かっていた。

一夏が踏み込み袈裟懸けに切り裂こうとするが、アスランは鮮やかに逆袈裟で防ぐ。

それに諦めず位置かは踏み込みを素早くし連続して切りかかるがアスランはその悉くを防ぎきる。

ある時は受け止め、ある時はそらし、ある時はかわす。

アスランの身のこなしを見た箒は戦慄した。

(す、凄い……太刀捌きに全く無駄が無い。あんなに綺麗な太刀捌きをするなんて……)

その時だった、突如ブザーが鳴り響く。

『一夏機のシールド残量ゼロにより訓練終了。お疲れ様』

スピーカからキラの声が響き渡る。
訓練初日はこうして幕を閉じた



キラとアスランは一夏に正確な機体解説をした後、二人はモニタールームで話あっていた。

「あの白式……何か違和感を覚える。如何表現したらいいのか解らないが何か変だ。こう、古いパーツを無理やり新しく作り直した様な印象がある」

アスランの言葉にキラは頷いて答えた。

「うん、ソレは僕も感じた。OSを弄っていたら元からあるOSに誰かが上書きした形跡があったんだ。巧妙に隠されてはいたけど……」

キラはその言葉に付け足すように言う。

「この白式を提供した企業の開発人をちょっと洗って見たけど、開発責任者が架空の人物だった」

アスランは顎に手をやりながら考え込む。

「一体誰だ? 白式の開発責任者は?」


アスランの独白は室内に虚しく響くだけだった。




あとがき
はい、今回は一夏の訓練編です。



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