C.E暦の世界における人類の生存圏は、最大で火星までとされている。無論、それは日本のいた西暦2199年の世界でも同様であった。
だが生存圏とは別にして、どれ程の範囲までに地球人類の手を加えられるかという点においては西暦世界の方が遥かに勝った。
C.E暦世界では木星までが有人探査の限度宙域であり、しかも往復に約14年の歳月を掛けている。これは55年程も前の事ではあるが、今も大差はない。
  一方の西暦世界はといえば、最大で冥王星まで到達することが可能であり、それも時間にして片道約3週間―――往復で6週間程度の時間で成し得るのだ。
まさに科学技術での雲泥の差が見て取れる。しかも使用される艦艇の差も大きすぎると言えよう。C.E暦世界で使用された探査船は〈ツィオルコルスキー〉
全長にして2qという超巨体を誇る探査船で、長期航行のための日常設備を満載し、さらには調査施設も兼ね備えている。
  方や西暦世界では軍艦であるものの全長205mの金剛型宇宙戦艦から、最小で80m程度の磯風型突撃宇宙駆逐艦までもが往復可能なのである。
C.E暦世界の科学者や軍事関係者が知ったら唖然として言葉も出ないであろう―――いや、実際に唖然としている人間がいる。

「たった3日程度で着いたのか‥‥‥あの木星に?」

オーブ連合首長国首長の娘たるカガリ・ユラ・アスハは、窓越しに木星を眺めやりながらも驚きの声を漏らしていた。

「どうやら、本当に木星へ着いたようですな」

  その隣でカガリほどではないが、やはり唖然とせざるを得ない表情を作っているオーブ連合首長国の男性が1人いる。
浅黒い肌に脱色した蒼い髪の容貌で、着ている服装も相まって見るからに軍人であることを他者に分からせる雰囲気を持っていた。
彼の名はレドニル・キサカ。年齢は38歳。オーブ連合首長国 国防軍陸軍第21特殊空挺部隊所属の一等陸佐である。
忠義に厚く、任務を忠実に成し遂げる腕を有していることから、首長ことウズミ・ナラ・アスハの信任も厚い軍人だ。

「キサカ‥‥‥その、ゴメン。私の我侭に付き添わせてしまって」
「何を仰いますか。私とて陸軍の人間で、碌に他の世界を眺めたことは少ないのです。ましてや、宇宙ともなれば別世界も同然。良い経験をさせて貰っています」

  カガリの謝罪にキサカは気にする様子もなかった。彼が言う通り滅多にない経験であり、物事を広く見る良い機会でもあったのだ。
そもそも、この2人が日本の調査船に便乗するようなことになった切っ掛けは、本当に些細なものであったと言えよう。
  それは、中立連盟国の間で、木星圏や土星圏の資源(主にコスモナイト)採掘、及び貿易の話が持ち上がった時の事である。
日本の調査採掘船団に便乗する形で、他の連盟国からも技術者が参加することになっていたのだが、その話を偶然彼女が耳にしたのだ。
国内ばかりにしか目を向けていなかった彼女にとって、国外どころか宇宙の果てとも思える木星や土星に行ける良い機会であったのだろう。
普通は宇宙よりも地球内における国外を見て然るべきなのであろうが、ともかく彼女は調査団らとの動向を強く志望したのだ。
  父であるウズミ・ナラ・アスハは、無理に引き留めようとはしなかった。寧ろ、積極的に外を見せてやった方が良いと思う方である。
それは娘であるカガリが、後の人生を歩むうえでも必要なものだと考えていればこそだ。ウズミは娘の行動を許し、同時にキサカを護衛役として同行させたのである。
また調査団への同行に対する手続きと、日本国に対しても内密にしたうえで連絡した。大々的に知らせてしまうのもトラブルの原因になりかねないからだ。
  とは言うものの、信頼のできる日本国籍の船舶に乗るとはいえ不測の事態に備えなくてはならない。そこで藤堂は信頼のおける人間を付ける必要性を感じた。
護衛役として最適でありつつも人間的にも認められる人材。そこで見つけ出したのが、自分が直接に指揮する戦略作戦部6課の1人であった。

「どうも、お待たせしました」
「星名‥‥‥!」

にこやかな笑みを浮かべつつも近づいてくる若き青年に、カガリはハッとして振り返って当人を見た。

「先ほど、船長との話し合いが終わりました。間もなく衛星ガニメデへ着陸をします」

明るい表情が、その青年の性格を体現しているかのようだ。彼は星名透(ほしな とおる)准宙尉。18歳の若き青年軍人であり藤堂の直属でもある。
誰もが階級に比して若すぎると言うのが当然であるが、星名はこれまでに厳しい訓練課程を熟した事は勿論、各部門の成績も上々に上げている。
  また、人格的な面でも評価が高く、同僚や後輩の信頼も高い。上官からも印象が良く持たれている為、嫌う人間は比較的に少数であろう。
軍人としての手腕、そして人としての評価の双方をクリアした結果、藤堂から内密に護衛任務を任されたのである。

「‥‥‥んぅ」
「? どうかしましたか」

怪訝な表情で星名を見つめるカガリに、星名は首をかしげる。彼女はつくづく思ったものだ。目の前の若い青年が、どうもしても軍人らしく見えない。
悪く言ってしまうと、性格が良いだけで頼りなさそうな印象なのだが、このの約3日間で考えを改めることになった。
  それは出発直後の事だった。カガリの悪い癖というべきか、男勝りな性格が災いして星名に降り注いだのである。

「本当に軍人なのか、君は」
「えぇ。これでも軍人をやってますよ?」
「‥‥‥そうも見えないぞ」

普通の人間なら、ここで怒りの反論の一つでも言ってやりたいところだろうが、星名は生来の優しい性格のお蔭か軽く受け流して見せる。

「えぇ、まぁ、若すぎるのは僕も自覚してますからね。それでも全力で務めさせてもらいます」
「ふぅん‥‥‥そうだ、到着までには多少なりとも時間があるのだろう? 少しトレーニングに付き合ってくれないか」
「はぃ?」

その突拍子的な申し出に、さすがの星名も面食らったものだ。活発そうな女性であることは見た時から分かってはいたが、まさかトレーニングに付き合わされるとは。
寧ろ困惑したのは、護衛役で付き添ってきたキサカの方だろう。自分らの護衛に就いてくれている青年に、いきなりそのような事を言うのはどういうものかと。

「構いませんよ。この船にはトレーニング施設もありますし、その案内を兼ねて行きましょう」
(本当に落ち着いているな、この青年は)

  活発的なカガリに対して、常に人当りの良い態度と笑みを返しながらも星名はカガリとキサカを、船内に案内を開始した。
その案内が終了した後、カガリはトレーニングルームに舞い戻り、星名とのトレーニングを始めたのだが―――。

(私と2歳程度しか違わないのに‥‥‥!)

彼女の予想を大きく裏切った。腹筋、腕立て伏せ、ランニング等の筋肉トレーニングから始まり、それら全てがカガリの上を行ったのである。
当然と言えば当然で、星名も軍人としての訓練を積み重ねてきた身だ。カガリも独自に体力作りをしてきたが、並のスポーツ選手を超える星名には及ばなかった。
  全てのトレーニングが終わった後に、カガリは驚きと関心に包まれた様子で星名を見やった。汗は描いているが、終わった後も涼しそうな表情を崩していない。
カガリはと言えば、彼と同等のトレーニングメニューを熟した筈だが、彼よりも息が上がっている。彼女が着ている赤いラニングウェアも汗で濡れているぐらいだ。

「良い汗をかきました。しかし、カガリさんは、いつもこれほどの量を熟してらっしゃるんですか?」
「え‥‥‥いや、まぁ、ね」

タオルで汗を拭きつつも鮮やかな笑みで問いかける星名に、カガリはぎこちない返事を返す。私は、あれだけやってもまだ足りないというのか―――等と、やや女性らしからぬ気持ちが芽生えた瞬間でもあった。
そして、彼女の胸の内では正直に悔しいという気持ちが渦巻いていた。そもそも、本業軍人と比べようと言うのが間違いなのである。

「カガリ様、そこまでにしまして、休まれて如何です?」
「そうだね‥‥‥星名、付き合わせて悪かった」
「いえ、気にしておりませんよ。それと、シャワー・ルームはご自由に使われて構いませんから、急いで着かえられる方が良いと思います」

どこまで屈託のない表情に、カガリも自然と笑みをこぼした。勝手にトレーニングに付き合わせて勝手に敗北感に苛まれたが、妙に清々しいものだったのを今も覚えている。
  そして、時系列は3日後に戻る。

(‥‥‥結局、星名に体力勝負で勝ててないな)

初日以降も何気なくトレーニングに付き合わせたカガリではあったが、その大半は星名の体力に及ぶことは無かったと言えよう。
そんな事を思いながら、星名の問いかけに何もないと答える。

「‥‥‥いや、何でもないよ。それで、これから着陸して作業に入るんだったね?」
「はい。各国の採掘隊の人達も、機材や重機の降ろし作業の準備に入っています」

  中立連盟の各国技術者が乗り込んでいるのは、カガリもキサカも知っていることだ。彼らは日本採掘船団の技術者と共同して資源の採掘を行うのである。
採掘された資源は各輸送船に積み込まれていき、一先ずは日本の工業地帯へと移される。そこで資材として使えるように加工して、それから連盟各国に輸出するのだ。
何せコスモナイトを始めとした宇宙鉱物の加工技術は、今のところで日本が群を抜いているどころか独占していると言っても過言ではない。
この希少鉱物は宇宙艦艇のみならず、あらゆる金属物質と整合することで丈夫な金属を造ることが出来る重要な宇宙鉱物なのは承知の通り。
  因みにコスモナイトは、あくまで総称した呼び方である。このコスモナイトの中にも異なる種類が存在しており、その一例がコスモナイト90だ。
これは装甲用に使用される宇宙鉱物ではなく、エンジンのエネルギー伝導管やパワーキャパシティ(コンデンサ)等に重宝される代物なのである。
コスモナイト90が有ると無いとでは、エンジンに対する負荷の差は非常に大きい。特にエネルギー消費の高いショックカノンの発射には必要不可欠なのだ。
  もしも通常の合金で核融合炉機関を搭載したとして、その艦艇はコスモナイト90を使用した機関の7割程度の力しか出ないのである。
また無理にショックカノンを発射すれば、エネルギー集積機能に負担と支障をきたす。そればかりかエネルギー集積の不安定さから大爆発を引き起こす事も有り得る。
この点において元国連宇宙軍は開発に苦慮したものであった。幾たびの研究開発と失敗の繰り返しで、現在の安定したショックカノンが完成したのである。

「御二方とも、実際に作業現場をご覧になられるという話ですが、その際は私も同行いたします」
「よろしく頼む」






  ガニメデを間近にしている3人だが、今彼らが乗っている船は日本国籍の探査宇宙船であり名前を〈さんふらわあ〉と言う。
この〈さんふらわあ〉は、日本国内にて市場を広げつつある揚羽財閥傘下の造船企業が建造した、大型の調査宇宙船である。
揚羽財閥とは、近年に成長を続けている巨大財閥で、軍需産業を主とした南部重工大公社と別の市場―――民間産業において成長を続けている財閥である。
民間製品における市場に始まり、民間船(宇宙船も含む)の造船を手掛ける造船業も営んでいることから、南部重工大公社と肩を並べる存在だ。
財閥当主の名は揚羽蝶人(あげは ちょうと)。現在の日本行政長官たる藤堂の友人でもある。
  とはいえ、彼が友人であることに扱き付けて介入したことは無い。現在の揚羽財閥は、造船産業は勿論のこと兵器産業においても徐々に生産受注が入っている。
それもこれも連盟国軍の軍備力編成の為だ。故に民間の運営する造船ドックまで駆り出して軍艦の建造に精を出しているが、軍艦建造における設計や建造は、先達であった南部重工の方が上手ではあるが。
  因みに〈さんふらわあ〉が就役したのは、ほんの遂最近のことである。かの国連が如何な航行技術を要していようとも太陽系を完全に把握していたわけではない。
膨大な空間をくまなく調査するためには調査船が圧倒的に不足しており、各国は互いに探査範囲を割り当てられて調査船を出していたものだ。
日本も例外なく含まれており、優秀な探査機能を満載した最新型探査船を建造していた。それが〈さんふらわあ〉で、西暦2200年1月には完成する見込みだった。
それが異常現象の影響で建造を一時中止されていたものの、問題も解消されて建造を再開し就役を果たしたのである。
  そして〈さんふらわあ〉は、日本政府からの受注により建造された元国連でも数の少ない巨体で、全長370mの大型探査宇宙船である。
探査船と呼ばれる通り、この〈さんふらわあ〉は宇宙における探査活動のために建造されたもの。これまでの葉巻型を採用してきた軍艦とは違い本船は箱型である。
勿論、そのまま長方体という訳ではなく探査機能を納めたブロック、乗組員の居住ブロック、艦を運用するための航法ブロック、そして艦の命である機関ブロック。
概ねこれらのブロックからなっており、機能重視であることが伺える。

「それにしても‥‥‥」

  カガリは展望室から見える木星と衛星ガニメデに目線を移して呟いた。

「日本の持つ技術は、群を抜いているとは聞いていたが‥‥‥体験するとまた違う」
「同感です。我々の常識では、10年以上の歳月を要していのですから。それをたったの3日で到達するなど、いまだに信じがたいものです」

太陽系第5惑星である木星は、太陽系で最大のガス状惑星で、直径14万2894qもあるとされる天体だ。また、大小合わせて66個あまりの衛星が存在している。
中でも一番大きいとされるのはカリストであり、直径が5262qもあった。その他にも3つの大きな衛星が存在し、それらを纏めてガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)と呼んでいるのは有名な話である。

「どうですかな、初めてご自身の眼で木星をご覧になった感想は?」

  巨大な木星に見とれている3人だったが、背中から声をかけられたことで視線を木星から外して声の本人へ移した。そこに立っていたのは、海軍帽の様な白い帽子を被り、紺色のハーフコートを身に纏い、首には薄い黄色のスカーフ、白いスラックス、茶色の靴を履いている男性の姿。
着用している制服は一見すると日本宇宙軍かと思われがちだが、それは違う。紺色のハーフコートは軍人ではなく民間商船の人間が着るタイプなのだ。

「団船長。今までは写真やプラネタリウムでしか見たことがないので、実際に見るのは迫力があります」
「ハハッ、そうでしょう。私も航海で実際に見た時は圧倒されたものです。宇宙には、この様な星が数多く存在するというのですから、きっと驚きは耐えませんぞ」

  カガリの感想に頷いて見せる男性。この探査宇宙船〈さんふらわ〉の船長を務めている団彦次郎(だん ひこじろう)。年齢は41歳である。
口周りから揉み上げにかけて髭を生やした風貌をしている。普段の性格は陽気な方で、気軽に船員に話しかけたりもするため、船員達からは良く親しまれていた。
陽気な一方で仕事の腕はと言えば、船長たる確かな手腕を持っている。宇宙船と船員を預かる身としての自覚をしっかりと持ち、適確な判断を下すこともできる。
  星名は意外そうに尋ねた。

「団船長、わざわざこちらにいらして来たのですか?」
「あぁ。何せ盟友オーブのお客を預かる、光栄極まる身だ。こうして直接に出向いておこうと思ってね」

愛想の良い笑みを見せながら答えた。

「星名准尉からもお聞きしたと思いますが、本船団は30分後には地表に降り立ちます。他の作業員達の様子をご見学するとの事ですが、案内はこちらの彼が致します」
「はい。先ほど聞きました」
「そうですか。まぁ、危険は無いでしょうが、お気を付けください」

  一方で衛星ガニメデまでの航路と、船団を護衛している日本宇宙軍第2艦隊の姿があるのを忘れてはならない。
この第2艦隊は、日本宇宙軍の保有する主力艦隊の1つだ。先年のユーラシア連邦・東アジア共和国との戦争時には、日本本土の上空防衛という任を帯びていた。
200機以上の戦闘機と爆撃機の連合部隊を前にして、第2艦隊は防空隊と共同して防衛に当たった。空母からは艦載機が飛び立ちドッグ・ファイトを繰り広げる。
その迎撃網を潜り抜けた編隊に対して、上空待機していた第2艦隊の濃密な対空砲火による迎撃網が襲い掛かり、瞬くまでに制空権を護り抜いたのであった。
  このようにして、日本本土において対艦載機を相手に奮発したのが、第2艦隊のこのC.E世界に来てからの初陣である。
戦争が終結した後の2ヶ月余りの期間は、日本本土と、その上空及び宇宙空間の警備活動を主としていた。
やがて木星と土星の資源ルートの護衛を仰せつかることになった。
  第2艦隊は、艦隊内部で部隊を再編することで、入れ代わり立ち代わりに船団の護衛を続けており、今こうしてカガリ達の乗った船団を護衛しているのも、空母1隻、戦艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦4隻からなる第2艦隊第1護衛部隊である。
  その第2艦隊旗艦/第1護衛部隊旗艦 長門型〈紀伊(キイ)の艦橋では、大柄な体格をした男が指揮官席に座っていた。年齢は51歳。
オールバックに決めた黒髪と、見るからに一癖もありそうな表情をしており、彼の被っている軍帽も多少右斜めに傾いているのは本人の癖なのだろう。
その様な被り方が、彼をだらしなそうにも見せてしまうのだが、周りのクルーや幕僚は慣れた光景らしく何も言わない。
  そんな大柄な男に対して幕僚の1人が報告を告げた。

「大石提督。間もなく着陸態勢に入ります。異常は見受けられません」
「そうか。何事もなくて結構だな、原一佐」

大柄な男―――第2艦隊司令官 大石倉之助(おおいし くらのすけ)宙将は、肘掛けで軽く頬杖をつきながら答えた。だらしないように見えてしまうのは何時ものことだが、その姿勢をしている反面に、彼はいつも真面目である。
  それは、先の45歳程の男性―――幕僚 原玄也(はら げんや)一等宙佐が良く知っていた。

「同感であります。この世界では、我等ほどに高度な技術力を有していないがため、ということでしょう」
「確かにな。聞けば、この木星に到達しえるのには7年そこらは掛かると言う話だ。その技術では、針路上で待ち伏せもできまい」

出来ないことは無いのだが、それには余程の情報を掴まない限り、針路上で待ち伏せは難しいと言わざるを得ない。

「あるとすれば、地球の周辺しかないだろう。まぁ、何処の輩が待ち伏せするかは想像するしかないがな」
「連合か、プラントか、あるいは第三者か・・‥‥。そう言えば、今頃はプラント首脳部との会談が始まる頃です」
「あぁ。我々日本、そして中立連盟に対して、どんな話を持ち掛けるのか。興味深いところだ」

  ニヤリとする大石。プラントは中立連盟に対してどう向き合うつもりでいるのか。こちらとて今の戦争へ介入することは避ける方針でいる。
相手の口車に乗って同調してしまおうものなら中立連盟もそこまでである。それに地球連合軍は質で劣ろうとも量では圧倒的優位にあった。
地理的に日本とは掛け離れているスカンジナビア王国や汎ムスリム会議は、あっという間に地球連合らに攻め入られるに違いない。
それに都市と住まう市民を人質に取られ、降伏を迫られてしまうというシナリオも考えられた。
  あのブルーコスモスが多数混じる連合軍なら尚更である。戦争の止むを得ない犠牲である、との一言で片付けてしまうだろう。

「よもや肩入れするとは考えにくいですが‥‥‥」
「俺もそう思う。肩入れというよりは、中立連盟という立場を利用したいのかもしれんな」
「は‥‥‥?」
「中立連盟から、何かしらの支援や妥協を受けてもらおう、という事だ」
「まさか‥‥‥。市民に対する援助や救助ならまだしも、軍事的な支援など‥‥‥」

唖然とする原に対して大石は人の悪い笑みを浮かべた。

「可能性だ、参謀。あくまで可能性と仮説にすぎんよ。もっとも、我が国の長官殿は、そこまで浅はかな考えの持ち主ではない」
「そうかもしれません。しかし、プラントは何かしらの企みがあって、我ら日本‥‥‥しいては中立連盟に会談を申し入れたのでしょう?」
「勿論、そうでなければ会談など申し込む筈もないだろう。だが面倒なのは、地球連合の奴らも黙ってはいない、ということだ」

事実、地球連合はこの会談に対して不快感を示している。大西洋連邦はまだマシだが、ユーラシア連邦と東アジア共和国は強行に出ないとは断定できない。
まして隣国が危機に晒されることにもなる。まだまだ軍事的な再編成が終わらない状況では、スカンジナビア王国や汎ムスリム会議らは対抗できる筈もなかった。
  今回の会談の結果によって善し悪しが決まる。プラントがどのような要件を出し、中立連盟がそれをどう受け入れるのか。
逆に中立連盟は、プラントに対してどのような要件を出して見せるのか。藤堂ら連盟トップの腕の見せ所である。
とはいえ、会談が決裂したのであれば別にそれでよい話だ。振出しに戻るだけのことであるし、地球連合もとやかくは言わないだろう。
  一方で何らかの形で成立した場合は、地球連合の反応に注意しなければならない。

「プラントと地球連合の戦争に巻き込まれてしまえば、我が国はともかく、中立連盟参加国はとんでもない目にあいます」
「分かっている。連盟国間で助け合わねばならないからな、我々もこのような輸送船団の護衛行動に出る余裕もなくなるだろう」

地球連合軍の兵力は事実上世界一の規模を誇るのは間違いなかった。質や技術面で言えばプラントに半歩及ばず、日本に二歩及ばずと言ったところである。
それ故に物量に任せた戦術に成りがちだが、その地球連合もまた技術向上のために動き出していた。MSの開発がその例であろう。
  日本としては既存兵器の改良計画を推し進めており、中立加盟国への軍備増強に一躍買っているところだ。
大石も耳にしているが、既存兵器の改良のみならず自国ではMS程とは言わないものの、それに対抗できる新型戦闘車輛を開発中だという話である。
海軍も陸軍も規格兵器の提供やら技術提供やらで足並みを揃えようと必死だ。無論、宇宙軍も例外ではなく、寧ろ宇宙軍こそ難題を持っているとも言えよう。

「その足付きの戦車とは、想像してみると‥‥‥滑稽なものですな」
「言ってやるな、参謀。彼らも必至だ」
「心得ております。とはいえ、我が宇宙軍も大変なものであります」
「あぁ。現在の兵力では、とてもじゃないが万全とは言い難い。戦争に巻き込まれていないから、こうして我が艦隊が護衛任務を遂行できるが‥‥‥」

  そこで一旦、口を閉じる。そうだ、如何に我々が技術的に優位に立とうとも、数が揃っていなければ劣勢に変わりはないのだ。
つい先日に2個軌道防衛艦隊が解隊され、各艦艇は連盟加盟国に売却されている。軌道防衛艦隊の構成は駆逐艦が主体の、言わば雷撃戦隊のようなものだ。
快速性に優れた駆逐艦と、前世代からの現役たる砲艇と宙雷艇。それら計28隻が連盟宇宙軍(便宜上の呼称だが)を構成する為に、他国の艦艇となっているのだ。

「輸送路の護衛だけとはいえ、やはり無理が出るのではありませんか? あの沖田提督が了承なさったと聞き及んではおりますが」
「そうさ。まぁ、俺も意見具申したさ。戦力の低下は免れないうえ、カバーできる力も低下するのでは、とな」
「それで?」
「沖田提督も同じことを考えていた。だが、中立連盟加盟国にも、一刻も早い軍備再編を整えさせなくてはならない。苦しいだろうが、承知してくれ、と」
「連盟加盟国には、今しばらく新造艦の完成を待てもらった方がよかったのではありませんか?」

原の言いたいことも分かる。だが現実的な問題として、早々に新造艦を造らせるのは土台無理な話であった。それに完成するまでの間を無駄にする訳にもいかない。
そこで自軍の艦船を引き渡し、練習艦として使ってもらおうとしているのだ。

「今さら言っても仕方あるまい。それに、何も当てがなくて軌道防衛艦隊を解隊したわけではないさ」

  軌道防衛艦隊を解隊したのを入れ替わりに、現在再編中の第3艦隊が控えている。この第3艦隊は、次世代型試作戦艦と鹵獲改造艦の就役を待つばかりだ。
これらの完熟期間が必要とはいえ、数が揃ってくれるだけでも違ってくるだろう。また軌道防衛艦隊の補充の為に増産計画も進んでいると言う。

「試作艦とはいえ、規模は長門型を上回る化け物だ。次世代型の為に注ぎ込まれた技術を、如何なく発揮できればいいのだがな」
「それに、聞けば300mを優に凌ぐらしいですからね。それが2隻も揃うのです‥‥‥如何な試作艦とはいえ、強力な戦力向上にはなりましょう」

例の試作戦艦については、大石も聞き及んでいたのだ。試作艦とは名ばかりの超弩級戦艦とも言える、まさに化け物戦艦が姿を現す。
設備も真新しいうえ、〈ナガト〉に代わる日本宇宙艦隊総旗艦としても申し分ないだろう。早くこの目で見たいものだ、と大石は思ったものである。





  その後、船団は予定通り30分後には、衛星ガニメデの地表へと着陸を果たした。採掘船団は作業班を降ろし、早々に採掘作業に移る。
ガニメデはコスモナイトの採掘場として有力な衛星である。表面から数百mと掘り進んだ先に、コスモナイトの原石に遭遇する。
中でも超高密度かつ純度の高い原石は表面上の地層にはない。このガニメデの最深部―――即ち中心部にこそ、極めて高密度な鉱物が埋蔵されている。
これを採掘出来ればよいのだが、かなりの労力と時間を要するのは想像するのに難しくはない。
  衛星によって内部構造は違ってくるのは当然だが、このガニメデの場合、中心核が金属等、その外側に岩石で覆われたマントル、軟弱な氷層、硬い氷層となる。
最深部たる核まで、約2000qまで掘り進めねばならなず、しかも核の手前にマントルが立ちはだかっている。
日本のみならず前世界の国連でも、この最深部に眠る金属鉱物を掘り出すのは至難の業だ。そこで、手始めに地表部分のコスモナイトを始めとする鉱物の採掘だった。
この世界においても、まずは地表層に埋蔵されているコスモナイトの採掘が第一とされ、日本は連盟国と共にその作業を進めているのだ。
 
「レーザー照射開始」
「照射開始します!」

  ガニメデは既に、幾つかの採掘場が設けられていた。採掘部隊はレーザー照射装置やシールドマシンを使って、コスモナイトを切り出しまたは掘り出していく。
切り出されたコスモナイトは運搬車に乗せられて輸送船まで運んでいくのである。コスモナイトは外見上、ただの巨大な氷の塊にしか見えなかった。

「これが、コスモナイト?」
「えぇ」
「ただの氷にしか見えない」
「そうですね。一見すると氷の塊に見えますが、これから精製されていくんですよ」

宇宙服を着用したカガリ一行に、星名は無線機越しに説明する。カガリの目は興味深々という呈で、それはまるで都会を初めて目にする田舎者のようだった。
無論、ここは都会ほどのハイカラ(・・・・)な様子とは程遠く、かつ無縁な星である。何もない寂しい風景が続くばかりで、木星や他の衛星、惑星、光り輝く遠き宇宙の星々の姿が、真っ暗なキャンパスに花を添えている程度だ。
  だがそんな風景でさえも、カガリにとっては新鮮なものだった。ここからは見えないが、彼女が育ってきた地球が浮かんでいるのだ。
遠くを眺める彼女にキサカが問いかける。

「カガリ様?」
「何でもないよ。ただ‥‥‥地球がまったく見えない様な距離を、たった数日で航海して来たというのを、改めて実感しただけだよ」
「‥‥‥それでは、もう少し下の方に行ってみましょう」

星名はそう言って、台船へと案内する。長方形というシンプルな形をした台船に乗り込むと、星名は操舵主に頼んで地下の作業現場まで降下してもらった。
崖の間を降下していくこと数分、地表から300m程で到着する。この崖底にも、多くの作業員達がせっせと作業中であった。
  これら原石が、これから様々な用途に分かれて使われていく。だがカガリからすると、コスモナイトはどういった事に重宝されるのか、よく理解できていない。
彼女が知っていることは、装甲板に欠かせないものだということだけ。他にどんな使い道があると言うのか。

「星名、今さらだけど、コスモナイトって装甲板に必要不可欠なのだろう?」
「えぇ。勿論です」
「他にはどんな使い道があるんだ?」
「コスモナイトは、その性質上、耐熱性や耐久性に優れた金属物質です。そのため、カガリさんの仰る通り、装甲板として貴重な素材になります」

それだけではない。その耐熱性を最大限に生かすため、エンジン部品としても重宝していることをカガリに説明した。
エンジンの放熱も半端なものではないうえ、ショックカノンといった強力な兵器をチャージして発射するにも不可欠な存在。

「またコスモナイトを複合した装甲は、計算上では約6000〜7000度までは耐えられると聞き及びます」
「ろ、6000から7000‥‥‥!?」

カガリは目を見開くように驚いた。といより、全く想像ができないと言うのが本心である。それもそうで、6000〜7000度などと言う数値すら想像できない。
これ程ともなると、それは恒星(太陽)の表面上を航行する事が出来る事を意味していた。

「まぁ、計算上では、そう言われていますけどね。これがあるからこそ、大気圏突入も成し得るんです」
「成程、大気圏への直接突入の要因は、重力慣性制御だけかと思いましたが、やはり装甲の耐久精度も求められるのですか」

  今度はキサカが反応した。慣性制御の技術があれば大気圏の離脱と突入の双方が可能となる。そう思ってばかりであったが、よく考えてみれば頷けることである。
如何な慣性制御とはいえ地表へ降下する以上は、摩擦熱を完璧になくすことなど不可能だろう。摩擦熱もまた金属疲労を増加させる要因でもある。
そこでコスモナイトの耐熱性を使ってやれば金属疲労の負担もかなり軽減されるのだ。

「コスモナイト様々と言ったところでしょうね」

  ふと、カガリの視線の先に気になるものが映った。全長3.4m前後の二足歩行型ロボットで、作業員がコックピットに座って捜査している。

「‥‥‥! 星名、日本にも作業用のMSがあったのか?」
「MS‥‥‥? あ、98式のことですか」

それは軍でも活用されている98式特殊機動外骨格のことであった。ここでは民間用の重機の一種として扱われており、操縦者1人が乗り込んで動かしている。
両腕の先には、輪っかを2つに割ったようなマニュピレーターを装着。肩の部分には照明灯が付いており、作業現場を明るく照らしていた。
  また人が乗って操作するマニュアル用と、ロボットが自己判断して操作するオートマチック用とに分けられていた。
オートマチック用は危険な現場で運用される際に良く投入される代物である。

「あれはMSと言うほどの物ではないですよ。確かに戦闘に参加できるのですが、MS程に機敏な動きが出来る訳ではないので、拠点防衛や災害派遣等が大半です」
「日本はMSを造らないって聞いてたけど、やろうとすればできるんじゃないか?」
「かもしれません。その前身として多脚戦車が開発されているみたいですし‥‥‥」

星名の言う多脚戦車は試作型の基礎部分が完成しており、歩行テストを重ねた結果として次の開発ステップに進んでいた。多脚戦車のスペックは六本脚に120oショックカノンを搭載、他には近接戦闘用の3つの鉤爪(クロー)を各前脚に備えている形となる。
これは接近戦を挑まれない限り使うことは無い装備だ。基本は遠距離から中距離での、砲撃戦を想定している故である。
  いざ接近された時は、自らも思い切り加速して近づき、3本の鉤爪で相手MSの脚を挟み込み、切断または思い切り引っ張るなどして転倒させるのだ。
クローの馬力も相当なもので、上記したようにMSの脚を切り裂くことはできなくとも、潰す程度のことなら不可能ではないかとされる。
注意しなければならないのは、一瞬で勝負を決めなければならないという事だ。下手をすると弱点である上面部装甲を、上部から至近距離で撃ち抜かれてしまう。
  因みに通常姿勢時は脚を屈折させた状態で全高7.2mとなり、脚をピント延ばした直立姿勢時になると14.7mに及ぶものとなった。
数字上ではMSの全長に及ばないのだが、実際に比較すると多脚戦車のボリューム感がプラスされている為、その威容は見劣りはしないものであった。
無論、地形に合わせて地面スレスレの低姿勢状態も可能である。

「では、いったん戻りましょうか」
「あ、あぁ」

  一通りの作業現場を見に行った後、星名は2人を連れて台船に乗り込み、再び崖上へと向かった。
ガニメデには、先発隊によって基地が建設されている。基地とはいっても大きなものではなく、駐在しているのは警備員10名、作業員38名程度。
この基地は仮設ドックや原料貯蔵庫などが完備されており、次の輸送便が来るまでに掘り出されたコスモナイトを貯蔵しているのだ。
他の衛星も同様にして、こういった仮の基地が建設されている。近い内は軍港等の軍事基地も併設され、本格的に機能すると言う予定だという。
土星では衛星タイタンを中心基地にしていく計画で、規模としては1個艦隊は優に駐留が可能となる。また例の太陽機関を開発する為の開発ステーションも、同時進行で建設中だった。
  そして太陽機関の開発によって成し得るであろう外宇宙への旅立ち。外惑星系への進出を着実に伸ばしつつあり、中立連盟は日本を中心として少しづつ足並みを揃えていく。
その内は冥王星にまで手を伸ばすことになるだろう。もっとも、足元の地盤をしっかり固めなくては手の伸ばしようもないが。





  一方の地球では、中立連盟とプラントとの会談が催されようとしていた。その会談へ向かう、1機のスペースシャトルと、1隻の軍艦。
プラントのスペースシャトルと、それを護衛するザフトのローラシア級1隻だった。この戦争状態の中で敵地へ飛んでいくんは甚だ危険だが、それも会談の為である。
危険を承知で、プラントは使節団を派遣しているのだ。無論、護衛も着けてはいるし、中立連盟との会談時期の情報も極秘だった。
それでも気が抜けない。中立連盟側からも護衛の艦隊が迎えに来ると言う話ではあるが、派遣された者達の不安は簡単に消えるものではない。

『カナーバ議員、30分後に合流ポイントへ到着します』

  スペースシャトルの客室内に流れる機長の放送。その報告に対して、1人の女性文官が室内電話を手に取って返答する。

「わかりました。異常は‥‥‥ありませんか?」

機内電話を手に取って確認を取る女性―――アイリーン・カナーバ外交委員の姿が、そこにあった。プラント最高評議会のメンバーを構成する1人であり、穏健的なクライン派に属する女性だが、今回の初会談においてクラインから外交官として任されている身だった。
何としてでも、成功させなければならない、と彼女は強い決意を示している。
  それだけに妨害行為に敏感になっており、地球連合の強硬派が襲撃に来るのではないかと心配もしていた。

『護衛部隊からは、異常なしとの報告を得ています。大丈夫ですよ、ナチュラルにやられたりはしません』
「‥‥‥そうね」

この機長も右寄りか。一瞬の会話でしかないが、相手のことを「地球連合」ではなく「ナチュラル」と全て括り付けて行ってしまう辺りに偏見の目を向けているのが伺えた。
今のプラントには、この様な過激的、或は右寄りの人間が増えつつある。先日の敗北もまた反ナチュラル運動に油を注ぐ要因となっていたのだ。
アイリーンとしては沈静化に向かってほしかったものだが、そう簡単な話ではないのは良そうで来ていた。
  まして、弾圧を受けてきた経緯を顧みれば、無理もないだろう。既に戦争状態に突入しているとはいえ、何とか停戦へと持ち込みたい。
さもなくば、国防委員会から提示されているあの計画が実行に移される可能性が高いのだ。そう、あれを実行したら、それこそ事態の収拾がつかなくなる。
それだけではない。現在の議長クラインの支持者は失望するに違いない。強硬派からは支持されるだろうが、それだけ停戦への道は遠退てしまう。
同時に中立連盟からも敵対者として認識され、報復行動に出られるたらそれこそ終わりである。

(中立連盟には、どうしても条件を呑んでもらわなければならないわ‥‥‥)

  全世界を共通とした核兵器の使用禁止。何故、中立連盟にこれを求めるのか? それは、考えずとも想像はできる。
地球連合議会へ訴えたとしても効力など無きに等しいからだ。大西洋連邦へのストッパーとなる役目は失われ、議会とはほぼ名ばかりの存在でしかない。
殆どは軍部が動いていると言っても過言ではないのである。頼りない連合に変わり、信頼できる国家は何処か?
  それが国際中立連盟―――厳密には日本であるが、この国家に核兵器の使用禁止を取り付けて貰おうとしている。
先日にはユニウスセブンの救助活動を支援してもらったのは、記憶に新しいものである。
  日本ら中立連盟は軍事的にも、徐々に力を蓄えつつある。それはプラントにも脅威ではあるが、彼らが中立を守る立場であるならば、そう恐れる必要もない。
ただし、プラントが中立国への武力介入や不当な要求などを突きつけなければ、である。また、この軍事的な脅威は地球連合への牽制にも成る筈だ。

(向こうも何かしらの要求を提示してくるとは思うけど‥‥‥無理難題でなければいいわね)

もしもこの会談が決裂してしまえば、プラントとしても強硬策に出ざるを得なくなる。ザラを筆頭とした急進派が、あの計画を実行に移しかねない。
それだけ彼女の責務は重いという事を、まざまざと実感させられた。
  緊張感を走らせるアイリーンのもとに、先ほどの機長から1つの連絡が入る。

「はい」
『護衛部隊が、不審な艦影を捉えました』
「不審‥‥‥。連盟軍の出迎えではありませんか?」
『いえ、それにしては針路が違います』

彼女は思わず、その報告に対して息を呑んだ。まさかとは思うが、地球連合なのであろうか。

「急ぎ連絡を‥‥‥!」
『御心配なく、ザフトが付いております。何も心配はいりません』

そういう問題ではないの! 思わず叫んでしまいそうな声を呑みこんで、アイリーンは救援要請を発信するように頼み込んだ。

『‥‥‥わかりました、そこまで仰るのであれば、救援信号を出しましょう』

渋々と言う呈で、機長は了解した。
  一方の、使節団に向かいつつあると言う艦艇3隻は、確実に狙いを済ませつつあった。それは地球連合軍のパトロール部隊で、サラミス級1隻とドレイク級2隻。

「ザフト艦、なおも地球へ針路を取っています」
「奴らめ、白昼堂々と散歩と言うつもりか。いつからこの宙域が、奴らの庭先になったのだ?」

旗艦 サラミス級〈マダガスカル〉の艦長席に陣取る、如何にも威張り散らす男―――カーマイン・リード中佐
第29パトロール部隊の司令官を兼任している。30歳と若いが、見た目通りに自分の階級を振りかざすような人物である。
その為に部下からは信頼がなく、煙たがられているのだが、本人は全く気づいていない。

「‥‥‥! 艦長、ジャマーが撒かれた模様、レーダーがホワイトアウト!」
「ふん、レーダー戦では自信がないのは変わらずか。おおよその針路と、敵の構成は分かってるんだろうな?」
「はい。エネルギーの熱放射線量からして、ローラシア級が1隻。もう1つは、軍艦ではないようです」
「ハッキリせぬか!」

やかましいことこの上ない。報告した下士官は苛立ちを隠しながらも返答した。

「反応規模からして、シャトルと推定されます」
「ほぅ、シャトルか。こんなご時世に観光か? 流石はコーディネイターだな」
(そんな訳ないだろうが)

勿論、口には出さない。口にすればまたやかましいことを、偉そうにズラズラとマシンガンの様に言い放つのだ。たまったものではない。
  リードは部下の不平不満を感じ取ることもなく、思うが儘に命じる。

「攻撃だ、全艦は直ちに攻撃に移る!」
「は‥‥‥? しかし、艦長、あれは使節団ではないかと‥‥‥」
「知らんな。使節団が通るなどと報告は受けておらん」

それは事実だった。プラントは襲撃を恐れて、明確な時間を連盟側にしか伝えていなかったのである。それが見事に悪い方向へと裏目に出てしまった形となる。
知らないのだから攻撃しても問題は無い、と言わんばかりのリード。もはや止めることはできないのは、雰囲気からしても分かり切っていた。
  復唱しない部下に、リードは苛立ちながら命令を下した。

「ボサっとするな! 全艦戦闘配備だ、あの船団を撃滅するぞ。わが地球連合の領域に脚を踏み入れてただで済む思うなよ、化け物め」

  副艦長も諦めたように復唱する。パトロール部隊は即座に戦闘態勢へ入ると共に搭載しているMAメビウス12機を全て宇宙空間へ放ったのだ。
相手もMSを放っているだろうが、こちらはジンの2倍だ。圧倒的でなくとも時間の稼ぎ用はある。

「MAは先行しろ。本艦隊も全速で接近、一撃で沈めてやる!」

加速を開始するパトロール部隊。護衛のザフトも守らんとして迎撃に出ようとする。
この突発的か、偶発的か、計画的かは分からない戦闘は、中立連盟は勿論、プラントをも揺るがすのに十分な出来事であった。




〜〜〜あとがき〜〜〜 
どうも、大変に御無沙汰しております。第3惑星人です。
あれから1ヶ月は余裕で経過してしまいました。お楽しみいただいている方々には申し訳ありません。
読者様から頂いた、資源採掘のネタを生かそうとしたのですが、内容が思いつかず、組み立てるのも一苦労。
仕事の方もあったりして、時には別の方に夢中になったりで書き上げるのに時間がかなりかかってしまいました。
そのくせ出来は良くないのですが、ご容赦いただければと思います。
因みに、今回出てきたキャラクターの多くは、ヤマトのキャラだったり、某艦隊のキャラだったり、あるいはファーストガンダムだったりと、色々とお借りしております。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.