第11話『もう1つの地球、明かされる過去(後編)』
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時空管理局の次元航行部隊もとい本局に入港した地球防衛艦隊を待機させつつ、コレムと東郷の2人は、時空管理局高官らを相手にして地球が経験してきた過去の歴史を話している。その内容は、彼ら時空管理局にとっては想像も出来ない内容であり、信じ難い話に思えた。
何故なら、地球が死の星へと変化する一歩手前まで来ていたというのだから、驚かない訳がない。まして、時空管理局の把握する地球は、宇宙を渡る術を確立しえておらず、まして強力な宇宙戦艦を持つことな到底不可能なものであったからだ。そんな地球が、ガミラス帝国という未知の星間国家の侵略を受けて戦争に突入し、遊星爆弾による環境の急激な変化、人口の大幅な減少、タキオン技術の取得、〈ヤマト〉による大航海の目的達成……目の回ることばかりが話に出てきている。
無論、驚きは連続して管理局高官らの心情を揺るがした。
「ガトランティスの艦隊を撃退した後、ガトランティスの本拠地である白色彗星がワープによって至近距離に接近します。地球艦隊はこれを、波動砲による収束攻撃で破壊を試みます……が、ガス帯を取り除くだけに終わり、逆撃を受ける事態となりました」
(効かなかった!? 惑星を破壊するだけの威力を持つ波動砲が、彗星に擬態していた巨大都市を葬れなかったとは……!)
波動砲が効かなかったのも驚きだが、ガトランティスの驚くべき技術力にも驚愕すべきところは多々ある。そもそもからして、直径60q近い巨大な人工天体というだけではなく、それが高速で移動し、なおかつ彗星に擬態化して侵略の限りを尽くしているのだ。この時空管理局本局も相当な巨大人工天体だが、ガトランティスは高速移動できるというオマケつきだ。
ガトランティスの拠点たる人工天体――彗星都市は、60qの巨大な小惑星を利用したもので、上部は高層ビルの立ち並ぶ都市である一方、下部は小惑星半分をまるまる使った土台なのだ。
これに対し、谷総司令は波動砲の第2波を実施しようとするが、彗星都市と小惑星の境目部分を、一周して囲んでいる長大な回転ベルトが動き始めた。この回転ベルトには多くの穴が並んでおり、戦艦を一撃で屠るには十分な高エネルギー砲1門と、巨大なミサイル発射管1門が交互に並んでいる。
地球艦隊は、波動砲をチャージする前に、高エネルギー砲と巨大ミサイルの乱打に襲われることになり、またたく間に艦隊は数を減らしていった。ドレッドノート級は一瞬で消え去り、巨大ミサイルを受けた艦艇も一撃で戦闘不能へ陥る。波動砲を撃てるような状況になく、直ぐに直接砲撃に切り替えさせたものの、時すでに遅く、回転ベルトから発せされる強力な重力波によってショックカノンは捻じ曲げられ、ミサイルも圧潰して自爆してしまう。対応の仕様がないまま、地球艦隊はあっという間に4割を失い、止むを得ず撤退を決意する。
しかし、敵前での撤退は困難を極め、反転中に狙撃されて撃沈する艦が相次いでしまった。
「本艦と残存無人艦を前進させ、味方の離脱を援護する。奮闘せよ!」
それを見かねた谷総司令は、座乗艦〈アンドロメダ〉と他の無人艦艇を囮にして突撃を試んだが、そんな意図をねじ伏せる様にして高エネルギー砲が総旗艦〈アンドロメダ〉を直撃する。波動防壁があったにしろ、それは一撃で消失し、2射目によって止めを刺された。
結果、地球艦隊は撤退を完了させるまでに、総旗艦〈アンドロメダ〉他8割を失ったのだ。
(全滅! あれだけ強力な兵装を持っていながら……全滅!)
(殆ど、一方的じゃない、これは……!)
主力の殆どを玉砕と言う形で失った地球防衛艦隊の一部始終に、マッカーシーは言葉が出ない。レティも、地球艦隊が手も足も出ずに撃滅されていった姿を見て手を震わせていた。他の高官らも似たり寄ったりの反応であった。多くの者は、もっと早く撤退すべきだったと批難するが、想定を遥かに上回る火力と射程、防御能力を前にして、最初から分かり切っていれば撤退も出来よう。
「地球は、ガトランティスから降伏勧告を通告されますが、最後まで抵抗する事を選び、地球沖で最後の決戦に臨みました」
土星域にて地球主力艦隊が全滅してしまった後、地球連邦政府は徹底抗戦を選び、残存戦力と新規戦力を加えた100余隻を展開する。〈ヤマト〉も掛け付け、彗星都市に決死の攻撃を仕掛けたのだ。それは、壮絶とも言える光景であった。ガトランティスは、残る3500余隻を投入し、根こそぎ破壊し尽くす勢いだった。
とはいえ、60qの検討な要塞を落とすには、外からではなく内部から破壊するしかない。そこで地球防衛軍の手助けとなったのが、大ガミラス帝星元永世総統アベルト・デスラーの情報提供であった。一度は死の淵にあった彼は、ズォーダーの計らいで蘇生させられ、帝国内部に滞在していた。その時の内部図を、〈ヤマト〉との死闘の後に渡したのだ。
それを基に、地球防衛軍は残存戦力をガトランティス艦隊にぶつけつつ、〈ヤマト〉を彗星都市内部へ突入させた。たった1隻の宇宙戦艦と数十機の戦闘機隊が、60kmのもある都市要塞へと切り込んでいく。戦闘機隊は、都市要塞の下部にある艦隊発着口から突入し、内部へ入ると今度は陸上戦に移る。
目指すは彗星都市の中央動力部だ。決死隊は、デスラーの提供した都市内部の図を頼りに奥深くへ進み、動力炉を破壊する事に成功する。その代償として、生還できたのはたった4人だという。
生きて帰ることのない、命を捨てる覚悟を持たねばならない戦闘に、時空管理局高官らは、一種の恐怖感を覚えたような気がした。
(今の管理局に、死を恐れずして戦える人間がどれ程いるのだろうか……)
そう呟いたのはレーニッツである。時空管理局の局員、或いは取り締まり対象の相手との間に生じる戦闘は、死亡比率が極めて低いのだが、それは魔法を非殺傷設定にして使っている結果であり、その点において魔法というものは非常に便利である。一方で、〈ヤマト〉の乗組員がやったように、生きて帰れるかもわからない決死の突入を行えるのだろうか?
ガトランティスを始めとして、各国の星間国家の軍隊を相手とする場合、非殺傷設定なんてものを考慮する訳が無く、確実に命を奪い奪われる覚悟で行う者であるからだ。現在の管理局には、殉職という危険性は承知しているが、一切の非殺傷設定の中における戦闘に堪えられるかどうかは不透明であろう。
しかも若年層の多い時空管理局のことだ。中には10才未満の子供もおり、死を覚悟した突撃を命じるなど出来る筈もない。もし、地球防衛軍を相手にしたら、時空管理局の魔導師達は、その命を奪われるという恐怖感に打ち勝てないだろう。刺し違えてでも殺しに来るという覚悟を相手は持つのだ。
「〈ヤマト〉の決死の攻撃によって主要動力炉を破壊された都市帝国は機能を失うも、秘匿されていた巨大戦闘艦が出現し、〈ヤマト〉他残存地球艦隊に大打撃を与え、事実上の壊滅を迎えました」
都市要塞が破壊されても、中からは20kmの超巨大戦艦〈ガトランチス〉が出現したのだ。この不屈とも言える大帝ズオーダーの周到さは、これまで〈ヤマト〉が遭遇してきた中でダントツであろう。
超巨大戦艦は、主砲塔の大きさも規格外で、1門辺り230pクラスの砲門を有していた。それ以上に、巨大戦艦〈ガトランチス〉の艦底部には、格納可能な全長6km前後もある巨大な固定エネルギー砲を備えていた。これが、発射された時、見せしめにと月の表層を文字通り抉り取った。そればかりか、艦体の至る所に存在する大口径四連装カノン砲塔6基24門、中口径三連装カノン砲塔22基66門、小口径カノン砲塔1000基余り、小口径輪胴速射砲塔2000基余り、その他多数の武装が、残存地球艦隊を〈ヤマト〉諸共殲滅に掛かり、文字取り全滅させた。
全宇宙は全て自分の意のままにある――ズォーダーの専横ぶりを見た高官達は、恐怖感と怒りを抱いた。
しかし、ここで最後の手段に選んだのは、〈ヤマト〉の特攻だった。当時の艦長代理古代進一尉は、本望ではなかったものの、自分の命と控えにして、被弾と重度の損傷によって機関が暴発寸前の〈ヤマト〉を爆弾代わりに突っ込ませようとしたのだ。彼は、退艦させたはずの乗組員のうち、密かに残っていた森雪一尉と心を重ね合わせて、特攻を敢行した。
「そこで、テレサが降臨します。本来なら、三次元の世界に出てこれなかったのですが、〈ヤマト〉の臨界寸前だった波動機関との共鳴により、奇跡的に高次元世界へ繋がれた推測されます」
テレサの導きと加護を受けた〈ヤマト〉は、〈ガトランチス〉の猛攻を受け付けることなくズォーダーごと、そしてテレサと共に消滅したのである。
が、話はこれで終わりではなかった。消滅してから半月後に、消滅した筈の〈ヤマト〉が時間断層内に出現。そこから、戦死していたと思われていた山本明が、波動機関室の傍で生存が確認された。彼の情報から、〈ヤマト〉は消滅したのではなく、テレサの力で高次元世界に飛ばされていたことが判明し、艦内に残っていた古代と雪は、今尚も高次元世界で取り残されていると分かったのである。
そこで、地球人類が迫られた1つの決断……。
「イスカンダルから供与されたCRSの力と、時間断層を利用することで、〈ヤマト〉を高次元世界に弾き飛ばし、2人を回収して通常空間に戻ることになります……そこで、この時間断層を失ってまで救出するかどうかを、全国民に問いかけた一大選挙を行ったのです」
「普通ならば、2人の犠牲に目を瞑ってしまうだろうが」
キンガーは腕を組みながら、その選挙について推察する。
ところが、地球市民は時間断層ではなく、2人の救出を選んだ。無論、一方的な投票ではなかったが、6:4で救出派が過半数を占めたと言われている。これには、〈ヤマト〉副長を務めていた真田志郎三佐の、全市民へ向けた演説が功を奏したとも言われているが定かではない。ただ言えるのは、急激な復興が進んだ地球の市民たちは、便利さを追求するばかりの未来は決して明るいものではないと、このガトランティス戦役を通じて肌身に感じ取っていたことだ。
そうした民意の結果として、古代と雪は救出されることとなったのである。これについては、様々な批判も紛糾したが、民主的な方法で決められた以上、それを批判し覆すことは不可能であり、地球は時間断層の無い状況で、コツコツと復興への歩みを進めていった。
「この戦いが集結した2ヶ月後、ガトランティス残党軍討伐、及び第二次イスカンダル遠征が行われます」
たった2ヶ月後に再び起きた、新たな火種。普通ならばあり得ない期間であろう。これは第11番惑星に再集結した、ガトランティス残党艦隊との間に生じた戦闘であった。
残党軍は、第11番惑星の主力と、先遣部隊に別れた別働隊に別れて地球に徹底抗戦を仕掛けて来たのだが、これに対して地球防衛軍は、完全修理を終えた〈ヤマト〉の他に、新造艦と既存艦を中核にした迎撃艦隊を展開し、見事に地球侵攻を食い止めることに成功した……のだが、より肝心なのは、同時期に大マゼラン星雲にてイスカンダルとガミラスの両惑星が、危険に晒されていたのである。
国家としては滅んだ大ガミラス帝国だが、その残党を纏め上げていた大ガミラス元総統アベルト・デスラー。彼は、一度母星に立ち寄り別れを告げてから、長大な航海に旅立とうとしていたのだが、その矢先に事件は起きた。
母星の地下物質を勝手に採掘していた他勢力の艦隊に遭遇したのである。それこそ、新たな敵勢力として確認され、後に地球へ来襲する“暗黒星団帝国”こと“デザリアム帝国”だ。ガミラス星の大地が、強欲な者の手によって強引に掘り返され、地下に眠っていた希少な鉱石を採掘されようとしていたのである。
これに激怒したデスラーは、無頼漢へ鉄槌を下すべく帰還早々の戦闘へ突入したのだった。
(ガミラスにガトランティス、そしてデザリアム! かの世界には、いったいどれ程の強大な軍事国家が存在するのだ)
マッカーシーも、コレム達の住む世界が如何に危険極まりない軍事勢力が点在するのかと、顔に深い皺を寄せた。
デスラー艦隊と戦火を交えたのは、デザリアム帝国マゼラン方面軍資源採掘第一艦隊であった。その第一艦隊司令デーダー少将は、デスラー率いる残存ガミラス軍に驚き、迎撃戦を採掘船団護衛部隊に命じた。その際に、デザリアム軍の採掘艦に流れ弾が命中して誘爆してしまい、それがさらに地下に眠る膨大なエネルギー変換鉱石であるガミラシウムを刺激した。眠りを妨げられた大地は怒りに震え、そのままガミラス星そのものを消滅させてしまったのである。
さらにガミラス星消滅により、双子星であったイスカンダル星は、重力バランスを失い太陽サンザーへ落下を開始してしまう。
事態を重く受け止めたデスラーは、仇敵であった〈ヤマト〉と地球へ、この事態を連絡したのだ。
妙と言えば妙な話だと捉えられよう。地球の敵だったデスラーが、〈ヤマト〉にこの状況を教えて救援を求めるのだから……。これもまた、ガトランティス戦役で刃を交えた〈ヤマト〉艦長代理だった古代進と、デスラーとの間に生じた奇妙な友情関係が存在していたのだ。地球を護らんと、愛する人を護らんとする古代と雪の姿勢に心を強く打たれたデスラーは、復讐ではなく自身の果たすべき使命を胸に刻み、和解したのである。
こうした敵であった人間を信用するには、よほどの信頼と覚悟を持つ必要がある。それは、時空管理局にも同じことが言えた。特に運用統括官であるレティには、良く分かるものだったろう。
(私達も、人手不足のおり、犯罪履歴があったとしても、優秀なら引き抜いている。信じられるからこそ、この亡国の指導者は〈ヤマト〉にメッセージを送った……)
特に次元航行部隊こと海でも、次元犯罪者の経歴を持つ者であっても、能力が優秀かつ矯正の余地があれば、時空管理局に招き入れて戦力として扱っているのだ。その典型例こそ、フェイト・T・ハラオウン一尉なのである。彼女もPT事件に深く関与したが、矯正期間を経て、時空管理局に入局したのだ。
それでも、時空管理局員からの目から見て、デスラーという人物は極めて危険度の高い存在であった。彼ほどの独裁的にしてカリスマ性と執念を忘れない性格の持つ主は、時空管理局内部において危険人物のレッテルを確実に張られるであろう。何故、そんな危険人物と関係を持ちえるのだろうか――自分らの事を棚に上げて、大きく言えることではないが。
「地球連邦政府は、デスラーの報告を事実であるとし、早急に〈ヤマト〉以下臨時編成された艦隊に対し、救援要請を出しました」
通常なら片道6ヶ月は余裕で掛かる日程だが、そこはアケーリアス文明の遺した亜空間ゲートを活用する。銀河外園からバラン星、そしてバラン星からマゼラン銀河外園までの凡そ6万光年という長大な距離を、1日未満という時間で一気に短縮可能であった。残り2万8000光年余りは、連続した長距離ワープを行う必要性があるものの、一度通った航路であるが故に時間の短縮も大いに可能だ。その為、通常航行とワープ航法を繰り返せば、2万8000光年の距離を1ヶ月から1ヶ月半の日程で消化できるのである。
なお、この亜空間ゲートは、ゲート管理の中枢システムであったバラン星エネルギーコア制御装置を、〈ヤマト〉が破壊してしまった為に一時使用不能となっていた。それを、同盟関係を結んだガトランティスの支援もあって、再び使用可能としたのだ。だからこそ、ガミラス軍残党がデスラーの基に早々と駆け付けて来れたのだ。
その亜空間ゲートの使用権限も、デスラーは救援通信と一緒に送っていた。〈ヤマト〉も、当初は使用する為のシステムを放棄されたガミラス基地で入手していたのだが、デスラーがシステム再建の際に書き換えてしまっていたのだ。そこでデスラーの計らいによって、〈ヤマト〉はスムーズに亜空間ゲートを使用することが出来たのであった。
「しかし、銀河系にもデザリアム帝国の尖兵が足を延ばしていたことが、イスカンダル救援において判明します」
〈ヤマト〉率いる地球艦隊は、銀河系から出る前にオリオン座アルファ星の恒星ベテルギウス近辺にて、デザリアム帝国エネルギー資源採掘艦隊第二十四師団に遭遇したのである。第二十四師団は、第一艦隊の指揮下にある部隊で、遥か遠くの銀河系にまで足を延ばしていたのだ。
また第二十四師団は、艦隊司令クーギス大佐とルーギス大佐という、兄弟2人によって運営される艦隊であり、オリオン座の赤色巨星ベテルギウスのエネルギー採取を行っていた。これもまた帝国の星間戦争を遂行する為の資源採掘計画だった。
地球艦隊は、司令塔が2つある第二十四師団を相手に、これをどうにか撃退するものの、嘉禄も生き延びていたクーギス大佐の率いる空母艦隊が復讐戦を挑んできたのだ。ガミラス帝国の故エルク・ドメル上級大将との激戦を繰り広げた七色星団にて、クーギス艦隊と地球艦隊は艦載機戦闘を繰り広げ、高性能な戦闘機もいたことから思わぬ損害を受けてしまうものの、地球艦隊の勝利に終わった。
そして、銀河外園に出た後に、亜空間ゲートを使って6万光年以上を短縮、さらに長距離ワープと通常航行を繰り返し行い、遂に半年掛かる日数を半分以下の時間でイスカンダルへと到着することに成功したのだ。
(16万8000光年の旅を半年、いや、1ヶ月半あまりで成し遂げるとは……それもまた、アケーリアス文明と呼ばれる高度な文明があったからこそか)
キールも思わず、科学技術の進んだ地球と、それ以上に超科学を持ったアケーリアス文明に強い関心を示した。
イスカンダルが恒星サンザーに落下するのを止めるべく、デスラーはガミラスの得意とする重力制御技術を用いてマイクロ・ブラックホールを形成し、その強大な重力でイスカンダルを曳航するという途方も無い方法に出た。なお、ガミラスは母星の大陸を宇宙空間へ曳航し、他の惑星に移植するという難事業をやっている経験がある。その典型例が、木星圏の浮遊大陸基地だ。規模にしてオーストラリア大陸規模の表層を、太陽系に曳航したのだから、イスカンダルを曳航することも技術的に不可能ではなかった。
デザリアム軍のデーダー少将にしてみれば、イスカンダルが恒星サンザーの潮汐力により、表層と地殻が粉々になるのを期待していたのだ。さすれば、彼らも地殻とマントルのみとなったイスカンダルを曳航し、そのまま母星へ持ち帰る算段をしていた。それを、ガミラス軍が喰停めた為に、止むを得ず強引に武力で排除したうえで、イスカンダルを奪取せんと攻撃を仕掛けて来たのである。
「〈ヤマト〉が救援に到着した際、既にデスラー艦隊は苦境に立たされた真っただ中でした」
デスラー率いるガミラス艦隊は、イスカンダルの落下を食い止めたとはいえ、補給や増援も見込めない状況下にあって、遂に戦線を維持する事が限界に達した。デーダー少将率いる第一艦隊の圧力の前に疲弊し、満身創痍状態となったガミラス艦隊は、イスカンダル星の海上で背水の陣を行っており、まさに全滅させられる寸前であったのだ。
そこへ、掛け付けた騎兵隊の如き〈ヤマト〉と地球艦隊の救援により、窮地を脱する事に成功する。
方やデーダーは、思わぬ増援と反撃を受けたことから、指揮下の艦隊の半数を一気に失う。プレアデス級大型戦艦〈プレアデス〉を旗艦とするデーダーは、強力な偏向バリアを盾に地球艦隊を逆撃したものの、一時のみの話であり、実弾攻撃で大ダメージを被った所へ、一瞬の隙を突かれて波動砲の直撃を受け敗死した。
この後、マゼラン方面軍総司令官メルダース中将が、全高約1200mのウラリア式機動要塞ゴルバと共に出現。別名ゴルバ型浮遊要塞とも呼ばれる機動要塞は、縦長の外観をしており、“こけし”の様にトップヘビー、かつ“ひょうたん”の様に縊れた胴体を持つ珍しいものである。
総司令官メルダースは、採掘理由を星間戦争に使うエネルギー触媒となる変換鉱石を採掘する為だと言う。しかも、イスカンダル星の女王並びに、その夫と娘が居るにも関わらず採掘許可を取らずに行っており、さらには〈ヤマト〉らに対して「攻撃はせぬから立ち去れ」と勧告したのだ。
一瞬であるが、時空管理局の面々にしても突かれたくはない部分があることを自覚していた。このデザリアム帝国の行動は、自分らにも当てはまる節があった為である。
(ロストロギアの回収の為に、無断で足を踏み入れることも多いからな……)
暗い表情で呟いていたのはクロノであった。時空管理局は、ロストロギアの存在を確認すると直ぐに回収するための行動を開始する。回収する為には手段を選ばないことも少なくないもので、時には強引な手段で持ち主から、或は領域内で強奪まがいな行為もやっていたのだ。時空管理局からすれば、危険極まりないロストロギアの回収を大義名分にしているから良いかもしれないが、時には現地の人間からすればよそ者が強奪しに来たと捉えられることも、少なからずあった。
デザリアム帝国のそれは、星を破壊するに等しい行いではある。とはいえ、それはまるで、自分ら時空管理局を移し鏡にした様なものだと、クロノは苦い表情を作る。
盗賊紛いのデザリアム軍に対して、デスラーはメルダースの退去宣告並びにイスカンダルへの侵犯を、断じて許すことはできなかった。まして、ガミラスを傷つけていた親玉でもあるメルダースに対し敵意を露わにした。途端、彼は怒りに任せて戦闘を開始し、機動要塞ゴルバへ攻撃を仕掛けるものの、多量の無人攻撃艇テンタクルズと、要塞そのもののミサイル・ビーム砲の反撃を受けた。尋常ならざる要塞の火力と、無人攻撃艇テンタクルスの攻撃により、ガミラス艦隊、そして援護に入った地球艦隊は一挙に劣勢に立たされてしまう。
しかし、驚いたのはこの後だ。デスラーの名を冠したガミラスの波動砲(ガミラス語でゲシュ=ダールバム)――通称:デスラー砲を〈ゴルバ〉へ向けて放ったのだが、何とゴルバは全くの無傷の姿で存在していたのである。
コレムの説明によれば、デスラー砲は波動砲よりも幾分か威力が高いものであり、出力を最大限で放てば地球型惑星を一発で破壊することも出来ると言う。そんな高威力兵器を機動要塞ゴルバは無力化してしまったのだ。ただし、厳密に言えば強力な装甲で無効化したのではなく、プレアデス級と同じくゴルバを包んでいた偏向型バリアによる効果が大きいものだったが。
(艦隊を殲滅することも可能な波動砲をも無効化するなんて……管理局では、この要塞を落とす事など不可能ね)
(なのはのSLBでも無理だろうな……)
リンディとクロノは機動要塞ゴルバに恐怖を抱いた。そして、クロノの言うSLBという砲撃魔法が、核レベルの威力を持っていたとしても、それはゴルバから見ればまさに“石ころのようなエネルギー弾”でしかない。惑星さえ崩壊させかねないデスラー砲が通用しないのだから、当然であろう。
この本局の前に機動要塞ゴルバが現れたとして、時空管理局はゴルバにも対抗出来ずに落とされる光景が、クロノやリンディのみならず、この場にいる海高官と陸高官達の脳裏をよぎった。強力な戦闘艦、無人兵器、そして移動可能な機動要塞……時空管理局に対抗しうる可能性は、個人戦くらいしかないだろう。リンディらは、撃滅されゆく光景にゾッとした。
総司令官メルダース中将は、機動要塞ゴルバの主砲ことα砲を用いた、惑星イスカンダルへの直接砲撃を開始する。α砲は波動砲並みの破壊力こそないが、一撃で一都市を壊滅させることは容易だ。まして、それを同ヶ所に数発も撃ち込めば惑星の表層どころか地殻を破壊し、惑星を崩壊させることも難しい話ではない。
無防備のイスカンダルに被害を出させない為にも、デスラーは玉砕覚悟で座乗艦ごと巨大な砲門へ特攻する。その甲斐あって、砲口に艦をねじ込ませてα砲を使用不能にさせた挙句に、自身の命と引き換えにスターシャを救わんと〈ヤマト〉に波動砲を要請した。その時の音声記録も残されており、デスラーが古代に「何をしている、早く撃てぇ!」とひっ迫した、実に生々しいものだった。
「ですが、スターシャ猊下のご判断により、事態は一変します」
争いごとに見かねた女王スターシャ・イスカンダルは、イスカンダルの地下物質を譲り渡すという苦渋の決断(実は星毎自爆するつもりでいた)で機動要塞ゴルバを止めたのだ。
だが、自爆することを懸念していたデスラーと、地球人の恩人の命を散らすまいとした〈ヤマト〉ら連合部隊は、最期の賭けとして決戦を仕掛けた。ゴルバの動きを、イスカンダルの牽引に使っていたマイクロ・ブラックホールで一時的に動きを封じたうえで、ガミラス艦隊と地球艦隊が共同で波状攻撃を仕掛け気を逸らした隙を突いて、破損したα砲の砲門を狙い撃ち、完全破壊したのである。
イスカンダルは辛うじて崩壊を免れたものの、女王スターシャはイスカンダルに残留することを決意。ただし、スターシャは1つだけ〈ヤマト〉に依頼した。それは、古代守その人と、彼との間に生まれた娘――サーシャ・イスカンダルを引き取ってもらうことだった。無論、古代守はスターシャと星を離れるつもりだったが、スターシャが強制的に宇宙へ送り出してしまったのである。荒廃した星に育つよりも、地球の人達の中で暖かく育てられることを望んだ故であった。
かくして、第二次イスカンダル遠征は、イスカンダルの救援に成功し、幕を閉じた。
「これが第二次イスカンダル遠征になります」
「次は、このデザリアム帝国による地球占領です」
この時、時空管理局高官らは戸惑いを感じた。今何と言ったのか……占領された? 一体どういうことであるのかは、直ぐに説明されて明らかになった。それは〈ヤマト〉がイスカンダルでデザリアム艦隊を撃破した凡そ2〜3ヶ月後のことだった。デザリアム帝国の地球侵攻軍が、大挙して侵攻して来たのである。
驚くべきは、デザリアム軍が全長800m程はあろうかという超巨大ミサイル1基を持ってして、地球人類のみの脳細胞を死滅させるという、誰しもが困難に思える手を使って来たのだ。無論、防衛軍はこれが太陽系へ接近して来る前に撃破しようとした。
だが、その巨大ミサイルが放つ特殊重力波により、各惑星の有人基地が戦わずして全滅してしまった。しかも、半日もしない内に太陽系外縁から地球へと到達、防衛網を悉く退けて地表へと着地した。最悪なことに、このミサイルに気を取られていた防衛軍をしり目に、デザリアム軍上陸部隊が奇襲を仕掛け、瞬く間に地表の防衛網を突破してしまったというのだ。
(電光石火とは、こういう事を指して言うのだな、きっと)
クロノは、デザリアムが敵国であると知りながらも、その軍事行動の速さには舌を巻いた。次々と打ち払われる地球防衛軍が、今までの強い印象が嘘のように崩されるのだ。これに対して、防衛軍は最期のカードである無人艦隊を動かすも、これもデザリアム軍きっての知将ミヨーズ少将率いる艦隊により、撃破されてしまった。
決して人間に負けず劣らずの知能を持った指揮AIが統率する無人艦隊だったが、残念ながらAI技術はデザリアム軍に一日の長があった。
「デザリアム帝国とは、頭脳以外を機械化したサイボーグ先進国であり、AI技術も彼らの得意分野でした。故に、我が方の艦隊に生命反応が無いと知ったデザリアム艦隊は、サイバー攻撃によって無人艦隊の指揮AIを破壊し、一気に無力化してしまいます」
(サイボーグ! あのジェイル・スカリエッティのナンバーズと同じことを、国家規模で推し進めていたとは……恐るべし)
デザリアム人の正体を知り、キール元帥も言葉を失う。JS事件首謀者のスカリエッティ博士が管轄に置いていた、女性型サイボーグで構成されたナンバーズというものがある。サイボーグとはいうものの、肉体を構成する組織は人間と変わりはないばかりか、人間と同じく成長もするという驚くべきものだ。一方のデザリアム帝国は、文字通りのサイボーグであり、頭脳以外は完全に機械化していた。血肉は一切通っていないのである。
ただし、高度に進み過ぎたデザリアム帝国は、遅まきながらサイボーグ化は環境対応に最適である一方、生命としての能力は完全に失われてしまっており、寧ろ純粋且つ若々しい肉体が必要とまでされていた。
皮肉な話ではあるが、地球が、ガトランティス戦役時にAIを積極的に導入した無人化構想を目指した果ての結果が、デザリアム帝国という未来を予兆させたのだ。
「デザリアムは、無人艦隊を排除し、地球を一気に占領下に置きます」
頼みの綱にしていた無人艦隊は無力化され、宇宙空間の最期の希望だったものを失った地球に守る手立てはなかった。完全に占領下へ置かれてしまい、地球の歴史で初めて外部勢力により占領されたのである。
地球占領軍総司令官カザン大将は、先に打ち込んだ巨大ミサイル“重核子爆弾”を起爆させると脅迫する一方、〈ヤマト〉の捕獲を命じており、これはデザリアム軍全体にとって恐るべき存在であったという証だった。
だが〈ヤマト〉は、カザンの目をすり抜けて発進、ハイペロン爆弾の起爆装置があるデザリアム本星へと旅立った。それを阻止すべく追撃したのが、先の無人艦隊を無力化したミヨーズ少将の艦隊だった。ミヨーズ少将は、地球で言えば20代後半の若い将校で、彼の手腕と性格から“狩人”の異名を取っていたのだ。
〈ヤマト〉は、狩り人たるミヨーズの追撃と罠を幾度となく振り切り、旅の途中で遭遇した防衛軍第七艦隊と合流して艦隊を形成。進撃を再開した〈ヤマト〉ら地球艦隊は、デザリアム侵攻軍の中間補給基地を捕捉し、地球占領軍を孤立させる為にこれを殲滅する。さらに、ミヨーズ少将もブラックホール近海にて〈ヤマト〉を待ち受けて決戦を挑むものの、後一歩で及ばず、打倒できなかったことを悔しみながらも、優れた敵に狩られたことに寧ろ満足感を抱きながら、座乗艦〈ガリアデス〉と共に散っていった。
やがて、デザリアム本星が存在する座標に向かう前に、門として立ちはだかる暗黒物質帯と呼ばれる巨大なガス帯を突破しようとするも、ゴルバ型浮遊要塞7隻による包囲網が〈ヤマト〉らを待ち受けていた。これを指揮していたのは浮遊要塞艦隊総司令グロータス大将だった。 一度に7隻分を一戦場に投入するという、かなり思い切ったものだ。
だが、その包囲網は〈ヤマト〉の実弾式新型弾頭こと波動カートリッジ弾の一斉射で、1隻のゴルバ型浮遊要塞が爆沈すると同時に、その爆沈時に発したエネルギー余波を受けただけで、残る6隻のゴルバ型浮遊要塞も巻き添えを喰らって、全滅してしまったのである。
「この時判明しましたのは、デザリアムの有するエネルギー物質の組成と、地球の有するタキオン粒子が共鳴し合うことです。つまり、デザリアム帝国にとって、タキオン粒子を利用した波動機関は天敵とも言える存在でした」
包囲網と暗黒銀河を突破した先には、40万光年離れた二重銀河が存在した。白色と黒色という、まるきり正反対の色を持った銀河がダブルパンケーキの様に二段重ね状態にあったのだ。そこ到着すると、そこでもデザリアム軍でも優れた名将と名高い、デザリアム帝国近衛軍黒色艦隊総司令サーグラス大将が率いる艦隊の攻撃と妨害を受けるが、それも辛うじて退けることに成功する。
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やがてデザリアム本星を突き止めたのだが、それがまたヤマトクルーのみならず、時空管理局高官らも驚愕する程の光景があった。
「デザリアム帝国は、聖総統スカルダートという指導者のもと、大掛かりな偽装工作を持って、〈ヤマト〉を欺こうと試みたのです」
「地球? これは、地球と同じではないのかね。これが、どう偽装工作だと?」
投影された星の情景に、マッカーシーも訝し気になる。〈ヤマト〉がたどり着いた星が、実は地球――に偽装したデザリアム本星だというのだから、開いた口が塞がらないというものだった。しかも、その中身は人工惑星であり、表面を特殊素性で作り上げた全くの偽物だったのだ。
なお、中身が露わになったのは、デザリアム本星近辺で待機していた、サーグラス艦隊との決戦時のことだった。サーグラスは新鋭艦グロテーズ級重戦闘艦〈グロテーズ〉を投入し、大口径ビーム砲こと無限β砲を持って〈ヤマト〉ら地球艦隊に襲い掛かったのだ。
だが、指揮下の近衛艦隊は全滅し、サーグラスも〈ヤマト〉との波動砲と無限β砲の撃ち合いに敗れ戦死する。
その時、旗艦〈グロテーズ〉が爆沈した際に放ったエネルギー余波が、直近にあった本星の表面組織にまで影響を与え、表層を一気に剥がしたのだ。表層の下から現れたのが、まさに人工物の塊だった。さらに外殻とはいってもまるっきり隙間の無い球体ではない。不気味な例えではあろうが、まるで人間の肋骨をイメージした様な外殻なのだ。その球体の中央には、心臓のような部分があり、それを一直線に貫くように太いパイプの様なものが存在していた。
「これを、人の手で造り上げたというのか……!」
「驚いたわ。ダイソン球殻という奴ね」
“ダイソン球殻”とは、20世紀中頃にアメリカの宇宙物理学者フリーマン・ダイソンが提唱したものである。宇宙で高度に発達した文明は、宇宙コロニーの究極系として、恒星を巨大な人口の殻で覆い尽くし、満遍なく恒星エネルギーを利用しているのではないかと考察したことから、ダイソン球殻と呼ばれている。無論仮説であり、これを実現する事は不可能に近いものだった。精々できたとしても、恒星の周囲へ満遍なくエネルギー収集の為の衛星群を配置するくらいだ。
ところが、デザリアム人たちは、自らの身体を機械化するだけでなく、何と自らの母星をも機械化してしまったのである。とある情報によれば、最初は母星を覆う様に外殻が建設されたが、徐々に母星の資源も枯渇していき、それに伴い表層も根こそぎ無くなると同時に惑星内部にまで機械化もとい人工天体化が進んでいったという。挙句の果てに、いっそのことすべて機械化してしまい、かつ要塞化すれば、無敵の母星が完成するという結果になったのだという話だ。
「一方で〈ヤマト〉が、デザリアム本星へ進む頃に、地球でもパルチザンによる反攻戦が激化します」
(凄い。地球の人達は、占領されてもなお解放を求めて戦っていたのか)
占領されてしまえば、永遠に属国として歴史を刻むことになるであろうが、地球は生き残りが全員団結して抵抗を諦めなかった。そればかりか、遂にはハイペロン爆弾の占拠に成功してしまったのである。この不屈とも言える精神を目の当たりしたクロノは、地球人の力強い生命力を敏感に感じ取っていた。
そして、占領されることへの強い抵抗、これを思わず時空管理局の管理世界に当てはめてしまうと、管理される側もこの様な反攻を起こしたら――と強い危機感を持った。特に、この地球を管理下におこうとすれば、地球の人達は断じてこれを許さず、最後の最後まで抵抗を続けるに違いないと想像できた。時空管理局の普通は、地球の普通ではない。当然のことである。
「〈ヤマト〉率いる地球艦隊も、デザリアム本星の攻略の為に最終決戦に挑みます」
硬い外殻に包まれた内部には、水晶都市という、まさに水晶が放射状かつ球形になる様に建設したものだ。このデザリアム帝国の指導者こと聖総統スカルダートが尤も恐れていたのが、タキオン粒子による兵器攻撃であるのは言うまでもない。何故か、デザリアム軍の支配する宙域の組成ガスやエネルギーは、波動エンジンのエネルギーと過剰な反応を起こしてしまう性質を持っていたからだ。
最後は〈ヤマト〉の波動砲により水晶都市は消滅、膨大なエネルギー融合反応を引き起こすことになるが、それでは終わらなかった。その巨大なエネルギー融合反応は、何と銀河規模にまで膨れ上がってしまったのである。ものの見事に、二重銀河は波動エネルギーの融合反応によって消滅した。その光景は凄まじいもので、本星からの衝撃波が光速に近いスピードで広がり、一瞬で銀河を飲み込んだのだ。
これには驚くも声が一言も出てこない局員達。まさか〈ヤマト〉の波動砲が銀河系を2つも滅ぼすとは想像を遥かに絶していた。
「――デザリアム戦役終結後の2204年初頭。今度は銀河で起きた二大勢力による覇権争いの火の粉が、地球へ降りかかります」
それは銀河大戦と称される戦いであり、ガルマン・ガミラス帝国(通称:ガルマン帝国)とボラー連邦が壮絶な戦争を繰り広げていた。もっとも、地球で銀河規模の戦争を確認したのは2204年初頭であり、実際にはそれ以前から勃発していたとされる。
その最中に起きた戦闘で、惑星破壊ミサイルというガルマン軍が保有していた700m程もある巨大ミサイルの流れ弾が、なんと太陽系の太陽に命中してしまったのが、星間戦争を知るきっかけだった。
(なんという天文学的確率か……)
まさか1発のミサイルが太陽に命中するとは、余程に運が無かったとしか言いようがないのだが、問題はその直後だ。惑星破壊ミサイルは、文字通り惑星を崩壊させる特殊なミサイルであり、それが命中してしまった太陽は、急激に活動を活発化させ、凡そ1年後には超新星爆発を引き起こしてしまうのだという。これに対して地球防衛軍は第二の地球探しを開始した。
〈ヤマト〉は、先発して旅立つものの、太陽系内に進入したボラー連邦系の属州艦隊旗艦〈ラジェンドラ〉と、それを追って来たガルマン東部方面軍第十八機甲師団が、事態をひっ迫させた。
戦艦〈ラジェンドラ〉が太陽系領域を離脱する直前に、ガルマン軍が攻撃を開始。そこで初めて、ガルマン軍との戦闘を交えることとなった。第11番惑星付近で、第十八機甲師団と激闘を繰り広げた〈ヤマト〉は、嘉禄も防衛軍の救援もあって勝利を掴むが、戦艦〈ラジェンドラ〉は撃沈。さらに、属州として支配していた親玉のボラー連邦からも、要らぬ誤解から執拗な攻撃を受けてしまうはめになった。
「後に判明しましたが、ガルマン帝国は、旧ガミラス帝国の残党が天の川銀河中心領域にて勃興した新国家でした。つまり、デスラー総統が一代かつ極めて短期間に造り上げた新生国家で、天の川銀河の3分の2近くまで支配権を持っていたボラー連邦と、瞬く間に肩を並べる存在に成長していました」
ガルマン帝国とは、あのガミラス帝国総統デスラーが建国した国であり、この〈ヤマト〉襲撃を知ったデスラーは〈ヤマト〉に対して謝罪、代わりに太陽制御を約束するも、自然の力の前にはガルマン帝国の科学技術は敗れ去ってしまう。
制御を成し得なかったデスラーは、せめてもの償いとしての惑星ファンタムという移住可能な惑星を教えるが、これが文字通り生きている惑星――コスモ生命体だと判明する。惑星規模の巨大生命体は、時空管理局の記録には存在しなかっただけに、高官達もやや興味深そうだった。
(人間の波長に合わせた幻影を創り上げる……宇宙には、そのようなものまでいるのか)
クロノが驚くのも無理はないだろう。
この惑星ファンタムから、〈ヤマト〉はルダ・シャルバートという女性を預かる。彼女は、かつて天の川銀河を統一した星間国家シャルバートの女王候補であるという。ボラー連邦により危険人物として捉えられたが、本音は強大な軍事力を隠し持つであろうシャルバート星を支配する事にあった。だが、シャルバート星の所在が掴めないことから、いずれ見つかった時に備えて幽閉という手段を選んでいた。
それがコスモ生命体だと知り得なかったらしく、そのコスモ生命体によってルダ・シャルバートは保護されていたのだ。
この王女を巡って、ガルマン軍もルダの奪取の為に北部方面軍艦隊司令官グスタフ中将を派遣。危うく〈ヤマト〉を攻撃する一歩手前に来たところで、同じくルダの奪取に来たボラー連邦軍第八打撃艦隊司令官ハーキンス中将が来襲し、双方がルダを巡って激闘の幕を開けた。この海戦は、数的劣勢にあったグスタフ艦隊が、〈ヤマト〉を撃沈させない為に捨て身の戦術に出て、文字通り第八打撃艦隊と相打ちに持ち込んで玉砕した。
直後、新たに第一艦隊と第二艦隊を統合したボラー連邦軍ルダ奪還部隊が出現する。これを統率していたのが、艦隊司令官バルコム大将だった。数的優位を背景に、ルダの引き渡しを言い渡すも頑なに断られ、攻撃を開始する。第八打撃艦隊の戦闘で少なからぬ損害を追っていた〈ヤマト〉は、余りにも膨大な量の敵艦隊に単艦の波動砲は効果的ではないと判断し、総旗艦を狙った一点突破を敢行する。
これは図に当たり、大軍を指揮すればそれだけ通信量も多い欠点を見抜かれたバルコムは、波動防壁とアステロイドリングを使った強硬な防御と俊敏な機動力に翻弄された挙句、座乗艦を撃ち抜かれて戦死。その間にボラー艦隊を乱打してすり減らしつつ、ワープで離脱を謀り安全圏に生き延びることが出来た。
〈ヤマト〉を信用していたルダは、特殊な能力を持って次元空間への扉を開き、シャルバート星へ案内した。そのシャルバート星から受けとったのが、恒星を制御する事が出来るコスモハイドロジェン砲と呼ばれる装置である。これは、シャルバート星が伝説上の星ではなく、実際に星間国家として軍事力を振っていた証拠を示すものだ。ハイドロコスモジェン砲は、使い方を変えれば、恒星の超新星化を速める事も出来るというこである。イスカンダル同様に、超大国を築きあげていたシャルバートだったが、自らの危うい軍事力を危惧し、遂には次元空間内に星を隠す手段を講じたという、遥かに進んだ文明を有していた星だったのだ。
(そんな星が、次元世界には残されていたと言うのか。だが、これを管理しようものなら、地球からの反発は必須だな)
管理下に置くことは危険だと察したのはフーバーである。シャルバート星が〈ヤマト〉と地球を信じて、ハイドロコスモジェン砲を引き渡したのだ。となれば、ロストロギアの塊であるシャルバート星を無理に管轄下に置こうとすれば、地球が黙っている筈がない。管理下に置くことによって、虎の尾を踏むことにならなかったのは、あくまで運が良かっただけなのだ。
シャルバート星が開門したことを受け、デスラー直属艦隊が乗り込むものの戦う意思を放棄したシャルバート星を手に掛けることを断念する。しかし、後から追跡してきたボラー連邦軍参謀総長ゴルサコフ大将を指揮官とした空母艦隊が襲撃した。これは、デスラー自身が排除に掛かり、デスラー砲の改良発展型であるハイパー・デスラー砲で掃滅してしまったのである。ゴルサコフはあっけなく戦死したのであった。
「地球に帰還した〈ヤマト〉は、早速、ハイドロコスモジェン砲による太陽制御を試みますが、ここでボラー連邦が領域侵犯を犯してまで、〈ヤマト〉の妨害を仕掛けてきました」
邪魔立てしたのは、何とボラー連邦首相ベムラーゼ本人が率いる艦隊だった。彼は機動要塞ゼスパーゼに乗り込み、〈ヤマト〉を排除に掛かったが、ここでデスラーも直接戦場に出向いて、ベムラーゼ首相との直接対決に入ったのである。その戦闘の結果として、デスラー砲艦隊のデスラー砲戦術と、ゼスパーゼのブラックホール砲の応酬戦によって、両軍共に旗艦以下数隻にまで減る大損害を被った。それでも、デスラーの次期を捉えたハイパー・デスラー砲の攻撃によって、ゼスパーゼとベムラーゼ首相本人も、纏めて倒したのだ。
勝利に終わると同時に、〈ヤマト〉も太陽制御に成功。これで〈ヤマト〉の使命は完遂されたのである。
ボラー連邦は指導者を失い、デスラーによる銀河統一の実現化が目の前に迫る……筈であった。それは、とてつもない天体規模の大災害により潰えてしまうことになった。
「西暦2204年末のことです。我々の住む銀河に対して、赤色銀河が次元の裂け目から突如として出現しました」
(な……!?)
天文学研究所や各開拓地から撮影されたその光景に、今まで以上に衝撃を受ける高官達。
それは、赤色銀河が銀河に対して交差するように交わってしまったのだ。この赤色銀河が出現した原因は、現在においても不明であるとコレムは説明する。そして、当然の事であるが銀河同士が交差すればどうなるか……言わずとも簡単な話である。銀河が交わることにより、その交わった大部分の恒星系同士が衝突を繰り返したのだ。その光景は記録映像に生々しく映されており、一体どれ程の星が、この交差現象によって消えたのか見当もつかないという。
同時に、二大勢力であったガルマン帝国、ボラー連邦の両国は壊滅的打撃を受けてしまった。この被害を調査すべく〈ヤマト〉が派遣されたが、凡そ1週間後に回遊惑星の存在を知らせて来たのを最後に、通信がすっかり途絶えてしまう。そのさらに数日後には、何と〈ヤマト〉は艦内クルーが倒れた状態で、無人操作で帰還して来たのである。
調査結果によると、〈ヤマト〉は放射能を武器とした敵性勢力の攻撃を受けたと判断された。
「〈ヤマト〉は、ディンギル帝国と呼ばれる惑星国家の軍隊から奇襲を受け、短時間の内に戦闘不能に追いやられました」
加えて判明したのは、回遊惑星アクエリアスと命名された水惑星が、地球へ向けて移動しているという事実だ。この事態を重く受け止めた地球連邦政府は、迫りくる回遊水惑星アクエリアスの災害を回避する為に、移民船団を結成させると同時に木星圏コロニーへの大移動を開始させたのだ。
だが、それを妨害したのがディンギル帝国だった。ディンギル帝国は、母星を惑星アクエリアスから降り注いだ膨大な量の水によって流され、壊滅的打撃を受けていた。そればかりか、地下資源物質に極めて特殊且つ高エネルギー変換鉱石が眠っていたのだが、特異体質を持っていた。水との結びつきによって、一気にエネルギーを発してしまう。それが、大量に降り注いだ水が地下資源物質と触れ合ったことで、一気にエネルギーを開放し、それがきっかけで惑星ディンギルは爆発消滅してしまったのである。
「ディンギル帝国は、やがて惑星アクエリアスをワープさせることで、全人類の抹殺を企てておりました」
「星を……ワープさせたと?」
星ごとワープさせることが可能な国家は、類を見ない。あのガトランティスと違い、元々から移動能力を持たない惑星を、遠方に転送しようというのだ。それが出来たのはデザリアムのみであった。
そして地球連邦政府は、コロニー移送計画の真っただ中にあってのディンギル帝国軍来襲に衝撃を受けることとなる。
敵襲を予期していなかった移民船団は木星圏の大型コロニー群へと移動中に、ディンギル帝国軍の若き司令官ルガール・ド・ザール将軍(通称:ルガールJr)率いる太陽系制圧艦隊の奇襲攻撃を受けてしまい、抵抗する間もなくあっという間に全滅してしまったのだ。無論、護衛艦隊が随伴していた訳であるが、正規兵力ではない艦隊戦力であったことから、瞬殺されてしまう。
「地球連邦政府が、ディンギル帝国の機動艦隊を認識したのは、移民船団への襲撃を許した時でした。それまで、敵襲を予期していなかった地球連邦防衛軍は虚を突かれた形となり、ワープで一挙に侵攻してきたディンギル艦隊に先手を許してしまいます」
ディンギル艦隊が、こうも太陽系外惑星系に進入できたのも、彼らの祖先の出自もといルーツが地球にあった事、並びにそれに基づく緻密な偵察が成されていたことが功を奏したと言えた。防衛軍とすれば、よもや基地球人の子孫が攻め込んできたなどと想定できるはずも無かった。
その為、地球防衛軍の対応は後手に回ってしまうが、移民船団を撃滅した憎きディンギル艦隊を迎撃すべく、地球防衛軍は艦隊を緊急出動させた。既に外惑星系に潜り込んだディンギル艦隊こそ、袋の鼠だとした当時の艦隊司令長官は、コロニーを破壊しているディンギル艦隊を包囲殲滅戦と企てる――失敗という結果を代償として受け取る羽目になったが。
ディンギル艦隊は、地球防衛軍も驚くほどに緻密に練り上げられた作戦の基で、地球艦隊を一気に壊乱の縁に叩き込んだ。移民船団を襲った部隊そのものを餌として地球艦隊をおびき出し、包囲殲滅せんと出現したところを狙ったのである。
「地球艦隊は、主力である外周艦隊、並びに外惑星艦隊を木星圏に集結させ、一気に殲滅しようと試みますが――」
地球艦隊が包囲陣を構築した瞬間を狙い、そのさらに外側からディンギル艦隊がワープアウトし逆包囲してしまったのだ。そして、予め用意を済ませていたハイパー放射ミサイル搭載型の宙雷艇を、宙雷母艦から一気に解き放ち、後背に現れたディンギル艦隊に浮足立った主力艦隊群の背中を文字通り突き刺したのである。ディンギル帝国の対艦主力兵器“ハイパー放射ミサイル”は、地球艦隊を多いに苦しめた兵器であるが、あの〈ヤマト〉をも数発で行動不能にした代物である。このミサイルに襲われた地球艦隊は、またたく間に壊滅する事態となった。
ハイパー放射ミサイルとは、硬い外郭を持ちつつ内部には弾薬及び放射能を満載している危険度の高いミサイルであるが、これは目標艦に突き刺さると弾頭部分から強力な熱を発し、周囲の装甲を溶かしてしまうとともに弾頭をさらに艦内深くへと浸入させる。そして、艦内へと放射能を撒き散らしてから一定時間経つと、爆発するという二段構えの構造となっている。その破壊力は、主力戦艦を1〜2発足らずで撃破してしまう程の威力を持っていた。
(恐ろしい国ばかりだ。地球の周りには、この様な侵略国しかいないのか!)
(こんな世界で独立を維持し続けているだけあって、地球は相当な実力者だろうが、これもまた一方的すぎるぞ)
高官達は、敵ばかりの地球の世界に悪寒を覚える。それにしても、無抵抗の市民に対する虐殺を何とも思わないであろうディンギル帝国に、彼らも怒りを覚えたものだ。
やがて地球艦隊は陣形を大きく崩された上に、囮となったディンギル艦隊も呼応して突撃し、真正面に並んだ地球艦隊を粉砕されてしまう。包囲すべき敵艦隊を取り逃がした上に、後背に現れた別働隊の奇襲で組織的抵抗を失った地球艦隊は、各個に奮戦するものの大した戦果を挙げる事が出来ないことから、止む無く戦線を離脱していった。
この木星圏での敗退を受け、地球防衛軍は内惑星艦隊と本星防衛艦隊を投入し、セオリー通りでもある波動砲による一斉掃射によって、短期決戦を狙おうとした。
だが、短期決戦を狙っているのはディンギルの方であった。艦隊司令長官ルガールJrは、二度に渡って地球艦隊の裏を掻いた戦術を実行に移した。それが、かの〈ヤマト〉も実施したことのある短距離ワープ突撃戦術である。当然ではあるが、ルガールJrはそれを知っていた訳では無いが、偶然の賜物として功を奏することとなる。
「火星軌道上にて、ディンギル艦隊と対峙した地球艦隊は、拡散波動砲の一斉射を行いましたが、ディンギル艦隊が突如としてワープを実施したことにより、波動砲は空振りに終わります」
新型波動砲の一斉掃射による殲滅を企てるものの、短距離ワープによって波動砲を回避されるという驚きの回避方法に、地球艦隊将兵は愕然とした。短距離ワープで目前に出現したディンギル艦隊は、ゼロ距離射撃で地球艦隊を蹂躙し、強引ではあるが陣形を突破する。さらに、混乱に陥った所へハイパー放射ミサイル宙雷戦隊が襲い掛かった。両翼方面に別々にワープしたディンギル軍宙雷戦隊は、再びハイパー放射ミサイルを叩き込み、地球艦隊を完膚なきまでに叩きのめすことに成功したのである。
(これ程までに鮮やかな戦術を見せるとは……!)
波動砲という強力な戦略兵器を持たないディンギル軍の、驚異的な電光石火にキンガーも驚きを隠せなかった。
やがてディンギル帝国軍は、主力部隊を失った地球本星へ迫る。ハイパー放射ミサイルの飽和攻撃によって主力艦隊を失った地球に襲い掛かり、軍事施設や宇宙港等の機能をあらかた奪い、地球人類を大地に封じ込めてしまったのだ。
大半の戦力を失った地球連邦は、最期の賭けとして惑星アクエリアスを止めるべく、残存艦を糾合して〈ヤマト〉を旗艦にした特別任務部隊を派遣させる。同時に、他の残存兵力を纏め上げた地球防衛軍艦隊は、生き残りの司令官の中から山南修中将を艦隊総司令に任命し、アクエリアスを止めるべく出撃した〈ヤマト〉らの援護を命じたのである。
総司令山南中将の奮闘の甲斐あって、大軍の目が〈ヤマト〉ら任務部隊から逸れるものの、地球の僅かな抵抗をも許さないルガールJrは、冥王星にて地球残存艦隊を迎え撃った。大半を山南が引き受けてくれたとはいえ、それでも少なくない宙雷戦隊が襲来し、〈ヤマト〉と駆逐艦〈冬月〉を残して壊滅してしまう。
山南艦隊も損害を重ねるなどの代償を持ったうえで、〈ヤマト〉は補給活動中のディンギル移動要塞をロングアウトレンジ砲撃を行い、見事に機動部隊ともども撃破する事に成功する。
「冥王星における海戦にて、ディンギル艦隊を移動基地ごと壊滅させますが、地球艦隊も多大な損害を受けてしまいます」
結局のところ、〈ヤマト〉のみがアクエリアスに向かうことになるが、その星でディンギル帝国の正体が大昔の地球人であることを知り、驚愕することになった。この事実には高官らも驚かずにはいられない。まさか、かつての祖先が地球を襲うとは!
怒りを露わにする者も数人見受けられるも、説明は続く。
「〈ヤマト〉は、アクエリアス近海でディンギル艦隊と交戦しますが、掛け付けた友軍残存艦隊の援護もあり、波動砲で形勢逆転となりました。その直後に、アクエリアスの接近を速めているディンギル帝国の本拠地であった巨大衛星で戦闘を開始。装置を破壊するものの、残念ながらアクエリアスの最後のワープを止められませんでした」
アクエリアスは、ディンギルによってワープされ続けていた。それを阻止出来ずに要塞は自爆、指導者である大神官大総統ルガール(ルガールJrの父)は、都市要塞ウルクを脱出して地球の最期を眺めようとする。
これに対して〈ヤマト〉は、艦内にトリチウムという起爆性の高い危険な液体を満載し、これを自爆させる事でアクエリアスから立ち上る巨大な水柱を途中で断ち切ろうという策に出たのである。
だが、これはルガール大総統率いる最期の艦隊により阻止されそうになるが、ここでガルマン帝国指導者デスラーの救援が入り、〈ヤマト〉が爆沈する事態を避けることが出来た。
デスラーの到着でワープの時間を稼げた〈ヤマト〉は、無事にアクエリアスの航路先にワープアウトした。
やがて、アクエリアスも地球に最大接近を始めることで、数十兆〜数百兆tもの水が、地球へ降り注ぐことになる。〈ヤマト〉は、これを単艦で食い止めるのだ。〈ヤマト〉が満載しているトリチウムを、波動エネルギーの暴発を引き金に巨大な爆弾と化して、巨大な水柱を断ち切るのである。
巨大な水柱に呑み込まれんとした最中に自爆するその光景は、地球からでも正確に記録されていた。〈ヤマト〉は波動砲をわざと艦内で暴発させることで、トリチウムと膨大なエネルギー反応を引き起こして大爆発したのだ。その爆発は、見事に水柱を断ち切り、水没の事態を避けることが出来たのである。
ただし、この自爆には名将と言われた沖田艦長が自らの手が加えられたという。つまりは、艦と運命を共にしたという事である。
(どの世界にも、自らの命を引き換えにする事があるのものなのね……)
艦と運命を共にしたことを知り、やや心苦しくなったのはリンディである。彼女の亡き夫――クライド・ハラオウンも次元航行艦の艦長を務めていたが、とあるロストロギアを輸送中に、それが暴走して事態の収拾が着かなくなってしまった。野放しにはできないとして、クライド・ハラオウンは、自ら艦と運命を共にしたのだ。
――この一連の過去を説明したコレムと東郷は、一息挟むと表情を改めて高官らへ向き直った。
そう、此処から話される内容こそ本番であるのだ。自分達がこの次元世界へ迷い込む四年程前の出来事から、今現在に至るまでの話を全て曝け出すことになるのだった。
(しかし、凄まじい話だ。ここまでして地球は侵略を受けていたとは……)
フィルスは、深々と地球の受けて来た侵略に対して、悲愴な思いをはせていた。何よりも、この数年の間に連続した戦いを強いられたことにより、地球もかなりの人的、物的、軍事力の消耗をして来たに違いない。何より危惧しているのは、こうした侵略が度重なったことで、地球市民の侵略行為に対する感情は、極めて強い反応を示すのではないであろうか。
時空管理局高官らは恐らく、この地球の武力を無視することが出来ずに、如何にか管理下に置こうと考える輩もいるだろう。寧ろ何としても管理下に置くことによって、時空管理局自体の力を高めたい狙いも考えうる。もしそうしようとすれば、地球政府は全力でこれを撃退するに決まっている。下手をすれば自分らが返り討ちにあって、大規模な被害を招きかねないのだ。
「……では、皆さん。我々防衛軍が、この世界へと来るきっかけとなった出来事を、ご説明いたします」
「それと、私どもが説明を終えた後に、ご質問を願います。終わるまでは、どうか御静聴頂きたく思います」
この東郷の言わんとすること――第一次移民船団が襲われた敵と、次元航行部隊を襲って来た敵が同一であった話だが、それだけではない。東郷らはまだ知り得ていなかったにせよ、時空管理局へSUSの情報を提供出来なかったのだ。これに関して何かしらの罵声が浴びせられるだろうが、まずは聞いてからだ。
忠告を言い終えた東郷に合わせて、コレムは4年前の記録を再生したのである……。
〜あとがき〜
どうも、今回はも遅めの更新となってしまいました。
……が、遅いわりには今回はどうも地球の歴史伝で終わってしまいました(泣)。
前回ははしょりすぎたので、今度はなるべく詳しく行こうかとした結果がこれです。
これでは恐らく、次回も歴史の振り返りで半分を埋めてしまうかもしれません(汗)。
そろそろ、戦闘に入りたいものですが、さて……。
では、これにて失礼します。
※2019年12月加筆
2199や2202の設定をも混ぜ込みつつ、オリジナルの時間系列を崩さぬように整理していきましたら、かなり長文になりました。
拍手リンクより〜
[12]投稿日:2011年01月27日4:24:45 [拍手元リンク]
病気のなか更新お疲れ様です。無理をせず養生してください。
管理局が質量兵器であることを認識したことで、彼等の地球を管理世界にくわえるという方向性はほぼ無くなった感じですね。
かと言って艦を徴収するというのは難しそうですし、この会談の行く末がどうなるのか非常に楽しみです。
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〉〉お気遣いありがとうございます!
何とか回復しましたので、早期更新出来るよう頑張ります!
果たして管理局はどう対応を取っていくのか、かなり神経を削りそうですw
・2020年2月02日改訂
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m