天の川銀河 サイラム恒星系 第三番惑星アマール。その星の最も栄える町に聳え立つ、アラビアンナイトを連想させるような宮殿造りの建物がある。
特徴的なドーム型の屋根、煉瓦式の壁、どれも地球のインドにそっくりの建築文化であったが、宮殿には所々に砲撃を受けた傷跡が生々しく残っており、修復は完全ではない。
それは城下町も同様で、寧ろ町の被害が酷かったと言えよう。地球人を受け入れたとして、SUSの武力制裁を受けた傷が、その破壊行動の凄まじさを伝えている様でもある。
  アマール市民はSUSの攻撃により多大な犠牲を払った。だが、今の市民達に暗い雰囲気は残っていおらず、逆に生き生きとしている。
その理由は言わずと知れたSUSの消滅。武力と圧制で平和の確保を唱えてきたSUSが消えた今、彼らは本当の自由を獲得出来たんだと心の底から歓喜したのだ。
決戦から四〇日以上が経過した今、城下町や宮殿での復興作業は、順調に進みつつあった。
  しかし、宮殿内部では平和を勝ち取れたと言う雰囲気には、ややそぐわない雰囲気を纏っていた。宮殿内部の一室では、当国家の指導者が何人かの幹部と共に会談を行っている。

「それは、確かなのですか?」
「はい。外交部の報告なので間違いないかと」

アマール市民特有の褐色肌をして、国を統治する証の冠をいただいた女性は、幹部の一人に問いただす。彼女こそが当国家の指導者、イリヤ女王である。
今彼女を始めとした幹部達は、とある決断を下すべくこのように集まっていた。その情報とは? 地球連邦が再度の軍事行動に出ようとしている事であった。
  しかも、それが単なる軍事行動ではない。外交部や情報によれば、どうやら地球連邦はSUS国の別働艦隊を撃滅すべく急遽、遠征艦隊を準備しつつあるというのだ。 
これを聞いたイリヤは、自分らの立ち位置をどうすべきかと悩んでいた。SUSは憎むべき敵だ。その証拠に市民を堂々と虐殺したのだから、幹部達も怒りは甚だ強かった。

「陛下、我らも地球艦隊ど同行して、SUSを討ちますか?」
「ペテロウス将軍……」

  同行してみてはどうかと意見を出したのは、地球換算で四三歳、やや長めの黒髪をした男性だ。アマール防衛隊 宇宙艦隊司令官のウィラン・ペテロウス将軍(中将)である。
地球の様に艦隊司令官を提督とは呼ばず、アマール国では艦隊の司令官の事を将軍と呼ぶのが極普通であった。
階級は各国によって微妙に違って来るであろうが、アマールの将軍は地球で言う“司令”、管理局で言う“提督”と何ら変わりないものである。
少将〜大将程の階級であるとそう呼ばれるらしい。彼の場合は中将だ。先代のパスカル将軍の戦死により代理を務めている最中である。

「確かにSUSは、私達の敵です。ですが……」
「陛下のご心中はお察しているつもりです。我がアマールの損害は、憎きSUSにより多大なもの。ですが、地球艦隊の損害はそれ以上です。それでもなお、彼らはSUSを叩こうと出撃の準備を行っているのですぞ?」
「ペテロウス将軍、貴方は我が国の事情を知りつつも、地球と共にまた戦渦へと飛び込むのですか?」

  ペテロウスの次に発言したのは、地球換算で五二歳相当のアマール人、内務担当官であるティルバ・ポロウロである。
彼もSUSを憎んではいるものの、こうした発言には自国の経済的な問題が立ちはだかっている所以だ。
地球程でないにせよ市民の多くが虐殺されたことにより人的な損害は著しかった。さらには艦隊決戦の被害による艦船の消耗と、同じ人的消耗も甚だしいものであった。
  この様な内部事情はペテロウスも承知していた。だが、彼の軍人としての人となりが、ポロウロの非参戦の言葉が気に入らないものに聞こえ、反論をしだしたのである。

「ポロウロ内務官、貴方は盟友たる地球がSUSを倒しに行くと言うのに、我々は指を加えて黙って見ていろ、とでも仰るのか!?」
「そんな事は言ってはいない。現在の我が国の情勢では、参戦は極めて難しいという事なのだ」
「しかし……!」
「そこまでになさい、ペテロウス将軍」

生憎とペテロウスの反論はイリヤの制止により妨げられた。女王に止められてしまっては、彼も下手に口出しする度胸を持ち合わせてはいなかった。
それでも、イリヤはペテロウスの言わんとする事と、気持ちは十分に理解しているつもりではあった。地球は、自分らアマールと共に平和のために戦った、盟友的な存在なのだ。
  特に〈ヤマト〉の活躍には、彼女のみならず市民全員にとっても目を引くものだった。

「私の聞くところによれば、地球は異次元空間へと、向かうそうではありませんか?」
「はい、陛下。それと……正確にはSUSを討ちに行くと言うよりは、迷い込んだ味方を救出するという方が、合っているかもしれません」

細身の体躯に四八歳相当の男性、外交官を務めるフェロム・マジェンガは、そう付け加える。元々、この情報が伝わるのと同時に地球からアマールへと、とある申し出が出ていた。
それは、現在アマールにて移住している地球市民の在住期間を今しばらく伸ばして欲しい、という事である。
何らかの意図があるのではないかと考えたのだが、地球側の特使は意外な程にあっさりと、地球が置かれている新たな現状を話してくれたのだ。
  それが先に言った、異次元空間へ迷い込んだ味方艦隊の救出を行う事。そして、よしんば異次元空間内にいるSUSの撃破であるのだろう。
だが、これらを行うに当たり相当な戦力を整えなければならないのは、考える間でもない。SUS第第七艦隊以上の艦隊がいると考えても不思議ではないのだ。
これを撃滅するということは、それだけの戦力を割かねばならず、その分だけ地球勢力圏の防衛力低下という結果をもたらすことになる。

「とはいえ、次元空間を往来する組織と接触し、そこに手を広げるSUSと争うことになろうと、誰が想像したか」

  ポロウロが腕を組みながらも、理解しがたい状況に頭を悩ませた。それも無理はない。これを聞いて、直ぐに信じろと言う方が、土台無理な話なのだ。
実は縦地球連邦(E・F)政府も、この公表には深く頭を悩ましており、本来であれば地球政府は次元空間への遠征計画という事実は伏せたままにしておく方針の筈であった。
だが偽りの情報は止めるべきだと主張されたのだ。
そしてもう一つ、地球政府は例の治安組織の存在をも大まかに伝えたのだ。次元空間と多世界の秩序を守る、一大組織『│時空管理局(A・B)』の存在を……。

「時空管理局……我らの知らない、異世界を納める者達、だという事か?」
「将軍、それは私らにも分からない。地球政府側も存在を確認しているらしいが、詳しい事までは分かってはいないのだ」
「まるでSUSの様ですな。幾多の世界を収めるとはいえ、実態はどんなものであることやら……」

  ペテロウスの問いにマジェンガが応え、ポロウロは管理局に対する認識は甚だ悪いものであった。まだ直接的な関わりを持たないとは言え、SUSという典型的な例がある故だ。
自らも被害者であることも加えているのだろう。力で圧政を敷いているのではないかと、半ば一方的な見解を示していた。

「時空管理局とやらが、どの様な組織であるかはこの際、置いておきましょう。問題は、私達の行動です」
「……そうですな、陛下の仰る通りです」

イリヤの言葉に同調したのはマジェンガであった。話は管理局から一転し、現在のアマールに残されている戦力が改めて報告された。
SUS要塞との死闘の結果、アマール宇宙艦隊は七五隻の戦闘艦のみであり、これ以上の消耗は本国防衛に多大な影響を及ぼしかねない。
いや、既に多大な影響を受けていると言った方が正しい。イリヤの指示で、アマール国は早急なる国力の回復を唱えている。街の復興、経済力の復興、そして何よりも軍備再建だ。
  ただし軍備増強とは言っても、これはあくまで母国防衛のためのものだ。地球と同じくして、多宙域へと侵略行為をするためのものではない。

「七五隻……これで、現在の我が国の防衛は賄えますか?」
「十分とは申せません。しかし、現在のベルデル、フリーデ、エトスらは地球に対する停戦を公表しております故、当面は侵入してくる敵はいない筈です」
「真面な戦力を有していたのは、その三ヶ国と我が国くらいであったからな。危険視するべきは……」
「ガルマン・ガミラス帝国と、ボラー連邦ですね?」

ペテロウスはやや心もとなさそうに、保持戦力での現状意志がギリギリであることを示す。大ウルップ星間国家連合の元一員達は、揃って共同歩調の姿勢を取りつつあった。
だがポロウロの懸念とそれを察したイリヤの口から出た強大な軍事国家の名前。これらはどうしても無視する事は敵わない。SUSが現れる以前に巻き込まれた経緯があるのだ。
SUSが消えた事により、版図拡大を再開するかもしれない。そんな不安が、心の中を曇らせているのだ。

「ガルマン帝国はもとより、ボラー連邦の方が心配ですが……それは現在の所心配には及びますまい。当面は艦隊の戦力増強と、軍備再建に集中できるでしょう」

  ガルマン・ガミラス帝国は反抗する相手には容赦しないであろうが、話さえきちんと通せば交渉できるのは地球連邦の例からみれば明らかだ。
しかしボラー連邦は今までの経緯から中立宣言をも平気で踏みつけて攻め込んで来る可能性の方が高い。だが、どの道両国は果てしなき戦いの真っ最中だ。
無茶は出来ないであろう。そこでアマールは、地球防衛軍の次元空間遠征計画に乗り込むべきかどうか、と判断に迷う。地球にも返しきれない恩があるのだ。
その恩を返すと言う意味合いで同行も出来るだろう。しかし、市民の反応はどうなるか? SUSに憎悪を込めているとはいえ、さらなる戦争への道へと駆り出しては、さらなる犠牲が出るに違いない、と女王は悩むに悩んだ。

「陛下は、どう考えていらっしゃいますか?」
「私は……地球へ援軍を向けたいと思っています」
「陛下!」

  ポロウロはやや狼狽した様な表情でイリヤに待ったを掛けようとした。しかし、イリヤは続けて言い放つ。

「加勢したい気持ちはあります。しかし、ガルマン・ガミラス帝国やボラー連邦の脅威が残っている以上、防衛隊の戦力を減らす訳にもいかないのです」

と閣僚達の前で示したのである。此処まで言えば、何を言いたいか閣僚達にも予想できた。出兵は控えると、イリヤは言っているのである。
大半が安心する表情をしており、宇宙艦隊を指揮するペテロウスら一部の者は不満げな様子であった。しかし、女王の決定に逆らう訳にはいかない。

「陛下がそう仰るのであれば、小官に依存はございません。我が軍は全力を持ちまして、戦力の増強と宙域警備を強化いたします」
「ありがとう、ペテロウス将軍。貴方が地球と共にSUSに立ち向かおうとする意志は尊重します。ですが、今は我が国民の安全を守り抜くことに専念してください」
「……御意」

そこまで言われては、止めを刺されたも同然であった。悪意を込めた止めではない。イリヤはペテロウスの心境をよく掴んでいた。だからこそ、防衛に専念するように言うのだ。
言われた側の彼も、自分の軽薄さに恥じつつも、一刻も早い再建を目指そうと新たな目標を掲げたのである。

(地球へ手を差し伸べられないのは心苦しい……。ですが、地球に何か危機が迫れば、その時は……我々も動かねばなりませんね)

  この世界は何とか守り通したい。そして、手薄な地球の危機を救える程度には回復したいと、イリヤは強く願うのであった。
今、アマールだけではない、元連合国家だった国々は皆して共同歩調を取ろうとしており、これを上手く調節さえすれば新たなる連合組織が出来上がるのではないか、と可能性が浮き上がりつつあった。
一歩間違えれば、それは再びSUSの二の舞になる可能性もはらんでいるが、イリヤの見解は異なっている。SUSの様な、一国が延々と主導権を握り続ける態勢では駄目なのだ。
ここはやはり、連合議会なる物を作ると共に取りまとめ役の人物を、周期性で務めさせた方が良いのではないか? それは、かの地球が行ってた国際連盟の発展型と言っても良い。
詳しい段取りさえ決められていない故、この段階では妄想の類でしかない。しかし、近い将来はその様な態勢をとっても良いのではないかと思うイリヤであった。





  第二次移民船団(アマール・エクスプレス)の護衛艦隊が消息を絶ってから凡そ三ヶ月半、ブラックホール消滅から凡そ一〇日後の事である。
地球では次元空間への遠征部隊の準備が、早急ではあるが着々と整いつつあった。この一〇日間の間で、軍備の再調整を行った他、例の次元転移装置の調整、随伴する人選、転移の基となる〈トレーダー〉の最終点検を急ぎ足かつ正確に行ったのだ。
幸運な事に次元転移装置の調整は可能となっている。技術屋である真田、大山らの腕もさることながら、他のスタッフ達の努力の賜物とさえ言っても過言ではないであろう。
  後は〈アムルタート〉の主要部分を〈トレーダー〉に取り付けるだけだが、これも色々不安は残る。彼ら地球人からすれば、初めての次元転移なのだから当然だった。
地球の防衛軍総司令部では、遠征部隊の再編に伴う艦艇の引き抜きや、配置変換の様子を巨大なスクリーン或いは各スタッフの小型スクリーンと睨めっこしながら確認している。

「第二三護衛艦隊、月基地へ到着しました!」
「アルファ・ケンタリウス星系司令部より報告。『現在の所、敵勢力の動きなし。早期なる友軍救援に向かわれたし』以上!!」
「相原、アルファ・ケンタリウス星系司令部へ返信。貴官らの言葉に感謝する。同時に貴官らも警備を厳にされたし」
「了解!」

相原と呼ばれた三七歳の男性が、通信作業席に座る部下へ山南の司令を送らせる。彼――│相原 儀一(あいはら よしかず)准将は〈旧ヤマト〉通信長として乗艦していた者であった。
〈ヤマト〉自沈後には主に防衛軍司令部での情報・通信部に所属し、一〇年以上も活躍を続けて来た。言わば、通信と情報のプロフェッショナルだ。
司令部席に座る山南の傍には五〇代前半の男性が立っている。薄い茶色系統の髪をオールバックにした、やや長身のアメリカ系男性。総参謀長のリチャード・カバード中将である。
そしてもう一人が、同じく参謀部の島次郎准将だ。以前は移民船計画本部長として、真田の右腕となって動いていたが、今やその任を終えて防衛軍司令部に戻って来たのだった。

「今の所はボラー連邦に動きは無いようですが、いつ侵攻して来るのか予測は出来ておりません」
「……ふむ。総参謀長、ボラー連邦が向かって来ると思うかね?」
「難しい所です。恐らくSUSと決戦を行った事は、知っている可能性があります。ボラーとしては、決戦で疲弊した我が軍を攻撃するチャンスを得た訳ですが……」

  相原の情報を踏まえて、カバードは出来うる限りの予測を幾つか出した。ボラー連邦が正確に今の状況を把握していれば、攻撃を仕掛けて来る可能性は確かに否定出来ない。
ここ近年では本格的な戦闘を交えた事など殆どないが、地球連邦の有する星系――α星系やバーナード星系、アルデバラン星系等幾つかで、警備部隊規模凡そ一二隻前後での小競り合いが年に三回〜四回程度の確立であるかどうかというレベルであった。
比べてガルマン・ガミラス帝国は、地球に対して友好的な態度を取り、同盟国ではないこそすれ友好国には違いない。ボラー連邦にしてみれば、これ程つまらない話は無いであろう。
  同盟を結んでいないとはいえ無視は出来ない存在である。さらに一八年前にもボラー連邦は地球と争った形跡がある。ここのところは、戦力の再編と軍備増強に力を入れようとしてか本格的な地球侵攻は行われていない。
だが、SUSという新たな勢力の登場はガルマン、ボラーの両軍事国家の注意を引かざるを得なかった。特にガルマン・ガミラス帝国が元々支配していた、銀河系中心部に勢力を拡大していった大ウルップ星間国家連合は、勢力図を三分割する程までに急成長を遂げていたのだ。

「総参謀長の推測は最もですが、ここで手を拱いていては、それこそ友軍の危機を救う事が出来ません。難しいでしょうが、一刻も早い救援活動を行うべきかと……」
「島参謀の言う通り、ここで時間を掛けていては、いつ侵略を受けるか分かったものではないからな。だが、現在の戦力でどれ程防げそうかね?」
「そうですな……。α星系よりもアルデバラン星系を通る可能性がありますが、あそこに駐留するのは僅か三六隻程です。敵が主力を持って侵攻した場合は到底、守りきれません」

  カバードの表情は重苦しかった。地球防衛軍(E・D・F)は救援を赴きたい一方で、ボラー連邦の侵攻に冷や冷やしている状態だ。当面の敵がガルマン・ガミラス帝国であろうが、激しく弱体化した地球を見逃す筈もないであろう。
地球側も本当ならば主力艦隊の二〜三個分は配置していた筈だった。ブラックホールという存在がそれを崩してしまったのだ。お蔭で、最前線とも言えるアルデバラン星系の守備隊は手薄も良い所であり、下手をすればここをボラー連邦によって落とされかねない状況であった。

「ガルマン・ガミラス帝国が、ボラー連邦に余力を残さない程の戦果を挙げて暮れれば嬉しいのだが、そうもいくまい?」

  山南は傍に控えるカバードに訊ねる。

「はい。両国家の戦力数は、我が地球防衛軍の比ではありません。さらに我が方の戦力が消耗しているともなれば、それだけ優位な戦力を送り込めるのですから……」

異次元空間への遠征が目の前に迫る中、地球防衛軍や地球連邦の不安はSUSからボラー連邦へと変わりつつあった。





  ここ連邦大病院の中へ入る男性の姿と若い女性の姿があった。一方は三〇代後半で防衛軍の高級将官を現す士官ジャケットに、軍帽を被った男性。そしてもう一人は、年代が一六歳程で背中の真ん中まで届くであろう黒髪と、ややあどけなさ残した顔の女性で、スカートの裾が短めな水色ワンピースに薄手の白色ガウンを羽織っていた。
一方は〈ヤマト〉艦長の古代進であり、もう一方の女性は妻――雪との間に生まれた一人娘の美雪である。二人は病院の中でも厳重に管理されている病室を訪ねる為に来ていた。
それは管理局員が入院している病室の事であり、古代は何度か入って会っている事があるため平然としている。だが、美雪の方は緊張した様子で父親の後ろに付いている様子だ。

「緊張しているか? 美雪」
「うん……。けど、本当に知っているのかな?」
「それは、聞いてみなければ分からないさ」

一体何を聞き出そうとしているのか? 二人は極めてプライベートに近い事で、局員に訪ねようとしていた。それは、現在行方不明となっている古代雪の消息についてである。
彼の妻である雪は、第一次移民船団の取り纏め役――団長を引き受けていた。船団の護衛も兼ねて〈スーパーアンドロメダ〉級戦艦の艦長として同行していたのだ。
その矢先に、例のSUS襲撃である。あの激戦の最中で指揮権を引き受け、防衛軍軍人として最後まで移民船の撤退を援護した彼女は、自身もワープによる離脱を行った。
  だが、彼女の乗艦である戦艦はほぼ無人に近い状態で、サイラム恒星系へとワープ・アウトを果たしのだ。ほぼ、というのは若干名の戦死者達が残っていたのである。
古代はこの事に落胆はしたが、過去の駆逐艦〈ユキカゼ〉の事もあった。必ず、どこかへと生き延びてるのではないかと強く願っていたのだ。そして、今回はあるチャンスを得た。
時空管理局に眼を付けたのだ。幾多の次元世界を管理しているのであれば、雪の消息は掴めるのではないか、そう彼は考え付いたのだった。

「古代提督……!」

  突然の訪問にジャルクは驚いた表情をしていた。あれから数日、彼は見事に回復を遂げており、これから行われる次元空間遠征計画に参加も可能だという。
そして彼の他にも二名の少女と女性が居た。片方は二〇代前半で赤茶系の髪をセミロング。もう一人の幼い一〇歳未満の少女は、茶色がやや混じった黒髪のセミロングだ。
この二人も来訪者に驚き、ぎこちない形ではあるが敬礼の姿勢を取っている。

「いや、硬くならなくても良い。それと、ご紹介します。こちらは私の娘で……」
「古代 美雪です」
「娘さんでいらっしゃいましたか……。私はジェリク・ジャルクと申します」

律儀に頭を下げる美雪に、ジャルクも自己紹介を行う。そして彼に続いて声を出したのは、傍のベッドで上半身を起こしていた、先の二名だった。

「私はアネッド・スティールと言います」
「あ、あの……ヨハ、ヨハンネ・クルヴェーヌとい、言いますしゅっ……」

  前者が赤茶けた髪の持ち主で、〈アムルタート〉航行オペレーターを務めていた。因みに非魔導師である。そして後者の、緊張気味で口下手な印象を与えたのが黒髪の少女。
〈アムルタート〉に配属されたばかりの魔導師で、武装隊員の枠組みに入っていた。美雪は古代から管理局という組織の名をそれとなく伝えられていたが、実際に会ってみて妙に親近感を覚えていた。
自分と同じく人間であることは勿論、ヨハンネの様に人間味を与えてくれる言動も原因かもしれない。硬い表情だった美雪は、柔らかい笑顔を向けた。
一通りの自己紹介が終わると、古代は本題へ移り始める。

「今回は、私事でジャルク提督にお尋ねに来たのです」
「……場所を移した方が?」

  古代が話そうとすることを考慮して部屋を移すかを提案する。それを彼は必要ないと丁寧に断った。話の内容については、美雪も十分に関係しているからであった。

「わかりました。それで、話とは一体?」
「実は……」

 彼は自分の妻の事に関して、一連の事を話した。ジャルクにしてもSUSが地球の第一次移民船団を攻撃していた事を耳にしていた。それだけに、護衛をしていた指揮官の一人が、目の前の若き軍人の妻であったことに驚くと共に、行方不明のままである事に、表情を曇らせた。
傍にいた局員二人もそれを聞き、同時に美雪の様子を見て暗い表情を浮かべている。二人にも無論の事、母親がいる。その母親が戦いで行方不明になるとは、考えもしないであろう。

「話の内容は了解しました。ですが、残念ながら……次元空間並びに各世界へ迷い込んできた人は、確認できておりません」
「そうですか……」

管理局の世界でも、各管理世界の駐在部隊と連動して、変化を常に報告されるように指示されている。ここ最近で確認出来たことと言えば、SUSの存在と遭難して来た地球艦隊のみであり、その他の世界で次元の迷い人は確認されていない。
そう聞いた古代は、最後の望みであろう可能性が砕かれた様な気分であった。同時に美雪も落胆な表情がやや浮き出ていた。それに対して申し訳ない、とジャルクは謝罪した。

「いえ、ジャルク提督が謝る必要はありません。私は自力で探し出す気でいました。たとえ、何年かかろうとも……」

  ジャルクの謝罪を責め立てる事はなかった。古代は妻を探すための意欲を削がれた訳ではない。元々は手探りで探す覚悟でいたのだ。
ならば、探し出してやる! との決意を見せた。その後、古代はジャルクとアネッドと共に次元空間遠征のための打ち合わせを軽く行う事になった。
打ち合わせの間、美雪はコミュニケーションを取ろうと幼き局員と会話を始めた。最初はぎこちなさがあり、ヨハンネの方も相変わらずの舌足らずな感じであったが、それもだんだん和み始めていた。

「そうなんだ。ヨハンネちゃんも、局員として頑張っているんだね」
「そ、そんな事ありません……。魔導師としてはまだまだなんです。失敗も多くて、自信がないんです……」

  本来なら民間人が、局員と話すわけにはいかない。だが、美雪の場合は別だった。雪の消息を知るためにも、美雪に事実を隠す訳にもいかなかった。

「心配する事はないよ。今は失敗しても、それが必ず報われる時が来るから」
「……はい、ありがとうございます!」
「これなら、私も獣医として頑張らないといけないね」
「獣医さんですか?」
「えぇ。今はライオンの子供のお世話をしているの」

ヨハンネは美雪の獣医という夢に、共感の様なものを覚えた。少女の世界にも、動物は多種多彩だ。管理局には、実際に動物保護のための部署というものが存在している。
美雪はその話を聞いて、管理局世界の動物というものに興味を持った。しかし、美雪が管理局世界に行くにしても難しい話であろう。特に、戦乱を終えた後には……。
会話の時間はほんの僅かであったが、話を終えた古代、ジャルク、そしてオペレーターとして手伝う事になるアネッドが部屋に戻って来た事で中断された。

「じゃ、またね」
「はい!」

  先程とは打って変わって、少女の態度はかなり自然体となっていた。別れ際の笑顔を交わした後、古代と美雪は病室を退室し、連邦病院を後にした。
帰りのために手配したオート・システム式の車両に乗り込むと、そのまま行先を防衛軍本部へと向けさせる。その向かう中で、古代は娘に口を開いて聞いてくる。

「美雪」
「何?」
「必ず……母さんを見つけ出すからな」
「……うん。私も、待ってるよ」

そう答える美雪であったが、かつては古代に対して不審の気持ちしか持っていなかった。その原因は古代自身にあった。彼は、旧〈ヤマト〉自沈後に雪と結婚を果たしていたが、一〇年以上の平和な時代にどうしても馴染むことが出来ないために、太陽系外輸送任務を志願して三年間もの間を宇宙空間で暮らしたのだ。
三年間という空白で、美雪は父親に対して異様な怒りを持っていた。母親と自分を地球に残して、父親は宇宙空間に出た。彼女は、父が家族より〈ヤマト〉を選んだと罵った。
そして決定的となったのが、母親の行方不明の知らせだった。お父さんがいれば、こんな事にならなかったのに! そう言って、帰って来た古代に罵声を浴びせたのだ。
  そんな彼女の心を癒したのが、先程話していた動物だった。獣医を習っていた事もあって、彼女は動物と触れ合い、心にあるささくれた思いを落ち着けていた。
だが古代に対して再度気持ちを変えたのは、ブラックホールが間近に迫っていた中で自身が乗っていた救命艇が遭難した時だ。古代が単身で助けに来てくれた父の姿。
それだけではない、地球人類を救おうとする父親の見ている内に、考えを改める様になっていたのだった。

(雪。俺は……必ず、必ずお前を見つけ出してやる!)

地球人類を守るために決心した時と同様、古代は新たな可能性を掛けて隣に座る美雪の肩を抱き寄せた。抱き寄せられた美雪も、抵抗する事も無くして古代の胸元に寄りかかる。
これと時を同じくして、次元空間では損傷を負った地球艦隊が本局へと辿り着こうとしていた。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
ここの所三三度くらいの気温が続いていますが、体調だけは気を付けたいですね。
さて、今回は地球視点で書いていた訳ですが……グダグダで終わってしまった感がって非常に申し訳ないです(汗)
しかも早めに掲載する予定だったのに、『ゴジラ対ビオランテ』を見ていたという……。
次回は再び視点を〈シヴァ〉側に戻す予定です。

※それと、補足説明を(大したことではないですが)……。

設定画として掲載させて頂きました、局員側キャラのジャルク提督、レーニッツ提督について。
描く上でモデルにした人物がおりまして、まずジャルクは日本人俳優の高島政伸さんで、特に上記に記した『ゴジラ対ビオランテ』の時に演じた『黒木翔』を意識してます。
続いてレーニッツですが、こちらは外国人俳優として有名なモーガン・フリーマン氏です。
私の絵が下手なためにいまいち分からないと思いますがw

拍手リンク〜
[四八]投稿日:二〇一一年〇七月〇三日二一:五六:三六 EF一二 一
目覚めたフェイトは何を思う?
聡明な彼女ですから、冷静になればコレムの行動も理解できるでしょうが…。
“反省会”があるとすれば相当揉めそうですね。
戦闘自体は不可避だったにせよ、管理局側の一部の思慮を欠いた行動が傷を深くしましたからね…。
ラティノイア艦長としてはいたたまれない心境でしょうね。
地球側も準備は進んでいるのでしょうが、ヤマトはかなりダメージが大きそうですし、量産艦でもないですから、今回は待機かな?
参加したらしたで、地球側にも管理局側にも強いインパクトを与えるのは確実でしょうが…。

[四九]投稿日:二〇一一年〇七月〇三日二二:六:二八 EF一二 一
追加致します。
感想掲示板を拝読しましたが、なのはは半ばモブキャラと化していますね(苦笑
私の方でもなのはの扱いが酷いと評されました(笑
寸劇は別にして、うっとこのマダオ主人公よりはバランスが取れた人物だと思うんですが…。
ただ、こちらでもフェイトやティアナ程には活躍しないでしょうね。
ひょっとしたら、ちっちゃな聖王陛下の方が活躍してしまうかも……。

>>追加の書き込み、ありがとうございます!
フェイトは話せば分かってくれる人物でもありますし、よく考えれば納得もしてくれるかもしれませんね。
それに管理局も手痛い損害を受けていますし、今後はどういった展開になるのやら……。
そして例のエース・オブ・エースの扱いについて……もう、仕方がないですw
私も当小説ではこれらヒロインキャラを出す予定は微塵もなかったので、今にしてみればかなりの出演数になりますw
ちっちゃな陛下に関しては、扱いが難しいですw

[五〇]投稿日:二〇一一年〇七月〇九日一四:七:五五
設定画のイラストが、予想以上に上手くて吹いた。
色鉛筆だと、少々見辛い上に荒い印象を与えるから、今後はあまり使わない方が良いかと。

>>設定画イラストの評価およびアドバイス、ありがとうございます!
私も出来ればパソコンで着色できればと思いますが、何分、アナログしか出来ないので……(汗)。
今はクーピーでの着色が限界ですw



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