第17話『絶望の地上部隊〜ヨルツェム攻防戦〜』


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「閣下、第四戦隊より入電しました」
「……読め」
「ハッ。『我、敵第九管区拠点ヲ攻略セリ』……以上です!」

  SUS次元方面軍拠点ケラベローズ要塞に入って来た一報は、侵攻部隊の先鋒として出陣していた第四戦隊からの戦況報告だった。計画通りの日程で第九管区拠点に足を踏み入れ、無形の軍靴で踏み荒らし、次いで拠点も次元航行部隊の艦船部隊も蹴散らしていた。戦力的には航行部隊の方が上回っていることは把握していたが、それはさしたる不安材料にはならず、勝てて当然の戦闘だと確信すらしていた。
  さも当然だと言わんばかりの総司令官ベルガーは、その報告と送られてきた戦果と損害報告に目を通してから小さく頷いた。
  戦果は概ね良好と言えるようで、時空管理局の管区拠点は壊滅、航行部隊第九艦隊も9割以上を完全破壊し、残り1割も瀕死の状態で散り散りになった。一報の自軍の被害は、8隻だというのだが、これは多少の誤算があった。
  まず、例の広範囲破壊兵器ことアルカンシェルの威力は、第四戦隊の陽動によって明るみなり、威力なら複数を纏めて殲滅できる程のものであった。肝心の射程距離はといえば、SUS艦艇の有効射程距離と概ね同等程度で、最大射程距離で言えば劣る。アルカンシェルの射程距離を考慮してやれば、恐れるには足らない。
  加えて、この兵器には致命的な欠点があるのも見抜きえた。実際に発砲するまでのタイムラグが大きいという事実だった。今から撃ちます、と言わんばかりの長い発光時間と、そのチャージ中を示すかの如き光球である。発射の瞬間を予測してくれと言うものであり、SUSにとって今後の戦闘は、さらにやりやすくなる筈である。

(所詮、自分より格下相手に対する威圧、威嚇程度の玩具に過ぎん。これも、慢心の結果だな。それに引き換え――)

  一方の地球艦隊に対する情報も、それなりに集まっていた。彼ら地球艦隊の有する強力な破壊兵器こと波動砲の方が、回避しにくいだろうという予想も出ている。波動砲は、艦首射出口の奥深くでエネルギーを凝縮させる為、外観的には変化はあまり見受けられない。無論、まるで分らない訳ではなく、艦首射出口内部に波動砲特有の輝きは確認できるが、発射までのタイムラグはアルカンシェルに比べて比較的短いのだ。
  アルカンシェルは、チャージ時間が短いものの発射のタイムラグが大きい。対する波動砲はチャージ時間が長いものの、発射のタイムラグが短い――両者は全く正反対の性質を持っていた。なお、タイムラグと言っても3〜5秒の程度であるが、やはり時空管理局の艦船の方が、一段と予測し易いもので、回避も容易であることが判明したのだ。

(だが、この報告はちと以外だったか)

  ベルガーが独白するのは、LS級並びに一部L級がアルカンシェルの代わりに備えていた対艦魔導砲アウグストのことだ。小型艦艇ということもあって、その射程距離はアルカンシェルに劣るようだが、威力は軽視しえなかった。SUS軍のカン・ペチュ級戦艦ですら、一撃で大破または撃沈させるほどの威力があるとの報告だったのだ。実際の記録映像から見ても、アウグストと思しき高威力砲が、SUS戦艦の正面装甲を貫いているのが確認できた。
  総合性能は劣るものだと侮っていたが、どうして中々、時空管理局の艦船も侮れないではないか。無論、こちらが今以上に慢心しなければ、恐れるに足らないのは変わらないだろう。今後の戦闘では、アルカンシェルだけではなく、高威力の兵装こと対艦魔導砲アウグストには気を付けねばなるまい。

「第三戦隊はどうしている?」
「目標の第八管区拠点まで、3日ないし4日の行程で到着いたします」

  傍に控えていた艦隊司令長官ディゲルがさっと報告する。
  ここまでは、計画通りに進みつつある――寧ろ進んでもらわねば困る話だが。地球艦隊ならいざ知らず、時空管理局の艦隊に負けてはならない。戦闘艦技術では三流に等しい出来具合しかなく、それに見合った脆さの次元航行艦船しかない。この程度の艦船で、よくこれまで次元世界の平和を唱えてきたものだと、控えているディゲルも思わざるを得なかった。
  やはり魔法文明に縛られている所以だからだろうか? 魔法文明“だけ”に縛られ、自分の優位性を誇るが故に、自分らSUSを始めとした高度な科学文明に劣り、大敗を演じる失態を犯すのだ。

「時空管理局とは、何とも崩れやすいものですな」

  ディゲルは時空管理局の脆さを嘲笑する。領域の端を切り崩され、そこからドミノ倒しのように倒れていく時空管理局は、しまいには次元世界全てに見放されるであろう。そして、SUSこそが次元世界を統べる新しい指導者として君臨するのである。時空管理局は全てを失い崩壊することになるのだ。
  ベルガーも肘掛けに肘をつき、頬杖をつきながら無感情気味に呟く。

「組織は二流……いや、三流組織だ」

  時空管理局の人間が聞けば、さぞかし怒り心頭となるであろう。
  しかし、その言葉を聞く暇など全く無いに違いない。何せ、今頃は陥落した管区拠点に大騒ぎしているであろうからだ。

「……してディゲルよ。各拠点の攻略も良いが、各次元世界への攻撃も万全であろうな」
「勿論です。管理局と名のつくものは、徹底して破壊する旨、全部隊に伝えております。さすれば、彼奴等の支配下にあった人間も、どちらに従うべきか否応にも分かりましょう。今後、SUSが新しき主になると」

  SUSの攻撃対象として、次元空間に浮かぶ各拠点だけが的となる話ではなかった。その各管区拠点が管理下に置いている数多の管理世界に駐留している地上部隊をも、同時に叩く手筈になっていたのだ。
  だが、次元管理世界の全てを攻撃するとなると、それこそ膨大な戦力を必要としてしまう。そこで選ぶべきは、時空管理局の地上部隊が多く駐留する管理世界である。これを叩くことで、全管理世界に対する宣伝にもなろうことを予想しているのだ。かの第七艦隊が起こしたように、銀河中心部での内乱をSUSの力でねじ伏せ、やがて他勢力との協合を持ちかけて連合軍を築き上げたのである。
  それを、この次元管理世界でもしようというのだ。管理世界の中には、魔法文明を押し付けられ、或は対抗する術を取り上げられたことに、時空管理局への大きな不満を燻らせている。これらが案外、SUSの味方にならないにしろ、時空管理局を見放すことは様な筈だ。時空管理局の孤立化も図れるだろう。そして、支配権を握ったSUSが、管理世界を生き永らえさせ、偽りの平和を与える引き換えとして、資源物資を吸い上げるのだ。
  獰猛なSUSなら、その世界の人間を殲滅してやっても良いのだが、人間もある意味では貴重な資源の1つ。SUSの労力を使わずとも、彼ら人間の労力を使って資源を採掘と加工をやらせる。かの第七艦隊同様に、どうせ搾り取るなら効率よく搾り取ってやるのだ。
  何せSUSには物資が不足している。他世界へと足を延ばし、資源や物資を得るしか、彼らSUSに取るべき手段はないのである。それを繰り返すことで、SUSは何とか繁栄を続けて来た。ここでまた時空管理局を叩き、多くの次元世界を手中に治めることが叶えば、さらなる資源の入手ルートを増やすことが出来る筈だ。

「しかし、地球艦隊のことは放っておけんな」
「閣下の仰る通り、地球艦他の存在は、皮肉にも時空管理局の拠り所となる可能性も出てきております」

  以前に増して、地球艦隊の存在が気がかりになってきていたのも事実だった。最初こそ、時空管理局の各管区を支配下に治めていき、最後は総本山たる本局を落として全管理世界を牛耳る方針だ。それがここ最近になり、地球艦隊の存在があることによって、各管理世界が簡単にSUSへ靡かない可能性が示唆されているのだった。まして、途中で地球防衛艦隊がしゃしゃり出てきて、SUS艦隊を各個撃破してくれば、ますます付け上がってくるだろう。
  質量兵器を是をしない時空管理局だが、苦肉の策として地球艦隊を頼ってきたらどうするのか。ベルガーやディゲルの見立てでは、ずっと本局に係留されたままになるだろうというものだ。それが、時空管理局の意思の変換によって、地球艦隊を頼る、または利用してきた時には、直ぐに例の三ヶ国艦隊に頼らねばならない。下手な損害は負わない様に、彼らに押し付けて対処するしかないのだ――どう転んでも大丈夫なように対策は必要だろうが。

「第四戦隊より入電! 『我、コレヨリ陸上部隊ヲ持ッテ、惑星攻略二着手ス』以上!」
「よろしい。コニールに伝えろ。管理局を徹底的に殲滅せよ。ただし、民間人に要らぬ犠牲は出してはならんが、抵抗するなら殲滅しても構わん……とな」
「ハッ」

  次なる段階に入った第四戦隊に対し、ディゲルは命令を下した。その惑星の人間は労働力として有効活用する為にも、生かしておく価値はあるのだ。もっとも、歯向かってくるのであれば見せしめに殲滅してやっても良い。それも、1人残らず徹底的に殲滅するのだ。中途半端にやるだけでは、効果は薄く、帰って反骨精神を背伸びさせる可能性がある。
  現在、SUS軍は攻略活動中の第四戦隊の他に、到着間近の第三戦隊、先日進発したばかりの第五戦隊、1日遅れで出発する予定の第六戦隊がいた。時間は掛かるが、敢えて時間差を付けて1箇所づつ確実に拠点を落とせば、時空管理局も、各世界の住人も恐怖に脅えるであろうことを、ベルガーは確信しているのだ。
  守護者とも言える時空管理局の拠点が落とされるということは、他に対抗しうる存在が居ない、と教えてやる効果を狙ってのこと。
  事実、その恐怖は着実に、市民たちの間で効果を現し始めていた。



「おい、第九管区の通信は、まだ回復しないか!」
「……駄目です、依然として回復しません!」

  時空管理局の管区拠点が攻撃され、あまつさえ通信が途絶してしまったという報告に、本局のみならず多くの局員の間では大騒動となっていた。懸念されていたことが現実と化し、動揺が広まりつつある。正義と平和の象徴である時空管理局の、決して小さくない管区拠点が落とされたのだ。驚かない筈がない。
  一応の警戒態勢を取っていたとはいえ、最初の『敵ト遭遇セリ』という通信から凡そ30分が経過しても、第九管区拠点からの通信は一向に来ないのだ。第九管区拠点が落とされたということ明かな事実であり、即ち第九管区一帯はSUSの手に落ちたも同然であった。
  本局の中央司令室では、オペレーター達がひっきりなしに第九管区拠点へ通信を送り続けていたものの、結局は返信が来ないまま30分が過ぎ、諦めきれなかった高官らも落胆の色を隠せないでいた。
  その光景を、本局中央司令室に同席していたキール元帥、クローベル元帥、フィルス元帥ら伝説の三提督、並びに次元航行部隊幕僚長レーニッツ大将、航行部隊司令長官キンガー中将、総務統括官リンディ少将、運用統括官レティ少将等も、険しい表情を見せたまま言葉を失っていた。

「第九管区が、これほど早く落とされてしまうとは……」

  幕僚長レーニッツは苦々しい思いを声に出し、SUSの軍事力の強大さを思い知る。

「戦力にして200隻程の部隊が集結していた筈。報告では、SUSは半数に満たなかったのではないのか!」

  一方のキンガー中将は、陥落したことに驚きを禁じ得ずも、戦闘報告の内容を確認すべくオペレーター達に命令を飛ばしているが、結局は無駄に終わってしまう。援軍を出そうにも、ここからでは時間が掛かる上に、転送ポートも使えない。全力航行で7日〜8日は有に掛かってしまうのだ。今の現状からして陥落は確実であり、増援を出したとして意味はない。
  騒然とする司令室に同席していたリンディは、隣にいたレティに問いかけた。

「レティなら、どう見る?」
「考えたくはないけど、第九管区は既に……」

  そこでレティは口を噤んだ。リンディにしても、言わずとも結果は予想出来ていたからだ。第九管区拠点は全滅してしまったのだ。
  彼女らは同時に想像してしまう。強力な武力と技術を誇るSUSの大艦隊を前にして、次元航行部隊の全滅させられていく姿が、脳裏を掠めたのである。
  同時にリンディは、その中にいたであろう後輩を思い出す。

(ジェリー……)

  第九管区配属だったジャルクを“ジェリー”と呼んで慕っていただけに、彼女は悲しみの念に捕われてしまう。通信が一向に来ない様子からして、もはやジャルクも殉職してしまったのか……と思ってしまった。
  直後、さらなる事態が司令室を襲う。

「だ、第21管理世界ヨルツェム地上部隊本部より緊急電!」
「!?」

  この報告にレーニッツ、キンガー両名は唖然とする。第21管理世界ヨルツェムは、第九管区拠点が管轄する管理世界において特に大きな駐留部隊を持つ惑星であり、当然、魔法文明を持つ世界であった。
  だが、その第21世界ヨルツェムに駐留している地上部隊本部から、とんでもない通信が送られて来たのだ。

「SUSと思しき武装集団の攻撃を受けている模様、今尚交戦中!」
「な――!」
「もう、手を伸ばして来たのか」

  それを知った途端に、司令室内部の気温は零下へ急速冷凍されたように思えた。立て続けに起こる侵略報告に、キンガーは声を出すことすら忘れる程の衝撃を受け、レーニッツはSUSの侵略速度の余りの速さに舌を巻く思いだった。まして、SUSが転移技術も持ち合わせていたのだと気づかされたのだ。
  次元通信を通して、ヨルツェム地上部隊本部は時空管理局本局並びに、ミッドチルダ地上本部へと救援信号を、悲痛な声と共に送り続けている。増援を送りたいのは山々だが、ここでも肝心の転送ポートは使うことが叶わず、艦船による転移も正確な座標算出すらままならない状態であった。
  そして、案の定というべきか、ミッドチルダ地上本部からの直接通信が飛び込んできた。

『レーニッツ幕僚長』
「……マッカーシー幕僚長」

  レーニッツとの直接通話を望んできたのが、地上部隊幕僚長マッカーシー大将だ。彼の隣には、ミッドチルダ地上本部司令長官フーバー中将の姿もある。彼らもまた、ミッドチルダ地上本部にて受け取った、第21管理世界ヨルツェムの救援要請について思うところがあったのだ。

『既に承知しているかとは思うが、第21管理世界が攻撃を受けている』
「知っているよ。そして、救援要請を出していることも」

  言わんとする事を察したレーニッツに、マッカーシーはサングラス越しに目を細めつつも予想された言葉を口にする。

『我が方としては、救援を出すべきかと案が出た所だが、貴官はどう見る』
「無理だと判断せざるをえんよ、マッカーシー幕僚長」
『な、何を仰られるのですか!』

  先に戸惑いの声と怒りの声を兼ねて反論してきたのは、傍に控えていたフーバー中将だった。地上部隊が危機的状況にある今、次元航行部隊が頼りなのである。協力してもらわねば、全滅してしまうと危機感を訴えたのだ。
  彼の訴えに対して、露骨に嫌悪な態度を取るのはキンガーだったが、声には出さないで沈黙を保っていた。彼とて地上部隊嫌いであったが、見捨てるのは人間として看過しえぬものだと考えてはいる。しかしながら、次元航行部隊も大損害を追った身であり、まして増援に出ようものなら他管区が手薄になってしまう上に、新たな被害を生み出すことにもなろう。故に、キンガーとしては増援を認められなかった。
  やや意外だったのは、彼の上司であるレーニッツがどう判断だった。慎重派または人情的にも人徳のある彼ならば、増援を口にする可能性もあったのだが、予想に反してレーニッツも増援は是としなかったのだ。
  味方を見捨てる気なのか――目線でレーニッツに対して訴えるフーバー。

「貴官らも、ここからどれ程の時間を要すると思っているのか、分っていよう。SUS対策の為に、各管区は厳重な警戒態勢でいるものの、いつ仕掛けてくるかも分からない。現に、我々は第九管区拠点と、多くの艦船、そして将兵を失っている。我々の技術力ではSUSに対抗しえないことを示しているのだ。よしんば派遣しても、瞬く間に返り討ちに遭い全滅させられる」
『ですが、奴らが地表攻撃に目を向いているのであれば、それを背後から不意打ちも出来る筈ではありませんか』

  普段は温厚的なフーバーも、地上部隊が犠牲になると知って、心穏やかでいられる筈も無かった。一方で、普段は沈黙の多い地味な印象を与えるレーニッツは、周りも唖然とさせるような厳しい決断を口にしている。両者の意見の食い違いを見せていた。
  傍に控えていたリンディとレティにしても、幕僚長の冷酷ともいえる判断に意外性を感じつつも、増援は間に合わないと考えていた。彼の言った通り、到着してもSUSの反撃の前に返り討ちとなって全滅してしまうのが目絵に浮かぶのだ。それに、相手が地表にいるとなると、なおさらアルカンシェルは使いにくくなるだろう。一歩間違えば地表ごと消えてなくなる可能性さえ孕んでいるのだ。アウグストならば可能性はあるが、外したら最後、地表に着弾することに変わりはない。
  しばし沈黙していたマッカーシーが、フーバーを片手を上げて制止すると、レーニッツに視線を集中させた。

『貴官の仰ることも尤もだ。私とて、感情に流され、局員を無駄死にさせる訳にはいかない』
『閣下!』
『フーバー君、君も分かっている筈だ。それに、君もミッドチルダの局員達を統べる立場……分からない訳があるまい?』
『それは……確かですが』

  やりきれなさそうな表情でやや俯き加減となるフーバーを、マッカーシーは責め立てたりはしなかった。

「フーバー中将に不快な思いをさせてしまったことは申し訳ない。しかし、現に、我々は多大な損害を被り続けることとなる」
『今できることは、更なる被害を増やさぬように対策を取ること……無論、今の第21管理世界は完全に見捨てることも出来ない。転送ポートなどによる受け入れ態勢を、各管理世界同士で万全しておくように指示はしておく。ただ、私からもお願いしたい』
「何ですかな」
『転送ポートで脱出を図る局員や民間人の受け入れの為に、救助艦を出して欲しい』
「……ふむ」

  転送ポートも無限の転送距離を持つ訳ではない。受け皿あるいは中継点となる転送ポートが必要だ。艦隊単位ではなくても良い、単艦でも良いから派遣しておいてもらいたいというのだ。無論、派遣される艦も、危険な役回りとなるのは当然であるが。
  しばし考えてから、レーニッツは彼の案を受諾した。

「分かった。救助の為に、数隻派遣しよう」
『感謝する』

  それだけ言うと、マッカーシーは通信を終えた。両者ともに、互いの立場を理解しつつ、軋轢を作らぬように配慮した案に妥協する形となる。後日、レーニッツは約束通りに、転送ポートによる脱出者の受け入れの為に、4隻の次元航行艦船を派遣することとなったが、残念ながら彼らの努力は水泡に帰してしまった。SUSの発している空間歪曲波の影響で、転送が出来ない状態が続いたからである。
  結局、第21管理世界ヨルツェムからの脱出者を改修することは叶わなかったのだった。



  管理世界が攻撃を受けているという情報は、時空管理局の情報統制をすり抜けていき、瞬く間に次元世界を駆け巡ってしまった。当然、各世界に動揺が走り、その恐怖は急速に拡大した。
  この大事件の臭いを早くも嗅ぎつけたのは、ミッドチルダにある民間企業のMT情報局だった。

特ダネ(ビッグ・ニュース)だ! 管理局の第九管区拠点が連絡を絶ったらしいぞ!!」
「それだけじゃないぞ、第21管理世界も巻き込まれているって情報も入った!」

  情報収集担当者が叫び声をあげたのが、混乱の始まりであった。有数の情報機関であるミッドチルダ・タイムズの社内では、遂先ほどの襲撃情報を敏感に感じ取っており、社内は大騒動であった。各世界とのパイプを持つ彼らは、第21管理世界ヨルツェムからの情報をキャッチしては、時空管理局へと問い質す為の準備に入っていく。
  TV局等も、この一大危機に臨時ニュースを流す用意を始めていたが、中でもルーディは、事実であるかを突き止めるべくチームを纏めて行動に移そうとしていた。
  そんな折で、ミッドチルダ・タイムズのCEO(最高経営責任者)でもあるマーク・デミルが、熱血感を演じるルーディの熱烈な訴えに、耳を貸していた。デミルは中肉中背に脱色しかかった茶色の髪に、眼鏡をかけた51歳の男性経営者である。

「局長、これはもはやテロ等というレベルではありませんよ! 完全な国家に違いありません!」
「確実性はあるかね、ルーディ君。管理局がそれをひた隠しにしていたともなれば、君の予測は正しかったことになるが……」

  手元には確たる証拠はないが、生き証人がいる筈だとルーディは言うのである。
  だが、第21管理世界ヨルツェムは、攻撃を受けている最中だと言うではないか。こうしている間にも、被害は広がりつつあるであろう事は想像出来る。時空管理局も当然の事ながら、この情報をキャッチしている筈だ。今頃は対応に追われているだろう。
  デミルは時空管理局のみならず、全次元世界に危機が迫っていることに気付いている。ならば、我々が率先して市民へとこの危険を察してもらわねばなるまい。でなければ、何の為の情報機関であるか。今までにないくらいの熱心さが、体から染み出しているのを感じた。

「社長!」
「分かっている。確実な情報を掴んで一面に飾るんだ。編集長を呼べ!」

  一刻の猶予もないと言わんばかりに、デミルは決断した。ルーディには引き続き情報取集に当たらせると共に、新聞の見出しを調整する為に編集長を呼び出すのであった。



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  第21管理世界ヨルツェムにある時空管理局地上部隊本部は、今や普段の平穏ぶりは吹き飛んで混乱の極致にあった。

「奴らを食い止めろ、此処から先を通してはならん!」
「た、隊長、16時方向に敵機動兵器の飛行編隊を確認! こちらへ向かってきます!」
「航空302部隊、壊滅! 陸士103部隊も応答ありません!」

  事の始まりは、地上部隊本部のレーダー施設が惑星ヨルツェムの衛星軌道上に艦影らしき反応を捉えた時だ。レーダーに感知した途端、それらの反応が駐在地へ向けて砲撃とミサイルによる直接攻撃を開始したのである。それは、紛れもないSUS艦隊による直接攻撃であった。宇宙空間からの攻撃には、地上部隊も文字通り手も足も出せなかった。何せ次元航行艦は、全て第九管区拠点防衛の為に駆り出されてしまっており、宇宙空間での迎撃は出来なかったのである。
  無論、その前兆らしき動きはあった。第九管区拠点からの通信が途絶えてしまい、同時に転送ポート等の仕様も不可能となってしまったのだ。通信が途絶してしまっては、次元区間内の出来事を把握できる筈もなく、ひたすら分かるまで待つしかなかった。
  その結果が、レーダーに出現した艦影だった。SUS艦隊から発射されるビーム砲撃の威力は、かのエース・オブ・エースと同等か、それ以上と言え、時空管理局地上部隊の関連施設を正確に狙って来たのだ。地上部隊にも、施設一帯を防護する強力な魔法障壁が備わっていたが、SUSの攻撃は遥かに強力だった為、耐久値は見る見るうちに低下してしまったのだ。
  遂には障壁がものの数分と経たずして破れ去ってしまい、そこからは相手の独断場となる。艦隊からの砲撃によって、地上部隊施設が、次々と破壊される度に、局員を巻き添えに吹き飛ばしていった。抵抗できぬ彼らは、戦うこともままならず命を落としていき、施設も地表部分は完全に破壊され尽くしたのだ。
  砲撃が始まってから凡そ10分程して、ようやく砲撃の猛威は止まった。

「軌道上の艦隊、降下!」
「さらに無数の反応を感知。ガジェット・ドローンの類かと思われます!」

  かと思いきや、今度は小型の機動兵器が舞い降りて来て空爆を始めたではないか。

「くぅ……次から次へと!」

  指揮官席にて歯ぎしりしていたのは、36歳ほどの男性局員だ。彼がヨルツェム地上部隊司令官ムンデル・タンゼン准将である。
  時空管理局には存在しない、本格的な航空機動兵器を前にして、タンゼンは空戦を得意とする魔導師で構成される航空隊に、迎撃を命じた。しかし、輸送ヘリや、かのジェイル・スカリエッティが投入した無人兵器ガジェット・ドローンくらいしか目にしたことのない彼らから見れば、それは恐怖に映ったであろう。
  SUSの艦載機――“多目的戦闘機クプール”は、戦闘艦同様に無機質な感じを引き出す黒の塗装に、コクピット部分の赤い塗装をしたものだ。それは、魔導師など目にもくれなかった。機体に搭載されている爆弾が投下され、それらが駐在施設に着弾すると派手な爆発と火を噴きあげたのだ。
  それを食い止めんとして、飛び回る艦載機クプールを叩き落そうと、魔導師達は砲撃系の魔法を持って迎撃を試みた。
  だが、魔導師の砲撃で叩き落されるほど、SUSの艦載機も軟ではない。機動性自体には魔導師達に幾分か有利に働くであろうが、何しろSUSも数が伊達ではなかった。しかも、死へと送り届けるレーザー機銃が魔導師達を襲っていくのだ。それが魔導師の身体を撃ち抜き、一瞬で絶命に持って行ってしまう。それを目の当たりにした別の魔導師は、一挙に戦意を喪失してしまう。
  ドッグ・ファイトも優位に進む様子を、第21管理世界ヨルツェム攻略担当のSUS第四戦隊が見下ろしていた。
  旗艦〈マニール〉艦橋で、司令官コニール少将も戦況スクリーン越しに見やっていた。

「敵地上部隊の迎撃率が低下している模様」
「我が方の艦載機隊、損耗率2%に留まり順次帰還中」

  先の戦いで第九管区拠点を葬ったコニールは不敵な笑みを浮かべた。
  第21管理世界ヨルツェムへの奇襲に成功し、大した反撃も受けない状態で作戦完了を間近にしている。艦橋のスクリーンには、戦況が中継されており、自軍の艦載機隊が魔導師達を叩き落しつつ、地上部隊本部の施設への爆撃も大戦果を挙げつつあるのが分かった。誰が見ても、これは勝利を疑いようもない。
  因みに、今回の上陸戦で大いに役立ってくれた艦がいた。それがガズナ級多用途戦闘艦である。今まで戦艦と巡洋艦の2種で構成されてきたSUS艦隊だが、こういった惑星上陸あるいは降下作戦には、ガズナ級は必要不可欠であり、そして万能な性能を有していた。長距離砲撃支援、艦載機支援、上陸部隊支援、これらをこなすことが出来るのだ。
  外観は、板の様な菱型の艦体に巨大な十字型砲身(クロスカノン)(1基4門)を上面へ搭載していた。このクロスカノンは、ガトリング砲の射撃構造を、ヘリコプターの様に回転しつつ主砲を放つという、どの国家を見ても例にない特異な方法を取っている。言い換えれば、ヘリコプターのローター1枚1枚が砲身になっているとでも言えば良いであろうか。
  艦の全長は400m前後と巨大な艦であり、菱型という面積と体積の多い艦体をしていた。その巨体故に、艦内は膨大なペイロードを有しており、その恩恵もあって多量の艦載機や揚陸艇を搭載していたのだ。一方で、それだけの巨体を持っていれば、敵に狙われやすく、装甲自体も薄い為、超長距離射撃以外の直接戦闘には参加できない。

「艦載機隊収容完了」
「よし。機甲部隊司令グデーリアス准将を呼び出せ」

  数秒の後、通信画面に出てきたのは屈強さを感じさせるSUS人だ。ヨルツェム攻略部隊を指揮する機甲部隊司令グデーリアス准将だ。多数の地上戦闘車輛を指揮下に置く他、地上戦艦なども有している。

『グデーリアス准将です』
「准将、貴官は直ちに上陸部隊を降下させ、敵の施設を一掃せよ」
『では、直ちに降下に移ります』
「ただし、市街地には絶対触れるなよ。人間どもに我らへの敵対心を募らせてはならん……抵抗したら殲滅もやむを得ないがな」
『承知しております』

  念を押すようにコニールは全部隊に厳重に命じた。それでも、世界の住民に敵対心を持たれたとしても、別に危惧することはない。ただ苦労をせずに資源を得られれば良いだけの話だ。反旗を翻した時は、遠慮のいらない爆弾の雨を見舞い、服従させるか絶滅させるかのどちらかである。総司令官ベルガーからも、直々に命じられている案件だ。
  機甲部隊を乗せているガズナ級〈レヴァール〉と〈グングール〉の両艦は、コニールの指示を受けて、艦載機に続き上陸部隊を満載した揚陸艇を降下させた。独創性の無い長方体の格納庫をぶら下げた様な50m級の小型揚陸艇が、艦後部の格納ハッチから飛び出すと、そのままヨルツェム地表へと向かう。ガズナ級1隻に付き、10隻程の小型揚陸艇搭載されている。その中に格納してある戦闘車輛は、凡そ40輌の規模を誇った。この搭載数で見た場合、全体陸上戦力は80輌とかなりの規模を持った部隊となる。
  降下していく揚陸艇を眺めやりつつも、コニールは次の指令を全部隊へ通達する。

「全艦、降下用意」
「降下……なさるのですか?」
「そうだ。妨害によって落とされる心配もないであろうが、念には念を入れておいてもよかろう」

  了解しました、と参謀が復唱する。彼は艦隊を衛星軌道上から降下させ、大気圏内へと突入を開始させた。そして、揚陸艇の着地までの間に、コニールは艦砲射撃をもう一度命じた。徹底した砲撃で地上施設を粉微塵にしたうえで、残敵を地上部隊で処理しようとしたのだ。
  再び開始された艦砲射撃と、揚陸艇部隊の様子は、辛うじて地上部隊本部の司令室からでも確認出来た。確認出来たのだが、それを防ぐことが叶わない。指を加えて見ている他なかった。艦砲射撃の嵐が施設を徹底して破壊していく最中、〈レヴァール〉と〈グングール〉も得意の遠距離砲撃で狙撃していく。十字型砲身が回転するので滑稽なものであるが、威力は絶大を誇り破壊の限りを尽くす。



「司令、我が施設の76%が壊滅しました!」
「おのれぇ……ガジェット部隊の稼働率はどれくらいだ!?」
「えぇっ……あの部隊を使うのですか!」

  オペレーターの1人が驚愕した様子でタンゼンを見返す。ガジェット部隊とは、時空管理局ミッドチルダ地上部隊本部の方針で開発・配備を進められた、飛行型ガジェットのことである。これは、ジェイル・スカリエッティ博士が開発したもので飛行可能なタイプのドローンU型を、時空管理局技術開発局が解析し、人手不足を補う為に生産したものだ。
  エイの様な外見を持つガジェットで、“フライ・ガジェット(Fガジェット)”と称される。配備されていたものの実践も経験していない。本当ならば最初に出しておくべき代物であったが、奇襲攻撃を受けた影響で、格納庫が被弾し半数近くのFガジェットが飛び立たぬままに瓦礫の下敷きとなった。残る半数も、その格納庫被弾の為に発進不能となっていたのだ。
  だが、状況がここまで悪化した今、どうこう言っている場合ではない。瓦礫の撤去も何とか終わった今、これらに期待する以外に道はなかった。

「そうだ、今使わずしていつ使うのだ。急げ、Fガジェット隊を起動させ、迎撃に当てるのだ!」

  外では半数以下に減った航空隊の魔導師達が奮戦しているが、再度の艦砲射撃の余波を受けたことによって悉く撃墜されていく。それも単なる撃墜ではない。本来なら魔法による攻撃で撃墜されるであろう。それに比べて今回は質量兵器や光化学兵器等の攻撃である。重傷で済めば良いものであるが、悪ければ即死なのだ。
  日頃の魔法戦闘とは比較にならない恐怖が魔導師達を襲い、直接に打ち込まれる弾丸に声にならない悲鳴を上げて落ちていく。その姿を見る魔導師がさらに戦意を損失していった。
  この悪循環を止めるべく、Fガジェット隊108機が緊急発進し、SUS艦隊への迎撃を開始した。
  SUSもこの無人兵器の出現に不意を突かれたものの、直ぐに態勢を整える。

「小賢しいな。艦載機隊は、あの小賢しい玩具を蹴散らせ」

  コニールの命令によってSUS戦闘機隊が立ちはだかると、たちまち激しいドッグ・ファイトが展開された。
  一方で機甲部隊を乗せた揚陸艇は、なるべく市街地の少ない平地に着陸すると、積載していた戦闘車輛の積荷を下し始める。
  その下されていく積荷の中身を、地上部隊本部のオペレーター達が唖然とした様子で見やっていた。スクリーンに映る異様な雰囲気を放つ戦闘車両の数々が、そこにあったのだ。

「SUSの陸上部隊、南東より接近して来ます。確認出来るのは、小型な物が凡そ70、大型な物は凡そ10!?」
「何という奴らだ……っ! ガジェット隊はどうした!」
「ガジェット部隊、SUSの機動兵器と交戦中ですが、劣勢の模様……既に4割が撃ち落されております!」

  魔導師達は、Fガジェットが作り出した時間のお蔭で、一旦後退出来たものの、彼らの戦力は4分の1にまで減っていた。もはや壊滅を意味しているのだが、撤退も出来ない。魔導師達も疲労困憊しており、精神的にも限界だ。
  その間にも、陸上から怒涛の勢いで迫りつつあるSUS機甲部隊を前に、タンゼン准将は次なる戦力を投入させた。Fガジェットと同系列で開発された無人兵器であり、スカリエッティが作り出した重装甲型のガジェットV型を再設計した“タンク・ガジェット(Tガジェット)”だ。
  直径4〜5m程の球体状をした本体に、格闘戦用の伸縮可能なホースの様なアームを6本備えている他、一応の魔砲も備えていた。残されて無事だったTガジェット37体を投入して、何とか防御しようと考えていたらしい。本来ならレーザーなどが装備されていたガジェット達だったが、管理局の法律に引っかかってしまう為に撤廃されている。
  当然だが、これはSUS相手には負に働くだけであり、結果はいとも簡単に出て来た。
  Tガジェットが障壁を展開しつつ4本のアームで歩き、とんでもない数のSUS機甲部隊へと進撃を開始する。それに呼応して、出撃可能な魔導師達も上空から、地上から援護する形を取った。
  迫り来るSUS機甲部隊の戦闘車輛は、やはり無個性な感じのデザインであった。

「まるで箱を乗せた様な外観だが、あれが主力戦車か?」

  戦車と思しき車両を“自走戦車プートゥン”と言った。足回りは無限軌道(キャタピラ)を採用し、車体の全長が15m程もあった。それを上回る長さ17m程の長方体が3つ、同程度の長さの円柱が2つ、これらがサンドイッチの様に互いを挟み込んだ状態で乗っている。2つの円柱後部には、発電機の様な物がくっ付いていた。
  もう1つは、“対空戦車ソトゥータス”と言った。車体規格こそプートゥンと同じだが、車体上部にあるものはまるで違う。マウントボール型の大型砲塔を載せ、その砲塔から伸びる2本の銃身らしきものがある。また、その車体後部には、ミサイル発射機らしい箱形の物体が固定されて置いてあった。
  取り分け、タンゼンを精神的にも圧倒したのは、巨大な戦闘車輛だ。

「なんだ、あの巨体は……!」

  そして司令塔を乗せた様な大型戦車が地上戦艦アフキン・チェル級だ。全長と横幅が共に19m近くある巨体で、その横幅ゆえなのか、キャタピラが片側2本づつの計4本も存在している。銅鐸の様な司令塔を、平たい側を側面にして車体に乗せている為に、真正面から見ると“T”を逆さにした“⊥”に見える。車体真正面(左右のキャタピラの間部分)に、単装型の大口径砲1門が備えられており、車体の各箇所にも死角を防ぐべく単装型の副砲塔が多数備え付けられていた。
  機甲部隊旗艦アフキン・チェル級〈グデール〉の艦橋にて、指揮席に座るグデーリアス准将は、迎撃に出てくる時空管理局地上部隊に対して呆れていた。

「管理局の奴ら、まだ刃向うか。懲りないな」

  ただし、その方がやりがいがあるし、降下された意味合いもあるというものだ。心内で呟きながら、彼は全車に砲撃用意を命じる。

「正面2500mに管理局施設の外壁を確認」
「その外壁づたいに、多脚戦車らしき物を37体を確認」

  地上本部施設外の一部環境は森林ではなく草原だ。被害を及ばさ無い為に、敢えてその方面へと降下したSUS機甲隊であるが、同時にそれは相手からの奇襲戦法を無くすことにもなる。グデーリアスは、部隊の進行速度をより早めると、施設への進行速度に拍車をかけた。まだ応戦もしていないまま残り1qへ迫ると、そこでついにTガジェット隊が動き出した。

「敵が動き始めました」
「無駄な事だ。前衛部隊、砲撃始めぇ!」

  上空からの攻撃に気を付けつつも、前衛部隊はTガジェット隊へ砲撃を始める。36両程の戦車の大きな固定砲門から赤いビームが放たれると、それらは一気にTガジェット隊へと着弾した。舞い上がる大量の土の量に、局員は敵の物量と破壊力の恐ろしさを感じたほどだ。
  だがTガジェット隊は依然として健在していた。どうやら持ち前の障壁と機動性で射線をそらした様である。
  それを見たグデーリアスは、ますます戦闘意欲を掻き立てられた。

「なんだ、意外に管理局にも随分立派な機械兵がいたものだ。もなかなかやるじゃないか」

  と感想を漏らした――オペレーターが驚きの声を上げたのは、その時だった。
  1人のオペレーターが戦況画面の変化を察知し、グデーリアスへと報告したのである。

「司令、我が部隊から2時方向、高エネルギーを感知……敵の魔法攻撃の可能性大!」
「何んだと?」

  問い返そうとした瞬間、その方角より強力なエネルギーが飛んで来たではないか。その砲撃により、右舷に展開していた戦車隊の車輛2台が完全破壊され、1台が大破してしまった。

「一体何が起きたのだ」

  それは、砲撃魔法に特化した高ランク魔導師達による、懸命な待ち伏せ砲撃によるものであった。魔導師は、単に攻撃に特化している訳ではない。中には、光学迷彩を使うように、周りの景色と同化してやり過ごすことを可能とした魔導師や、治療に特化した魔導師、召喚獣を行う魔導師も存在する。たった今の攻撃は、迷彩と砲撃、それぞれの魔導師が協力し合って行われたものであった。コンビネーションは良いであろうが、如何せん戦力の不足が目に立つ。

「どうやら敵は、カモフラージュでやり過ごしていた模様です」
「やってくれるな。だがそんな事では止められんぞ。右舷大隊、2時方向へ転進し、蹴散らせ!」

  正面の大型兵器は陽動であると察したが、自軍と相手兵力の差から言って大して意味はない。進路に障害物があればそれを粉砕する――それが彼の戦術だった。砲撃魔導師達も、SUS機甲部隊の対応に動揺してしまい、次なる砲撃を行おうとするものの、時間が間に合わない。強力な砲撃を行おうとすればする程、その為に魔力集中時間を要するからだ。
  第2撃目を放とうとするも、それはSUS戦車隊の砲撃の前に潰え去った。魔法防御で防御で防ごうとする者もいたが、それもビーム砲の圧倒的圧力の前に崩壊し、消滅する。
  時空管理局魔導師の要撃部隊を早々に撃破する一方で、真正面の壁役となっているTガジェット隊へ一斉砲撃を開始した。次々と降り注ぐビームの嵐を前にして、Tガジェットは次第に障壁展開力を失い、突進を開始するもののSUS機甲部隊へ辿り着くことなくして破壊されていった。

「Tガジェット隊、壊滅!」
「要撃部隊も応答ありません、全滅の模様!」
「Fガジェット隊も全滅!」

  ここを守る手立ては全て尽きた。転送ポートも使用が不可能とされ、脱出する術もない。次元世界の平和を唱え続け、安全を守ってきた我ら管理局がこうも惨敗するものか。タンゼンは己の無力さを呪うと同時に、時空管理局の惨敗に信じがたい様子であった。
  SUS機甲部隊は、施設外延の外壁を踏み潰し、本部へと前進して来るのが映される。

「ここまでかっ……総員ここから退避せよ、急げぇ!」

  最初の砲撃や爆撃の影響で崩れかかる天井に気を付けつつ、残る局員は急ぎ退避を始めた。
  だが、そんな事をさせる程、グデーリアスもお人好しではない。SUS機甲部隊の戦車隊から、止めの一撃と言える一斉砲撃が開始されたのだ。

「敵の司令部に向け、一斉掃射!」

  アフキン・チェル級戦艦の大口径砲、自走戦車プートゥンの主砲、これら砲撃を前に、本部は瞬く間に木端微塵となっていく。
  退避しようとする局員達は破壊の余波に巻き込まれ、瓦礫に埋もれてしまうのが大多数だった。最後まで残ったタンゼンもまた、悔しさを噛み締めながら司令室のスクリーンを眺めやる。

「SUSゥ――!!」

  歯ぎしりしながら、呪い殺さんとする程に怒気を含めて呟いた。
  無常にも、スクリーン一杯に映されたSUS戦車隊の赤い発光群が、彼の見た最後の光景となってしまった……。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。
このたびは東海大地震で被災された方々へと、哀悼の意を表します。
当小説やシルフェニアをご愛用なされた方々で被災者がおられ無いこと祈りつつ、被災地の早い復興を願います……。

さて、前回に引き続き今回も戦闘シーンが大半を占めましたが、どうでしたでしょうか?
艦隊戦ではなく陸上戦(空中戦)が主体だったわけですが……あまりいい描写にならなかったあぁ、と思ってます(汗)
そして本話で登場しました<ガズナ>級多用途艦ですが、先日のオリジナル艦<ファランクス>を提案して頂きました、フェリ様からのご提案でした!
残念ながらフェリ様の提案をそのままそっくりという訳にはいきませんでしたが……(申し訳ないです!)
次回の投稿もなるべく早くしようと思います。では、皆様、これにて失礼します!


拍手別リンクより〜
[20]投稿日:2011年03月11日20:7:24 HAL [拍手元リンク]
始めまして。いつも楽しませていただいております。アムルタートが1体どこに転移するのかが気になるところですが、これからも頑張って下さい。
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>>HALさん、書き込みありがとうございます!
そうですねぇ<アムルタート>がどこへ転移するか……いまだ検討中ですw

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[22]投稿日:2011年03月12日22:30:40 EF12 1 [拍手元リンク]
案の定というか、戦闘は1方的虐殺となりましたね。
管理局とすれば、ますます地球艦隊の力を借りなければならなくなりましたが、素直に頭を下げることができるのやら…。
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>>毎度書き込みありがとうございます!
じつはこんな戦闘描写をかきt(自重w)管理局がどの様に地球艦隊へ頼み込むのか、考えものですw
私のそちらの小説の展開に期待しております!

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[23]投稿日:2011年03月14日13:2:51 [拍手元リンク]
どこに住んでいるかは存じませんが、地震の被害は大丈夫でしょうか?
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>>ご心配して頂きありがとうございます!
私はこのとおり(どの通りなんだw)元気ですよ!



・2020年4月10日改訂



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