C.E暦70年4月1日。日本が最新鋭艦〈ヤマト〉のお披露目、並びに進宙式を取り行った日は、瞬く間にどん底に落とされる史上最悪の日へと転落していった。
それは、先の第3艦隊が感知した不穏なレーダー反応から、たったの2時間後のことだ。日本艦隊による索敵から逃れることが出来たソレ(・・)
宇宙空間の中を誰にも気付かれず、ヒッソリと静かに航行しているのは15隻のザフトの艦艇群の姿であった。
  内容はナスカ級高速戦闘艦1隻、ローラシア級フリゲート艦2隻、フォック級MS輸送艦12隻、計15隻となっている。
通常の部隊と比較した場合、偏りの激しい編成だが、異質なのはそれだけではない。その各艦艇の表面が、尽く黒く、まさに漆黒に塗装されているのだ。
まるで宇宙空間に溶け込んでしまうステルス艦のようになり、人間の一目では非常に見つけにくい艦艇群である。
  さらに、フォック級輸送艦数隻に搭載されている降下カプセルは、通常であればMSを格納したものなのだが、今回に限って事情は大きく異なっている。
もしもこの中身について地球連合軍に知れ渡ったら―――いや、地球全土の者が知れば、顔色を氷点下に晒したように青白くさせたことであろう。
  この異なる編成、異なる塗装、異なる搭載物など、異なる部分の多い15隻のザフト艦は、つい先ほど、日本宇宙軍第3艦隊に発見されかける寸前であった。
この特殊な艦隊を率いる旗艦 ナスカ級〈バチェラー〉の艦橋では、日本艦隊に発見されかけたこともあって一層の緊張感に包まれている。
発見される寸前にザフト艦隊は、Nジャマーを散布した上でエンジンも慣性航行に切り替えさせた。これにより、熱源による発見をも防いだのである。
さらにアナログ的ではあるが、黒い塗装を施したことによって日本艦隊の光学センサー類を騙すことに成功したのであった。

「‥‥‥日本艦隊、針路変針せず」
「どうやら気付かれなかったようです、隊長」
「そのようだ」

  オペレーターの報告に、白い制服を来た38歳の男―――イバブ・ヴェースは安堵する。ここで見つかっては、重大任務を遂行することは叶わないのだ。

「全部隊に通達。このまま慣性航行を続行し、地球の衛星軌道上に乗り次第『オペレーション:ウロボロス』を決行する」
「了解」

『オペレーション:ウロボロス』―――プラント議会で意見を真っ二つに分けた軍事作戦。Nジャマーで混乱に陥れた直後に、大洋州連合のカーペンタリア港湾へ大規模な工兵部隊を投入し、地球侵攻の基礎となる基地を建設するのが目的である。
地球に大ダメージを及ぼしかねない作戦を託された彼は、急進派の様にナチュラルを酷く軽蔑する性格であって今回の作戦実行には強く賛同的だ。
それゆえ、作戦実行を任されたときには小躍り寸前であった。核兵器を使うナチュラルに対して、もはや何の躊躇いがあろうか。
これは正当な報復であり、ナチュラルの受けるべき報いなのだと彼は信じている。だからこそ、大義を任された身として、この様なところで見つかってはならない。
  彼の引き連れるフォック級輸送艦12隻中4隻には、MSの代わりにNジャマーを発生させる特殊弾頭を大量に搭載している。
7隻には工作機材が多量に積み込まれており、残り1隻にはMSディンを主力とした部隊が搭載されている。
Nジャマーは衛星軌道上で順次投下、地表にばら蒔くのだ。ばら蒔かれた弾頭は、地表に到達すると掘削ドリルで地中深く潜り込んでいく。
簡単には掘り起こせない深度まで潜ると、そこで停止して強力なNジャマーを広範囲に散布し、核分裂の阻害、電波の攪乱を引き起こす。
さらには、いくつものダミーも含まれており、用意には判別できないようにされている。
  こうもなると、原子力発電所は無力化されてしまうだけでなく、そこから生じる二次災害によって大多数の民間人に被害が及んでしまう。
そのため、あくまでも地球軍に対する威嚇行為として決議された作戦だが、それが1人の復讐者の手によってあらぬ方向へと向かうこととなる。

「軌道上に、艦影は見受けられず」
「好都合です。これで、ナチュラルに鉄槌を下すことができますね」
「鉄槌等と言う表現は生温い。殲滅してやった方が、我々コーディネイターの未来の為になる」

ヴェースの心中には、これから犠牲になる人々に同情の余地は微塵もない。ユニウスセブンで殺された民間人の事を考えれば、当然の犠牲なのだ。
Nジャマーは何処であろうとも関係なく散布する。さすれば、ナチュラルは極めて大きなダメージを負うであろう。ヴェースは口元を吊り上げる。
  この時点で不可思議なのは、彼の元に届いている命令が無差別的な散布を行うよう、伝えられている事にある。
その議会の決定とはまるで違う作戦内容を伝えたのが、白き仮面を着用したザフトの英雄―――もとい復讐者ラウ・ル・クルーゼだ。
以前に『オペレーション:ウロボロス』が決行されれば問題はない、とクルーゼが呟いたのは、彼自身が実行部隊への命令を捻じ曲げて伝達していた故である。
さらに本当の内容に関しては、ヴェース自身にも伝えられていなかった。
  何故なら、彼は急進派の人間だからだ。ナチュラルを抹殺することに躊躇いのない性格であれば、クルーゼは色々と都合をつけやすいのである。
簡単に言えば、ヴェースの独断で広範囲の地表へNジャマーを散布した、と言ってやれば良い。こんなことで信じてもらえるかのかという疑問もあろう。
そこはクルーゼも織り込み済みの話であり、世界樹攻防戦で得た英雄としての名声を最大限に使い、信じ込ませるのである。
実績も豊富で英雄視されるクルーゼと、まだ此れと言った実績もない急進的なヴェースとでは、どちらが信頼されやすいか。
  ヴェースは、裏で待っている結末に疑問すら持たずに、クルーゼの命令を本物の命令として受け取り、今まさに実行へ移そうとしていた。
そして予定通り、慣性航行を行いつつもヴェース隊は衛星軌道上へ到達する。

「隊長、本艦は予定軌道上へ到達しました」
「後続艦も順次到達」
(ふん、見ていろよナチュラル。このNジャマーで地獄を味わうがいい)

不敵な笑みを浮かべるヴェースの表情は、悪魔が乗り移ったような不気味さであろう。多くの命を奪うことに、微塵の責任感も持っていなかった。
Nジャマーを散布するフォック級輸送艦4隻に対して、カプセルの降下準備に当たらせるとももに、周囲の状況を徹底して警戒に当たらなければならない。
  もしも日本艦隊なりに発見されることになれば、非常に面倒極まりない事態となる。そうなる前に、片付けてしまう必要があった。
ヴェース隊は日本上空に差し掛からぬように慎重なコースを選びつつ、Nジャマーの散布準備を終えた。

「散布準備、完了」
「よし‥‥‥Nジャマー、散布開始!」
「散布開始!」

ヴェースの号令を機に、フォック級輸送艦4隻は腹に抱えているカプセルを一斉に切り離していく。切り離され、自然落下を始めた降下カプセルの群れは、姿勢御スラスターを使いつつも定められたポイントへと針路を変える。
1つ、また1つと地表へ放たれていく降下カプセルは、やがて設定された高度に達した途端に分解し、中に積まれていたNジャマー特殊弾頭が一斉にばら蒔かれていく。
  このままNジャマー特殊弾頭を散布しつつも、部隊はオーストラリア大陸上空へと向かうこととなる。大洋州連合のカーペンタリアへ降下して基地を建設するのだ。
既にザフトでは地球侵攻の為に用意された、新型MSディンや海中専用艦艇がある。地球軍に遅れは取らないと自負する新兵器達だ。
無論、あの日本軍にも対抗しうると、開発関係者やザフト関係者は語っているが、真意のほどは定かではないが。
  広範囲にばら蒔かれていく様子を眺めやるヴェースは、まさか己が罠に陥れられているとは微塵も思わず、着実に作戦を進めていく。
全世界に余すことのない様に散布されるNジャマー特殊弾頭は、大気圏内部へ侵入を果たすと一定の高度でパラシュートを開き、ゆっくりと降下を始める。
地球上どの国家も多量のNジャマー特殊弾頭を発見するのに遅れた。警戒に当たっていたレーダーには一斉にジャミングが広がり、詳細が掴めないでいた為である。
  各国の警戒網は突然の異変に騒ぎ始めていき、それは日本も例外ではなかった。

「レーダー、ジャミング効果が広がる!」
「通常空間通信、並びに超空間通信、双方ともに障害発生!」
「世界各国で同様の現象が生じている模様!」

中央指令室に飛び交うオペレーター達の声が響く中で、永井栄典宙将と土方竜宙将の2人は険しい表情を作りつつ、大型モニターを睨み付ける。
ジャミングによって通信機能と索敵機能を、大幅に低下させられている状況にあって、土方は原因を突き止めんと必死なオペレーターに状況を尋ねた。

「このジャミングは、いったい何処の連中の仕業だ」
「そ、それが‥‥‥Nジャマーの放出を確認いたまして‥‥‥」

  Nジャマーという言葉を聞いた途端、永井と土方の顔が一層険しくなった。Nジャマーを感知したという事は、考えられるのは1つだろう。
先日に発生した世界樹攻防戦で観測されたジャミング現象も、Nジャマーと呼ばれる新ジャミング技術であることが判明している。
地球連合軍ではなく、プラントもといザフト側による妨害だった。となれば、当然のことながら今現在発生しているジャミングはザフトによるものである。
  緊急事態に慌ただしく司令室に入って来た芹沢虎鉄宙将は、土方よりもさらに深刻な表情でモニターに食い入るように見た。
そんな芹沢に対して永井は現状を報告する。

「ザフトがNジャマーを散布した。既に世界規模でレーダー機器に障害が発生、通信状況も悪化している」
「世界規模で―――! ザフトの連中め、いったい何を企んでおるのだ!?」

今もなお、モニターに映される世界地図には、通信レベルの低下示すゲージが低下し続ける様子が表示されている。
  何を企んでのことか、と芹沢が誰かに問いかける様に言うものの、考えずとも何を企んでいるかぐらいは察しがついていた。
簡単に言えば、新たな軍事行動だ。地球連合軍に対して、3度目の攻撃を仕掛けてきているのであろうが、事はそれだけではない。
問題はNジャマーを散布する範囲が、あまりにも広すぎるという事である。これでは彼ら日本、敷いては中立連盟をも巻き込んでしまっているのだ。
レーダーによる索敵範囲が極端に低下し、通信状況も芳しくない。ただし超空間通信システムは、超光速通信システムよりもまだ救いようがあった。
  超空間通信システムは、従来の無線通信は無論のこと超光速通信とは比べ物にならない出力を有している通信システムだ。
これのお蔭で、前の国連宇宙軍は太陽圏内でのリアルタイム通信が可能となり、太陽圏外苑においても非常に頼られている。
とはいえ、まだ開発途上とも言えるシステムであり、太陽系の圏外(ヘリオポーズ)を抜けて通信を行う事はできない。
その為にはもっと出力を挙げられるように改良を施すか、或は中継地点を設けて通信を可能とするように環境を整える必要があった。
  だがこの世界では、超空間通信は開発されていない。それどころか超光速通信さえ実現には至っておらず、日本に比べて数世代遅れているのが実情だ。
通常の無線通信が主流であり、有線通信もまだまだ残されていたが、軍事関係ともなると電波機器を主流とするだけあって、このNジャマーは最大の障害と言えた。

「むぅ‥‥‥警戒態勢は整っておるのかね、永井長官」
「はい。沖田提督に対して迎撃態勢を指示。既に富士宇宙港にて停泊中だった、第1、第2艦隊に出撃態勢をとらせております」
「空間防衛総隊は、航空隊全隊にスクランブル態勢を維持、ポイントL3と地球の間を巡回中の第2軌道防衛艦隊にも警戒態勢を厳としました」

永井宙将の言う通り、資源輸送船団の護衛から帰還したばかりで、富士宇宙港に停泊中の第1・第2艦隊は慌ただしく発進態勢を整えつつある。
  中立連盟参加国が保有するコロニー(オーブのヘリオポリス等)、中立コロニーが多く存在するポイントL3と地球の間を中心に巡回中であった第2軌道防衛艦隊に対しては、継続して巡回し航路ルートの確保を命じた。
本土防空隊である3個航空方面隊もスクランブルに備えており、日本上空における防衛行動に迎える態勢を整えている。
  同時に陸軍と海軍でも有事に備えての警戒態勢に入っていたものの、ジャミングの強さが時間を追うごとに強まることに一同は警戒心を高めた。

「どうも妙です、ジャミングの範囲が次第に高度を下げています」
「どういうことだ‥‥‥」

秋山三郎海将が首を傾げた。こうも一斉に広がったNジャマーが、大気圏高高度から次第に地表へ向かって来ると言うのである。
それは地球全体を覆い尽くさんと言わんばかりのもので、それだけ多量のNジャマーが散布されたことを意味していた。
  レーダーの感度が著しく下がってしまい、頼りにならない以上は光学センサー等を頼りにして正体を掴む以外に、方法は無さそうである。
芹沢はオペレーターに対して、光学センサーを使った観測データを出す様に命じると、メインモニターへと映し出させた。





  中央指令室とは別に、藤堂平九郎長官らがいる行政局の室内モニターにも同様の映像が出され、ようやく発見された多数の物体が映される。
それを見た途端に閣僚一同は息を呑んだ。その中で海原官房長官も、思わず声を震わせる。

「こ、これは‥‥‥落下傘か!」
「まさかザフトは、全世界に降下兵を送り込んできたのか!?」

森外務相も驚愕する。パラシュートを見た途端に落下傘による降下部隊かと思ったのだ。
  だがパラシュートの先端に付いているのが、人でもMSでもないことに気付く。それは長い棒状のもので、三脚らしきものも付いていた。
細長い形状からして考えられたのが、ミサイルという言葉だった。これはこれで衝撃であったろうが、ミサイルとするにはとても妙である。
報告では、ミサイルではなくNジャマーを発している装置との見解だった。しかもその装置の先端には、ドリルらしきものも確認できた。
  藤堂は、瞬時にして脳裏に最悪の光景が浮かび上がる。

「まさか、世界中にNジャマーをばら撒くつもりだと言うのか‥‥‥!」
「長官、そうとなれば一大事ですぞ。Nジャマーは核分裂を抑制し、電波障害を引き起こす代物です。もしあれが地表に撃ち込む目的だとすれば!」

曾根崎経済産業相の危惧は、その場全員の思うところと一致した。この世界のエネルギー動力源は原子力発電をメインとしているものである。
日本は核融合炉機関の技術が進んでいるために被害はまだ小さいが、他の国家群は一斉にエネルギー不足に苛まれてしまう。被害は途方もない物となるだろう。
  プラントはそこまで知っていて、この様な無謀な行動に出たと言うのか。藤堂は思わず、先日の会談で会ったカナーバ議員を思い返す。

(彼女は穏健的だと思ったのだが‥‥‥。いや、それ以上に、ナチュラルに対する急進派の勢力は強いという事なのだろうか)

あながち間違ってはいなかった。カナーバやクライン議長は穏便に済ませようとしたものの、結果として急進派の圧力に巻き返されてしまったのだ。
加えて言うなれば、クルーゼの陰謀がそれに拍車を掛けているのだが、藤堂もその男の存在を知る程には至ってはいなかった。
  ともあれ、この非常事態を見過ごすわけにはいかない。藤堂は速やかなる驚異の排除を、電話を通じて芹沢に指示した。

「芹沢局長、これは全世界にとって脅威だ。速やかに対応をしてほしい」
『分かっております。防空総隊が航空隊にスクランブルを掛け、撃墜に向かっております』

日本各地から飛び立った極地戦闘機コスモファルコンは、Nジャマーをまき散らす特殊弾頭の撃墜に出ていた。
それでも電波機器が不調の中にあっては、容易ならざるもので一筋縄ではいかないものだった。一気に時代を逆行した有視界戦闘へと移行せざるを得なかったからだ。
パイロット達は口々に「有視界でやれって言うのか?」と悪態を付いていたほどだったものの、これが戦闘機やMSが相手でないだけ断然マシである。
  だが特殊弾頭は大気圏内を突き進み、既に地上から約2,000mの高さに迫っていた。パラシュートで減速しているとはいえ到底間に合うものではない。
瀬戸際の防衛も功を奏せず、Nジャマー特殊弾頭は地球連合ならびに中立連盟らの防空圏を易々と突破し、あっという間に地表へと到達していったのだ。
地球上のあらゆる国家―――大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国、南アフリカ統一機構、日本、オーブ連合首長国、赤道連合、汎ムスリム会議、スカンジナビア王国、アフリカ共同体、大洋州連合に対して、見境なくNジャマーは悪魔(サタン)の如くして恐怖を盛大に振ったのである。
  地表に到達した特殊弾頭は、三脚で固定されつつも先端のドリルで地中へと潜り込んでいった。日本も例外なく特殊弾頭6本あまりが降り注いだ。
レーダーも真面に作動しない為、全てが何処に落下したか掴めなかったが、運よく光学センサーが捉えた2本の落下位置は特定できた。
それもその筈で1本は首都東京に落下。別の1本は北海道へと落下していったのだ。藤堂は愕然としてしまい、ここでNジャマーを盛大にばら蒔かれてしまっては日常生活並びに経済が破綻しかねない状況へ追いやられてしまう、と焦りを見せた。
航空機による迎撃が間に合わず、ジャミングによる電波障害が首都東京を襲う。街中では精密機器が不調をきたし、特に通信網は遮断されたも同然であった。
行政局も他の市との連絡が途絶えるなど被害が頻発する。
  だが直ぐに対応を打ち立て、有線通信または超空間通信を使っての連絡網の回復を図っていった。

「通信システムを切り替え、他の県庁との連絡を取れ!」
「ハッ!」

問題は他国との通信である。日本は超空間通信という強力なものがあるから良いが、他の連盟参加国にはそれが無い。電波による通信網が主流である。
各国の国内に関しては、日本の様に有線通信システムが残っている故、あるいは距離が近い場合であれば電波通信も辛うじて可能だった。
  日本は無論のこと世界規模で大混乱が巻き起こった。原子力発電所は、その大半が機能を奪われてしまい、エネルギー供給が不可能となってしまった。
まして通信ネットワークも遮断されたに等しい状況にあって、各国は孤立したも同然である。特に深刻を極めたのは北極に近い地域だ。
寒い中での電力供給は命綱であり、それを頼りに生活する市民も多い。ユーラシア連邦は特に当てはまり、極寒の村は一気に危機的状況へ追いやられてしまう。
即急なる復旧工事が求められるものの、それをできる状況にある筈もない。プラントの危惧した通りの結果が着実に進行しつつあったのだ。

「何と愚かなことを‥‥‥」

  呆然とする藤堂長官は、今後起きる悲劇を脳裏に映し出した。エネルギーを断たれた地球各国は、飢餓や凍死、衰弱死によって命を奪われていくだろう。
何故このような無謀な行動を選んだのか。プラントは、これで形勢を一気に逆転できるとでも本気で思っているのだろうか。
確かに混乱は起きて隙は出来るだろうが、今度は地球でまたとない悲劇が起きる。ただでさえコーディネイターを狙ったテロ事件が発生しているのだ。
  ともなると、地球に在住するコーディネイターは格好の的になる。この騒ぎによる不満や鬱憤を晴らすべく、さらなる犠牲者が生み出されるに決まっている。
恨み辛みの応酬はさらに過熱し、地球連合とプラントの争いは泥沼へと移行することとなろう。日本ら中立連盟も、それに巻き込まれてしまう事が予想される。
藤堂は事態収拾を指示すると同時に、外務省を通じてプラントへの事実確認を行わせる。いや、事実確認と言うよりも抗議や賠償請求が中心となるだろうか。

「森外務相、他の連盟国との連絡を取って頂きたい。そして、この事態の事実関係を、プラントにも確認して頂きたい」
「はい。早急に事実関係を確かめます」
「海原官房長官、大変でしょうが、報道機関に対しては冷静になるよう呼びかけてください」
「了解しました」

  打てる手を打っていく藤堂であったが、後日になって良くも悪くも東京と北海道に落下したNジャマー特殊弾頭が、意外な所で発見されることとなる。
大抵の場合は上述したように、地中深く潜り込んで掘り出されないようになっている。日本に落ちた2ヶ所のポイントには、実は大規模な地下シェルターがあったのだ。
これは第一次から第二次内惑星戦争にかけて造られたもので、対隕石攻撃用の避難用シェルターとして運用されていた。
隕石攻撃に耐えられるように地中深く掘り進んで造られていたのだが、この広大な空間の中にNジャマー特殊弾頭が飛び出してしまったのだ。
  掘り進んでいた矢先に、特殊弾頭は空中に放り出されてバランスを崩し、再び地面に接触した時には横倒しに状態となった。
横倒しとなれば、ドリルの役目は果たすことは出来ず、虚しくその場でドリルを回転させ続けるだけに終始し、後日になって日本軍に発見されるに至るのだ。
これはプラントにとって大きな誤算であったろう。地中深く掘り進めば安全であったとされるNジャマー特殊弾頭が、よりにもよって日本に鹵獲されてしまうのだから。
このことはNジャマーを散布された4月1日より約2日後の4月3日になって、鹵獲された事が公表されてしまうのである。
  一方で国内外の安定を図る行政局に対して、軍務局は対応に迫られていた。電波障害による索敵機能低下と通常通信システムのダウンに苛まれた。
超空間通信を常時使用している宇宙軍は、木星圏にて資源採掘に取り掛かっている木星圏採掘センターや太陽機関を製造する為に新たに設けられた開発ステーション、並びに木星圏の警備活動を行っている第1軌道防衛艦隊や、船団護衛に勤しむ第2艦隊の拠点である宇宙の鎮守府―――木星圏カリスト基地総監部へと連絡を取らせる。
中央司令部に張り付き状態な永井宙将は沈黙を保ったまま、基地からの返信を待っていた。

「‥‥‥長官。木星圏カリスト基地総監部、出ます!」
「よし」

  木星圏カリスト基地とは、日本宇宙軍が独自に建設した日本初の地球外部に設けられた司令部である。日本が木星圏で長期的な警備活動並びに資源開発等に従事する以上は、その拠点となる基地や施設を建設しなければならず、それなくして長期的な行動は不可能であった。
鎮守府と言うと大層立派なものに思えるが、まだまだ建設途上であり、最低限度の司令設備と簡易的であるが整備機能の付いた軍港、居住エリアを備えていた。
それでも基地としての機能は立派に果たせており、初期段階ではあるが木星圏の安全を確保しているのだ。
  通信を始めたものの最初の数秒間は若干の雑音や砂嵐現象がみられたが、程なくして周波数等の調整を終えると通信可能な通信状態へと戻った。
それを確認した通信士が基地側へと呼びかけ、するとカリスト基地側もそれに応じる。
  その木星圏カリスト基地の責任者―――木星方面総監 板谷彦文(いたや ひこふみ)宙将は、地球との交信が一時的に途絶えたことに対し不安を隠し切れなかった。
板谷宙将は54歳。C.E世界に来て初の外惑星系基地の責任者に任命される。技術的な進歩の遅れからC.E世界における勢力の来襲は無いであろうと考えていた。
ところがカリスト基地に問題は無くても、大本である地球側に問題が生じたとあっては、彼も平然としてはいられなくなったのだ。
木星圏には、第2艦隊と第1軌道防衛艦隊がおり、戦力的には本土の次に強力なものだ―――が、今起きている地球の混乱に対して、中央司令部との交信が途絶えた時には独自に判断して動かねばならない、と板谷宙将は判断していた。
  しかし、この様に地球側から通信を送ってきたことにより、どうやら無事である事が判明し安堵した。

『こちらカリスト基地、問題は見当たりません。ですが、そちらとの交信が著しく制限されたようですが‥‥‥いったいどうなっているのですか?』

中央司令部側では、木星圏での変化は特に見受けられないようであることが判明して安堵する。

「宇宙軍司令長官の永井だ。現在、地球は全体規模でNジャマーによる大規模妨害を受けている」
『何ですと!?』

通信画面に出る板谷宙将の表情は、安堵から驚愕の色彩へ一変した。そのジャミングもプラントによるものだと知ると、自然と怒りを込み上げていった。
彼の反応は尤もであったろうが、だからと言って勝手な行動に出られても困る。無論、その様な感情に走った行動はしない筈であるが。
  ともかく永井は、木星圏における安全の確保を継続するように命じたが、一方で緊急時に備えて第2艦隊の約半数にも発進準備を整させる様に命じた。
この残り半数の第2艦隊こと第2護衛部隊は川崎宙将補が率いる部隊で、先ほど地球に帰還したばかりの大石直属の第1護衛部隊が戻るまで留守を預かっていたのだ。
だが木星圏だけではなく別行動中の艦隊にも、早急なる指示を与えておかねばならなかった。
  中央司令部とは別の宇宙海軍連合宇宙艦隊司令部にて、艦隊運用権限等を預かる沖田十三宙将は、進宙式したばかりの〈ヤマト〉ら第3艦隊への回線を開いた。
処女航海初日にこの様な最悪の事態に対処させなければならない。すぐさま旗艦〈ヤマト〉へ回線が繋がれると、メインスクリーンに日向鉄宙将が姿を見せた。
彼の深刻な表情からして、既に気づいているようだった。

「日向提督、そちらでも既に確認していると思うが、地球では大規模な電波障害が発生中だ」
『承知しております。我が艦隊は直ちに反転し―――』
「いや、その必要はない」
『‥‥‥何故です、沖田提督』

  早急に反転して地球の防備に付くべきではないかと具申しようとしたが、それを沖田は遮るばかりか反転の必要はないと言い切る。
これには疑問が沸いてこない筈がない。日向宙将は沖田から軍事の教えを叩き込まれた1人だ。火星会戦の戦いぶりも良く知るだけに、どうして第3艦隊は直ぐに反転する必要はないのかと考えてしまった。
沖田には考えがあってのことである、と分かったのはこの後の返答だった。

「ジャミングに乗じて、地球以外のコロニー群にも危険が迫る可能性がある。第3艦隊は、火星と地球間における航路の警戒に当たってもらいたい」
『火星でありますか?』
「そうだ。貴官も知っての通り、火星圏にはDSSDの開発拠点があるばかりではなく、火星開発に携わるマーズコロニー群がある。日本は彼らに対して技術提携等によって友好関係を構築しているのだ。万が一にも航路を断たれるような事態が起きてはならん」

  DSSDやマーズコロニーとの関係性を崩される事にも繋がりかねない、と判断した日向の返答は速やかなものであった。

『了解しました。第3艦隊は速やかに火星圏と地球間の航路確保、並びに警戒態勢に入ります』
「頼む」

通信を切った沖田は戦略ディスプレイを前にして、各艦隊の動きを確認する。混乱が拡大しつつある中で、プラントが何を狙っているのかを考えた。
プラントは高度な技術とMSという兵器を主力にして、地球連合と戦っている。かといって、彼らの戦力は決して潤沢ではない筈だ。
物量的には劣るプラントは、このNジャマーで何を行おうとするのか。各首都の制圧かと考えもしたが、防備はかなり強固なものと判断する筈。
  そこで持ち上がったのが、地球上に己の足場を造るという事だ。快進撃とは確かに恐ろしいものだが、それは補給があってのこと。
補給が途絶えれば勢いは止められ反撃を受ける契機にもなりかねない。着々と足場―――中継基地を建設することで万全の態勢を整えるのだ。
ともなれば、何処に中継地点となるべき基地を建設するのかという問題が持ち上がる。
  しかし左程に難しい話ではない、と沖田は戦略ディスプレイの世界地図を見て感じた。

(降りる箇所は、アフリカ共同体と大洋州連合の2ヶ国しかない。だが‥‥‥)

その為に犠牲となる民間人の数を、プラントは想定しているのか。コーディネイターに対する激しい憎悪によって、さらなる犠牲が出ようとも構わないと言うのか。
  かつての内惑星戦争でも隕石攻撃で民間人への犠牲者は出たが、今回の戦争は核兵器やNジャマーによってそれを凌駕するであろう。
しかも日本国内の世論は、このNジャマー散布の一件でプラントに対する嫌悪感が募るのが目に見える。火星との戦争における戦傷もまた、それに火をつけるだろう。
下手をすれば地球連合と共にプラントに宣戦を布告する、という事態になりかねない。無論、外交的手段でプラントに抗議するのが先だが。
 
(多くの犠牲者が出ることは‥‥‥避けたい)

今再び起こる惨劇を脳裏に描き、沖田の表情は陰りを差していった。





  Nジャマーの大量散布によって、地球連合と中立連盟の双方をも巻き込んだ大混乱の中、ザフトは着々と作戦を進めていった。
ヴェース隊は中立連盟軍もとい日本軍や、地球連合軍に捕捉される前に第2段階へ移行し、工作部隊と施設資材を次々と降ろし始めたのだ。
多量の降下カプセルは大洋州連合のカーペンタリア湾へ落とされ、地表で待ち受けていた大洋州連合軍がそれを受け入れては、基地建設に手を貸していった。
ザフトと大洋州連合軍は共同で基地を建設、基本的な機能を有するレベルになるまで、実に48時間しか掛からず、あっというまに完成に漕ぎ着けてしまったのだ。
  カーペンタリア基地が建設されるまでの間、地球連合は世界規模で広がる電波障害と原子力エネルギーの再起不能状態に、青ざめていたのは言うまでもない。
大西洋連邦政府の大統領チェスター・アーヴィングを筆頭に、政府関係者は緊急対策会議を開いて事態の切迫をビシビシと肌に感じていた。

「各都市のエネルギー供給率は急速に低下、我が大西洋連邦のみなら他国も同様の現状です」
「大統領、このままでは1週間と経たない内に、大量の死者が出てしまいます」
「いったい、どれ程の数が出ると考えられるかね」

アーヴィングの問に対して、エネルギー省長官 フェデリコ・オレリーは深刻な未来の姿を、手を震わせながらも報告する。

「大半の原子力発電は使用不能です。原子力に頼っていたライフラインは完全に停止、特に寒冷地における凍死者数も考えられますから‥‥‥」
「オレリー長官、簡潔に頼むよ」
「は、はい。早急な対策を打ち立てない場合、地球上における全人類の約1割‥‥‥最低でも10億人以上もの犠牲が出ます」

  その途端、オレリーの予想被害報告は想像を絶することを知ったアーヴィングは、文字通り椅子から飛び上った。

「じゅ‥‥‥10億だとっ!?」

アーヴィング他閣僚は、一斉に驚愕の声を上げる。現在の世界人口はプラントも地球上も含めて150億人だが、その中の10億人近い犠牲が出るのだ。
しかもオレリーは負の予測データに追加を施し、その場にいるものをどん底に突き落としていく。この数値は、あくまでも迅速なエネルギー解消を成し得た場合なのだ。
対応が遅れてしまえば、日数を重ねるにつれて死者数はカウントされていき、最悪の場合で15億人にまで達すると言うのである。
  以前は地球連合軍の一部独断で、プラントのコロニーだったユニウスセブンを半壊に追いこんで、12万5000人近い数の犠牲者を出した。
今回のそれは1万倍のスケールに倍増したもので、まさに悪夢や地獄では言い表せない最悪の事態である。

「馬鹿な、プラントの奴らは自分らの仕出かしたことを理解しているのか!?」
「奴らは造られた化け物だ。それくらいの犠牲を何とも思わんのだろう」
「そんな事で済まされるか!!」

議会は紛糾した。一刻も早い解決を見出さねば、地球人類は未曾有の死人を生み出し続ける事となる。アーヴィングは汗をハンカチで拭いつつも指示を出す。

「地球連合議会に早急な対策を出さねばならん。第1にエネルギー不足の解決策。第2に軍事行動を要請し、プラントにそれ相応の対応を取らねばなるまい」
「恐らくは、この混乱に乗じてプラントは降下作戦を仕掛けてくる筈です」

アーヴィングに助言を付け加えたのは、大西洋連邦統合参謀本部議長 ピーター・コリニー大将である。54歳程の陸軍軍人で、表情の皺の数が年齢を際立たせた。
プラントは前回の降下戦失敗に懲りており、その教訓を生かしての行動を起こすだろうと判断し、それは的中していた。
  国防長官 クリフトン・ケイツも頷き、早急なる軍事行動の準備を整えるべきであると主張するが、それには連合が指示を出さねばならない。
無論自国への直接攻撃を受ける事となった場合は、わざわざ指示を待つ必要性は無い。が、他戦線へ派遣するとなると、連合軍本部等の指示を必要とするのであった。
加えてプラントの迎撃には大西洋連邦が主導する可能性が高い。これはユーラシア連邦と東アジア共和国が、未だに日本軍との戦闘で負った深いダメージから、完全に回復しえていないからであった。
何せ双方ともに海軍戦力を大幅に失ってしまい、太平洋方面の作戦展開は大西洋連邦に頼らざるを得ないのが現状だからだった。
  また宇宙軍に比して回復力が遅いのは、宇宙軍が主力として予算等が回されてしまう為で、どの国家も海軍は後回しにされる存在になっているのだ。

「オルバーニ事務総長には、私からも話しておく。何としてもプラントの地球侵攻を食い止めなければならん!」

この様に大西洋連邦を始めとして、ユーラシア連邦、東アジア共和国、南アフリカ統一機構らも緊急対策に追われており、地球連合議会を早急に開くことに同意した。
  Nジャマーにより深刻な打撃を受けたのはどの国も同じだが、とりわけてヒステリックに怒鳴り散らし、凄まじい近い形相を作るこの男は際立っていた。

「五月蠅い、そんな報告は聞き飽きた! 原発が使えないんだったら、軍艦の核融合炉でも調達して対応しろ!」


国防産業連合理事ムルタ・アズラエルは、いつになく焦りと苛立ちをぶちまけては各支部からの報告に怒鳴り返している。
軍需産業を糧としている彼らからすれば、当然のことながら膨大なエネルギー供給があってこそ、莫大な生産能力を得ることができるのだ。
それが突然に立たれれば各工場の製造ラインは停止してしまうのも当然であり、アズラエルの感情を爆発させるには過分に過ぎる事態である。
核分裂式原子力発電所が使えなくなった以上、残るは火力発電や自然界のエネルギーを代用した発電方法、並びに軍艦等に使われる核融合炉機関に頼る他ない。
  彼の経営するゼネラル・アズライール社もまた、これまでにない経済的打撃を受けてしまうこととなった。憎悪は自然と、天空のコロニー群へと向けられる。

「化け物め‥‥‥化け物めッ! もう容赦しないからな、お前らの住処を1つ残らず壊してやるからな、今に見てろよ!!」

事務室の窓からプラントを激しく罵り、1人残らず駆除すると宣言するアズラエル。プラントは皮肉にも、これまではコロニー群が投資され建設された存在という事もあって、ある意味では地球連合軍から手加減されてきたのだが、この一件でプラントは自らギリギリの堤防を壊すことになった。
もはや地球連合はプラントを奪取するとは考えず、アズラエルが言ったように1つのコロニーを残すことなく、完全に宇宙の藻屑に変える方針になってしまうのだった。
  アズラエルは直ぐに有線ケーブル式の固定電話を手に取り、軍とのパイプ役を果たしているウィリアム・サザーランド大佐へと連絡を取る。
数秒のコールが鳴り響き、それさえも彼の神経を逆なで寸でのところで、ようやくサザーランド大佐との回線が開いた。

『お待たせしました、アズラエル理事。こちらも奴らのせいで‥‥‥』
「事情は分かってますよ、大佐。流石に僕も冷静でいられなくてね、手短に言いますよ?」

何時もの皮肉屋を気取っていた姿とは大分違う様子に気圧され、サザーランドも素早く口を閉じて頷いた。下手に言って刺激しない方が賢明だと分かったからだ。

「化け物どもに、好き放題されては困ります。G計画を早急に仕上げてもらいたいのですよ」
『わかりました』
「あと連中はこの隙に乗じてくるでしょう。恐らく政府のお偉方も検討しているでしょうがね」
『承知しております。理事の仰る通り、奴らは攻勢に出るでしょう。本部も早急に対策を立てております』

サザーランドの言う通りアラスカ基地では迎撃対策が練られていた。またプラントに対する攻勢も検討され、早急なる反攻戦に備えようとしている。
  とはいえ、ザフトの降下先が分からないのでは、軍の派遣のしようもない。できることは、自国の主要部における防備を強化する事だけだ。
加えて言うのであれば、地球と月面における通信手段を断たれてしまった状態では、迅速な伝達が不可能となりシャトルを使って連絡する必要がある。
無線通信が不可能ならレーザー通信と言う方法もあるのだが、如何せんレーザー通信は主体的ではなかったゆえに設備が圧倒的に足りない。
今後の宇宙空間における通信手段は、レーザー通信を主体として考えねばならないだろう。
  アズラエルは感情を激発させていたが、そこでふと思い出した。国際中立連盟の存在である。彼らはこの一件で、対プラント感情を心象悪くしたはずだ。
これを機に中立連盟を誘い込み、プラント殲滅とまでいかないまでも制圧するために利用できないか。アズラエルの脳裏には打算の荒波が渦巻き、そして微笑した。
そうだ、中立連盟という強力な存在がいるじゃないか!

「いずれは、中立連盟をも動かす必要がありますね」
『彼らが動くでしょうか?』
「動くでしょう‥‥‥動かなければ、無理矢理にでも動かすまで。確か東洋の諺で‥‥‥『鳴かぬなら、鳴かせてみようホトトギス』って言いましたねぇ」

  恐ろしくも切り替えの早いアズラエルは、中立連盟をどうやって巻き込むかの算段を立てる。簡単に言えば、日本以外の国を取り込んでしまえばいい。
如何な日本と言えども、全世界を相手した物量戦には叶わない。中立? そんなのは知ったことではない。我々がコーディネイターに勝つ為には何だって利用する。
そうさ、こんな野蛮な事をする連中に対して、方法なんて選んでいる場合ではない。本当は核兵器で根絶してやりたいところではあったが。

「ともかく、連盟の事は後にしましょう。大佐、G計画と化け物どもの迎撃を頼みますよ」
『了解いたしました、理事。青き清浄なる地球の為に‥‥‥』

ある程度の余裕を取り戻したアズラエルは、有線通信を終えると微笑を浮かべ、そして狂気に染まっていった。
  そして、4月1日に起きた世界的悲劇を、後に世界はこう呼んだ。

エイプリル・フール・クライシス





〜〜〜あとがき〜〜〜

どうも、第3惑星人です。ようやく18話を投稿することができまして、お待ち頂いている方々には大変ご迷惑をおかけいたしました。
エイプリルフール・クライシスを、個人的な解釈で描いてみたのが今回のお話になります。そのため、勝手にザフトの輸送艦を黒くしたりとか設定しました。
また個人的にはヤマト2199世界における超空間通信技術が、Nジャマーの影響を受けるかどうかで非常に悩みました。
しかし劇中では、ヘリオポーズで通信が途絶する場面もあったので、超空間通信も全く無敵ではないと考え至り、多少なりの通信障害は出るレベルに抑えました。

また投稿延滞は単なる言い訳にしかなりませんが、やはりリアルに忙しい、アイディアが浮かばない、というもので中々進まない現状が続いてしまいました。
加えまして、実は9月に関東で降り注いだ大雨に遭い、自宅が床上浸水するという人生で初めての水害に遭ってしまいまして‥‥‥。
いやぁ、たまげたもんです。これまでは、せいぜい膝下までの水位で終わったのですが、あれよあれよ言う間に床上(腰ぐらい)まで来ました。
これまでは、水害をTVで見て「大変だなぁ」と思ってましたが、いざ自分と家族が体験するとは思いませんでしたね。まさに「想定外」というやつでした。
人間は自然界に叶わない‥‥‥つくづく思い知らされました。水位が下がった後は、ボランティアの方々に片づけを手伝って頂き、今はなんとか落ち着いてます。

命あっての生活ですから、何とか前向きに見つつ、時折は息抜き程度にでも続きを執筆していきたいと思います。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.