キラとアスランは福音の足止めをしながら一夏達を待っていた。
福音は一定の距離を維持しながらシルバーベルを乱射するがキラとアスランはその悉くを回避する。
「キラ! 一夏達の到着予定時刻は!?」
アスランの質問にキラはシルバーベルを左へバレルロール回避しながらキラはアスランに言う。
「後、2分!」
そう言いつつ両腕のビームライフルで牽制射撃をする。
アスランは飛んできたシルバーベルを頭部、胸部のバルカン砲で撃ち落しながらキラに言う。
「足止めを継続するぞ!」
「了解!」
その頃、一夏達は戦闘の光を肉眼で確認する事が出来た。
「見えた! 一夏、距離5キロ! 2人とも足止めに成功してる!」
シャルの言葉に一夏は頷く。
皆、何とか間に合ったと言う想いが強い。
一夏は通信でキラに語りかける。
「キラ、アスラン! 無事か!?」
その言葉にアスランは嬉しそうに言う。
『場は盛り上げておいた! 各員、戦闘配置に付け!』
『『『『『『了解』』』』』』
そう言うと全員が部隊配置に付く。
この時、キラもアスランも箒の様子が若干違う事に気づく。
そこでアスランは秘匿回線を一夏に繋ぐ。
「ブロークン1よりブロークン3、ブロークン4の様子がおかしい。コンバットハイの可能性もある。箒から目を離すな!」
その言葉に一夏は驚きで息を呑む。
「気づいてたのか? アスラン」
「ああ、一目見てな……バイタルデータも若干脈拍も高い。アドレナリンの分泌量も通常値より高くなっている。典型的な新兵特有のコンバットハイだ」
アスランとキラはこの作戦の成否は一夏が箒の手綱をどれだけ上手く握れるかに掛かっていると認識した。
今の箒は初めての専用機に乗り、好きな男と共に飛び、機体の力に酔狂している。
ハッキリ言えば危険な状況だ。
周りが見えてないとも言える。
こんな状況の兵が一人いただけで部隊が壊滅した例をキラもアスランも何度もお目にかかっている。
正直、箒を戦場から下げたいが、部隊運用ギリギリの人数の状況で下げる訳にもいかない。
何時、暴走を仕込んだ犯人が妨害にくるか解らない以上、最低限の人数は確保したい。
そこで、アスランは箒に通信を繋ぎ、苦言を呈す。
「ブロークン1よりブロークン4、先行しすぎだ。ブロークン3との連携で目標に対処しろ。一人でやれる相手じゃない!」
しかし、箒はその言葉に反発する。
「アスラン! 何を悠長な! 早くコイツを止めねば……」
その言葉にアスランが本気で怒鳴る。
「馬鹿野郎!! 今は戦闘中だ!! 部隊での連携で相手を追い込むのが基本戦術だろうが!! ソレを忘れているなら下がれ!! 戦闘の邪魔だ!!」
それに不承不承で命令に従う箒。
アスランは本気で箒を下げるべきかどうか悩む。
しかし、福音はその事を許さないとばかりに一夏達にもシルバーベルを撃ち鳴らす。
全員ソレを回避してみせる。
アスランは一夏に命令する。
「ラウラ、セシリア、牽制砲撃! 10秒!」
「了解!」
「了解ですわ!」
2人がそう言いながらアハトアハトとスターライトmkVを構え砲撃する。
キラはシャルと鈴に命令する。
「シャル、鈴! 牽制砲撃終了後、福音に牽制攻撃! 一夏と箒はシャル達が追い込んだポイントに急速展開! 最大出力で攻撃!!」
「「了解!!」」
「解った!!」
「ああ!!」
シャル達と一夏達もそう答え高速機動を開始する。
福音はシルバーベルをキャンセルしラウラとセシリアの砲撃を回避する。
福音は左上に逃げるが上空から双天牙月を構えた鈴が襲い掛かる。
「はあああああああああああああああ!!」
気合と共に振り下ろされる双天牙月を福音はシールドを左腕に展開し、PICを全開にする。鈴の重たい一撃を揺るがず受け止めた福音は鈴の腹部に左足で蹴りを入れ、鈴を吹き飛ばす。
「きゃああああああああああ!?」
「鈴さん!? これ以上やらせない!!」
シャルはラビットスイッチでビームアサルトライフル2挺とケルベロスを展開し発砲した。
緑の無数の弾幕と赤いビームが福音を襲うが、鮮やにバレルロールしながら弾幕の隙間を縫う様に回避する。
しかし、セシリアの放ったブルーティアーズが待ち構えていた。
「ソレは、甘いですわ!!」
蒼いレーザーが四方から降り注ぎ、全体に防御を張る福音。
其処から逃れる様に上昇しようとするがラウラが一斉砲撃を開始する。
「甘い!! お前の動きは単調だ!!」
絶対防御により守られた分厚い敵の守り。
しかし、其処に楔を打ち込むべく、白と紅が突き進む。
「私達から逃げられると思うな!!」
そう言いながら箒は雨月と空裂を引き抜き、空裂を振りかぶり一気に振りぬく。
その瞬間、赤い刃の軌跡が福音を襲うが福音は回避してみせる。
しかし、一夏は回避先を読み、零落白夜を展開、一気に振り抜くが、やはり福音は回避するが、回避しきれず、右肩の装甲を損傷する。
この様子に一夏達はこう思った。
いける。勝てるぞ。
と。
しかし、キラとアスランの見解はその180度違う。
いや、焦っていた。
(不味い……皆、勝てると思って気が緩んでる……こういう時ほどミスをする早く引き締めないと!!)
(不味いな……全員、気を緩めてる……早く締めなおさないと!!)
キラとアスランは奇しくも同じ意見に至った。
何故、一夏達とキラ達の見解が違うかと言えば理由がある。
一夏達は“戦場”での実戦経験は皆無に等しい。
あのラウラさえ戦場での命のやり取りの経験が無い。
対するキラ達は百戦錬磨だ。
戦場の雰囲気や部隊の状況、戦闘の流れを読み取り、相手の空気を感じ取り、相手の観察も出来るほどだ。
そのキラ達からすれば勝利条件を満たしていないのに勝利を確信するのは自殺行為だ。
油断こそ自分と部隊の命を脅かす最大の敵である事を理解している。
その差こそキラ達と一夏達との決定的な差なのだ。
アスランが緩んだ空気を締め直そうとしたその時だった、キラとアスランのハイパーセンサーに何かが引っかかった。
「何だ!? 民間船!? こんな時に!!」
「そんな!? 海上封鎖をしていた筈なのに!?」
アスランは思わず舌打ちしてしまう。
キラもまさかの乱入者に憤慨する。
慌ててアスランは作戦変更をする。
「全機、作戦変更!! 民間船が戦闘海域に迷い込んだ!!」
その言葉に一夏達は憤慨する。
「ウソだろオイ!?」
「密漁船か!?」
「教師の方達は何をやっていましたの!?」
「空気読みなさいよ!?」
「そんな!? ここまできて!?」
「クッ!! 了解!!」
しかし、箒は命令を無視して突撃を開始する。
それに慌てたアスランは箒に通信を繋ぐ。
「ブロークン4!? 何をやっている!! 聞こえなかったのか!? 作戦変更だ!!」
しかし、箒は反論しながら突き進む。
「今、この機会を逃せば逃げられる!! 私だけで十分だ!!」
そう言いながら箒は肩部の装甲をパージし福音に突撃をかける。
福音は絶対防御で防ぎきる。
しかし、福音は上空へバレル上昇しながらシルバーベルを全方位にばら撒く。
それに慌てたキラとアスランは目配せをしながらキラは迷い込んだ密漁船の前に躍り出てビームシールドを展開する。
アスランも箒達の前に躍り出てビームシールドを最大出力にして箒たちを守る。
しかし、箒はシルバーベルが止むとアスランの張ったビームシールドから抜け出て福音に攻撃を仕掛けた。
流石のアスランもコレにはキレた。
「いい加減にしろ、箒!!」
しかし、無言のまま突き進む箒。
福音はシルバーベルで箒を攻撃するが、箒はソレを回避し或いはシールドで防ぐ。
その流れ弾が密漁船の周囲や一夏達に着弾しそうになる。
キラは慌ててドラグーンをパージし福音の流れ弾を迎撃する。
アスランもハイパーフォルティスとビームライフルをフルオートに切り替え迎撃する。
「箒!? ふざけるな!! 下がれ!!」
キラの怒声も意に介さず福音に迫る箒。
完全に周りが見えていない。
キラ達は止めに入りたいがこの弾幕の中、防御をとく訳にはいかない。
下手をすれば一夏達に被弾するし最悪、運の悪い密漁船に着弾する。
犯罪者とは言え民間人。
軍人のキラ達が民間人を見捨てる訳にもいかない。
その時だった。箒にシルバーベルの爆撃追尾タイプが着弾。
シールドを破壊され、吹き飛ぶ。
「きゃあああああああああああああああ!?」
「箒!!」
一夏はそう叫びながらイグニッションブーストを展開し、箒の所に向かう。
しかし、福音はシルバーベルを発射体勢。間に合うか間に合わないかの瀬戸際だ。
何とか間に合ったが今度は一夏が被弾。
砲撃貫通タイプの弾幕に絶対防御を貫かれ爆発する。
ソレを唖然と見ながら箒は叫んだ。
「一夏!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
一夏は重力に任せて落下する。
箒は爆炎の中に飛び込み、一夏を受け止める。
アスランは全員の顔を見る。
キラ以外、大小取り乱している
砲撃が止んだのを見計らいアスランは千冬に作戦中止を具申した。
「ブロークン1よりHQ! ブロークン3負傷!! 熱傷、擦過傷、創傷が全身に多数! P、EEG共に大幅な乱れあり! 部隊員の心的ストレス過度!! 戦闘継続は困難!! 作戦中止を具申します!!」
その言葉に千冬は作戦中止と撤退を許可した。
一夏負傷に動揺する中、キラとアスランは通信で衛生兵の手配と緊急治療の依頼を真耶に連絡。
新たに作戦を考えるべくその頭は高速回転を始めた。
一夏を気遣うのは後でも出来る。今は福音をいかに倒すかを考える時だ。
冷たいようだが自分達に出来る事を最大限にする事が一夏の為になる事を信じて。
作戦は一夏負傷、福音ロストと言う完全敗北だった。
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