連合艦隊が出撃するまでに、予定では後三日後と迫っている。現在のところ、管理局の艦隊が各方面から集結中との事であり、先日以降、SUSによる大規模な襲撃は無い。
それは良いのだが、別として各管理世界のメディアの対応の方が大変である。この次元航行艦の総集結命令に対して、予想された不安や反発の声が上がったのだ。
次元航行艦がいなくなるという事は、自分らの世界が襲われては守ってくれるものがいない。では、誰が自分らを守ってくれるのだろうか。
  中にはより高圧的に出る者もいる。

「管理局の安全さえ確保できればと考えているのではなかろうか?」

等と詰問される始末だ。しかし、そのような事は断じてない。寧ろ、あってはならないと言うべきでもある。
とはいえ、この暴発寸前の市民を収める事は容易な事ではない。そこで動いたのが、伝説の三提督であるキール、クローベル、フィルスの三名だ。
  彼らは限られた時間の中で、より多くの理解を得られようと各世界首脳と対談した。その説得は苦難の連続と言え、幾ら伝説の三提督が相手でもかなり手こずった。
最終的には説得に応じてはくれたが、その下にいるであろう市民の一〇〇パーセントが納得した訳でもない。中には傲慢とさえ思えるような連中もいる。
自分の保身に走るのはよくある事だった。が、この戦争で自分の身だけ護れれば良いという考えは、全ての世界が滅亡に直結するも同じだ。
全世界が守れなければ、自分の国さえも護れない。ともなれば、当然、自分の身さえも護る事は出来ないだろう。全てが繋がっている。

「それで、自分の身だけ護れるなんて思うたら、そら大間違いや」

  不満の声を上げる市民一部に対して、そう批評したのが八神 はやてだった。今、全次元世界は未曽有の危機に直面しているのだ。なのに、自分の身ばかりしか考えない。
彼女は局員として、市民の生活を守ることを誇りとしているのだが、あまりにも理解してくれない市民には愚痴を溢さずにはいられなかった。
もしも、その我が儘に付き合わされて戦力を分散配置し、決戦に負けたらどう反応するのだろうか? きっと、連合軍に罵声を浴びせるに違いないだろう。
  それが人間だ、と言えばそれまでだが毒吐きたくもある。そんな時にこそ、彼女はこう言ってやりたい。

「そう文句言うあんたらこそが、本当の敵やないのか! いったい、幾らで祖国を売ったんや!?」

こんな事を考える程、自分は歪んだのだろうか? と嫌悪感すら覚えた。
  とはいえ、地球連邦でも、市民との小競り合いあったのだろうか、と考えた。防衛軍――とりわけ連邦政府や各地域集部に対する、市民の不満や反発の声は勿論あった。
特にガミラス戦役時代の中期から末期にかけては、激しい暴動運動も珍しくは無い。極東管区である日本支部でも、各地で暴動が頻発していたものだ。
ガミラスの放射能攻撃に対する恐怖や、食糧欠乏問題、エネルギー問題、連続する敗戦など、市民の不安と恐怖、怒りは増えていくばかりであった。
あの〈ヤマト〉が発進する際にも、市民は自分らだけが置いて行かれるのではないか、と暴動を起こしたものだ。その時の乗組員のプレッシャーは、計り知れないだろう。
  そこまで考えた時、彼女を呼ぶ声が聞こえた。はやて自身は考え事に夢中で気づかないようだ。

「はやて……? はやて!」
「あ、え、あぁ、マリーか」

ようやく気付いたわね、としかめた表情をしているのはマリエルである。そんな事で、先輩――クロノ提督の参謀が務まるの? 等と茶化される始末だ。
さらに彼女の側には、〈トレーダー〉に居る筈のレーグがおり、加えてティアナも少し後方にて待機している状態である。
  はやては慌てて立ち上がり、レーグに対して敬礼をする。階級的には彼女が上であるが、世話になつているのは寧ろ彼女らであるのだから、当然の対応だ。

「すみません、少佐。少し考え事をしてたもので……」
「大丈夫ですよ、気にしてはおりません」
「……まぁ、いいわ。貴女も準備で追われているのは、私も、少佐もよく知っているから」

『D計画』推進者のはやてを支えてきた、マリエルだからこそ分かるものだ。話もそこそこにして、はやてはどうしたのかと彼女らに尋ねた。

「先日にレーグ少佐から考案された件について、少佐から直接の報告が……」

そやった、と彼女は思い出す。今から一〇日程前に、はやてはマリエルを通じてレーグの提案を耳にしていた。
それは、とある人物の協力を必須とするもので、彼女は内容を聞いてあまりの奇抜さに驚きはしたものの、面白い案だと受け入れたのだ。
  彼は報告書を手渡すなり、進み具合を口頭でもって説明した。

「マリエル技師の手もあって、計画の八〇パーセントは進んでいます。決戦には、辛うじて間に合うと思います」
「わかりました。引き続き、お願いします」

仕事が早いなぁ、と内心で感心しつつも、気になる事を尋ねてみる。

「そういえば、ティアナはどうなの?」
「はい。私の方も、〈クロスミラージュ〉との連動は良好で、試運転結果も良好と言った所です」

協力者というのが、実はティアナ・ランスターだった。レーグの提案した計画には、彼女の魔導師の能力が必須なのである。その必要とされる所以が、幻術能力にあった。
  レーグは決戦に向けて、少しでも連合軍の優勢を高めようと様々な案をひねり出してきた。知恵を絞って出てきたのが、ダミー艦と合わせた幻影艦隊の編成だ。
幻影ならば、様々な姿かたちに変えられることも可能で、コストもかからないのが利点だ。だが幻影を映し出すための技術は、地球の技術ではさほど高くは無い。
ホログラムでは到底、誤魔化しは長く利かない。嘘が短時間に見破られる可能性があるのだ。より完成度の高い幻影を映し出すためにはどうすべきか。
  そこで彼が思い立ったのが、魔導師の幻影能力である。これは機械とは比べ物にならない完成度を誇る。レーグは依然の模擬訓練で、その様子を窺っていた一人でもあった。
また、戦闘空母〈イラストリアス〉副長のマリノ中佐も、似たよう発想を持っていた。その幻影能力は、管理局内部でも希少価値の高い部類の能力とされている。
普通なら当事者に協力を仰ぐのは難しい話ではあるのだが、その当事者が身近にいた。科学者としての熱意を放ちながらの直接の協力願いには、当の彼女も目を点にしたものだ。
とはいえ、リンディやマリエルへの許可も取ってはいたが……。

「そう。……それにしても、レーグ少佐には、お世話になりっぱなしで申し訳ないです」
「いえ、小官の方こそ、無茶な難題を提案してばかりで……」

  はやての感謝に謙遜するものの、彼は自分の提案こそが図々しいのではないかと思った。だが彼女の言う通り、『D計画』を始めとした行動は、レーグの協力が不可欠だ。
それ程までに彼の科学的知識を始めとする技術が、管理局に影響を与える。艦船開発部で奮闘する、マキリア・フォードやリリー・ネリスも、彼や防衛軍技術者からのアドバイスにより助けられてきた。

「少佐の基で開発されている、ホログラム装置との連動も良好の様です」

  このホログラム装置の本命となるのは、ティアナの有するデバイス〈クロスミラージュ〉ただ一つである。そして、それを使用するティアナの魔力。
ティアナの幻術を、セッティングした〈クロスミラージュ〉でバイパスし、ホログラム装置のエネルギー(魔力)増幅機能により実物大の艦船を作り上げる事となる。
テスト時に防衛軍艦艇の幻術投影を行われ、完成度は予想以上だという。これには、レーグも驚きを持って示し、ティアナの技術力を称賛していた。
  だが、機械はあくまで補佐的なものでしかない。中枢は人間とデバイスである。だからこそ、テスト結果は彼女の力量に左右されていると言っても過言ではないのだ。

「ランスター君の技量は、素晴らしいものですよ。彼女の力あってこその、幻影艦隊が造りだせます」
「ティアナが力添えになれたようで、私としても嬉しいです。ティアナ、苦労を掛けるけど……頑張ってな」
「ハ、ハイ!」

ティアナは内心、照れ臭かった。レーグに言わたように、幻術のコントロールと再現の技量を大いに評価されたのは、正直な話、嬉しい以外に言葉がなかった。
同時に、自分は管理局のためだけではなく、防衛軍のためにも手を差し伸べられたという、ある種の充実感を感じ取っていたものだ。
マリエルの話では、この幻影艦隊が完成次第、決戦における戦術に改定が加えられるであろうとの事だった。その時、ティアナに対する期待も大きくなる。
  そして完成されるであろうホログラム装置は、後に戦闘艦艇に搭載される事となっている。その対象となるのが、防衛軍戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉だった。
当艦は大破した時に乗組員の大半を失っている。その後は無人艦指揮艦として大改装を受けていたのだが、それにレーグが目を付けた。
どうせならば、ダミー艦と幻影艦を操るように、再改装をさせよう。幸いなことに、コントロール装置は完成している。後はホログラム装置の増設だけだ。

「そういえば、今日は地球との交信をされるのでは、ありませんでしたか?」
「えぇ。希望者は各自に地球へ通信を入れますよ。出撃予定は三日後ですし……」

  彼は思わず口をつぐんだ。危うく、最期の通信となるかもしれない、と言いそうになったのだ。幸いにして、彼の行動に気付かなかった三人は、続けて話をする。
彼自身は地球に家族を残している訳でもなければ、親族もいない身だ。仕事関係の間柄の人間しかいない。そのことを彼女らが知った時、複雑な表情を作った。
だがレーグは、その心配をする必要はないと言った。

「私は、更新よりもこちらの作業に集中したいのです。この戦いに勝つためにも」

その様に言う彼の表情は、ごく自然とした笑みが浮かんでおり、はやて、マリエル、ティアナらを安堵させた。
同時刻、一方の〈トレーダー〉においては、地球との交信時間が始まろうとしていた。





  〈トレーダー〉の通信施設では、予定時刻の通信網を確保し調整を完了しつつあった。交信においては各艦艇の通信機を使用することとなってはいるものの、どうしてもこの〈トレーダー〉の大型通信機を中継しておく必要があった。
ここでさらに、予め設置してあった中継通信衛星を通して、地球本国へと交信を行う事になる。希望者全員が話し終わるのに、半日は要する見込みであった。

「回線に異常はないか?」
「ハイ。中継衛星ともに異常はありません。回線がパンクする事もありません」

〈トレーダー〉責任者のアダムスは慎重に作業を進めさせていた。一度に一〇〇隻近い艦艇の通信を中継するとなると、その通信網の処理がどうしても不安になる。
  とはいえ、もとは移動基地として造られたものなのだ。早々簡単にパンクするような事態はない。
さらには、各艦艇の交信希望者と順番を詳しく調べ、予めにその通信先とのチャンネルは確保されており、急に順番が狂わない限り大丈夫だ。
オペレーターの報告に安心した彼は、時計を眺めやる。開始時間まで、あと三〇秒たらず……。
  そして三〇秒後、遂に交信時間を差した。

「通信回線、ON!」

アダムスが指示を出し、通信回線を開かせた。その瞬間、各種機器類のメーターが一斉に動き出した証拠だ。だがパンクするような事態は無かった。
後は、通信が終るまで見守るだけか、と通信機の調子を見守り続けている。通信が始まり、交信を行う艦隊乗組員一同。
  艦隊司令官であるマルセフも、勿論その中の一人である。彼は〈シヴァ〉の通信室に赴き、家族との交信を始めていた。
通信席は、プライベート用と業務用の二種類が存在する。プライベート用とは、個室に一機を備えた通信室が複数存在し、〈シヴァ〉の場合は他艦よりも多い。
業務用とは普段の艦隊行動や連絡で使用するものだ。現に、通信士のテラーが使っているのがそうだ。

「さて……」

チャンネルは、既に順番が決められたために設定する必要もなく、マルセフは通信機を作動させて自宅へと繋げることができた。
中継衛星を辿るためか、やや画面が荒いのは仕方ないか、と彼は心内で思った。やがて四秒ほど間を置いた後に、画面がクリアになる。
  すると、その画面には一八歳程の女性の姿があった。こげ茶色のセミロングに、ピンク色のカチューシャを付けており、活発的な印象を与える。

『お、お義父さん!!』
「久しぶりだな、マーシィ」

画面に映るなり、その女性は声を上げた。彼女こそ、マルセフの亡き妻――ラディアが命と引き換えに守った幼子だ。名をマーシィ・マルセフと呼ぶ。

『どうして、連絡をくれなかったの!』

と、娘なら普通そう言うであろうが、彼女は画面越しで、その様な事は言わなかった。寧ろ、父親の無事な姿を観れた瞬間に、涙目となっていた。
その姿に彼の表情は綻ぶ。相変わらず涙もろいのだな、と口には出さねども、内側にしまっておく。正直なことを言えば、連絡を取れなかったのは事情がある。
殆どが軍務としての対応と、全軍の指揮調整に追われていたのだ。

『無事で……無事で、良かったよ、お義父さん』
「あぁ。私も、お前の元気な姿を観れて安心した。心配をかけてすまなかったな、マーシィ」
『私もだよ。……ねぇ、そっちも戦っているって聞いたの。大丈夫なの?』

  彼が次元空間にて戦っているという情報は、地球政府のみならず市民も知るところである。勝てるかもわからない新たな戦争に身を投じていると聞き、彼女の不安は増大した。
しかし、今このように元気そうな顔を観れただけでも、大分気持ちの整理は付いている。マルセフも、余計な心配は掛けたくないために、問題は無いと返す。

「こっちを片付けたら、直ぐに戻る。それまで、辛抱してくれ」
『うん……ねぇ、約束してくれる?』
「ん?」

必ず帰ると言う父親の言葉を信じるマーシィだったが、不意にある約束をしてほしいと言う。それが何なのか、彼は心配の拭えていない娘に、耳を傾けた。

『生きて……必ず、生きて帰って来て』
「……あぁ、約束するさ。必ず、生きて帰る。お前を一人にはさせないさ」

娘の瞳が、やや潤んでいることに気が付いたマルセフは、心配をさせぬためにも、静かだが力強い声で、生きて帰ることを約束する。
マーシィは自分が本当の娘ではないことを承知していた。それを知ったのは彼女が一四歳の頃で、事実を知った彼女の反応は、予想とは違うものであった。
ただ一言、そう、と言っただけだ。彼女も薄々感づいていたようで、性格も大人びていることから驚きはしなかったのだろう。
  とはいえ、マルセフは軍人と言う職業をしている以上、つきっきりで面倒を見てやれたわけではない。彼の親戚に預けたりする事も多々あったのだ。
その親戚の指導が良かったのかは定かではないが、マーシィが執拗にマルセフを責め立てるような真似はせず、帰る度に笑顔で迎えてくれた。
そんな娘の姿にマルセフは、仕事ばかりで面倒を見てやれないのが残念だと、悔やんでいた。ましてや、親を一度亡くしているのだ。
  せめて生きて帰り、娘に無事な顔を見せてやることが、自分にできる最大限の事だと、彼は思うのだ。

「それにな、お前の花嫁姿と、孫を見るまでは安心も出来んさ」
『な、何を言ってるの、お義父さん!』

自分もそのような歳になる頃合いだな、と呟くも、マーシィは少しムキになって言い返す。未だに娘の浮いた話を聞いてもいないのだが、と彼は時折考える。
娘との久々の会話を、短い時間ではあるが、区切らねばならない。後がつかえているのだ。彼は最後に別れの言葉を言う。

「じゃあな、マーシィ。必ず、帰るからな」
『ハイ。必ず……』

そう言い、マルセフは通信を切る。無音になる通信個室内で、一度深いため息を吐くマルセフ。頭の中で、娘の声が幾度か木霊しているようだ。
生きて帰る、必ずだ。でなければ、ラディアにも、そしてマーシィの本当の両親にも顔向けできない。気持ちを一通り整理させてから、彼は席を立ったのである。





「さて、どうするか……」

  〈シヴァ〉副長のコレムは僅かにできた時間の空きをどうするか、と考えつつも〈トレーダー〉にいた。既に両親との交信を終えており、久々の会話を楽しんだ。
やはり、他の者と同様に、酷く心配されていたようで、顔を見るなり落ち着かない様子で、大丈夫だったのか、等と聞いてきた次第である。
大怪我をしたことは、秘密にしている。そうでもしないと、余計に両親は心配する気持ちを増加させるばかりだからだ。
  その後は打って変わって、何故かしら両親はコレムに対して結婚話を持ち上げた。既に三〇歳を迎えようと言う彼だが、浮いた話はないのが、現状である。
別に本人は結婚に興味は無い、ということではない。軍人である以上、そういった事に時間をかける余裕がないのが実状なのだ。
  ふと、突然彼の名を呼ぶ声が聞こえた。何かと思い、視線を向けた先にいたのが……。

「北野准将、チリアクス大佐!」

戦艦〈アガメムノン〉艦長の北野と、〈ヘルゴラント〉艦長のチリアクスである。珍しい組み合わせだなと考えつつも、二人の方へ歩み寄った。

「お二方は、家族との交信は済まされたのですか?」
「あぁ。チリアクス大佐も終えたので、二人で打ち合わせをしていたんだ」

どうやら、二人が預かる事になっている無人艦隊の事の様だ。無人艦隊は、以前も述べたように、完全な戦力を整えてはいない状態で戦闘に挑まねばならない。
先日の〈デバイス〉ジャック事件において、通信システムを破壊されてものの見事に動きを封じられたのは、記憶に新しい。不名誉ではあるが。

「戦闘艦としての戦闘能力に、不備な点は無いと言って良いのですがね。如何せん、AIも万能ではないので」

  そう語るのはチリアクスだ。無人艦のAIは、レーグ少佐の有していた技術知識から改良されたものだ。そのため、地球製AIよりも性能は断然良いと言えた。
ただ彼の言うとおり、万能とは言い難い。有人旗艦からのコントロールが、戦闘の被害で途絶してしまった場合、自律モードでの行動では乱れを加速させる恐れがある。
実際に無人艦が独立行動を作動させた時、旗艦〈ヘルゴラント〉の動きに追従するのが精一杯であったのだ。

「〈アガメムノン〉は、やはり改装は……」
「残念だが、間に合わない。私は正式に、〈ヘルゴラント〉で指揮を執る事になった」
「そして私は、〈アガメムノン〉に乗ります」

両者は入れ違いの形で、乗艦を変える事になっていた。ただし、乗組員はそのままだ。頭だけを入れ替えた方が、何かと楽でいいようだ。
  そして、乗組員の大半を失っている〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の扱いに関して、彼らは話を聞いていた。囮艦隊の旗艦となるべく、改装を受けている。
その戦艦を誰が指揮を纏めるかであるが、辛うじて命を取り留めた副長が、艦長代理として指揮を執る事になった。

「後任となる副長は、傷の具合も良いらしい。立ち直ったばかりではあるが、余分の補充員も居ないからな。何とか、頑張ってもらわねば」
「大丈夫でしょうか? 突然、囮部隊を率いろと言われたら混乱するのでは……」

北野に対してコレムは不安があった。いまだに〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の副長とは直接会ったことが無い。耳にした話では、三〇代前半ほどだ。

「そう言いますが、突然に艦隊司令代理を任されて、SUSを撃退したのはどこの誰でありましたかな?」
「そ、それは……」

  不意にチリアクスから痛いところを突かれた。そうだ、コレム自身もこの空間へ迷い込んだ直後、マルセフの代わりに、初遭遇したSUS艦隊の一部を撃退した経緯がある。
とは言うものの、その副長も同じことができるという保証もない。場合によっては、補佐を必要とするかもしれないだろう。北野はそう述べた。
話を変えて、コレムは二人に親族との交信はどうであったかを尋ねてみた。まず最初に答えたのは北野である。

「両親には心配されたね。少し過剰な所もあるが、こちらとしては親が無事であったことの方が安心した。ついで、身を固めたらどうか、等と言われてな」
「准将もですか」
「という事は、コレム大佐も?」

何という事だろうか。近頃の親は、結婚話を進めてくるのがブームでもなっているのか。というのは冗談であるが、親が結婚して身を固めろと言う理由も、分からない訳ではない。
  だが完全にそれを理解するには、実際に嫁を向けて家庭を持ち、子供を持たねば分からないだろう。

「チリアクス大佐は、ご家族とお話をされたので?」
「えぇ。久々に妻と息子、娘と会話が出来て安心しました」

のほほん、と自然に笑顔を向けてくるあたり、彼は余程の愛妻家なのだろうか。自慢する訳でもなく、家族の話をするチリアクスを見て、そう考えたコレム。

「帰還したら、家族の親交を深めようと思いましてね。長く外――宇宙にいたものですから……」

彼によれば、娘と息子はそれぞれ一四歳と一一歳だという。あまり離れていては、家族を見捨てたと思われてしまいますからな。とも言うチリアクス。
よくよく考えれば、自分も三十路を向かえる身だ。そろそろ、その時期なのだろうが、生憎と生涯を共に歩もうとする女性は、見つかってはいない。
  そういえば、北野准将はどうなのだろうか? 彼には副長の藤谷中佐がいたが……ためしに聞いてみるか。

「准将には、心に決めたお人は、いらっしゃらないので?」
「いや、残念ながらそれは……」
「藤谷中佐は、どうなのですか?」
「何を馬鹿な事を……。彼女は、あくまで部下であり、サポーターだ。そのような関係ではないよ」

  と、落ち着いた表情で否定するものだが、怪しいものだ。彼はエリートとしても優秀な人物である事は十分承知している。それに、思考も柔らかく、理解力に富む。
真意のほどは別として、案外、彼は気づいていないのかもしれない。などと考えている折、今度はコレムが聞かれる立場になった。
こうも嫁話に方向が傾くとは思ってもみなかったが、いったい何処でそうなったのだか。原因が自分であるにも関わらず、棚に上げてしまった。
  北野は、コレムが良く話し合う相手――フェイトの事を例に挙げた。それこそ、待ったをかけるべきだろう。コレムは先の北野と同じように否定する。

「ハラオウン一尉とは、その様な関係にはありませんよ。最初にあったのが縁で、話す回数も少し増えただけです」
「……日本では一期一会という(ことわざ)があるのだが、貴官が言うその縁が、案外当たるかもしれんぞ?」
「イチゴ……イチエ? なんですか、それは」

日本人なら耳にしたことのある四字熟語だろう。コレムとチリアクスは疑問を浮かべた。それに北野が答えようとすると、別の声がそれを遮った。

「『一生に一度かもしれない、だからその出会いを大切にしよう』……そういう意味でしょう、艦長?」
「……副長」

  そこにいたのは、腰に片手を当てながら立っている藤谷である。いつの間にいたのであろうか、と思おう。どうやら北野を探していたようだ。

「探しましたよ。打ち合わせの続きを再開したいのですが……」
「あぁ、そうか。すまないな、手間を取らせてしまって。では、チリアクス大佐、こちらの打ち合わせが終りましたら、またお願いします」
「了解」

コレムにも敬礼し、その場から離れる北野と藤谷の二名。その後ろ姿を眺めやるコレムとチリアクス。ふとチリアクスが言い出す。

「准将も鈍いお人だ」
「では、やはり?」

コクリと頷くチリアクス。藤谷の態度は素っ気ないものに感じたが、どこかしら北野を想っている節もあったと、彼は語る。





  宇宙戦艦〈ヤマト〉艦長の古代 進は、その旗艦の艦長室にて事務処理を行っていた。艦隊編成を必要以上に行う必要はなく、基本編成は第一特務艦隊そのものである。
ただ、マルセフの指揮する新設される第二特務艦隊に関しては、有人と無人を合計して六一隻と、定数の七〇隻以上に届かないでいた。
そこで古代は第一特務艦隊から五隻程の艦艇を編入させようか、との提案をマルセフに持ちかけた。そうすれば戦力のバランスも上手い具合に取れる。
だがマルセフは、好意こそ感謝したがその提案を容れることはなく、既存の編成で決戦に挑むことを古代に伝えたのだ。

(とはいえ、決戦に向けての最終作戦は決定されてはいない。囮もどう使うか……)

  彼も耳にした、囮部隊の扱いについて、戦術的作戦への変更を求められていたからだ。レーグ少佐の努力により、早くも囮部隊は完成を観るという話だ。
これをうまく使い、SUS艦隊の戦力分散でも狙えれば、より勝機は連合軍にある。同時に囮部隊も無事に返ってこれる保証はない、と言う事も忘れてはならない。
もしも囮という事がバレてしまえばどうなるか。しかも攻撃能力を全く有さない囮部隊だ。
  唯一、戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉のみが、拡散波動砲(ディフュージョン・タキオン・キャノン)一門と主砲六門を使用できるのみ。
これを特定され撃沈させられただけで、囮部隊は無用の長物となる。下手をすれば、分散されたSUS艦隊の一部が、迂回ルートを通って後背を付いてくる可能性もある。
囮を務める者の技量が問われる戦法だけに、同乗させるという管理局員には、より危ない橋を渡ってもらう事になりそうだ。

「……美雪」

  ふと、彼は手元作業を中断し、地球に残した娘を思い返す。彼も、先程まで通信機を使い、娘の美雪と交信していたのだ。
娘のもとを離れて凡そ二ヶ月あまり。思えば、長いようで短いものだったと感じる。だが娘と再会すると、その時間は長いものだとも思える。
雪が行方不明になってからの、素っ気なくも埋めがたい溝のあった親子関係も、だいぶ緩和されていた。だが、この航海と任務の長い時間で再び溝ができるのではないか?
そんな心配をしてしまう。彼はそのような心境で、通信画面で美雪と向き合った。しかし、彼女は父親との交信を、首を長くして待っていたようだ。
  通信が繋がるなり、無事でよかった、と呟いていた。今は雪が行方不明で、肉親は古代一人しかいないのだ。
もしも古代までもが、彼女の目の前から居なくなってしまった場合、その時こそ、彼女の精神に多大なダメージを与える事となる。
引き取り手もない訳ではない。他にいるとすれば、それは雪の実家――旧姓 森の両親だ。その両親にも、古代はだいぶ迷惑を掛けてしまったと、今更ながらに反省していた。
  当然、嫁の両親は古代を責め立てた経緯も存在する。

「貴方が、娘を殺したのよ!」

と言われた時の、心への影響は小さくはなかった。だが責任は自分にあることを自覚しており、何を言われようと、彼は甘んじて罵声を全身に浴び続けた。
  だがそれを止めさせたのが、娘であった。最初は彼女こそ、罵声を投げつけてきたものだったが、SUSの一件で古代を理解してくれたのだ。
平和に馴染めないからと言って、宇宙に飛び出していた頃の自分が情けなかった。それを改めて、宇宙の何処かに居る雪を探し出す事を決めたのだ。
そして今、妻が生きている可能性はより高いものだと確信している。彼が現にいる、この次元空間がそうだ。
  最初は半信半疑であったが、あのSUSが異次元人であることも踏まえると、雪はワープ離脱時に別空間へと飛ばされてしまったのではないか、と彼なりに推測していた。
今はまだSUSと再度の戦争の真っ只中であり、捜索には時間を割けそうにもない。あの管理局提督のジャルクも、彼の力になろうと協力してくれている。
しかし、SUSにより通信網を遮断された管理世界もあり、情報収集は容易にはいかなかった。ならば、早くこの戦争を終わらせる必要がある。
笑顔で帰りを待ってくれている娘に会い、また雪を探し出すためにも、古代は必ず生きて帰る事を強く誓ったのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも〜、ご無沙汰しております、第三惑星人です!

まずは……当小説のアクセス数が、一〇万に達しました! 皆さん、ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます!!
まさかこれほどのアクセス数になるとは誰が予想しえたであろうか……自分でもビックリです。
まだまだ低レベルな文章ではありますが、これからも、よろしくお願いいたします!!

前回の投稿から二週間以上の間が空いてしまい、申し訳ないです。日常的な会話を盛り込もうとした割には、文章量が多くなりすぎたり、上手く場面切り替えが出来ないなどの不具合、さらに指が進まないという……。
艦隊戦自体は、もう少し先(二話分先?)になる予定です。
 そして、本作で細かいところでありますが、変更する個所があります。それは防衛軍の制服についてでして、復活編ではデザインが一新されています。
私はそれになぞって来たわけですが、つい最近のヤマト二一九九を見ていて、やはりこちらを基準とした方がいいかと判断。
従来通りの、黒コートにスカーフという姿や、二一九九で設定された色別コート、或いは下士官制服を参考にしたいと思います。

 それと私事ですが、七月二日にヤマト二一九九第二章を観に行ってまいりました。素晴らしいですね、旧作の流れを残しつつ、今の映像技術でリメイクされた映像は!
メカニックの描写なども、フルCGではなく、手書きとの?き分けが上手いです。さらには、ヤマトの主砲がガミラス艦に命中した時の描写、リアリティやこだわりを感じます。
同時にガミラス戦車が、荒れ地を走るときの揺れ、被弾した時の音、爆発するまでの間、監督やスタッフはよく考えておられます。
それとは別に、音楽につきましても、宮川氏の息子さんによる指揮演奏は素晴らしいものです。観た方は分かると思いますが、浮遊大陸でのガミラス艦との戦闘、及び冥王星基地でのヤマト反撃時に流れる、新曲と思しき曲が気に入りました。早くCD化してもらえないかな〜と思う次第。
 最後に……。シュルツ司令の娘さん、かなり可愛らしいキャラでした。ネットで「お義父さんと呼ばせてください!」と書き込んだ人の気持ちも、分かる気がしますw
ただし、原作ではヤマトとの戦闘で戦死した経緯があります。それに、敵前逃亡扱いされた彼の影響が、本国の家族にも及ぶのだろうかと考えると……。
この作品、ガミラス側(シュルツをはじめとした二等ガミラス人)の内部事情も作りこまれており、先の展開が読めそうにないです。



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