『貴様には失望したぞ、ベルガー』
SUS〈ケラベローズ〉要塞の指令室にて、他者を圧する程の威圧感を放つある人物が、ベルガー総司令官をスクリーン越しで睨めつけていた。
ベルガーの上司にあたる人物なのだが、その姿は本来の姿ではない。かのメッツラーらが明かした、本当の姿である。紫を気色とし、ギラリとした視線と口元。
それだけでも普通の人間は恐怖に慄くに違いない。だが同種であるベルガーが慄くのは、無論そのような理由ではない。今の戦況が全ての原因である。
そもそもこの通信が入ってきたのは、ディゲルが連合軍の波動砲を受けてしまった直後の事だ。このタイミングで通信とは、ベルガーも意表を突かれた。
通信先が本国からと言うのだから、表情がこわばるのも無理はない。この決戦までに、幾度となく敗北を続けた経緯もあり、本国司令部の目が厳しくなったのだ。
『ここまで地球にしてやられるとはな。無能なバルスマンに役立たずのメッツラー……貴様もこやつら同然の屑か?』
「ハ……」
『それだけではない。2000隻近い艦艇を尽く失うとはな……この愚か者め』
いつぞや、自分がゲーリンへ向けて放った言葉が、自分へ向けて放たれる。どうしてこうなってしまったのか、と考える事すら馬鹿らしく思えてくる。
あれほど地球を舐めるなと言っておきながら、結局はしてやられたのだ。ディゲルも艦隊を失い、単艦のみで戦闘を強いられる羽目となっていた。
「か……艦隊を失い、面目もございません、閣下。この上は、この〈ケラベローズ〉を持って……!」
『黙れ』
目がスッと薄められると同時に、ベルガーの口を封じた。お前には弁解の余地はない、とでも言いたいようである。
『貴様は、艦隊を失い、あまつさえ重要軍事拠点をも消滅させる気か』
「ですが、主砲を浴びせれば、奴らとて葬るのは……」
『そう考えているとは、とことん幼稚なものだな、ベルガーよ。貴様の楽観視で〈ガーデルス〉を破壊されたのを、もう忘れたのか』
スクリーン越しで罵声を浴びせる上官の言葉に、ベルガーは言葉を詰まらした。シールド装置を搭載した〈ガーデルスT〉を破壊されたのは記憶に新しい。
シールドが無い要塞など、連合軍にとっては良い的になるだけだ。〈ガーデルス〉は残り4門しかなく、全方位を完全にカバーできないのだ。
もしもあのタキオン兵器を全方位から斉射されれば、間違いなく〈ケラベローズ〉は消し飛ぶ。上官はそれを強く指摘してきた。
そして閣下と呼ばれる人物は予想外の命令を下した。
『……貴様に命じる。至急、この空域から離脱せよ』
「なっ……!?」
ディゲルが単艦で戦闘を行っていると言うのに、ここで離脱せよと言うのか! 驚きの反応に対して、上官は冷たく切り離すように答える。
『ディゲルは死ぬ。所詮は玩具に夢中になり、周りの見えぬ愚か者よ』
「しかし……」
『これは“カーザ”のご命令である』
「っ!」
カーザ……それはSUSにとって絶対的な存在である。異次元空間を支配し、次元世界へ侵攻を命ずる指導者。そして、そのカーザからの直接命令は絶対であった。
『貴様は帰還しても、処刑されるに変わりはない。だが、カーザからの寛大なご処置を賜った』
「処置……ですと」
『そうだ。最期のチャンスを与えてくださるのだ』
その瞬間、ベルガーは絶望ではなく、希望を掴みとったと言わんばかりの表情を作った。まさか、名誉挽回の機会を与えてくださると言うのか。
どの道死ぬにしても、不名誉な名で覚えられたくはない。ならば、処置とやらを完遂して、名誉ある戦死を遂げた方が余程よかった。
だが中身に関しては、離脱してから伝えると言う話であった。何せディゲルは上官の予想通りに苦戦し、撃沈されようとしていたからだ。
「分かりました。至急転移し、離脱を図ります」
『それでよい。後にまた連絡する』
そう言い残すと、一先ず通信を終えた。
「……全要塞、時空転移を準備!」
「了解!」
転移準備が着々と進むなか、前線のディゲルは遂に波動砲を受けた。〈ノア〉の両側面に風穴を開けられ、航行不能寸前に陥っているようだった。
悪いが先に逝け、大して待たせん。どちらにしろ儂も死ぬのだ。繰り言は虚無の門で聞いてやる。
やがて転移の準備が完了するのと、ディゲルの〈ノア〉が撃沈するのは、ほとんど同じであった。
「転移準備完了!」
「転移開始!」
巨大な要塞は僅かな時間でその場を後にした。
連合軍と〈シヴァ〉〈ヤマト〉らの攻勢を前に、SUS艦隊は持ち前の戦力をほぼ損失した。ここから最終局面へと突入すると思われた次元大戦であったが……。
「敵要塞、空間転移します!」
「逃げる気か!?」
ジェリクソンは声を上げ、他の者も騒然となった。総本山だけとなった〈ケラベローズ〉は、〈ノア〉が消滅するとほぼ同時に空間転移を開始したのである。
これは撤退を意味するのだろうか、とマルセフは消えゆく要塞を睨めつけながら考えた。今攻撃しても到底届くはずもない。
本来ならここで、SUSに降伏を勧告する予定だったのだが、消えてしまっては伝えることも出来ない。数秒の後、〈シヴァ〉に通信が入った。
〈ヤマト〉の古代からである。通信画面に現れた彼の表情も、マルセフと同様に何か拭えないものである。
『総司令、SUSは何も言い残さずに消えましたが、撤退とみるべきでしょうか?』
「古代司令、それは私も考えていることなのだが、はっきりとは言えん。だが、あれだけの戦力を失ったことを考えると……」
『撤退の可能性も有り得るというわけですね』
普通ならばそうだ。そう考えてもおかしくはない。だが、何だろうか、この靄が掛かったような心情は? SUSは、まだ何かを隠しているような気がしてならない。
これもまた軍人としての勘であろう。相手がそう素直に撤退してくれるような輩とも思えないのだ。そして、そう考える人間は彼だけではない。
「はやて、君はどう思う?」
「ウチは撤退したと考えるんやけど……引っかかるんや。根拠は無いんやけど……これで終わりやない、たぶん」
次元航行部隊第1機動部隊のクロノ、はやても、疑問視している。他のオペレーターらは、逆に撤退したと信じているようで、お互いに手を握り合い、生き残った喜びを感じあっているのがわかる。
ぬか喜びとは言うのは酷だろうが、そういう心情になるのも無理はないだろう。管理局としては初めての、全戦力を結集した総決戦に生き抜くことが出来たのだ。
同僚のルキノ・リリエなども、他の女性通信士と喜んでいる姿がある。
「……まぁ、僕らはここに残ったんだ。これを勝利と言うべきなのではないのかな?」
「そやね。SUSは戦場から撤退した。これは間違いのないことや。少しくらいは、生き残った喜びを感じうのも、悪くない筈やで」
連合将兵達は、大艦隊を打ち破ったと喜ぶ者が大半だったのは確かである。不安に感じたのは、司令官の面々だが、あまり考え過ぎていても始まらない。
やがてマルセフは全艦隊に新たな命令を送る。
「これより、第2拠点へと帰還する。全艦、隊列を整えよ!」
何はともあれ、いつまでもこの空間にいる訳にはいかない。艦隊も半数以上が傷つき、修理を必要としているからだ。そして、その被害も凄まじいものだった。
最終的に生き残ったのは、地球艦隊80隻、次元航行部隊273隻、エトス艦隊92隻、フリーデ艦隊68隻、ベルデル艦隊57隻、総計570隻だ。
実に4割を失った事になる。さらに言えば、その内の1割が〈ノア〉1隻による結果でもある。それだけ手強かったということだろう。
〈シヴァ〉ら地球艦隊を中心に、連合軍は艦隊の隊列を整え終ると、第2拠点へ向けて前進を始める。到着まで12日前後は掛かる事だろう。
「通信長、本部へと打電してくれ。『我、甚大な被害を出すも、SUS艦隊の撃滅に成功せり。ただし、要塞は撤退したものの所在不明なり。注意されたし――』と」
「ハッ!」
テラー通信長は通信機器を操作し、勝利と共に警戒の通信文を送った。その傍ら、マルセフは席に深く腰を掛けてながら思考に深けいる。
果たして、SUSの総大将は撤退したのだろうか。あるいは、他の占領世界へ後退でもしたのだろうか。そこで反攻の機会を窺うのか……いや、その可能性は低い。
SUSは広大な次元世界に手を出しては、多くの資源を確保しているという強大な相手だ。その詳しい実態は未だ入手できてないが、今までの敵とは規模が違うのは明白だ。
そこで浮かびあがった可能性。それは、ミッドチルダへの直接攻撃ではないだろうか? 普通なら、その様な無謀とも言える行為はしないだろう。
だが、今回はその可能性を捨てきれない理由があった。それがSUSの巨大揚陸艦の存在である。
(決戦で戦力を増していたSUSだ。あの揚陸艦が追加されていないとは考えにくい)
要塞に奇襲を仕掛けた際、1隻は巻き添えで大破していたようだが、他の艦の撃沈までは確認しえていない。つまり、まだ残っているという事である。
ミッドチルダでの記録解析によれば、巨大揚陸艦1隻が有する小型揚陸艦の搭載能力は10隻。そして小型揚陸艦の搭載能力は大体の見積もりで戦車4輌分。
SUSの戦車は地球軍製よりも大型故だからだろか。単純に考えて巨大揚陸艦一隻撃ち漏らしただけで敵の戦車が40輌増えることになる。空間騎兵隊所属の機甲旅団一つ分だ。
「……通信長、古代司令を呼んでくれ」
「ハッ……出ます!」
数秒して古代が通信画面に現れた。マルセフは再度呼び出したことに詫びを入れつつ、SUSがミッドチルダへの直接攻撃の可能性は無いかと問いかけた。
『実は、小官もその可能性を考えていました』
「そうか。奴らの揚陸艦らしき艦艇は、全て潰していないと考えると、やはりあり得るかね」
『はい。要塞内に残されている陸上兵力がどれほどのものかは予想できませんが、前回の兵力を上回ると考えても不自然ではありますまい』
確かにそうだ。管理局地上部隊の報告を纏めた結果だが、上陸してきたSUS戦闘車両を破壊したのは80輌中26輌だという。3割ほどの損害を与えたわけだ。
だが問題はその後だろう。SUSはこの度の決戦でどれ程の兵力を増したかだ。下手をすると、倍に膨れ上がっている可能性もある。
残存と合計して140輌近い戦闘車両が配備されていることとなるが、どうなのか。
そこでマルセフは、ミッドチルダに残されている陸上部隊について尋ねた。これらを相手にして勝てるかと。すると彼は、口元を綻ばせながらこう応えた。
『古野間旅団長は、防衛軍でも屈指の指揮官です。デザリアム戦でも、ゲリラ戦でもって巻き返しを成功させた経歴の持ち主。簡単に負けはしないでしょう』
第6機甲旅団の戦力で、3.5倍ものSUS戦車部隊を相手にできるかと思うと、普通の人間ならば不可能と言う。だが古野間率いる旅団はそれほど脆弱ではない。
戦車の性能はSUSの戦車にも十分に対抗できる力がある。例のアマールでの市街地戦でも、防衛軍が陸揚げした空間騎兵隊はSUS軍戦車部隊を退けて見せた。
その戦力比は地球軍を1とすれば、SUS軍は4といった所であろう。だがそこに、劣勢ながらもアマール陸上部隊も参加。共同戦線を構築した経緯もある。
『それに、管理局の陸上部隊も新型戦闘車を導入しております。性能では地球に劣りますが、SUS相手に簡単に撃砕されるような事はないはずです』
「そうだな。SUS戦闘車のデータが役に立ってくれればよいのだが……」
地球防衛軍はSUSと戦闘しただけで終わらせる真似はしなかった。その戦闘を記録した映像や残骸から分析を重ねてきた。
そのデータを管理局の新型戦車のためにバックアップしたのである。後は実戦でしか証明してくれないが、その時が来ないのを祈りたいというのが本音だった。
帰還途上にある連合艦隊の1隻、装甲巡洋艦〈ファランクス〉は辛うじて撃沈を免れていた。あの〈マハムント〉の直撃を受けたにも関わらず、である。
SUS旗艦級戦艦の主砲射撃を2度も受けながら2度とも轟沈しなかったことを考えれば幸運といえるのかもしれない。
しかし今回のダメージは艦の戦闘能力と航行能力を低下させただけではなく、内部の人間へのダメージも相当なものとなった。
「軍医殿、艦長の容態は?」
「良いとは言えませんな。応急処置で出血と傷口を閉じています。しかし、流した血液の量が多く、もう少し遅ければ出血多量で……」
〈ファランクス〉医務室で、ベッドに横になっている艦長の安否を気遣うレーグに、軍医は何とも言えないような答えをしていた。
あの〈マハムント〉砲撃により、爆発した際に飛び散った破片が、スタッカートの左わき腹を切り裂いたのだ。もし破片が大きなものであったら、彼女の身体は……。
レーグはそこで想像するのを止めた。負傷者となった彼女は、今目の前のベッドで横になっている。酸素供給機を口に当てられ、深い眠りについている状態だ。
薄いシーツなどでを身体に掛けているために見えないが、彼女の腹部には包帯が厳重に巻かれている。傷口は完全に塞がっていないため、動くこともできない。
怪我のせいか、やはりその表情は弱々しいものである。自分は機械の身体であるため、部品さえ交換できれば良いのだが、彼女はそうもいかない。
「……わかりました。私は艦橋に戻ります。どうか、艦長と、負傷者をお願いします」
「無論」
軍医のぶっきらぼうだが、力強い言葉を聞きレーグは医務室という彼らの戦場を離れた。彼はSUS要塞のことを考えながら、艦橋へ足を速めていった。
連合軍からの勝利の報告は、管理局のみならず、全管理世界に歓喜をわき起こすのに十分なものであった。連合軍はやってくれた、SUSをやっつけてくれたのだ!
市民の大半はそう叫んだ。さらに局員の間では、例のカリム・グラシアが予言した内容が現実のものとなったとして、喜びの声を上げた。
「やってくれたか」
「ハイ。マルセフ提督は、SUSを撃退してくれました」
第2管理拠点の指令室に入った吉報に、ラルゴ・キール元帥は安堵の吐息をついた。だが、勝利のために払った犠牲は巨大なものであった事も自覚する。
生き残ったのは全体の6割を切っている程度だ。会戦前と比べ、4割強もの艦船が失われたのである。特に次元航行部隊の消耗率が高い。
そして司令官オズヴェルト提督も戦死したのである。これには伝説の三提督を始めとした面々も、衝撃を受けた。しかし気がかりなのは、報告の最後にあった一文だ。
「……どう思うかね?」
「SUSが諦めて撤退したかは、私も考えかねます。しかし……」
「マルセフ提督が、こういった注意を呼び掛けるという事は、撤退した可能性は低いと見るべきかもしれん」
キールの問いに、ミゼット・クローベル元帥、レオーネ・フィルス元帥の両名もSUS完全撤退の可能性を否定した。彼らの気を緩めない姿勢に、側にいる一同も身を引き締めた。
リンディやレティも一度は勝利の報告に素直に喜んだ。だが、肝心の親玉が姿を消してしまったことを知るや、その戦勝気分も何処へやらである。
相手は何処に出てくるのか。そこでリンディが思い浮かんだのは、ミッドチルダへの直接攻撃ではないか、というものである。レティも同様の考えだ。
「後がないSUSが、一気に戦局を逆転せしめる方法は一つ……」
「リンディが言いたいことは予想がつくわ。ミッドチルダを攻撃する……ね。それしかないでしょうね、彼らには」
SUSの陸上兵力が不明なうえ、要塞砲が4門も残されているとの報告がある。だが上陸するとは限らない。その前に要塞砲で直接に攻撃してくる可能性もある。
SUS要塞の主砲は威力がずば抜けて高いと計算されており、波動砲クラスと同レベルであるという。ということは、4門で斉射された場合、ミッドチルダは……。
「消滅してしまうわ」
リンディは腕を組みつつも、壮絶な光景を浮かべて苦い表情を作った。惑星が破壊されるとなってはただでは済まされないのは勿論、そこにいる人間も同様である。
瞬時に惑星は内部から大爆発を引き起こし、民間人は逃げる暇もない。管理局一同にとって、惑星が破壊されるなどと言う経験を体験したことは皆無だ。
だが地球にしてみれば、惑星が破壊されるというのは現実にあり得る話であり、地球以外の勢力圏でそれは幾度か繰り返された。
その一例として挙げられるのが、ボラー連邦が使用した対要塞用の超大型ミサイルだ。要塞を破壊する威力があるだけに、10発近くで地球型惑星を消し飛ばしている。
旧ガミラス帝国の場合、デスラー砲3発によって惑星を破壊した経歴がある。ただし、暴走したイスカンダル星を救うための処置であると同時に、イスカンダルへの影響を最小限度にするために、出力は抑えていたが。
「閣下、SUSが出現する可能性がある以上、警戒令は継続すべきかと」
「そうだな」
リンディの進言にキールは頷いた。
「全管理世界には、警戒令を解かぬ様に伝達。その理由も付けておくのだ。それと、ミッドチルダのマッカーシー幕僚長にも伝えるのだ」
「ハッ!」
通信員は復唱し、ミッドチルダ地上本部司令部へと通信を送る。とはいえ、SUSが到達すると予想されるのは、推定で10日〜12日後だろうとされる。
要塞にどれ程の速力があるかは不明だが、そう見るのが妥当かもしれない。となれば、連合軍との到着と重なる可能性もある。
再びミッドチルダが戦場と化してしまうのか。今回もミッドチルダには護衛の艦隊は1隻も残されてはいないのだ。
「……念のために、ミッドチルダの市民には避難警報を出しておいた方が良いかもしれんな」
「ですが、避難させるとは言いましても、一体何処へ?」
それが問題だった。前述したとおり、管理局および地球防衛軍らに残存する艦艇は1隻も残ってはいない。ミッドチルダから避難させる方法が全くないのだろうか。
いや、1つだけある。艦艇は無くとも、移動式拠点〈トレーダー〉が残されている。この拠点にも個人用の転送装置などが設置されているのだ。
とはいえ、その輸送量にも限度があるうえに、全員を避難させることはかなりの時間を要する。時間的にも、物理的にも処理上限を超えていた。
「……願わくは、SUSが来ない事を祈りたいですな」
「そうですね。それと、マルセフ提督達が一刻も早く、戻られるのを待ちましょう」
レーニッツ幕僚長の言葉に、リンディも頷くほかなかった。
そのミッドチルダでは、勝利の報告に市民の歓喜の喜びが絶えずにいた。中には、地球防衛軍万歳! マルセフ提督万歳! 等と叫ぶ者すらいる。
実際には地球防衛軍のみならず、他国軍も決死の戦いを挑んでいた訳だが、やはり印象としては防衛軍の方が強かったのであろう。
だが油断のならないよう、メディアも注意を呼び掛けていた。とりわけ真剣に注意情報を流したのは、MT情報局である。
社長のマーク・デミルも楽観視するほど陽気な人間ではないのだ。重要な事はしっかり伝えておかねば、いざと言う時の市民の行動は恐慌状態そのものとなる。
それでも楽観視する市民も多かった。この様子に不安を覚えていたのは、ミッドチルダに仮司令部を置く防衛軍の陸上部隊司令、古野間である。
「ぬか喜びも良いところだな」
「致し方ありますまい、司令。敵の大艦隊を撃滅したと聞けば、喜びたくもなるでしょう」
古野間の懸念に、メイトリック・キャンベル中佐が言った。陸上部隊――第6機甲旅団は、いつでも動けるように万全の態勢を整えてあった。
戦車38輌と、陸上兵員4940名が、現在の兵力数だ。中途半端である原因は、聖王教会大聖堂へ防衛戦力――戦車2輌と兵員60名を割いているためである。
「SUSが再度、陸上戦を仕掛けてくる可能性はあるらしいが……皆はどう考える」
仮司令部にて、出席者の各隊長に問いかけた。その場にいるのは、10名ばかりの中隊長や小隊長が並び、半数近くが歴戦の戦士たる風格を放っている。
残る半数はまだ若手ばりの指揮官だ。だからと言ってひ弱な、というわけではない。
「難しいですね。奴らには要塞の主砲が残されていると聞き及びます。上陸以前に、主砲の直接射撃という可能性の方が大きいかと」
そう発言したのは、戦車中隊長並びに旅団副指令を務めるリッグス・マクレーン准将だ。古野間と同じくらいの年齢で、中肉中背にスキンヘッドという容貌をしている。
「ふむ……実は、俺もそれを一番に懸念しているところだ。計算では連合軍が帰還してくるのと同じ頃に、奴らも現れるかもしれないと言う話なんだが……」
「管理局の足を考えますと、SUSは連合軍より2日か1日早く到着する事も有り得るのでは?」
古野間が腕を組んで悩んでいるところに、今度は20代後半の若い士官が意見した。小隊長を務めるハンス・クリューゲ中尉だ。
「十分にあり得る事だ。だが、肝心の防衛艦隊は満身創痍だとも聞く。早々簡単に全速で駆けつける事は出来ないだろう」
「……」
ここで皆は沈黙する。SUSが惑星破壊と言う暴挙に出てきた場合、自分らは何の役割もなく消え去ることを意味するのだ。
だがSUSが、もし陸上戦を挑んでくれるのであれば、自分らにも時間の稼ぎようは十分にある。勝てなくとも、持ちこたえては見せる。
管理局の陸上部隊は、新型の戦闘車両に順次切り替えを行っており、現在のところでは200輌近い数を揃えつつあるとの話であった。
肝心の搭乗員たちに関しては、完璧とはいかないまでも平均水準にまで持ってきている。尤も、その水準に上げるまでの1ヵ月から2ヵ月というの間、過酷な訓練が続いたのは言うまでもなく、古野間らの鬼の如き指導は局員たちをこれでもか、という程に扱き上げた。
それもまた、艦隊組が訓練で味わうものとは違う地獄であったという。局員かつ戦車のりであるビットマンも、根を上げる寸前だったと、同僚に話していた。
『……連合軍は多大な犠牲を払いながらも、SUSとの決戦に勝利いたしました。繰り返し、お伝えいたします。全世界の皆さん、先日の会戦において……』
「やった、勝ったんだ!」
「連合軍はやってくれたんだ!」
「マルセフ提督、万歳! 防衛軍、万歳! 連合軍、万歳!」
クラナガンの聖王教会に集まる生徒たち、疎開してきた市民達は、ニュース速報を聞いて一斉に歓喜していた。手を取り合い、喜びの声を上げる者達。
嬉しさからか、涙を流しながらも互いに喜びを感じあう者達。さまざまである。だが決して素直に喜ばない者も、もちろん幾人もいた。
その中には高町 ヴィヴィオも含まれている。この少女にとっては、連合軍勝利の報告も嬉しい傍ら、本当に待ち遠しいのは義母の帰還であったのだ。
だが、このニュースでは生存者名を発表してはいない。いや、それこそ膨大なものとなろうことは、予想するのに難しくはない。
「……」
「心配ないよ、きっと戻ってくるよ」
傍にいる少女の友人が声をかける。もう1人の少女も反対側から安心させるように声をかけてくれる。頷いてそれに応えるヴィヴィオは、出発前に約束を思い返す。
必ずヴィヴィオのところへ帰ってくる、と固く約束し合ったではないか。2人の義母と再会して、平和な毎日を過ごして、そして今度は自分が2人を護る。
かのJS事件以降、少女はそう誓った。そのためにも、少しづつではあるが格闘技を学び始めている。“聖王”として覚醒した時も同じだが、近接格闘術が基本スタイルであった。
不安になる者と喜ぶ者が入り乱れる一室とは別の部屋。そこにいるのは当協会の主たるカリム・グラシア。そしてユーノ・スクライア、ヴェロッサ・アコースらの3人。
テーブルを囲み、今のニュースを沈黙を持って眺めていた。その内容としては、カリムの予言した通りになったと言えよう。
破壊神は下部と共に、異世界のを支配する者を打ち破ったのだ。が、その表情は決して良いとは言えない。予言者本人であるカリムも例外ではなかった。
「要塞が残っているとなると、この戦いは終わったと断言はできないでしょうね」
「そうだね……ん?」
ヴェロッサが相槌を打つ。そこでドアをノックする音が響き、思考を中断する。入ってきたのはオットーであった。
「騎士カリム、リンツ大尉が参りました」
「分かったわ。通してさしあげて」
「……僕らは席を外そうか?」
気を使ってか、ユーノはそう言った。だが、それを直ぐに別の声が遮った。
「気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「リンツ大尉」
了解を得て数秒もしない内に、局員の制服ではなく防衛軍の制服を着て、脱色した黄色髪をした30代半ばの尉官が現れた。
「失礼いたします、騎士カリム」
リンク・リンツ大尉。聖王教会にて守備隊を務める人物である。カリムらの前ま来て敬礼した。
「先ほどのニュースは、ご覧になられましたか?」
「えぇ。先ほど」
「それに付いてですが、先ほど古野間旅団長から連絡が入りました」
「大体、察しはつきますが……お聞きしましょう」
彼の話によれば、SUSは一時的に姿を隠したにすぎず、再度の攻勢に出る可能性があるとの推察であった。カリムの予想は大方的中していた。
そして今度は、このミッドチルダが戦場と化す可能性が高く、前回と同様の地上戦になるであろうとの事であった。
「連合艦隊が到着するまでに、SUSが来襲するでしょう。つまり、早くて6日後以降かと……」
「そんなに早くか」
ヴェロッサの驚きにリンツは頷いた。ユーノも、ミッドチルダが再び戦場となるのを想像して、途中で止める。SUSの怒涛の快進撃は記憶に新しい。
歯が立たない管理局地上部隊が蹂躙されていく様は、血を見慣れない彼にとっては思わず吐き気を催すほどのものである。
そしてまた、地上戦が行われるかもしれないという可能性。前回の様な悲劇が繰り返されるかと心配にもなるが、今回は侍女が違う。
防衛軍の戦車部隊と歩兵部隊がいる。今だにその真価を見せていないが、防衛軍艦隊と同様に期待を寄せられている存在だった。
とはいえ、期待される方もプレッシャーが伸し掛かる。幾ら強力な戦闘車両であろうが、物量相手に永遠と戦場をリードできるわけがないのだ。
「もし上陸してきた場合のSUSの兵力ですが、艦隊司令部および陸上司令部での見解は、車両数にして140輌前後」
「140輌……現在の、管理局と防衛軍の戦力と比較した場合は、優位に立てる事となるけど……少尉はどう考えます」
「あくまで推測にすぎませんが、優位に立つのは難しいでしょう」
ユーノの問いに難しいと答えるリンツ。その所以は、防御側に立っている事そのものにあるという。
「SUSは戦力を一点に集中して上陸してくるでしょう。しかしながら、我が方は万遍なく対応するために、分散配置を余儀なくされるのです」
「成程ね。その通りだ。都市を一つ守るにしても、全範囲をカバーするには広すぎる」
リンツの説明にヴェロッサは頷いた。戦車は航空機とは違い、地上を進んでいく兵器だ。航空機なら障害物など気にする必要もないが……。
「管理局の戦車部隊と、我が方の戦車部隊を合わせても、240輌くらいが精々です。しかし、それを四方面へ分散させてしまった場合、1つの方面に60輌しか出せません」
単純な数の計算なら、倍の相手をする事となる。戦闘開始から合流するまでに、かなりの時間も必要となるのは目に見えていた。
戦車は戦艦とは違う。装甲の厚さも必要以上に限られてしまう他、SUS戦車の光化学兵器類の威力も侮れないのだ。
アマール星でのデータを検証した結果、SUS戦車のスタイルは武装を小型化させるのではなく、敢えて大型化させて大出力の主砲を搭載しているようであった。
これはエトス星艦隊にも同じことが言える。大口径砲を搭載するエトスの艦載主砲は、地球の艦載主砲と比較するとかなり大型のものであることが分かる。
武器を小型化かつ強力にするというのは、並大抵のものではない。そこで小型化するよりも、大きさには目を瞑って大型化したうえで、威力を倍加させようというものである。
「……では、何か策が?」
「敵の着陸予想地点を直前まで見極めて特定する以外に、方法はありません」
カリムの問いに、リンツは行き当たりばったりな対策しかできない、と遠回しに言った。だが可能性があるのならば、それは以前の奇襲で着陸した地点であろう。
兎も角、とリンツは口を開く。
「都市防衛は、古野間旅団長らにお任せするしかありません。我々は、我々の任務を全うするだけです」
「ということは、大尉はSUSの一部がこの教会に攻め入ると考えているのですか?」
「否定はできません。ですが、我が部隊に命ぜられたのは、聖王教会の避難民を死守せよ、です」
「死守……」
死守という言葉に、カリムらは息を呑んだ。
「我々の命と引き換えに、ここにいる市民、子供達を全員守り抜けるのならば……それは、防衛軍軍人として本望でもあります」
彼の眼は本気であった。自分らの命を散らせることになろうとも、教会に避難している人々の盾となる事を、ここにいる3人に宣言したのだ。
だが、カリムはリンツの宣言に軽く微笑むと、彼に言葉を返した。
「大尉、貴方達の意気込みは確と聞き受けました。ですが……それは貴方達のみに宣言させる訳にはいきませんよ」
「……?」
どういうことですか、と言いたげな表情で首を少し傾げるリンツ。対するヴェロッサ、ユーノはカリムの言わんとすることを察して、彼女に目を合わせる。
それから目線をリンツに戻すと、再びカリムは言った。
「私、いえ……私達も魔導師の端くれです。それだけではありません、この教会にいる騎士全員もです。非力ではありましょうが、私達も全力で戦う所存です」
カリムの隣に座る2人も頷き、自分らの意志を示す。だがリンツから見ると、不安を感じなかった訳ではない。特にユーノは大丈夫かと思いたくなる。
遺跡発掘や歴史資料の整頓など、デスクワークが殆どなのは周知の事実だ。しかし、腐っても彼は魔導師。使う機会がないこそすれ、全く使えない訳ではない。
攻撃魔法は他魔導師に比べてかなり劣るだろが、援護や防御系に定評があるのだ。攻撃できなくとも、避難民達を護ってやるくらいの事は可能なのだ。
絶対の意志を見せる3人を前に、リンツもやがて目を伏して了解の意を伝える。
「わかりました。いざとなったら、互いに全力を尽くしましょう」
この場を持って、改めて互いの協力関係を認識させる4人であった。
「山南長官、時空管理局より入電!」
場所は変わり、地球の防衛軍司令部。中央指令室に構えている防衛軍司令長官 山南、そして行政長官 近衛を始めとする各メンバーの基に、電文が届く。
一同は緊張した。これが勝利の報告ならばよし。だが敗北したとの報告だった場合……。山南の額から、緊張の汗が滲み出ていた。
「……! 『連合艦隊はSUSの大艦隊を撃滅。勝利せられたり』」
おぉっ、と歓声の声が上がる。司令部オペレーター達も、思わずやった、と声を上げる。近衛も安堵し、肩を降ろす。
「彼らは、やってくれましたな。山南君」
「はい。これで、どうにかこちらへ戻ってこれるかと……」
「あ、お待ちください、山南長官! 追伸が入っております!」
追伸? その言葉を聞いただけで、安堵した気持ちは一転する。どうやら、SUSは要塞のみがその場から姿を消したという事だ。
「マルセフ司令の懸念は尤もだな。要塞のみでも、連合軍に太刀打ちできるものだ。ましてや、大ウルップ星間国家の比ではあるまい」
「……古代司令が記録されたデータと、新たに送られてきた要塞のデータを比較しても、新要塞が圧倒しているようです」
総参謀長のカバード中将は、〈ケラベローズ〉要塞の戦闘能力は既存のデータと比較しても、十分に高い能力を有していると言う。
確かに、この要塞は外部エネルギー源がなくとも、強力なシールドを展開できる。それだけではなく、あの主砲も撃つことが可能なのだ。
マルセフら連合軍の奮闘により、シールドは完全に破壊したとのことだ。しかし、あの主砲は健在しており、予断を許さない状況にある。
近衛も再び不安げな表情に変わる。地球の危機から始まったこの戦争は、銀河系はおろか異世界まで巻き込む大戦になってしまったと嘆いているのか。
この事態は大統領官邸部にも報告され、通信スクリーンに現れたバライアン大統領も、勝利の報告に喜びつつも、緊張の解けない状況下を理解した。
『兎も角、彼らはまだ帰れそうにない、ということかね、司令長官』
「そうです。マルセフ司令は、残存するSUSの来襲に備えるよう、管理局にも連絡したようです」
『うむ……SUSが諦めてくれればよいが』
「私も、そう願いたいです、大統領」
互いに不安を抱える中、地球と同盟関係にあるアマール、エトスを始めとした国家、あるいはフリーデ、ベルデルなど準同盟国も、勝利の報告を聞き、喜びに湧き返っていた。
特に各国の国民たちが関心を寄せる地球連邦。立て続けにSUSを打ち破るこの国家の存在は、もはや勝利の象徴とさえ呼べるものと見られ始めている。
だが地球連邦の面々からすれば、そう見られるのはなるべく避けたいところであった。あまりにも地球の存在を絶対的に観られてしまうと、後々に問題を起こすものとなろう。
敏感に反応するであろう、ガルマン・ガミラス帝国のこともあるのだ。これで敵視されてしまうのでは、地球連邦としてはたまったものではない。
そういった最悪の状況を思浮かべつつ、山南は通信を終えた。そして幕僚の1人に、ガルマン、ボラー両大国の現状を確認した。
「ハッ。両国の間に大規模な戦闘は発生してはおりません。ですが、両国の艦隊が国境沿いにて集結中であります」
情報部長を務める50代半ばの男性、ケルニー・グレムス中将は答えた。少し前から、ガルマン帝国が攻勢に出ようという動きがあったことは知っていた。
戦闘はないが、艦隊が動き集結している。これは紛れもない、決戦への前触れである。
「決戦の前触れには、違いないですな」
「そうだな、カバード中将。ボラーも動けはしないと思うが……。グレムス中将、アルデバラン基地からも、報告はないのだな?」
「はい。前線の警備艦隊からは、異常は報告されてはいません。ボラーの艦隊は、大半が銀河系北部に集中しているとのことです」
これは地球連邦のみの収集情報ではない。アルデバラン会戦直前のように、アマール国からの情報も含まれていたのだ。
徐々にではあるが、地球連邦は多国間とのネットワークを構築しつつあり、このように早くも活用がなされているのである。
ボラー連邦はガルマン帝国に集中しなければならない。5個艦隊を失っては、さしもの大国であるボラー連邦も余裕の表情はしていられないのだ。
過去においても、属国艦隊が尽く壊滅させられたうえに、本国2個艦隊および、要塞の駐留1個艦隊、空母艦隊と、失った経緯がある。
因みに主力であるボラー本国艦隊を壊滅させたのは〈ヤマト〉でもあった。
「これならば、艦隊をこちらへ集中できそうかね」
その問いに答えたのは参謀次長の島である。
「はい。我が防衛軍も既に、スプルアンス少将指揮下の第1無人艦隊が第11番惑星に到着、外宇宙への警戒を始めております。ジェーコフ司令の第9艦隊は、木星のガニメデ基地に到着しております。また、第2無人艦隊を再編成中であります他、修理・改装を終えた〈ブルーノア〉と〈ブルーアース〉及び〈ムサシ〉は完熟航海を開始しております」
地球防衛軍は必至の再建に尽力を尽くしており、2か月あまりで1個無人艦隊を完全配備させるとともに、第2無人艦隊の再編途上にある。
主力艦隊の再編は残念ながら難航していた。それも仕方ないといえばそれっきりであるが、やはり失った人材の確保は容易なものではないのである。
現存する主力は第9艦隊のみ……とはいえ、この艦隊も完全とは言い難いものであった。数は定数72隻に戻してはいるのだが、半数が新人とも言えるものだ。
さらに人材不足に鑑みて、やむを得ず無人艦の導入も行われた。結果として、第9艦隊は52隻が有人で20隻が無人と言う編成比率となってしまった。
とはいえ〈春蘭〉級の〈クニャージャ・スワロフ〉ならば、20隻程度の無人艦統率は容易だ。ジェーコフも好き嫌いをしている場合ではないと割り切っていた。
そしてこの艦隊再建に尽力を尽くして約2か月半あまりが経過している。その短い期間内にて、防衛軍宇宙艦隊は残存主力艦艇他、新造された有人艦艇と無人艦艇、さらに鹵獲改造艦や実験艦、旧世代艦艇を含めて200余隻にまで回復していた。
次元空間にいるマルセフらとは違い、こちらは設備が充実しているうえに、建造スピードもある。それでも、会戦前の数に戻すのは数年は掛かるのは確実であった。
「それで、アルデバランは現在どうなっているかね、総参謀長」
「ハ……第9艦隊の後任として、臨時編成した第3警備艦隊が駐留しております」
第3警備艦隊とは、アルデバラン星系の警備のために編成された部隊だ。艦艇数は15隻であり、全てが旧世代艦で占められているものであった。
他にも太陽系警備艦隊(第1警備艦隊)とα星系警備艦隊(第2警備艦隊)が臨時編成されている。これらも旧式艦ばかりの編成であった。
防衛軍は数が足りないとしてアルデバラン会戦では旧式艦を引っ張り出してきたが、事情が事情だけに、さらに古い艦艇を引っ張り出すに至ったのだ。
それが2171年に進宙した〈金剛〉型宇宙戦艦を始めとする、〈村雨〉型宇宙巡洋艦、〈磯風〉型突撃駆逐艦ら、4世代前の旧式艦艇達である。
冥王星会戦で〈霧島〉を残して壊滅した旧防衛軍だったが、〈旧ヤマト〉がマゼラン銀河へ新発した後に、新造艦を細々と揃えていった。
機関部は波動エンジンを搭載したタイプのものである。現在において残されているのは、〈金剛〉型2隻、〈村雨〉型4隻、〈磯風〉型6隻の計12隻である。
中でも最年長――長老とさえ言われるのが、旧防衛軍艦隊旗艦だった戦艦〈霧島〉だ。艦歴49年にもなり、ガミラス戦役以後の若者からはポンコツどころか“老いぼれ”または“生きた化石”とまで酷評される代物だ。
それが何故、あのアルデバランに姿を見せなかったのか。第1の理由は、これらの艦が現代の戦闘に到底耐えうるものではないと判断されためである。
第2の理由は、これらの艦全ては、今回のブラックホール接近に伴い、太陽系内救助艦隊として武装を取り外してしまったからだ。
この試みは先の〈ブルーアース〉と準じている。太陽系内部の生存者を救出するためだけ、という目的があった。
その後に戦力の一部として採用されるのだが、生憎と武装(ショックカノン砲)の艤装が間に合わず太陽系内で留守番をする事となるものの、会戦後に復帰を果たした。
「警備艦隊の大半を第1特務艦隊として投入してしまった故、心もとないでしょうが……」
「言うな、グレムス中将。それは承知で編成したのだ。でなければ、先の勝利報告もなかったであろう?」
その通りであります。とグレムスは答える。古代とマルセフも期待していた以上に奮闘し、SUSを撃退したのだ。結果オーライというものだろう。
しかし山南は先の要塞の件について、何やら悪寒を感じていた。
「問題は残った要塞が、ミッドチルダへ攻め込んだ場合だ」
「はい。SUSは陸上部隊を有している筈です。もしもSUSが総力戦で陸上部隊を送り込んだ場合、派遣した第6機甲旅団では対処しきるのは難しいでしょう」
カバードの予想としては、かなり厳しい結果を吐き出しているようだ。アマール戦での経験があるとはいえ、SUS戦闘車両も侮れない事も分かっている。
ここで新たな増援の陸上部隊を送り込む選択義もあるのだが、リスクが大きい上に時間も間に合わない。どの道、彼らは現有戦力で対処するしかない。
話に聞けば、管理局も新型戦車を配備していると聞く。数も揃えつつあるようだが、ここは是非とも乗り切ってもらわねばならないのだ。
これが杞憂であれば一番いいのだが、と呟く山南。だが、どうしても胸騒ぎが収まらない状態がしばし続くのであった。
〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。大分冷え込み始めましたが、皆さまも体調にはお気をつけてください。
さて、大分日が空きましたが……私事の事情(11月11日に危険物取扱者資格の試験を受けました)もあった上に、ネタがうまく思い浮かばず……。
それで時間が掛かりましたが、ようやく71話が完成しました。それと冒頭のSUSの指導者は完全な私の妄想ですので、あしからず(だって、第2部も出てきてないし?←おい)。
いっそのこと、復活編を2199制作陣でリメイクしてほしい心境です(絶対に無理でしょうが)。
彼らならメカの何たるやを理解し、ストーリー性も納得いくものに仕上げてくれるのではないかと思う次第。
メカに関しては特に期待したいですね。巡洋艦と駆逐艦、空母を映像で是非とも見たいです。
それにしても……11月10日のヤマト音楽団大式典、見に行きたかった(泣)。宮川先生とオーケストラによる生の演奏を、聞いてみたかったです!
と言いつつも、先日発売されたサントラ(パート1)で我慢してます。2199の音楽は総じて再現度が高いです。耳コピでここまで再現できるとは!
中でもお気に入りなのは、宮川先生がオリジナルを基に書き上げた『ヤマト渦中へ』の曲です。
ネット通販のアマゾンで検索すれば、試聴でお聞きになれるかと思いますので、是非とも聞いてみてください。『ズンチャ、ズンチャ』というテンポ良いリズムに乗せた曲です!
……と、私事ばかりでになりました。さて、最期に出てきた〈金剛〉ら旧式艦シリーズですが、根拠が無くて出したわけではないです。
復活編ディレクターズカット版をお持ちの方はご存知かと思いますが、最期の最期で〈ゆきかぜ〉型駆逐艦(先の磯風型)が多数、登場するのです。
ならば、と思い、2199の艦艇設定を拝借しつつも登場させた次第です。
では、これにて失礼いたします。
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