微調整と試運転を済ませたキラ達は出撃を開始する。
「アスラン見えた! 福音だ!!」
キラの言葉にアスランは頷きながら全員に指示を出す。
「各機! アタックフォーメーション! ラウラ! アハトアハト! サーモバリック」
「了解!」
その命令と共にラウラはアハトアハトを構える。
「撃て!!」
その指示と共にアハトアハトの砲身から黄色い稲妻が吐き出される。
音速を超える弾頭が福音の張った防御結界に接触。
数秒、拮抗状態が保たれるが、弾頭はドリルの様に回転しバリアを貫通、福音に着弾した。
バリア内で固体から気体への爆発的な相変化が引き起こされ分子間の歪みによる爆発が発生する。
そしてバリア内の空気中の酸素と爆熱による爆発が起こる。
バリアはガラス片の様に粉々になりながら霧散した。
ラウラは驚きながらも何故、アスランがサーモバリック弾を選択したか理解した。
(サーモバリックはアセチレンのように、酸素が無くても自己分解のエネルギーだけでも爆発する物質を生成する。酸素が限定されるバリア内の燃料リッチの状態でも爆発することが出来るからか……バリアやシールド内の様な空気の量が限られている密閉空間内でも爆発させ相手にダメージを与える為に……)
この想像に至り、ラウラはアスランに対して寒気を覚えた。
ラウラとて軍人であるから知識としてサーモバリックの有効性を理解しているが実戦でソレを理解して実戦するアスランに恐怖すら感じる。
(アスラン……お前は一体、どれ程実戦を経験してるんだ……?)
そう思った時、爆煙から福音が猛スピードで飛び出てくる。
所々黒ずみ、爆発による損傷も見受けられる。
効果ありと見たアスランはラウラとセシリアに指示を出した。
「ラウラ! 弾頭をキャニスター弾のHESHに設定! セシリア、レールガンの弾丸を散弾に設定して福音に砲撃、10秒!」
その指示にラウラとセシリアがアハトアハトとスターライトmkWを構えながら答える。
「了解!」
「了解ですわ!」
ラウラとセシリアはトリガーを引きっ放しする。
黄色い雷光がアハトアハトとスターライトmkWの銃口から吐き出される。
アスランの戦術は至極簡単、動きの速い福音にダメージを与えるには砲撃による点での攻撃ではなく散弾や爆発物の様な面での攻撃にシフトした。
低空飛行で逃げる福音に無数の散弾が降り注ぐ。
堪りかねた福音が上空へ逃げ回避するが、其処にはシャルと鈴が待ち構えていた。
「逃がさない!!」
シャルはそう叫びながらラビットスイッチでランチャーストライカーを展開し、両手にビームショットガンと両腰のレール砲を展開した。
シャルはケルベロスを拡散ビームモードに変換、腰部レール砲も散弾モードに変換し発砲する。
無数の散弾がシャワーの様に福音の正面に降り注ぎ福音は更に上空に逃げる。
「逃がさないってんのよ!!」
鈴はそう叫びながら龍咆を散弾モードに変換し撃ち込む。
水も漏らさぬ十字砲火を浴びせられた福音は空いているスペースへと必然的に逃げるしかなくなる。
勿論、アスランとキラがそんなルートを見逃す訳も無く、其処には一夏と箒が待ち構えていた。
「もう、油断はせぬ!! 福音! 覚悟!!」
そう言いながら箒が懐に飛び込み雨月と空裂をクロスさせるがソレを倒立反転してかわす福音。
だが、その決定的な隙を一夏が逃す筈もない。
福音目掛け舞い上がる一夏。
「落ちろ!!」
そう絶叫しながら零落白夜を展開し、福音の翼を片方切り裂いた。
海面に向かって落ちる福音の翼。
その時だった、福音は放電しながら周囲の物体を吹き飛ばした。
キラとアスランはソレを見ながらこう呟く。
「セカンドシフト……」
「いよいよ本番か……」
そう言いながらアスランは部隊に命令を下す。
「各隊員に通達! 目標は第二形態へと変貌。作戦は変わらないが速度と火力は倍以上と考えて対応しろ!」
『了解!!』
アスランの命令に油断無く答える一夏達。
正直、作戦開始前は不安があったキラ達だったが、作戦を開始してその不安は間違いだったと認識した。
彼らとて学ぶのだ。
セカンドシフトが終わり飛び出てきた福音は超高速でバレルロールしながらシルバーベルを発射した。
キラとアスランは華麗に回避するが一夏達はそうはいかない。
バリアを展開し、この豪雨の様な弾幕をやり過ごす。
太平洋に浮かぶ豪華なクルーザーのデッキでくすんだ金髪をたなびかせながら、サングラスの長身の男はモニターでその様子を見ていた。
「存外苦戦しているようだな……あの二人にしては……」
もう一人の黒髪を束ね、長身の男はモニターを見ながら静かに自分の思考を述べる。
「彼奴らの実力からすればあの程度の敵を屠るのに数秒と掛かるまいに……」
そう語りながら不意に声をかける。
「彼奴らの福音撃破後、我々も出るぞ。スコール」
その言葉にスーツ姿の女性が声をかける。
「命令はあくまで監視よ。貴方達が出撃すれば全てが終わるわ」
その言葉に金髪の男が鼻で笑いながらスコールと呼ばれた女性に語りかける。
「少なくとも“ガンダムタイプ”のIS2機には我等とて手を焼く。“アレ等”君達の想像の外の実力者達だよ」
もう一人の男も同意する様に言う。
「久しぶりに“戦い”が出来る。今までが“児戯”で退屈が過ぎると言うもの」
その言葉にロングヘアーの女性が怒鳴る。
「何!? 貴様!!」
その言葉に黒髪の男が鼻で笑いながら言う。
「ああ、遊びだ。貴様如きに本当の“戦い”が理解できる筈も無かろう?」
明らかに馬鹿にされたと思ったロングヘアーの女性が掴みかかろうとした時、スーツ姿の女性が止めに入る。
「止めなさい、オータム!」
「だが! スコール!!」
尚も掴みかかろうとするオータムと呼ばれる女性にスコールと呼ばれる女性が言う。
「貴女では逆立ちしても彼等の片方にも勝てないわ。下がりなさい」
「クッ!!」
そう言われオータムは距離を取るが目線で黒髪の男を突き刺す。
その目線で相手を殺せる程だが男は涼しそうな顔で見送る。
スコールは黒髪の男に釘を刺す。
「余りからかわないでくれるかしら?」
男は鼻で笑いながら詫びを入れる。
「失礼した。ああいう女を見ると虐めた押したくなるのだよ」
「その趣味、直したら?」
スコールの言葉に男は笑う。
「はっはっはっは! 生憎とこの性格は生まれつきでな。直しようがない」
金髪の男は横目でスコールと男のやり取りを見ながらモニターを見て言う。
「どうやら決着が付いたみたいだな……」
黒髪の男はようやくかと言わんばかりに金髪の男に言う。
「では、行くとするかな? “ラウ・ル・クルーゼ”?」
金髪の男も微笑みながら言う。
「ああ、では行くとするか? “ラフト・クライシス”」
あとがき
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