箒は果敢に福音に接近戦を挑む。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

気合と共に振り下ろされる太刀を何とか受け止める福音。

「一夏!! 今だ!!」

その言葉と共にイグニッションブーストで真っ直ぐ福音に迫る一夏。

「今度は……逃がさねええええええええええ!!」

雄叫びと共に左手を突き出しビーム爪を展開、福音にアイアンクローを喰らわせる。

絶対防御を破られた福音は防ぎきる事が出来ずに一夏に押される。

「これだけ近けりゃ……筈さねえ!!」

海岸に突き刺さる福音に一夏はそう叫びながら掌底部ビーム砲をゼロ距離で数発叩き込む。

福音は頭部を破壊されシールドエネルギーがエンプティーになり機能を停止する。

「これで、終わりだな……」

箒は一夏の元に降り立ちながらそう呟いた。

キラとアスランはソレを見やりながら千冬に通信しようとする。

「此方……!?」

その瞬間、10時方向からビームが多数、アスランを襲う。

しかし、アスランはその悉くを回避した。

「!? アスラン!?」

キラはアスランの身を案じ、アスランの元に移動しようとしたが、キラにも全方位からビームが浴びせられる。

これもキラは何かを感じ取り全て回避した。

(この感覚は……?)

キラは索敵範囲を最大にする。

ハイパーセンサーにIS2機の機影を確認した。

アスランは10時の方向にその機体を確認した。

ISのカメラが表示していたのは2機の“ガンダム”

アスランは目を見開き驚きを露にする。

「そんな……あの2機は……」

キラもまた、驚きはアスランと同じくらいだったろう。

「“プロヴィデンス”……“クルセイダー”……?」

千冬は通信越しにキラ達が緊張しているのが見て取れた。

『オイ!! ヤマト、ザラ!! 何があった!? 報告しろ!!』

その言葉にアスランは有無を言わせぬ口調で千冬に言い放つ。

「織斑先生、全員を下がらせろ!! 早く!!」

キラもまた、余裕がない。

「この相手に……全員を無傷で守りながら戦う余裕はないです!! 早く下がらせて!!」

キラとアスランは感じ取ったのだ。

ISの装甲越しから伝わるプロヴィデンスからは冷たく凍える様な殺気と殺意を、そして、クルセイダーからは全てを焼き尽くす、燃える様な殺気と殺意を。

一夏たちも得体の知れない恐怖に苛まれる。

あの“ガンダム”2機と目を合わせただけで自分が殺されるのではないかと言う恐怖。

そして、ただ、対峙しているだけで理解する相手と自分達との絶対的な実力差。
例えるなら獅子と野鼠の差。
絶対的強者と絶対的弱者の差。
天地引っくり返っても届かない圧倒的な武力。

絶対的戦力差の敵と対峙した事の無い一夏達にとっては正に未知の恐怖だった。

自然と全員が同じ思考と結論に至る。


“アレ”は異様で異常で異型で異端だ。

勝てる訳が無い。

あの2機と戦う事、それ自体が敗因であり死因だ。

出来れば会いたく無かった。

今すぐ逃げてしまいたい。

でも、足が震えて動かない。

正に最悪だ。


その時、アスランの声が全員の耳に入る。

「各隊員に通達。全員撤退しろ。後ろを振り返らず。全力全開で……」

アスランの声音が緊張に支配されている事に気づく一夏達。

そして、理解した。

あの2人が危機感を露にする相手、アレがその“ガンダム”なのだと。

「了解……」

その命令にラウラが答える。

「な!? ラウラ!?」

一夏が何か言おうとしたがラウラの言葉がソレを遮る。

「正直に、包み隠さず言う。あの2機にとって、我々は障害になり得ない。あの2機からすれば、アスランやキラ以外は道端の小石程度の認識だ。悔しいが、ここにいてもアスラン達の邪魔になるだけだ」

あの自分の実力に誇りを持っているラウラがそう言ったことに一夏達は驚きを露にした。

それ程なのだ、あの2機は。

その時だった、クルセイダーがイグニッションブーストを展開、日本刀型ビームサーベルを抜き放ち斬りかかる。

「クッ! 問答無用か!?」

アスランもまた神速の居合い抜きでビームサーベルを引き抜き、鍔迫り合いを演じる。

クルセイダーは日本刀型ビームサーベルを翻し、また、超高速での袈裟懸けをアスランに浴びせるが、アスランは逆袈裟で対処した。

それだけでなくクルセイダーは次々と必殺にして致死量の斬撃をアスランに浴びせ掛けるがアスランも神懸り的な技量でそのことごとくを捌ききる。

(馬鹿な!? そんな筈は!? あの男は俺が殺した筈だ!! 試してみるか……)

そう思いながらアスランはハイパーフォルティスを撃ち込む。

しかし、クルセイダーは最小限の回避で全てをかわした。

アスランは一旦距離を取ると、シュペールラケルタをアンビデクストラスハルバードにした。

その時だった、クルセイダーは右側の腰部に収納されているビーム刀のグリップを引き抜き桃色のビームを閃かせ、構えた。

右のビーム刀を突き出し、左のビーム刀を弓を引く様に胸元に構える。

その構えを見てアスランは確信を持った。

(間違い無い……奴だ! ラフト・クライシスだ! あの構え、この殺気、そして……クルセイダー……だが、何故だ!? 死んだ男が何故!? あの男は俺が確実に殺した筈だ!!)

アスランは真意を確かめる為、突撃を開始する。

イグニッションブーストを展開し、更に機体の駆動形にもイグニッションブーストを展開、極超音速の斬撃がクルセイダーを襲った。

しかし、クルセイダーも同じようにイグニッションブーストを展開、更に駆動系にもイグニッションブーストを展開して見せた。

(解っちゃいたけど、手強い!)

アスランは毒づきながらもビームサーベルを振るった。




キラとプロヴィデンスも苛烈な戦闘を繰り広げていた。

「クッ!!」

キラは吐き捨てる様にドラグーンをパージしながらフリーダムをイグニッションブースト機動で動かす。
更にキラはドラグーン自体にもイグニッションブーストを展開させ、極超音速で運用した。

しかし、プロヴィデンスもキラと同じ事をやってのけたのだ。

キラのドラグーンが先手をとる形で起動したが後手に回ったプロヴィデンスも負けてはいない。

相手の制空権を掌握すべく激しくも計算された動きで敵の陣地を脅かしに掛かる。

キラもプロヴィデンスも極超高速で動き回り時には防御する。

しかし、キラはフルバーストを封じられている。

フルバーストの活かせるのは広域殲滅が基本、1対多数においてその優位性を証明できる。

しかし、武装も集中力も十全な敵には簡単にかわされる。

(間違いない……彼だ、ラウ・ル・クルーゼだ……あのドラグーンの運び、相手の嫌がるドラグーン運びは彼だ。なら、下手な隙は命取りだ……)

キラは今度は違う疑問に至る。

(何で2世代落ちの機体でストライクフリーダムと対等の戦闘が可能なんだろう?)

と。



一夏達はその戦いを遠目で見ていた。

正直、介入できる隙が無い。

ラウラの言葉が図らずも実証された形の格好だ。

不意にセシリアが呟いた。

「何て戦いですの……高度過ぎて理解できませんわ……」

当たり前だ。一夏達の動体視力ではアスランとクルセイダーの戦いは光のラインがぶつかり、放電している姿しか確認できない。

更に、キラとプロヴィデンスの戦いは無数の光の筋が大本の光の筋の周りを飛び交い、大本の光を消そうとしているだけに見える。

正直、理解の範疇の外の出来事だ。


千冬達もモニター越しにその様子を見ていたが辛うじて千冬だけが目視で追いかける事が出来た。

「そんな……目で認識できない……」

真耶とて代表候補生としての経験を持つ兵、しかし、その真耶をしてこの動きは理解の外だ。

千冬はこの様子を見ながら思う。

(何て速さだ……機体の機動性だけじゃない。間接駆動系や神経ネットワークの処理速度までもが極超音速で動かす事が可能とは……最早、アレはISの動きを超えている。あの4機は競技目的でなく“敵”を確実に殲滅する為に存在する“兵器”だ)

不意に千冬は口ずさむ。

「ヤマトもザラも達人の域だ。ザラの戦いは一見、獣同士が噛み合っている様に見えるが自身は超高速での自分と相手の動きを認識し、如何にして相手の次の手を封じ確実に自分の剣筋を活かすかと言う事に重きを置いている。対してキラの戦いは正に論理的な戦いだ。例えるなら、チェスや将棋と囲碁を組み合わせて三次元にした様な戦い方をする。ドラグーンと言う万能の駒を動かし、相手の陣地を如何にして犠牲少なく占領できるかと言う戦いだ」

真耶は黙ってその呟きを聞くことしか出来なかった。




クルーゼは頃合かと思い、秘匿回線でクライシスに通信を繋げた。

「ラフト、頃合だ。引くぞ」

その言葉にクライシスはヤレヤレと言いたげに通信に答える。

「威力偵察は終了か? もう少し死合えると思ったのだがな。まあ、情報は得た。良いだろう。死合うのはまたの機会にと言う事か」

クルーゼは微笑みながらクライシスに問いかける。

「どうだった? 彼等は?」

その問いに実に愉快そうに答えるクライシス。

「ああ、以前よりは甘さがあるが実力は変わらん。シャバ気が抜ければ楽しい戦いが出来そうだ」

その問いかけにクルーゼも頷く。

「その意見には同意する。彼等からは戦場にいる兵の気迫が余り無かった。まあ、学生をしている影響だろう。引くぞ」

「承知」

そう言うとクライシスはビーム刀を両腰に納め、クルーゼはドラグーンを元の位置に戻し、銃口を逸らした。

そして、2人は反転するとイグニッションブースト機動で撤退する。

キラ達はソレを見送る形となった。

「撤退した? いや……撤退してくれたと言うべきか……」

アスランの言葉にキラも頷く。

「威力偵察が目的だったみたいだね……ムカつく位、鮮やかな引き際だよ」

キラ達は一夏達に撤収命令を下しその場を後にした。

戦場だった場所は朝日に照らされ何事も無かったかの様な静けさが残った。




あとがき
ようやく書けました。
ペースも遅いですが頑張ります。



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