アスランとラウラの試合が終わった後、キラはアスランに話しかけた。

「お疲れ様、アスラン」

キラの言葉にアスランは頷きながら言う。

「ああ、意外に疲れた」

アスランの言葉を聞いたキラは500mlのスポーツドリンクを渡しながら言う。

「アスランらしく無かったね? 何時ものアスランならあんな無茶をラウラにさせなかったはずだよ?」

キラの言葉にアスランはドリンクを一口飲み、一息ついてから答えた。

「ラウラと一夏の関係は知っているか?」

その言葉にキラは微笑から険しい顔になった。

「うん、剣呑だね」

言葉を選ぶ事無く率直に答えた。

アスランもまた、率直に答える。

「時には話し合うよりぶつかり合った方が解り合う事もある」

その言葉にキラは納得した。

「確かに、一夏は兎も角、ラウラは最初から聞く耳は持ち合わせてはいなかったからね」

キラは苦笑しながらラウラの自己紹介を思い出した。

「兎に角、ラウラと一夏は最初の一歩を踏み出した訳だ」

そう言いアスランは真面目な顔になりながらキラに質問した。

「次はお前の番だぞ、キラ。抜かりは無いだろうな?」

アスランの質問にキラは親指を立てて言い放つ。

「任せて。シャルもいい仕上がりだし大丈夫」

キラの余裕とも取れる言葉に呆れながらアスランは言う。

「お前な……悪い癖が出てるぞ? 油断して足元すくわれる。シンの時もそうだっただろ?」

アスランは苦言を呈すがソレをキラは苦笑で聞いていた。

「……まあ、ね……でも、もう戦いで油断を持ち込むほど愚かじゃないよ。指揮官の油断は部隊全体の損失に繋がるから……」

その言葉にアスランは問いかける。

「“あの事”を引き摺るのは止めろ。アレは俺やシンでもそうなっていた」

その言葉にキラは苦い想いで言葉を吐き出す。

「戦争が終わって数ヶ月の混乱期、テロが地球、プラント問わず起こった。そのテロを止める為、僕の部隊はブラントの1つに派遣されたけど……一つの街がそのプラントから消え、部下も5人死んだ……タスク、ジオ、ライル、フェルセル、アリアが死んだ……僕の甘さが、殺したくないと言う思いを逃げ道にして起こった悲劇だ……テロリストは武装解除しても自爆で部下の機体に体当たりした。その衝撃でテロリストが仕掛けた爆弾も爆発……死傷者、行方不明者多数……僕の引き起こした惨状だ」

そう、キラはこの時、思い知らされたのだ。
殺さないで相手を制するのにも限界はあると。
一人で戦うのは不可能だと。
自分の感情や思考を優先した結果が何を齎すのか。
ソレは、遺族の涙と怨念にも似た罵倒、部下の亡骸無き墓、プラントを覆った悲しみ。

そしてキラは知った。
部隊を率いる者の重みを。

そして、本当の意味で殺す事の覚悟を。

数多犠牲の末に其処にようやく思い至る自分の馬鹿さ加減を。

殺したくないからと言う理由で殺す事を避けた結果がこれだ。

指揮官には、相手を殺す覚悟も、自分が死ぬ覚悟も、部下が死ぬ覚悟も、部下が行った行為に責任を持つ覚悟を背負って初めて指揮官になれる事をこの時、キラは理解した。

「殺さないにこした事はないよ。でも、判断を誤った時、自分以外の人が死ぬのは嫌なんだ。だから、僕はその時が来たら……迷い無く“殺す”……」

言葉とは便利な物だ。

幾らでもオブラートに包む事が出来る。

だからこそキラは“討つ”では無く、“殺す”と明確にしたのだ。

自分の決意と覚悟を鈍らせない為に、人の命の重みを忘れない為に、自分が人殺しである事を明確にする為に。

「解っている。だが、今の俺達は学生で今は戦争じゃない。覚悟は胸の内に留めておけばいい。自分さえ知っていればいいんだから」

アスランはそう言うとラウラの元へと歩き出す。





その頃、来賓席ではアスランの話題と次に始まるキラの試合で持ちきりだった。

「しかし、“ガンダム”……か。態々本国から出向いた甲斐があるというものだ」

ドイツのIS管理委員会の担当者はそう独り言を言いながら先ほどの試合を手元のモニターで見る。

「しかし、シュヴァルツェアレーゲンのあの兵装の変化は目覚しい物がある。VTシステムを外してもお釣りがくるくらいだ。シールドエネルギーに負担を掛けない低電力消費で大出力の荷電粒子砲が発射可能なビーム兵器、更に小型大容量のパワーエクステンダー。ザラからの脅しが無ければ我が国がこれ等の技術を独占する事が出来なかった」

そう言いながらコーヒーを飲み乾し、呟いた。

「ぜひとも我が国にザラを招きたいものだ」






キラとシャルはISを展開し、機体最終確認をしていた。

キラは手元に投影型タッチパネルキーボードを展開し、OSの調整を行っている。

シャルはビームアサルトライフルのカートリッジを装填していた。

キラは一通り作業を完了するとシャルに語りかける。

「シャル、準備は?」

その言葉にシャルはビームライフルショッティーを顔まで上げて答える。

「OK、何時でも行ける」

キラはその言葉を聞きながら頷くと、カタパルトまで歩みを進める。

フリーダムがカタパルトに固定され、発進の許可が下りる。

「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!!」

そう言うとキラはカタパルトから外界に押し出された。

その様子を見ながらシャルは思う。

(僕も言ってみようかな……カッコ良かったし……)

シャルのラファールリバイヴがカタパルトに固定される。

シャルは少しだけ息を吸い込み、そして、静かに吐き出すと発進を開始した。

「シャルロット・デュノア、ラファールリヴァイヴmkV、行きます!!」

シャルもまた、キラと共に戦場へと飛び立った。




シャルが中央に着地するとセシリア、鈴が向かい合って立っていた。

シャルはキラの前に陣取る。

大会前日に決めたフォーメーションだ。

アナウンスが会場全体に響き渡る。

『キラ・ヤマト、シャルル・デュノアペアー対セシリア・オルコット、凰 鈴音ペアーの対戦を始めます』

そのアナウンスと共にキラはビームライフル2挺を構えた。

シャルはビームアサルトライフルを2挺構える。

セシリアはスターライトmkVを構えた。

鈴は双天牙月を連結させ回転しながら構える。

『それでは開始してください』

その声と共に4人は上空へ飛び上がる。

「シャル! フォーメーションA!」

「了解!」

キラの命令と共にシャルはストライカーパックをエールを装備し右手にビームアサルトライフル、左手にビームライフルショッティーを鈴に向けて撃ち撃ち込む。

「ウソ!? ビーム兵器!? ラファールリヴァイヴは第二世代のはずよ!!」

そう言いながらシールドエネルギーを消費しながら何とか回避する鈴。

「クッ!? 鈴さん!」

そう言いスターライトmkV構えるセシリアだったが。

「ソレは甘いよ、セシリア」

キラが左手のビームライフルをセシリアに向けて発砲。

右手のビームライフルを鈴に向けて発砲する。

「キャ!? ああ、もう!!」

「クッ!! 甘かったですわ……」

鈴とセシリアは何とかキラの射撃をかわし体勢を立て直そうとするがシャルはソレを許しはしない。

「僕の事忘れてない?」

そう言いながらシャルはストライカーパックをランチャーに変更した。

両脇にランチャーを抱えながら左手には何時の間にかビームアサルトライフルが握られていた。

「な!? 高速切替(ラピッドスイッチ)!?」

鈴は慌てながらケルベロスmkUとデリュージーレール砲、左右ビームアサルトライフルを同時正射した。

確かにシャルが使ったのは高速切替(ラピッドスイッチ)だが、ストライカーパックすら高速切替(ラピッドスイッチ)する荒業をこの場で再現した。

余りの兵装切替の速さに鈴は舌を巻く。

赤いビーム2本、黄色いレール砲の弾道2発、緑色のビームアサルトライフルのビームが多数。

ソレが問答無用で鈴に襲い掛かる。

しかし、鈴も並みの操縦者とは訳が違う。
伊達に中国代表候補生を名乗ってはいない。

ひたすら回避し、時にはシールドエネルギーを消費しながら何とかシャルの張った分厚いビームの弾幕を掻い潜りながら突き進む。

「コッチだって伊達に地獄の訓練積んできて無いのよ!!」

その言葉にキラは笑顔で額に青筋を浮かべながら心の中で思った。

(鈴、君は訓練を倍ね)

セシリアもまたブルーティアーズを放出しながら鈴をサポートする。

キラの牽制に2機、鈴の護衛に2機を展開する。

「全くですわ!! 伊達に地獄は見ていませんわ!! 特に私、キラさんの鬼畜ド外道鬼訓練は受けてませんわ!!」

その言葉にキラは更に額に青筋を浮かべる。

(セシリア、訓練を倍に決定!!)

シャルはストライカーパックをソードに変更しテンペストビームソードを引き抜く。

「それ、本人の前で言う!? 紛れも無い事実だけど!!」

シャルは鈴の双天牙月をテンペストビームソードで戦いながら突っ込んだ。

その言葉にキラはリアルに落ち込む。

シャル(ブルータス)!! お前もか!?)

いい加減腹が立ったキラはドラグーンを8機パージしてセシリア、鈴に狙いを定める。

「ちょ!? キラ!? 行き成りドラグーンはないでしょ!?」

鈴の抗議にセシリアも同意しながら叫ぶ。

「そうですわ!! 幾ら図星を突かれたからといって!!」

その言葉にキラはキレた。

「ああ、セシリア、鈴、君達の敗因は実に実にシンプルだよ……」

キラは笑顔で微笑みながらドラグーンを高速機動で展開する。

もう、セシリア、鈴、シャルには視認できない速度だ。

その瞬間、8機のドラグーンから緑色のビームが一斉に吐き出される。

「君達は!! 僕を!! 怒らせた!!」

そして、キラは左右のビームライフルを粒子に変え、消すと胸元で左手を右から左に振りこう言う。

「判決……」

そして、左手を上に掲げ下ろしながら告げる。

私刑(リンチ)!!」


その瞬間、ドラグーンはキラの判決を忠実に守る処刑官の如く、銃口からビームを吐き出し、あるドラグーンはビームを固定しビームの刃を展開、2人を突き刺した。


「「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

2人はいい感じにボコボコにされ、地面に叩きつけられる。

2人のボコボコさ加減に唖然とする会場。

シャルは若干ヒキ気味になる。

ここに、黒キラ伝説が爆誕した瞬間だった。




あとがき
最早キラのキャラが別になってしまっている。



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