「か、核だと!?」
プラント攻防戦も終盤を迎えた時のことだ。ザフト最高司令官たる国防委員長パトリック・ザラは司令部の座席で文字通り驚愕していた。
今までのザフトの善戦ぶりに心躍らせていたものだが、この入電1つで全ての戦果が宇宙の彼方へと吹き飛んでしまったのだ。
その入電とは日本軍巡洋艦からのものであり、核兵器が使用されるとの内容であったのだ。地球連合軍は見境なく非戦闘員を巻き込んでまでプラントを破壊するつもりなのか!
核は持っていてこそ最大限の威嚇となり得るのであり、それを使用してしまったら最期、世界は核の破壊力によって滅亡するだけであろう。
ザラは、何故ここに日本の艦艇がここにいるのかと言う疑問はそっちのけで、やるべきことをやった。
「全コロニーに警戒発令! シェルターに避難させろ」
「しかし、今からでは‥‥‥」
「とっとと実行せんか、馬鹿者が!!」
一切の反論を弾き飛ばし、兎も角も民間人の生存率を上げることに、全力を尽くそうとした。無意味かもしれないが、何もしないよりはマシだ。
同時に指示の有った宙域にレーダーを集中させる。そこには、報告通りの地球連合軍の空母1隻と日本の艦艇2隻がいた。
そして、核を搭載したというMA。こいつを落とさねばならん―――そう思ったのも束の間、MAは日本の放ったミサイルによって撃墜された。
「MA、撃墜!」
「い、いえ、核ミサイルが残っております! 撃墜直前に発射された模様!」
「推定目標、農業プラント‥‥‥ユニウスセブン!」
「なにぃ!?」
指揮席から身を乗り出したザラ。それには彼個人の理由が存在した。このユニウスセブンには、彼の妻レノアが居るからである。
核を喰らえばコロニーは間違いなく崩壊する。住民達は成す術なく宇宙空間へ放り出されるか、あるいは瞬時に核の光に焼かれるか、この二択を強制されるだろう。
彼の怒りは一気に臨界点まで達した。地球軍―――いや、ナチュラルの行動は野蛮そのものであり、絶対に許してはならない“敵”である。
だが、そんな怒りを余所に核ミサイルは着実に目標へ近づいている。命中まで約1分と迫る中で、奮戦していたのが日本艦艇〈ナチ〉と〈シラヌイ〉だ。
島率いる当艦隊は、第一撃目における迎撃に失敗した。すかさず第二撃目の対空ミサイルを発射したが、目標に追い付く可能性は低い。
また彼らは、自棄になっている地球連合軍の空母〈ルーズベルト〉からの攻撃を受けようとしていた。
「空母1、2時方向より急速接近!」
「さらにMA 6、先行してきます!」
「司令、如何なさいますか」
そう問いかけのは、〈ナチ〉艦長 桂城智信二等宙佐であった。連合軍の行動は、あまりにも大胆すぎる。
宣戦布告もなしに日本艦艇へ攻撃してくるなど正気の沙汰ではないが、彼らからすれば任務の妨げとなる日本艦艇を敵と認識するのも無理はないだろう。
とはいえ核を民間人に対して使用するのは、明らかに戦争の範疇を超えている。これでは、たんなる虐殺ではないか。それくらいのことが連合軍には分からないのか!
もはや判断に迷う時間は無い。命中まで後40秒足らずと迫っているが、これは迎撃ミサイルの命中を期待するしかない。
さらにこれ以上接近しても意味がなく、逆に本艦が核爆発の巻き添えを喰いかねなかった。島は減速を命じると同時に、先の空母とMAに対する行動を起こした。
「全艦、対空ミサイルの標準をMAに合わせ。全砲門、空母に合わせ。それ以降は、命令あるまで待機!」
巡洋艦〈ナチ〉には、20p連装フェーザー砲塔×3基6門が搭載されている。これらが全て、右舷にて航行する〈ルーズベルト〉へ狙い定められた。
後続艦〈シラヌイ〉の12.7p三連装フェーザー砲塔×2基6門も旋回して待機、および艦後部上甲板にある八連装VLSのハッチが解放される。
砲撃準備が整った―――その時である。強力な閃光が、あたり一面を照らしたのだ。光輝く閃光は核ミサイルが爆発した証拠であった。
問題は、これは撃墜によるものか、コロニーに命中したものか、であった。オペレーターが急ぎ解析し、報告した。
「我が方のミサイルが命中した模様!」
「間に合ったのか!」
この期待は半分当たり、半分が外れていた。〈ナチ〉の放ったミサイルもとい空間魚雷は、確かに核ミサイルに命中してくれた。
であるのに、なんとユニウスセブンの一部が崩壊し始めているではないか! 残念なことに、迎撃した時の距離がユニウスセブンに近すぎたのである。
さらに言うならば、魚雷の命中で核ミサイルの安全装置が誤作動を起こしたのも、致命的であったと言えよう。核兵器とは誘爆しないような構造システムとなっているものの、日本の使用する火器類がC.E世界よりも幾段と強力なのが原因だろう。
迎撃の時間が限られた中で、ミサイル系統の種類変更という暇もなかった。本当ならば、低威力か不発弾で核ミサイルに当てれば直撃コースを免れたかもしれない。
「手前での撃墜に間に合わなかったか‥‥‥!」
島は拳を握りしめ、思い切り指揮席の肘掛けに叩き付けた。撃墜できても、それが標的の近くでは意味が無い。まして、破壊力のある核兵器だ。
核兵器にも様々な種類が存在しているが、この世界が開発した物も相当に強力なものである。爆発地点から半径約3qは、確実に対象物を蒸発せしめる。
さらに衝撃波や破片における被害範囲となると、半径約90qまでに及ぶとされている。過去において核弾頭ミサイル“サタン”に匹敵していた。
〈ナチ〉の放った魚雷は、ユニウスセブンから60qあまりしか離れていなかったのだ。当然、強力な衝撃波が悪魔の刃となって襲い掛かったのだ。
衝撃波を受けたユニウスセブンは、コロニーの外壁を大きく傷つけた挙句に巨大な亀裂を入れられてしまう。それは徐々に広がり、コロニー内部の空気を放出し始めた。
その内部では、予想もつかない地獄絵図が広がっていることだろう。被弾ヶ所付近の住民は、さながら掃除機に吸い取られていく塵の様に、宙へ吸い上げられる。
いや人だけではない。中を走っていた車、建物、植物、ありとあらゆるものが、巨大な亀裂に向かって吸い出されていくのである。
宇宙に吸い出されれば最期、助かる見込みはゼロだ。真空で人間が生きていける筈がない。それを想像しただけで、島の背筋はゾッとした。
彼ら軍人も、宇宙で戦闘すれば、同じような運命に会うだろう。だが、民間人がそれを体験してはならない。あってはならないのだ。
「おのれぇ‥‥‥」
島は握りしめた拳を、これでもかと、さらに握りしめた。ユニウスセブンは端から徐々に崩壊しつつある。もし直撃を許せば一瞬で崩壊していことは疑いない。
因みにプラントのコロニーは、三角錐型の形状をしている。これが2つで一対を成しているため、まるで砂時計型のコロニーのようである。
その内の片方が崩壊の速度を速めている。残る片方は、やはり衝撃波の影響で外壁に日々が入っており、真空になるのも時間の問題であった。
如何、このままでは全住民が死んでしまう! 破損したエリアの対極側では、残った大勢の人間がシャトルに駆け込んでいる。
プラントのコロニー群には、いざという時のために脱出用シャトルが用意されている他、個人用脱出ポッドなども多く用意されていたのだが‥‥‥。
一部始終を見ていたプラント、そして地球連合軍は唖然としていた―――特に動揺したのが地球連合軍総司令のマクドゥガルであったのは言うまでもない。
「ば、馬鹿な。なぜ、我が軍が核兵器を持っていた? 私は核兵器の運用に、サインをした覚えはないぞ!」
酷く動揺している総司令に、副官ロバーズには掛ける言葉もなかった。彼にも信じ難かったのだ。核を使用することなど、一片たりとも聞いていないのだから。
よりにもよって民間人のいるコロニーに打ち込むとは、いったいどこの馬鹿がやったのだ。重苦しい雰囲気の中で、狂喜したのはあのハザード参謀であった。
「ご覧ください、閣下。あれが奴らの報いです。我らに歯向かった報いで‥‥‥っぁが!?」
不快極まるその言葉を、マクドゥガルの左手の裏拳が黙らせた。それは、年齢とはかけ離れたように思える俊敏さであり、幕僚一同をまたもや唖然とさせる。
顔面に打ち付けられたハザードは、うめき声と共に発言を強制的に阻まれると、そのまま宙を舞って後方に漂い始めた。
両手で顔面を押さえつけながら無様な姿勢で、殴った上官を涙目に睨み付けるハザードだったが、それはマクドゥガルの威圧に押し込まれてしまう。
「貴様の様な人間の屑はいらん、此処から出ていけぇ!!」
空母〈ルーズベルト〉とMA隊は、結果として撃退されるに至った。先行していたMA隊は迎撃ミサイルの餌食となり、〈ルーズベルト〉は砲火の的となったのだ。
無論、先に手を出したのはMAである。対艦兵装のミサイルを発射してきたのだ。
しかし、それをECMでジャミングさせられた。誘導兵器の目を潰されたミサイルは迷走し、あらぬ方向を飛んでいく。その隙を突いて迎撃ミサイルを発射したのだ。
MAは尽くが叩き落された。もっとも、ジャミング明けと同時の攻撃ということもあって対応が遅れたようだった。
「主砲、撃ッ!」
次に〈ルーズベルト〉が砲撃を開始したが、狭叉を出す程度に留まって反撃を受けることになる。〈ナチ〉と〈シラヌイ〉の、怒りの一撃が突き立てられた。
艦前部から中央部にかけて、日本艦艇の砲撃が尽く命中。300mの艦体に、大小5つの傷跡が付けられてしまったのだ。
いや、傷と言うのも生ぬるい。抉ったのだ。〈ルーズベルト〉は艦体を大きく抉られ一瞬で大破した。艦内は大火災で阿鼻叫喚の有様である。
「撃ち続けろ、我れらの大義を邪魔する者は、誰とて‥‥‥っ!!」
リヒター艦長は、邪魔立てされたその腹いせに前進を続けた―――が、そこで彼の時間は永久に停止した。艦内の弾薬庫が引火、誘爆を起こして轟沈したのだ。
爆炎に包まれる〈ルーズベルト〉を一瞥し、島は救助活動を命じた。
「本国と第2艦隊、プラントに通信。『我、此れより救助活動を開始す』」
「了解」
「全艦、ユニウスセブンへ急行、救助活動に移る! 宇宙服を着用、連絡艇も動員し、多くの人々を助け出すんだ!!」
〈ナチ〉〈シラヌイ〉は全速力で現場へと急行、直ちに救助活動に移った。崩壊の速度を速めていくユニウスセブンを前に、島の焦りも強くなる。
よく見ると、まだ無傷を保っている区画から、脱出用とされるシャトルが出ているのが分かった。同時に、カプセル状の物体が、幾つか確認されている。
破片群ではない、それは明らかに脱出用だろう。これらをどれだけ収容できるか、いや、艦に括り付けるだけでもよい。後はプラントに引き渡せばよいのだ。
いち早く救助活動に乗り出した日本艦艇だったが、ここで最悪のすれ違いが生じた。
「司令! 8時方向、MS2機が急速接近中」
「救援か‥‥‥」
だが、それは真っ直ぐとこちらに飛んでくる。最初こそは、救援活動をするのだろうと思っていたのだが、次の瞬間、島の脳裏に最悪の可能性が浮かび上がった。
「こ、攻撃態勢をとっているもよう!」
「攻撃の意思はないと伝えろ!」
プラントには救援活動の旨を伝えている筈だが、どうやら伝わっていなかったようだ。いや、あるいは核爆発の影響で通信網に障害が生じたのだろう。
それで聞き逃したのか。ともかく、ここで手を出しては元も子もない。相手は相当に気が立っているのは疑いないからだ。
そして彼の予想は的中していた。ザフト司令部には、日本側からの救助活動が届いていたのだが、一部の部隊には電波障害の影響で伝わっていなかったのである。
ザラは、日本の救助活動に蹴りを入れて拒否することはできなかった。ここはナチュラルへの憎しみよりも、救助が第一だとしていたためだ。
それに彼自身、この防衛戦闘で核攻撃を許してしまうという、失策を犯している。これに加えて、救助活動を拒むなど、彼自身の首を絞めることに成りかねなかった。
だが、それを裏切るが如く、部隊の一部が勝手な行動に出ていることに気づいた彼は、全ての回線を開いて止めようと試みた。
「全部隊に命じる、戦闘行為を中止せよ! 繰り返す、戦闘行為を中止せよ、これは厳命である!!」
マイク越しに怒鳴りつけるが、これは半歩あまり遅きに失した。命令を聞き逃していたパイロットは、ユニウスセブンに核攻撃を行ったのが日本艦艇だと勘違いしたのである。
「よくも‥‥‥よくも核を!」
よりにもよって、そのパイロットはユニウスセブンに家族がいたのだ。当然と言うべきか、いない筈の日本艦艇の存在も相まって、攻撃行動に出ていた。
デブリを掻い潜り、そのMSは反撃しない〈ナチ〉に対して、76o重機関銃と対艦ミサイルの照準を合わせ、遂にトリガー引き絞って発射した。
ザラの戦闘中止命令が届いたのは、惜しくもこの時であった。
「な、何てことだ‥‥‥」
愕然とする彼の目線には、無抵抗同然で被弾した〈ナチ〉の姿だった。重機関銃12発に、対艦ミサイル1発が、左舷側に集中して被弾したとの報告が上がる。
攻撃したMSは、遅まきながらも攻撃態勢を解き、反転離脱を開始した。
「えぇい、なんたるザマだ。全部隊に改めて通達、日本艦艇と共に、脱出カプセルの救出活動に全力を注げ!!」
不甲斐なさを噛みしめる彼とは別に、攻撃を受けてしまった〈ナチ〉では、島が現状把握に努めている。
「左舷装甲板に被弾、B−4区画で火災発生!」
「ダメージ・コントロール! 負傷者の救助を急げ」
葛城は被害報告に対して的確に対策を命じる。76o弾は装甲で食い止められたものの、ミサイルに関してはジャミングで全てを防ぐことが叶わず、被弾を許した。
左舷装甲の一部を食い破り艦内に火災を発生させたのだが、消化と隔壁閉鎖という手際の良いダメージ・コントロールで被害は最小限に防がれる。
損傷具合としては小破といよりは中破寄りの判定程度のもので、戦闘行動にも航行能力にも影響はなかった。
僚艦〈シラヌイ〉は一同揃って怒りを感じていたが、島の反撃するなという命令に背くことができず、彼らは救助活動に専念していた。
戦場観察などと任務を受けなければ、このような事態にはならなかったであろうか。消火活動中の様子を見ながら、島は思う。
そもそも、無用な手出しさえず、観察にのみ重視していればよかった、という見方もできる。自分が独断先行しなければ良かったのか。
―――いや、それはどうだろうか。核攻撃があることを知っておきながらも、見て見ぬふりをするのは、人として看過できないものだ。
(逆に、この観察命令がなければ、こうして被害を最小限に抑えることも、できなかったやもしれん)
この場に〈ナチ〉〈シラヌイ〉がいなければ、今頃はユニウスセブンが1発で完全崩壊していたのは、想像するのに難しくはない。
火災が収まった頃、プラントから通信が入る。それは先ほどの攻撃に対する謝罪および、救助活動に対する感謝の意であった。
日本艦艇がこの宙域にいた件については触れられておらず、取りあえずは救助に専念しようという意図であろうことが伺えた。
それは島も望むことで、〈ナチ〉を〈シラヌイ〉で出来うる限りのことを尽くした。
地球連合軍は完全に撤退を完了させ、大人しく月基地プトレマイオスへと帰還していった。それは敗残者の列であり、完敗した事実に将兵は落胆していた。
この海戦で失われた地球連合軍宇宙艦隊の艦船は、220隻中86隻、MAに至っては1100機中693機が失われてしまったのである。
酔狂なブルーコスモス派の軍人は、核攻撃で一定の戦果を得たと公言しているのだが、これにマクドゥガルは頭を痛めていたのは言うまでもない。
軍上層部は、この一件をどう処理するつもりなのだろうか。核攻撃をしたのは地球連合軍である、と誰しもが考えて当然なのだ。
連合軍が結成早々に、他国からの非難の集中砲火を浴びるのは必須である。
核攻撃に関する報告には、第7艦隊の空母〈ルーズベルト〉が独断で動いたと言う証言が多数寄せられている。艦隊司令官であるアレクサンドル・マカロフ少将は、一応は呼び止める命令を発していたようなのだが、どうにも怪しかった。
聞くところによれば、彼はブルーコスモス派将校であり、独断専行した〈ルーズベルト〉艦長のリヒターもブルーコスモス派の軍人であったようだ。
となると、これは確証性はないが一連の経緯が何となく見える。即ち、マカロフは核攻撃を承知しており、リヒターの独断行動を形だけ止めておいて見逃した。
しかし成功しようと、失敗しようと、彼は全ての責任をリヒター本人の独断で片づけてしまおう―――と考えていたのではないか。
案の定、彼は戦死した。しかもそれは、核攻撃を回避しようとした、日本艦艇の手によるものであるという報告は、マクドゥガルを驚かせた。
「これは、地球連合に対する宣戦布告か」
「我が軍の空母を沈めたのだ。ただでは済まされんぞ」
オペレーターの間でも、そういった私語が聞こえてくる。日本艦艇が〈ルーズベルト〉を撃沈した、その背景を鑑みると、責任は寧ろこちらにある可能性が高い。
詳しい報告は後になるが、少なくとも、日本艦艇は核攻撃に対する阻止行動に出ていたらしい。それに対して、リヒターらブルーコスモス派が腹を立てたのだろう。
有り得ないとは言い難い。今こうして、後さき見えぬ参謀がいたくらいなのだ。日本側は、攻撃を受けたからこそ、反撃して撃沈したのだろう。
そしてこれは、国際的な責任が付きまとう筈だ。日本への責任追及をするか、あるいは、リヒターの独断行動で切り捨てるか。
政治的なものは兎も角、リヒター本人は戦死してしまった。まさに“死人に口無し”であった。
(それでも、私の責は重い)
マクドゥガルの肩が、一段と下がった。多くの将兵を失った責任、艦隊を纏めることが出来なかった責任、敗戦した責任、核攻撃を許した責任。
これら一連の責任が、彼の背中に錘となって圧し掛かるのだ。ロバーズは何処までも上官を気遣ってくれたのが、心の支えとなっていた。
核攻撃における被害は、12万4957人と後に算定されている。軍人の戦死者ではなく、民間人の死亡者数だ。尋常ならざる数値である。
一部では、もし日本艦艇が攻撃阻止に乗り出ていなかったら、この倍に上る24万人以上の死者を出したであろうことを示唆しているという。
地球を進発していた第2宇宙艦隊の先遣隊が、一部を交渉団の護衛に回してL5宙域に到着したのは、戦闘終結から40分後のことである。
先発していた〈ナチ〉〈シラヌイ〉と合流を果たし、ザフト共々に民間人の救助を開始した。生身では真空で生きられはしないが、カプセルであれば話は別だ。
この暗い真空の中を漂う民間人を、一刻も早く救助しなければならない。島は多くの人を助けようと、全力を尽くして指揮を執った。
また、日本政府は核兵器による被害に対して、早急的にかつ大々的にさらなる救助活動を発表した。
「日本政府は、核攻撃によって被害を受けたプラントに対し、救助部隊を派遣いたします」
この発表に地球連合軍は、当然の如く反発の意を表した。敵国に支援をするのであれば、日本はただでは済まないぞ、と遠回しにいう所もあったくらいだ。
しかし、日本の行動はあくまで民間人の救助活動であり、ザフト軍に対する支援ではない。そもそも、核攻撃を許した地球連合軍の発言力は、余りにも弱かった。
南アメリカ合衆国、オーブ連合首長国、赤道連合、スカンジナビア王国等は、日本の行動に全面的な支持を表明したのである。
非人道的な攻撃によって被害に遭った民間人を助けて、何が悪いのか。いきり立つ連合軍に対して、そのような反発の声を上げた。
「だが、プラントは貴国の艦艇を攻撃したというではないか。それでも救援をするというのかね!」
「質問で返すようだが、我が巡洋艦〈ナチ〉は、地球連合軍の一部独断によって攻撃されているのだが?」
こう言われると、発言する勢いを削がれてしまう連合軍側。この件に関しては日本に責任を追及せず、逆にリヒター及びブルーコスモスの責任として押し付けていた。
マクドゥガルの予想通りの処置で、連合は核攻撃はあくまで、これら異端分子が原因であると公言したのだ。
無論、それを抑えられなかったのは、マクドゥガルの責任でもあると、さらに罪を被せてきていた。泣きっ面に蜂とは、このことを差すのだろうか。
一方で、プラントは日本に対して、謝罪声明を発表。軍の不手際からの、日本国艦艇への誤射を認めたのだ。
「卑劣なる核攻撃を防ごうと行動した、日本軍への誤射はこちらに責任があります」
内部では、急進派が反発していたものなのだが、穏健派であるシーゲル・クラインが辛うじて押さえつけた。
日本は敵対国ではないうえ、救助活動まで率先して行ってくれている。また、彼は形だけでも謝罪をしなければ、それこそ日本をも敵に回す要素になりかねないと判断していたようだった。
ナチュラルとコーディネイターと言う壁が厚くなりつつある中、決して全てのナチュラルが非道である訳ではない、と信じている。
その証拠が日本の救助行動だ。とりわけ、関心を引いたのが、核攻撃を阻止せんと動いた島率いる日本艦隊であった。
その行動力は、誠に賞賛に値すべきものだと思った。同じく穏健派の中からも、地球全体を丸きり敵と認識すべきではない良き例ではないか、との声も多い。
こちらが誤射してしまったのは不味かったのは事実であるものの、関係修復および良好な関係を築き上げても良いのではないか。
そして急進派の中にも、この一連の出来事に心を揺るがせている者も多い。
その1人が、急進派の筆頭たるザラだ。
(レノア‥‥‥)
妻であるレノアは、個人用カプセルで漂流中のところを、〈ナチ〉に救われていたのだ。憎いナチュラルに救助されたのを知った時、複雑なものが渦巻いた。
コーディネイターこそが選ばれし人間だと信じる彼にとっては、これ以上にない雑音のようなものだろう。
レノアは軽傷で済んでおり、そのこと事態はザラを喜ばした。同時に、彼の1人息子―――アスラン・ザラも、母親の無事を喜んだのである。
しかし、ザラは救われたことに感謝する一方で、核兵器が使用されたという事実そのものには、怒りを隠し通すことはできなかった。
連中は、あの野蛮な兵器を使った。これでは、再びプラントは核の危機にさらされる可能性が高い、と彼は危機感を募らせたのである。
地球に温存されているであろう、核兵器の数は数知れず。今回は1発だけであったが、これが数十発と持ち込まれてしまったら、と地獄絵図が浮かび上がる。
(奴らの勝手にさせん為にも、何としても手を打たなくては‥‥‥)
渦巻く複雑な感情を胸にしながらも、即日の内に彼は密かな行動を起こしたのである。
地球上と宇宙における国家同士の、または国家内部のいざこざがある中で、日本政府は発表通りに救助部隊を派遣した。
日本軍中央司令部は、周辺を警備または護衛する軌道防衛艦隊を残し、第1宇宙艦隊と残存の第2宇宙艦隊を緊急発進、プラントへと向かわせた。
さらには、第1支援艦隊と第2支援艦隊も緊急出動を命じられた。宇宙軍は主力艦隊と支援艦隊の殆どを次ぎ込んでおり、日本に残されているのは、4個軌道防衛艦隊(駆逐艦16隻、砲艇16隻、宙雷艇24隻)のみである。
同時に艦隊へは空間騎兵隊の面々も編入されており、宇宙空間での戦闘を専門とした彼らにしても民間人の救助は、当然のごとく課せられた使命でもあったのだ。
また、地球連合軍以外に宇宙戦力を保有していたのがオーブ連合首長国くらいなもので、その数は他国と比べれば些細なものだった。
それでも日本に同調し、オーブ連合首長国も連絡船で使用している〈イヅモ〉を、救助活動に投入した。敵味方など関係ない、民間人の救助が第1なのだ。
実際にプラントのコロニー群に到着したのは、核攻撃からおよそ7時間後のことである。
沖田 十三は、到着するや否や、救助活動を開始させた。事態は一刻を争う。カプセルの機能を考えれば、もう限界に近いかもしれない。
「民間人はカプセルで漂流しているとのことだ。全艦、レーダーのみならず、目視による早期発見に努めッ!」
「艦載機、全機発進します」
「空間騎兵隊、順次甲板を離れます」
「後発のシーガル隊、到着。救助活動に入ります」
コスモシーガルは、宇宙空間と大気圏内の両方で運用可能な万能輸送機である。垂直離陸機能を有し、大気圏内への突入も可能で、航続距離も長い。
地球の地表から、月衛星軌道上まで飛ぶことも可能だった。実際はそれをもっと上回るとされている。彼らは血眼になって捜索を開始した。
「‥‥‥提督、先遣隊の川崎宙将補から通信です」
「回線を開け」
艦橋内に備えられている大型モニターに、先遣隊の第2宇宙艦隊副司令官/第4戦隊司令 川崎弘重宙将補が映された。
細身ながらもやや角ばった顔つきと、鼻の下に生やしたカイゼル髭が特徴の50歳の軍人だった。
『長官、お待ちしておりました』
「御苦労。川崎提督、現状を報告してくれ」
『ハッ。我々は、島宙将補と合流後、プラントのザフトと共同して救助活動を続行中です。これまで300名余りの民間人を救出しました。ですが、まだまだ多くのプラント市民が、救助カプセルに残されている模様であります』
「分かった。こちらも救助活動を開始する。貴官らも、多くの民間人を救助してくれ」
『了解!』
飛び交う艦載機群は、四方八方に散って捜索を始める。その様子を、艦橋から眺める沖田。過去において、これ程までに酷い有様は2度目になるか。
内惑星戦争において、火星軍の隕石攻撃による爆撃で多くの民間人の命が失われているのだ。核攻撃ではないが、その被害は目を覆わんばかりのものだった。
隕石によって生じる破壊力が、都市を破壊し、民間人の命を奪い、深い傷跡を残した。無論、軍事拠点を狙ってのことだったが、火星軍の目論見は浅はかだった。
しかし、今回の核攻撃は、明らかに民間人を巻き込んでのことであったのは、現場にいた島からも聞いていた。まったく、気が狂っているとしか言いようがない。
独断の核攻撃だと言うことであったが、そもそも、1隻の空母艦長がそこまで出来る筈が無いのだ。核兵器は厳重に保管されて然るべきである。
恐らくは、核兵器管理者辺りの手引きがあったと考えるのが自然だ。
(この世界は狂っている‥‥‥)
ブルーコスモスなる異端の集団。各地で過激なテロ行為を繰り返し、コーディネイターの排除を平然として行うその現状は、まさに狂気である。
中には反対運動に徹するだけの集団もあるらしいが、強硬策に出る集団の方が圧倒的に多いと言っても差し支えない。
これは、コーディネイターを生み出したのが、そもそもの始まりなのだろう。だからと言って、このような行為を許して良い筈があるまいが。
そして、沖田がもっとも恐れているのは、日本の国内―――はたまた軍内部にまで、ブルーコスモス思想が浸透してしまわないか、という事態だ。
(そうなったら、手が付けられなくなる。軍として正常に機能しなくなってしまう)
地球連合軍のような醜態を晒しかねない。今後の為にも、ここは対策を練っておかねばなるまい。兵士達にも今一度、伝えておかねばなるまい。
同時に各国との連携も強めなければならない、との考えを導き出した。中立的な立場をとる国々の多くは、残念ながら軍事力の弱い国々だ。
オーブ連合首長国は小国ながらも、技術立国として名に恥じない防衛力を備えているものの、やはり単独では心もとないのが現実である。
日本と友好関係を築いているオーブ連合首長国、および赤道連合、スカンジナビア王国らと結託してみるのも悪くはあるまい。
「11時方向、仰角53度に救難信号を捉えました。距離250q」
「その位置からは、第3小隊が近いな。連絡して向かわせろ」
レーダー手の報告に、山南が即座に命じる。幾ら楽天家な彼でも、この状況には眼を覆わんばかりな様子であるのが、沖田にもわかる。
それからというもの、日本、プラント、オーブらが合同で行った救助活動により、カプセル状で救助された民間人は9107人に昇った。
その反対に、無残な姿で遺体として発見された人々は、実に10万人以上を数えていた。核兵器による被害の凄まじさを物語っている。
コロニーと言う逃げ場のない場所に住む人々が、どれ程の恐怖を与えられながら命を奪われたことだろうか。沖田の心中は、重苦しいものである。
この核攻撃による騒動を、『血のバレンタイン』と呼ぶ。地球連合軍は、この核攻撃に対して非を認めず、全てはブルーコスモスの仕業であると述べた。
同時にブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルは否定している。あくまで、これは異端なブルーコスモスの仕業であるとしていた。
「まったく、何処のお馬鹿さんですかねぇ。コーディネイターなど抹殺したいのは山々ですが、投資したものを壊しては駄目でしょう」
呆れたように言うアズラエルに、同席しているロゴスメンバーはため息を吐いた。彼らにしても、今回の戦闘はプラントの無血占領の筈だった。
ザフトと駆逐し、全面降伏を強いる。この流れを、現場の人間は無視したのである。しかも。核を使ってしまったのだ。
これではプラントに、徹底抗戦の意志を植え付けてやるようなものではないか。事実、プラントは地球連合軍に対して屈服はしないと表明している。
コーディネイターは、ナチュラルの監視の下で物資を生産していればいいのだ。それが、全て無意味なものと化してしまったではないか。
加えて他国は、核攻撃に対して批難の声を合唱の如く上げている。忌々しい事態であるが、それに拍車を掛けたのが、プラントの声明である。
C.E暦70年2月18日―――核攻撃から7日後のこと。プラント最高評議会議長クラインは、地球各国に対して次の様な声明文を出したのだ。
『核攻撃を行った非道なる地球連合に屈指はしない。我らプラントは、完全なる独立を表明するものである!』
これを黒衣の独立宣言と呼ぶ。同時にプラントは地球上の国家に対して、積極的中立勧告と呼ばれるものを公布した。
それは、地球連合に組しない国、あるいは連合に非協力的であることを約束した国に対して、優先的に生産物資を輸出しようと言うものである。
プラントは物資を餌にして味方を増やし、地球連合軍を劣勢に追い込む魂胆だった。只でさえ、プラントは地球連合に比して圧倒的に物量に劣るだけに、ナチュラルが相手でも自分らの味方として増やそうとしたのだ。
この勧告に食いついた国家はアフリカ共同体、大洋州連合、そして連合に加盟していた筈の南アメリカ合衆国である。
以上の3ヶ国がプラント寄りになった訳であるが、日本やオーブ連合首長国などは、これに食いつくことは無かった。
日本はプラントの生産物資が無くとも、自国生産で賄えるほどの国力を有していた。さらに、プラントとは一定の距離を置いて然るべきだと判断したのだ。
オーブ連合首長国は、先日の2月8日に中立宣言を改めて表明している。よって、ここでプラントに寄れば、必ず争いの種を呼び込まんと判断した。
残るスカンジナビア王国、赤道連合、そして汎ムスリム会議は、どれもが中立的立場を採ることを表明。争いには介入しない方向で纏まっていた。
地球連合としては、これらは許されざる事態だった。特に深刻を極めたのは、南アメリカ合衆国の連合離脱表明だ。
「奴ら、コーディネイターの餌に食いつきおって!」
「無理もない。先日の核攻撃が大きな痛手だな」
怒り心頭の軍人がいれば、それに冷や水を掛けるが如く言い放つ政治家もいる。国土に比して、大した軍事力を持たない南アメリカ合衆国に、これまで固執する理由。
それがパナマのマスドライバーである。これでは、大西洋連邦の宇宙戦力が維持できない。東アジア共和国の高雄にあるマスドライバーでは大いに時間がかかる。
また日本から受けた慣性制御システムも、本格的に搭載されていないため、これもまた時間が必要である。
何分、慣性制御システムを搭載するためには、艦艇の再設計を必要としているのだ。艦内スペースを無理にでも作り、そこに入れるしかない。
再設計から建造し宇宙へ打ち上げるまでには、最低でも半年は見なくてはならなかった。同じくG計画における母艦就役見込みは来年の1月だという話だった。
しかし、逆に見れば、地球連合軍は半年間だけ耐えれば良いのである。後は自由に戦闘艦を飛ばすことが可能で、直ぐに宇宙戦力の補充が出来る。
月基地への補給路も容易になる筈であった。とはいえ、その間だけをザフトに好き勝手にさせるのも癪である。そこで、地球連合は強硬策に出た。
『南アメリカ合衆国侵攻作戦』の発動である。それも中立勧告受諾から翌日のことであった。この行動が明るみに出たのは、勿論、発動後のことだ。
「馬鹿な、大西洋連邦は何を考えている!」
南アメリカ合衆国が、大西洋連邦の電撃的な攻撃を受けた直後、日本首脳部は驚き固まった。大西洋連邦が、こうも強行的な手段にでるとは思いもよらなかった。
(いや、先の核攻撃を考えれば、もはや何が起きてもおかしくはないのだ)
日本行政長官の藤堂は、事態の深刻さを改めて身に染みた。ユーラシア連邦といい、東アジア共和国といい、そして大西洋連邦といい、どれもこれもが武力に頼る。
芹沢にしても、大西洋連邦の行動には呆れ返ったものだ。こうもなると、他の国も危ないのではないか。その中には、日本も含まれている。
高度な軍事力を有するとはいえ、戦闘すれば疲弊する。日本は戦争の影響で灰燼に帰す可能性も否定できない。あの、核兵器を持ちこまれれば尚更である。
報告によれば、南アメリカ合衆国はパナマを即日の内に占拠されたようで、そこから一気に南進を開始したという。
それに南米(ブラジル)フォルタレザ近郊には、DSSD機関の本拠地が存在している。さらには日本の技術陣が、数名派遣されているのだ。
下手をすれば、彼ら技術陣が大西洋連邦に捕えられる可能性がある。早急に対策を立てる必要性に迫られた。
「南アメリカ合衆国の政府と連絡を取り、救助しなければ」
「DSSDは、各国が共同出資しているものだ。それまでもが、大西洋連邦の手に渡るのか?」
「わからん。だが、先の暴挙を考えれば、考えられない話でもあるまい」
困惑する閣僚一同であったが、この南アメリカ合衆国侵攻作戦は、以外にも即日の内に終結した。その理由は、政府側の降伏受諾であったという。
何故こうも簡単に屈したのか。その所以は、やはりマスドライバーを奪取されたことが、最大の原因とされている。同時に、双方の軍事力もあっただろう。
また、工業力の高さではダントツを誇る大西洋連邦だ。対して南アメリカ合衆国の工業力は高くなく、反撃する余力はない。
これにより南アメリカ合衆国は、大西洋連邦に併合されるに至り、ユーラシア連邦と同等またはそれ以上の国土面積と化したのである。
日本の危惧したDSSD機関は、以外にも手を付けられることなく至って通常通りに運営されることが約束された。
日本技術者が拉致されないかとの心配もあったのだ。それは杞憂であったようで、大西洋連邦は拉致しようなどとはしなかった。
これにも多くの裏の事情というものがある。閣僚が危惧したように、当機関は多数の国家が合同出資して設立した機関なのである。
これを大西洋連邦が独り占めしたら? 反感どころか逆風が増すばかりだけではなく、日本からの反発を恐れていた。
日本は宇宙軍を使って本土攻撃することも可能なことを考えれば、懸命な判断なのだろう。
とはいえ批判の声がない訳がなかった。世界各国―――主に中立国は批難の声を再び上げたのだ。特に強い反感を買ったのは、大洋州連合である。
「大西洋連邦のやりようは看過しえぬ。我が大洋州連合は、プラントに対して全力的な支援を行うものとする!」
これによって、大洋州連合は完璧な親プラント国へと変貌した。つまり、プラントもといザフト軍は、地上において完璧な橋頭堡を手に入れたも同然なのだ。
またアフリカ共同体も、ザフトの駐在権を認めるに至っている。地球連合としては、ますます、逆風が強くなる戦況であった。
南アメリカの併合という電撃的な作戦を受けて、対応策を練ってきた日本政府もとある判断を下す。
沖田が考えていた、新たな連合体を作ることである。今や地球上で、連合にも、プラントにも組しない国が日本を除き4ヶ国存在していた。
それが先のオーブ連合首長国、スカンジナビア王国、赤道連合、汎ムスリム会議だ。もし、これらが日本と結託した場合、第三勢力としては強大なものとなる。
ただし勢力としての話だ。純軍事的な観点から見ると、宇宙戦力の殆どは日本とオーブに頼ることになり、陸上兵力でも日本とオーブの兵力が中心となるであろう。
素直に話が進むかは保証はないものの、日本政府は密かにこれら各国に対して、説得して同意を求めたのであった。
勿論、ただで動くとは思えない。そこで、日本政府は宇宙艦艇の建造技術の供与、並びに他の兵器技術の供与あるいは兵器輸出を認めるということだった。
このご時世で中立国が点でバラバラに存在するよりも、纏まって相互に守りあえる体制を作り上げた方が良いのではないか。
「これは他国を侵略するための連立ではない。これは、中立国同士が生きて長らえるための連立だ。相互に守り合ってこそ、この世界では中立を保ちあえるのだ」
芹沢はそう言って閣僚や軍幹部を説得させる。野心の強い彼は、これが日本が確実に生き延びるための措置だとも、訴えたのである。
そして、その裏にあるのは、日本を中心とした連合体を組上げ、やがては地球圏全土を平和に保つという、理想であった。
政治的野心の強い彼らしい理想ではあるが、これも全て、争いのない平和を願っていることの裏返しでもあったのだ。
だが、各国が答えを出す前に、宇宙ではまたひと騒動が起きていた。その舞台となったのは、ポイントL1に存在するコロニー 世界樹である。
これは東アジア共和国が管理するコロニーで、地球から月までの補給ルートの中継地点ともなるべき、まさに地球連合軍の橋頭堡とも言えるものだ。
プラントのザフト軍が、これを攻略せんと進撃を開始したのだという。地球連合軍は先日の傷が癒えないまま、これの防衛に当たることとなった。
何せ90隻近い艦船を一度に失っているのだ。月面プトレマイオス基地に残された艦隊で、動ける艦を中心に再編が急遽進められた。
その結果から兵力を整えた第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊の3個艦隊が、世界樹防衛の為に投入されたのである。
ザフトも10個部隊余りを、世界樹攻略の為に派遣した。『世界樹海戦(世界樹攻防戦)』の始まりであった。
〜〜あとがき〜〜
やっと第8話が上がりました。お待ちいただいた方には、ご迷惑をおかけいたします。
核攻撃による被害ですが、回避してほしというお声も頂いておりました。が、上記のような結果となりました‥‥‥。
もう日本がかかわった時点でいろいろとストーリーが変わってくる可能性も大きく、戦争の流れも速まることも‥‥‥あるかもしれません。
ガンダム知識の浅い筆者のため、いろいろと違ったりするでしょうが、その際には声を頂ければと思います。
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