次元空間における波乱の大戦闘は一応の幕を降ろした。連合艦隊は帰路につき、全管理世界は勝利に沸き返る。だが完全なる終息には、いましばらくの時間を必要とした。
その戦争の根源とさえ言われるSUS要塞〈ケラベローズ〉は、次元空間内部を一時的に離脱し姿を晦ましていた。敵から撤退したわけでもSUSから逃亡したわけでもない。
全ては本国からの命令によるものだ。要塞に身を置くベルガーは、もはや生きて帰れることなど考えていなかった。艦隊を全て失った責任は、いずれも彼の責任にもなるのだ。
 そしてSUSは今までにない程、大打撃を被っていた。しかも、負けた相手は地球であるのだから、SUS本国も嵐を巻き起こす様な怒りに溢れるのも当然だった。
銀河系方面に展開していた第7艦隊は、1700隻から1800隻もの数を揃えていた。だが少数勢の相手である地球艦隊によって、序盤戦から手痛いカウンターパンチを食らった。
その後は大ウルップ星間国家連合の艦艇に討伐を任せる等するも、SUSのやり過ぎとも言える圧政によりエトスが反旗を翻した。
そればかりではなく、同盟国内部から次々と離反国を出した挙句、最終決戦では艦隊の全滅に加えて要塞失陥、新兵器の破壊等、惨憺たる有様だ。
バルスマンとメッツラーは異次元世界に帰還するも、SUS上層部としては侮蔑と怒号――よくも生き恥を晒して戻ってきた、という怒りの声が圧倒的だった。
結果は言うまでもない。2人はその姿を完全に抹消され、無能者としての記録が残されている。
 だが悲劇はそれだけではない。今度は次元空間の第2艦隊までもが、地球絡みで大敗北を喫したのだ。これでSUSは4000隻近い艦船を失ったことになる。
普通だったら、これは大国の保有する戦力の壊滅を意味している。が、SUSはいまだにそういった事態には陥ってはいない。
幾多の次元世界にて支配を繰り返す彼らからすれば、まだ余力があるのだろう。何せすべての戦力を集結すれば、それはガルマン・ガミラス帝国やボラー連邦の全戦力を合わせてもなお、比較対象にすらならないのだ。
 とはいえ、ベルガーの責任は免れない。本国は処刑を確定したが、統率者たる“カーザ”と言われる御仁の指示で、名誉挽回の機会を与えられたのだ。
無論、生きて帰れることは無いが、今こうして生き恥を晒しているのも、そのためでもある。そして当人のベルガーは指令室にて、あるものを待っていた。

「……閣下、来ました。本国からの輸送艦隊です!」
「……来たか」

司令官席で待ちかねたと言わんばかりのベルガーは、強張った表情を綻ばせた。レーダーとスクリーンに捕捉された輸送艦隊は、直ぐに着陸許可を求めてくる。
即座に了解の意を伝えさせると、〈ケラベローズ〉の下部ゲートの一部が開く。上面のエネルギー・プールはあくまで一時的に着水できる場であり、本格的な積荷卸などは専用の軍港を使わねばならなかった。
 ここで彼は、先ほどに伝えられた命令の内容を思い返した。本国の上層部から下されたのは、次のようなものである。

『ベルガーに命じる。貴官は、特殊部隊を直接に指揮し、ミッドチルダに上陸。そこで特殊部隊の実戦テストを行い、随時データを送るのだ』
「ハ!」

特殊部隊、と聞いて彼は内心首を傾げた。どんな部隊を率いろと言うのか、と疑問に思っていると、上層部は読み透かしたように答えた。

『我が兵器開発局が新たに開発した、陸上兵器だ。お前の腕で優れているという証拠を示せ。さすれば、我がSUSの今後の繁栄にも繋がる。その功績と名誉だけはくれてやる』
「有り難きお言葉。陛下のお言葉に全力で応えて見せます」

つまりは試作品の実戦データを収集しろと言うわけか。感謝の言葉を述べつつも、彼は心内でそう思った。成程、確かに私の最期には相応しい任務かもしれない。
いずれにせよ、新兵器の次期生産にはテストは欠かせないものだ。試作品とやら兵器で構成された第1試作実戦部隊は、本国の輸送艦を通じて送られて来るとのことであった。
 そして今、待望の輸送艦が到着したのである。その輸送艦隊は護衛の戦艦5隻の他、1隻の輸送艦で構成されていた。その輸送艦も巨大なもので、全長500m、全高80m、全幅200m、と〈ガズナ〉級を上回る規模だ。
さらに内部空間も極限にまで広くされており、全部で2階層も用意されている。SUSの自走砲であれば、1隻で400輌は搭載可能であった。

「……閣下、輸送艦隊がドックへ到着いたしました」
「分かった」

 ベルガーはそれだけ言うと、その場を立ってドックへと向かう。輸送されたものを直に確認しておくためである。

(ミッドチルダに、連合軍の艦隊が到着するまで後10日。我々の足をもってすれば、3日は早く到着できるだろう)

そのミッドチルダは以前と違い、地球軍の陸上部隊が駐留しているとの情報が入っている。また、管理局も何かしらの対応策として、新型兵器を配備している可能性もあった。
先の会戦でもそうであるが、管理局は地球の技術を借りて新兵器を投入してきたのだ。ならば、艦隊ばかりではなく戦車なども十分にあり得るではないか。
地球製の戦車データは概ね収集されている。SUS戦車よりも一回り程小型ではあるが攻撃力は侮れないもので、アマール戦では苦戦を強いられた挙句、遂に全滅する始末。
 輸送艦が係留されたドックに辿りつくと、そこにはザイエンがいた。どうやら輸送艦隊の責任者と話しているようだが、ベルガーに気が付くと話を中断した。

「閣下、輸送艦隊責任者のメヅ・ボルブ大佐であります」
「ご苦労。それで、何を運んできたと言うのかね?」
「ハ。今よりご覧になれます」

そう言うと、ボルブと名乗ったSUS人は積荷降ろしの命令を送った。輸送艦は命令を受けとり、ハッチを開放させる。重々しく開くハッチを見守る一同。
やがて完全に開くと、そこには見たことのないタイプの戦闘車両がズラリと並んでいた。これが新兵器なのか……しかも、ザッと見ただけでも100輌では効かない規模だった。
 新型戦車1輌が前進を開始する。タラップを音を立てながら降りてくるが、その全貌が明らかになった瞬間、新たな驚きを感じた。

「2回りは小さくなったか?」
「はい。次期主力の試作戦車〈ヴェルス0〉です。従来の戦車よりずっと小型になっております」

ザイエンが答える。それは全長12m、全幅5.5m程と従来の自走砲よりもコンパクト化されたものであった。しかも小型化された他に、主砲なども大きく変化している。
かの自走砲は固定式の大口径ビーム砲2門を搭載していたが、〈ヴェルス0〉は一門のみ。また固定式だったものが旋回式主砲等へと変わっていた。
砲塔の砲身も上下に稼働できるものだが、砲身自体も砲塔と一体化した垢抜けない姿、車体の上に不釣り合いな直方体が乗っているといった形だ。
 そして下の車体も自走砲となんら変わらないデザインで、単に小型化した印象だった。が、全体として小型化かつ攻撃範囲が広くなったのは、評価すべきところか。

「武器の試射は完了しているのだろう? ザイエン」
「はい。自走砲と比べて半減しているように見えますが、1門あたりの破壊力は従来のままです」

勿論、対魔導師対策の〈A・M・F〉は搭載してあります。付け足してザイエンは言う。機動性を大幅に向上させた他、攻撃範囲を広げた代わりに攻撃力は低下したが、それでも〈ヴェルス0〉の平均能力値は安定したものだと言えるとの話であった。
それだけではない。〈ヴェルス0〉とは違う車両が姿を現す。それは対空戦車の次期試作〈メロイド0〉であった。こちらも同様に小型化され、サイズは〈ヴェルス0〉と同等だ。
武装も変化はなく、対航空機向けの連射重視の小型ビーム砲が2機装備されていた。機動性は上がり、迅速な対応も可能であろうと言う話であった。
 最後に出てきたのは、先の2輌よりも2回り程大型のものであった。陸上戦艦の次期タイプ〈シャゴルド0〉。全長14m全高16m全幅10mと前期と比較すると小型ではあった。
形状はほぼ同じだが違う点はある。まずは小型化に伴いキャタピラが2枚のみになったということ。次に指揮能力や通信妨害などの機能が向上したこと。
攻城砲とも言える大口径主砲は、旋回を可能とする連装砲塔に変更された。塔上の艦橋基の前に一体化するような形で1基ある。
さらに連装中口径主砲塔が艦橋基左右に1基づつ備え付けられており、対戦車戦とトーチカへの破壊力を向上させているのが分かった。
小口径の副砲塔は車体周りに8門ほど搭載している他、対空機銃座を6機備え付けていた。小型ながらも、まさに陸の要塞と呼ぶにふさわしい物だった。

「小型になっても、戦闘能力は落ちてはいません。寧ろ上がっています」
「……これでプロトタイプか。確かに、これが正式採用されれば、陸上戦も格段に有利となるであろう」

 だが疑問もある。登録データによれば、この新型試作戦車は合計して400輌もあるという。試作品でこれほどの数があるのは、どうかと言うものもあろう。
しかし戦争の基本は数だ。特に戦車戦ともなれば、集中した運用による打撃が一番効果的でもある。かのドイツ軍しかり、ソ連軍しかり、である。
とはいえ、これだけの数を動かす兵員は送られている訳ではない。それに要塞内にいる陸上部隊の兵士たちを搭乗させるというでは、彼らも犬死を強要するも同然であった。
何故なら今回の敗戦責任は、ベルガー他幕僚に課せられているからだ。本国からも陸上部隊兵員は使うなと厳命されている。ならば、何を使ってこれら新兵器を扱えと言うのか。

「閣下。この試作戦車部隊は、全て無人です」
「何だと?」

 ベルガーは眉を顰めた。まさか無人兵器を渡してくるとはな。確かに無人兵器ならば犠牲はないが、運用に支障をきたす可能性もある。
だがその点に関して、ザイエンはあまり心配していない様子であった。

「人工知能も新しいタイプを搭載しております。指揮を離れても相応の判断能力を兼ね備えております故、心配ないと本国から通達がありました」
「……まぁいい。兎も角、ミッドチルダに向かうぞ。どうせ連合軍は足が遅い。その到着するまでの時間内に、実戦データを得なければならんからな」

そう言いながらも、再び〈シャゴルド0〉〈ヴェルス0〉〈メロイド0〉を眺めやる。人工知能に愚痴を言っても始まらない。試作戦車の戦闘データを取るのが最優先である。
勝てば官軍かもしれないが、恐らくは無理だろう。それに勝敗など関係ない。連合軍の戦車を相手に良いデータが取れるよう、腕を振るおうではないか。





 次元空間内部での大決戦の勝利から何事もなかったかのように、7日が過ぎようとしていた。連合軍は周囲を厳重に注意しながら帰路についている。
次元航行部隊は周囲の次元空間の変異に耳を澄ませ、目を皿のようにして見張っている。また、地球艦隊も亜空間レーダーを使用して、例の水雷艇に注意を払っていた。
だがSUSは一向に姿を現さないどころか、何かしらの仕掛けをしてくる気配さえない。ここまで来ると、本当にSUSは撤退してしまったのではないかと思うものだ。
将兵達の間でも、撤退の可能性が次第に濃くなってきている。総旗艦〈シヴァ〉の内部にもそう考える者も多くなってきているが、ブリッジ要員は違った。
 第2艦橋の航行管制室では、戦術長ジェリクソンを始め航海長レノルドらも、姿を見せないSUSに不安を抱いていた。

「……なんだか、不気味な感じがするな」
「そうだな。あの要塞が全く動きを見せないのは、不気味で仕方ない」
「戦術長と航海長の不安は尤だろう。それだけに、何処から出てくるかも分からん」

技師長ハッケネンは自分の席で艦の状況をチェックする中で、2人の長の不安に同意した。あの要塞は、何処へ行ったと言うのか。やはり、ミッドチルダへと向かったのか?
しかし奇襲の報告は、今のところは入ってこない。各空間に配置してあるレーダーにも掛からない。だからと言って、気を抜くわけにはいくまい。
ミッドチルダを襲う可能性を第一と考えられているが、別の可能性としてこの艦隊を襲ってくるのではないかという選択肢もある。
 連合艦隊は大半が損傷し、本来の戦闘能力を出すことができない状態だ。しかも帰路についている最中であり、ここで奇襲を受けるようなことがあれば、ただでは済まない。
要塞自体も転移が可能なことを考慮すると、艦隊の後方に転移してくることも有り得る。そうなれば、連合軍は戦闘態勢を取って反撃に転じる前に、攻撃を仕掛ける事も出来る。
駄目だ、と頭を振る。考えてもきりがない。何処から現れるのか分からない以上、この精神的な重圧は晴れる事がない。
 どう出てくるものかと考えるクルー達と同じく、通信席にて機材を調整している通信長テラーも同じような事を考えていた。

(到着まであと5日だろうが、SUSの足で考えればもう到着していてもおかしくはない……)

通信機を操作しながら、彼はSUSの動向を推察する。ここまできて何もしてこないという事は、奴らは撤退しているという線が最も濃い。
あるいは本国から何か指図でもされたか……いや、有り得る話だ。奴らは広大な空間へ進出する、きわめて大規模な国家であることが分かっている。
全体のそう戦力が不明であるが、次元空間に投入した全ての戦力を失うことになれば、嫌がおうにでも撤退もしたくなるだろう。
その上、ここで要塞を失うことになっては、目も当てられない。SUSにしても、無限に戦闘艦が湧き出るわけでもあるまいに。
 一方で艦橋には姿がないマルセフとコレムの両名。2人は会議室におり、そこには艦隊司令官の面々が数名程集まっていた。
第1特務艦隊の古代司令、管理局次元航行部隊の司令代理レグシア提督、及び機動部隊司令のクロノ提督とはやて参謀。ガーウィック、ズイーデル、ゴルックら各艦隊司令。
彼らは揃って真剣な表情を作っていた。SUSが襲撃してくるとなれば、時間的にもう間もなくの筈なのだ。遅くとも、あと1日か2日か……。

「あれから7日が経過したのだが、SUSは姿を見せてはいない。本部からも敵襲の報告はない」

マルセフも現状を説明している。自分らの足では、あと6日は掛かる見込みだが、緊張感が彼らのみならず将兵達を圧迫していた。
 あるいは、意表をついて別の管理世界を攻撃する可能性もあるのだが、それこそ何処が攻撃されるかなど予測出来ないのは明らかだった。
自分らが彼ら――SUSの立場に立った場合、どのような行動に出るか。戦略や戦術を立てる際に必要な推測であることを、ガーウィックは改めて主張する。

「撤退せぬと仮定して、彼奴らは何処へ攻めてくるか……。管理世界にも重要拠点は幾つかあるが、SUS要塞は一つ。ベルガーも中途半端な攻撃は選ばない筈だ。勿論分散攻撃など論外、やはり我々を一撃で撃破、ないし一時でも麻痺させるつもりならミッドチルダ攻撃こそ順当ということになる?」
「ガーウィック提督の主張は尤もですが、それならばもう、到着していてもおかしくはないのではないでしょうか」

そう発言したのはレグシアだ。40代前半の局員提督で、混乱しかけた次元航行部隊を辛うじて纏め上げてみせた、中々の指揮官である。
この問いに対して、古代が答えた。

「敵内部の事情は分かりませんが、幾つか推測することは可能です」
「それは、いったい何ですか?」

クロノが問いかけ、隣にいるはやても気になり返答を待つ。根拠はありませんが、と念を押して言つつも、古代が挙げる推測とは次のようなものであった。
 SUS要塞の足は我々とそれ程変わらないのではないか。あるいは友軍と合流するために待機しているのではないか。あるいは、自分らの帰還してきたところを狙い殲滅するために待ち伏せているのかという可能性もあった。
要塞の足の遅さは、有り得るかもしれない。ズイーデルとゴルックの両提督はそう思う。幾ら転移できるからとはいえ、あの巨体なのだ。
とはいえ加速を付けて行けば、どの道自分らよりも早く着くだろう。友軍と合流するという推測だが、これは出来れば推測で終わってほしいものであった。
後の期に及んでまた戦力を投入されるようでは、連合軍艦隊の勝率は極めて低いものとなる。6割以上の艦が傷ついているのだ。真面な戦闘も出来ない艦もいる。
 また陸上戦の可能性も考えると、艦艇ではなく戦車など陸上兵力の補充中とも捉える事が可能だ。最期の待ち伏せの説に関しては十分に考えられが、その瞬間にも防衛軍や次元航行艦のレーダーが目を光らせている。
亜空間への対策は出来ているし、別次元にいるとしても次元航行艦の多次元レーダーが早期発見してくれる筈だ。SUSもそこまで無謀な事はすると思えない。
悪寒に身体を支配されているような感覚が続く中、ガーウィックは再び口を開く。

「今更だが、地球艦隊は早期に帰還されては如何か? 総司令」
「……しかし、敵は我々を狙っている可能性を忘れている訳ではないでしょう、ガーウィック提督。要塞とは言え、あの攻撃力は……」

そこで言葉を切る。皆も同じような見解だった。地球艦隊は数を減らし損傷しているとはいえ、主力兵器を多く残している貴重な兵力だ。
あの要塞に対抗できる地球艦隊を外したところを、狙ってくる可能性があったのだ。アルカンシェル砲よりも射程の長い要塞主砲が相手では、他国艦隊でも対応が辛い。
 だが対するガーウィックは提案の内容を詳しく話す。

「何も全艦で、という訳ではありません。あの要塞主砲4門だけにでも対抗できる戦力を残して、主力はミッドチルダ方面へ向かわれては、という事です」
「まぁ、それも悪くない。地球艦隊の波動砲搭載艦を5隻か6隻を残してくれるだけでも、十分に心強い」

ガーウィックに続き、ゴルックも同意する。言われてみれば、確かにそうかもしれない。要塞を撃破した経験のある古代も、その提案に同意の意向を示した。

「総司令、ガーウィック提督の言う通りです。今更ではありますが、ここはガーウィック提督らに任せて、我々は先に戻る方が良いのではありませんか」
「……ウゥム」

短時間だがマルセフは判断に迷った。ここまで、足の遅い次元航行艦を護ると言う意味でも、戦速を落としていたのだ。
要塞は既にシールドを破壊され、防御手段を持っていない。頼れるものは、あの防御船4隻のみの筈だ。補充されていない限りの話でもあるが。

「解った。一部戦力を残し、地球艦隊は先に帰還。及び周辺空間の警戒を行う」
「「了解!!」」

 全員が復唱し、直ちに行動に移される。先発する艦隊は無傷あるいは無傷に近い艦――航行速度と戦闘に支障のない艦を中心となった。
連合軍に残るのは戦艦2隻と巡洋艦4隻、戦闘空母1隻、他戦闘不能な艦等を除いた地球連邦の残存艦34隻あまり。
二手に分かれた地球艦隊の内、先行する艦隊を総旗艦〈シヴァ〉が指揮し、残る地球艦隊及び連合軍艦隊をガーウィックが指揮することになった。
襲撃のないことを祈りつつも、後続の連合艦隊の面々は整然と帰路についていく。その後ろ姿を見送る連合軍将兵たち。
彼ら地球艦隊の到着予定は早くとも1日半後というところ。遅くて2日の過程だった。解けぬ緊張に支配される中、この不安感が現実になるのにそう時間を要さなかった。





 第2拠点の司令室に届いた一報。それは空間の異常を知らせるものであった。

「第1管理世界、次元振を確認!」
「!」

穏やかな雰囲気であった筈の司令室内は一気に緊張を高めるに十分なものだ。転移する時に伴う揺れは、艦船クラスの場合では大きなものとは成り得ない。
だが質量と大きさが増す分、次元振もより強力なものへと化していく。それこそ、〈トレーダー〉が実際に示したのが良い例であろう。
しかも波動砲を使った荒い転移方法だった事が、より一番の原因でもあった。
 次元振観測の報告を受け、司令部にいたレーニッツは直ぐに詳細を求めた。〈トレーダー〉よりも遥かに小さいものとはいえ、自然に発生する規模ではない。
そこで考えられていたシナリオが、現実になるのを彼は感じた。予測されていたSUSの奇襲が、現実のものとなるのだ。

「ミッドチルダの衛星軌道上の監視衛星からも情報が入りました」

ミッドチルダの衛星軌道上には、惑星周囲に設けられた監視網がある。通常空間と次元空間の双方を監視するこの衛星は、先日の首都攻防戦後に配置されたものだ。
その監視衛星がSUSと思われる反応を捉えたのは、連合軍が動き出した日から僅か20時間後といったところ。同席していたリンディも、状況の把握に努める。

「監視衛星の映像は映せる?」
「ハイ。辛うじて映せます!」

映して頂戴、とリンディはオペレーターに命じること数秒、やや画像が荒いが指令室の巨大スクリーンが鮮明になる。
 瞬間、皆は息を呑んだ。次元空間とは違う、散りばめられた星々の空間の中にポツリと映る4つの陰があった。拡大投影、とレーニッツが命じる。
倍化させていく毎に、心臓の高鳴りは増していく。24度と安定した室温にいながらも、リンディの額からは汗が滲み出てくるのが分かる。
リンディだけではない。レティもしかり、他のオペレーターもしかりだった。やがて最高の倍率に達し……皆は硬直化した。

「要塞!」

一人の局員が叫ぶ。まさにそうだ、次元空間内の色混ざった背景に黒く浮かび上がる、恐怖を体現させるかのような要塞――〈ケラベローズ〉の姿。
本体を護り付き添う4体の護衛獣とも言うべき〈ガーデルス〉。宇宙船とは思えない、縦長のデザインに強い違和感はあるが、今は関係のない話だ。
あの防御船に、惑星さえ破壊しかねない兵器が搭載されているのだ。あの波動砲と同クラスの破壊兵器が……。
 瞬時にレーニッツは指示を出した。

「マルセフ総司令に緊急通信! 『敵要塞を発見、ミッドチルダに向かい前進中。至急、来援を請う』!」
「ハ!」
「提督、ミッドチルダの地上部隊が第1級警戒態勢を発令しました!」

ミッドチルダを破砕する気であれば、来援が来ようとも意味のない事となる。そう思いつつもリンディは司令代理として、帰還中の次元航行部隊にも同様の通信を発する。
迫るSUS要塞に、今の次元航行部隊では手の打ちようがない。動かせる艦船が居ない以上、黙って見ているしかないのだ。
何もできない状態に、リンディは思わず手を握りしめる。傍にいるレティも、小さく動揺している様子が分かる。ミッドチルダには、彼女の息子もいるからだ。
星もろとも運命を共にするような事態となってしまう事は、是が非でも避けたい。
 だが不思議な事に、SUS要塞はミッドチルダの衛星軌道まで後1万qと差し迫ったところで、停止してしまったのだ。惑星の破壊が目的ではないのだろうか。
あの要塞砲も撃つ気配がない。油断は禁物だが、と慎重に様子を見守る一同を余所に、SUSは次なる行動を起こしていた。

「……敵要塞から反応が増加! 要塞の駐留艦隊かと思われます!」
「測定開始。数は13。戦艦クラスが5、揚陸艦クラスが7……未確認の超大型艦が1!」

測定結果は500m代と出た。これは、新手の敵新鋭艦だと言うのか! と多くの局員が気圧された。実際には新鋭艦ではなく、SUSの大型輸送艦であった。
艦隊数としては小規模な艦隊と言えるだろう。しかし彼らからすれば、それだけでも強力な艦隊には違いなかった。

「艦隊はいつ到着する!」

 極めて不味い状況に、フィルスはマルセフらの到着予想時間を問う。その返信は艦隊からの連絡を通して直ぐに返ってきた。

「凡そ14時間後には、衛星軌道上に到着する模様!」
「ウム……」

キールが頷く。しかし半日という時間を、どうやって稼ぐか。防衛軍の陸上部隊が付いているとはいえ、敵の内部戦力は不明だ。
さらに衛星軌道上からの艦砲射撃ともなると、地上部隊はかなり不利となるのは明白。まず勝ち目はない。以前のように艦砲射撃で戦力を擦り減らし、弱体化したとこで地上戦力を投入する構えなのだろうか。
 だがその艦隊さえも、艦砲射撃するような気配はなかった。

「どういうつもり?」

リンディは思わず呟く。ミッドチルダには新たに配備された〈F・ガジェットU〉が待ち構えている他、僅かながらコスモパルサー隊も配備されていた。
それらの妨害を無視しているのだろうか。彼女はSUSの行動と心理状況を読もうとしたが、その予想は尽く外れているものであった。
何故なら、彼らSUSには勝利など関係のない話であるからだ。試作兵器の威力を実戦で検証し、本国へ届ける。これだけを念頭に入れている。
だからこそ、SUSは艦砲射撃で地上戦力を叩くような真似はしなかった。対当な相手――即ち同じ戦力規模の戦車を相手にしてこそ、データの収集のし甲斐もある事だろう。





「おいでなすったな」

 野戦指揮所となる、装甲指揮車〈レオパルド〉で古野間は口走った。陸上戦闘を把握するために開発された、指揮機能を高めた戦闘車両である。
キャタピラではなく車輪式の装甲車で、機動力が高い。武装は機銃4丁と攻撃能力こそ低いものの、指揮のための通信機器やレーダー機器、その計器類がぎっしり詰め込まれた。
そのため、まさに移動する司令部として相応しい装甲指揮車となったのである。また司令官他、参謀などの幕僚が4人か5人は入れる余地があった。
古野間率いる防衛軍第6空間機甲旅団及び、時空管理局地上部隊は、SUS艦隊が降下してくるポイントを予測して待ち構えていた。最初こそこれはSUSの罠だろうかとも思った。
 しかし、SUSはミッドチルダの防空圏内を艦隊の弾幕と艦載機で突破を図ったのだ。展開された〈F・ガジェットU〉は果敢に迎撃にあたったが、戦艦を撃墜するだけの力はない。
古野間はこの動きから、SUS艦隊が何処に着陸しようとしているのかを予測した。結果、それは北部方面にある草原地帯であった。前に上陸してきた時は、東部方面の砂漠地帯から来たものだったが、今回は草原地帯を選んだようだ。

「敵艦隊、揚陸艦を展開。東部方面へ着陸します」
「……陸上戦でけりを付けようってか。律儀な真似をしてくれるじゃないか」

チャートに映される戦況模様に、古野間は口元をニヤリとさせる。だが安心は出来ないことを、副官のキャンベル中佐が促す。
さらに指揮車に同乗している防衛軍士官――作戦参謀のグスタフ・アンドレ大佐も、同様の事を言う。

「こちらが全戦力を集中しているとはいえ、奴らには対抗するのは難しいですよ。あの輸送艦らしい艦も、相当な戦車を積んでいてもおかしくはないです」
「分かっているさ……敵の陸揚げは開始されたのか?」

 指揮車のオペレーターによると、SUS揚陸艦と思われる部隊はつい先ほどに着陸したとの事だった。そこから順次、戦車なりを降ろすのであろう。
SUS戦車の数はまだ明確にはならない。前回の規模は80輌と少なめであったが、今回もその数であれば対応も十分にできる筈だった。
だが目の前の輸送艦といい、それを上回る事は確かだろう。それらに対当するのは、空間機甲旅団と管理局戦車部隊を合計した、凡そ240輌前後の戦車部隊。
さらに防衛軍の歩兵部隊が4940名と、管理局武装隊(魔導師)凡そ1200名、及び非武装局員200名の合計6500名前後。数としてはかなりのものだった。
 しかし今回の魔導師達は、事情が大きく異なっていた。それは、非武装局員200名が質量兵器を携帯しているという事だ。
これは古野間及び局の質量兵器推進派からの要請で、やっとこそさ実現したと言っても過言ではない。それも防衛軍側から供与されたものばかり。
とはいえ、何故に自分らが法律を犯して質量兵器を持たねばならないのか。特に魔導師側からの疑問と反感の声はもちろん存在した。
 だが、そんな生温い反論を古野間は鉄壁の布陣で、いとも簡単に返り討ちにしてしまった。

「貴様らはこの期に及んで駄々をこねるか。そんな奴らに戦う資格はない。単なる足手まといにしかならんし、死体が増えるだけだ。後ろで指を加えて見てればいい」

此処まで言われて、はいそうですか、と引き下がる様な輩はいなかった。とはいえ、魔力が通じにくいのは事実であるし、SUSの破壊力は既に体験済みだ。
非魔導師は本来なら倍以上はいるものの、何故200名と中途半端な人数にしか携帯させなかったか。いや、させなかったと言うよりは間に合わなかったと言うべきだった。
供与された兵器は、あくまで予備兵器であり、または〈トレーダー〉の製造所で生産したものだったからだ。さらに言えば、まさか彼ら防衛軍が非武装管理局員の訓練を担うなど、予定に入っている訳もなかったのだ。
 それでも古野間は、間に合うだけの局員数と武器数を揃えさせると、戦車訓練と同様に彼らにも可能な限りの訓練を課したのである。
1か月余りの期間で非魔導師たちは、苛烈な防衛軍の教えの下でレーザー突撃銃の使い方と、対戦車用ランチャーの使い方を覚えていったのだ。
肩や魔導師は質量兵器は有していない。彼らは極力前線に出る事を禁止され、あくまでもサポートに徹するように命ぜられた。自分らが役に立てないのではないか、と不服に思う魔導師もいたが、そこも上手く古野間は丸め込む。

「決して後方支援や援護が軽いものだと考えるな。迅速に動ける魔導師がサポートについてくれるほど、彼らにとって安心できるものはない筈だ」

魔導師ならば陽動、撹乱、非魔導師の後退援護、と幅広い行動をこなすことも出来る。それを古野間は説明した。とりわけ転移魔法や飛翔能力を有する魔導師等は重宝する。
部隊の速やかな撤退には欠かせない存在であったのだ。これにより迅速な陣地変換も可能とし、損害も極力低くすることが出来るのではないかとも考えていた。
 そのようなゴタゴタもあったな、とまるで数年前の出来事のように思い浮かべる古野間だったが、ここで新たな動きが観測された。

「……閣下、敵揚陸艦が離陸を開始しました」
「陸揚げが終ったか」
「ハイ。敵の分析を開始します」

スキャンされた映像から、SUSの戦車部隊の数が読み上げられていく。画面上に出た数値は……。

「分析結果が出ました。SUSは凡そ430輌を展開した模様です!」
「400輌以上!」

キャンベルは驚愕し、参謀のアンドレ大佐も沈黙を守りつつも驚きの表情を作った。前回攻めて来た時の5倍の戦力を持って来たということになる。
こちらの大凡2倍の兵力だった。しかしこの大軍を前にしてなお、古野間は驚くに値しないと言いたげな様子だった。

「よくも掻き集めてきたもんだ。これなら、結構な歯応えがありそうじゃないか、参謀、副官」

デザリアム戦役で戦い抜いてきた男は、これで注文の追加はいらないようだな、と余裕の笑みさえ作る。その様子に、2人の幕僚も心なしか動揺した心を落ち着けた。
さらに分析を加えていくと、展開されたSUS戦車部隊は今までのタイプとは大きく異なるようだった。赤外線センサーやタキオンレーダーなど様々な測定により明らかになった。
 従来よりも小型化された車体、旋回可能であろう砲塔。さらに指揮車と思しき陸上戦艦と、対空用戦闘車両の3種類。それ見た古野間は、独り納得したように頷く。

「なるほどな」
「何が、でありますか?」

キャンベルは不思議に思い聞いてみる。

「奴さんは、どうやら俺達をモルモットにしたいらしい……わかるか?」
「ハ……まさか、敵は……」

そうだ、とニヤリと薄笑いを浮かべる古野間。SUSは防衛軍と管理局の戦車を相手に、新兵器のテストをしたいらしい。いいじゃないか、大変光栄なことだ。
新兵器がどれ程のものかは知らんが、このためにわざわざ俺達の前に現れたんじゃないのか、SUSさんよ。だがな……俺達はそれ程安いモルモットじゃないんだぜ。
俺達防衛軍、そして新生管理局戦車部隊をモルモットとして選んだことを、後悔させてやろうじゃないか。古野間は通信機を手に取り、全部隊へ繋げる。
 キャンベルとアンドレは、その様子を黙って見守る。






『全部隊へ。現場指揮を担当する古野間だ』

 指揮車〈レオパルド〉から発信される古野間の声。兵士達は彼の声に耳を傾ける。

『奴さんは戦車400輌“だけ”の兵力を投入してきたようだ。いいか、“戦車400輌”だけだ! 俺達を腹一杯にするには、量不足だと思わないか?』

冗談を振りまくその声に、不思議と恐れや恐怖といったものはなかった。防衛軍兵士たちはこぞって、古野間隊長は楽しんでいるな、と苦笑している。
逆に管理局員たちは、大胆な演説に驚かされた。管理局では絶対にありえないだろう。しかも、倍の相手をするのに余裕と来た。どんな神経をしているのか。
 だがこの余裕を含んだ演説が、徐々に局員たちの緊張を和らげていく。勿論、この通信は後方の管理局地上部隊本部、さらには民間人にも流れている。

「古野間少将は、正気で言っているのか?」
「……正気でしょう。我々では体験しえない、過酷な戦場を掻い潜ったようですから」

マッカーシーは思わず、古野間が正気ではなくなったのではないか、と思ってしまった。それに対してフーバーは、古野間の性格からしてそのような事は無いだろうと言う。

『それに、皆で2輌づつ平らげれば済む話だ』
「……そんな簡単な話でしょうか?」

そう呟やいたのは、グリフィス・ロウラン陸准尉だ。それに対して、何とも言い難い表情をしているのは、40代後半ほどのグレーの髪をした男性局員――ゲンヤ・ナカジマ三佐。
ミッドチルダ北部方面に所属し、108部隊の指揮を執っている人物だ。スバルと姉のギンガの父親にして、元ナンバーズの半数を引き取っている。

「さぁな、俺にもわからん。だが陸上戦闘のプロだということは、以前の訓練からして重々承知しているんだ。俺達よりも精通している彼らに任せるしかないだろう?」

腕を組みながら、古野間の演説に耳を傾けるゲンヤ。それに、この余裕な演説もまた、局員に少なからぬ心の余地を生ませるだろう。

『そして管理局の勇士諸君、君達は短期間に過酷な訓練をこなしてきたのだ。基本を忘れるな、慌てることなく戦えば、生き残れる!』

 そして北部に位置する聖王教会大聖堂。ここも、SUSがミッドチルダ北部へ上陸したとの報告を受けて、警戒態勢に入っていた。
大聖堂敷地内には主に修道騎士達が守りを固めており、正面入口の門を降りた先に戦車と歩兵部隊が待ち構えている。あまり身動きはとれないが、迎撃には十分だろう。
どのみち、SUSは限られた車幅の崖道を通らねばならず、回避行動もままならないはずだ。となれば、時間稼ぎも十分にできる。
大聖堂の庭に集まる騎士達の中に、シャッハやディードらもいた。並々ならぬ緊張感に包まれていた筈だったが、古野間の演説に緊張を解かれたようだ。
 そして民間人の直接護衛を担当するカリム、ヴェロッサやユーノ等は、この演説に古野間の余裕ぶりを感じ取っていた。

「さすが、激戦を生き抜いてきた者の強み、なのでしょうね」
「そうでなきゃ、ここまで言えないだろうね」

本当にその通りだと、ユーノも思う。地球は絶えず狙われてきたが、その度に血を流しては勝利を重ねてきた。古野間はその時代を生き抜いてきた生き証人なのだ。
そして防衛軍軍人の半数も、同様の激戦続きの動乱を生きた、強者達ばかり。大して管理局――特に地上部隊は、地上戦闘の経験がまだまだ浅く、局員もベテランとは言えない。
防衛軍は生き抜こうとせんがために、全滅覚悟で戦う意志を持っている。ガトランチス帝国首都攻略戦が良い例だろう。狂戦士とさえ呼ばれかねない、地球人の意志。
 今回は古野間が勝てると公言しているが、無傷と言う訳にはいかないだろう。それこそ、下手をすれば相打ちと言う結果にもなりかねないのだ。
再び、屍累々という地獄絵図が広がるのだろうか。だとすれば、この戦いを最後にしてほしいものだ。ユーノは心内で、強くそう願う。
ここにいる民間人、特に子供たちには見せられないものだ。戦闘で血肉が飛び交う様を目の当たりにした暁には、トラウマとして永遠に記憶されることとなろう。

「……!」

ふと、友人同士で励ましあう子供達の姿が目に入る。それは、親友である、なのはとフェイトが引き取った幼子、ヴィヴィオであった。
この少女も幼いながらも、辛い経験をしてきたが、今回は極めつけになるだろう。そうさせぬためにも、自分達が盾となり守らねばならないのだ。

『幾ら攻めて来ようとも、SUSは俺達には適わない。今こそ、それを奴らに思い知らせてやるぞ、いいな!!』

修道女の一人で、10代半ば程の水色ショートヘアをした女性――セインは、初めて聞く防衛軍指揮官の演説に感心していいのやら、と複雑な表情だった。

「ここまで自信を持って言えるんだから、相当すごいんだろうねぇ」

 まぁ私は、出来る事を全力でやるだけだよ。そう思いつつも、いつ来るかしれない襲撃に恐れ、怯えている子供に近づきしゃがみ込むと、子供の頭に手を置いて撫でる。
子供を宥めながらも、彼女はふと思う。姉と妹達は大丈夫だろうか。共に教会へ入ったディードとオットー、そしてナカジマ家へ迎えられた4名。
戦力としては重要視されることは間違いないだろうが、何せ相手も対導師用の対策を施している相手だった。元ナンバーズとて、魔力を抑えられては手も足も出ない。
 だが防衛軍とやらも魔導師の特質を理解しているらしい。無駄に死なせるような事はしないのだろうが、戦場はいつも上手く事が進む筈がないのだ。
それでも、妹達のみならず、大勢の局員や防衛軍兵士達にも生き残ってほしいと強く願う。また皆の笑顔が見れることも、である。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。急に冷え込んでまいりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
さて、前回から随分と間があいてしまいました。最終決戦まで直前となる回でしたが、正直かなり迷いました。
当小説を読んでくださる常連様方から2つのご意見がありました。それが、SUSが完全撤退するもの、とミッドチルダへ進撃してくる、というものでした。
完全撤退の理由として、この期に及んで玉砕覚悟でいくのは疑問かつ、カーザなる人物も視野の狭いとみられてしまうため。
確かにそうだなぁ、とも考えましたが、やはり最後のチャンスを与えると公言した以上、何かしらの名誉挽回の機会を与えるべきとも考えました。
悩むに悩みぬいた結果、冒頭にございました新兵器(試作兵器)の実戦テストをやらせよう、ということになりました。
無人式にしたのも、兵の無駄死にを避けるための処置です。そしてここまで大量生産したのも、やはり戦車戦闘も物量戦が基本ではないかと思った次第です。
次回は2度目の戦車同士のぶつかり合いとなります。それでは、失礼いたします。

それと、ヤマト2199の第3巻が発売されました。そこで賛否両論のオリジナルストーリーの『機械仕掛けの虜囚』は、個人的に良い話だと思います。
ぶっちゃけ、最後の方で涙ぐんでしまった自分がいた。こういった話に弱いんです……本当に。人間と自動人形の違いは何か、自動人形に心はないのか、と結構深い話です。
保安部と真田さんが口論になった際の、『君はただ、人間らしく振舞っているだけなのかもしれない』や『私にはわからない、君に心があるのかどうかさえ』も印象的。
そのほか、原作とは違うシュルツの最期も涙もの。ここまでキャラクターが掘り下げられたのは、本当に素晴らしいと感じました。
また旧作やゲームをプレイした方ならご存知、ゲールの存在感が強くなってますw 声優は広瀬正志さん。
上官に媚び諂い、部下には罵声を浴びせ、危なくなったら自分だけ逃げる。旧作以上に外道ぶりや無能ぶりが強調されています。
しかし、何故か憎めないw 他ガミラス人と比べると、表情豊かかつコミカルな一面があるためだと思います。機会があれば、皆様も御視聴なられてみては?



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