「各員、全システム機構の最終チェック!」
「「了解!」」

  先日に行われた元機動六課メンバーによる模擬戦闘の催しが終わり、凡そ二日後の事だ。地球艦隊の旗艦として役割を担い続けている〈シヴァ〉艦橋内では、出港を目前にしてマルセフからの最終チェック命令が飛ばされ、第二艦橋メンバーは復唱した。
戦闘艦の艦橋は各システムを統括するための司令塔であるが、その下には分岐するようにして各分担部が存在している。戦闘部、航行部、機関部、情報処理部等といった具合だ。
  航行班長レノルド、戦術長ジェリクソン、通信長テラー、機関長パーヴィス、技術長ハッケネン、主に彼らが部下たちへ報告するように命じる。
その様子をマルセフとコレム、そして退院したばかりのラーダーが眺め見守っている。

『こちら機関室、波動エンジンに異常を認めず!』
『こちら第一艦橋、戦闘管理システムに異常を認めず!』
『こちら第三艦橋、レーダー索敵システムに異常を認めず!』
『こちら第四艦橋、亜空間航行システム、及びECIシステムに異常を認めず!』
「航行管理システムに異常を認めず!」
「司令、全管理システムに異常ありません、出港準備完了しました!」

第二艦橋以外の各部から続々と問題なし、との報告が入る。最終的には第二艦橋の各長の報告で完了する事になっており、技術班からの異常なしの報告で最後となった。
  だが、ここで問題がなくともこの先で生じる可能性は否定出来ない。特に装甲板を取り換えた部分と、新たに設置された次元転移装置の事だ。
前者は実戦になってみなければ全く分からないであろうし、後者に至ってはこれからの訓練で試すしかなかないのだ。
全てのシステム機構に異常がない事を確認すると、マルセフは次の命令を放った。

「よし。他艦の状況はどうか?」
「ハッ、全艦出港準備完了! 管理局艦隊も出港準備が完了した模様です」

  通信長のテラーが上官の問いに答え、それを聞いたマルセフは満足そうに頷いた。今度は同行するであろう管理局艦隊の様子を聞く。
どうやら管理局艦隊も同時刻に出港準備を完了させたとの事であった。それを聞いたマルセフはまたもや満足そうに頷いた。
単なる治安組織にしても、出港準備で手間取っていたのなら、それを大いに直してやろうではないかと思っていたらしい。
  いよいよ発進の時である。その様子を実は別の者が二人程、第一艦橋の後方で緊張した様子で眺めやっていた。派遣局員として乗艦して来たフェイトとシャーリーの二名だ。
乗艦して来たのは遂、一時間前の事。二人とも初めて地球防衛軍(E・D・F)の軍艦に乗るという事もあって、この後にどんな光景が映し出されるのであろうかと緊張していた。

(さすがに発進シークエンスが早い……私達の艦隊も遅れをとらなければいいけど……)

心内でフェイトは呟いた。前回の模擬戦は魔導師しか参加していなかったが、今回は防衛軍と管理局の合同訓練だ。防衛軍の出港準備の素早さと緊張感に彼女はやや圧倒された。
隣にいるシャリオも同様だ。以前に見ていたコレム、マルセフの表情も、軍人のそれであったのだ。常に生命を守ろうとしてきた故の心持であろうか、とさえ思ってしまった。
最初、この艦に乗艦した時は圧倒された気分だった。次元航行艦をも上回る戦闘艦の艦内の広さは無論の事、乗組員からも情熱の様な雰囲気を当てられていたためだ。
  一方、フェイト達が乗る〈シヴァ〉とは別の〈ミカサ〉では、担当者となったはやて、グリフィスの二名が乗艦していた。

「艦長、本艦の出港準備が完了致しました」
「よろしい。後はマルセフ提督からの指示があり次第、前進出来るように待機だ」
「了解しました」

六〇代に到達している老練な艦長と、病的な白い肌をした女性副長の様子を見ている派遣組二人。初めて乗るはやては、〈ミカサ〉の威容を艦内からも感じ取っているようである。
僅かばかりに艦長と話を交えたのだが、聞くところによれば〈ミカサ〉は凡そ一七年以上も前に建造された戦艦であるという。だが、彼女らの見るところではそう感じない。
寧ろ新鋭艦として見えるのは何故であろうか、とさえ思ってしまった。確かにこの艦は、他の艦とは違って重厚さを感じられているものの、老朽艦には全く思えない整備ぶりだ。
  艦橋も極めて広々とした方であり、〈XV〉級にやや劣るくらいの広さだった。艦長席は艦橋内部を見渡せるように、やや高めの位置でベランダの様に突き出している。
建造当初の艦長席というのは、座席の他に周りを囲むようにして三つの薄い操作パネルとディスプレイがあるのみで、極めて簡素的なものである。
しかし後日になり、この設計に少々の不安な声が寄せられた。見渡せるのは良いが、艦長の位置が高い事と激しい揺れに襲われた場合、転落死してしまう可能性が挙がった事だ。
そのため、艦長席と操作パネル以外にも転落防止の手すりが設けられ始めたのである。
 
(凄い、これが地球の戦闘艦内部なのか)

  薄い紫色の髪に、アンダーフレームの眼鏡をかけた青年士官グリフィス・ロウラン陸准尉は、初めて目にした地球戦闘艦の内部を前にして感嘆としていた。
管理局の艦とは性能を圧倒的に引き離していると言う、違う世界の地球が造り上げた戦闘艦。陸上部隊のグリフィスであるが、この様な艦を見て戦慄した事がある。
〈シヴァ〉には見劣りするも、堅牢さを表す重厚なデザインと武装の数々。外見からして次元航行艦は見劣りし、そして実際の性能でさえも劣っている事が明らかになった。
  青年士官の思考はしばらく混乱している状態が続いている。管理局の上層部――特に強硬派の者は、一度この艦に乗ってみるべきであろう。さすれば、夢が覚める筈だ。
艦を指揮したことのない、或いは指揮する事のないグリフィスはそう思った。そして〈ミカサ〉を指揮している老練な艦長と若き副長を初めて見たときも雰囲気からして違った。
管理局の老練な手腕を持っている人物と言えば、あの伝説の三提督以外には数名いるかどうかであろう。これ程までに死線を潜り抜けた軍人は類を見なかったのだ。

(……はやてちゃん)
(なんや、リィン?)

  不意にリィンフォースUが念話ではやてに語りかけてきた。一体何事かと念話で返すと、小さきユニゾン・デバイスは先ほどから感じている不思議な魔力の様なものを言った。
この事に、はやては気づいていない訳ではなかった。〈ミカサ〉へ乗艦した時から感じているが魔力と言うにはやや違ったもので、それにその力自体も強い訳ではない。
深く詮索するのも後に面倒な事へ発展しそうだと思い、口にはせずに心の中にしまっておいたのだ。だがリィンフォースUがどうしても気になってしまうらしい。

(その事やったら、気付いてるで。しかし、魔力っちゅうには違うものや)
(確かにそうなんですが……。あの人から感じるですよ)
(そやね。艦橋に入った時に確信したけど、あの目方中佐から感じるわ)

艦内を案内したのはこの艦のクルーであった。そのため誰が魔力らしい者を持っているか算定出来なかったが、艦橋に入るなりそれが明るみになった。基は目方である。
まさか別の地球の人間で、魔力じみた力を持った者と会うとは想定外だ。はやてらが反応するのと同時に、目方は別の方で、はやてらに違和感を感じつつあった。

(……なんなのかしら、あの娘に何かが憑いている)

普段から生霊や憑き物を視たりする目方。彼女の中に流れる先祖代々の巫女の血が、目に視える霊らしきものを捕らえていた。無論、はやて本人はその霊に気付いていない。
  特に悪い行いをする様な霊ではないようである事が感じ取れる。ただ単に、はやての後ろに憑いているようだ。そう、まるで、その娘を見守るかのような視線と想いである。
目方に視えているという霊らしきものの外見は、この世界特有であろうかと思えた。容貌が二〇代で、水色っぽい白銀のロングヘアーに、赤い瞳、黒い袖なしシャツの様なものに、同じく黒い短めのタイトスカートの様なものを身に着けている女性だ。
  髪の色と容貌からして、はやて二佐の傍らにいるリインフォースUという小さな式神(目方の呼称)に似ている気がする。
何か関係がありそうだが、今切り出して聞く話でもないであろうと思いとどまった。チラりと、はやてのいる方へ目線を向ける目方に気づいた東郷は、小声で副長に聞いてみた。

「副長、あの八神二佐に、何か憑いているのかね?」
「はい。悪霊ではないのですが……」
「そりゃあれだな。守護霊みたいなものであろう」
「守護霊……そうかもしれないです。後に機会があれば聞いてみます」

その方が良いだろう、と東郷が言う。最後にまた視線をはやて側――女性霊らしきものへ向けた時だ。女性霊が目方に気づいたらしく、顔を彼女へ向けてきたではないか。
  だがその表情に敵意はなく。寧ろ微笑ましげに自分を見たのだ。これが何を意味しているのか巫女としての血が敏感に察したのである。

(この娘を守ってほしいということですか?)

多くをここで聞くわけにもいかず、彼女はその女性霊に静かに微笑みを向けることで返事とすることにした。その微笑みの表情を、丁度はやてはチラッと見た。
見た瞬間、彼女は何故、自分らへ向けて微笑みを向けているのかが理解出来なかった。目方が微笑んだ時のタイミングがたまたま重なってしまっただけなのだが、これに何か意味があるのかとはやては勘違いした。

(な、何や? 何で目方中佐がウチらを見て微笑ましい表情してん!?)
(あれは、きっと何かあるですよ、はやてちゃん……!)

あの笑みをどう理解すれば良いのか、しばらくの間、無駄に思考を迷走させるはやてとリィンフォースU。





  こちらはティアナとマリエルの派遣先である〈ファランクス〉だった。一風変わった戦いを視れるチャンスを得たティアナは、内心で高揚している。
そして防衛軍の戦闘を間近で観察する事で、管理局にも対応させようとするマリエルも、千載一遇のチャンスだと言わんばかりに、高揚していた。
また、事前にリンディから見せてもらった資料の人物にも、目線が自然と言ってしまう。人間とは違う頭以外は全身サイボーグの人物――レーグを間近で見れたのだ。
  注目されている当人は、その視線に気付いた。そちらへ視線を向ければ、派遣されて来たと言う女性二人がいるではないか。やはり、自分は珍しいのだろうかと思ってしまう。

(私はそんなに珍しいのだろうか……?)
(この人がレーグ少佐。異星人ではあるんだろうけど、どこか嫌悪感は感じられない)
(彼が機械国家(デザリアム)の生き残りね。技術者同士、腹を割って話し合いたいわね)

三者三様といった感じで、それぞれが独白した。ティアナは彼のどこからか分からないが、信頼させるような雰囲気を感じていた一方で、マリエルは技術者らしい事を思う。
  艦長席に座るスタッカートは、三人の様子に気が付いた。どこか物珍しそうに見ている二人の女性に、レーグは気まずそうな表情で作業していた。
これでは作業しづらいだろう。そう思った彼女は、二人の派遣員に声をかけた。

「ランスター一等陸士、マリエル技術主任」
「え、あ、はい!」

視線をレーグに向けていたため、横からの呼びかけに驚いて返事をしてしまったティアナ。マリエルもそちらを向けると、やや困った表情のスタッカートが伺えた。

「あまり副長を見つめないで上げてくださいね。彼、こう見えても恥ずかしがり屋なんですから」
「あ、すっすみません! けっしてそんな訳ではっ……!」
「そうです、ただ私は話をしてみたいと思いまして……」
(艦長、恥ずかしがり屋って……)

初な青年が如くと、スタッカートはレーグの緊張感を解いてやった。ティアナは慌てて弁解がましく言うのに対して、マリエルは本心を告げてスタッカートに訳を言う。
スタッカートは決して怒っている訳ではない。ただその困った表情をしたために、相手方が相当に慌てたのであろう。その慌てぶり――特にティアナに艦長は愛嬌を感じた。

「分かって頂ければ、それで十分ですよ。それに、話をしたいと言うのであれば、後に時間を取らせますからね」
(何だろう……この、すっごく慈愛に満ちた笑みは)

観音菩薩の様な目方とは違う、母性的な印象を与えるスタッカートの笑みにティアナは思わずホッとすると共に心を奪われそうになった。決して同性愛という意味ではない……。
  一方のレーグと言えば、艦長からの時間を取ると言う宣言にハッとなった。あまり勝手に決められても私が困るのだが、と内心で彼は呟いていた。
マリエルに至っては、スタッカートの口から出た約束に心が躍るような気分に掻き立てられた。初めて会話するであろう異星人を相手に、互いの技術知識の交換が出来ればどれ程に後の発展に繋がってくれるのだろうか。
乙女の想像とは違う想像を絶やさなかった。余談ではあるが、彼女らが地球艦隊へ派遣されると知った時、異常に反応を示した人物がいた。
言わなずとも予想出来る人物、それがカンピオーニ大佐その人であった。
  凡そ一日前の事である。戦艦〈リットリオ〉の艦橋でカンピオーニが、派遣局員の話を聞いた時……。

「何っ!? あの美人組が派遣されてくると言うのかっ!!」

と、色男の欲望をそのままにしたような反応を示したと言う。是非、我が艦にご招待を! とマルセフに迫ろうとしたらいいが、それは副長の活躍で阻止される結果となった。
次いで正式に派遣先が決まっている事と、その内容を知るや否や……。

「なっ……何という事だ。男は兎も角、美人が一人も来ないなんて! 抗議するべきだ!!」
「……艦長、ちょっとよろしいですか?」
「さぁ、エミー! 通信の用意だ! いや、直接に赴いて変更を願おうではないか!!」
「……」

  彼女にとって、何かと癪に触るようなカンピオー二の発言。この〈リットリオ〉にも、れっきとした女性兵士が乗っているのに、彼にはまるで眼中には無いような事を言う。
決して彼女自身が美貌を自画自賛する様な訳ではないのだが、そう、何か釈然としなかった。所謂、嫉妬という感情に近かったかもしれないが、取り敢えず落ち着きのない艦長を黙らせるために強硬手段に出た。
士官用ジャケットのベルト右腰に吊り下げられているホルスターから、コスモガンを取り出してパラライザー・モードへ設定すると、さりげなく向けられた。
女性の必要性に熱弁がましく叫ぶカンピオーニであったが、殺気を向けて来るクリスティアーノに気づかされた。

「お、おい、エミー! なんだそのコスモガンは!?」
「安心してください、最低限の出力に設定しましたから。一時間くらいは動けないでしょうが……」
「サラッと笑顔で言わんでくれ、しかも答えになっとらんぞ! だが、それくらいで屈してなる物か! おい、お前らも何か言ったらどうだ!?」

  狼狽したり男前になったりと忙しい男である。しかも内心では、嫉妬深いエミーも素敵だな! 等と考えている辺り、さすがはイタリアンだ。
女性に対する愛情や執着は他民族を圧倒していると言えるだろうが、声を掛けられた艦橋のクルー達はというと……。

「申し訳ないですが、艦長ご自身が何とかするべきかと……」
「いや、艦長の言う事も最もです! 女性のためなら、どこへでも行って見せますよ!!」

随分と温度差が目立つクルー達だった。ある者は興味関心をひかれず、ある者は艦長に同意する。これに呆れるを通り越すクリスティアーノは、さり気なく銃の出力を弄る。
  何とパラライザー・モードならぬ完全な殺傷設定となっているではないか。それに気づいたクルー達は、先程までの意見をひっくり返し、あっさりと艦長を見捨てた。
カンピオーニもさすがにこれ以上、彼女を怒らせてしまっては身が危ないと察した。ましてや、先日は彼女の華麗なる鳩尾への一撃をプレゼントされたばかりなのだ。

「わ、悪かった! エミー、戯言は言わんからそのコスモガンを下げてくれ!!」
「……本当にお分かり頂けたのですね?」
「あぁ!」
「ならば次からは、管理局の女性にうつつを抜かすようなことはやめてくださいね?」

整然とコスモガンをホルスターに収めるクリスティアーノ。カンピオーニも冷や汗ものだったらしく、額に汗が滲んでいるのがわかる。しかしイタリア人は怯まない。
再び内心では、必ずあの美人たちを誘って見せる! と意気揚々だったりしている。兎も角、今は副長のご機嫌を直さねばどうなるかしれた事ではないのだ。





  地球艦隊の停泊しているドックの隣には、次元航行部隊の艦隊が纏まって停泊している。今回の合同訓練に参加するために動員されたのは、本部所属の凡そ半数の一二〇隻。
全艦で二三〇隻程ではあったが、何しろいつ来襲するかわからないSUSの存在を考慮しなければならない。まさかがら空きで全艦を訓練に駆り出すわけにもいかなかったのだ。
そして、この問題に地球艦隊も注視しており、管理局艦隊を半分残すだけでは不安だった。そこで地球艦隊も同様に半数程の戦力を残すことで、管理局も合意したのである。
ただ留守番だと言って本部のドックで時間を貪る訳にはいかない。そこで趣向を変え、遠出に訓練を行う集団と、本部周辺で訓練する集団に再編させた。
これならば、居残り組としても港内から出た状態で訓練でき、なおかつ襲撃にも早期の対応を可能とするのだ。
  遠出に訓練しに行く地球防衛軍と次元航行部隊の陣容は、以下の通りである。


遠征艦隊――

・地球艦隊、旗艦〈シヴァ〉以下、二〇隻(司令官、フュアリス・マルセフ中将)――
 〈ブルーノア〉級戦闘空母……〈シヴァ〉、一隻
 〈スーパーアンドロメダ〉級戦艦……〈ヘルゴラント〉、一隻
 〈ドレッドノート〉級戦艦……〈ブルターニュ〉〈イェロギオフ・アヴェロフ〉、二隻
 〈最上〉級巡洋艦、六隻
 〈ファランクス〉級装甲巡洋艦……〈ファランクス〉、一隻
 〈フレッチャー〉級駆逐艦、一〇隻

・次元航行部隊、旗艦〈ラティノイア〉以下、一一九隻(司令官、クラーク・ベルステル・オズヴェルト少将)――
 〈SX〉級次元航行艦……〈ラティノイア〉、一隻
 〈XV〉級次元航行艦、一六隻
 〈L〉級次元航行艦、四二隻
 〈LS〉級次元航行艦、六〇隻


近海艦隊――
・地球艦隊、旗艦〈ミカサ〉以下、二一隻(司令官、東郷 龍一少将)――
 〈春蘭〉級戦艦……〈ミカサ〉、一隻
 〈スーパーアンドロメダ〉級戦艦……〈アガメムノン〉、一隻
 〈ドレッドノート〉級戦艦……〈リットリオ〉〈エスパーニャ〉〈榛名(ハルナ)〉、三隻
 〈インディペンデンス〉級戦闘空母……〈イラストリアス〉、一隻
 〈最上〉級巡洋艦、七隻
 〈フレッチャー〉級駆逐艦……九隻

・次元航行部隊、旗艦〈クラウディア〉以下、一〇九隻(司令官、クロノ・ハラオウン准将)――
 〈XV〉級次元航行艦、一四隻
 〈L〉級次元航行艦、三二隻
 〈LS〉級次元航行艦、六三隻


近隣訓練集団の指揮官として東郷を選んだのは、彼が次席司令官という立場もあるが、指揮官として有能であり高い信頼を寄せているためだ。だから抜粋したのである。
  そして肝心の次元航行部隊は、遠出集団旗艦〈ラティノイア〉を中心とする一二〇隻となる。
指揮官は本部直属艦隊司令であり、〈ラティノイア〉艦長を兼任するクラーク・(ベルステル)・オズヴェルト少将である。
一方の近隣訓練集団には、クロノが指揮を執る〈クラウディア〉を中心に一一〇隻であり、指揮官はクロノが取る事になっていた。
両指揮官共に理解の深い司令官として名を馳せており、管理局側にしても安心して訓練の部隊を任せる事の出来る人材として選んだ。だが任された本人の負担も大きかった。

「提督、〈シヴァ〉より返信!」
「読んでくれ」

  オズヴェルト少将は四〇歳に入ったばかりの提督である。灰色っぽい白の髪、薄い顎鬚を生やした中肉中背の体躯をしているその人は、通信士からの読み上げを待った。

「『全艦隊は出港準備を完了された。貴艦隊は出向し、予定の転移ポイントへ進むべし。』――以上です!」
「そうか。これより、全艦出港する! 本艦より順次出港せよ!」
「了解!」

総旗艦にして第一艦隊旗艦である〈ラティノイア〉は、テスト航海以来の出港となる。乗組員達もそれ相応の訓練を受けた者達であるが、何よりも実際経験に乏しい者ばかりだ。
出港のプロセス、航行の普通運用に関しては何も問題は無いのだが、この後に行われる実践レベルでの合同訓練では不安要素をたんまりと抱え込んでいる状態であった。
艦長と司令官を兼任するオズヴェルトは、地球艦隊との合同訓練でどの様な結果を見せる事になるのであろうか、と心配でたまらない様子である。その度にため息が出てしまう。
  魔動炉の出力が上がり、やがて〈ラティノイア〉は牽引アームより、艦体を離していく。三〇〇メートルを超す管理局最大の次元航行艦は、やがてドックを出ていく。
広大な次元空間へと侵入すると、それに従うかのようにして後続の艦船が次々とドックの出入り口から姿を現す。全てが出港したのを確認すると、隊列を組みなおしつつも予定の転移ポイントへと艦隊を進めてい入った。

「全艦、転移準備!」
「了解。全艦、転移準備、急げ!」
「転移先、第四三無人世界、ポイントB‐A・113!」

艦長の指示に従い、転移先のデータを入力していくクルー。操作卓(コンソール)に打ち込んでいき、従来のデータと不一致ではない事を確認する。
  先行する管理局艦隊に続いて、〈シヴァ〉率いる艦隊も続々と出撃していく。港湾を出るなり直ぐに隊列を組みなおしながら前進し、あっという間に管理局艦隊に追いついた。
転移する時は管理局も一緒になる様に指示されており、それは地球艦隊側の転移データと管理局の転移データを完全に一致させる意味も持ち合わせていた。
何しろ地球艦隊乗組員からすれば初めて扱う代物だ。管理局側のサポートもなくして、単独転移するほどに自信は無く、時空の迷子にならぬようにするためにも足を揃えたかった。
  無論、地球艦隊に同乗しているはやて、フェイトらも確認する事になっている。

「艦長、管理局艦隊と合流完了しました」
「よし。これより、全艦をもって訓練先である第四三無人管理世界へと転移する! 座標の最終チェックをしっかり頼むぞ」
「テスタロッサ一尉、シャリオ一等陸士、御二方からも座標の確認をお願いする」
「了解しました」

航海帳のレノルドが合流完了を告げると、マルセフは全艦に転移の最終チェックを命じた。一方でコレムはフェイトとシャリオにもデータの再チェックを要請する。
主にオペレーターとしての仕事が主であったシャリオが、特別に設けられた航海補佐席にてコンソールを操作する。
  画面に表示された番号との照らし合わせを行い、問題なしと表示されると同時に他艦からの転移データも纏めて最終チェックを重ねて行われた。念には念を入れているようだ。
地球艦隊自体の座標が正しいと判断されると、〈シヴァ〉が〈ラティノイア〉とデータリンクして、同じかどうかを確認する。面倒な手続きだが、最初だから仕方がなかった。

「大丈夫です。全艦艇の座標データに不備は認められません」
「ご苦労、シャリオ一等陸士。これから転移の秒読みに入る! 転移を三〇秒後にセット!」

〈シヴァ〉で調整された転移の秒読みに合わせている。やがて時間になると一斉に管理局、地球艦隊の双方がその場から姿を消した。その光景は本局からでも見る事が出来た。





  湾口内部を眺めやる事が出来るフロアの一番広い場所に、大勢の管理局員達の姿を捉える事が出来る。一番広いフロアに備え付けられている大型スクリーンに映されている両艦隊が出港していく姿を誰もが皆、航海の無事を祈りつつ見送っていたのだ。
その中には先日の模擬戦で来ていたなのは、シグナム等を始めとするメンバーもおり、他にも高級士官が幾人かが確認出来る。リンディとレティもその中の一人だった。
二人とも自分の子を乗せた地球艦隊をやや心配そうに、眺めやっている。ただレティに至っては、息子のグリフィスは近隣周辺訓練部隊にいるため、左程に心配はしていなかった。
  そして二人は地球艦隊に対して不穏を抱いている訳ではないが、やはり完全に安心とはいかなかった様子である。

「行ったわね」
「えぇ」
「ご心配ですか? リンディ提督」

  傍にいた元機動六課メンバーのシグナムがリンディに声をかけた。リンディは烈火の将に対して、そうだと頷いてみせる。レティも表情には出していないであろうが心配なのだ。
そしてその心配は、なのは、シグナム等も同様だった。友人、後輩、それぞれの関係であるが元メンバーとしては心配せずにはいられなかった。
ディスプレイから姿を消す艦隊を見送った後、今度は近隣訓練部隊の番だった。

「はやてちゃん達の番……」
「案ずる事は無いだろう。クロノ提督が訓練に同行しているのだ。それに、東郷提督も筋の通った御仁。主はやて、グリフィスを守ると固く約束してくれたのだ」
「そうですよ、なのはさん。フェイトさん達にも、マルセフ提督がついているんです」

  そうだね、と心配を察してくれる後輩と戦友に笑みを向けて応える。派遣された彼女らは、決して害される訳ではない。ましてや、リンディと直接にマルセフは約束したのだ。
必ずはやて達の生命を守ってくれると。今までに見て来たなのはも、マルセフが簡単に手のひらを返すような人物とは見ていなかった。偽りを述べることは無いだろう、と。
それでも、どこか不安感が抜け切れないなのはであった。
  一方で〈クラウディア〉艦橋では、クロノがいつもより高揚したような声を出していた。

「提督、我が艦隊は当初の予定ポイントへ到達いたします」
「分かった。全艦、これより本艦隊は地球艦隊と合同訓練に突入する事となる。決して気を抜くな、駄目だしが幾ら出ようとも、SUSと対当出来るまでに力を高めるんだ!」

気合い入れて行くぞ! とクロノは訓練前に艦隊を一斉に鼓舞した。たかが訓練ではないか、とたかを括るほどに彼は甘くは無い。寧ろ必死にならなければ、こちらがやられる。
艦隊戦闘のノウハウなど無きに等しい管理局艦隊が、東郷からどんな辛辣な評価を下されようとも、その悔しさを力と向上に繋げていかねば、明日は無いと思うくらいであった。
  この通信は地球艦隊の〈ミカサ〉にも入っており、これを聞いた東郷は思わず苦笑し、はやてらはクロノの決意の強さを感じ取っていた。

「……クロノ・ハラオウン提督の意気込み、確と聞き入れた。ならば、こちらも全力で相手してしんぜようではないか」
(クロノ君の意識の強さは感じ取ったんやけど、東郷提督もかなりスパルタ指導が入りそうやな……これは)
(クロノ提督は兎も角、艦隊乗組員はついて来れるのか? まぁ、僕としてもこれからのためには、しっかりと見させてもらわなければ!)

  随分と生きのいい若者だ、と言わんばかりの苦笑と期待の笑みを浮かべる東郷。あのリンディ・ハラオウン提督の息子とはいえ、この訓練の結果は生死に繋がる事なのだ。
高度な艦隊運用と戦闘を高望みする訳にはいかないだろうが、これからの成長ぶりに大いに期待しようではないか。内心でそう呟く東郷に、目方が報告する。

「艦長、予定ポイントへ到達しました。」
「うむ。これより、合同訓練を開始する。よいか、気合いを入れていくぞ!!」
「「おぉーっ!!」」

艦隊の式は十分に高かった。同じ艦橋に居るはやて、リィンフォースU、グリフィスも、管理局局員達とは違った熱気に圧倒された。さすが、戦争慣れした軍隊だとも思った。
そして予定通りに訓練は開始されるのだが、予定というのはどこまでも確定化させるには至らないという事を教えられるのである……。



〜〜あとがき〜〜
どうも、凡そ一週間ぶりの更新となりました、第三惑星人です。
近頃は急に気温が上がって戸惑っております。そして、暑い!!(室内が三〇度いったw)しかも不気味な夢を見た!!(本作で陰陽師じみたものを出すからかな?)
体調管理には気を付けましょう、皆様。
さて、前回は本回で訓練模様を描写すると言いつつも、そうはなれず(泣)、誠に面目ない次第。
次回こそ、必ずや訓練模様を描写させていただきますので、お待ちください!

拍手リンクより〜
[三七]投稿日:二〇一一年〇五月一三日一二:一六:四六 EF一二 一
更新乙であります!(笑)
イタリアコンビの反応はお約束(笑)
女性には声をかけることが礼儀なお国柄は変わりませんね
『アガメムノン』の副長さん、何気にティアナとキャラが似ているような気がします。
『ミカサ』の目方副長は霊が見える!?
ひょっとして、ティー〇さんやクラ〇ドさん、リィン〇ォースアインも見えてしまうとか!?
地球側の課題は、いかに管理局艦隊を有効活用できるかですね。
アルカンシェルは威力は十分ですから、気がついた時には離脱不可能という状況を作れるか、でしょうかね…。

>>毎回の書き込みに感謝です!
前回に登場したイタリア人コンビ、気に入って頂けようで、何よりです。
正直、真面目で通そうかと思ったこの作品、ついに崩れさる時がw
恐らくこの二人がギャグ担当となるでしょう(笑)



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