ミッドチルダ首都クラナガンの北部、郊外からさらに外れた草原地帯には安らかな自然の景色を損なう光景が広がっている。
そんな心穏やかになれる筈の風景に、似合う事のない破壊と暴力を振るう鉄の獣達が支配していた。しかも数百頭に昇る他、2つの集団に分かれている。
それは縄張り争いの前兆だ。洗礼された鉄の獣達と、対する武骨なデザインをした鉄の獣達。その片方の集団――防衛軍第6空間機甲旅団及び、管理局戦車部隊を指揮するのは地球防衛軍の人間――古野間 卓少将であった。
方や武骨且つ、黒々とした不気味な獣達――SUS特殊戦車部隊を率いるのは、SUS軍の指揮官であるベルガー大将である。
そして、その戦力は膨大なものである。防衛軍・管理局の連合戦車部隊は凡そ240輌。方やSUS戦車部隊は410輌。総計650輌もの戦車が、草原を埋め尽くし砲火を交えんとしていた。
「……閣下、全車両の集結及び陣形配置、完了しました」
「よし。前回より5分は縮めたな」
等と教官の様な口振りをするのは古野間だった。連合戦車部隊は、全ての車両をクラナガン中心部に集中させており、当初の全方面配置とは異なっていた。
参謀や他指揮官達の意見から、全方面へ分散配置するのは足の速い魔導師を中心にし、足の遅い戦車は都市中央部に集中。
SUSがどの方面へ到着するのを見計らって、全車両を迅速に移動させる。これが一番良い選択ではないか、という結果が出されたのであった。
「上空の様子はどうだ?」
「はい。先ほどからガジェット部隊が交戦しておりますが、制空権の完全掌握は難しいかと……」
〈F・ガジェットU〉はSUS戦闘機隊と激しいドッグファイトを繰り返しているが、制空権の確保はままならない様子だった。そこで古野間は新たな命令を出す。
「ガジェットを一旦下がらせろ」
「ハ? しかし、それでは、我が方が空爆の危険に……」
「先ほども言ったが、奴さんは新兵器の実験をしたいようだ。ならば、空爆などと言う真似はするまい。せっかくの獲物を倒しては、実験の意味がないからな」
実験されるのは自分達なのだが、とオペレーターは思うが口に出さない。〈F・ガジェットU〉を下げるとは言っても、完全に後退させる気はない。
もし相手が追撃してくるようなら、引き続き迎撃を継続するつもりだった。しかしオペレーターの予想は杞憂に終わってしまう。
古野間の指摘通りだったのか、SUSは追撃はせず、艦載機を引き揚げさせたのだ。どうやら本当に、戦車戦で決着を付けようと言うつもりらしい。
上空がクリーンになる。草原地帯には草原には所々、敵味方戦闘機の残骸が散らばっている。墜落した双方の機体により、草原は戦場になる前から醜いあばた面になってしまった。
参謀のアンドレが、チャートに表示されたSUSの配置を見て考え込み、古野間に意見する。
「閣下。敵は横列陣に展開するようですが」
「そうだな。尤もオードソックスな戦法を選んだようだ。どの世界も、戦法に変わりは無さそうだ」
安心する部分かは置くとして、この時の両軍の配置は、古野間の言う通りにオードソックスな物となっていた。お互いに横にずらりと部隊を並べる横列陣を取っていたのだ。
横幅は概ね同じだが、奥行きは違った。SUSは連合戦車部隊の2倍か、2.5倍もある。上空から観れば互いがガッツリと組みあう形となるが、それでも古野間は平然としていた。
そして相手も準備が整ったのか、遂に動きを見せる。
「閣下、敵部隊が前進を開始しました!」
「命令あるまで動くな」
SUSが草原の大地を、轟音を立ててながら進み始める。キャタピラが草を巻き上げ、土を巻き上げながら車体を動かす。邪魔する者は踏みつぶさんと言う迫力がある。
これから壮絶な潰し合いが始まるのだ。SUS戦車部隊旗艦〈シャゴルド0〉の指揮席に座るベルガーは、連合戦車部隊を睨んだ。
(俺はどの道、処刑される。自分が振りまいた種だ。……だが、このまま奴らに勝利させるのは性に合わん)
我ら実験部隊にとって、勝ちも負けもない。戦闘によるデータが取れればよいのだし、上層部も勝敗を気にしているつもりはない。
所詮は使い捨ての駒に過ぎないのだ、我々は……。我らが今までしてきたことを、自分でしなければならんとはな。
それを考えると、思わず苦笑してしまう。切り捨てられる側に立つとは、前までは思わなんだ。しかし、どうせ死ぬのなら奴らをより多く葬ってやるまでだ。
「全車輛、砲撃準備!」
「砲撃準備、伝達完了シマシタ」
この〈シャゴルド0〉に備え付けられたアンドロイドが、命令を伝達する。この車内にいるのは、ベルガーの他、参謀が2人だけ。他は全てアンドロイドのオペレーターだ。
無人戦車は命令を受け、いつでも撃てるように砲身にエネルギーをチャージする。このまま前進して、敵を揉み潰してやるのだ。この他に策は必要ない。
数の暴力で連合軍戦車部隊を壊滅させることは、容易な筈だ。そう確信していたが、古野間は素直に攻撃を受けるつもりは毛頭なかった。
「まずは、材料の下拵えからだな」
料理でも始める気だろうか、と戦闘とは関係のないことを口走る古野間。しかし勿論、これは彼なりのユーモアを振り込んだだけである。
キャンベルとアンドレはその内容を知っており、古野間の言葉に頷いて応える。そもそも、倍以上の敵に対してそのまま突っ込む気はさらさらなかった。
連合戦車部隊の背後には、森林を隠れ蓑にして潜む別部隊がいた。それが今か今かと命令を待っている。そして今、その命令が下されるのだ。
「支援砲撃、始め!」
古野間が命令を発した。瞬間、後方の森林で轟音と衝撃が幾つも響きわたる。森の動物達が驚き、外の草原に向けて一目散に逃げ出す。
第6機甲旅団に配備されている陸上兵器、215式155o自走装甲榴弾砲〈クルップ〉である。一見すると戦車とに通ってはいるが、目的は遠距離射撃による支援攻撃だ。
〈タイフーンU〉よりも長砲身且つ大口径の武装を施す〈クルップ〉は、エネルギー兵器ではなく実弾兵器主体の戦闘車両である。
かといって火薬式で発射される訳ではない。長電磁投射砲(レールガン)だ。タキオン技術が導入される以前は、発射時に消費される電力が異常に高いために開発を中止。
タキオン機関及び陽電子砲におけるエネルギー消化率の向上化が進んだ結果、その技術が車両にも応用されて実現するに至ったのである。
この〈クルップ〉が8輌あまり。その長射程の利を生かし、迫りくるSUS戦車部隊の前衛へ向けて一斉に砲撃を開始した。
そのような事を知らず、SUS戦車部隊は前進を続けていた。しかし、威勢よく進む彼らに、最初の一撃が降り注いだ。何輌かの〈ヴェルス0〉がつんのめった様に停止する。
危険を避けたようにも見えるが事実上の“即死”だ。空中から超音速で飛来するクルップの砲弾――それはもはや、砲弾と言うよりは、超硬度の槍に等しいそれが、動力炉を貫き爆発する暇すら与えず沈黙させたのだ。
しかし被弾と同時に〈ヴェルス0〉は、薄紫色の怪しい発光を放つ。その光が大破した〈ヴェルス0〉を完全に取り込む。不思議なことに、光が収まったそこには何も残っていない。
「015、031、049、大破。強制転移作動」
〈シャゴルド0〉のアンドロイドが淡々と報告する。これはSUSが追加装備した、小型の転移装置だ。戦車が行動不能、あるいは撃破されると同時に作動する仕組みだ。
転移先は予め設定されており、かの〈ヤマト〉らが戦ったSUS第7艦隊の最期と同じようなものである。何も証拠を残すことの無いよう、取り計らった結果。
初撃でされる光景にベルガーは驚かされる。もう攻撃してきたというのか、まだ射程に入りきってはいないぞ!
「前面の敵戦車が攻撃してきた様子ではなさそうです」
「……ならば、また魔導師の奴らか?」
「いえ、魔力反応は検出されておりません。攻撃があれば、前衛の戦車から報告がある筈です」
ベルガーは、以前の戦闘記録から魔導師のカモフラージュ戦法でも仕掛けてきたのではないかと疑ったが、魔力反応のないところを見ると、違うと判断せざるを得なかった。
そこで考えられたのが、長射程の砲台か何かを投入しているのだろうという結論だった。地球の援軍が持って来た兵器に違いないだろう。
用意がいいことだな、と皮肉を投げつけるが、逆に砲弾の雨が降り注ぐ。また数輌の〈ヴェルス0〉と〈メロイド0〉が光球と化して消滅する。
連合軍は遠距離で数を撃ち減らす腹の様だが、生憎と数的優位は変わらない。それに撃たれ続けるのも気に入らないものである。
「第1陸艦隊(陸上戦艦)、主砲を最大仰角で発射せよ」
〈シャゴルド0〉は全部で4隻。主砲は実弾も発射可能となっており、常時使い分けるのである。その射程圏内に、連合戦車部隊は辛うじて収まっていた。
全車で主砲4門、中口径砲8門が空を睨みつける。狙うはその先の連合戦車部隊。そして、ベルガーの命令が飛んだ。
「砲撃、開始!」
ズズン、と体全身を吹き飛ばすような衝撃が広がる。さらに草原の草を吹き飛ばし、砂埃を舞い上げた。砲身から飛び出した弾丸は、弧を描きながら目標へと殺到する。
待機していた防衛ラインまで誘い込もうとしている連合戦車部隊に、報復の弾頭が降り注いだのは30秒前後の事であった。
弾頭が降ってくる際に聞こえる、特有の飛行音。それに最初に気が付いたのは、第6機構旅団の兵士達だ。直ぐに古野間にも連絡が飛ぶ。
キャンベルは驚き、古野間はすぐに命令を飛ばす。
「敵艦砲に備えろぉ!」
その数秒後、弾頭が地面と接触。大量の土を掘り起こし、轟音を立てた。正確ではないとはいえ、この反撃で管理局の戦車〈カレドヴォルフV〉が3輌撃破された。
戦車ではなく艦砲の砲撃に、新型戦車とはいえ耐えきるのは無理な話だ。風船のように破裂し、跡形もなく破壊されてしまった。
攻撃に管理局局員達は恐怖感に苛まれた。圧倒的な火力は、彼らの不安定な心理にダメージを与えたのである。古野間も、顔をしかめる。
まさかあの陸上戦艦が、ここまで遠くに飛ばしてくるとは思わなかったからだ。アマール戦の陸上戦艦でさえ、ここまで遠距離砲撃を実地した事は無い。
しかし、いつまでも狼狽える時間はない。すぐに思考を切替、別の手を実行した。
「下拵えは不十分だが、次に行くぞ。ローストビーフにしてやる」
「不味そうですね」
「名物には、ならんでしょうな」
俺だって美味いとは思わんさ。そんなことを思いつつも、次の攻撃が実効された。そして、その手は、まさに古野間の言葉通りのものとなる。
それは〈クルップ〉とは別の方面に配置された設置型の砲台。進撃してくるSUSを睨み付けていた。行動を制限されていた鎖を解かれ、威力を発揮する。
「〈ナイアガラ〉、攻撃始めぇ!!」
その声と同時に、先の大砲の轟くような響きとは別の音が響く。弾頭が煙を噴き出していることから、砲弾ではなくロケットの類であろう事が分かる。
そしてその数は120本にも昇った。一つ一つがロケット弾頭であり、それらは弧を描いてSUS戦車部隊の上空へと差し掛かる。
この攻撃はベルガーにも知れるところとなった。
「対空戦闘開始!」
対空戦車〈メロイド0〉の銃身が、一斉に上空に向けられると、AIが各自判断で射撃を開始。赤いビームが弾幕を形成して迎撃しようとする。
迫りくるロケット弾を、瞬く間に30余りを破壊した。しかし、迎撃してもそれは意味を成しえない。その理由は直ぐに知れる。
飛翔してきたロケット弾は直接に降り注ぎはしない。戦車部隊の真上で突如爆発してしまったからだ。だが本当の恐怖はその後であった。
「何事か!」
ベルガーは叫んだ。自爆したと思われたロケット弾から、今度は細かいエネルギー弾が雨あられとなって降り注いできたのである。
1つの弾頭につき20個分の拡散エネルギー弾が仕込まれている。単純計算でも、2400発もの小型エネルギー弾が戦車部隊の上空から降ってくるのだ。
まさにナイアガラの滝の如し。その滝に呑まれたものは浮いてはこれないのと同様、弾幕に呑まれたSUS戦車部隊の前衛は瞬く間に火の海と化した。
上空から降り注ぐエネルギー弾に成す術は無く、天井を撃ちぬかれて行動不能に追いやられていく。同時に数百と言う発光が辺りを覆いつくし、その場から消え去ってゆく。
試作戦車が瞬く間に、100輌以上もが粉砕されてしまったのだ。予想を覆す連合軍の反撃に、ベルガーは呆然としていた。そして、心の奥底から地球と言う存在を呪い、憎悪した。
地球の戦闘艦といい、タキオン兵器といい、人間といい、どれもこれもがSUSの邪魔となる。そして、これは艦隊にのみ限られたことではなかった。
地上兵力でさえ、あのタキオン拡散兵器を模した様な、新型兵器を出してくるではないか。なんなのだ、地球人の奴らは!
「戦闘部隊ノ消耗率35%、対空戦闘部隊ノ消耗率43%」
「総司令、右翼部隊の損害が著しく多大です!」
「……馬鹿な」
ベルガーがそう言うのも無理はなかった。何せこの攻撃で〈ヴェルス0〉は241輌、〈メロイド0〉は46輌にまで減らされてしまったのである。
〈シャゴルド0〉は辛うじて無事であったが、損失は遥かに大きかった。そして彼自身への心理的ダメージも、大きいものとなった。
方や古野間は、この状況を見て表情をやや緩ませた。彼が呼称した〈ナイアガラ〉、これは後方支援用の多弾頭ロケットランチャー搭載車の事である。
15門の砲身が縦3門、横5門という配置で纏め上げられており、トラックの荷台に乗せる形となっている支援車輛だ。
ロケット砲という兵器自体は、遥か昔から存在していた。しかしガトランチス戦役時に、再びその脚光を浴びることになった。
テレザート星会戦という、空間騎兵隊とガトランチス第1格闘兵団との戦いで活用されており、100輌近いガトランチス戦車部隊を、旧型多弾頭ランチャーが見事仕留めている。
その後は活躍がない。当然と言えば当然だ。地上戦のあったデザリアム戦役では、生憎と市街地戦となった事が原因で、多弾頭ランチャーを使用できなかった。
銀河大戦、ディンギル戦役でも活躍する機会はなく、先だってのアマール防衛線も市街地のために使用できなかった。そして今回、草原地帯と言う開けた戦場が選ばれたことにより、多弾頭ロケットランチャーの使用が決定されたのである。
一斉射で100輌近い戦車を撃破できたことに、連合軍は歓声を上げる。または余りの高威力に恐れ慄く者さえいた。古野間は、どちらかと言えば破壊力に驚いていた側だ。
「我ながら、恐ろしい兵器だとつくづく思うよ」
「同感です……しかし、不思議ですね。SUSの戦車は数を減らしていますが、残骸が残っていません」
キャンベルが同意しつつも、SUS戦車部隊の可思議な減少に首を傾げる。確かにその通りだ、SUS戦車部隊は破壊した車輌の残骸が確認されなかった。
怪しい発光が戦車を包み、次の瞬間には消えている。まるでSUSの人口太陽を破壊した時と似ている光景であった。
「気にしても仕方ありますまい、閣下」
「敵戦車部隊、陣形を整えながらも前進」
「荒削りは上手くいかなそうだな、この様子では」
普通ならば、ここまで叩きのめされた場合、兵士の士気は大きく変動するものだ。隊列は乱れ、動きが鈍くなるものなのだが、目の前の連中はそうもいかない。
戦況チャートのSUS戦車部隊の動きが、驚くほどに統制されているのだ。破壊されて空いたスペースを素早く埋め、態勢を整えている。
しかも進撃ペースが鈍っただけで、後退や停止などの予兆もない。こりゃ驚いたな、奴らにも捨て身の覚悟が備わっていると見える。
「このまま敵を引きずり出すぞ。歩兵連隊、迎撃準備。〈クルップ〉隊は、敵戦艦を中心に砲撃を加えろ」
整列しつつも進撃を続けるSUSの進行方向には、連合戦車部隊が待ち構えている。射程距離までもう間もなくなのだ。しかし、そこにも古野間なりの仕掛けが用意されている。
それに気づかないSUS戦車部隊は、速力を一定に保ったまま前進を続ける。その間にも〈クルップ〉の支援砲撃が降り注ぐものの、止まる気配はない。
〈ヴェルス0〉のAIも臆することなく前面の敵目指して突き進んだ。物量に物を言わせて、連合戦車部隊を押し潰そうとしていたのだが……。
「今だ、発射ァ!」
「ファイヤー!」
空間騎兵隊隊員が叫んだ。すると別の隊員が構えていた、対戦車用携帯式ロケットランチャーが火を噴く。それも一人だけではない。
草むらや林にひそみ隠れていた対戦車歩兵部隊が、一斉に迫るSUS戦車前衛部隊に向けて攻撃を開始したのだ。AIは固定していた目標以外からの攻撃に、変更を余儀なくされた。
白い煙を上げながら飛び出すロケット弾。数十という数が低空飛行で殺到し、前衛の戦車部隊に食らいついた。
近距離の〈ヴェルス0〉の装甲に食らいつくと、突き破り内部に潜り込む。そして内部に弾頭を送り込み、爆破させる。内部からの爆圧に耐えきれず、消滅してしまった。
突然の奇襲に、〈ヴェルス0〉は7輌余りが吹き飛んだ。さらには、迫撃砲が上面から襲い掛かり、天井を貫通する。
「小賢しい。対空戦車隊は一掃しろ!」
伏兵の攻撃に苛立つベルガーは、対空戦車による機銃掃射で片づけるように命じる。足の遅い歩兵ならば、逃げ切ることは不可能だと判断したのだろう。
対人レーダーで捉えた〈メロイド0〉は、機銃の銃身を向けて射撃を開始。赤い雨が隠れているであろう窪地や草むらめがけて掃射される。
しかしこれは想定されたもの。古野間の練りに練った戦術構想に、抜かりはなかった。
「転移します!」
各部隊に配属されている、転移魔法の扱える魔導師達が一斉に発動した。転移を合図した数秒後には、歩兵達の姿はなかった。虚しく地面を掘り返すビーム群。
そして、魔導師と防衛軍の連携術に戸惑うベルガーと参謀達。無人AIも消えた標的に状況処理が遅れる。その僅かな隙に、今度は連合戦車部隊の攻撃が開始された。
「撃ち方始め!」
古野間が指揮車にて砲撃を命じた。それを受けて、16式重戦車〈タイフーンU〉の連装砲塔の砲身が発光、次の瞬間には青いプラズマを帯びた光弾が飛び出す。
他の部隊も一斉に砲撃を開始する。〈カレドヴォルフV〉よりも威力のある陽電子衝撃砲は、標的である〈ヴェルス0〉を撃ち抜いた!
車体に生々しい貫通した穴を作り上げ、車体は爆発。そして強制転移で跡形もなく消えさる。何とも不気味な連中だ。古野間はそう思わずにいられない。
そして肝心な〈カレドヴォルフV〉。射程に入るや否や、戦車部隊、第5大隊長――ビットマンは号令をかけた。
「撃てぇ!!」
〈カレドヴォルフV〉の主砲が、眩く発光したかと思うと青白な光弾を撃ち出した。隊長車に続き、後続車も一斉に撃ち放った。
これと同じくして、SUS戦車部隊も連合戦車部隊に対して発砲を開始した。対照的な赤い光弾が発射され、青い光弾と交差する。光の刃となったそれは、双方に襲い掛かった。
「着弾!」
先に着弾したのは管理局の方だった。だが一番の問題は、この新型戦車の攻撃がSUSに効くかどうかだった。もし前回同様に弾かれてしまったら、笑いごとで済まされない。
ビットマンはじっと見ていた。自分達が撃った光弾が、SUS新型戦車に命中する。10輌もの戦車に命中したが、6両余りは装甲で弾かれてしまった。
残る4両は集中的な攻撃を受けたためか、装甲が持ち堪えられずに貫通を許す。行動不能になった途端に、例の不気味な光が戦車を覆い尽くした。撃破した証拠だった。
この時、彼は確信した。我々の攻撃は、SUSにも通用する! これは管理局員全員が、SUSに対抗しうる兵器を持てたと実感した瞬間でもあったのだ。
そして今度は、彼らが撃たれる番であった。入れ違いで飛んで来るSUSのビーム群は、連合戦車部隊の陣地内に着弾。舞い上げる土砂の量は連合軍の倍はあっただろう。
その中で数輌の〈カレドヴォルフV〉が犠牲になった。さしもの新型車とは言え、装甲でビームを完全に弾くことは叶わなかったようだ。
車体に大穴を開け、爆発する。中に乗っていた人間も、脱出する機会を与えられることなくして、焼身という方法を強制させられた。
「行け、揉み潰すのだ!」
ベルガーが命じる。〈ヴェルス0〉は果敢に攻撃と突撃を行い、連合戦車部隊も撃ち返す。1発のビームが〈タイフーンU〉に命中するが、それは装甲で防がれてしまった。
旧ガミラス帝国の主力重戦車〈サルバーS‐W型〉を参考にして、開発・改良を加えられた帯磁特殊加工(ミゴヴェザー・コーティング)技術。
防衛軍戦闘艦が常備する電磁幕発生装置ほど出力は無いが、装甲の強度はさらに上がる。実弾は勿論だが、エネルギー系の攻撃には特に耐久性があった。
「SUSの新型戦車も、恐れるほどの存在ではなさそうですね」
「そうだな。だが侮ることはできんぞ」
アンドレは〈ヴェルス0〉を脅威とは見ていなかった。しかし古野間は〈ヴェルス0〉を過小評価しなかった。いくら撃破できるとはいえ、相手の機動力の高さに着目していたのだ。
SUS戦車部隊は巧妙に回避運動を始め、その状態から応戦してくる。その素早さは防衛軍の〈タイフーンU〉に迫るほどだ。
左右に動きつつも砲塔はしっかりと獲物を狙う。素早い対応で、今度は〈タイフーンU〉1輌が集中砲撃を受けて被弾。車体右前方を大きく抉られ、キャタピラが車輪共々吹き飛ばされてしまい、走行、戦闘共に不可能になった。
「怯むな!」
第12小隊長ハンス・クリューゲ少尉が、果敢に反撃を行う。距離を3000mから2000mへとまで接近する両軍。その中に、歩兵部隊と魔導師部隊も入り混じり、援護を行う。
連合戦車部隊の横列陣による防御に対して、SUSは多数の戦車を失ったものの、いまだ1.5倍程の兵力を有している。そして、退く気配もない。
それどころか、SUSは新たな動きを見せていた。
「敵中央部を叩け。中央集団は楔型に陣形を再編、順次突撃せよ」
ベルガーの評価として、一番侮れぬのは地球防衛軍の戦車だった。先ほどの自走砲も侮り難いが、この試作〈ヴェルス0〉とも対等以上にやりあえる性能。
管理局の戦車は確かに性能が上がった。しかし、〈ヴェルス0〉に対抗するには集団戦闘が必要不可欠。単独戦闘で対決した場合、〈ヴェルス0〉の方が上なのは間違いない。
連合戦車部隊の中央部に地球軍が陣取っている。両翼を管理局が固め、彼らSUSに対抗していた。そこでベルガーは、機動戦術のデータ取りも含め、突破戦を指示した。
出来る限り地球軍の戦車部隊とやりあった方が、有意義な戦闘データが取れる事だろう。あとは、本星の連中が修正を施して正規の戦車を作ればよいのだ。
横列陣だったSUS戦車部隊は、迅速に陣形を変更し始めた。次第に横列だったものが、楔形へと姿を変えていき、2個中隊60輌余りが2重の突撃陣形を構築した。
側面こそがら空きという有様だが、鏃の如く三角形になったSUSは目前の地球軍第6空間機甲旅団戦車部隊に向け、雪崩を打つように進撃を続ける。
全てが中央へ集中してくるのだ。防衛軍の車両だけでも39輌。対して押し寄せるSUSは300輌前後。到底勝ち目はないものだ。
しかし古野間も黙って見ていた訳ではない。この陣形変更を察知した時点で、新たな指示を繰り出していた。
「全車、後退しつつ煙幕を展開! 敵の目を一時的に誤魔化せ!」
〈タイフーンU〉の砲塔側面に備え付けられている煙幕投射機から、前方に向けて煙幕弾が打ち上げられた。すると白い煙が吹き出され、視界を瞬く間に白く染め上げる。
古典的な目晦ましではあったが、SUSの自動標準装置を誤魔化せるくらいの効果はあった。照準が狂い、先ほどよりも的外れな場所へ着弾するビーム弾。
だが〈ヴェルス0〉AIは、直ぐにサーモグラフィーに切替え、熱源を頼りに砲撃を続行する。夜中ではなく濃い煙が立ち込める為、それも良い打開策とはならなかったが。
「敵との距離を保つ。第5大隊、時計方向へ大きく迂回し、敵右側面を突け! 第4大隊は反時計方向へ大きく迂回、反対側の左側面を突くんだ!」
『了解!』
第5大隊は管理局戦車部隊であり左翼集団の1つ。前進してから時間を僅かに置き、最右翼の第4大隊も前進する。側面に回るように、それぞれが全速で進む。
残る第1から第3戦車大隊は、後退しつつも横に広げていた陣形を縮小させ、戦力の集中化を図った。これでも120輌程度である。
対するSUSは楔形ゆえに正面戦力はそれほどでもない。前面に出ているのは100輌前後が精々だった。が、その後ろには200輌前後の戦車部隊が航続している。
どこまで各個撃破できるものか。真正面で受け止める間に、両側面を突いて分断でも出来ればよいのだが、簡単な話ではない。
歩兵部隊も緊急の命令を受けて、戦車部隊と連携を組めるよう配置につく。彼らの支援があるだけでも、大分違う筈だ。
「〈クルップ〉隊は引き続き砲撃を続行、第6、第7歩兵中隊は第5戦車大隊を援護、第8、第9歩兵中隊は第4戦車大隊を援護せよ」
各歩兵中隊は、転送部隊――即ち転移魔法を可能とした魔導師の部隊と連動して、指定ポイントへと直接転移するのだ。
「閣下、歩兵連隊と合流、および陣形変更完了しました」
「よし。全部隊後退を中止、転進して敵を迎え撃てっ!」
後退中だった戦車群は、一斉にその場で180度回転して反撃体制に移った。同時に歩兵部隊も一斉に構えた。相手は相変わらず直進してくる。
そして、煙幕を切り抜けた先頭の〈ヴェルス0〉を待っていたのは、逆襲の砲火だった。
「全部隊、攻撃開始!」
「撃っ!」
SUS戦車部隊の先頭集団は、たちまち集中砲火の洗礼を受けた。陽電子衝撃砲、迫撃砲、小型ミサイル、様々なものが、叩き付けられたのだ。
先頭集団に立ち込める大量の弾幕、巻き上がる土砂、そして巻き込まれる〈ヴェルス0〉と〈メロイド0〉。10輌は瞬時に葬られてしまった。
逆激を受ける形となったベルガーだったが、突撃命令の撤回をする様子はない。何度かわからぬ小細工に、ベルガーは苦笑するだけだ。
「このまま突撃を続行。戦艦隊は艦砲射撃で敵を蹴散らせ」
〈シャゴルド0〉の砲身が再度、連合戦車部隊に牙を向けた。唸る砲声が辺りを震撼させ、砲弾は狙った連合戦車部隊に降り注いだ。
吹き飛ぶ数量の戦車と、余波を食らい薙ぎ払われる歩兵。身体が空中に舞い上がり、地面に叩き付けられる兵士。衝撃波でバラバラになる兵士。あの地獄絵図が繰り返される。
だが今度の轟音は、SUS側に発生する。〈クルップ〉の支援砲撃の弾丸が、1隻の〈シャゴルド02〉に着弾したのだ。
「総司令、〈シャゴルド02〉が被弾、行き足が止まります!」
「放っておけ。撃てるならそのまま撃たせておけばよい」
行動不能となった1隻を放置し、前進を続けるSUS。だが勢い止まらぬ彼らの側面へ、一発の張り手が叩き込まれた。迂回行動をとっていた第4、第5戦車大隊からの攻撃である。
「……敵ノ別働隊、9時10分 及ビ 2時50分 カラ接近中」
「分断が狙いでしょう。あの程度なら、2個小隊もあれば十分です」
「良いだろう。管理局に、もう一度地獄を見せてやれ」
分断しようという狙いは悪くはないが、貴様らでは少々力不足だ。分断どころか、貴様らが全滅することになるだろう。
縦列陣の部隊から、2個戦車小隊60輌前後が分裂し、左右から迫る管理局の戦車部隊に矛先を向けた。同数レベルでの戦闘では、管理局側の方が不利に働いてしまう。
怒涛の進撃で殲滅に向かうSUS戦車部隊に、管理局員も気圧される。報復の張り手どころか、往復ビンタが叩き込まれていく。
集中的に攻撃する管理局〈カレドヴォルフV〉に対して、1輌だけで十分な破壊力を見せつける〈ヴェルス0〉。
「19号車、爆破!」
「敵の対応が早い……全車、距離を保ちつつ、応射せよ!」
第5戦車大隊指揮官ビットマンは焦りを募らせた。一部部隊がこちへ向かってくるのは、殲滅するためとしか言いようがない。
早くも押し返される大隊を支えるべく、支援として派遣された歩兵部隊が攻撃を開始する。反対側の戦場でも同じく、第4大隊を援護すべく攻撃を始めていた。
第6空間機甲旅団ら中央部隊の攻防は苛烈を極めた。〈タイフーンU〉の正確な射撃で、〈ヴェルス0〉を1輌づつ潰していったが、終わりが見えない。
空くことなき圧迫感が、連合戦車部隊の兵士達を心理的に追い詰める。だが相手の兵力も無限ではない。この突撃もいずれ終わりが来るのだ。
指揮車で戦況を見つめる古野間と、幕僚達。迂回させた部隊は、SUSの素早い反応により分断を断念せざるを得ない状況に追い込まれていた。
援護に回した歩兵部隊の協力もあって、辛うじて均衡を保っているようなものだ。だが、これがいつ崩れてしまうのか時間の問題である。
「閣下。第5大隊、第4大隊の損害は2割を超えます!」
「司令、歩兵部隊と魔導師隊の連携で、戦線を維持できている状態ですが……」
全滅する可能性もある、とキャンベルが言いかけた時だ。古野間は危機感ではなく機会だと感じていた。
「チャンスだ」
「は?」
「チャンスだと言ったんだ、中佐。敵は第4大隊、第5大隊を殲滅するのにわざわざ兵力を割いた。今が最大のチャンスなんだ」
「しかし、それでは……」
2個大隊はSUSの餌となってしまう、とアンドレが口を開こうとする。それを制し、古野間は通信機のマイクを手に取った。
「玉砕しろとは言わんよ。……ビットマン少佐、聞こえるか? 古野間だ」
『はい、こちらビットマンであります』
通信先は第5大隊だった。古野間は彼らに対して、分散したSUSを引きずり回せるかと尋ねた。これは時間稼ぎを意味しているのは、ビットマンにも解った。
彼は自信を持って答えた。
『出来ます。最大で15分は引きずり回してやります』
「よろしく頼む」
『ハ!』
そして片方の第4大隊も同じ返答を返してきた。彼らのは辛い時間ではあるが、これを生かさなければ勝利は無い!
無線を繋ぎ変え、後方支援の〈クルップ〉隊と彼ら本隊の全車輛に命令を告げる。
「〈クルップ〉隊、魔導砲撃隊、歩兵部隊、砲撃を敵先頭集団に集中せよ! 命令あるまで続行!」
『イェッサー!』
「第1、第2、第3戦車大隊、火力を敵正面に集中!」
〈クルップ〉の砲弾が、魔導エネルギー弾が、迫撃砲が、全ての火力が先頭集団に向けて叩き込まれた。色とりどりとも言える攻撃に、それ相応の華が地上に咲いた。
土煙が辺りを支配し、照準装置を阻害する。〈ナイアガラ〉程ではないにせよ、上空から降り注ぐ攻撃に〈ヴェルス0〉先頭集団は成す術なく破壊されていく。
さらに正面に陣取る連合戦車部隊の砲撃。正面と上空からの攻撃に、多大な被害を被るSUS前衛戦車部隊。これに対してベルガーも支援砲撃を実行するが、戦艦隊の砲撃は虚しく地面を掘り返すだけに終わる。
「敵正面に突破口!」
「今だ。全車輛、全速前進! 正面から敵戦車部隊を分断する、 突撃ィ!!」
前進命令と前後して、〈シャゴルド0〉の砲撃は彼らの“居た”場所に着弾したのだ。そして、数を減らし陣形を大きく崩した、SUSの先頭集団に殺到する連合戦車部隊。
第6空間機甲旅団が先頭に立ち、左右後方に第2、第3大隊が付き従う、凸型陣を形成していた。ひたすら打ち込まれ続ける〈クルップ〉隊の砲撃や、迫撃砲等の攻撃は続き、それが完全に止んだのは連動戦車部隊が突入を果たす直前の事だった。
ベルガーは歯ぎしりをした。さっさと殲滅できるであろう両翼の敵部隊が、何かとこちらを引きずり回すお陰で、相手の主力部隊と支援部隊の攻撃をまともに受けてしまった。
「敵部隊、前衛部隊ト交戦」
「前衛2個戦車中隊、共二損耗率50%ヲ超過」
「総司令、敵は真っ直ぐこちらを目指しております!」
それは分かっている。前衛を切り崩し、さらには後方支援の攻撃目標を我ら第2陣に集中させた。成程、流れるような攻撃の切り替え、敵ながら見事だ。
幾ら高性能のAI知能と言えど、減った分の戦力の埋め合わせなど出来ない。それが出来るくらいの高高度な人口知能があれば、今頃の我が軍は全て無人艦となっているだろう。
地球人は何処までも侮れぬ種族だ。ふと、〈シャゴルド0〉が揺れる。
「敵弾ガ外郭装甲板二命中。第3副砲、損壊」
「……参謀、両翼に回した奴らはどうした?」
「ハッ、敵部隊の4割を撃破。ですが、後退しているようで……」
「後退ではない、引き離しているのだ。よもや、単純な手に掛かるとは、とことん落ちぶれたものだ……この私も」
自分を哀れむベルガーは苦笑した。そうも言っている内に、正面の連合戦車部隊は前衛の第1陣を完全に切り崩していた。中衛の第2陣たる我々には、防ぎようはない。
これまでに地球軍の戦車を10輌前後、管理局の戦車を60輌近くは葬ったようだが、我らも200輌あまりを失った。特に、あのクラスター兵器は恐ろしいものだ。
連射能力は無いようだが、今後、対策が必須となるだろう。そこまで考えた時、彼の旗艦に通信が入る。相手は本国からだった。という事は……。
『ベルガー。大分、擦り減らされたようだな』
「ハ」
『それに押されているようだが……。まぁ、それはよい』
重圧的な視線で睨み付けながら言う上司に、ベルガーは何も言い返さなかった。所詮、この戦闘は勝ち負けを求められた訳ではなかったからだ。
『お前の“奮戦”のお陰で、良い実戦データが入った。管理局は恐れるに足らないが、防衛軍だけは別格なようだ。改良の余地は十分にある』
「……」
前置きが長い。さっさと、要件を言えば良かろう。口には出さぬが、彼は心内で怒鳴り声を上げる。上司はそれを知っての事か、侮蔑するような、卑しい目線で舐めまわす。
やっとこさ、上司は要件を言い放った。
『用は済んだ。貴様は残る車両の撤退を“最期まで援護せよ”』
「了解」
そこまで言うと通信は切れた。全くもって遠回しな言い方をする。撤退に時間は必要ない。強制転移装置に点火してやれば、その場で一斉に離脱が可能なのだ。
つまりは、お前だけ残って戦死しろという事だ。一呼吸置き、同乗している参謀らに目線を向ける。
「これより撤退の援護のため、殿を務める。良いな」
「ハ、異存はありません」
「最期まで、お供致します」
ここで済まないな、と言えるほど思いやりのあるベルガーではなかった。ただ、その意志を確認して軽く頷くだけで、視線を再び戦況へ戻す。
連合戦車部隊先頭集団との距離は、既に1000mを切っていた。これで一斉に退ければ、我々は袋叩き似合うだろう。一呼吸置き、彼は緊急転移装置の強制作動を命じた。
アンドロイド兵が通信機を操作すると、旗艦から指令通信が一斉送信される。この数秒後、着信した車輛は強制的にこの世界からの退場を求められた。
一番驚いたのは連合戦車部隊の面々であろう。もう直ぐで本命、という所まで来て、SUSが一斉に発光したかと思えば、その場から姿を消したのだから。
古野間も、不意の転移に少なからぬ動揺を受けてはいた。しかし、これが撤退したという意味を持つものだと理解するのに、時間は掛からなかった。
アンドレイも、キャンベルも、戦況の不利に鑑みた撤退であるということを悟った。両翼に回った部隊を追いかけまわしたSUSの部隊も消えた。
消えたのは喜ばしいものなのだが、その感情を直ぐに捨てた。理由は目の前にある。
「あれだけが残ったか」
「何故撤退しないのでしょうか……」
キャンベルが疑問に思い首を傾げる。その直後に、残った〈シャゴルド0〉が最期の攻撃を開始した。無傷な主砲が火を噴く。
味方と言う障害物が無くなったためか、〈シャゴルド0〉の砲撃はゼロ距離射撃に近いものがあった。無論、これを避ける事は無理なものである。
避けきれなかった〈タイフーンU〉が粉微塵に吹き飛ばされ、もう1輌は上下逆さまにひっくり返ってしまった。
最後の最期まで厄介な奴だ、と古野間は愚痴を零しつつも反撃を命じようとした時だった。
「うぉ!」
声を上げる古野間。それは戦車とは思えない火力が〈シャゴルド0〉の車体前部の一部を抉り、搭載していた主砲を完全破壊したからだ。
これ程の火力を打ち出せるのは、砲撃専門の魔導師しかいるまい! しかも、かなり高レベルの奴だ。確か数名程だが、そんな優秀な人物がいたが……。
黙々と黒煙を上げる〈シャゴルド0〉を3数秒程、眺めやった時だ。指揮車の無線機に音声通信が入った。それは女性の声である。
『今です、古野間司令』
「貴官の攻撃か……! 全部隊、あの戦艦にトドメを刺してやれ!」
その声に聴き覚えがあったが、名前よりも攻撃命令を下した。その瞬間、総計200近い砲弾やエネルギー弾が解放され、一斉にベルガー座乗の〈シャゴルド0〉へと殺到した。
強固な装甲とはいえ、これだけの攻撃を受ければひとたまりもなかった。〈シャゴルド0〉艦橋内で、眩い輝きに支配されながらも、ベルガーは微動だにしなかったのだ。
耐えきれずに爆発する最後の〈シャゴルド0〉。その爆炎と黒煙が確認できたと同時に、またあの光球が包み込み、跡形もなく消え去った。
忽然と姿を消したSUSの戦車部隊。美しい草原が戦闘で荒れ果て、屍を生み出した他に残されたのは、勝利した連合戦車部隊だった。
「……終わったな」
「えぇ、終わったようです。全て」
消え去った地点を見ていた古野間に、キャンベルが答える。衛星軌道上の艦隊も姿を消したという事だった。これで、この戦争は終わったと言ってよいだのろうか。
「全部隊、及び司令部に達する。SUSは1輌残らず、撤退した。ここに、我々連合の……人類の勝利を、宣言するものである」
この勝利宣言に、兵士たちは歓喜した。戦車の車両内で、または外に飛び出て、勝利の咆哮を上げた。同時にミッドチルダ住民が、勝利宣言に湧き上がる。
湧きかえる兵士達の声を余所に、古野間は先の攻撃を行ったであろう女性に、通信を繋げた。通信スクリーンに映ったのは、見た目からして10代後半程の女性だ。
大人しそうな表情をしており、薄いブラウン系統のロングヘアーを首の後ろで纏め、側頭部分が癖っ毛ゆえか跳ね上がっているのが特徴だった。
彼女は青を基色としたダイバースーツの様な恰好に、丈の短い短い青色ジャケットを纏う出で立ち。さらに背丈よりも巨大な、バズーカの様なデバイスを右腕に抱えている。
「見事だったよ、ディエチ砲術士」
元ナンバーズのメンバー、ディエチ。今はナカジマという苗字を付けており、ゲンヤ・ナカジマやスバルら家族の一人となっている。
『ありがとうございます、古野間司令』
見た目通りに大人しい性格故に活発的な印象はイメージはないが、古野間は彼女の砲撃能力の高さを目にしてからと言うもの、強い印象を残していた。
彼女は正式な局員ではない。まだナカジマ家に入ってから日が浅く、正式な活動を決めていないからだ。が、この情勢に鑑みて管理局から召集を受けたのである。
砲撃と狙撃を得意とする所以は、戦闘機人として与えられた能力だ。遠距離測定を可能とした視力を持ち、さらに彼女が抱えるデバイス〈イノーメスカノン〉の打撃力。
このよう能力を有していることは、地上戦闘において貴重な戦力に成り得たのは言うまでもなかった。
一言二言と話して、ディエチと通信を切る古野間。これから部隊を纏めて基地に戻らねばならない。それに損害状況も決して軽いものではない。
どれだけの戦死者を出したのか、数えたくもなかった。全滅しなかったどころか、半数以上が生き残れたこと自体、大変すばらしいことではあるが……。
報告を纏めるオペレーター達だが、ここで不可思議な現象に遭遇した。
「……ん? 司令、通信機器が反応しません」
「何……?」
「司令、レーダーも謎の妨害電波で作動不能!」
この時は故障かと思った。だがこの原因不明の機械への悪影響は、指揮車に限ったことではなかった。地上部隊司令部、各方面司令部も同様の現象にあたったのだ。
砂嵐や雑音しか入らない機器に、不安感が募る古野間。直ぐに回復しない様子で、またSUSが攻めてくるのだろうかと、冗談抜きで心配した。
しかし、おの心配は別の形となって実現した。それを目撃した古野間他兵士達、局員達、そして住民達は、想像もつかぬ体験をする事となる。
〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。もう12月、中盤に入ります。早いですねぇ……。
さて、第2回目ミッドチルダ攻防戦、如何でしたでしょうか?
恐らく3回目の地上戦になるかとは思いますが、なんだかやりづらい気がします……。
80話以内には必ず終幕を迎えられるようにしたいです。
そうとはいえ、なんだか続編の雰囲気バリバリにやってしまった上に、リリカル側(Froce編)と被せて続編作れるかなぁ〜とか馬鹿な事を考えてしまう。
まぁ、それよりも目の前を片付けねばw
それはそうと、ヤマト第4章PVが公開されました。
熱いですね、これは。ここで次元潜航艇とフラーケンが出るとか予想外です。
しかも彗星帝国が早くも登場。しかしドメルにボコられるというw
そして驚いたことと言えば、ドメルの妻らしき人物がいる事。しかも美人……さすがは宇宙の狼か。
早く第4章が見てみたいです。
それでは、これにて失礼いたします。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m