※諸注意――
公式ネタではない、壮大な自己解釈&自己設定が盛り込まれていますので、ご注意ください。
普通の空間が普通ではなくなり、突然に異次元空間へと放り込まれた。それは、先日に起きた現象そのものが再現されたと言っても良い。
ざわつく元会議室に集まった面々は、それを引き起こしたであろう張本人に、視線を集中させた。
「てめぇ!」
SUS人に対して、荒い口調で怒鳴り声をあげたのはゴルックである。彼の疑問は最もであり、それはこの場にいる者全員が抱いた疑問だ。
一度手を引くとは言ったが、まさかフェイクだったのか。皆が不安を抱くと同時に、大半が強い敵対心の眼でソレを睨みつける。
はやてらは二度目の体験となるが、それでも慣れるようなものではない。初めて目にした時は、それこそ恐怖で体中を締め付けられるような心境だった。
しかし今回は、スクリーンの中ではなく、立体テレビジョンさながらの登場だった。SUSは人間の3倍はありそうな体躯で、文字通り他者を“見下す”。
(いったい、何しに来たの?)
カリムもまた、その異様な重圧感を身に染みて感じている。中には鋭い眼光と口や牙に、怯みを覚える者も少なくない。
彼女が思うような疑問や、恐怖を感じ取ったのか、SUS人は口を開いた。
『言った筈だ、お前達の疑問に答えてやろうとな。それに、我らのコマを退けた勇士諸君の顔を覚えておこうと思ったのだ』
わざわざご苦労な事だな、ガーウィック等は鋭い視線を放ちSUSを睨みつける。彼のように憮然とした態度でいられる者は僅かでしかない。
恐怖心や威圧感に苛まれながらも、果敢に立ち向かおうとする局員もいた。はやてらも、反射的にデバイスを構えるが、それを見たSUS人はニタリと口元を釣り上げる。
『無駄な事だ、ヒトよ。お前達が魔導師であろうとも、この私に攻撃は無意味だ』
そう言われただけで、彼女らを強制的に諦めさせるような威圧だった。古代も無意味だろうという事は重々承知しており、銃を抜こうとする者を差し止めた。
突然の来襲に騒然とする面々の中で、とりわけ冷静に務めたマルセフは口を開いた。それは、先の教えてやろうという言葉に対する質問であった。
「……いったい、お前達は何者だ。何故、資源に乏しいとされる世界で、そこまでの力を持つ事が出来た?」
突然の問いに、SUS人は再び口元を釣り上げた。やはり気になって仕方がないのだな、とでも言っているようである。それが、他者の癪に障る。
『お前達は二度、勝利したのだからな。褒美としては丁度よかろう。だが信じるか信じないか……いや、信じたくないかはお前達次第だがなぁ』
敗者でありながら、敗者ならぬ余裕な態度だった。
『我々SUSは、お前達が思うような単なるエネルギー精神体ではない。ヒトの殻を脱し、新たなる肉体を作り上げた新人種である』
「新人種!」
新人種と言う言葉に、一同が愕然となる。という事は、SUS人というものは自然にして誕生した存在ではなく、人工的に作り上げられた存在という事になる。
さらにこのSUS人は“ヒト”と言った。驚きだ、こんな化け物じみた連中が同じ人間だとは、到底信じる事の出来ない話である。
動揺ぶりを眺め、さぞかし楽しそうな眼をするSUS人。彼は続けて言った。ヒトとは言っても、単なる人ではない。特別な力を授かったヒトだと言うのだ。
その特殊な力とは、肉体と精神を分離させるものだと言う。分離した精神体を遠くに飛ばし、半実体化させる事も出来るのだ。
だが、この特殊能力には欠点も多い。分離中に精神体を何らかの方法で破壊されれば、それは死に直結する。逆に、実体の身体を破壊されてもそれは同じだと言う。
どちらかが欠けては生存は出来ない。そこで考え付いたのが、母体と精神体を切り離さずに能力を使用可能な事を目指すと言うものだった。
また、劣悪な環境でも活動できるような強靭な肉体を欲した。これら条件を纏めてクリアしたものが、今のSUS人の姿となる訳である。
『これを成し得たのも、母国の類まれなる優れた魔法と科学技術あってのものなのだ』
「魔法と科学……だと?」
その言葉に疑問を感じたのはキールである。SUSは科学技術もとい機械文明のみが発達した世界ではないのか。その世界の住人が魔法等と口に出すとは……。
リンディも疑問に感じた一方で、合点のいく話もあった。魔法文明も栄えていた世界であれば、今回の戦争においてSUSの魔法対策も説明できるからだ。
彼らの兵器は全て対魔導技術A・M・Fを搭載していた。さらには次元転移技術も、魔法文明独特のものと言える。証拠として、SUS以外に意図的に次元跳躍して次元空間へと入り込んだ非魔法文明の艦は、殆ど無いと言ってよい。
また、地球軍らの証言からして、SUSは多次元に渡り侵略を重ねてきたという。前のSUS人による演説でも同じような事を言っていたのだ。
そしてSUS人は、その新人種を作り上げた母国について語りだす。それも、管理世界においては爆弾という名が生易しい程の、とんでもない事実だった。
『この技を成し得た、偉大な我らの母国。それこそが……アルハザードだ』
「「!?」」
その名が出た瞬間に誰しもが、そんな莫迦な! と声に出ぬ叫び声を上げた事だろう。とりわけ時空管理局の面々にとっては、である。
またアルハザードと縁が深いフェイト等は、酷く動揺する。反対に防衛軍の面々は、名前こそ耳にした事があるこそすれ、それ程に詳しくはない。
ただ、どの管理世界よりも優れた文明を持っていた、と言う程度の事しか知らなかった。
『管理局の者ならば、誰もが知っておろう。幾千年もの昔から、高度な魔法と科学の文明を有した世界だという事を』
「そんな事を信じろと言うのか、既に滅亡した世界だぞ」
果敢に食って掛かったのはマッカーシーだ。SUS人に対する彼の勇気は、実に賞賛すべきものだろう。残念ながら、そのサングラスに隠れた鋭い視線が届くはずもなかったが。
大半の者はアルハザードと言う存在に対して、懐疑的あるいは否定的である。実在したであろう事は、残された遺跡から判明されたこそすれ、その後の所在が不明なのだ。
在る者は滅亡したと唱え、別の者は他世界との交流を避けて自ら別次元へと姿を消した、と唱えている者もいる。
『言った筈だ。信じるかはお前達次第だと。それに、お前達の世界では、我が母国の技術――人造人間に関する技術が流れ込んでいる筈だ』
「何だと?」
マッカーシーは怪訝な表情で見返すが、その技術が何の事であるかは直ぐに分かった。いや、いち早く気付いたのはフェイトだったろう。
彼女自身の出生事情にも大きく関わる話だからだ。母プレシアがジェイル・スカリエッティの提唱した人造人間の基礎理論を応用して、今のフェイトが誕生したのだ。
そのスカリエッティの提唱した基礎理論は、他の学者達からは人造人間の父と称されるが、そのルーツは【失われたアルハザード】ではないかという疑いすらある。
即ちアルハザードもとい現在のSUSの人造技術の派生型として、スカリエッティやプレシアの人造技術が誕生したのではないか、という事もにもなるのだ。
もっとも、そのスカリエッティ自体の出生も驚くべきものである。彼自身もまた、アルハザードの技術を持って誕生した存在だからだ。
また、スカリエッティの生みの親が、時空管理局創設者――最高評議会メンバーだというのだから、衝撃はさらに大きいものだった。
『何を求めていたかは知らんが、あの老いぼれ共も“あほう”ばかりだったな』
(老いぼれ共……?)
誰の事か、と皆が疑問を持った。彼らは気づけなかったが、まさか最高評議会の面々の言っているとは思いもよらないだろう。
彼らは最強評議会は、スカリエッティの刺客により暗殺された。同時にレジアスという管理局のトップも、実は裏で糸を引いていた事が浮き彫りとなった。
だがスカリエッティが何故、このような事件に走ったのか、最高評議会の真の意図は何処にあったのか、全ては語られぬままに闇に葬られている。
しかしSUS人は、権力と欲望に溺れた出来損ないの事はどうでもよい、と説明すらせずに切り捨てて話を切り替えた。
『我が母国アルハザードは、魔法技術並びに機械技術において、周辺諸国や多次元世界に大小様々な影響を及ぼした国だった。シャルバート、ディンギル、デザリアム、ゴーダ、エルトリア、アケーリアス、ヌー、ヤッハバッハ……これらの世界は、“ほんの”一部に過ぎない……』
「馬鹿な!」
声を荒げたのは南部だった。彼ら防衛軍には聞き覚えのあるシャルバート、ディンギル、デザリアム、そしてアケーリアス……全て地球世界にて存在した星々なのだ。
SUS人は続けて言う。アルハザードの先祖達は、各世界に交流関係を持っていた。だが、彼ら交流国は魔法文明を持たぬ場合が多く、あってもごく少数だという事だった。
主に機械文明による発展が主となり、その基礎となる技術が広まり渡る。後は各世界、各国家の独自技術との融合によって、独特の発展や進化を遂げて行ったのである。
そこまで言われてみれば、納得できない話でもない。SUS人の先祖がどんな基礎科学を与えたのかは分からないが、各世界による発展スピードなど違って当然。
シャルバートはボラー連邦よりも遙か昔に台頭し、当時では有り得ぬ科学力と兵器を持って、天の川銀河の大半を制覇していた経緯がある。
ディンギル星は複雑な過去の事情が存在する。この星は、古代達の地球人祖先が乗っ取りを行ったために純粋ディンギル人はいないが、支配される前の純粋なディンギル人は2000年近くも前には外宇宙航行能力を有する円盤を有していたのだ。
デザリアム帝国は特に、他国に比べて機械文明が著しく発展した国家だった。以前にも述べられたように、国民は機械の体にする事で肉体強化を図った。
そして回遊惑星アケーリアスには人が住んでいたとされるが、西暦23世紀初頭には既に滅んでいる事が〈ヤマト〉らの調査で判明している。
(次元を行き来する奴らなら、この説明は納得できるかもしれん。だが、それ程の影響力をもったアルハザードとやらが、何故姿を消した?)
もっとも肝心な点である、とマルセフはSUS人の回答を待った。
『アルハザードは、確かに高度な文明を持っていたが、必ずしも一枚岩というものではなかった』
それは、魔法文明と機械文明による主張や価値観の食い違いから起きたものだった。魔法を使える者や得意とする者は、魔法文明を重視した価値観や思想を持っていた。
対して魔法を使えない者や、使えても低レベルな者は、機械文明を重視する価値観と思想を主張していたのだ。どちらも尊重する者もいたが、それは少数集団でしかなかった。
この現状を聞いたリンディやクロノ達は、自分達と管理世界の関係を思い浮かべた。管理局は魔法文明を主として、他管理世界にもその思想を定着化させようとしている。
定着化と言う言葉は語弊があるだろうが、他者からすればそう思われても致し方ない。特に質量兵器などの撤廃や廃棄が、管理外世界の忌避を買った最もたる理由でもあった。
アルハザードは管理局が生まれるずっと昔から、このような問題が存在したのだ。遂には内戦へと突入、魔法文明と機械文明の意地を掛けた、下らない戦争が幕を開けたのだ。
(そんな……SUSが過去にやってきたことを、私達が繰り返しているというの?)
少なからぬ衝撃を受けたのは、なのはや局員一同であった。彼女だけに留まらないが、SUSの祖先がやっていた魔法文明と機械文明の蟠りを、自分らが繰り返えしていると聞いて、愕然としたのである。
『結局は科学文明推戴派が台頭に立ったが、それ以上に問題が発生した』
アルハザードの内戦は魔法派3:機械派7という比率で、一応の終息を見た。しかし、アルハザードを照らす太陽の寿命が短くなっていた事が、科学者の調査で判明したのだ。
だからと言って数年後に超新星化して爆発するわけではない、それ相応に数千年と長い年月が必要となるのだ。と、安堵するの訳にはいかなかった。
そこで対応策が練られるのだが、途方もない方法が採択された。それが、母星ごと別の次元空間へと転移させる事で、超新星爆発の被害を免れようと言うものだった。
これは、その技術を有しているからこそ出た案だった。実際に後のSUSはブラックホールに見せかけた、巨大時空転移装置を用いて、惑星を飲み込んでいたのだ。
同時にアルハザードが跡形もなく消えた理由が、パズルのピースの如く当てはまった。
(そうか……確かに、惑星ごと転移されては見つからない筈だな)
キールもSUS人の説明に合点がいった事に気づく。では、アルハザードは今もなお存在するという事になるが、果たして……。
『だがこの試みは失敗に終わった。アルハザードは予定外の空間へ転移してしまったのだ』
彼ら祖先は、惑星を別の次元空間にある星系へと転移させようとした。何故か? 答えは簡単だ。恒星のない空間に出てしまえば、その惑星は死滅の道を逝くからだ。
地球のみならず、生命溢れる惑星を維持しえる条件の1つとして、恒星――即ち太陽の存在が不可欠である。これなくば、生命は誕生せず自然界も死滅する。
あるのは僅かなバクテリアくらいであろう。だからこそ、アルハザードの祖先は念入りに恒星のある空間を選んだのである。
しかし、事は上手く運びはしなかった。星ごと巻き込むような大規模な転移行動は、その歴史上に試みた者はいなかっただけに、予想外な事態は突如としてやって来たのだ。
転移装置が制御しきれず悪夢の次元断層が発生、周囲の恒星系まで巻き込んだ大惨事と化したのだ。アルハザードは無限の奈落に落下する事態を覆すべくランダム・ワープを実施……予定の恒星系どころか、未知の別次元世界へと転移してしまったのである。
『我ら祖先が落ちた空間世界は、今までに無いものだった。銀河の様な、豊富な星々が無ければ、資源もない。真なる闇と言っても差し支えはなかった』
星ひとつない世界と言えば語弊がある。しかしその世界はまだ銀河、星団、星雲といった『世界』が生まれる前の状態だったのだ。
殆どが星の原料となる暗黒物質……数万光年の距離を探しても観測できる星が数えるほどしかないと知った科学者の恐慌は必然だった。
しかも恒星が近くにないとくる。アルハザードは陽に照らされる事もなく、瞬く間に氷河期のような状態に陥ってしまったのである。
さらに、陽に照らされなければ植物は光合成をする事が叶わず、作物類も限定的なもの以外は急速に死滅していく。海も海温が下がり、温暖に住む魚介類も成すすべなく絶滅する。
アルハザードの先祖達は慌てふためいた。もう一度転移を試みようとも、基の座標が掴めず、さらには莫大なエネルギーを必要とするために断念を余儀なくされた。
苦肉の策として、彼らは小規模な人工太陽を打ち上げる事を決定した。兎も角は永遠にアルハザードを照らす光りを求めたのだ。
この技術が後になって、軍事大国SUSが太陽と寸分も狂いのないほど精巧な太陽を造り上げる。
(あの人口太陽を作ったSUSの祖先と言うのなら、頷ける話だ。だが、奴らの祖先が魔法文明をも有していたとは……)
古代は〈ヤマト〉をもって、SUSの人工太陽を破壊した事がある。こちらの計測機器の眼を誤魔化し、人口天体であると見抜けなかった程に精巧にできた代物だった。
それは人口ブラックホールも同じことだ。SUS人が秘密を開けるまでは、本当にただのブラックホールにしか見えなかったのだから。
『所詮は人口太陽に過ぎない。気候も次第に厳しいものへと変わっていった。新たな惑星探しも途方もない年月を有する』
そこで行われたのが、新たな肉体の強化という選択であった。そして先の精神分離が大いに役に立つ。その特殊能力と、魔法、化学を合わせた製法が新たな肉体を完成させる。
彼らは古い肉体を捨て、新しき肉体へと精神体を移していった。もはや、純粋な人間など存在しない。かのデザリアム帝国が、一国家の住民全てがサイボーク化したように、SUSもといアルハザードは新たな生命体を器とした人造人間となったのだ。
(ホンマに、これを信じろっちゅうんか……。アルハザードが、SUSの母国だなんて話を!)
はやての頭はパンク寸前だった。彼女のそばにいる、フェイトとなのはも、信じ難い表情を固めたままでSUS人を見ていた。
『その後は、言うまでもない。我らが繁栄するための資源を掻き集めんが為、その世界を支配し、他の次元世界へも手を伸ばした』
友好関係を大義名分にして、アルハザードは転移先にある各世界へと手を伸ばした。資源のみであれば、そのまま支配下に置き、何らかの国家があれば接触を試みる。
アルハザードは、持ち前の軍事力をかざしては、“極めて友好的”な関係を築きあげる。反抗すれば、その国を徹底して攻撃し、属国とした。
己が生きるためだとして、先祖達は侵略を繰り返しては資源を手にした。過去のアルハザードなど、影も形もない侵略国家に変わり果てたのである。
やがてその星々を支配下に置いて彼らはSUSと改めると、そこで軍事力の充実化を図った。特異の人造技術で兵士を量産し、艦隊を再編し、別次元への侵略に備えた。
『それから数百年以上、我々はSUSと名を改め、あらゆる次元の世界へ資源を求めて手を伸ばしてきたのだ』
恐ろしい連中だ、とマルセフは増々SUSを危険視した。以前の会議でもSUSは多次元世界を支配しているだろう、と検討されては来たが、それが確実となったのだ。
これは、アンドロメダ銀河を支配するガトランティス帝国でさえ、比べるのが馬鹿らしくなるだろう。管理局にとっては聞きたくない現実に他ならない。
SUSが再進行して来た時、彼らは倍以上の兵力を持って来ても何らおかしい話ではないのだ。今回は2000隻近かったが、次は4000隻または6000隻という大軍を投入する事も有り得る。
そんな事にならないように管理局や防衛軍の面々は、別次元で戦っているであろう見知らぬ不幸者達の奮闘ぶりを期待するしかないのである。
しかしここで、SUS人は態度を一変させる。2度目の、予想外な事態が彼らを襲ったのだ。それは先の転移事故とは比較にならないものだったという。
『我らが支配したある銀河が、別次元の強力なエネルギーの干渉を受け、銀河ごと転移してしまったのだ!』
「「銀河ごと……」」
息を呑んだ。銀河ごと転移するなど有り得るのか。そう思った途端、該当する例が存在した事を思い出した。そうだ、あの忌まわしき大災害の銀河交差現象!
まさか、SUSの支配した銀河と、天の川銀河が交差したというのだろうか。SUS人はそこまで言及しなかったが、転移したという経緯を手短に述べた。
SUS支配圏となった銀河系の中心部にある恒星群に、大規模な次元転移装置が幾つか設置されていた。それはあの人口ブラックホールの装置とほぼ同じだという。
そこから資源を多量に転移させて本国へと輸送する。しかし、突然のエネルギー干渉が生じ、たまたまその次元転移装置が被害を受けて暴走を始めた。
結果として銀河系ごと転移し、別銀河と衝突するという大惨事を引き起こした。SUSはこれ以上放っておくと、せっかくの資源が破壊されてしまうと焦った。
銀河系を飛ばすとなれば、莫大な量のエネルギーを必要とする。しかし、このまま資源惑星の多くが消え失せていくよりは、マシな選択だと思えた。
『またしても無駄なエネルギーを消費した。後日に分かった事だが、どうも干渉の原因は、別次元銀河の消滅の様でなぁ』
(まさか……二重銀河のタキオン粒子反応による消滅が原因だというのか!)
古代の予想は的中していた。かのデザリアム帝国が、タキオン粒子のエネルギー干渉を受けて、母星どころか銀河2つ分までが消滅した。
この爆発は数値にして表すのが愚かしい程、凄まじい破壊力とエネルギーを放ったのだ。別次元への影響がないとは言い切れない。
しかし銀河消滅と、銀河交差現象にはタイムラグが生じた事になる。これは次元空間の特質なのかもしれないと考えれば、ありえない事でもないだろう。
SUSは支配圏の銀河を戻すために莫大なエネルギーを消費した。そこで他次元への侵攻スピードは、落ちるどころか皮肉にも上がってしまうのである。
『まぁ、話せる事は以上だが……クククッ、久々に手ごわい者達と当たって……気分が良いな』
「気分が良いだと? ふざけるなよ、化け物が!」
激昂したのはガーウィックだ。いや、声に出さずとも激昂している者は多数いた。その代弁者として、ガーウィックは続けて声を上げる。
「貴様らは己の都合で他者を力で圧し、滅ぼし、使い捨ての道具としか見ていない……そんな貴様らが、気分がいいだと!?」
『己が生きるために他者を犠牲にする……極めて“自然な事”であろう』
「な……っ!!」
愕然としてしまう。犠牲は自然の摂理だと言わんばかりの返答に、SUS人は罪悪感といった感情の欠片もないのかとカリムは思った。
いや、彼らにそんな感情があれば、このような戦争を好んで起こす事は無かったのではないか。それも所詮は“もし”に過ぎず、予想しても何ら益をもたらさない。
『せっかく得た、お前達の勝利だ。精々、無駄の無いように生きる事だ、ヒトよ……』
「まて、まだ話が――っ!?」
誰かがそれを引き留めようとして、失敗に終わった。SUS人としては引き止められ理由もなく、一瞬だけ空間内を発光させた。
突然の発光に対して、眼を閉じるなり腕で隠すなりする面々。それも僅かな時間で、3秒後には彼らは元いた会議室に立っていただけであった。
その日、突然の介入者のおかげで会議は一端の中断を余儀なくされ、再開されたのはそれから30分後の事だった。席に揃った面々の顔色は優れているとは言えない。
多くの者はSUS人の放った事実を、事実として飲み込む事が出来なかった。SUSとアルハザードがイコールで成り立つような関係を認めたくはなかったのだ。
管理局は、その事実を鵜呑みに出来ず疑っていた。多くの学者や冒険者たちが目指していた忘れられし都。それが最大にして最悪の敵、SUSの本拠地と化しているのだ。
一方の防衛軍も、その表情は心穏やかではなかった。彼らの世界でも、SUSの影響を受けた国家が存在したと判明したからだ。
重苦しい雰囲気が取り除かれない様子だが、そこで以外と言うべきか、変わらぬ雰囲気に堪り兼ねたゴルックが声を上げた。
「貴官らは先のSUSの事実に、随分な衝撃を受けているようだが、だからと言って何程の事がある!」
「ゴルック中将、落ち着け」
驚く周囲の人間に配慮しようと、ズイーデルがそれを窘めようとするが、ゴルックの気は収まらなかった。
「落ち着けだぁ? 落ち着くどころが沈んでるじゃねぇか! 確かに驚く話だったかもしれん。だが、俺達がそんな事で行き詰ってどうする!? 連合軍は奇跡にしろ偶然にしろ、SUSに勝ったんだ。これから見るべきは、驚く過去じゃなく、これから踏み出す未来への道じゃないのか!?」
彼は内側に溜まっていたものを全て、一気に吐き出して会議室内にばら撒いた。肺の中の酸素が空っぽになる程に言い尽くすと、再び席に座りこんだ。
その声に心打たれる程に安っぽい感情を持ち合わせてはいなかったが、重苦しい雰囲気で次に口を開いたのはキールだった。
「SUSの事実に、多くの者が深い衝撃を受けているじゃろう。わしとて、奴らの言う事が事実ではない事を祈りたいが、今更それを祈っても始まらん。ゴルック提督が言ったように、過去ばかりに囚われず、これからの行く先を考えよう」
死んだ人間が生き返らないのと同様、時間も戻る事は無いのだ。今こうして過去に縛られ、未来への道を逡巡するだけ、失われるものは増える。
すっきりしない部分も確かにあるが、キールも前を向いて行こうと言うのだ。少なくとも、この場では先の話をするべきだと気持ちを改める。
まずSUSの正体に対する疑問をあれこれと論議しても仕方ないため、管理局と防衛軍並びに3か国の今後の動きに対して、話し合うことになった。
次元航行部隊の長としてレーニッツが立ち上がり発言する。
「我々管理局――次元航行部隊は、先ほどもご報告申し上げた通り、従来の3割程度しか機能できません。次元艦船による、広範囲に渡る探索行動は勿論の事、従来の警備範囲における活動も大きく制限を掛けられます。艦船の補充も大幅に遅れるだけではなく、何よりも人材の確保と育成がより困難を極めております」
工場設備の不足と艦船の不足により、艦隊の再編はかなり遅れてしまう。何よりも人材の収集はさらに手間取る事は、誰の目にも明らかな問題なのだ。
また艦船に関しては、従来の次元航行艦が建造される予定は無い。代わりに波動エンジンと新型魔導路を搭載したタイプの次元航行艦が、これから増産されるという事だった。
この新型次元航行艦と合わせて、〈デバイス〉級の増産とそれを搭載する正規空母群の増産が計画されている。
「これは“あくまで”目標ではありますが、これら様々な新型艦を合計して1万隻は必要かと算定しました」
「「い、1万隻!?」」
その場の全員が驚愕したのは言うまでもない。管理局の所属する艦船は、これまで2000隻から2500隻に留まっていた。その4倍の艦艇を揃えようと言うのだから、当然の反応だ。
しかし机上の空論と呼ばれるこそすれ、SUSという存在が浮き彫りになった現実と広い空間をカバーせねばならない事を考えれば、必要な数だ。だがこれでも足りないのである。
これを共に検討したリンディ、そしてレティら両名も、この計画は無謀と感じつつも提出したのだ。これを聞いたマルセフ等は、直ぐに理解を示す。
(無謀と思われるだろうが、レーニッツ幕僚長の提案は現実を見れば妥当なものだ。一つの太陽系を護るには過剰だが、広大な宇宙空間に似た次元空間を護るのであれば、それでも少ない……。できれば、その10倍は……いや、それこそ際限がないか)
途方もない追いかけっこになるだけで、マルセフは計算を中断した。そしてこの計画に一番の問題があるとすれば、やはり人材面にある、とはやて等は思う。
(艦船の運用は非魔導師だけでも十分に賄えるけど……1万隻もの艦船を動かすには、30万人は下らない計算や。5年そこらで揃えられるか、難しいもんやで)
失った各方面区の拠点の再建も急務となっており、艦隊再編と人材育成の確保に拠点の再建、これら万全を期すのに10年以上の歳月を要するのではないか、との見方が出ていた。
「……それでは、我が陸上部隊からも申し上げさせていただきます。こちらも次元航行部隊とほぼ似たような現状であり、破壊された各世界の施設の再建、新たな魔導師と局員の確保、並びに無人兵器と戦車等の地上兵器の増産が急務となっております。これらを完璧にするまで、やはり最低でも8年から10年は覚悟する必要があります」
マッカーシーによる再建予想時間は、レーニッツとほぼ同じである。管理局は数百と言う数の世界を登録、管理下に置いているが故に人材は尽きる事は無いだろう。
管理局が艦隊用の乗組員を確保するだけでも30万人が必要される傍ら、彼ら陸上部隊も魔導師と非魔導師含めて30万人規模の増員が必要とされた。
護るべきはミッドチルダだけではないのだ。他管理世界に駐在させる規模も考えれば、これですら足りなくなるだろう。
総人口では潤沢な管理世界群だが、かといって易々と人材が集まってくれる程、他管理世界の情勢は易しくはない。何よりも個人の意思もあるし、それを囲む環境もある。
増員問題の一方で、質量兵器に関してもはや禁止法等と煩く言ってはいられない。非魔導師の為の銃器類や、先の戦闘で使用された新型戦車の改良が急務となのだ。
陸上戦闘車を各世界に振り分ける事を考えれば、その数も1万輌では済まないものとなる。無人兵器ガジェットシリーズも、各タイプ事に1万機から2万機、それ以上に必要だ。
戦闘車両や無人兵器は戦闘艦と違って、一度量産ペースに乗りさえすれば短期間に揃える事が出来る。それを考えれば、次元航行部隊よりも揃えやすいだろう。
また別問題として、管理局自体の改質を求められていた。これは今すぐに出る結論でもなく、管理局自体の問題であるとして見送られたが……。
「では、我々地球防衛軍、そしてエトス、フリーデ、ベルデルを代表して、私が報告します」
次に立ったのはマルセフだ。彼らの場合、今後の行く先は既に決まっている。次元空間内での戦争は終わったのだから、後にすべき事は言わずとも分かる。
「我々はこの世界での役目を終えました。これにより、我々は次元空間から撤収する事となります」
無論、借りたものは返す約束となっているが、もう返せないものもあった。まず次元空間での資源提供のために借りた、無人管理世界の返還は当然の事。
しかし返還不可能となったのは、次元転移装置であった。何故ならば、地球連邦そのものが〈アムルタート〉の残骸から、技術を吸収してしまったからである。
さらには防衛軍の新造艦艇群には、既に次元転移装置が組み込まれてしまっている。それを今更返す事など到底不可能であり、管理局も断念せざるをえない。
とはいえ管理局側も次元転移装置の変わりに、次元波動エンジンという余り余る御釣りを受け取っているため、批判するのも筋違いと言うものだった。
防衛軍らが撤収する事に対して、管理局側の反応は様々であった。この会議室内部にいる面々に関しては、彼らの撤収に関して不安が残る。
(防衛軍と共闘したのは、あくまでSUSとの戦争に勝つためだった。それが終わったのだから彼らの撤収も当然。しかし……)
レーニッツは独白する。防衛軍がこれ以上ここに留まるのは、協約違反となるのだ。素直に撤収するのは構わないのだが、今の現状を考えると非常に心もとないと感じてしまう。
防衛軍やエトスらの艦隊は、管理局の艦船を未だ大きく性能で引き離しており、今後もSUSの様な勢力が出てくる可能性を考えると、対処しきれる自信がなかった。
かといって、次元世界の為にまだ残ってください、等と軽々しく言えるわけがない。彼らにだって国があり、帰るべき場所もあるのだ。
「協約した事ですから、私達が異論を申し上げるべくもありません。ですが、いつごろに撤収されるのですか?」
そう尋ねたのはミゼット・クローベルである。
「できれば、今すぐにでもと考えてはいるのですが、撤収の為の準備と時間が必要となります。よって、最低でも3日後には……」
「そうですか……」
彼女の表情も、何処か寂しそうにも見えるが、気のせいではないだろう。リンディにしても、また、教えを受けたフェイト、はやて両名にとっても、同じ気持ちかもしれない。
もっとも、防衛軍にとってはこれから重要な戦いが後に控えているのだ。そして、それはエトス、フリーデ、ベルデルにとっても、無視しえない情報ではない。
「知っている方も多いと思われますが、我が祖国地球は、ガトランティス帝国の侵攻を受ける可能性があります」
「ガトランティスの件は、以前にお聞きしましたが……それ程に早く来るのですか? マルセフ総司令」
「はい。本部の予測では……後1ヶ月以内には、天の川銀河へ侵入するだろうとの事です」
「それ程に早いのですか」
局員関係者一同は目を丸くしてしまった。こちらの戦争が終わってまだ1週間も経っていないのだ。それで1ヶ月以内にはガトランティス帝国と戦争をするかもしれないという。
はやて、フェイト、なのはの3人も、クロノ経由で聞き及んでいた。また強大な国家と戦争をしなければならないと知って、愕然としたものだ。
ガトランティスの弔い合戦に付き合わねばならない防衛軍は良い迷惑だ。この様な愚痴を溢して相手が帰ってくれるのなら、どれだけ助かるものだろうか
管理局としてはこれを他人事のように聞き流せるかと問われれば、それはNOである。もしYESと答えるような輩がいれば、彼らは未来に対する予見や創造性に欠ける愚か者だ。
もし地球が負ければ、ガトランティス帝国は接収または回収した防衛軍の戦闘艦から、次元転移装置の技術を奪われる可能性がある。
となれば、ガトランティス帝国は次元空間にも大挙して侵攻してくるだろう。それこそ、SUSからの傷が癒えない管理局にしてみれば“泣きっ面に蜂”である。
「これまで、地球防衛軍、そしてエトス、フリーデ、ベルデルの方々には、大いに助けて頂いた。だが……我々が、貴方がたに対して満足な支援を行えない……」
そう沈痛な思いで述べたのは、キールである。彼の言う通り、管理局はこれ程にはない、多大な援助を受けてきたのである。
先の波動エンジン技術は勿論、〈デバイス〉級戦闘艇、新型戦車〈カレドヴォルフV〉、双方の技術的援助に加え、防衛軍士官による管理局員への訓練指導もあった。
管理局は次元世界を護るために、防衛軍に指揮権の移譲した他、失った文化の提供や資源惑星の一時的な壌土を行ったが、それでもなお足りない過度な支援だったのだ。
マルセフや防衛軍指揮官達はキールの無念な言葉を、よくよく理解していた。管理局の現状は先ほども報告された通りのものであり、とてもではないが支援と言う余裕はない。
直接の教えを受けた他に、『D計画』の多大な援助を受けていたはやてにしろ、パイロットとして訓練を受けたフェイトとなのは両名にしても、受けた恩を返す事が出来ない現状に不甲斐なさを感じた。
(何で……ウチら管理局は、肝心な時に援助すら出来へんのや)
グッと拳を握りしめるはやて。もし管理局が万全な状態であれば、資源の輸送や災害派遣、無人兵器の供出なども可能な筈だった。
あるいは〈デバイス〉級と一部魔導師を送るという方法もある。どちらにせよ、管理局と次元世界の安定が最優先とされるがために、承諾しえないものだろう。
マルセフは管理局らの支援したいという行為を感謝しつつ、無理はしないでほしいと伝えた。
「その支援のご厚意には感謝いたします。しかし管理局は、目の前の成すべき事を始めるべきです……まぁ、我々が言っても説得力はありませんがね」
その通りですな、と苦笑する数名の防衛軍軍人達。絶え間ない侵略の為に、地球が無理をしなかった事は無い。ゆっくり時間をかけられたのはディンギル戦以後の話になる。
好意は受け取るが、今の彼らがやるべき事はこの空間からの早期撤収である事を々述べた。また、艦隊の完全修理を待つ時間もなく、防衛軍地上部隊のミッドチルダからの完全撤収が、防衛軍ならびに他国艦隊の撤収合図となるであろう。
以上の事を確認して、その日の会議は幕を閉じる事となった。
ミッドチルダに駐在する第6空間機甲旅団に対して、早々に撤収命令が下った。古野間とキャンベルも、会議とSUS人による二度目のイベントという抱き合わせの行事から、急ぎミッドチルダの防衛軍仮司令部へと戻っていた。
「3日後には、ここから完全に撤収するぞ。遅い部隊はそのまま置いていくと思え!」
「「ハッ!!」」
仮司令部で撤収指示を下す古野間に、復唱する兵士達。この後にはガトランティス帝国が待っているのだから、ゆっくりする暇はない。
司令部に設置した機材や、重機や戦車は勿論の事、戦闘不能になった戦車も含め、武器弾薬の積み込みなども迅速に行われる。
兵士達は慌ただしくかつ迅速に、撤収作業を進めていく。機材関係は全て運搬トラックに積み込まれていき、車輌は揚陸艦へと運び込まれていく。
聖王教会の守備を任されていた、リンツ率いる部隊も撤収作業に入った。とはいえ、彼らはすべき事は少なく、魔導師側の協力を得て仮司令部へと転移魔法で転送されるだけ。
兵士達は弾薬などの物資を纏め、戦車も定位置へと移動させる。
「キャタピラであまり芝生を荒らすなよ」
リンツはその様な事を忠告しつつ、指示を飛ばす。撤収作業に数時間も費やすまでもなく、1時間以内には完全に定位置へと移動が完了してしまった。
避難民達は興味津々という様子で、協会の室内から、または直接外に出て様子を伺っていた。ヴェロッサとユーノ、そして帰って来たカリムらも、外でそれを見ていた。
「いよいよ、彼らもここを去るか」
「SUSが完全に撤退したからね。地球防衛軍も、これ以上留まるという訳にもいかないだろうから……」
その通りだ。防衛軍には留まれるほどに楽観的な状況にはない。カリムからも聞いた、ガトランティスの再侵略の報は、勿論ヴェロッサらを驚かせるに十分だった。
しかも地球連邦が存在する天の川銀河には、敵対関係にある軍事大国ボラー連邦が存在して脅かしている。友好国ガルマン・ガミラスがいるとはいえ、脅威に変わりはない。
因みに銀河系における最大国力を10と表記して、ガトランティス帝国とガルマン、ボラーを比べた場合、次のような数値になると言われる。
ガトランティス 10:ガルマン・ガミラス 4:ボラー連邦 4、というものだ。これは一つの銀河を制覇しているガトランティスならでは、数値であろう。
カリムの情報では、管理局側には支援の余裕はない。復興支援と部隊再編で手一杯の状態となるからだ。これも、ヴェロッサとユーノは理解できる。
「彼らには、応援の言葉しか送れないとはねぇ。なんとも歯痒い」
「それは私だけでなく、多くの者が思う気持ちですよ、ヴェロッサ」
「僕たちは……僕たちの出来る事をやろう。マルセフ提督の言う通り、目の前の課題を解決しない限り、僕らが進むべき道は開けない」
とりわけユーノには、個人的にだが新たな調査項目が作られた。それは、カリムが目撃したと言うSUS人の2度目の出現から得られた、“彼らの真実”についてだ。
これまで多くの古文書を調べてきたが、その様な繋がりを見つけたことは無い。無限書庫は、別の施設に移されているため、調査の続行は可能だ。
以前に、はやてに対して、マルセフらの地球に関する資料が無い原因を打ち明けた事がある。未来に関する情報だけは集められない、と言ったのだ。
しかしSUSもといアルハザードは過去の存在。ならば見つかるはずだが、やはり問屋がそう降ろしてくれる問題でもないらしかった。
でなければ、今頃はアルハザードの所在地や、SUSに対する記録も見つかる筈だ無意味かもしれないが、やるだけやろうと意気込むのであった。
やがて予定通りに、転移魔法を行うための魔導師が数名やって来る。順々に転移させていき、15分もすると指揮官他数名のみが残った。
「グラシア閣下。何のお役にも立てず仕舞いでしたが、小官らはこれで失礼させて頂きます」
「そんな事はありませんよ。この教会にいる避難民のために来て頂いたのですから、それだけでも十分です。どうか、古野間少将にもよろしくお伝えください」
「分かりました、必ずお伝えいたしましょう。それでは……」
数名の兵士達と共に敬礼するリンツ。その数秒後には、最後の転移が行われ、彼らはその場から姿を消した。
会議が終了してから1日と半日が経過した頃、視点は次元空間へと戻る。第2拠点に入港中の〈シヴァ〉会議室には、艦の主たるマルセフとコレム、そして古代がいる他、管理局からはフェイト、ティアナ、シャリオの3名がいた。
何故ここに来たかとは言え、古代に関係のある話だからだ。
「それは本当かね、テスタロッサ一尉」
古代は身を乗り出すように、立ち上がった。無論、彼はフェイトに対して怒っているわけではない。寧ろ嬉しさを含んだ、驚きの表情をしていた。
「はい。先ほど得ました情報です。私の知る人物からのものですので、信頼はできます」
「本当に……無事が確認されたのだね」
繰り返して問う古代に、フェイトは間違いありませんと答える。
「そうか……雪が、この次元世界に無事でいたとは……」
彼はデスクの上で拳を握りしめ、声も僅かに振るえていた。古代 雪は、彼の愛する妻である。彼女は第1次移民船団が壊滅したのと同時に消息を絶った。
必ず生きていると信じていたが、どうやらそれが本当だと知って、それまでの心配や不安が打ち消された。
「奥さんは、無人管理世界マクラウンにて、在住していた住民の方に保護されました。報告では、記憶障害があったのですが、それも2か月程前に完治されたそうです」
「わかりました。雪を助けて頂いたこと、誠に感謝に耐えません」
そもそも雪が無事であったとの報告があったのは、遂1時間ほど前の事であった。無人管理世界マクラウンに在住していた住人から、防衛軍軍人を保護していると連絡が入ったのだ。
その住人と言うのも、元管理局に入局していた人物で、個人的に知る人物のルートを頼って、雪の事を早々に報告したのである。
尤もSUSが撤退するまでは通信妨害で碌に連絡も出来なかったのだが、それは仕方のない事であった。
マルセフとコレムは、古代の妻が存命していたと聞いて安堵していた。家族が生きていたと言う知らせは、勝利や勲章、功績といったものよりも遥かに勝るものだろう。
特にマルセフは家族の大切さを身に染みて知っている。守れなかった妻の事は、今でも後悔している程だ。反対に娘を無事に育ててこれたのは、一番の喜びでもある。
フェイトも古代の嬉しい心境は理解できる。最終確認のため、彼女は送られてきた写真データを彼に公開した。
「最後に確認させていただきますが、この方で間違いございませんか?」
「……はい。確かに、私の妻です」
そこには昔と変わらぬ、くすんだ金髪に、ブラウンの瞳をした、年齢より若く見える女性の姿がある。丁寧に防衛軍の軍服を纏っていた。
古代は娘との約束を果たさねばならない。雪を自分の手で迎えに行くのだ、と無茶かとは思いつつもマルセフに向き直り口を開こうとした……が、それは機先を制されて終る。
「貴官の言いたいことは分かっているよ。私からも上層部へ言っておく。行ってきたまえ、古代司令」
「あ……ありがとうございます! マルセフ総司令!」
マルセフの配慮に対して、古代は頭を下げた。そして、〈ヤマト〉は至急出航し、管理世界マクラウンへと赴くように“命じた”のである。
一応、まだマルセフが先任司令官として、役割が与えられている。地球に帰還するまでは、その効力も続くだろうから、決して古代の独断という事ではない。
古代は敬礼し、了解しました! と敬礼し、フェイトらにも改めて礼を述べると、速足で会議室を退室し〈ヤマト〉へと向かった。
(あれほど嬉しそうな表情は、初めて見たかも……)
(私もです、フェイトさん)
フェイトもティアナも、勿論シャリオでさえ、古代の嬉しそうな表情は見た事が無い。あくまでも、彼女らの目の前では、の話ではあるが。
その後ろ姿見送ったコレムは、これをどの様に報告するつもりなのか、と上官に問うた。するとマルセフは穏やかな笑みを浮かべながら、副官を見返して答えたのだ。
「何、古代司令は私情で向かうわけではないさ。我が防衛軍の生存者を迎えに行くのだ。別に問題はあるまい?」
「! ……なるほど、御尤もですね」
「日本では、海をゆく漁師達がこう言ったらしい。『海で困っている者、助けを待っている者がいたら、どんな事があっても見捨てはしない、それが船乗りだ』とね」
「それは……確か、ガミラス戦役で戦死された島 大悟准将(当時、中佐)が仰られた言葉ですね」
島 大悟准将とは、現在の島 次郎准将の父であり、ガミラス戦役序盤で最初に戦死した士官である。先の言葉は彼の口癖でもあるのだ。
それが、少なからず防衛軍内部にも広がっており、後に『敵国の兵士であっても、共存が望めるなら手を差し伸べる』という考えを生み出すに至るのである。
予期しなかった防衛軍の生存者、古代 雪の確認により〈ヤマト〉は先に出航。マルセフ率いる防衛軍及び3ヶ国艦隊が旅立つのは、この1日後であった。
〜〜あとかぎ〜〜
……どうも、第3惑星人です。
時間を空けての投稿になりましたが、今回は序文で書かせていただいた通り、かなり自分の妄想設定盛りだくさんのお話となりました。
SUSは今でも謎のまま、アルハザードも存在はしたがその実像は謎のまま、という限りなく少ない情報(私にとっては、ですが)で、ひどい程捻じ曲げました。
新人種というのはないかなとは思いましたが……今までのヤマト作中では、既に特殊能力者イスカンダル人、機械人間の帝国デザリアムや、超能力者&反物質のテレサ、復活編の精神体らしいSUS人、さらには2199で精神感応が出来る異能者……オカルトやらロボットやら、かなり混ざっているんですよね。
なので、これ以上何が出来ても怖くない!(←おい)という事で、SUS人は単なる精神体ではなく、肉体化と精神化が可能な特殊能力者に仕立て上げました。
さらにアルハザードの内情も殆どでっち上げです。科学と魔法、両方が進んだ星だったらしいので、まぁ、弄り易いと言えば、弄り易かったです。
それでもって、ヤマト世界で古代から存在した惑星と絡ませ、よりアルハザードが発展していた、という存在感(?)を出してみました。
次回で最終話……となれると思いますが、外伝はまだ続きます。
――以下、ヤマト2199第5章冒頭9分について――
つい先日、ヤマト2199第5章の冒頭9分が公開されました。やばいですね……PVもそうですが、ドメルとの戦闘、反乱、ガミラスのクーデター……わくわくが止まりません。
さて、今回特に目に焼き付いたのは、ガミラス大帝星の親衛隊でした。ゲーム版では親衛艦隊が登場した以降、それらしいものはありません。
しかし、この2199では親衛隊は独自の宇宙艦隊(全て真っ青な塗装)を保持し、反乱惑星の鎮圧を行っているようです。最高指揮司令官は、親衛隊長官のギムレーになりますが、はたして彼は艦隊戦の指揮に長けているのかと疑問に思ってしまいますが……。
別作品の話になりますが、銀河英雄伝説でも憲兵総監が艦隊指揮官でも優秀だった例がありますし、非凡とは言わず、平均並みの能力は持っているでしょう。
……そして親衛隊のえげつない、反乱分子への処置。ご覧になられればわかりますが、ヤバいです。銀英伝で言うヴェスターラント事件の比ではないです。
無慈悲であり冷酷。そして、ギムレー長官(森田順平)の――
「さあ……殲滅のメロディーを♪」(このバックメロディーにガミラス国歌が流れます)
手始めに惑星弾道弾を軽く6〜8発前後、次にポルメリア空母艦隊の艦砲射撃、追加に航空機による爆撃と機銃による住民への掃射というフルコース……。
ま さ に 外 道 !!
……早く本編が見たいです。
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