最初で最後の本局攻防戦、そしてミッドチルダ首都クラナガンの防衛戦が幕を下ろしてから三日が経過している。時間は過ぎるが、情勢はそれを許しはしない。
そんな中にあって、管理局側は態勢の立て直しに奔走させられていた。失った艦船、人員の補充を早急に行わねばならないのだ。これが簡単な事ではないのは、周知の事実。
人員は特にまずかった。地上本部の武装局員――魔導師三〇〇〇人の内で生存できたのは、およそ一六〇〇人前後。非魔導師すら一〇〇〇人余りの死傷者を出した。
  一見すれば魔導師側の方が被害が多いように見える。魔導師は事実上、戦場の最前線に立つ役目を追っている以上、被害が多くなるのも致し方が無いと言えよう。
だが非魔導師一〇〇〇人余りの殉職者というのも、前代未聞な数字だ。これらは魔導戦車で殉職したか、或いは艦砲射撃で基地ごと潰されてしまったか、のどちらかだ。

「非武装局員ならまだしも、魔導師たる武装局員を補充するのはどれ程の時間を要するのか」

と、管理局上層部はこぞって頭を悩ませている。
  だが頭を悩まされるのは管理局ばかりではない。地球防衛軍(E・D・F)も例外ではないのだ。いざ救援に駆け付けたのはいいのだが、この後をどう乗り越えるべきか?
幸いにして〈シヴァ〉以下二五隻が、援軍である第一特務艦隊と合流することに成功した。これで地球艦隊は合計して九八隻の艦隊へと膨れ上がった。
高い戦闘能力を有する地球艦が一〇〇隻の数になるだけで、SUS艦隊二〇〇隻から三〇〇隻は相手取れる。
  ただし、万全の整備が整えさえすれば、である。地球艦隊は移動基地である〈トレーダー〉の倉庫に限界まで資材を詰め込んでいる。
一応、在庫分で〈シヴァ〉らの部品を十分に賄う事は可能であるが、それも長続きはしない。一個艦隊を四回分は補強できる余裕も、いつ尽きるかわからないのだ。
そこで、地球側としては早期にこの次元空間から引き払いたいというのが本音だ。その様な甘い考え事が通じれば良いが、今回はそうもいかない。
  SUSという敵国の攻撃を受けた自衛行動、そして市民を守るという大義名分も使えない事も無い。それに出撃前に、司令長官の山南と古代が話した、管理局側の予言。
〈シヴァ〉は救世主だ。ここで連れ帰れば、管理世界の地球への憎悪は瞬く間に燃え広がる可能性がある。防衛軍としても後味の悪い話だ。
地球を恨みながら死なれてしまっては、士気に影響する。そこで、第一特務艦隊は〈シヴァ〉の救援と反撃の足掛かりを作る必要があった。
そのためにも、管理局には資材や資源のある程度の提供と、拠点となる惑星を提供してもらわねばならない。無論、永久的に、というわけではないが。
  さらに問題なのは、元大ウルップ星間国家連合の一員であった、エトス艦隊、フリーデ艦隊、ベルデル艦隊の三ヶ国だ。彼らの立ち位置は極めて微妙である。
元々は敵国だったが、どういう訳かSUSに反旗を翻し、さらには地球側――敷いては管理局側に身を移そうと言うのだ。反発する防衛軍兵士も少なくない。
その反対もしかりだ。敵として戦った地球と手を組まねばならないのは釈然としない。だが、各艦隊司令官三名に迷いはなかった。SUSではなく、管理局らに加わるしかない!
後から来た古代率いる第一特務艦隊は、エトス艦隊ならまら信頼に足るという自信がある。銀河でも、実際にエトスはSUSに反旗を翻したからだ。
  問題は残る二個艦隊だ。マルセフも、やや不安ではあった。しかしそれは、古代の仲立ちで取り除かれる事となった。

「天の川銀河のSUSは既に消滅し、各国も慎重な姿勢にあります」

古代と会話をしたズイーデル中将とゴルック中将はこれを聞かされ、もはや対立する必要もないのだな、と僅かに頷いたのだ。
  結果として、地球防衛軍とエトス艦隊、フリーデ艦隊、ベルデル艦隊の四ヶ国の艦隊が、一時的ではあるが協力関係を持つ事となった。
各艦隊の残存戦力は次の通りだ。地球艦隊九八隻、エトス艦隊一四二隻、フリーデ艦隊一三五隻、ベルデル艦隊一〇九隻、合計四八四隻。
およそ四八〇隻強の連合艦隊が出来上がった事になる。そこへ管理局の艦船八九〇余隻(内、本局残存艦二九八隻)が加わる。
総合計で一三七〇隻もの艦艇が残されている辺り、かなり良い方だろうと防衛軍の指揮官達は見ていた。
  一方の各管理世界は、この戦闘の結末に衝撃を走らせた。それも当然である。次元航行艦隊が開戦時から半減してしまったうえに、本局の陥落、地上本部も半ば以上の壊滅という前代未聞の損害を出しているのだ。
それで騒ぎが三日の内に治まる筈がない。クラナガン首都周辺の戦争の傷跡が生々しく残され、それが一部メディアを通じて全世界へと報じられた。
大半の市民や各管理世界首脳部は、厳しい現実を突きつけられた。やはり管理局の力――敷いては魔法の力では、SUSの攻撃から完全に凌ぐ事など不可能だ。

「質量兵器を導入せねば、生き残る事はできない!」

  この質量兵器導入論は、瞬く間に広がった。是が非でも、地球防衛軍の技術を導入する事で、自国の防御態勢を整わせたいのだろう。
だが、それは簡単な話ではない。それに管理局としても、管理世界が独自の戦力を持つ事に多くの懸念を抱いている。
自分の管轄下から離れ、地方反乱でも起こされた暁には、治め切れないに違いないのだ。これに関しては、防衛軍と会談を行う事になるの。
その時にどうにか互いの満足いく内容で交渉を進められたらと考えている様だった。
  しかし、あくまで理想に過ぎないのである。この防衛軍側との会談は、〈トレーダー〉にて行われる事となった。
本来なら本局の会議室でも使うのであろうが、生憎と廃墟とかしてしまい、使える訳もない。古代も管理局の会談申し込みに対して拒否することもない。
寧ろこちら側も会談を申し入れたい方だ。その管理局の団体が来るまでに、地球側も色々と整理せねばならない。マルセフも参加し、状況の整理を開始した。
  その中で喜ぶべきことがあった。それは、先も述べた様にSUSに打ち勝ち、ブラックホールの脅威も去った、という事だった。
この時、マルセフ以下の残存艦隊乗組員達は歓喜の声を上げたと言う。だが反対に、驚くべき話も舞い込んできた。それは、SUSの真の正体だ。
人間型をした宇宙人であると思い込んでいたマルセフらは、SUSが実は異次元生命体であると知って、驚愕してしまったのだ。なんとも、予想を超えてくれるではないか。
とんでもないサプライズに驚きつつも、マルセフは古代達と共に、会談へ出席したのである。





「それでは、始めると致しましょう」

  〈トレーダー〉内部の大型会議室にて開始の声を発したのはマルセフだった。会議室内部には防衛軍と管理局の各将官クラスの者が集まっていた。伝説の三提督もいる。
緊張に包まれる中で、平凡に始まった会議。最初はお互いの現在における状況を報告し合う事になった。防衛軍側は損傷した艦艇を収容し、応急修理を施している状況だ。
それだけではない、エトス、フリーデ、ベルデルという貴重な味方が加わったものの、彼らに対しても修理を施さなくてはならない状況に陥ってしまった。
その結果、〈トレーダー〉内部の資材貯蔵庫は予定よりも早く消耗する計算となる。このままでは二回の全力修理で底を尽きてしまう可能性がある、との事だった。
さらに食糧や医薬品関係も同じ問題を抱えている。この二つは、〈トレーダー〉内部に設けられた生産区画にて、栽培あるいは生産が可能ではある。
  しかし、製品を増産するには時間が必要であり、原材料ともなればさらに時間を要する。今すぐ、というわけではないが、在庫が危うくなるのも時間の問題だ。
因みに地球人以外に薬品が通用するかは、至急生態調査の基で調合を施す事となる。だが、それらも無限に作れるわけではない。
対する管理局は防衛軍より酷い惨状なのは言うまでもない。本局は完全に再起不能、艦艇も半数以上を失ってる。加えてミッドチルダも都心部を中心に被害が甚大だ。
殉職者も多大で再戦力化はおろか資材も兵器も人員も無い無い尽くしである。資源惑星からの輸送も中々はかどらず、工場生産能力も半数以下に低下してしまった。
  防衛軍と管理局も、資材不足が深刻化しているのが一致した。人材不足も同じだろうが、防衛軍側は人材補給のチャンスなど無きに等しい。
このお互いの現状報告から、様々な条件を出して、満足の得られる内容にしようというのだ、どちらも望むところだ。だが、そう簡単に進むなどとは、誰も思わない。

「ここで一つ、防衛軍に伺いたい」
「なんでしょう?」

質問の声を上げたのは、管理局の〈海〉高官だった。それは、以前に発生した大規模な次元震と関連した内容である。
質問の裏に何があるかを予想できたのは、管理局の面々および、マルセフ、東郷くらいのものだった。管理局高官は言った。
  貴官ら防衛軍は、どのようにして次元空間へと到着したのか。防衛軍には次元転移技術など持ち得ていない筈では、とも付け加えた。
この質問に対して答えたのは古代である。彼は淡々として、次元転移した方法を述べた。

「我々防衛軍は、難破していた〈アムルタート〉の転移装置を使いました」
(やはり〈アムルタート〉が流用されたのね……)

  ふと、リンディは会議に同席しているジェリク・ジャルクの方を、一瞬だけチラリと目線を向ける。彼の表情は優れている、とは言えないようなものだった。
彼も薄々気づいていたのだ。自分らの転移行為が、恐ろしい現象を生み出すに至ったという事を。他の管理局高官――特に強硬派の者は、眉を顰めた。
さらに詳しく説明を求めると、それに対しても平然と答える古代。一体、どうすればあんな巨大な物を転移できるのか、と半ば興味を持っていた。

「〈アムルタート〉の転移出力では、この〈トレーダー〉を運ぶことはかないませんでいた。そこで我々は、独自の方法を用いる事になりました」

  古代は手元のリモコンを操作し、会議室中央にホログラムを展開させる。口で説明するよりも見てもらう方が早いのだ。管理局達は、その映像見て驚愕した。
八隻の宇宙戦艦が〈トレーダー〉の前方に展開し、各戦艦同士から放たれた光が魔法陣を形成したのだ。それは、管理局魔導師達も良く見る転移魔法の模様だ。
魔法文明と機械文明の融合とは恐れ入る! 伝説の三提督も驚かざるを得ない。さらに驚くことがあった。魔法陣の出入り口は〈トレーダー〉を治め切れないのは分かる。
だがこの直後、〈トレーダー〉から発射された波動砲(タキオン・キャノン)が魔法陣を直撃した。そして、波動砲に刺激され、魔法陣の入り口が拡大したのだ。
  何という事だ! ラグダスもフーバーも、これが狂気に値する行為だと思わざるを得なかった。入り口を無理やりこじ開けるために、波動砲を打ち込むとは!

(まさか、本当に波動砲でこじ開けていたなんて……)

以前の救助作業中に、クロノは防衛軍の転移法を独自にシュミレートしていたが、まさにその予想を貫いていたのだ。クロノには、防衛軍が恐ろしくも見える。
一連の状況と結果を映し終える。マルセフや東郷らは予めにこの事は聞かされていたために表情を変えていない。だが、内心ではつくづく、真田のやり方に驚いていた。
  この転移法を明らかにされるや否、局員の多くが怒りの声を上げた。

「何故このような無謀な方法を実施したのか! 防衛軍のお蔭で、こちらは空間が不安定になっただけではない、民間船にまで被害が及んだのだぞ!?」
「そうだ、よりにもよってSUSの侵攻間近に次元震を起こされたのだ! 貴官らに他のやりようはなかったのか!!」

この反発と怒号の声は、古代にもある程度想定されたものだった。自分らに非があるのは確かである。次元震などと言うものが発生する事まで考慮しきれてはいなかった。
結果として、民間人にまで被害を及ぼす事になった。管理局側が問題視するのも無理もない。だが、それを出汁にして無理難題を要求してくるのならば、それは受け入れられない。
さらに非難の声は続く。しかも、その矛先が彼ら防衛軍だけにではなく、彼等と同行していたであろうジャルクへまで、向けられたのである。

「そもそもだ、ジャルク提督にも非がある筈だ!」
「!?」

  後輩に向けられた非難の声に、リンディは思わず目を見開く。同時に古代達も眉を顰め、その高官へ目線を向けた。

「次元航行部隊の局員でありながら、何故あのような無謀な方法を許したのか! こうも悲惨な結果になることくらい、予想は出来たのではないか!?」
「そうだ、それに何故、次元転移装置を安易に使わせたのか! 局員としての自覚があるのかね!!」
「……」

反論しようにも反論できないジャルク。彼は自分の行った事が、管理局の法律に反する事を十分に承知していた。だが、それは故意にやった訳ではないのだ。
責め立て続ける高官達に対して声を上げたのは古代だった。

「お待ち頂きたい。貴方がたの言う事は、単なる結果論に過ぎない! 彼は今回の大次元震を知っていたならば、それを進言してくれた筈。それに我々の世界に来た時には、ジャルク提督は重症を負っていたのです。管理局の詳細も、彼自身が暴露したのではない! 我々が勝手に調査をしただけの事。彼に非はない!!」
「それに、我々防衛軍は、マルセフ司令を始めとする友軍を救うためにやって来たのです。時間も無く、転移方法の詳しい知識を持ち得ない我々では、あれが精一杯でした!」

古代に続けて発言したのは南部である。彼の言うとおり、地球防衛軍には次元空間への転移技術など持ち得てはいなかった。亜空間へ潜り込むのが精一杯なのだ。
  とは言うものの、管理局の高官達にとってはたまったものではない。しかもだ、マルセフ達へ貸し与えた次元転移装置が、意味を無くしてしまった事になる。
彼ら増援部隊が独自に改良を施し、自力でここへ来てしまったのだ。つまり、防衛軍は次元空間への転移方法を入手してしまっていると考えて当然であろう。
こうなっては優位的な立場を保つ事も叶わないではないか。そう考える輩も多い。弱体化したと言っても過言ではない管理局に、さらなる拍車が駆けられた、とでも思ったのだろう。

「何を言うか、貴官らこそ、それは建前に過ぎないのではないのか!?」

  別の高官が反発する。防衛軍は何かと目的を掲げておきながらも、真意は別にあるのではないか? 等と考え始めているのだ。
今になっても完全にプライドが優先してしまう局員に呆れるリンディとレティ、そしてクロノ。このままでは決裂と言う最悪の結果を生み出す可能性は極めて高い。
  一方の古代達はジャルクを懸命に弁護した。彼にはそれなりの恩義もあるし、管理局世界へ帰してやりたかったという思いもあった。
だが帰ってみれば、多くの同僚からは裏切り者扱いを受けている。この会議は、誹謗中傷をするための場ではあるまいに! その時、二人の声が同時に響き渡った。

「やめないか、古代中将!」
「やめなさい、貴方達!!」

マルセフは古代を止め、リンディが管理局員へ歯止めをかける。止められた古代は直ぐに落ち着きを取り戻す。管理局高官達も、渋々という呈で黙り込んだ。

「我々は今後の対応を決めるために、ここへ来ているのですよ? 言い争いをするために来た訳ではありません。自重なさい」

そう言ったのは伝説の三提督、クローベルだった。管理局高官達はリンディに引き続いて、この者に言われては発言を慎重にせねばならない。反論する度胸もなかった。
そこで休憩を入れてはどうかな、と声を発したのはキールだった。マルセフも同意し、一時休憩という事になった。





  休憩中、控室にてお茶を啜っていたリンディは深いため息を突いた。別に用意されたお茶が不味かった訳ではない。寧ろ上々な味で、丁寧に砂糖とミルクが用意されていた。
良く自分の好みが分かっていたものだ、と彼女は感心させられる。無論、これはマルセフからの指示であった。以前にリンディが〈シヴァ〉へ乗艦した時に知った事である。
差し出されたコーヒーが濃すぎたのだろう、やや表情をしかめたのだ。ほんの些細な事であったが、マルセフはリンディの好みがコーヒーにはないだろうと察して、聞き出した。
  その時のリンディは、思わず自分の顔に出てしまっていたのかと赤面していたが……。何はともあれ、ため息を吐いた理由は先の会談についてだ。このままではまずい!

「リンディ、貴方の心配する事は大概わかるわ。私も休憩後の会談が不安よ……」

レティも同様に不安を隠せていない。このままでは、せっかくの交渉が決裂という最悪の形を迎えかねないのだ。管理局側としては、穏便かつ平和的に解決したいのだ。
それを、次元震の事でネチネチと責め立て始め、自分らの優位的な立場を作り出そうとしている。全く持って愚かだ。自分らも彼らを抑えつつ、交渉をしてはいるのだが……。
  そんな傍ら、ジャルクは心底すまなそうな表情でうつむいていた。自分のしでかした罪は大きいものだと、自分を責め立てているのだろう。そんな彼をリンディが支えた。

「ジェリー、そこまで気にすることは無いわ。貴方は最善を尽くしてここまで来たの。何よりも、生き残った乗組員も、良く帰って来てくれたわ」
「……はい」
「それに提督は地球連邦の現状、防衛軍の情報という僕達が望んでも得られなかったものを持ち帰ってくれた。褒められはすれ貶される謂れはありません」

先輩である彼女からの言葉に意一言だけ返事をする。同席しているクロノもジャルクを励ました。しかし、この後に起こるであろう最悪の事態に、彼女らは肝を冷される。
 会議が再開されたのは、それからおよそ一五分後の事だ。各出席者達が席に着くと、早速と言わんばかりに交渉が開始された。主な内容は、物資の流通、命令系統などだ。
まずは防衛軍側からの提案内容である。

一つ、資源の供給源となる惑星の譲与(さらに〈トレーダー〉への直接輸送)
二つ、次元世界内での行動の自由の承認
三つ、軍事的面における独自行動の承認

この三つだ。まずもって、どの提案も管理局側の高官達には了承しかねる内容である。誰もが息を呑んだ。何だこれは、傲慢な提案も程々にしないか!
  リンディにしてもレティにしても、防衛軍の提案した内容に対して、流石に良い表情はしなかった。行動の自由はまだ良いとして、資源惑星の丸ごと譲与というのは無理がある。
元々は管理局が管理下に置いていた惑星を、そのまま防衛軍に「はい、どうぞ」等と気安く譲与できるものではない。“貸与”ではなく“譲与”なのだ。
つまりこれは、防衛軍の完全な管轄下に置かれている事を意味する。管理局の指図無くして、資源を採掘してしまうのだ。これは幾らなんでも虫が良すぎるのではないか?

「古代提督、これではあまりに虫が良すぎる内容とは思わんかね?」

  そう言ったのはマッカーシーだった。それに同意するかのように、フーバーやレーニッツも頷いた。他の高官も、これは幾らなんでも横暴だと主張する。
それでも古代は、この条件を覆しはしない。同じく南部、劉も提案を変えようとはしない。マルセフと東郷、北野に至っては、難しい表情であった。
数二ヶ月あまり、管理局の基に居たからわかる事であるが、管理局には現在まともな戦力が残されてはいない。ましてや、流通面では以前よりも衰えを見せているのだ。
だが防衛軍が万全にして動けるようにするためには、これ位の条件が必要である事も理解できる。まさに板挟みな状態にあった。

「残念だが古代提督、こちらの資源惑星の無償譲与という条件は、簡単に果たせるものではないのだよ」

  フィルスも、古代らの主張を実現化させるためには無理があると発言する。ただし、行動の自由に関しては考え得る余地はあると言う。
あくまで、余地があるだけの事だ。今までのマルセフ達への処置からして、管理局側の監視下に置いてあったと言っても過言ではない。
現に、彼らが出動する際には何かと管理局へ申請を出していた。それに監視役として観察官なる者を同乗させてさえもいたのだ。
マルセフ達にとっては慣れたことであるだろう。そもそも、乗り込んで来た者が信用に足る人物だったからだ。
  だが古代達からすればとんでもない話だ。自分らはあくまで応援として、こうして駆けつけて着ているのだ。
邪険視されようが構わないが、自分らの足元に観察官などと言う、如何にも指図でもしてきそうな者を送り込まれては甚だ迷惑である。

「それに、こちらの状況を説明した通り、我々は本局を失っている。造船所やドック、部品製造工場等、明らかに生産ペースが落ちているのだ。そこで貴官ら防衛軍に、資源惑星を譲与してまっては、こちらにも悪影響を及ぼしかねないのだ」
「……それで、そちらの条件は?」

  何が言いたいのか、と古代は担当直入に管理局側へ訊ねた。ここまで拒む様子の裏には、別の意図があってもおかしくはない筈だ。案の定、それは的中する。
一人の高官が提案内容を挙げた。

一つ、資材・資源・物資は全てこちらの管轄に於いたうえで、防衛軍にも輸送を行う事
二つ、その上で、防衛軍の拠点〈トレーダー〉の工場を使用し、一部管理局向けに部品を製造する事
三つ、共同戦線における艦隊指揮及び陸の指揮は、防衛軍に委ねるものである

以上が管理局で纏められた内容である。どれも防衛軍側に眉をひそませるには十分なものだ。一と二、これは明らかに管理局の下で物資を管理したい事が伺える。
三つめは良い意味で驚く。管理局の兵力も防衛軍が指揮できるという事になるが、これは先日の攻防戦でマルセフが指揮を取っていた例がある。
  やはり経験が豊富な者が指揮するべきなのだろう。それは兎も角として、一と二に関して古代が質問する。

「物資流通に関しては、完全にそちらの管轄下に置かれるというのですか?」
「当然だ。ここは我々が管理して来たのだ。こちらにも法律がある」

法律を盾として、自分らの思う様に動かしたいようだ。防衛軍の要件と管理局の要件が完全に食い違った。管理局高官の主張に、遂に激昂した人物が出てしまう。

「その条件は承諾しかねる!」
「何だと!?」

それは劉だった。この完全に承服を拒む発言に対して、管理局側はざわめくと同時に反論を始めた。

「貴官らが援軍に来ようと、ここは我々のやり方に従ってもらう! それにだ、貴官らは我々の状況が分かっていない訳ではあるまい!?」
「だからと言って、資源の融通を全てそちらに任せていたら迅速に動けない! こちらも生産ラインはフル稼働状態にある。我が方とエトス、フリーデ、ベルデルの艦隊も受け持たねばならないのだ! そこに貴官らまでの部品を生産する余裕などない!!」
「何を言うか! こちらで資源を提供しようと言うのだぞ!? その代わりに部品の製造を要請しているのだ、割に合うではないか!!」

  管理局の高官達の反論に対して、劉もすかさず反論で返す。だがそこへ、高官が先日の次元震のことまで持ち掛けてきた。
次元震を起こした防衛軍にも非があるのだ、ある程度の事は管理局の指示に従ってもらうのは当然ではないか! と言うのだ。
これにはリンディやレティらは呆れてしまった。それとこの交渉では、明らかに用いるべき話ではない。それは単に、管理局の良い様にしたいだけではないか!
  歯止めを掛けようとしたリンディだったが、先に口を開いたのは古代だ。以前よりもさらに強い口調で、管理局らの口を塞ぎにかかった。

「それとこれは道理が違う! 貴官ら管理局は結局のところ、我々防衛軍を懐柔したいと受け止めてよろしいのか!!」
「そうではない、物資流通に関しては全てこちらが……!」
「同じ事であろう!!」

反論はさらに激化してゆく。このままでは、本当に決裂して終わってしまうではないか! マルセフもリンディも焦る。
と、ここで制止させた人物がいた。レーニッツだ。

「やめたまえ! 貴官らも、もう少し場を弁えんか」

彼は高官達を言葉で抑える。二度目の制止にまたもや黙り込む。一旦落ち着かせると、レーニッツは続けて古代達に言った。

「我々としては、防衛軍の自由行動に関しては検討の余地がある。しかし、資源惑星の譲与に関しては、今少し時間を貰いたいのだ」
「……分かりました。物資流通などの件も同時に検討して頂けると幸いです。それと、管理局向けの部品生産等につきましては、こちらの態勢が万全を期した時期でなければ、行う事はままなりません。どうか、そこのところはご理解頂きたい」

検討の時間を必要とする、という意見とある程度の提案の承認が決まった時点で、この会談は幕を降ろす事になった。高官達は渋々と言う呈で会議室を退室していった。
  マルセフは管理局の団体が出払ったところで古代に声を掛けた。どうやら相当に肝を冷やしたらしい。

「古代中将、劉少将、もう少し柔軟に対話を進められんかね?」
「申し訳ありません、マルセフ司令。私の不手際です」
「カッとなり、申し訳ありません……」

古代とマルセフは同一の中将だ。しかし、務めている長さで言えばマルセフの方が一〇年ちょっと上である。
古代は、マルセフが年功序列で地位を上げた男などとは思ってはおらず、防衛軍内部でも有数な軍司令官の一人として敬意を表している。
今回の会談は危うくも決裂しかけたが、多少の条件は呑んでもらえた。後は、資源惑星の譲与を認めてくれるか、であるが……。向こうはどう出るだろうか、と気になるのは当然。
古代達の言い分も尤もな事である。だがこの条件で頭を悩ましているであろう、リンディやレティ等の姿も浮かんでしまった。





  案の定、リンディは頭を悩ましていた。次元航行艦〈メンフィス〉の一室にて、レティとクロノ、そしてジャルクを前にしている。誰もが沈んだ表情をしていた。

「まさか、あそこまで反発されるなんてね」

ため息混じりながら呟いたのはレティだ。防衛軍側の反発が、余程に効いたのだろうか。リンディは彼女の呟きに頷きつつも話す。

「そうね……けど、向こうにも向こうの都合があるでしょうよ。こちらの許可を逐一必要とするならば、防衛軍としては動きにくい筈だわ」
「確かに提督の仰る通りでしょう。古代提督は話の分からない人物ではありませんが、防衛軍が即座に行動するためにも、こちらの提案を跳ねつけたのは頷けます」

ジャルクは古代の下にいた、貴重な人物だ。地球世界を少なからず目にしており、どれ程の文化があったのか、軍内部はどういった物なのか、軍人達にはどの様な人材が集まっているのか、云々と目視している証人である。

「しかし、早くこの資源惑星の譲与を決めなければ、我々としても、今後の進展に大きく影響します。傷ついた艦船の修理も遅れるでしょう」
「クロノ提督の言う事も最もだわ。この際、防衛軍には資源惑星の一つでも譲与させなければならないでしょうね。さもないと、足を縺れさせた状態で二人三脚をするはめになるわ」

管理局の戦力増強と強化を進めるためには、防衛軍からの技術力の提携を受ける必要がある。それを実現するには、先の交渉をクリアしなければならないとクロノは語る。
レティも同意見だった。資材運搬等も手掛ける彼女ならば、特に良く分かっている。早いところ防衛軍にも修理を完了してもらい、こちらとの作業を進めたいのだ。
  だが、彼女の思うところの裏には、さらに別の事がある。これは友人であるリンディ、そしてクロノも知っている事であるが、管理局の新型艦建造の話であった。
現在の管理局が有する艦船では余りにも非力なのは分かり切っている。そこで管理局はSUSに対抗しうる新型艦の設計及び建造に着手しつつあり、それを進めているのがはやてだ。
二佐とはいえ、まだ二〇代になったばかりの彼女が新型艦の扱いを任されているのは、何より彼女の率先した動きにある。
そして、防衛軍軍人である目方から受けていた兵器や戦術のレクチャーを生かし、さらには技術部のマリエルと防衛軍のレーグまでをも巻き込んだ一大プロジェクトだ。
  これを速やかに動かすためにも、先ほどの会談内容を速やかに纏めて防衛軍の納得しうる回答をしなければならない。

(兎に角、ミッドチルダに戻ったら再検討しないとね……)

レティは心中でつぶやく。だが、もしも資源世界を譲与する事になったとして、いったいどこの資源惑星を譲与するのだろう? そこがまた頭を悩ますものである。
管理局の管理下に置かれる資源惑星は幾種か存在するが、中にはある諸事情で手を付けられない惑星も存在しているのだ。
  かといって、管理局が予め採掘施設を置いている惑星を譲与する訳にもいかないだろう。それでは自分らへの供給分が足りなくなる恐れがある。
と言えば防衛軍への供給率も低下する。このままではいたちごっこを繰り返すだけだ。艦隊の戦力再編と増強、都市部の再建と防衛強化。
そんな中にあって、なんとしてでも次回の会談で纏めなければならない、と気を引き締めるのであった。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です。
やっとこさ四九話まできました。五〇話まであと一話……何か考えておかねばならないかも?
それは置いて、今回は会議の内容が大半となりましたが、いかがでしたでしょうか?
会議内容の伏線らしきところは、後に外伝などでお伝えしようかとおもいます。
新年まで、も一週間チョイと言うところですが、皆様、どうか体長にはお気をつけてください。
まぁ、新年の前にクリスマスがありますが……。

〜拍手リンク〜
[一〇四]投稿日:二〇一一年一二月〇三日七:四一:二五 グレートヤマト
管理局、損耗率許容値超えたな。
これで反管理局勢力が勢いづくか?
本局も機能喪失しているから地球の要塞を臨時司令部に伝説の三提督が指揮を執るのかな?
ミッドに地球艦隊の一部が救援に現れるのか?
新たなる旅立ちみたいに……。

>>書き込みありがとうございます!
管理局の損害はとんでもないものとなりましたが、それで反勢力が勢いづくかは……わかりませんね。
新たなる旅立ち! そう、すべてはここから始まる……的な感じでしょうか?(何を言っている←w)

[一〇五]投稿日:二〇一一年一二月〇三日二一:五五:五四 YUU
人が死ぬ事が禁忌の魔術師はおそらく大半がこの後にPTSDに掛かりますね、
今回の戦いでは怒りでアドレナリンが出たから乗り越えられるが今後はまともに戦えませんね、
>砂色の地上にどす黒くも赤い液体が、多量に染み込んでいく。砂がまるで吸血鬼の如く、散りばめられる血液を吸収し、生々しくもそのあとを残していく。
こんな場面見たらトラウマですよw
あと掃除が大変(´・ω・`)

>>書き込みに感謝です!
戦闘時はアドレナリンで恐怖を忘れてしまう事もあるみたいですが、いざそれが覚めれば、後遺症は現れるかもしれないですね。
砂漠に染みわたる多量の血は、確かにトラウマに……。

[一〇六]投稿日:二〇一一年一二月〇四日二〇:一四:一二 EF一二 一
ミッドは辛うじて守り切りましたが、本局の放棄にミッド守備武装隊の壊滅と、内情は大敗。
管理世界内のテロ組織ならともかく、正規の宇宙軍隊には通用しないことが明らかになったわけで、武力という概念については根本的に転換しないと管理局自体が崩壊してしまいます。
今後の再建と再編はまさに五里霧中ですね。
さらに、地球防衛艦隊に続いてエトス、ベルデル、フリーデ艦隊の扱いもありますから、リンディさんはシワができてしまいそうです。
SUS人が人類とは異種異根の生命体であることも披露されるでしょうし、まさに前途多難です。

>>どうも、書き込みありがとうございます!
この大敗ともいえる結果を前に、管理局も方向転換せねばなりません。難しい所ですね。
それとエトスら艦隊はの処遇も難題の一つで有ったり……。
リンディ提督およびレティ提督には、また苦労を掛けそうです……講義の声が聞こえてきそうw

[一〇七]投稿日:二〇一一年一二月〇六日〇:五二:二七 中山 定幸
一気に全部読んでしまった!!めちゃくちゃ面白いやないですか!しかしSUSにヤマトの情報は流れてなかったのかな?SUS の狼狽ぶりが見たかった個人的に地球と監理局の融和の仕方として地球艦隊整備士と監理局の局員が恋人になるのもありだと思います。整備士が落としたスパナを拾ってあげたところから仲良くなるとか。そこで地球艦隊整備士たちが上層部に掛け合い。監理局のほうも局員が上層部に掛け合いといった具合にしたから突き上げのかたちで話が進んで行くと。古代たちにしてみれば前例があるので受け入れ易いと思います。話が変になりましたが頑張ってください。

>>初めまして、そして書き込みに感謝です!
めちゃくちゃ面白い、と言って頂けるだけで、こちらも嬉しく思います!
それと、防衛軍整備士と女性管理局の出会い提案ありがとうございます。こちらも善処して、盛り込ませられるよう、考えたいと思います。

[一〇八]投稿日:二〇一一年一二月〇七日一一:一一:三三 ヤマシロ
戦闘終了(ですよね?)。
辛うじて退けることができた管理局。
でも失ったものは多く、受けた傷は大きく……。
一方、地球防衛艦隊も損害を被ったが、味方来援(伝説艦込み)で士気向上。
そして、おそらくこのイベントで……。
つ「地球のその後」

>>感想書き込みありがとうございます!
失った物はあまりにも大きい戦い、これをバネにして立ち上がらねばなりません。
地球艦隊も来ましたが、さて、これからどうなる事やら……。

[一〇九]投稿日:二〇一一年一二月一〇日二一:六:三七 彗星帝國
ヤマト完結編の【土星海戦】拝見させていただきました。
マルセフ提督の養子の子が
戦士?技術者?生活科?医療科?
何らかの形でヤマト率いる艦隊に乗艦していたりして

>>外伝へのコメント、ありがとうございます!
マルセフの養子たる娘は、未だ検討中です。登場させようか……な?

[一一〇]投稿日:二〇一一年一二月一五日二三:一六:二八 EF一二 一
外伝拝読しました。
フェイトにすれば、心の隅に、マルセフみたいな父親がいたら嬉しいという潜在的な願望があるのかも知れません。
それに、これから思春期を迎えるエリオの事も相談に乗ってくれる気が。
男にしかわからないような事もありますからね。
ところで、フェイトの口調なのですが、彼女は基本的に語尾に「〜なのよ」「〜だわ」等はつけません。
それこそ「〜だよ」「〜だね」とか、むしろ少年に近い話し方です。
主要キャラではティアナとシャリオくらいでしょうね、普通に女性言葉を使うのは。
あと、マリエル・アテンザはクロノより年下です。
(コミックスで、クロノを先輩と呼んでいますので)
砲撃魔法で地球防衛軍戦艦の装甲を撃ち抜けるかというと‥‥、なのはならできるかも知れませんが、彼女はJS事件で意外に深傷を負い、リンカーコアの機能\も低下しており、シャマルからは年単位の休養を勧められた程です。
日常生活や教導はともかく、実戦ともなるといつ古傷が開くかわからないですから、今後“発作”が出ないか心配ですね‥‥。

>>どうも、外伝編へのコメントありがとうございます!
フェイトが実際に、父親という存在をどう考えるのかは、私が勝手に妄想しただけですが、実際はどうなのでしょうかね?
それと、フェイトの口調についてのご指摘、ありがとうございます! やはり少年口調に近いのですね。
なのはの負傷した話は聞いております。深手らしいですが、その状態で防衛軍の戦艦の装甲を貫けるかどうか……検証してみたいですが、私の脳では無理ですね(汗)

[一一一]投稿日:二〇一一年一二月一六日二三:四三:〇 F二二Jラプター
今回は・・・・あれ・・・目から汗が・・・。こういうキャラの過去を掘り下げる話大好きです。それと個人的にですが、今回は今までの文章の中で一番読みやすかったです。

>>外伝への書き込み、感謝です!
感動を感じて頂けたようで、私としても嬉しい限りです(文章表現能力が低いものですから……)
読みやすさも感じられたとのことで、私としてもそれを続けられるよう、頑張りたい次第。



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