キラとアスランは一夏達を信じて超高速かつ正確にタッチパネル投影型キーボードを叩く。
(死なないで皆……)
(俺達が終わるまで持ち堪えてくれ皆!)
キラ達は刻一刻と変わる“戦場”を見ながら思いを巡らせる。
その頃、一夏達はキラ達の時間を稼ぐ為にザク3個小隊との戦闘に突入した。
「いい加減しつこい!!」
そう言いながら一夏は雪片弐型でザクを切りつけようとするが違うザクがビーム突撃銃でソレを阻む。
シールドバリアを展開し何とか防ぐが、また違うザクがオルトロスで一夏を狙い撃とうとする。
しかし、セシリアがスターライトmkVでオルトロスを装備したザクを狙い撃つがザクはアンチビームシールドで防御をした。
「解っていましたけど……」
セシリアの苦い言葉を受け継ぐ形で鈴がザクに斬りかかりながら言う。
「コイツ等、連携が半端無いわよ!!」
ラウラは砲撃しながら言う。
「まるで軍隊の動きだ……」
そう言いながらシャルは全員に言う。
「全員聞いて。此の侭じゃジリ貧だよ。相手は組織的に戦っている。此方も組織的に行動しないと無理だよ」
その言葉にラウラが反論する。
「いや、この相手ににわかの連携はかえって逆効果だ。相手は少なくとも部隊連携を主眼に置いたIS運用をしている。それに……」
ラウラが言いよどんだ言葉を付け足すようにセシリアが問いかける。
「2機のガンダム……ですわね……」
そう、今の所上空で静止しているガンダムだが、何時戦線に参加するか解らない。
別段、命令を下すでもなく、戦闘に参加するでもなく、唯、傍観しているガンダムに不振がる一夏達。
「兎に角、今は一つ目、緑色のISだ。正直、強い。第3世代型と対等かそれ以上の性能だ」
一夏の言葉に全員が同意した。
一夏達は知らないだろうが、このザク、ザフトが作り上げた“量産機”なのだ。
何故、これほどまでに一夏達の機体と渡り合えるかにはそれ相応の理由がある。
キラ達の世界のMSを開発している勢力は3つ、連合、ザフト、オーブの3カ国だ。
それぞれ採用しているのは、連合はウィンダム、ザフトはザク、オーブはムラサメとなる。
この中でカタログスペック上、頭一つ飛びぬけているのはザクだ。
ストライクを基準に考えてみると解りやすい。
ストライクとザクでは総合的にザクが勝っている。
ウィンダムとでは同等の戦闘能力。
ムラサメでは機動力が勝っている。
因みに、一夏達のISとストライクでは一概には言えないがストライクの方が総合力で勝っている。
汎用性が半端無い。
その理由としてはストライカーパックなどの追加装備による兵器としての拡張性の高さが上げられる。
一夏達の専用機はシャルを除き一辺倒な感じを受ける。
その際たる例が一夏の白式だろう。
このストライカーパックの思想はザクやウィンダムなど後に開発されるMSにも大きく影響を与えた。
シャルもまたストライカーパックの合理性の恩恵を受けている一人である。
兵器としての見た場合、汎用性に優れる。多様性があると言うことはアドバンテージなのだ。
それだけ伸びしろがあると言うことなのだから。
しかもザクはその気になればセカンドステージとも渡り合える戦闘能力を持ち、大気圏の摩擦熱にも耐え得る堅固な装甲、機動性を兼ね備えている。
それが部隊を成し、連携して一夏達に襲い掛かる。
正直、厳しい相手だ。
その時だった、2機のガンダムがユックリと地上に降り立つ。
『!?』
一夏達に緊張が一気に走る。
「不味いわね……“ガンダム”が2機に一つ目緑色が12機……」
鈴は冷や汗を額に流しながら呟く。
「如何するの? 一夏?」
シャルの言葉に一夏は考え込むが相手はそれを許さなかった。
ハイペリオンは背中のフォルファントリーを展開し、ザスタバスティグマトを構え、一斉掃射した。
何とか一夏達は回避するがアリーナの観客席はシャッターを完全破壊されズタズタになる。
「ウソだろ!? オイ!!」
アリーナのシャッターはISの攻撃にも耐えられるよう設計されている。
それをズタズタにしたビームに一夏は恐れを隠すように毒づく。
しかし、回避した一夏達に二の矢が襲い掛かる。
Xアストレイが背中のドラグーンをパージしたのだ。
「ウソ!? オールレンジ攻撃!?」
シャルはそう叫びながらストライカーパックをエールに切り替え、高速回避をする。
それでも防ぎきれないビームはアンチビームコーティングシールドで防ぐが衝撃波で吹き飛ぶシャル。
その時だった、1機のドラグーンがシャルをその射程に捕らえる。
(駄目だ、間に合わない!)
シャルは目を硬く瞑り覚悟を決める。
しかし、自分に襲い掛かる痛みも衝撃も無い。
(何で……?)
そう思いながらシャルはユックリと目を開く。
其処には右手を正面に掲げながら淡い水色の光を放ち、蒼い8枚の翼を広げながらシャルの前に立つストライクフリーダムがいた。
「ごめん、待たせたね。シャル」
その優しき声にシャルは満面の笑顔でその少年の名を呼んだ。
「キラ!!」
と。
ラウラは何とかセシリアと鈴の護衛を受けながらハイペリオンに砲撃するが、その砲撃は光の壁に阻まれ届かない。
「クッ!!」
ラウラは歯噛みしながら光の壁の中からの砲撃をかわす。
(厄介だな……此方の砲撃はあの球体上の光の壁に防がれる。その癖、向こうの攻撃は全部素通り……対応のしようが無い……)
ガンダム相手に考え事をしていたのが間違いだった。
ラウラが気が付いた時にはフォルファントリーは発射体勢だった。
(しまった!! 私とした事が!!)
ラウラは左肩部装甲を前にしながら防御しようとした時だった。
ラウラの瞳に、赤い一陣の風が吹き荒ぶ。
ラウラはソレが何なのか直ぐに理解した。
「アスラン!」
そう言いながらラウラはインフィニットジャスティスの背を見つめた。
「待たせたな、ラウラ。お前らは下がれ。後は、俺達がやる」
そう言いながらアスランは全員に通信を送る。
「此方、アスラン、待たせたな。各機、ピットまで後退しろ。後は俺とキラがやる」
その通信に一夏が答える。
『アスラン!? キラ!? 機体のロック解除は終わったのか!?』
一夏の問いかけにキラが答える。
「ウン、ギリギリだったけどね。皆、下がって。もう皆シールドエネルギーが切れ掛かってる」
その言葉に一夏達は改めて自分達のシールドエネルギー残量を確認した。
ほぼ全員のシールドエネルギーが120を切っていた。
例外はシャルとラウラでシャルは500、ラウラは300といった所だ。
シャルの場合は細かく状況に応じてストライカーパックと兵装を切り替えていた為と、シールドエネルギーに負担をかけない兵装を選択していた。
ラウラの場合は無駄弾や無駄撃ちを避け、確実に仕留められる状況で砲撃をしていた。
後は2人とも、エネルギーに負担の掛かる無駄な回避をせず、シャルはアンチビームコーティングシールドで、アビスに似た肩部パーツのアンチビームコーティングされた外殻で相手の攻撃を止めていた。
コレはキラやアスランの個人レッスンで収得した技法だろう。
しかも、体力的、精神的に厳しい。
兎に角、一夏達にこれ以上の長期戦を継続できる余力が無い以上、下がらすしかない。
一夏達もソレを理解しているのか渋々下がる。
ソレを見送ったキラ達は一気に上空に飛び上がり、マルチロックオンシステムを展開した。
「悪いけど、これ以上の無法を許す訳にはいかない!」
「ここで落とさせてもらう!」
そう言うとキラは左右のビームライフルを構え、両腰のレール砲を展開、ドラグーンを全機パージした。
アスランも右手のビームライフルを構え、ファトゥム−01のハイパーフォルティスビーム砲を展開した。
「「コレで落ちろ!!」」
そう言いながらキラとアスランは一斉砲撃で全ての敵を殲滅しんかかった。
眩い赤、緑、黄色の光がフリーダムから、緑色の力強い光がジャスティスから放出される。
その無数の光はザクの頭部、兵装、スラスターを腕部を脚部を破壊していく。
全12機のザクは僅か数秒で殲滅される。
だが、2機のガンダムは例外だった。
ハイペリオンはアルミューレリュミエールを全方向に展開。
Xアストレイは有線式ドラグーンのワイヤーを切断し、ドラグーンを立体的に展開、自機を包むように防御フィールドを展開していた。
このXアストレイの技術はハイペリオンを捕らえる時に活用され、アメノミハシラから技術が流れ、アカツキのシラヌイにも採用される。
キラとアスランはやはりと言った面持ちで2機のガンダムを見やる。
「解ってはいたが……並みの敵じゃないな……」
アスランの言葉にキラも頷きながら答える。
「如何する?」
キラの疑問にアスランは決断する。
「俺はハイペリオンをやる。キラはXアストレイを」
「解った」
キラはそう言いながらXアストレイに戦いを挑む。
何故、キラ達が機体名を知っていたかと言えば、過去に開発された全MSのデータが全て収めれている。
ソレの特性を理解した上でアスランは割り振りを決めた。
キラはビームライフルで牽制射撃をしながらXアストレイに近づき、右手のビームライフルを右腰にマウントすると左腰のビームサーベルを引き抜き、接近戦を挑む。
しかし、牽制射撃をかわしたXアストレイもキラを迎え撃つべく複合兵装防盾システムの先端からビームサーベルを展開し迎え撃つ。
そして、お互いのビームサーベルがぶつかり合うが、Xアストレイが吹き飛ばされる格好となった。
この理由は簡単、Xアストレイが旧式である事と、AIで動く“無人機”はプログラム通りにしか動かないからだ。
キラ達は遠めで観察し、センサーで確認したが生体反応が無かったのだ。
よく動くが所詮、無人機、プログラム通りの動きしかしない。
体勢を崩したXアストレイにキラは素早くビームサーベルを仕舞い、ビームライフルを取り出すとソレをXアストレイに向け、ドラグーンをパージする事無く、ハイマットフルバーストを叩き付ける。
ソレを何とか回避したが、全て回避しきれずビームライフル、右手、両足を破砕される。
そしてキラはビームサーベルを抜き放ちながら急接近し、バレルロールしながら頭部とスラスターを切断しXアストレイは機能を停止した。
アスランはビームライフルで牽制射撃するが、左手のアルミューレリュミエールを展開し防いだ。
ハイペリオンはザスタバスティグマトを乱射するが、アスランは鮮やかなバレルロール回避で全弾回避すると素早くビームライフルをリアスカートにマウントし左腰のビームサーベルを右手で引き抜き斬りかかるがハイペリオンはアルミューレリュミエールを全方位展開し、アスランの進撃を阻む。
「クッ!?」
アスランはそう吐き捨てながら一旦距離を取り、ファトゥム−01をハイペリオン目掛けてパージした。
ファトゥム−01は目にも止まらぬ速さで突撃し、先端部のシュペールラケルタビームサーベルとアルミューレリュミエールとぶつかる。
少しの拮抗の後、ビームコーティングされたスパイクがアルミューレリュミエールを貫通し、ハイペリオンの腹部に激突、ビームスパイクはハイペリオンの上半身と下半身を引き千切った。
この様子をモニターで見ていた千冬と真耶は語る。
「私はあの2人の実力を勘違いしていた……」
その言葉に真耶は問いかける。
「どう言う事ですか?」
その疑問に千冬は語る。
「あの二人の実力は確かに全盛期の私と同等です。ですが、全盛期の私や今の私にも無いモノを持っているんです」
「それは?」
真耶の言葉に千冬は静かに答える。
「ソレは途轍もない密度の実戦経験と戦場と言う過酷な環境で生き残るインテリジェンスとサバイバリティー、そして、一番大きなウエイトを占めているのは自分より強い相手との戦闘経験が豊富でその戦いから生き残ってきたと言う事です」
その言葉を聞き、真耶は驚きの声を上げる。
「それじゃあ、あの2人は……」
真耶が言おうとして押し黙った言葉を千冬が代わりに言う。
「……戦争と言う場所に身を置いていたんです。そして、生き残ってきた。殺めた人数は両手両足の指では足らないほどの命を贄とし手にいれたのでしょう……自分や仲間の為に……そして、あの2人が“殺す”と決意したなら躊躇いも迷いも無く殺せるでしょう……」
千冬も強いが、自分と対等な人間と余り戦った事が無い。
まして、自分より強い敵と命のやり取りをした事が無いのだ。
競技と戦闘は違う。
スポーツと殺し合いの差は歴然だろう。
相手も死に物狂いで殺しに来る。
そんな敵を制するには殺すしか、無力化するしかない。
その差が全盛期の千冬とキラ達の勝敗の差を分けるものだろう。
その様子を見ながら千冬は教員に撃墜したガンダムの回収を命じたのだった。
キラとアスランは今回の事件の事後処理をしながらある決断をする。
「今回の事でハッキリした事がある」
キラの言葉にアスランは確信を持って答えた。
「“ザク”と2機の“ガンダム”……俺達以外にも俺達の世界の人間がいる。と言う事だな」
その言葉に頷きながらキラは付け足す。
「それも、MSに詳しく、開発能力がある人間……」
アスランは顎に手をやりながら言う。
「コレは……もしもの時に備えておく必要があるな……」
その言葉にキラも頷く。
「ウン……ストライクフリーダムの後継機……『エタニティフリーダム』と……」
「インフィニットジャスティスの後継機……『トッルージャスティス』の準備を……」
そう言いながらキラとアスランは作業を再開した。
あとがき
今回はキラとアスランの戦闘です。
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