第3話『次元世界の侵略者』
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時空管理局や漂流艦とは、別の次元空間に彼らは密かに息を潜め、時が来るのを待ち受けていた。彼らの中心となるのは、巨大な人工物であり、その周りを数百隻どころか、2000隻にも昇ろうかという大艦隊の数々が浮遊している。そして、中央に君臨する巨大建造物は、直径凡そ10qに及ぼうかとする程に巨大なもので、要塞級としても比較的大型に類するかもしれない規模だ。
地球世界でも、かの白色彗星帝国ことガトランティスの本拠地が、直径60qあまりの巨大な人工移動都市だった。これと比較すると大分小さ目になるが、ガトランティスの場合は総本山としての巨大都市である。片やSUSは、侵攻軍の機動要塞として建造されている事から、十分に巨大な人工天体と言えよう。
この巨大な人工物の外見は、四角錐を逆さに土台として置き、その上面の中心にピラミッド型の天守閣が聳え建っている形となる。極め付けが、巨大構造物の周りを囲んでいる5隻の巨大な防御船だ。それは殆どが縦長であり、全長も7q程の巨大な物であった。
これこそSUS次元方面軍の前進基地として機能する“機動要塞ケラベローズ”だ。地球連邦の第一次移民船団と護衛艦隊を葬り去った艦隊と、全く同一の所属である。彼らSUSとは、飽く事なき侵略を繰り返し、手付かずの者があれば、それを無遠慮に手を伸ばしていたのだ。
この次元空間に存在する彼らもまた、同じような任務を背負った部隊であり、それ相応に大規模な部隊で編成されている。
SUS要塞ケラベローズの内部では、これから侵攻を開始するに当たっての最終的な対策会議を開いており、その中には先の銀河での戦闘も報告が入っていた。
「そうか、第七艦隊は地球の移民船団を二度に渡り撃滅した訳か」
「はい。大ウルップ星間国家連合の参加国を派遣し、撃滅に成功した模様です」
巨大なホールの中心に設置してある長いデスクを前に、十数人と言う軍人もとい異星人が座っている。地球人やガミラス人らと同様の人型なのだが、彼らの肌の色や身長の高さ、目の色等、違う所は多い。肌は、水色か薄紫といった具合で、背丈も有に2mはあるだろう。そして、その目も威圧的な光を灯っており、平常時であっても他者をギラリと睨み付けていた。
デスクの奥で、どっしりと構えている肩幅が広く恰幅の良い体格をした、司令官らしきSUS人がいる。その司令官は、部下からの報告を耳にして形なれど頷いており、その様子を目にした他の部下達も、安心しているようだった。
第七艦隊とは、SUS軍の保有する機動艦隊の1つであり、この艦隊のみで銀河の4分の1近くを配下に置いていた大艦隊である。その規模たるや2000隻以上に昇る。SUSの軍勢は、各1個艦隊につき2100〜2300隻余りを定数規模として、1つの戦区(銀河規模)を担当しているのだ。
だが、それも支配先にいる勢力図を、事前によく把握しなければならないのは当然のこと。第七艦隊の場合は、銀河交差現状から長く続いた、各星系国家同士の戦乱の渦中を利用して、次々と周辺諸国を抱き込んでいき、勢力の拡大と支配を図りつつあったのだ。無論、そういった行いは、別の世界でも同様の事を繰り返しており、幅広い侵略図を着々と造り上げつつあるのだった。
そして、この異次元の統括を任されているのが、先の恰幅の良いSUS軍人――次元方面軍総司令官ベルガー大将である。大体の権限は、彼の手中にあると言って良い。その彼が、少し笑みを含む表情をしていたものの、次の報告に眉を顰めてしまう。即ち、第二次移民船団壊滅直後に起きた、謎の時空歪曲事件である。
「地球艦隊と連合艦隊もろとも消えた……だと?」
「報告によりますと、地球艦の2隻が異常なエネルギー増幅を始め、何らかの理由で暴走の末爆発、その影響で次元の裂け目が生まれたようです」
「総司令、その後の報告ですが、この次元空間に地球艦隊が迷い込んだとの情報を得ています」
そう答えたのは、次元方面軍情報参謀長マッケン少将だった。彼は、迅速な調査収集によって地球艦隊の動向を調べて報告したのだ。情報を収集した結果からして、それ程にして重要視する気配は見せていなかった。何せ、地球艦の数は凡そ43隻だというではないか。それを今更、何を恐れる必要があるというのだ。そのような残存艦など、彼らSUSの敵ではない。烏合の衆など放っておけばよいのだ。
彼は、迷い込んできたという地球艦隊に対して脅威は抱いておらず、軽くあしらう程度で済まそうとする。
だが、これには重要な見落としがあったと気づくのに、多少の時間を要した。地球人を下等な生物として見下し、他勢力を単なる駒としか見ないSUS。その様な傾向が強いのが特徴であったものの、その背景には強大な軍事力があるからこそだ。本国には膨大な戦力もあるからして、ベルガーは当然の反応をしたまでに過ぎないであろう。
「地球艦隊は、その後、時空管理局の艦と接触をしたようですが、その殆どは時空管理局の艦による捜査と救助作業との事です」
「時空管理局か……。あんな外見だけの組織が出会った所で、どうもなるものか。それよりも、SUSの連合軍艦艇はどうした?」
迷い込んだ烏合の衆と、弱小と見積もる時空管理局に興味を示さない。代わりに、天の川銀河から迷い込んできた、第七艦隊の友軍艦隊の処置に目を向けた。捨て置いても良いかと考えてはみたが、自分らが同じSUSだと知れば、向こうも寄ってくるであろう。何せ、彼らにとって未知の空間なのだ。脱出方法も分からない彼らにとって、既に知っているSUSから差し伸べられる手を払う訳にもいかないだろう。
無論のこと、そうやって付いて来るであろう連合軍の艦艇を、都合のいい様に使い回してやるのだ。
「それについてですが、地球艦隊が出現したポイント――9D−19次元区域よりも離れた宙域、9D−27次元区域に出現しました」
よし、と頷くベルガー。視線を会議室の一角に向け、視線の先に座っている別の男に命じた。
「ディゲル、至急彼らとコンタクトを取り、我が陣営に取り込め。そして、我らはこの次元世界に対する宣戦布告として、手始めに、その迷い込んだ地球艦隊、及び脆弱な時空管理局の艦を破壊するのだ」
総司令官の命令に反応し、立ち上がるSUS人。神経質そうな顔つきと、長身ながらも細身の体躯をした彼――第二艦隊司令長官ディゲル中将が頷いた。この次元空間内において、総司令官ベルガーの元で、ディゲル中将が実戦部隊である艦隊の運用を取り仕切っていた。
「了解しました。直ちに向かわせます」
「ウム……確か、その大ウルップ星間国家連合の艦隊は、何と言ったか?」
「はい、情報によりますれば、星間国家連合を構成する三ヶ国です。それぞれ、フリーデ、ベルデル、エトスと称されております」
あのナイフの様な赤い艦が“フリーデ”と言う。アイスクリームの様な青色の艦が“ベルデル”。そして、文鎮または大理石の様な白い艦が“エトス”と言った。全ての国籍艦が、大ウルップ星間国家連合の傘下に入っている星系国家である。そして、彼ら国家群から供出される宇宙艦隊で構成されるのが、通称“大ウルップ星間国家連合軍(通称:ウルップ連合軍)”と呼ばれる一代戦力だった。
とはいえ、その連合軍の中において、SUS軍が占める割合は多大なものであった。SUS軍のみで、ウルップ連合軍に参加する参加国軍の全戦力に匹敵すると言っても過言ではない。
「第七艦隊には、一応連絡だけは入れておけ。どうせ、バルスマンも使い潰す腹でいるだろう。ならば、我々が有効に活用してやる」
苦笑するベルガー総司令官は、その後も軽く話すと議会を閉幕させた。
因みにだが、この次元空間では、SUS軍に同行する連合国等は一国も存在していない。それは、次元空間に入る為の技術が必要であるからだ。各世界に通じるトンネルの役目を果たす次元空間へは、簡単に出入りできるものではない。出入り可能なのは、次元転移技術を持つ艦に限られた話になるのだ。典型的な例が、先の時空管理局という巨大な組織だった。彼らは膨大な世界を管理又は監視する為に、次元空間と通常空間を行き来しているのだ。
因みに地球連邦は、その様な技術は取得しえずにいるが、一応の亜空間航行に対する特殊能力と技術は有している。地球連邦防衛軍の航宙艦隊が、それを可能とさせるべくした理由は、ガミラス戦役時に〈ヤマト〉が経験した、ワープ事故による次元断層への落下であった。異次元空間の結節点であり、宇宙空間とは正反対の性質を持つ危険な空間だった。波動機関からエネルギーは放出されてしまい、超空間通信も、あくまで亜空間内部に留まるものだ。危うく、永遠にその空間をさ迷うはめになったのだ。
加えて、ガルマン・ガミラス軍で極秘開発されていた、亜空間戦闘を可能にした次元潜航艦との戦闘経験もあった。次元潜航艦は、その名の通り次元空間に入り込んで、通常の宇宙空間から姿を消す事が可能な、極めて高度な科学技術が詰め込まれた特殊艦艇だ。だが、高コスト故に簡単に量産するには至っていなかった。
この様な相手をした〈ヤマト〉の戦闘データから、地球連邦の技術人は、四苦八苦して亜空間を始めとする次元戦闘に耐えうる、新たなエンジンの開発をせねばならなった。そういった必死の開発の努力が、亜空間戦闘にも耐えうる技術を確立したのであった。
何はともあれ、この次元空間において、SUS軍のみで制覇する方針なのだ。そこに、多少とはいえ、余所の兵力が紛れ込んだ以上、利用しない手は無い。彼ら連合軍の諸兵らには、精々、この次元世界制覇の為の礎になってもらおう。どうせ、元の世界に戻す気などないのだ。
「総司令、ゲーリン少将指揮下の第二戦隊、出撃しました」
「よろしい。まずは連合国の艦隊を味方につけておかねばな。完全な修復を行わせてから、使ってやるとしよう」
完全な上からの目線と態度。他の幕僚も平然とし、それが当たり前だと言わんばかりだ。
そして、近隣を航行していたゲーリン少将の第二戦隊は、総司令の命令を受けとると、直ぐに行動を起こした。彼に課せられた任務は、一先ず迷い込んだ大ウルップ星間国家連合所属の三ヶ国艦隊への説得だ。ついで、先の少数の地球艦隊、それを手助けしているであろう時空管理局の艦隊を撃滅する。
この時、彼らはどれ程に地球艦隊を甘く見ていたのであろうか。もし、第七艦隊からデータを受け取っていたら、もう少し違った対応をしたかもしれない。近辺にいた第二戦隊が移動していく様子を、スクリーン越しで眺めるベルガーは相も変わらず余裕の笑みを浮かべていた。
視点は変わり、9D−27区域。波動エンジンの暴走に巻き込まれ、次元空間へと転移してしまった大ウルップ星間国家連合所属の三ヶ国艦隊の姿は、その空間にあった。幸いにして、大多数の艦艇群が同じ空間に存在していた。
しかし、彼ら連合軍は、この未知の次元空間に飛ばされてしまった後、事態の解明に向けて共同作業で動いたものの、座標も何もかもが分からないという、対処しがたい事実を突きつけられてしまう。この空間から出る事も出来ないという事実を知ると、将兵らに混乱が広がった。各艦隊の司令官たちは、その混乱を沈めつつも全軍の秩序と態勢を整えるのにやや時間を要することとなったが、ようやく全軍の秩序を保たせて隊列も整えさせていた。
得体の知れない次元空間における予期せぬ事態に対処すべく、警戒態勢も万全としていたものの、如何せん場所が把握出来ずにいる――というのも、次元空間である以上は把握のしようが無いが。
因みに現在、彼らの手元に残されている戦力は、フリーデ艦隊172隻、ベルデル艦隊180隻、エトス艦隊191隻、合計543隻の連合艦隊だった。先の会戦では、どの艦隊も210隻程の大規模艦隊を持っていたのだが、地球連邦防衛軍の頑な抵抗戦によって、無傷では済まされない損害を被っていたのである。特に、地球防衛艦隊の正面にあった、赤い艦隊ことフリーデ艦隊は、三ヶ国艦隊の中で一番被害が大きいものだった。それだけ、地球艦隊の粘り強い抵抗があったという事だが。
しかし、それよりも訳の分からない空間へと飛ばされた挙句、脱出不能であるという事実の方が大問題だ。現在、彼ら三ヶ国艦隊は、これから未知の空間において、どう動くべきなのかが大きな課題となっている。各艦隊の指揮官らを大いに悩ませる問題だ。まさか、地球艦の爆発からこんな事態に巻き込まれるとは、誰が想像出来ようか。
そんな解決すら出来るのか不透明な難題を処理すべく、各艦隊の司令官は通信を相互に繋いで議論を交わしている最中だった。
「やはりこれは、次元断層の類いに当たったのではないか、と私は思うのだが……」
その中のエトス星艦隊の司令官は、指揮官で一番落ち着いた雰囲気を持っていた。地球年齢で言えば、46歳の男性に相当するであろう。白髪混じりの黒髪をオールバックに纏めた、如何にも歴戦の軍人という雰囲気がある人物である。彼が、エトス星の宇宙艦隊を率いて地球艦隊を襲った1人――エトス国防軍第二艦隊司令官ギルト・ガーウィック中将だ。
ガーウィック中将は、エトス国防軍内において凡庸とは程遠い勇将と称される将帥で、軍内部だけではなく民間からも人気があるなど、勇名を馳せる軍人である。とかく冷静沈着で、我慢強い性格の持つ主で、それが戦闘においても躊躇に反映されていることから、粘り強い戦闘スタイルだ。
無論、彼が攻勢に出た時も、その打撃力は特筆すべきものがあり、敵の陣形を瞬く間に切り崩していく。これは、先の戦闘でも如何なく発揮されており、地球艦隊を短時間で撃ち減らしていった。無論、地球軍側の反撃や抵抗も頑ななものであったが、ガーウィックが怯むほどでもなかった。それも早々と指揮官を戦死させた成果であろう。また、彼が率いる第二艦隊の生存率を見ても、その戦術的手腕の高さが現れているとも言えようか。
因みに、彼の故郷であるエトス星の人間は、地球人類に非常に近い人種の1つだった。地球人と同じ肌色系の皮膚を持っており、雰囲気は地球の中世ヨーロッパの騎士道の雰囲気か、或は日本の戦国時代の武士道にも似た気質だった。
「ブシドーとは、潔く戦うもの。そして、勇敢、優秀な相手には敬意を払い、賞賛すべし」
これが、エトス星の軍人が掲げる思想である。時代遅れとの声もあるが、これがあって、エトス星は周辺諸国から、多くの信頼を置かれていたともいえる。また、地球人と肉体的な相違点で違うとすれば、瞳がオレンジ色であることだろう。そういった気質のある国民性で繁栄してきたエトス星は、非常に義理堅い星系国家として、周辺の星系国家にも知れ渡っていた。
ところが、天の川銀河に覇権を伸ばして来たボラー連邦や、新たに誕生したガルマン・ガミラス帝国との争い。はたまた、両大国の支配が及ぶに至っていない宙域における、中規模の星間国家群の侵攻などもあって、エトス星も疲弊してしまう。
そこに現れたのがSUSであった。彼らは何処からともなく現れると、圧倒的な武力を持って、混乱していた周辺諸国を支配下に置いていったのだ。同時に、支配下に置いた星系国家を取り纏めて発足させたのが、大ウルップ星間国家連合だった。殆どが軍事力を背景にした恐喝紛いなもので、星系国家群は泣く泣くそれに従った。
だが皮肉なことに、強大な戦力がバックに着いたことにより、確かに余計な叛乱を起こそうとする星はいなくなったのだ。その対価として、SUSは資源を要求してきたのだが、殲滅されるよりは何十倍もマシだと判断したのである。
エトス星は、当初こそ、SUSに反抗の意を示そうとしていたが、国力的に大きく疲弊していた事に加え、SUSの驚くべき軍事力と戦力の大きさに対し、無駄な抵抗で余計な犠牲を出す――と結論を出したのだ。
「耐えがたきを耐え、機会を待つべし」
屈辱的なことであったろうが、国民を道連れにする訳にはいかなかった。
そして、今やエトスも、天の川銀河の一角に築かれた強権国家ことSUSを中心とする星間国家連合加盟国の1つである。その実情は、軍事力を背景にしたSUSの一強体制であったが、それを指摘して反論するだけの勇気は、何処の国も持ち合わせていない。言ったが最期、その強大な軍事力でもって“叛乱”とあてつけられて制裁を受けるであろうからだ。
いずれは、力に頼るものは力によって滅ぼされる。そう信じて、エトスは耐え忍んでここまで来たのである。
ガーウィックは、その連合議会にて決議された地球艦隊殲滅計画における、第二次地球艦隊殲滅部隊の司令官でもあった。
そんな彼の率いるエトス艦隊の中で、一際大きい存在を醸し出す戦闘艦こそが、当艦隊の旗艦シーガル級大型戦艦〈リーガル〉だ。〈リーガル〉は、シーガル級大型戦艦の系列で建造された艦隊旗艦専用の大型宇宙戦艦である。全長300m程の標準型戦艦とは違い、艦体は5割増しにもなる600m級の艦体を持っていた。巨大な三同型戦艦とも取れる大型戦艦だが、その艦体下部には、艦体の全長にも及ぶ、艦首一体型の長砲身が追加されていた。
その大理石や文鎮を思わせる三角柱型の艦橋内部で、ガーウィックは他の艦隊司令官と通信越しで論議を行っている。 艦橋内に表示されている回線用スクリーンには、2人の異星人が映されていた。その内の1人は、肌の色が黄緑色で細身の体躯に、地球換算で45歳と思われた。片や別の1人は、やや赤い肌に灰色の短髪、体格の良い地球換算38歳の異星人であった。
それぞれが、ガーウィックの異次元空間に飛ばされてしまったという予想に対して、同意の声を上げている。
『私も同様だ。地球の戦艦から発せられたタキオン粒子の暴走で、異次元空間への裂け目に落ち込んだと見て間違いは無い』
黄緑の肌に頭脳派を思わせる異星人ことベルデル星の軍人――ベルデル軍第三艦隊司令官バーネリ・ズイーデル中将は言う。彼の所属するベルデル星も星系国家であり、SUS星間国家連合を形成する主要国家の1つだった。黄緑色の皮膚が特徴のベルデル人らは、とかく小型機による空間制圧戦術を好むのが特徴である。戦闘機で敵を蹂躙した後に、艦隊の戦力で一気に畳みかけるものであった。ズイーデル中将も例外ではなく、艦載機による制宙圏の確保からの包囲殲滅を得意とした軍人だ。
ベルデル星は、SUSが台頭した当時、エトス星と同じく星間戦争で疲弊していたこともあって、素直に連合に組したのである。
『俺も同感としか言いようがない』
もう1人が、赤みのある肌に肉体派を思わせる異星人ことフリーデ星の軍人――フリーデ軍第四艦隊司令官ガルガ・ゴルック中将だ。彼の故郷であるフリーデ星の住民は、赤身のある肌と、他民族に比べて血の気が多いのも特徴であった。その民族性故か、戦闘ドクトリンは機動力と打撃力による突撃戦法を主としていた。戦闘艦にも、その攻撃性や性格が表れていると言えた。ゴルック中将も当然ながら、そういった突撃戦法にこだわった指揮官だ。
また、当然ながらもフリーデ星もSUS連合の参加国となっていた。
そして、ガーウィックと共に編入されたズイーデル中将とゴルック中将も、戦闘指揮者としては凡庸に程遠い存在である……とは言うものの、非凡とまでも行かない手腕であるが、一般の指揮官よりは出来るくらいであった。
「この空間での航行は、我らは問題ないのだが……そちらはどうか?」
ガーウィックが尋ねる。異次元空間ともなれば、機関部に変調をきたす可能性も否定できない。まさか、エネルギー切れを引き起こされてはたまったものではない。また自分らエトスは問題なくとも、友軍が動けないのでは話にならない。恐らくは無事であろうが――と内心で心配していたが、2人の返答は彼を安心させた。
『我らベルデル艦隊は問題ない。しばらくの航行にもそうは影響あるまい』
『こっちも問題ねぇな。ただ、先の戦闘で受けた傷が意外と深いようだ。今しばらく修復時間が欲しいな』
「そうか……ゴルック中将、それは我が方も同じことだ。皆もしばらくは、補修が必要だろう」
ゴルックの修理時間の必要性については皆が同意見だ。だが、問題なのは食料の備蓄量であり、その次に戦闘に必須な弾薬等の備蓄に関してであった。こればかりは宛になるものが無く、殆ど絶望的に近かったのだ。機関の燃料は大して問題にならず、それは半永久的な航行能力を有するほどに高度な機関技術を、どの国も持っていたからだ。それは地球連邦も変わりない。
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今しばらくの時間をとってから協議すると合意し、通信回線を切った。
「やれやれ、このままでは、ゴルイ閣下に合流する事も叶わんではないか」
嘆息するガーウィック中将。彼が口にしたゴルイとは、エトス星の宇宙艦隊司令長官を務める人物のことである。地球で言うところの武士道精神に似た考えを強く持つ、典型的なエトスの職業軍人だが、決して頑固な人間ではない。ブシドー精神は、常に全力で敵に当たり、敵であれども勇敢な敵、優秀な敵には敬意を払っている。ゴルイの様な、武人として誇りに思える上官を目指している事もあって、このまま終わらせるのは許されないと思っていた。
先の戦闘で、大ウルップ星間国家連合の決議により、宇宙の邪悪と断定されている地球の軍勢を取り逃がしたのは、軍人として悔しいのは当然だった――が、その傍らで疑問に思う事も多かったのも事実である。
修理作業を開始するも、その凡そ1時間後程になって行動を再開しようとした刹那、彼らの艦隊はレーダーに別の艦影を捉えていた。
「この次元空間に艦隊とは……。まさか、我らの様に偶然にして巻き込まれたのではあるまい?」
「多数の艦影、さらに接近します。調査可能距離に接近、調査を開始します」
スキャンはものの数秒で終わる。捉えた艦影のデータが既存のデータと一致した為だが、その結果を知って誰しもが驚いてはいた。その相手が誰かを知るや否や、ガーウィックもまた顔を顰めたものだ。
「SUS……だと? 奴らめ、何故こんな所にいるのだ」
いる筈の無い空間に、SUSが存在していることに驚きを隠せない。確かに、見知った艦隊であれば、多少の安堵感も出ようものだが、相手は問題児のSUSなのだ。落ち着けようにも無理な話であった。彼の感じた動揺は、フリーデ艦隊とベルデル艦隊にも広がっており、居る筈のない相手の姿を見て唖然としている。
だが、何はともあれ友軍の存在を確認したのだ。ここは、直ぐに連絡を取っておくべきだと判断したガーウィックは、通信士にSUS艦への問い合わせを命じた。すると、すんなりと電波は繋がり向こうとのスクリーンも映す事が出来たのだが、素直に喜べる様な心境になれないのは何故だろうか。
旗艦〈リーガル〉のメインスクリーンに映されたSUS軍人に対して、ガーウィックは敬礼する。それに応えるようにして、相手も敬礼を返した。
「私は、エトス軍所属、第二艦隊司令官ガーウィック中将」
『……SUS軍所属、第二艦隊第二戦隊司令ゲーリン少将です』
「ゲーリン少将、早々に訪ねるが、SUSの艦隊が、何故この次元空間で行動しているのか? 我々は、戦闘中による事故で此処に来てしまったが、貴官らもそうか?」
無愛想な表情のゲーリンは、少ししてから口を開いて説明を始めた。自分達が、天の川銀河のSUS第七艦隊とは、別の任務を帯びて活動をしている部隊である事。そして、この次元空間を侵略者の手から守り抜く事を説明したのだ。前半は正しいが、後半はでっち上げに等しい情報であるものの、そんなSUSの裏を知る事が無かった三ヶ国は、ただただ唖然として聞きいるだけであった。
そこでふと、ガーウィックは思い付いた。彼らが此処に任意でいるということであれば、ここから出る術を知っている筈だろう。彼らに聞けば何かしら得られるかもしれない。望み薄でありながらも、結局はSUSに助けを借りなければならない立場にある彼は、身も蓋もない心境であった。
『確かに、我らは次元空間の出入りを可能とする。しかし――』
「何か、対価をお求めになるのかな、ゲーリン少将」
大かたの予想は、ガーウィックには出来ていた。かの天の川銀河でも、強制的に参加国に入れた各国家群に、勝手な報酬として資源を吸い上げている。断れば最後、敵として制裁するという、暴力団そのものだ。そういう性格からして、このゲーリンと名乗ったSUSもまた、こちらの要請を叶える対価として、何かした命じてくるに違いない。
あるいは……。
『ガーウィック提督は、察しが良いようで。閣下らの艦隊にも、この次元空間の解放を手伝って頂きたいのです』
「成程な……」
小間使いにしようというものであろう。本当なら、そんな要請は無視して、とっとと元の世界に戻りたいものだが、ここで無視すれば、帰還する為の足がかりは完全に潰える事になる。その上に、協力して素直に返してくれるとも思い難い。帰れなくなるよりは、ここ素直に協力しておく方が得であろう――思考に深けていたガーウィックは、ゲーリンに対して考える時間を貰えるかと提案した。
『よろしいでしょう』
すんなりと許可を得ると、彼は直ぐにズイーデルとゴルックの旗艦に通信を繋げた。先程の会話内容は、彼らにもリークされていた為に大かたは理解していた。
通信越しとは言え、不機嫌そのものを体現したのは、気持ちが直ぐ顔に出るゴルックであった。
『何故、あんな奴らに頼らなくてはならないのか……そんな自分に腹が立つ!!』
そんな不満を、画面越しにぶちまけた。その責任はガーウィックにある訳でもなく、ましてズイーデルにある訳でもない。だが、ゴルックは撃マンをぶちまけられずにはいられなかった。
不満を包み隠さないゴルックを冷静に見返すガーウィックに対し、押さえろと言って窘めたのがズイーデルだった。
『ゴルック提督の言いようは分かるが、ここで我々が“否”と答えれば、奴らは平然として我々を見捨てるだろうよ?』
『……あぁ、わかってはいるさ……それくらいはな』
この中では一番の年少者になるゴルックは、渋々ながらも怒りの矛先を納める。やはり納得したくないようだが、ガーウィックは彼の心境に同情していた。SUSは、平和を唱えながら、強大な武力で支配する事を掲げる国家だ。何か拒めば、武力制裁を加えてくるのだから、彼らを嫌うのは当然のことである。
「では、2人も賛同ということで、よろしいな?」
『あぁ』
『大丈夫だ』
両者共に、少し渋った表情をしてはいたが、相手の要請に手を貸す以外に帰る道は無いと判断したらしく、ものの数分で協議は終了した。
次にスクリーンに出てきたゲーリンは、相も変わらず無愛想なものだった。
『回答を、お聞かせ頂けますかな?』
「フリーデ、ベルデル、そして我がエトス艦隊は……貴官らSUSの要請に応じる」
『……協力に感謝致します、ガーウィック提督。ついては、我らの本拠地へご案内致す故、御同行願いたい』
「了解した」
無表情な回答をするゲーリンであったが、彼には次にやらねばならない事があった。それが、先の地球艦隊と時空管理局艦の殲滅である。一応、ゲーリンもその事は話してあるのだが、これを共同すべきであろうかというガーウィックの意見は、形式な形では却下された。三ヶ国艦隊は、先の戦闘で損傷した艦艇の修復及び休息が必要であろう、と返されてしまったのだ。
それも否定出来ないガーウィックらは素直にSUS要塞へと移動する事になった。
「ゲーリン司令。第三分隊、連合艦隊の先方に立ち〈ケラベローズ〉へ向かいます」
「奴らの事は第三分隊に任せる。残る第一分隊、第二分隊は、このまま地球艦隊と時空管理局艦の撃滅に向かう。進路をDA−129ポイントへ向けろ。全艦、第三戦速!」
「了解、第三戦速!」
ゲーリンは、指揮下の部隊によって誘導されていく三ヶ国艦隊を一瞥しただけで、思考を地球艦隊らの殲滅へと切り替えた。
第二戦隊旗艦カン・ペチュ級戦艦〈ヤズィー〉を中心に、第三分隊と分離した残りの第二戦隊は速度を上げた。元々、彼ら第二戦隊の戦力は210隻余り。それらを、更に70隻単位の分隊を3つにして分けている。その中の1個分隊70隻が、三ヶ国艦隊の先頭に立って要塞ケラベローズへと向かう。
残るゲーリン率いる140隻は、彼らと別れると艦隊を目的ポイントまで進めさせるように命じ、彼自身も軽い気持ちで指揮席に身を沈めている。その漆黒に染まり、無機質な印象を与えるSUS艦艇の大群は、獲物を求める鮫の様に、不気味な雰囲気を出し続けながらその場を遠ざかって行った。
一方の9D−19次元区域。ここでは、狙われるとなっていることを知らない地球艦隊と、時空管理局の次元航行部隊が停泊していた。それぞれが、救助する、救助されるという分かりやすい立場にあって、その活動は今だに続いているのだ。
先の激しい戦いにより損傷した艦隊旗艦〈シヴァ〉は、次元波動エンジンの暴走によって引き起こされた次元転移によって、巻き込まれた僚艦と共に次元空間内を虚しく力なく漂っている。新品同様であった綺麗な青色の艦体には、大小16発のビームによる生々しい傷跡があり、新鋭艦としての威勢は無くなってしまっていた。
しかし、艦内は外部の損傷とは違ってそれ程に酷い惨状ではなく、逆に事故に巻き込まれる直前に被弾した、〈シヴァ〉艦橋の被害の方が深刻であったろう。ブルーノア級の艦橋は、甲板側に設置された艦橋と、艦底側の設置された艦橋に、大まかに分けられている。甲板側の艦橋が勿論メインとなり、その構造は海上艦由来の塔型艦橋で、下層ブロック、中層ブロック、上層ブロックの三段階層となる。
まず、艦橋基部に位置する下層ブロックは、航行や戦闘の双方で必須となる“目”や“耳”の部部に相当し、索敵や計算を行う索敵・電算室専用の第三艦橋。次に中層ブロックは、艦の航行運用に関する中枢部分ともいえる箇所で、航行管制室こと第二艦橋と呼ばれる部分である。そして、艦橋の上層ブロックは、本艦の戦闘に関するシステムが一貫して集められた、戦闘の為の頭脳となる戦闘管制室こと第一艦橋となっていた。最後に、艦底部に設けられた艦橋は、亜空間航行時に運営される第四艦橋となる。
その様な、多層に分けられる艦橋の中でも、司令官兼任艦長、副長、航海長、戦術長、通信長、機関長等の長や、オペレーターが居るのが第二艦橋となっていた。
第二艦橋内部では、被弾や強制転移の衝撃で気を失っていたマルセフ司令、ラーダー参謀長、コレム副長や、テラー通信士らがいた。他のオペレーターも、皆が席の外へ放り出されているという、ほぼ司令部の機能は停止している有様であった。
「ぅ……ん?」
先程の発光に巻き込まれて、どれ程が経過したのであろうか。艦橋内で一番最初に目を覚ましたコレムは、頭を打ち付けた影響なのか、起きたばかりの影響もあって、ボンヤリとした意識だった。それ程にひどい傷を負った訳でもないが、身体が酷くだるく感じてならない。
ぼやける様な意識が、次第に、ぼやけたピントが合うようにはっきりしてきた。そこではっきりしたのは、まず艦橋内の様子だ。
(酷い損傷だ)
あの過酷な戦闘下で被弾した影響か、艦橋内部は所々火花を散らし続けている。それに、眩い光に取り込まれた際に発生した衝撃によって、席から投げ出されたであろうオペレーターの姿も何人も見受けられた。
だが、それよりも驚かされたのは、自身の目に飛び込んで来たある情景だった。いつもとは違う状況におかしい事に気が付いたのだ。此処は、宇宙空間である筈なのに、彼が見ている外の様子はまるで違うのだ。星々の輝きなんてものは一切見えない。窓越しに見えるのは、斑で歪んだ様な感じの空間であり、まるで異次元に入り込んでしまったとしか説明のつかない状況だった。
そして、唖然とする中で改めて艦橋を見渡すと、艦長席よりへ飛ばされていたマルセフの姿が目に入る。その時、外空間の情景に驚いて思考が停止していたコレムの意識が、無理矢理に覚醒したように思えた。
「っ……閣下!」
痛む身体に鞭を打って、コレムは真っ先にマルセフの元へと駆け寄った。すると、彼の傍には、ラーダー参謀長の姿も捉える事が出来た。どちらにせよ、両者ともに重傷なのが一目で分かった。マルセフは、仰向けの状態でいたが、彼の頭部からは、濃い赤色で、やや粘着質な液体がこぼれ出ている。ラーダーに至っては、艦長席の階からオペレーターの階へ転落した影響か、より酷い出血であった。
階と言っても、階段で言う8段分の高さでしかないが、上手く受け身を取れなければ大怪我になるという事は、誰にでも分かる。だが、あの状況でラーダー自身が受け身を取る様な暇は無かったのだ。
まずはマルセフの下に駆け寄り、意識の確認等を行った。
「閣下、しっかりなさって下さい!」
「ぅ……」
意識は薄らとだが残っているのを確認出来るが、無暗に動かすことはできない。司令の意識を確認した直後、今度はラーダーの元へと駆け寄り、意識を確認する。こちらの方が余程重傷であった。うつ伏せに倒れており、やはり口元から血液が流れている。可能性としては。肋骨が折れて肺等の臓器に刺さっている恐れがあった。早急な手術をしなければ、命に係わる一大事だ。
司令官と参謀の2人が倒れてしまい、焦りを半ば隠せないコレム。それでも軍人として冷静さをどうにか保ちつつ、直ぐに軍医の要請をするべく艦内用マイクを手に取り、医務室へと繋げられたの確認すると声を発した。
「医療班、医療班、至急第二艦橋へ来てくれ。第二艦橋で負傷者が多数出ている。マルセフ司令と参謀長も重傷を負われた!」
二度、三度と呼びかけると、ようやく向こう側からの返事が返って来た。声の様子からして、やはり気絶していたのだろうか。軍医の呼びつけを済ます頃に、通信士のテラーが起き上がった。彼も、今の現状を理解出来ていないようだが、負傷者した同僚らの様子を、コレムと協力して確認していく。
幸いにして、第二艦橋の主要オペレーターは、軽傷で済んだようで、艦橋運用には支障は無かった。コレムは、負傷して動けないマルセフとラーダーに変わり、副長として艦の状態を調べ上げさせる。
「ハッケネン少佐は艦内の損害状況の確認を、テラー大尉は周囲の僚艦にも連絡をお願いする。他の者も、現状を早急に把握してくれ」
「「ハッ」」
軽傷で済んだ各セクションのリーダー達は颯爽と動き出す。技術士官としてハッケネン少佐は〈シヴァ〉の損傷具合を調べた。異様な空間で同じく漂う僚艦に向けて、テラー通信士が連絡を取ろうと必死になる。他にも機関部の状態なども調べ上げていった。
艦内の状況は、思ったよりも悪くはないらしく、続々と被害報告が艦橋へと送られて来ると同時に、今の状況もオペレーター達によって分析されていく。
「副長、波動エンジンに目立った損傷は見受けられない」
46歳ほどになるベテランの機関長ウェル・パーヴィス少佐が、心臓部である波動エンジンが無事である旨を報告する。
『こちら第四艦橋、計器類に僅かな損傷があるものの、航行に支障なし』
よし、航行に問題はないようだ。エネルギー流失などの現象もないようで、この空間内での行動が制約されずに済みそうである。
「艦内気候、変調見受けられず」
「右舷レーダー、損傷。探査能力は3割ほど落ちますが、索敵等に支障なし」
戦闘の影響でレーダー機器も機能を落としているものの、ジーリアスによればさほど問題は無いという。
またハッケネン少佐からも、全ての損傷報告を集計した結果を報告する。
「副長。当艦の戦闘能力82%、航行能力87%、戦闘・航行共に問題ありません」
との結果が出されると、コレムも安堵した。これで動けなかったら、本当に打つ手がないのだ。
「しかし、この空間の異様さは、本当になんだ」
「次元断層、でしょうか」
「いや、次元断層なら、今頃エネルギー流出現象が始まっている」
コレムの疑問に、テラーが憶測で答えるものの、ナカダがそれを否定する。技術者としても、次元断層がどんなものかは知っていたのだ。次元断層は、波動エンジンのエネルギーを吸い出す特殊空間だが、エネルギー流出現象が生じないところを見れば、また異なる空間であることが伺えた。
未知の空間に対する疑問が次々と浮かび上がる中、呼びつけた医療班と軍医が入って来た。テキパキと簡易な身体の状態を確認すると、慎重かつ迅速に用意していた担架へと、2人を乗せる作業を行う。
その間に、軍医クォリス・ケネス大尉が、コレムに診察した状況を知らせる。
「マルセフ司令は頭部を強打したようです。参謀長に至っては、ろっ骨が折れ、肺を傷つけている恐れがあります。至急、医務室へ運び、緊急手術を行います」
「分かった。頼む」
医療班が担架を押していこうとすると、意識が朦朧としているマルセフが、弱々しい声でコレムを呼んだ。
「副……長……」
「はい、此処に」
本当ならばすぐに医務室へ連れていかねばならない状態だが、司令官の言わんとする言葉を聞き逃す訳にはいかなかった。直ぐに駆け寄り、担架で横たわるマルセフの口元に耳を寄せる。
「君に……艦隊の指揮権を……委ねる」
「私が!?」
思わず聞き返してしまった。本当ならばラーダー引き継ぐべきだが、そのラーダーも動けない状態だ。しかも、状況把握が進んでいない今、一先ずはコレムに委ねるしかなかった。
「現状が分からない以上……君に、任せるしか……ないのだ。頼む……ぞ」
それだけ言うと、マルセフは苦痛に呻いた為、ケネス大尉が半ば強制的に意味室へと連れていってしまった。
「……やるしかないか」
ポツリと呟いたコレムは、引き続き現状確認に努めるしかなかった。取り敢えずこの後は、この近距離にいるであろう僚艦を全て確認するのだ。テラーはオペレーター達と協力して確認を取っている。
だが、そこで索敵士官ジーリアス大尉が突然に声を上げた。損傷していなかったレーダーから、別の艦艇の姿を捉えたのである。敵なのか、それとも救助活動を行っているのか。〈シヴァ〉のメインスクリーンに映されたのは、味方の巡洋艦に接舷している見た事もないタイプの艦であった。
〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。第3話目になりますが、ここまで読んで下さる読者の方々、お楽しみ頂けたでしょうか?
やっとSUSが出てきました。劇場版のヤマト復活編とは少し設定を変えて、要塞を大型にしてみましたが……性能はまだよく決めていません(汗)。
そして、連合国艦隊の面々もなんとか出せました。後は……時空管理局の面々をどうするか、ですが……どうしよう(←オイ)。
今だに未熟な文章表現に悪戦苦闘しつつも、なんとか仕上ておりますが、誤字脱字などがありましたら、ご連絡ください。
では、これにて失礼します。
〜拍手リンクより〜
2]投稿日:2010年12月23日0:55:24 [拍手元リンク]
管理局の対応次第では一触即発といった感じですね・・・。
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>>拍手、ありがとうございます!
地球防衛軍と管理局との戦闘という可能性は、あり得ない話ではないですが、もしそうなったら……。
管理局艦の性能は今だに調査を兼ねていますが、分が悪いとの話も多いようで……これはヤバイです(←今更か!)
・2020年1月23日改訂
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